(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6537080
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】歯科用薬剤充填装置
(51)【国際特許分類】
A61C 5/50 20170101AFI20190625BHJP
【FI】
A61C5/50
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-220592(P2017-220592)
(22)【出願日】2017年11月16日
(65)【公開番号】特開2019-88599(P2019-88599A)
(43)【公開日】2019年6月13日
【審査請求日】2018年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】517401185
【氏名又は名称】大畑 裕彦
(74)【代理人】
【識別番号】100092842
【弁理士】
【氏名又は名称】島野 美伊智
(74)【代理人】
【識別番号】100166578
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 芳光
(72)【発明者】
【氏名】大畑 裕彦
【審査官】
胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−500124(JP,A)
【文献】
特開2017−018507(JP,A)
【文献】
特開2016−158875(JP,A)
【文献】
米国特許第06290503(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0125827(US,A1)
【文献】
実開昭60−066305(JP,U)
【文献】
実公昭50−008479(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持部の一端に薬剤採取部を備え該薬剤採取部によって薬剤を採取する薬剤採取具と、
上記薬剤採取具の上記薬剤採取部を覆うように取り付けられ上記薬剤採取部により採取された薬剤を保持する薬剤保持具と、
上記薬剤保持具内に挿し込まれ上記薬剤保持具によって保持された薬剤を押し出す薬剤押出具と、
を具備し、
上記薬剤採取部は薬剤採取用溝を上記把持部と交差する方向に延長させたものであることを特徴とする歯科用薬剤充填装置。
【請求項2】
請求項1記載の歯科用薬剤充填装置において、
上記薬剤採取具の上記把持部の他端には患部に充填された薬剤を押し込む薬剤押込部が設けられていることを特徴とする歯科用薬剤充填装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の歯科用薬剤充填装置において、
上記薬剤保持具には上記薬剤採取具の一部が嵌る切欠部が設けられていることを特徴とする歯科用薬剤充填装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに記載の歯科用薬剤充填装置において、
上記薬剤押出具の先端面には薬剤との密着度を高める溝が設けられていることを特徴とする歯科用薬剤充填装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えば、歯の根管部に薬剤(例えば、根充用セメント)を充填する歯科用薬剤充填装置に係り、特に、簡単な作業で、且つ、正確に充填することができるように工夫したものに関する。
【背景技術】
【0002】
歯の根管部に薬剤を充填する歯科用薬剤充填装置の構成を開示するものとして、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、等がある。
【0003】
まず、特許文献1に記載された発明による根管充填器の場合には、シリンジタイプの針管を使用して歯の根管部に薬剤を充填するものである。
【0004】
次に、特許文献2に記載された発明によるピンセットは、文字通り、ピンセットタイプであり、先端部で薬剤を挟んで歯の根管部に薬剤を充填するものである。
【0005】
さらに、特許文献3に記載された発明による根管治療用ニードルユニットの場合には、ガンタイプのニードルユニットを使用して歯の根管部に薬剤を充填するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−46248号公報
【特許文献2】特開2007−304341号公報
【特許文献3】特表2010−523196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の構成によると次のような問題があった。
まず、特許文献1に記載されたシリンジタイプの針管の場合には、まず、針管内に薬剤を充填することが困難であるという問題があった。又、そのような針管を使用して薬剤を歯の根管部に充填する作業にも熟練を要してしまうという問題があった。
又、特許文献2に記載されたピンセットの場合には、保持できる薬剤に制限があり、粘度の低い薬剤の保持は困難であった。又、仮に保持できたとしてもそれを歯の所定の根管部に充填する作業は容易ではなく、作業に熟練を要してしまうとう問題があった。
さらに、特許文献3に記載されたガンタイプのニードルユニットの場合にも、作業に熟練を要してしまうという問題があった。
【0008】
本発明はこのような点に基づいてなされたものでその目的とするところは、容易に、且つ、精度良く薬剤を充填することを可能にする歯科用薬剤充填装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するべく本願発明の請求項1による歯科用薬剤充填装置は、把持部の一端に薬剤採取部を備え該薬剤採取部によって薬剤を採取する薬剤採取具と、上記薬剤採取具の上記薬剤採取部を覆うように取り付けられ上記薬剤採取部により採取された薬剤を保持する薬剤保持具と、上記薬剤保持具内に挿し込まれ上記薬剤保持具によって保持された薬剤を押し出す薬剤押出具と、を具備
し、上記薬剤採取部は薬剤採取用溝を上記把持部と交差する方向に延長させたものであることを特徴とするものである。
又、請求項2による歯科用薬剤充填装置は、請求項1記載の歯科用薬剤充填装置において、
上記薬剤採取具の上記把持部の他端には患部に充填された薬剤を押し込む薬剤押込部が設けられていることを特徴とするものである。
又、請求項3による歯科用薬剤充填装置は、
請求項1又は請求項2記載の歯科用薬剤充填装置において、
上記薬剤保持具には上記薬剤採取具の一部が嵌る切欠部が設けられていることを特徴とするものである。
又、請求項4による歯科用薬剤充填装置は、請求項1〜請求項3の何れかに記載の歯科用薬剤充填装置において、
上記薬剤押出具の先端面には薬剤との密着度を高める溝が設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
以上述べたように本発明の請求項1による歯科用薬剤充填装置によると、把持部の一端に薬剤採取部を備え該薬剤採取部によって薬剤を採取する薬剤採取具と、上記薬剤採取具の上記薬剤採取部を覆うように取り付けられ上記薬剤採取部により採取された薬剤を保持する薬剤保持具と、上記薬剤保持具内に挿し込まれ上記薬剤保持具によって保持された薬剤を押し出す薬剤押出具と、
を具備した構成になっているので、患部に薬剤を容易に、且つ、正確に充填することができる。
又、請求項2による歯科用薬剤充填装置によると、請求項1記載の歯科用薬剤充填装置において、上記薬剤採取部は薬剤採取用溝を上記把持部と交差する方向に延長させたものであるので、溶解された薬剤の採取作業が容易である。
又、請求項3による歯科用処置具によると、請求項2記載の歯科用薬剤充填装置において、上記薬剤採取具の上記把持部の他端には患部に充填された薬剤を押し込む薬剤押込部が設けられているので、患部に充填された薬剤を押し込む際に同じ治具を使用して行うことができる。
又、請求項4による歯科用薬剤充填装置によると、請求項1〜請求項3の何れかに記載の歯科用薬剤充填装置において、上記薬剤保持具には上記薬剤採取具の一部が嵌る切欠部が設けられているので、薬剤採取具と薬剤保持具が干渉することを防止することができる。
又、請求項5による歯科用薬剤充填装置によると、請求項1〜請求項4の何れかに記載の歯科用薬剤充填装置において、上記薬剤押出具の先端面には薬剤との密着度を高める溝が設けられているので、その溝部に薬剤の一部が入り込むことになるので、押出し時に薬剤が不用意に脱落してしまうことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施の形態を示す図で、歯科用薬剤充填装置の構成を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施の形態を示す図で、歯科用薬剤充填装置を構成する各器具を分離させた状態を示す斜視図である。
【
図3】本発明の一実施の形態を示す図で、歯科用薬剤充填装置の正面図である。
【
図4】本発明の一実施の形態を示す図で、歯科用薬剤充填装置の背面図である。
【
図5】本発明の一実施の形態を示す図で、
図3のV−V矢視図である。
【
図6】本発明の一実施の形態を示す図で、
図3のVI−VI矢視図である。
【
図7】本発明の一実施の形態を示す図で、
図3のVII−VII矢視図である。
【
図8】本発明の一実施の形態を示す図で、
図3のVIII−VIII矢視図である。
【
図9】本発明の一実施の形態を示す図で、歯科用薬剤充填装置の薬剤採取具の正面図である。
【
図10】本発明の一実施の形態を示す図で、歯科用薬剤充填装置の薬剤採取具の背面図である。
【
図11】本発明の一実施の形態を示す図で、
図9のXI−XI矢視図である。
【
図12】本発明の一実施の形態を示す図で、
図9のXII−XI矢視図である。
【
図13】本発明の一実施の形態を示す図で、
図9のXIII−XIII矢視図である。
【
図14】本発明の一実施の形態を示す図で、
図9のXIV−XIV矢視図である。
【
図16】本発明の一実施の形態を示す図で、
図16(a)は歯科用薬剤充填装置の薬剤保持具の背面図、
図16(b)は
図16(a)のb−b矢視図、
図16(c)は
図16(a)のc−c矢視図である。
【
図17】本発明の一実施の形態を示す図で、歯科用薬剤充填装置の先端部を一部破断するとともに拡大して示す図である。
【
図18】本発明の一実施の形態を示す図で、
図18(a)はプレート上に薬剤と水を出した状態を示す図、
図18(b)はブート上で薬剤と水を混ぜる様子を示す図、
図18(c)は混ぜられた薬剤を薬剤採取具の薬剤採取部の薬剤採取用溝で採取する様子を示す図、
図18(d)は薬剤を採取した薬剤採取具の薬剤採取部の横断面図である。
【
図19】本発明の一実施の形態を示す図で、
図19(a)は薬剤を採取した薬剤採取具の薬剤採取部及び近傍を示す図、
図19(b)は薬剤を採取した薬剤採取具の薬剤採取部の横断面図、
図19(c)は薬剤採取具の薬剤採取部に薬剤保持具を被せる様子を示す図、
図19(d)は薬剤採取具の薬剤採取部に薬剤保持具を被せそこに薬剤押出具を挿し込む様子を示す図、
図19(e)は薬剤を歯の根管部に挿し込んで薬剤押出具で押し出す様子を示す図、
図19(f)は押し出された薬剤を薬剤採取具の薬剤押込部で押し込む様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、
図1乃至
図19を参照して本発明の一実施の形態を説明する。本実施の形態による歯科用薬剤充填装置1は、薬剤採取具3と、薬剤保持具5と、薬剤押出具7と、から構成されている。上記薬剤採取具3は、把持部9と、この把持部9の一端に設けられた薬剤採取部11と、上記把持部9の他端に設けられた薬剤押付部13と、から構成されている。
【0013】
上記把持部9は略軸状をなしていて、中央の大径把持部9aと、この大径把持部9aの両側に設けられた縮径把持部9b、9cと、から構成されている。上記薬剤採取部11は上記縮径把持部9b側の先端に設けられていて、上記薬剤押付部13は上記縮径把持部9c側の先端に設けられている。
【0014】
上記薬剤採取部11は、
図2、
図11に示すように、横断面形状が半円形の薬剤採取用溝15を上記把持部9に交差する方向に延長・形成した構成になっている。この薬剤採取用溝15内に水43で練られて粘土状になった薬剤17(
図18に示す)を採取する。
【0015】
上記薬剤押付部13は細長い軸状をなしていて先端に向かって徐々に縮径されるように形成されている。又、上記薬剤押付部13は略「く」の字状に屈曲・形成されている。
【0016】
上記薬剤保持具5は、
図16に示すように、中空短管形状をなしていて、大径把持部21と小径部23とから構成されている。これら大径把持部21と小径部23の中心部には中空部25が形成されている。又、上記大径把持部21には切欠部27が形成されている。
図17に示すように、上記薬剤保持具5を薬剤採取具3の薬剤採取部11に被せた場合、上記薬剤保持具3の把持部9の先端が上記切欠部27に嵌るように構成されている。それによって、上記薬剤採取具3と薬剤保持具5の干渉を防止している。
【0017】
上記薬剤押出具7は、
図15に示すように、略軸状に形成されていて、大径把持部31と、中径部33と、小径押出部35と、から構成されている。上記小径押出部35の先端面には、
図15(c)、(d)に示すように、十字形状溝部37が形成されている。上記小径押出部35によって薬剤17を押し出す際、上記十字形状溝部37内に薬剤17の一部が入り込み、それによって、粘土状の薬剤17と小径押出部35との密着度が高まり、充填時における薬剤17の不用意な脱落を防止するようにしている。
【0018】
以上の構成を基のその作用を説明する。一例として、
図19に示すように、歯51の根管部53内に薬剤(例えば、セメント)17を充填する場合を例に挙げて説明する。
まず、
図18(a)に示すように、プレート41上に粉末状の薬剤17と水滴43を載置する。
次に、
図18(b)に示すように、プレート41上で混合用器具45によって上記薬剤17と水43を混ぜて粘土状にする。
次に、
図18(c)に示すように、薬剤採取具9によってプレート41上の粘土状の薬剤17を採取する。すなわち、薬剤採取具9の薬剤採取部11の薬剤採取用溝15によってプレート41上の粘土状の薬剤17を掻き採る。その結果、
図18(d)に示すように、上記薬剤採取用溝15内に粘土状の薬剤17が採取された状態になる。
【0019】
次に、
図19(a)に示すように、図示しない治具(スパチュラ)を使用して上記薬剤採取用溝15内に採取された粘土状の薬剤17の内余剰の薬剤17を除去する。その結果
図19(b)に示すような状態となる
次に、
図19(c)に示すように、薬剤採取部11の外側に薬剤保持具5を被せる。上記薬剤採取用溝15内に採取された薬剤17はこの薬剤保持具5の中空部25によって保持される。その際、上記薬剤採取具3の把持部9の先端が上記切欠部27に嵌り、それによって、上記薬剤採取具3と薬剤保持具5の干渉が防止される
次に、
図19(d)に示すように、薬剤押出具7の小径押出部35を上記薬剤保持具5の中空部25内に挿入し、そこに保持されている薬剤17を任意量押し出す。そして、
図19(e)に示すように、任意量押し出された薬剤17を口腔内の該当する歯51の根管部53内に挿入する。
尚、その際、上記薬剤押出具7によって薬剤17を適宜押し出すこともできる。
【0020】
上記根管部53内に任意量の薬剤17を押し出した後、
図19(f)に示すように、薬剤採取具3の薬剤押込部13によって押し出した薬剤17を押し込む。このような処置を数回繰り返すことにより、根管部53内に必要量の薬剤17を充填する。
例えば、上記薬剤保持具5の中空部25内に保持されている薬剤17を少し押し出して上記根管部53内に押し込み、再度、薬剤17を少し押し出して上記根管部53内に押し込み、以下、そのような作業を複数回繰り返すことにより根管部53内に必要量の薬剤17を充填する。それでも足りない場合には、再度、プレート41上で粘土状の薬剤17を作成して同様の作業を繰り返す。
【0021】
以上本実施の形態によると次のような効果を奏することができる。
まず、歯51の根管部53内に必要量の薬剤17を、容易に、且つ、精度良く充填することができる。これは、本実施の形態による薬剤採取具3、薬剤保持具5、薬剤押出具7を使用するからであり、それによって、薬剤17の採取、保持、押出が容易になったからである。
詳しく説明すると、薬剤17の採取については、薬剤採取具3の薬剤採取部11の薬剤採取用溝15をプレート41上で数回滑らせることにより、プレート41上の粘土状の薬剤17を容易に掻き採ることができる。
又、薬剤保持具5を上記薬剤採取部11に被せるだけで採取された薬剤17を保持することができる。
又、薬剤押出具7の小径押出部35を上記薬剤保持具5の中空部25内に挿し込むだけで薬剤17を任意量だけ押し出すことができる。
これらの作用が相まって上記効果を得ることができる。
又、上記薬剤採取具3において薬剤採取部11の薬剤採取用溝15は把持部9に対して交差する方向に延長・設置されているので、上記薬剤採取部11による薬剤17の採取も容易である。
又、上記薬剤採取具3には押し出された薬剤17を押し込むための薬剤押込部13が設けられているので、別の治具を要することなく一連の作業を行うことができる。
又、上記薬剤押出具7の小径押出部35の先端面には十字形状溝部37が設けられているので、薬剤押出時における小径押出部35と薬剤17の密着度を高めることができ、薬剤押出時における薬剤17の不用意な脱落を防止することができる。
又、上記薬剤保持具5には切欠部27が設けられているので、薬剤保持具5と薬剤採取具3の干渉を防止することができる。
【0022】
尚、本発明は前記一実施の形態に限定されるものではない。
まず、前記一実施の形態においては、薬剤採取部を構成する溝を半円形としたがそれに限定されるものではなく、V字形状の溝、L字形状の溝、等様々な形状の溝が考えられる。
その他、各部の形状等はあくまで一例であり図示したものに限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本願発明は、例えば、歯の根管部に薬剤を充填する歯科用薬剤充填装置に係り、特に、簡単な作業で、且つ、正確に充填することができるように工夫したものに関し、例えば、根充治療に好適である。
【符号の説明】
【0024】
1 歯科用薬剤充填装置
3 薬剤採取具
5 薬剤保持具
7 薬剤押出具
9 把持部
11 薬剤採取部
13 薬剤押込部
15 薬剤採取用溝
17 薬剤
37 十字形状溝部
51 歯
53 根管部