特許第6537336号(P6537336)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧 ▶ 三菱電機ホーム機器株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6537336-誘導加熱調理器 図000002
  • 特許6537336-誘導加熱調理器 図000003
  • 特許6537336-誘導加熱調理器 図000004
  • 特許6537336-誘導加熱調理器 図000005
  • 特許6537336-誘導加熱調理器 図000006
  • 特許6537336-誘導加熱調理器 図000007
  • 特許6537336-誘導加熱調理器 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6537336
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】誘導加熱調理器
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/12 20060101AFI20190625BHJP
【FI】
   H05B6/12 324
   H05B6/12 335
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-87396(P2015-87396)
(22)【出願日】2015年4月22日
(65)【公開番号】特開2016-207437(P2016-207437A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000176866
【氏名又は名称】三菱電機ホーム機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】特許業務法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 宏
(72)【発明者】
【氏名】大久保 直也
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 健太郎
【審査官】 根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−227044(JP,A)
【文献】 特開2012−024205(JP,A)
【文献】 特開2004−079216(JP,A)
【文献】 特開2003−038347(JP,A)
【文献】 特開平07−065939(JP,A)
【文献】 特開2004−063199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/12
F24C 3/12
A47J 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物が載置されるトッププレートと、
前記トッププレートの下方に配置され、前記被加熱物を誘導加熱する加熱コイルと、
前記加熱コイルの加熱電力の大きさを設定する設定手段と、
前記加熱コイルに高周波電力を供給する高周波電源と、
時間を計測する計時手段と、
前記トッププレートの温度、又は、前記被加熱物の温度を検知する温度検知手段と、
前記高周波電源を制御して前記加熱コイルの加熱電力の大きさを制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
加熱動作を開始後、前記設定手段からの入力に基づき前記高周波電源を制御して前記加熱コイルに加熱電力を入力し、
前記計時手段を動作させて加熱開始後の経過時間の計測を開始し、
前記温度検知手段が検知した温度と比較する制御温度を設定し、
前記計時手段で計測している加熱開始から前記制御温度に達するまでに要した時間と比較する判定基準時間を設定した後、
前記制御温度に達するのに要した時間と前記判定基準時間を比較し、この比較結果と前記制御温度に基づき前記加熱電力の出力の変更又は維持を行うと共に、前記温度検知手段によって前記トッププレートの温度、又は、前記被加熱物の温度が検知されており、且つ、前記加熱電力のない状態が一定時間以上続いた場合は、前記加熱動作を完全に停止させることを特徴とする誘導加熱調理器。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記比較結果が、前記制御温度に達するのに要した時間が前記判定基準時間より短い時は、前記温度検知手段が検知した検知温度が前記制御温度を超えた場合、前記加熱手段の出力を低下させ、
前記比較結果が、前記制御温度に達するのに要した時間が前記判定基準時間より長い時は、前記温度検出手段が検知した検知温度が前記制御温度を超えた場合、前記加熱手段の出力を維持することを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱調理器。
【請求項3】
前記制御温度は、前記設定手段により設定される前記加熱コイルの加熱電力の大きさに応じて変更することを特徴とする請求項1または2に記載の誘導加熱調理器。
【請求項4】
前記制御温度は、加熱動作開始時の前記温度検知手段の検知温度に応じて変更することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の誘導加熱調理器。
【請求項5】
前記制御手段は、前記温度検知手段の検知温度の変化に基づき前記被加熱物の状態を判断し、この判断に応じて前記制御温度を変更することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の誘導加熱調理器。
【請求項6】
前記制御温度は複数の値が設定され、各制御温度と前記温度検知手段の検知温度を比較して、比較した制御温度ごとに、前記加熱電力の出力の変更の大きさを異ならせることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の誘導加熱調理器。
【請求項7】
前記判定基準時間は、加熱動作開始時の前記温度検知手段の検知温度、又は、前記加熱電力の大きさに応じて変更されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の誘導加熱調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱調理器に関し、加熱物に応じた加熱制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、内部に調理物を入れる被加熱物である容器(鍋)を載置するトッププレートと、トッププレートの下方より被加熱物を加熱する加熱手段と、トッププレートを介して容器の温度を検知する温度検出手段と、加熱手段への通電及び熱量の制御を行う制御手段とを備えた加熱調理器において、制御手段は温度検出手段が検出する温度が所定値以上になると被加熱物を加熱する加熱手段への熱量を低下させる制御を行う加熱調理器が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−270957号(図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、温度検出手段は、トッププレートを介して容器の温度を検出するものであることから、直接被加熱物の温度を検出することができない。つまり、制御手段は、被加熱物の温度から特性を判断して、それぞれの被加熱物に応じた適切な加熱手段の制御を行うことが難しいという課題があった。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決する為になされたもので、被加熱物に応じた適切な加熱手段の制御を行うことが可能な誘導加熱調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するには、誘導加熱調理器において、被加熱物が載置されるトッププレートと、トッププレートの下方に配置され、被加熱物を誘導加熱する加熱コイルと、加熱コイルの加熱電力の大きさを設定する設定手段と、加熱コイルに高周波電力を供給する高周波電源と、時間を計測する計時手段と、トッププレートの温度、又は、被加熱物の温度を検知する温度検知手段と、高周波電源を制御して加熱コイルの加熱電力の大きさを制御する制御手段と、を備え、制御手段は、加熱動作を開始後、設定手段からの入力に基づき高周波電源を制御して前記加熱コイルに加熱電力を入力し、計時手段を動作させて加熱開始後の経過時間の計測を開始し、温度検知手段が検知した温度と比較する制御温度を設定し、計時手段で計測している加熱開始から制御温度に達するまでに要した時間と比較する判定基準時間を設定した後、制御温度に達するのに要した時間と判定基準時間を比較し、この比較結果と制御温度に基づき加熱電力の出力の変更又は維持を行う維持を行うと共に、温度検知手段によってトッププレートの温度、又は、被加熱物の温度が検知されており、且つ、加熱電力のない状態が一定時間以上続いた場合は、加熱動作を完全に停止させるように制御することで、課題を解決することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、誘導加熱調理器において、被加熱物に保持された調理物に応じて適切な加熱手段の制御を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態に係る誘導加熱調理器の全体斜視図
図2】実施の形態に係る誘導加熱調理器の制御回路のブロック図
図3】実施の形態に係る誘導加熱調理器の加熱動作のフローチャート
図4】少ない量の水を加熱した場合の経過時間に対応するサーミスタが検出したトッププレートの温度変化を示すグラフ
図5】多い量の水を加熱した場合の経過時間に対応するサーミスタが検出したトッププレートの温度変化を示すグラフ
図6】揚げ物を行う際に油を加熱した場合の経過時間に対応するサーミスタが検出したトッププレートの温度変化を示すグラフ
図7図3のフローチャートで示す加熱動作で多い量の水を加熱した場合の経過時間に対応するサーミスタが検出したトッププレートの温度変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図1図7を参照して実施の形態を説明する。
図1は本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器1の外観を示す斜視図であり、図2は、本実施の形態1における制御系の構成を示したブロック図である。
図1に示されるように、誘導加熱調理器1は、本体10と、本体10の上面を形成するトッププレート20とを備えている。
また、トッププレート20の下方であって本体10の内部には、被加熱物を誘導加熱する加熱手段である加熱コイル11a、11b、11cが配置されている。これらの加熱コイル11a、11b、11cを纏めていうときには加熱コイル11というものとする。
【0010】
このように、トッププレート20の上面であって、加熱コイル11と対向する位置には、内部に調理物を入れて調理を行う被加熱物となる鍋21が置かれる。
このように鍋21がトッププレート20に置かれることで、加熱コイル11により鍋21が誘導加熱可能な状態となり、鍋21内部に保持された調理物が温めることが可能となる。
【0011】
また、図2に示されるように、本体10の内部には、加熱コイル11に高周波電力を供給するインバーター回路(高周波電源)12、インバーター回路12を制御する制御手段13、及び、時間を計算する計時手段14が設けられる。
制御手段13は、マイコンなどで構成され、記憶手段(図示せず)を内蔵している。記憶手段は、加熱制御を実行するための制御アルゴリズムが記憶されており、また、本体内部に設けられた各種センサから入力データや、後述する操作部15からの入力データが記憶される。
【0012】
計時手段14は、後述の図3で示す処理において時間を計測し、制御手段13に測定データを入力する。また、計時手段14は、プリント回路基板(図示せず)に実装され、基板ケース(図示せず)内に収容された状態で、本体10に取り付けられている。
尚、計時手段14の機能は、制御手段13に内蔵するようにしてもよい。更に、基板ケースの設置位置については、発熱個所から遠く、冷却可能な風路の中に設けられる。特に、冷却効率の観点から、加熱コイル11よりも上流に配置するのがよい。
【0013】
この他、加熱コイル11や制御手段13等の発熱部位は、本体10の内部に設けられる冷却ファンにより発生される気流により、冷却される。
この冷却ファンは、本体10の下部後方の両側に設置され、本体10の外部から空気を吸入し、プリント回路基板及び加熱コイル11に冷却風を送ってこれらを冷却した後、後方に進んで本体10の後方に形成された排気口10aを介して本体10の外へ排気する。
また、図1に示されるように、本体10の下部にはグリル庫30が形成されており、肉や魚などの焼き物料理等の調理が可能となっている。
【0014】
更に、図1に示されるように、本体10の下部手前の右側には、設定手段としての操作部15が設けられている。
この操作部15をユーザーが操作することにより、加熱出力の調整や誘導加熱調理器への設定などの操作・設定情報が制御手段13に入力可能となっている。なお、操作部15には、グリル庫30の操作部も含まれている。
【0015】
次に、トッププレート20の裏面(加熱コイル11が設けられている側の面)側には、第1の温度センサとなる接触式の温度センサであるサーミスタ16と、第2の温度センサである非接触式の温度センサである赤外線センサ17が設けられる。
サーミスタ16と赤外線センサ17は、トッププレート20の鍋21の置かれる部位の下方に位置する。
【0016】
サーミスタ16は、トッププレート20の裏面に接触して配置されている。サーミスタ16は、トッププレート20の温度を検出する。つまり、サーミスタ16は、鍋21が接しているトッププレート20の部分の温度を検知する。
赤外線センサ17は、赤外線の受光部をトッププレート20の方向(上方向)に向けて設けられる。赤外線センサ17は、トッププレート20の上に置かれた鍋21から放出される赤外線を検出する。つまり、赤外線センサ17は、鍋21の底面の温度を検知する。
【0017】
サーミスタ16及び赤外線センサ17の検知信号は、信号変換手段18に入力される。信号変換手段18では、入力された信号をアナログからデジタルに変換(A/D変換)して、温度情報に換算する。そして、信号変換手段18は、換算した温度情報を制御手段13へ出力する。
この様に、サーミスタ16と赤外線センサ17と信号変換手段18により、温度検知手段が構成されている。尚、温度センサは、サーミスタ16か赤外線センサ17のいずれか一方のみであってもよい。
【0018】
次に、本実施の形態1における制御手段13の動作を図1図2を用いて説明する。
ユーザーが、本体10の電源スイッチ(図示せず)を投入すると、制御手段13が起動する。制御手段13は、まず、内部に保有しているカウンタのクリヤや初期値設定などの初期処理を行った後、操作部15からユーザーによって設定された情報を入力する。
【0019】
次に、制御手段13は、入力した設定情報が調理開始命令か否かを調べ、調理開始でなければ、調理開始命令が入力されるまで待ち状態となる。
この入力待ち状態において、ユーザーがトッププレート20に被加熱物である鍋21を載置する。続いて、操作部15において、火力情報などを設定して調理開始スイッチを押下する。すると、操作部15から調理開始命令の信号が生成されて、制御手段13に入力される。
【0020】
制御手段13は、調理開始命令入力があると、設定情報の中の火力情報に基づいて、インバーター回路12の出力を制御して、加熱コイル11への高周波電力(以下、加熱電力と呼ぶこともある)の供給を開始させる。これにより、誘導加熱による鍋21の加熱が開始する。
尚、制御手段13は、加熱動作を実行している間、記憶手段に記憶された制御アルゴリズムや、操作部15からの入力情報、温度検知手段からの入力情報に基づき、インバーター回路12の出力を制御して、加熱電力の強さ(火力)を調整する制御を行う。
【0021】
次に、図3図7を参照して、制御手段13が実行する加熱処理について説明する。この加熱処理は、加熱対象が水か油かを検出することで区別して、適切な加熱制御を実現するものである。
具体的には、水の加熱は、水を沸騰させる湯沸かしを行う際の制御を想定している。また、油の加熱は、揚げ物を行う際の加熱制御を想定している。
図3で示すフローチャートは、加熱対象が水か油かを区別することで、湯沸かしを行う際の加熱制御と、揚げ物を行う際の加熱制御を適切に分けて行うための制御アルゴリズムを示している。
【0022】
まず、誘導加熱調理器1の電源が投入され、制御手段13が起動する(S0)。
次に、ステップS1(以下、「ステップ」は省略する)において、ユーザーが操作部15を操作して、加熱電力(火力)を設定し、加熱動作を開始する。本実施の形態では、加熱電力を3000[W]に設定して、加熱動作を開始した場合で説明する。
【0023】
次に、S2において、少なくとも1つ以上の制御温度が設定される。制御温度とは、後述するS5、S9、S12、S15において、サーミスタ16が検出したトッププレート20の温度との比較に用いられる値である。制御温度は、あらかじめ記憶手段に記憶されている。
【0024】
詳細は後述するが、制御手段13は、トッププレート20の温度がこの制御温度より高い場合、加熱電力を低下させる又は停止させることから、制御温度は「パワーダウン温度」とも言う。
本実施の形態では、制御温度は、第1の制御温度A=180℃、第2の制御温度B=230℃、第3の制御温度C=270℃の3つ値がセットされる(A<B<C)。
【0025】
第1の制御温度Aは、トッププレート20の温度が、水の加熱動作を行う場合では、到達するのに時間がかかる温度(なかなか到達しない温度)に設定される。
例えば、第1の制御温度Aの目安は、油の加熱動作を行う場合と比較すると、トッププレート20の鍋21が置いてある部分が、油の加熱動作を行う場合は比較的早い段階で到達する温度であるが、水の加熱動作を行う場合は到達するのにある程度の時間がかかる温度である。
【0026】
つまり、油の加熱を行っている場合に上記温度に到達するまでに要する時間Toより、水の加熱を行っている場合に上記温度に到達するまでに要する時間Twがあきらかに長くなるように、第1の制御温度Aは設定される(To<Tw)。尚、この比較は、ほぼ同量の油と水を加熱した場合である。
【0027】
次に、S3において、判定基準時間Tが設定される。本実施の形態の場合、例えば、T=300秒が設定される。判定基準時間Tは、あらかじめ記憶手段に記憶されている。
この判定基準時間Tは、後述するS6において、サーミスタ16が検出したトッププレート20の温度が、第1の制御温度Aを超えるまでかかった時間と比較するものである。
判定基準時間Tの目安は、油の加熱を行った場合、サーミスタ16が検出したトッププレート20の温度が、第1の制御温度Aを超えるまでかかった時間Toよりは長い時間であり、水の加熱を行った場合、サーミスタ16が検出したトッププレート20の温度が、第1の制御温度Aを超えるまでかかった時間Twよりは短い時間である(To<T<Tw)。尚、この比較は、ほぼ同量の油と水を加熱した場合である。
【0028】
ここで、図4図6を用いて、加熱動作の過程において、水の量に応じた水温及びサーミスタ16が検出したトッププレート20の温度の変化と、油を加熱した場合の油温及びサーミスタ16が検出したトッププレート20の温度の変化を説明する。
図4は、少ない量の水を加熱した場合の経過時間に対応するサーミスタ16が検出したトッププレート20の温度を示す。少ない量の水とは、例えば、1人分のカップラーメンのお湯を沸かす場合や2〜3人分のコーヒーのお湯を沸かす場合など、沸かすお湯の量が500cc以下程度を想定している。
【0029】
図5は、多い量の水を加熱した場合の経過時間に対応するサーミスタ16が検出したトッププレート20の温度を示す。多い量の水とは、例えば、乾麺をゆでる場合など、沸かすお湯の量が1000ccを超えるような場合を想定している。
図6は、揚げ物を行う際の油を加熱した場合の経過時間に対応するサーミスタ16が検出したトッププレート20の温度を示す。この場合の油の量は、揚げ物を行うことが可能な概ね250cc以上を想定している。
【0030】
図4を参照すると、少ない水を加熱する場合は、本発明の実施の形態と同様に、加熱電力を3000[W]に設定して、加熱動作を開始すると、比較的早く水が沸騰し、水温が約100℃となり、これ以上水温が上昇しなくなる。
これにより、水を保持している被加熱物(鍋21)の底も上昇し難くなり、この被加熱部(鍋21)に接しているトッププレート20の温度も上昇しにくくなる。従って、サーミスタ16が検出した温度は、たいていの場合、制御温度Aに達することはない。
【0031】
次に、図5を参照すると、多い水を加熱する場合は、水の熱容量が大きく沸騰するまでに時間がかかる。このため、水を保持する被加熱物(鍋21)の底面が、長い時間誘導加熱されて、温度が上昇し、第1の制御温度Aに達する。
つまり、水が沸騰する前に第1の制御温度Aとなるために、従来の制御方法の場合、水が沸騰する前に、安全のために加熱電力を低下させる(例えば、1500[W]に低下)制御が行われ、水が沸騰に至るまでの時間が長くなってしまう。
【0032】
この安全のために行われる加熱電力の低下させる処理は、被加熱物に保持されている調理物が、油など高温になり、場合によっては発火の恐れがある調理物を安全に加熱するための制御である。
つまり、水のように油ほど高温にならない調理物の場合、加熱電力が低下してしまうことにより、調理時間が長くなるという問題がある。
【0033】
次に、図6を参照すると、油は水と比べて沸点が高いので、水より高い温度まで温められる。これに伴い、本実施の形態で言う判定基準時間Tに達する前に、サーミスタ16が検出したトッププレート20の温度が第1の制御温度Aに達する。
これにより、従来の制御方法の場合、加熱電力を低下させる(例えば、1500[W]に低下)制御が行われる。
【0034】
更に、油の加熱が進むと、第3の制御温度Cに達する。第3の制御温度Cに達した場合、発火などの危険を防止するために、加熱を停止する(加熱電力は0[W]となる)。
更に、加熱が停止されると油の温度が低下する。これに伴い、サーミスタ16が検出したトッププレート20の温度が、第3の制御温度C未満、第2の制御温度B以上になる。すると、再び加熱電力が投入され、油を温める動作が開始される。尚、第3の制御温度C未満、第2の制御温度B以上場合、加熱電力は1000[W]となる。
【0035】
更に、油の温度が低下すると、これに伴い、サーミスタ16が検出したトッププレート20の温度が、第の制御温度B未満、第の制御温度A以上にまで低下する。すると、入力される加熱電力が増加する(例えば、1500[W])。
更に、油の温度が低下すると、これに伴い、サーミスタ16が検出したトッププレート20の温度が、第1の制御温度A未満にまで低下する。すると、更に入力される加熱電力が増加する(例えば、3000[W])。
このように制御することで、油の温度が高温になって発火に至るのを防止する。
【0036】
本発明の制御手段13が実行する加熱処理の説明に戻る。
図3を参照すると、S4において、制御手段13は計時手段14を動作させ、時間の計測を開始して、S5に移行する。
次に、S5において、制御手段13は、サーミスタ16が検出したトッププレート20の温度が制御温度Aに達したか否かを判断する。この温度が制御温度Aに達していない場合、この温度が制御温度Aに達するまでS5を繰り返す。この温度が制御温度Aに達すると、S6に移行する。
【0037】
次に、S6において、制御手段13は、サーミスタ16が検出したトッププレート20の温度が、第1の制御温度A(180℃)に達するまでに要した加熱時間Taが、判定基準時間T(本実施の形態の場合、300秒)より長いか否かを判断する。
制御手段13は、加熱時間Taが判定基準時間Tより長い場合は、S7に移行してフラグ「Flg=1」をセットして記憶手段に記憶させ、S9に移行する。このように、加熱時間Taが判定基準時間Tより長くなる状況の例として、調理物が水のときにおきる。
つまり、水を加熱する場合、水の上昇可能な温度(沸点)との関係から、判定基準時間T以内に、トッププレート20の温度が第1の制御温度Aまで達することは無い。
【0038】
また、制御手段13は、加熱時間Taが判定基準時間Tより短い場合は、S8に移行して加熱電力を低下(本実施の形態の場合、3000[W]から1500[W]に低下)させる処理を行い、S9に移行する。
このように、加熱時間Taが判定基準時間Tより短くなる状況の例として、揚げ物調理の際に油を加熱する場合におきる。つまり、揚げ物調理を行うことが可能な程度の量の油を加熱する場合、油は水に比べて高い温度まで達するので、水を加熱した場合に比べて、トッププレート20の温度は第1の制御温度Aまで早く到達する。
S8において、加熱電力を低下させる理由は、加熱電力を高出力で油を加熱し続けた場合、必要以上に油の温度が上がることを防止するためである。
【0039】
次に、S9において、制御手段13は、サーミスタ16が検出したトッププレート20の温度が、第3の制御温度C(270℃)に達したか否かを判断する。第3の制御温度Cにトッププレート20の温度が達している場合、S10に移行してフラグ「Flg=0」をセットして記憶手段に記憶させ、S11に移行する。
そして、S11において、制御手段13は、加熱電力を0[W](加熱停止)又は大幅に低下させる制御を行い、S19に移行する。
【0040】
ここで、第3の制御温度Cは、他の基準温度より高い温度に設定されている。これは、安全に加熱動作できる上限の温度を基準に設定されており、トッププレート20の温度がこの温度を超える場合、調理物の温度も高いと推測し、調理物(主に油)の発火や温度の上がりすぎを抑止するため制御を行う制御温度(閾値)となっている。
【0041】
また、この様に高い温度には水の加熱動作ではなることは無く、油の加熱動作を行っている場合が主である。従って、S11では、後述するS16において、調理物に対応した判断ができるように、調理物が油である旨を示すようにフラグを「Flg=0」にセットしなおすものである。
【0042】
次に、S19では、制御手段13は、加熱動作が停止されたか否かを判断する。加熱動作が停止されていれば加熱動作を停止し、加熱動作が停止されていなければS9に移行する。
【0043】
次に、S9において、制御手段13は、第3の制御温度Cにトッププレート20の温度が達していない場合、S12に移行する。
S12では、制御手段13は、サーミスタ16が検出したトッププレート20の温度が、第2の制御温度B(230℃)に達したか否かを判断する。第2の制御温度Bにトッププレート20の温度が達している場合、S13に移行してフラグ「Flg=0」をセットして記憶手段に記憶させ、S14に移行する。
【0044】
そして、S14において、制御手段13は、加熱電力を1000[W]に設定する制御を行い、S19に移行する。
つまり、S14では、制御手段13は、先のS11にて加熱電力が0[W]又は大幅に低下した状態で、S14に移行してきた場合は、加熱電力を上げる制御を行うことになる。また、制御手段13は、S1及びS8や、後述するS17及びS18で加熱電力が設定された状態で、S14に移行してきた場合は、加熱電力を下げる制御を行うことになる。
【0045】
ここで、第2の制御温度Bは、第3の制御温度Cより低く、第1の制御温度Aより高い温度に設定されている。
これは、第1の制御温度Aと第3の制御温度Cの間に、中間となる第2の制御温度Bを設けることで、加熱電力の大幅な変更を防ぎ、調理物の温度が大幅に変動しないように、安定した加熱動作を行うためものである。
【0046】
また、この様に高い温度には水の加熱動作ではなることは無く、油の加熱動作を行っている場合が主である。従って、S13では、後述するS16において、調理物に対応した判断ができるように、調理物が油である旨を示すようにフラグを「Flg=0」にセットしなおすものである。
【0047】
次に、S19では、制御手段13は、加熱動作が停止されたか否かを判断する。加熱動作が停止されていれば加熱動作を停止し、加熱動作が停止されていなければS9に移行する。
【0048】
次に、S12において、制御手段13は、第2の制御温度Bにトッププレート20の温度が達していない場合、S15に移行する。
S15では制御手段13は、サーミスタ16が検出したトッププレート20の温度が、第1の制御温度A(180℃)に達したか否かを判断する。S15において、第1の制御温度Aにトッププレート20の温度が達していない場合、S18に移行する。
S18において、制御手段13は、制御手段13は、加熱電力を3000[W]に設定する制御を行い、S19に移行する。
S18における調理物の状態は、温度が低い状態と推定されることから、調理物の温度を上昇させるためのステップである。
【0049】
次に制御手段13は、S15において、第1の制御温度Aにトッププレート20の温度が達している場合、S16に移行してフラグが「Flg=0」であるか否かを判断する。
S16において、制御手段13は、「Flg=0」である場合、S17に移行して加熱電力を1500[W]に設定して、S19に移行する。
ここで、S16において、制御手段13が「Flg=0」である場合、調理物は油であると推測した制御を行うことになる。
【0050】
また、S11及びS14で、加熱電力が設定された状態で、S16に移行してきた場合は、制御手段13は、加熱電力を上げる制御を行うことになる。S8で、加熱電力が設定された状態で、S16に移行してきた場合は、制御手段13は、加熱電力を維持するように制御を行うことになる。
【0051】
次に、S19では、制御手段13は、加熱動作が停止されたか否かを判断する。加熱動作が停止されていれば加熱動作を停止し、加熱動作が停止されていなければS9に移行する。
【0052】
次に、S16において、制御手段13は、「Flg=0」ではない場合、S18に移行して加熱電力を3000[W]に設定して、S19に移行する。この様にS16において、制御手段13が「Flg=0」ではない場合、調理物は水であると推測した制御を行う。
ここで、水の場合、トッププレート20の温度が第1の制御温度Aより高い状況であっても、特に加熱する量が多い場合は、沸騰するには至らない温度であることがある。
【0053】
従って、S6で加熱時間Taと判定基準時間Tを比較して、調理物が水と判断(Flg=1)されていれば、高い加熱電力で加熱しても、油のように高温、発火の恐れがない。
つまり、調理物が水である場合、制御手段13が加熱電力を高め制御することで、水の温度上昇を早くすることができ、より早く沸騰するように制御することができる。
【0054】
次に、S19では、制御手段13は、加熱動作が停止されたか否かを判断する。加熱動作が停止されていれば加熱動作を停止し、加熱動作が停止されていなければS9に移行する。
【0055】
以上のように制御することにより、油の加熱を行う場合や少量の水の加熱を行う場合、サーミスタ16が検出したトッププレート20の温度と各制御温度を比べて、これに基づき適切に加熱電力を調整するので、高温や発火を防ぐとともに、適切な温度に制御することができる。
これに加え、第1の制御温度Aまでトッププレート20の温度が上昇するのに要する時間である加熱時間Taと判定基準時間Tを比較して、調理物を判断するので、正確に調理物が油か水かを判断することができる。
【0056】
更に、調理物が水と判断された場合は、第1の制御温度Aよりトッププレート20の温度が高くなっても、加熱電力を低下させることなく加熱動作をするので(図7参照)、湯沸かしを行う際に、より早く沸かすことができる。特に、多い量の水を沸騰させる場合に有効である。
【0057】
(その他の変形例)
実施の形態では、第1の制御温度A、第2の制御温度B、第3の制御温度Cは、一定の温度に設定されたものとして説明したが、加熱電力の大きさに応じて異なる温度を設定してもよい。
例えば、加熱電力が大きい場合は高めの温度、加熱電力が小さい場合は低めの温度に変更可能に設定すれば、よりきめ細かく温度を制御することができる。
【0058】
また、加熱動作をスタートした時のサーミスタ16が検出する検出温度に応じて、第1の制御温度A、第2の制御温度B、第3の制御温度Cを変えても良い。
例えば、加熱動作をスタートした時のサーミスタ16が検出する検出温度が高い場合は、第1の制御温度A、第2の制御温度B、第3の制御温度Cは高めに、加熱動作をスタートした時のサーミスタ16が検出する検出温度が低い場合は、第1の制御温度A、第2の制御温度B、第3の制御温度Cは低めに変更して加熱動作を行うとよい。
これにより、誘導加熱調理器が、外気により冷やされている場合や、前回の動作からあまり時間を空けないで暖まった状態で運転する場合などでも、より正確に実施の形態の動作を行うことができる。
【0059】
また、実施の形態では、センサ温度はサーミスタ16が検知した検出値を用いて説明したが、赤外線センサ17の検知した検出値を用いて同様の制御を行っても良い。
また、実施の形態では、判定基準時間Tを固定したもので説明したが、この時間も1個ではなく複数設けて、加熱動作開始時のトッププレート20の温度や加熱電力の大きさによって異ならせても良い。
【0060】
また、サーミスタ16が検出したトッププレート20の温度の上昇の傾きから、鍋21の底に反りがあるか否かを検出し、鍋反り及び加熱電力及び加熱時間に応じて、第1の制御温度A、第2の制御温度B、第3の制御温度Cを変更しても良い。
更に、加熱電力が0[W]の状態が、一定時間以上続いた場合は、鍋21の底温度が異常加熱されている可能性があるため、エラーにして加熱動作を完全に停止させても良い。
【符号の説明】
【0061】
1 誘導加熱調理器、10 本体、11 加熱コイル、12 インバーター回路、13 制御手段、14 計時手段、15 操作部、16 サーミスタ(第1の温度センサ)、17 赤外線センサ(第2の温度センサ)、18 信号変換手段、20 トッププレート、30 グリル庫
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7