特許第6537105号(P6537105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6537105-固体電解コンデンサおよびその製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6537105
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/00 20060101AFI20190625BHJP
   H01G 9/028 20060101ALI20190625BHJP
   H01G 9/022 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
   H01G9/00 290H
   H01G9/028 G
   H01G9/022
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-142412(P2015-142412)
(22)【出願日】2015年7月16日
(65)【公開番号】特開2017-27992(P2017-27992A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】峯村 英利
(72)【発明者】
【氏名】松田 晃啓
(72)【発明者】
【氏名】大月 輝喜
【審査官】 上谷 奈那
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−539227(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/099261(WO,A1)
【文献】 特表2015−515746(JP,A)
【文献】 特表2007−531233(JP,A)
【文献】 特開2011−157535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
H01G 9/022
H01G 9/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体酸化皮膜が形成されたコンデンサ素子に、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸を基本組成とする分散溶液を含浸および乾燥させることによって誘電体酸化皮膜の表面に電解質が形成された固体電解コンデンサにおいて、前記コンデンサ素子内に、
ポリエチレングリコールと、
ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレン、ポリオキシプロピレントリメチロールプロパンエーテル、およびポリオキシプロピレンソルビトールエーテルから成るグループより選ばれた1つ以上の化合物
が含まれることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記化合物が、ポリエチレングリコール重量の0.5〜5倍の重量で含有されていることを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記化合物の数平均分子量が、400〜4000であることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
誘電体酸化皮膜が形成されたコンデンサ素子を、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸を基本組成とする分散溶液に含浸および乾燥させる工程と、
ポリエチレングリコールと、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレン、ポリオキシプロピレントリメチロールプロパンエーテル、およびポリオキシプロピレンソルビトールエーテルから成るグループより選ばれた1つ以上の化合物とを含む混合溶液に含浸させる工程
を含むことを特徴とする、固体電解コンデンサの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサとして、表面に誘電体酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子の陽極箔上に、導電性高分子層を形成したものや、誘電体酸化皮膜を形成した陽極箔に導電性高分子層を形成した後、積層したコンデンサ素子や、弁作用金属の粉体を焼結後、誘電体酸化皮膜を形成したコンデンサ素子に導電性高分子層を形成したものが知られている。
【0003】
固体電解コンデンサは一般的に、アルミニウム、タンタル、ニオブ等の弁作用金属からなり、表面にエッチングピットや微細孔が形成された陽極体(陽極箔または焼結体)を備えており、陽極体の表面に誘電体酸化皮膜を形成し、この誘電体酸化皮膜上に導電性高分子層を形成させて、電極を引き出して構成される。この導電性高分子層は、電解コンデンサにおける真の陰極としての役割を担っており、電解コンデンサの電気特性に大きな影響を及ぼす。
【0004】
導電性高分子層とは、電子導電性である固体の電解質を含む層であって、ポリチオフェンの誘導体であるポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールなどの導電性高分子を固体電解質として用いることが知られている(特許文献1)。
【0005】
このような導電性高分子層を形成する方法として、予め酸化剤とモノマーとの混合液を調製し、この混合液にコンデンサ素子を浸漬して含浸する方法や、酸化剤とモノマーとを別々に順次コンデンサ素子に含浸する方法がある。例えば、特許文献2記載の固体電解コンデンサは、重合性モノマーと酸化剤とを混合した混合液にコンデンサ素子を浸漬し、コンデンサ素子内で導電性ポリマーの重合反応を発生させている。そして、固体電解質層を形成した後に、このコンデンサ素子を所定のイオン伝導性物質に浸漬して、コンデンサ素子内の空隙部にイオン伝導性物質を充填することによって、高温リフロー下における耐電圧特性の劣化を防止している。
上記の方法はいずれも、コンデンサ素子上で重合反応を進行させながら導電性高分子層を形成するものであるが、これらの方法には、重合の進行に伴う溶液粘度の変化や、酸化剤とモノマーとの混合が不十分になることなど工程管理上の困難があることも知られていた。
【0006】
一方、予め重合反応させた導電性高分子を含む分散液を、コンデンサ素子に含浸および乾燥し、塗膜とすることで導電性高分子層を形成する方法も知られている。この方法は、誘電体酸化皮膜上で重合反応を行う必要がないため、工程の制御が比較的容易であり量産性の面で有利であるという特徴がある(特許文献3)。
【0007】
特許文献3の発明は、導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)との水分散体である商品名Baytron−P(BAYTRONは登録商標、ドイツ・スタルク社製)を導電性高分子層の形成に用いており、導電性高分子層における導電性の向上(等価直列抵抗(ESR)増加の回避)と電気的特性の長期信頼性の向上を目的としている。特許文献3の発明では、まず陽極酸化皮膜が形成され、その表面にプリコート層(ポリスチレンスルホン酸を塗布・乾燥した層)及び内部導電性高分子層(化学酸化重合によって形成される、比較的分子量の小さい導電性高分子の膜)が形成された陽極体を準備する。次いで、PEDOTおよびPSSを含む水分散液に、ナフタレンスルホン酸類、高分子量PSS、ホウ酸、マンニトールやグリコール類及び水を含む溶液を混合し、それにより高分子重合溶液を作製する。そして、この重合溶液を前記の陽極体に塗布又は含浸し、乾燥することによって導電性高分子層を設けることを特徴とする。
【0008】
ところで、固体電解コンデンサの用途が拡大するにつれて、より厳しい環境下でも問題なく使用できるコンデンサが求められている。
そこで、高温・高湿度下における電気特性の変化を小さくするために、コンデンサ素子をポリエチレングリコール(沸点:約250℃)等の高沸点溶媒を含浸させることが提案されている。しかしながら、高沸点溶媒としてポリエチレングリコールのみを含浸させた場合、85℃−85%RH等の高湿度雰囲気においては良好な特性を呈すが、近年要求されている125℃以上の高温度雰囲気下及び温度サイクル試験の厳しい条件下においては、酸化劣化による特性変化が大きくなるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−15611号公報
【特許文献2】特許第4779277号公報
【特許文献3】特開2008−311582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来技術における問題点を解決し、125℃以上の高温度雰囲気下でも静電容量の変化が少なく、低いESRが維持され、温度サイクル特性に優れた固体電解コンデンサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決可能な本発明の固体電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜が形成されたコンデンサ素子に、少なくとも1回、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸を基本組成とする分散溶液を含浸および乾燥させることによって誘電体酸化皮膜の表面に電解質が形成された固体電解コンデンサにおいて、前記コンデンサ素子内に、
ポリエチレングリコールと、
ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレン、ポリオキシプロピレントリメチロールプロパンエーテル、およびポリオキシプロピレンソルビトールエーテルから成るグループより選ばれた1つ以上の化合物
が含まれることを特徴とする
【0013】
さらに、本発明は、上記の特徴を有した固体電解コンデンサにおいて、前記化合物が、ポリエチレングリコール重量の0.5〜5倍の重量で含有されていることを特徴とするものでもある。
【0014】
また、本発明は、上記の特徴を有した固体電解コンデンサにおいて、前記化合物の数平均分子量が、400〜4000であることを特徴とするものでもある。
【0015】
また、本発明は、上記の特徴を有した固体電解コンデンサを製造するための方法でもあり、当該製造方法は、
誘電体酸化皮膜が形成されたコンデンサ素子を、PEDOT/PSSを基本組成とする分散溶液に含浸および乾燥させる工程と、
ポリエチレングリコールと、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレン、ポリオキシプロピレントリメチロールプロパンエーテル、およびポリオキシプロピレンソルビトールエーテルから成るグループより選ばれた1つ以上の化合物とを含む混合溶液に含浸させる工程
を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の固体電解コンデンサにおいては、誘電体酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)を基本組成とする分散溶液を少なくとも1回含浸および乾燥させることによって導電性高分子層が形成されており、PEDOT/PSSからなる層で構成された導電性高分子層により、導電性の高い固体電解コンデンサが得られる。
【0017】
なお、本発明では、上記の導電性高分子層が水分の影響により膨潤するのを抑制し、固体電解コンデンサの耐湿性を向上させるために、予め誘電体酸化皮膜上にポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン又はその誘導体を含む溶液を含浸および乾燥させることによって第一の導電性高分子層を形成しておくことが好ましく、この上に第二の導電性高分子層としてPEDOT/PSS層が形成される。
また、本発明の固体電解コンデンサにおけるセパレータとしては、加水分解性を有さないセパレータ、例えば、ポリアクリロニトリル、アラミドを主体とするセパレータであることが好ましく、このようなセパレータを用いることで、特に高温領域において、より耐久性に優れた固体電解コンデンサを得ることができる。
【0018】
本発明の固体電解コンデンサにあっては、コンデンサ素子内に、ポリエチレングリコールと、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレン、ポリオキシプロピレントリメチロールプロパンエーテル、およびポリオキシプロピレンソルビトールエーテルから成るグループより選ばれた1つ以上の化合物を含む混合溶液が含浸されており、本発明において好ましい化合物としてはポリオキシプロピレングリセリルエーテルやポリオキシプロピレン等が挙げられる。なお、本発明では、前記化合物が、ポリエチレングリコール重量の0.5〜5倍の重量で混合されていることがより好ましい。
【0019】
次に、上記の本発明の固体電解コンデンサを製造するための本発明の製法について説明する。本発明の製造方法における最初の工程では、誘電体酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、導電性高分子が溶解された溶液を含浸及び乾燥させて、誘電体酸化皮膜上に第一の導電性高分子層を形成させる。この際、導電性高分子が溶解された溶液としては、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン又はその誘導体のいずれかが溶解された溶液であることが好ましく、固体電解コンデンサのセパレータは、加水分解性を有さないセパレータであることが好ましい。
本発明では、導電性高分子が溶解された溶液として上記のものを用いることで、汎用的な方法で陽極箔表面に導電性高分子層を一層形成することが可能である。また、導電性高分子の溶液を用いることによって、陽極酸化皮膜上で重合反応を行う場合よりも均一に導電性高分子層を形成することが可能であり、また、コンデンサ素子内に未反応モノマーや酸化剤等の不要物質が残存することがないため、固体電解コンデンサの耐湿性を向上させると共に電気特性を改善することが可能である。
【0020】
そして、本発明の製造方法における次の工程では、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸とを含む分散液を、コンデンサ素子に含浸及び乾燥させることで、第一の導電性高分子層上に第二の導電性高分子層(PEDOT/PSS層)を形成させる。このようなポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸との分散液を使用した場合には、コンデンサ素子内に酸化剤やモノマー成分が残存することが少なくなり、特に高温度下における誘電体皮膜の劣化が抑えられ、これにより、低温領域における静電容量の変化が小さく、また、高温度下においてもコンデンサの特性変化が少ない固体電解コンデンサを得ることができる。
【0021】
本発明の製造方法における最終工程では、ポリエチレングリコールと、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレン、ポリオキシプロピレントリメチロールプロパンエーテル、およびポリオキシプロピレンソルビトールエーテルから成るグループより選ばれた1つ以上の化合物とを含む混合溶液を減圧下で一定時間、コンデンサ素子に含浸させる。ポリエチレングリコールを単体で含浸させた場合には、高温度雰囲気下、温度サイクル試験時に自動酸化劣化により短時間で特性が悪化するが、前記化合物と混合することによって熱酸化劣化の反応性が抑制され、耐高温度特性及び温度サイクル特性が改善する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、125℃以上の高温度雰囲気下でも静電容量の変化が少なく、低いESRが維持され、温度サイクル特性に優れた固体電解コンデンサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】コンデンサ素子の概要を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1はコンデンサ素子の概要を示す分解斜視図である。コンデンサ素子4内には、陽極箔1と陰極箔3がセパレータ2を介して巻回されて収納されており、陽極箔に接続された陽極リード線5及び陰極箔に接続された陰極リード線6が引き出されている。
【0025】
本発明の固体電解コンデンサの陽極箔は、所定の幅の平板状の弁作用金属の表面をエッチング処理で粗面化した後に化成酸化処理を行って、表面上に誘電体酸化皮膜が形成されたものを用いる。弁金属作用としては、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタンから選択される少なくとも一つを含む金属が好ましく、中でもアルミニウムが好ましい。
【0026】
エッチング処理および化成酸化処理は公知の方法で行うことが可能であり、購入品を用いることもできる。例えば、化成酸化処理に用いる化成液は、カルボン酸基を有する有機酸塩類、リン酸等の無機酸塩類の溶質を有機溶媒又は無機溶媒に溶解した化成液が使用できる。
【0027】
陽極箔は前述のとおりセパレータ及び陰極箔とともに巻回されるが、巻回後に、陽極箔の切り口や外部引き出し電極の取り付け時に欠損した誘電体酸化皮膜を修復するために、修復化成を行う。修復化成のための化成液としては、カルボン酸基を有する有機酸塩類、リン酸等の無機酸塩類の溶質を有機溶媒又は無機溶媒に溶解した化成液が使用できる。
【0028】
そして次に、誘電体酸化皮膜上に第一の導電性高分子層を形成する。第一の導電性高分子層は、溶液タイプの導電性高分子溶液を含浸・乾燥することによって形成されることが好ましい。第一の導電性高分子層は、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンまたはその誘導体を主体とする溶液を用いて形成されること、つまり、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン又はその誘導体を主体とする導電性高分子層であることが好ましい。溶液における導電性高分子の濃度は0.1〜2.0wt%が好ましく、溶媒としてはアルコールやエーテル類、芳香族系を問わず、導電性高分子を溶解し且つ、250℃未満の乾燥温度にて蒸散可能な溶媒を用いることができる。乾燥条件は、溶媒を除去可能かつコンデンサ素子に悪影響を及ぼさない限り制限されないが、例えば100〜250℃で30〜120分、乾燥させることができる。第一の導電性高分子層を形成するための溶液として、特に好ましくは、0.5〜1.5wt%のポリアニリン/エタノール溶液を用い、150℃で30分乾燥させることにより形成できる。ポリアニリンのドーパントには、例えば、スルホコハク酸エステルを用いることができる。
【0029】
このようにして形成された第一の導電性高分子層の上には、第二の導電性高分子層が形成される。第二の導電性高分子層は、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)とを含むポリマー分散液に、コンデンサ素子を浸漬・含浸させた後、乾燥によって水分を除去することによって形成されることが好ましい。PEDOT/PSS分散液としては、溶媒として水を使用したものが好ましく、分散液中のPEDOT/PSSの濃度を0.5〜3.0wt%として作製したものを用いてもよい。第二の導電性高分子層を形成する際、含浸を常圧下で行ってもよいが、減圧下で行うことも好ましい。また、含浸及び乾燥は、2回以上繰り返して行うことができる。乾燥条件は、溶媒を除去可能かつコンデンサ素子に悪影響を及ぼさない限り制限されないが、例えば85〜150℃で30〜120分、乾燥させることができる。特に好ましくは、1.0wt%のPEDOT/PSSを含むポリマー分散体溶液を用いて、10kPaの減圧下で15分間浸漬・含浸させ、100℃で60分乾燥を行う工程を3回繰り返すことによって、第二の導電性高分子層を形成することができる。
【0030】
そして、上記の工程により導電性高分子層を形成させたコンデンサ素子を、ポリエチレングリコールと、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレン、ポリオキシプロピレントリメチロールプロパンエーテル、およびポリオキシプロピレンソルビトールエーテルから成るグループより選ばれた1つ以上の化合物とを含む混合溶液を減圧下(例えば10kPa)で一定時間(例えば30分間)、コンデンサ素子に含浸させ、その後、このコンデンサ素子を金属ケースに収納し、金属ケースの開口部をカーリングし、150℃程度の温度条件にてコンデンサに定格電圧を印加してエージング処理を施すことにより、本発明の固体電解コンデンサが得られる。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されない。
【0032】
[実施例1]
所定の幅に切断された陽極箔及び陰極箔に外部引き出し電極用のタブ端子を接続した。陽極箔は、弁金属としてアルミニウム箔を用い、弁金属の表面にエッチング処理及び化成処理を施すことによって、誘電体酸化皮膜が形成されたものを用いた。
前記の陽極箔及び、表面に酸化チタンが形成された陰極箔を、ポリアクリロニトリルを主体としたセパレータを介して巻回し、巻回素子を完成した。
続いて、陽極箔の切り口や外部引き出し電極取り付け時に欠損した誘電体酸化皮膜の修復、いわゆる化成処理を行った。アジピン酸アンモニウムを水溶媒に溶解させた0.5〜3wt%の化成液を用いて、誘電体酸化皮膜の化成電圧値に近似した電圧を印加し、化成処理を行った。
【0033】
次に、固体電解コンデンサの陰極層である導電性高分子層の形成を行った。
まず、巻回素子に1.0wt%ポリアニリン/エタノール溶液を含浸し、150℃で30分乾燥させることで第一の導電性高分子層を形成させた。
その後、1.0wt%のPEDOT/PSSを含むポリマー分散体溶液を10kPaの減圧下で15分間浸漬・含浸させ、100℃で60分加熱することによって水分を除去した。この含浸及び乾燥を3回繰り返して、第二の導電性高分子層を形成させた。
さらに、ポリエチレングリコール(三洋化成工業社製のPEG−600、水酸基価から求めた数平均分子量:600)とポリオキシプロピレングリセリルエーテル(三洋化成工業社製のサンニックスGP−400、水酸基価から求めた数平均分子量:400)を40:60の重量比率で混合し、この混合溶液に上記巻回素子を10kPa減圧下で30分含浸させた。
【0034】
上記方法で導電性高分子層が形成されたコンデンサ素子を金属ケースに収納し、金属ケースの開口部をカーリングした。続いて、150℃程度の温度条件にてコンデンサに定格電圧を印加してエージング処理を施し、固体電解コンデンサを完成した。
【0035】
[実施例2]
コンデンサ素子に含浸させる後処理溶液として、PEG−600とGP−400を30:70の重量比率で混合した溶液を使用する以外は、実施例1と同様に固体電解コンデンサを作製した。
【0036】
[実施例3]
コンデンサ素子に含浸させる後処理溶液として、PEG−600とGP−400を70:30の重量比率で混合した溶液を使用する以外は、実施例1と同様に固体電解コンデンサを作製した。
【0037】
[実施例4]
コンデンサ素子に含浸させる後処理溶液として、PEG−600とGP−400と純水を30:20:50の重量比率で混合した溶液を使用する以外は、実施例1と同様に固体電解コンデンサを作製した。
【0038】
[従来例]
コンデンサ素子に含浸させる後処理溶液として、PEG−600の50%水溶液を使用する以外は、実施例1と同様に固体電解コンデンサを作製した。
【0039】
[実施例および従来例の固体電解コンデンサの評価]
実施例および従来例の固体電解コンデンサについて下記の評価方法にて評価を行った。
検討製品:φ8×10L 35WV−150μF
1.温度サイクル試験
試験条件:−55℃/+125℃ 各30minを1サイクルとし、1,000サイクル実施後の静電容量(Cap)、tanδ及び等価直列抵抗(ESR)を測定し、試験前と値からの変化率を計算した。その結果を以下の表1に示す。
2.信頼性試験
試験条件:試験雰囲気:145℃
印加電圧・経過時間:35V印加、2,000時間
145℃、35V印加、2,000時間後の静電容量(Cap)、tanδ、等価直列抵抗(ESR)を測定し、試験前の値から変化率を計算した。その結果を以下の表2に示す。
【0040】
実施例1〜4及び従来例において使用したポリマー溶液
従来例:PEG−600 50%aqの後処理溶液
実施例1:PEG−600 40%、GP−400 60%を混合した後処理溶液
実施例2:PEG−600 30%、GP−400 70%を混合した後処理溶液
実施例3:PEG−600 70%、GP−400 30%を混合した後処理溶液
実施例4:PEG−600 30%、GP−400 20%、純水50%を混合した後処理溶液
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
上表1および表2の実験結果に示されるとおり、上記の温度サイクル試験および高温度信頼試験における静電容量(Cap)、tanδ、等価直列抵抗(ESR)の変化率は、実施例1〜4の方が、従来例よりも小さく、安定している。また、表2には、高温度信頼性試験において、実施例1〜4の静電容量(Cap)、tanδ、等価直列抵抗(ESR)の変化率が、従来例よりも小さく、高温領域(145℃)においても安定性に優れていることが示されており、特に、GP−400の重量がPEG−600の重量の0.5倍を超える場合(実施例1,2,4)に、より良好な高温度安定性が得られることがわかった。なお、GP−400の重量をPEG−600の重量の5倍以下とすることで耐電圧特性が向上するので、高温度安定性と耐電圧特性とを両立させる観点から、GP−400の重量はPEG−600の重量の0.5〜5倍とすることがより好ましい。また、化合物の数平均分子量400〜4000すると、コンデンサ素子への含浸性を向上させることができる。
【0044】
そして、本発明は、上記実施例において化合物として、ポリオキシプロピレングリセリルエーテルを用いたが、他に、ポリオキシプロピレン、ポリオキシプロピレントリメチロールプロパンエーテル、ポリオキシプロピレンソルビトールエーテルを用いても同様の効果が得られる。
【0045】
さらに、本発明は、上記実施例において、導電性高分子層形成後、巻回素子を、ポリエチレングリコールとポリオキシプロピレングリセリルエーテルの混合溶液に含浸させたが、誘電体酸化皮膜形成後、巻回素子を、PEDOT/PSSを含むポリマー分散体溶液にポリエチレングリコールとポリオキシプロピレングリセリルエーテルなど化合物とを混合させた溶液に含浸させても同様の効果が得られる。
【0047】
なお、上記実施例では、コンデンサ素子を誘電体酸化皮膜が形成された陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回して形成したが、誘電体酸化皮膜が形成された陽極箔を積層したコンデンサ素子や、弁作用金属の粉体を焼結後、誘電体酸化皮膜を形成したコンデンサ素子を使用してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 陽極箔
2 セパレータ
3 陰極箔
4 コンデンサ素子
5 陽極リード線
6 陰極リード線
図1