特許第6537104号(P6537104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社エクセディの特許一覧

<>
  • 特許6537104-分割成形一体型ステータ 図000002
  • 特許6537104-分割成形一体型ステータ 図000003
  • 特許6537104-分割成形一体型ステータ 図000004
  • 特許6537104-分割成形一体型ステータ 図000005
  • 特許6537104-分割成形一体型ステータ 図000006
  • 特許6537104-分割成形一体型ステータ 図000007
  • 特許6537104-分割成形一体型ステータ 図000008
  • 特許6537104-分割成形一体型ステータ 図000009
  • 特許6537104-分割成形一体型ステータ 図000010
  • 特許6537104-分割成形一体型ステータ 図000011
  • 特許6537104-分割成形一体型ステータ 図000012
  • 特許6537104-分割成形一体型ステータ 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6537104
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】分割成形一体型ステータ
(51)【国際特許分類】
   F16H 41/28 20060101AFI20190625BHJP
【FI】
   F16H41/28
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-124667(P2015-124667)
(22)【出願日】2015年6月22日
(65)【公開番号】特開2016-29307(P2016-29307A)
(43)【公開日】2016年3月3日
【審査請求日】2018年5月18日
(31)【優先権主張番号】特願2014-147629(P2014-147629)
(32)【優先日】2014年7月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】100121418
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 修
(72)【発明者】
【氏名】森 幸三
(72)【発明者】
【氏名】青木 辰之
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0232655(US,A1)
【文献】 米国特許第4848084(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 41/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータハブと、ステータハブの外周に一定間隔をあけて放射状に突設された多数のブレードと、各ブレードの外端を囲むように形成されたステータコアを有するステータであって、軸方向に二分割した前側ステータ部材と後側ステータ部材とをそれぞれ別々に成形した後、前側ステータ部材と後側ステータ部材を接合した一体のものであり、前記前側ステータ部材と前記後側ステータ部材との分割形態が、ステータコアおよびブレードについては、前後に、ほぼ二等分する形で径方向に縦割りされて、前側ステータコア部材と後側ステータコア部材、並びに前側ブレード部材と後側ブレード部材とに分割され、内周側のステータハブについては、後側ステータハブ部材がステータハブの上部中央部分から上部後側角部に至る範囲となされ、この後側ステータハブ部材を除く残りの範囲が前側ステータハブ部材となされている、分割成形一体型ステータ。
【請求項2】
前側ステータ部材と後側ステータ部材が、両部材の当接部分における嵌合とかしめによって接合されている、請求項1記載の分割成形一体型ステータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の分割成形一体型ステータを有するトルクコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車等におけるトルクコンバータに使用されるステータに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のトルクコンバータにおけるステータは、エンジン側に位置するタービンランナとトランスミッション側に位置するポンプインペラとの間に配置され、これら部材間を循環するオイルの流れを制御してタービンランナ側のオイルをポンプインペラ側へ効率的に当てることでエンジン側のトルクを増幅させる機能を有するものである。
【0003】
図8および図9に示すように、一般には、ステータ41は、アルミニウム合金等を用いて鋳造成形された全体が一体のものであって、固定シャフト(図示せず)上に支持するためのワンウェイクラッチ42の外周に固定されたステータハブ43と、ステータハブ43の外方に形成されたステータコア44と、ステータコア44と前記ステータハブ43との間において、それらの円周方向に一定間隔をあけて放射状に設けられた所定形状のブレード45を有しており、また前記ワンウェイクラッチ42の前側にはリテーナ46が取り付けられている。
【0004】
そして、図10に示すように、前記ブレード45は、当該ステータ41のトルク増幅機能を高めるために、その翼型(翼の断面形状)におけるキャンバーラインCLの曲率を図示のものよりも大きくしてポンプインペラの回転を増強させることが行なわれている。
【0005】
またこの他、自動車のアイドリング時から発進時に至る一連のトルク伝達を効率的且つアクティブに行うために、各ブレードを前後に二分割すると共に、その前側翼部材と後側翼部材との位置関係を変動させることで前記キャンバーラインCL並びに翼型を状況に応じて変化させて作動オイルの循環流路面積を適宜制御するようにした種々のステータも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−24815号公報
【特許文献2】実開平1−143457号公報
【特許文献3】特許第3539649号公報
【特許文献4】実開平2−22461号公報
【特許文献5】実開平4−28258号公報
【特許文献6】特開平8−27048号公報
【特許文献7】特開平9−96349号公報
【特許文献8】特表2009−531605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図11に示すように、一般に、ステータを成形するための射出成形金型においては、一対のホルダー51・52内にそれぞれ入れ子53・54が配置され、これら入れ子53・54間に所定形状のステータを成形するためのキャビティCが形成されている。そして、所定形状のステータの成形後に前記ホルダー51や52を当該成形金型における軸方向A・B(金型ストローク方向)に移動させるだけでステータを脱型することができる(以下、「軸抜き成形」という)。
【0008】
しかしながら、前述したキャンバーラインCLの曲率が大きいブレードを有するステータの場合には、前述したごとくホルダー51や52を単に当該成形金型における軸方向A・Bに移動させるとブレードの一部が入れ子53・54に引っ掛かって脱型できない事態が生ずる。
【0009】
そのため、図12に示すように、一対のホルダー61・62内における入れ子63・64間にステータの各ブレードを成形するためのスライドコア65を円周方向に多数配置して、キャビティC内でステータハブとブレードを成形した後、ホルダー61や62を軸方向A・Bに移動させると共に各スライドコア65を径方向D・Eに(金型ストローク方向と直交する方向)に解放移動させる(以下、「径抜き成形」という)必要があった。したがって、このような径抜き成形は、前述した軸抜き成形の場合に比べて成形作業に多大な手間を要するという問題があった。また、このような径抜き成形作業後においては、更に前記成形したステータハブ外周から放射状に突出した各ブレードの外端を囲むようにバンドを巻いて環状のステータコアを形成する必要があることから、前述した径抜き成形作業の手間と相俟って製造に多大な時間とコストがかかるという課題があった。
【0010】
また、各ブレードを二分割したステータにおいても、前記と同様に成形作業並びに最終的な完成作業に多くの手間と時間を要するという問題があった。
【0011】
本発明は、キャンバーラインの曲率が大きいブレードを備えたステータであっても、軸抜き成形が可能なようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の本発明は、ステータハブと、ステータハブの外周に一定間隔をあけて放射状に突設された多数のブレードと、各ブレードの外端を囲むように形成されたステータコアを有するステータであって、軸方向に二分割した前側ステータ部材と後側ステータ部材とをそれぞれ別々に成形した後、前側ステータ部材と後側ステータ部材を接合して一体のものとしたことを特徴とする分割成形一体型ステータである。
【0013】
請求項2記載の本発明は、前記請求項1記載の分割成形一体型ステータについて、前側ステータ部材と後側ステータ部材との分割形態が、ステータコアおよびブレードについては、前後に、ほぼ二等分する形で径方向に縦割りされて、前側ステータコア部材と後側ステータコア部材、並びに前側ブレード部材と後側ブレード部材とに分割され、内周側のステータハブについては、後側ステータハブ部材がステータハブの上部中央部分から上部後側角部に至る範囲となされ、この後側ステータハブ部材を除く残りの範囲が前側ステータハブ部材となされているものである。
【0014】
請求項3記載の本発明は、前記請求項1記載の分割成形一体型ステータについて、前側ステータ部材と後側ステータ部材との分割形態が、ステータコアおよびブレードについては、前後に、ほぼ二等分する形で径方向に縦割りされて、前側ステータコア部材と後側ステータコア部材、並びに前側ブレード部材と後側ブレード部材とに分割され、内周側のステータハブについては、前側ステータハブ部材がステータハブの上部中央部分から上部前側角部に至る範囲となされ、この前側ステータハブ部材を除く残りの範囲が後側ステータハブ部材となされているものである。
【0015】
請求項4記載の本発明は、請求項1〜請求項3のうちのいずれか一項記載の分割成形一体型ステータについて、前側ステータ部材と後側ステータ部材が、両部材の当接部分における嵌合とかしめによって接合されていることを技術的特徴とするものである。
【0016】
請求項5記載の本発明は、前記請求項1〜請求項4のうちのいずれか一項記載の分割成形一体型ステータを有するトルクコンバータである。
【0017】
請求項6記載の本発明は、ステータハブと、ステータハブの外周に一定間隔をあけて放射状に突設された多数のブレードと、各ブレードの外端を囲むように形成されたステータコアを有するステータの製造方法であって、軸方向に二分割した前側ステータ部材と後側ステータ部材とをそれぞれ別々に成形する工程と、成形した前側ステータ部材と後側ステータ部材を接合して一体のものとする工程を有する分割成形一体型ステータの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、前述した通り、ステータハブと、ステータハブの外周に一定間隔をあけて放射状に突設された多数のブレードと、各ブレードの外端を囲むように形成されたステータコアを有するステータであって、軸方向に二分割した前側ステータ部材と後側ステータ部材とをそれぞれ別々に成形した後、前側ステータ部材と後側ステータ部材を接合して一体のものとすることを要旨とするものであるため、ステータのトルク増幅機能を高めるために、その翼型(翼の断面形状)におけるキャンバーラインの曲率を大きくした場合でも、前側ステータ部材と後側ステータ部材をそれぞれ軸抜き成形した後、これら両部材を接合すれば良いため、手間と時間とコストを要する従来の径抜き成形を一切行う必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態における第一製造段階でのステータの縦断面図である。
図2】同じく第一製造段階でのステータにおける後側ステータ部材の正面図である。
図3】同じく第一製造段階でのステータにおけるブレードの翼型である。
図4】同実施形態における第二製造段階でのステータの縦断面図である。
図5】同じく第二製造段階でのステータにおけるブレードの翼型である。
図6】本発明の他の実施形態を示す、第一製造段階のステータの縦断面図である。
図7図6の実施形態における前側ステータハブ部材と後側ステータハブ部材の接合の一例を示す要部拡大図である。
図8】従来の一般的なステータの縦断面図である。
図9図8のステータの正面図である。
図10図8のステータにおけるブレードの翼型である。
図11】軸抜き成形の要領を示す金型の概略図である。
図12】径抜き成形の要領を示す金型の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態に係るステータを図面にしたがって説明するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0021】
なお、本出願において、前後方向は図1を基準とし、「前」とは図1のステータの軸方向における左側方向を指し、「後」とは同右側方向を指すものとする。
【0022】
(実施形態1)
【0023】
図1および図2に示すように、ステータ1は、例えばアルミニウム合金等を用いて鋳造成形されるものであって、固定シャフト(図示せず)上に支持するためのワンウェイクラッチ2の外周に固定されたステータハブ3と、ステータハブ3の外方に形成されたステータコア4と、ステータコア4と前記ステータハブ3との間において、それらの円周方向に一定間隔をあけて放射状に設けられた所定形状のブレード5を有しており、また前記ワンウェイクラッチ2の前側にはリテーナ6が取り付けられている。
【0024】
そして、図1および図3に示すように、本実施形態では、ステータ1は、第一製造工程として、ブレード5が前後方向(軸方向に)に二分割されるように、前側ステータ部材1Aと後側ステータ部材1Bとに分けて軸抜きの射出成形が行われ、前側ステータ部材1Aが前側ステータハブ部材3A、前側ステータコア部材4Aおよび前側ブレード部材5Aを有し、後側ステータ部材1Bが後側ステータハブ部材3B、後側ステータコア部材4Bおよび後側ブレード部材5Bを有する構成となされている。
【0025】
前記ブレード5は、本実施形態では、そのキャンバーラインCLの曲率が大きいものである。しかしながら、前記ブレード5は、前述した通り、第一製造工程では、前側ブレード部材5Aと後側ブレード部材5Bとに分割された構成となっている。
【0026】
次に、図4および図5に示すように、ステータ1は、第二製造工程として、前述した前側ステータ部材1Aと後側ステータ部材1Bが種々の接合手段によって最終的に合体されて全体が一体となされたものである。
【0027】
前記接合手段としては、例えば図1に示すように、前側ステータ部材1Aと後側ステータ部材1Bとの当接部分BFにおいて、その円周方向に所定間隔を間隔をあけて、前側ステータ部材1Aと後側ステータ部材1Bをかしめる。また図2に示すように、前側ステータ部材1Aと後側ステータ部材1Bとの回り止めのために、例えば、後側ステータ部材1Bの内周に、一定間隔をあけて嵌合凸部9を設け、前側ステータ部材1Aには前記嵌合凸部9に嵌め合わされる嵌合凹部(図示せず)を設ける。
【0028】
また、前記前側ステータ部材1Aと後側ステータ部材1Bとの他の接合手段としては、前側ステータ部材1Aと後側ステータ部材1BとをCリングで係合すると共に、前側ステータ部材1Aから後側ステータ部材1Bにわたってピンを貫通状に立てることにより、両部材1A・1Bを結合させる。
【0029】
またこの他、接合手段には、前述したもの以外に、圧入等の機械的接合や圧接等の冶金的接合も含まれる。
【0030】
また、図1および図3に示すように、本実施形態におけるステータ1の前記第一製造工程における前側ステータ部材1Aと後側ステータ部材1Bとの分割形態は、より詳細には、ステータコア4およびブレード5については、前後に、ほぼ二等分する形で径方向に縦割りされて、前側ステータコア部材4Aと後側ステータコア部材4B、並びに前側ブレード部材5Aと後側ブレード部材5Bとに分割され、内周側のステータハブ3については、後側ステータハブ部材3Bが上部中央部分cから上部後側角部eに至る狭い範囲となされ、この後側ステータハブ部材3Bを除く広い範囲が前側ステータハブ部材3Aとなされている。
【0031】
しかしながら、本発明において、ステータ1の分割形態は前述したものに限定されず、軸方向において二分割するいずれの構造であっても良い。
【0032】
(実施形態2)
【0033】
図6および図7に示すように、本発明の他の実施形態を述べると、ステータ21は、前述した実施形態に係るステータ1と比較して分割形態が前後に逆となっている。すなわち、ステータ21は、第一製造工程として、ブレード25が前後方向(軸方向に)に二分割されるように、前側ステータ部材21Aと後側ステータ部材21Bとに分けて軸抜きの射出成形が行われ、前側ステータ部材21Aが前側ステータハブ部材23A、前側ステータコア部材24Aおよび前側ブレード部材25Aを有し、後側ステータ部材21Bが後側ステータハブ部材23B、後側ステータコア部材24Bおよび後側ブレード部材25Bを有する構成となされている。
【0034】
そして、本実施形態におけるステータ21の前記第一製造工程における前側ステータ部材21Aと後側ステータ部材21Bとの分割形態は、ステータコア24およびブレード25については、前後に、ほぼ二等分する形で径方向に縦割りされて、前側ステータコア部材24Aと後側ステータコア部材24B、並びに前側ブレード部材25Aと後側ブレード部材25Bとに分割され、内周側のステータハブ23については、前側ステータハブ部材23Aが上部中央部分cから上部前側角部eに至る狭い範囲となされ、この前側ステータハブ部材23Aを除く広い範囲が後側ステータハブ部材23Bとなされている。
【0035】
次に、第二製造工程として、前側ステータ部材21Aと後側ステータ部材21Bの接合について述べると、前側ステータ部材21Aと後側ステータ部材21Bとの当接部分BFにおいて、前側ステータ部材21Aには円周方向に一定間隔をあけて嵌合凹部30が形成され、後側ステータ部材21Bには、嵌合凹部30と嵌め合わされる嵌合凸部29が形成されている。そして、これら嵌合凸部29と嵌合凹部30との嵌め合わせによって、前側ステータ部材21Aと後側ステータ部材21Bとの相対的な回転が阻止される。更に、前記嵌合凸部29と嵌合凹部30との嵌め合わせ箇所の間において、それぞれ二ヶ所にかしめSが施されている。すなわち、本実施形態では、嵌合凸部29と嵌合凹部30との嵌め合わせ並びに前記かしめSによって、前側ステータ部材21Aと後側ステータ部材21Bとが接合されている。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係るステータによれば、キャンバーラインの曲率が大きい場合でも従来のような径抜き成形ではなく、軸抜き成形が行えるため、製造における手間と時間とコストの大幅な削減が可能となり、トルクコンバータにおけるステータの分野において幅広い利用が期待できる。
【符号の説明】
【0037】
1 ステータ
1A 前側ステータ部材
1B 後側ステータ部材
3 ステータハブ
3A 前側ステータハブ部材
3B 後側ステータハブ部材
4 ステータコア
4A 前側ステータコア部材
4B 後側ステータコア部材
5 ブレード
5A 前側ブレード部材
5B 後側ブレード部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12