(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6537441
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】紙製容器および紙製容器の胴部ピースの製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 3/28 20060101AFI20190625BHJP
B65D 3/06 20060101ALI20190625BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20190625BHJP
B31B 50/74 20170101ALI20190625BHJP
B31B 50/88 20170101ALI20190625BHJP
B29C 59/04 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
B65D3/28 Z
B65D3/06 B
B32B27/10
B31B50/74
B31B50/88
B29C59/04 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-225465(P2015-225465)
(22)【出願日】2015年11月18日
(65)【公開番号】特開2017-95105(P2017-95105A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000223193
【氏名又は名称】東罐興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】冨森 亮一
(72)【発明者】
【氏名】門田 太郎
【審査官】
新田 亮二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−151434(JP,A)
【文献】
特開2012−096413(JP,A)
【文献】
特開2009−120218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 3/28
B29C 59/04
B31B 50/74
B31B 50/88
B32B 27/10
B65D 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.紙層の一方側に第1樹脂層が配され、上記第1樹脂層の表面が第1面として提供される長尺の積層シートを得る積層シート製造工程と、
b.周面に多数の凸部が形成されたエンボスロールと、周面が平滑な円筒面をなす平滑ロールとを用意し、上記積層シートの第1面を上記エンボスロールに向け、上記積層シートにおける上記第1面とは反対側の第2面を上記平滑ロールに向けた状態で、上記積層シートを上記エンボスロールと上記平滑ロールの間に通して冷間でエンボス加工することにより、上記第2面を平滑に維持したまま、上記エンボスロールの上記凸部により上記紙層を圧縮して、上記第1面に、多数の凹部が分散配置されたエンボス模様を形成し、上記凹部の深さを上記積層シートの厚さの1〜10%とするエンボス加工工程と、
c.上記積層シートから扇形の胴部ブランクを打ち抜く打抜工程と、
d.上記胴部ブランクを、上記第1面を外側にし上記第2面を内側にして丸め、その両端部を重ねてヒートシールすることにより、胴部ピースを得る胴部ピース製造工程と、
を備えたことを特徴とする紙製容器の胴部ピースの製造方法。
【請求項2】
上記積層シートはさらに、上記紙層の他方側に第2樹脂層を有し、上記第2樹脂層の表面が上記第2面として提供される請求項1に記載の紙製容器の胴部ピースの製造方法。
【請求項3】
上記積層シートはさらに、上記紙層と上記第1樹脂層との間に配された印刷層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の紙製容器の胴部ピースの製造方法。
【請求項4】
上記積層シートは、上記紙層と上記第1樹脂層との間に配された透明樹脂層と、この透明樹脂層の上記紙層側の面に形成された金属蒸着層とをさらに備え、上記透明樹脂層の上記紙層とは反対側に上記印刷層が配されていることを特徴とする請求項1に記載の紙製容器の胴部ピースの製造方法。
【請求項5】
上記エンボス加工工程において、上記凹部の形成領域が上記エンボス模様の20〜60%を占め、上記凹部の1cm2当たりの数が、1〜400個であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の紙製容器の胴部ピースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胴部ピースの外周面にエンボス模様が形成された紙製容器、およびこの紙製容器の胴部ピースを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カップ状の紙製容器は、ヨーグルト、チルド飲料、アイスクリーム、菓子等を収容する容器として多く使用されている。この紙製容器は、筒形状の胴部ピースと、この胴部ピースの下端開口を塞ぐ底部ピースとで構成されており、内容物を充填した後、胴部ピースの上端開口が蓋材で密封されるようになっている。
【0003】
上記胴部ピースは次のようにして得られる。紙層とこの紙層の少なくとも一方側に配された樹脂層を有する積層シートを製造する。この積層シートから扇形の胴部ブランクを打ち抜く。上記樹脂層が外側になるようにして上記胴部ブランクを丸め、その両端部を重ね合わせてヒートシール(熱溶着)する。
上記底部ピースも同様の積層構造を有しており、この底部ピースの周縁部と上記胴部ピースの下端開口縁部をヒートシールすることにより、紙製容器が得られる。
上記胴部ピースの上端周縁部は、外側に巻き込むように成形されたカール部を有している。上記蓋材の周縁部が上記カール部にヒートシールされる。
【0004】
近年、胴部ピースの外周面にエンボス模様を形成することにより、加飾性を高めた紙製容器が種々提案されている。
特許文献1の
図4は、エンボス加工された胴部ピース用積層シートを開示している。この積層シートは、一方の面に多数の凹部を有するエンボス模様が形成され、他方の面が平滑になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−254811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、エンボス模様の凹部を50μm以上、より好ましくは100〜500μmと深くしている。そのため、紙層を大きく圧縮する必要があり、熱間(70〜160℃)でエンボス加工を行なっている。この熱間エンボス加工を良好に行うために、積層シートにおいてエンボス加工される側の層には、耐熱フィルムを用いている。しかし、このような耐熱フィルムを用いると、上述したヒートシールを良好に行えない。
特許文献1において、エンボス加工される側にPE等の樹脂層を配した積層シートを用いると、上記エンボス模様の凹部に対応する箇所で樹脂層が熱により薄くなってしまい、エンボス加工を良好に行えない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、筒形状をなす紙製の胴部ピースと、この胴部ピースの下端開口を塞ぐ紙製の底部ピースとを備え、上記胴部ピースが丸められた胴部ブランクからなり、この胴部ブランクの両端部が重ねられた状態でヒートシールされている紙製容器において、上記胴部ブランクは、紙層と、この紙層の外側に配された第1樹脂層とを含む積層構造を有し、上記第1樹脂層が上記胴部ブランクの最外層として提供され、上記胴部ブランクの内周面が平滑であり、上記胴部ブランクの外周面には、多数の凹部が分散配置されたエンボス模様が形成されており、上記凹部の深さが上記胴部ブランクの厚さの1〜10%であり、上記紙層が上記凹部に対応した箇所で上記凹部の深さに相当する分だけ圧縮されていることを特徴とする。
上記構成によれば、エンボス模様の凹部が胴部ブランクの厚さに比べて浅く、この凹部の深さを紙層の圧縮だけで得ることができるので、第1樹脂層を均一厚さにすることができ、良好なヒートシールを確保できる。その結果、紙製容器の漏洩リスクを高めることなく、エンボス模様による外観の差別化を図ることができる。
【0008】
好ましくは、上記胴部ブランクの積層構造がさらに、上記紙層の内側に配された第2樹脂層を有し、この第2樹脂層が、上記積層構造の最内層として提供されている。
この構成によれば、第2樹脂層により提供される胴部ブランクの内周面が均一厚さを有するとともに平滑であるため、より良好なヒートシールを得ることができる。
【0009】
好ましくは、上記胴部ブランクの積層構造がさらに、上記紙層と上記第1樹脂層との間に配された印刷層を含む。この構成によれば、印刷とエンボス模様により、加飾性を高めることができる。
さらに好ましくは、上記胴部ブランクの積層構造がさらに、上記紙層と上記第1樹脂層との間に透明樹脂層を有し、この透明樹脂層の内側に金属蒸着層が配され、この透明樹脂層の外側に上記印刷層が配されている。この構成によれば、紙製容器が照明を受けた時に、エンボス模様の凹部が陰影を与え、エンボス模様の凹部と凸部との間で大きな輝度差を生むので、凹部が浅くても人目を引くエンボス模様とすることができる。
【0010】
好ましくは、上記エンボス模様における上記凹部の形成領域が20〜60%を占め、上記凹部の1cm
2当たりの数が、1〜400個である。この構成によれば、より一層加飾性を高めることができる。
【0011】
本発明の他の態様は、紙製容器の胴部ピースの製造方法において、
a.紙層の一方側に第1樹脂層が配され、上記第1樹脂層の表面が第1面として提供される長尺の積層シートを得る積層シート製造工程と、
b.周面に多数の凸部が形成されたエンボスロールと、周面が平滑な円筒面をなす平滑ロールとを用意し、上記積層シートの第1面を上記エンボスロールに向け、上記積層シートにおける上記第1面とは反対側の第2面を上記平滑ロールに向けた状態で、上記積層シートを上記エンボスロールと上記平滑ロールの間に通して冷間でエンボス加工することにより、上記第2面を平滑に維持したまま、上記エンボスロールの上記凸部により上記紙層を圧縮して、上記第1面に、多数の凹部が分散配置されたエンボス模様を形成し、上記凹部の深さを上記積層シートの厚さの1〜10%とするエンボス加工工程と、
c.上記積層シートから扇形の胴部ブランクを打ち抜く打抜工程と、
d.上記胴部ブランクを、上記第1面を外側にし上記第2面を内側にして丸め、その両端部を重ねてヒートシールすることにより、胴部ピースを得る胴部ピース製造工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
上記方法によれば、積層シートを冷間でエンボス加工することにより、浅い凹部を有するエンボス模様を形成したので、このエンボス模様の凹部を実質的に紙層の圧縮だけで得ることができ、第1樹脂層を均一厚さに維持することができる。その結果、胴部ブランクの両端部を良好にヒートシールすることができ、紙製容器の漏洩リスクを高めることなく、エンボス模様による外観の差別化を図ることができる。
【0013】
好ましくは、上記積層シートはさらに、上記紙層の他方側に第2樹脂層を有し、上記第2樹脂層の表面が上記第2面として提供される。
この構成によれば、第2樹脂層の第2面が平滑に維持されるため、ヒートシールをより一層良好に行うことができる。
【0014】
好ましくは、上記積層シートはさらに、上記紙層と上記第1樹脂層との間に配された印刷層を有する。この構成によれば、エンボス模様の凹部が浅いので印刷がエンボス加工によって途切れず、良好な印刷状態を維持できる。
より好ましくは、上記積層シートは、上記紙層と上記第1樹脂層との間に配された透明樹脂層と、この透明樹脂層の上記紙層側の面に形成された金属蒸着層とをさらに備え、上記透明樹脂層の上記紙層とは反対側に上記印刷層が配されている。この構成によれば、エンボス模様の凹部が浅くても、輝度差によってエンボス模様を際立たせることができる。
【0015】
好ましくは、上記エンボス加工工程において、上記凹部の形成領域が上記エンボス模様の20〜60%を占め、上記凹部の1cm
2当たりの数が、1〜400個である。
これによれば、加飾性を高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、紙製容器の漏洩リスクを高めることなく、エンボス模様による外観の差別化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明が適用されるカップ形状の紙製容器と蓋材の縦断面図である。
【
図2】(A)は、本発明の第1実施形態に係る積層シートの拡大断面図であり、(B)は同積層シートのエンボス加工後の拡大断面図である。
【
図3】上記積層シートの構成要素の1つである透明樹脂層をさらに拡大して示す断面図である。
【
図4】上記積層シートのエンボス加工工程を概略的に示す図である。
【
図5】上記積層シートを打ち抜いて得られた胴部ブランクの平面図である。
【
図6A】パターン1のエンボス模様を示す拡大写真である。
【
図6B】パターン2のエンボス模様を示す拡大写真である。
【
図6C】パターン3のエンボス模様を示す拡大写真である。
【
図6D】パターン4のエンボス模様を示す拡大写真である。
【
図6E】パターン5のエンボス模様を示す拡大写真である。
【
図6F】パターン6のエンボス模様を示す拡大写真である。
【
図7】上記エンボス加工された積層シートの表面輝度差を測定する装置の概略断面図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る積層シートの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の第1実施形態を、
図1〜
図7を参照しながら説明する。
まず、最終形状の紙製容器1について
図1を参照しながら簡単に説明する。紙製容器1は、紙製の胴部ピース2と紙製の底部ピース3を有している。
上記胴部ピース2は下端から上端に向かって径が漸増する形状をなしている。上記底部ピース3は円形をなし、胴部ピース2の下端開口を塞いでいる。紙製容器1に内容物を充填した後、胴部ピース2の上端開口が蓋材5で密封される。
【0019】
以下、上記紙製容器1の製造方法について詳述する。
図2(A)の積層構造を有する長尺な積層シート10を用意する。この積層シート10は、紙層11と、この紙層11の一方側(
図2において上側)に順に積層された接着層12、透明樹脂層13および第1樹脂層14と、この紙層11の他方側(
図2において下側)に積層された第2樹脂層15とを有している。これら層11〜15は均一な厚さを有している。上記樹脂層14,15は透明である。
上記第1樹脂層14の表側の面は、積層シート10の第1面10aとして提供される。上記第2樹脂層15の表側の面は、積層シート10の第2面10bとして提供される。
【0020】
図3にさらに拡大して示すように、上記透明樹脂層13の紙層11側の面にはアルミ等の金属蒸着層16が形成され、反対側の面には印刷層17が形成されている。
【0021】
本実施形態では、上記紙層11は、好ましくは坪量150g/m
2〜350g/m
2(より好ましくは、200g/m
2〜300g/m
2)、密度0.8g/cm
3〜1.0g/cm
3、厚さ150μm〜438μmである。接着層12は10〜20μm、透明樹脂層13は12〜16μm、第1樹脂層14は15〜20μm、第2樹脂層15は20〜40μmの厚さをそれぞれ有している。なお、上記金属蒸着層16、印刷層17は1μmに満たない。
【0022】
上記積層シート10は次のようにして製造される。
第1の工程: 一方の面にアルミ(金属)を蒸着したPET(ポリエチレンテレフタレート)からなる長尺なフィルムと長尺な紙シートとの間に溶融した接着樹脂(PE)を押し出しながら、これらフィルムと紙シートを貼り合わせることにより中間シートを得る。この説明から明らかなように、中間シートは、上記紙シートに由来する紙層11と、上記金属蒸着したPETフィルムに由来する透明樹脂層13および金属蒸着層16と、上記接着樹脂に由来する接着層12とを有している。
【0023】
第2の工程: 上記中間シートの透明樹脂層13の表側の面にグラビア印刷を施し、印刷層17を形成する。
第3の工程: 上記グラビア印刷された中間シートの両面にPEを押し出してラミネートすることにより、第1、第2の樹脂層14,15を得る。
【0024】
上記のようにして得られた長尺の積層シート10は、ロール状に巻かれて保管される。積層シート10は冷間(例えば室温)でエンボス加工される。このエンボス加工には、
図4に示すように、加熱しないエンボスロール21と平滑ロール22が用いられる。本出願において「冷間」とは、エンボス加工負荷の範囲において、樹脂が弾性変形領域である温度範囲を指す。
エンボスロール21は、周面全域にわたって多数の凸部を含むエンボス模様が刻まれている。このエンボス模様については、その転写により形成される積層シート10のエンボス模様(後述する)と重複するので、その詳細な説明を省略する。平滑ロール22の周面は平滑な円筒面からなる。平滑ロールの表面はゴムなどの弾性部材からなる。
【0025】
上記積層シート10の第1面10aがエンボスローラ21の周面を向き、第2面10bが平滑ローラ22の周面を向くようにして、積層シート10を上記巻きロールからエンボスロール21、平滑ロール22間に送り込むことによりエンボス加工がなされる。
【0026】
上記エンボス加工により、
図2(B)に拡大して示すように、積層シート10の第1面10aの全域に、上記エンボスローラ21の凸部に対応する凹部10xが形成される。上記エンボス加工は冷間で行われるので、第1樹脂層14の厚さは変わらず、上記凹部10xは、実質的に紙層11の圧縮により得られる。
【0027】
上記凹部10xは後述するように浅く、上記紙層11の圧縮率が小さいため、上記冷間でのエンボス加工が可能であり、この冷間エンボス加工の利点を享受できるのである。
【0028】
上記凹部10xの深さは、凹部10xが形成されていない箇所(すなわち凸部)での積層シート10の厚さに比べて、1〜10%である。凹部10xの深さが1%未満であると、加飾性を十分に発揮できず、すなわちエンボス形状をはっきりと認識することができず、10%を超えると、積層シート10の第2面10b(裏面)が平滑とならず凹凸が生じてしまうからである。
【0029】
下記の表1は、凹部10xの深さと積層シート10の第2面10b(裏面)の平滑性との関係についての実験結果を示す。表1において、「凹部紙厚」とは、凹部10xでの積層シート10の厚さを意味する。「凹部原紙圧縮率」とは、凹部10xでの原紙(積層シート10)の圧縮率を意味する。より具体的には、原紙(積層シート10)の厚さ(凹部10xが形成されていない部位での厚さ)に対する、凹部10xの深さを意味する。また、「裏面凹凸有無」とは、積層シート10の第2面10b(裏面)に凹凸が現れるか否かを意味し、凹凸が現れない場合には○(合格)を、現れる場合には×(不合格)を付けている。
【表1】
【0030】
エンボス加工をしない積層シート10の厚さ(エンボス加工後の凹部10xが形成されていない部位での厚さ)は0.345mmであり、7つのサンプルについて検査したところ、サンプル1〜4では第2面10bに凹凸が現れなかったが、サンプル5〜7で凹凸が現れた。この実験結果から、凹部原紙圧縮率を10%以下にすべきとの結論に至ったのである。
【0031】
上記凹部10xが浅いので、エンボス加工の際に印刷層17に無理な力が作用せず、印刷層17の表示や模様が途切れることがない。バーコード等の表示もそのまま維持することができる。
また、上記エンボス加工による多数の凹部10xからなるエンボス模様は、全域にわたって均一であり、印刷層17によって表示される模様とは全く無関係である。したがって、印刷模様が変更されても、エンボスローラ21を交換せずに済み、製造コストを低減できる。
【0032】
上記エンボス加工された積層シート10を上記印刷層17の表示、模様に合わせて打ち抜くことにより、
図5の胴部ブランク4が得られる。この胴部ブランク4は、同心円をなす内周縁と外周縁を有して扇形をなし、その左右端部に接合代4aを有している。
上記胴部ブランク4を、エンボス模様を有する第1面10aを外側にし、平滑な第2面10bを内側にして丸め、上記第1樹脂層14と第2樹脂層15を左右端部の接着代4aにおいて重ねた状態でヒートシール(熱溶着)することにより、筒形状の胴部ピース2が得られる。
【0033】
第1樹脂層14がエンボス加工による凹部10x形成にも拘わらず、第2樹脂層15と同様に、ほぼ均一な厚さを有していること、凹部10xが浅いこと、上記第2樹脂層14の面(積層シート10の第2面10b)が平滑であることにより、上記ヒートシールは良好に行われる。
【0034】
次に、上記胴部ピース2に底部ピース3(
図1参照)が取り付けられる。底部ピース3は、紙層とその両側の樹脂層を含む積層構造をなしている。この底部ピース3の周縁部3aが折り曲げられた状態で、胴部ピース2の下端開口縁部2aを内側に巻き込み、これら底部ピース3の周縁部3aと胴部ピース2の下端縁部2aとをヒートシールすることにより、上記紙製容器1が得られる。この際、底部ピース3の周縁部の内周及び外周に面する胴部ピース2の下端開口縁部2aの第2樹脂層15は、エンボス加工の影響を受けずに均一厚さで平滑であるので、底部ピース3の周縁部の内周及び外周の樹脂層と協働して良好なヒートシールを行うことができる。
【0035】
次に、上記胴部ピース2の上端開口縁部が外側に巻き込まれて、カール部2b(
図1参照)が成形される。このカール部2bの上面は、平滑で均一厚さの第2樹脂層15により構成されているので、紙製容器1に内容物を充填した後、このカール部2bに蓋材5をヒートシールする際、カール部2bの第2樹脂層15と蓋材5の下面側の樹脂層が協働して良好なヒートシールを行うことができる。
【0036】
次に、エンボス模様について詳述する。エンボス模様における凹部10xの面積比は、20〜60%とする。20%未満でも60%超でも加飾効果が減じられるからである。また、単位面積(1cm
2)当たりの凹部10xの数は、1〜400個(好ましくは3〜340個)とする。1個未満でも400個超でも加飾効果が減じられるからである。
【0037】
図6A〜
図6Fは、本実施形態で採用されるエンボス模様の例として、パターン1〜6をそれぞれ示す。これらパターン1〜6の凹部面積比(%)、単位面積当たりの凹部数(個/cm
2),単位長さ当たりの凹部数(個/10mm)を下記の表2に示す。
【表2】
【0038】
本実施形態では、胴部ピース2の積層構造が金属蒸着膜16を含むため、上記のようにエンボス模様の凹部10xが浅くても、エンボス模様を際立たせることができる。凹部10xで陰影が生じ、凸部(凹部10xが形成されていない部位)で光を反射するため、大きな輝度差が生じるからである。
【0039】
図7に示す輝度差測定装置を用いて上記パターン1〜6の輝度差を測定した。
この装置は、黒色の台101と、この台101を覆うとともに内面が反射面となっている半球殻形状のドーム102と、このドーム102の周縁に配置された環状のLED103と、ドーム102の中央の穴102aに配置されたCCDカメラ104とを備えている。
上記台101の中央に測定対象100(積層シート10の試料片)を固定し、ドーム102内の照度を1100LUXにし、CCDカメラ104により測定対象100の真上から760mm離して撮影した。
測定対象100の輝度差は下記の通りであった。
エンボス無し・・・ 0.1cd/m
2
パターン1 ・・・19.73cd/m
2
パターン2 ・・・14.03cd/m
2
パターン3 ・・・31.45cd/m
2
パターン4 ・・・11.23cd/m
2
パターン5 ・・・12.71cd/m
2
パターン6 ・・・ 4.56cd/m
2
【0040】
本実施形態では、エンボスロール21の凸部表面を粗くしているため、積層シート10、胴部ピース2のエンボス模様の凹部10xの面が凸部の面より粗くなっている。このことも、上記大きな輝度差が生じる要因となっている。
なお、上記輝度差は、印刷層17が黒色等の濃色をなす部位より、印刷層17が薄黄色等の薄色をなすか印刷層が形成されていない部位の方が大きい。
【0041】
本実施形態のエンボス模様では、微細な擦過傷(他の紙製容器との接触等によって生じた微細な傷)は目立たない。上述したように凹部10xが浅く、凹部10xの面が粗くなっているため、凸部の面に傷が付いても凹部10xと識別しづらいためである。
【0042】
上記構成の紙製容器1では、胴部ピース2の外周に形成されたエンボス模様の多数の凹部10xにより、胴部ピース2の外周に付着した結露水が落下し難くなる。また、手に持った時に紙製容器1が滑り難くなる。
【0043】
図8には本発明の第2実施形態に係る積層シート10’が示されている。この積層シート10’は、第1実施形態の積層シート10と同様の紙層11と、第1ヒートシート層14と、第2ヒートシート層15とを有しているが、接着層12と金属蒸着層16が形成された透明樹脂層13が省かれている。印刷層17は紙層11の第1ヒートシート層14側の面にグラビア印刷等により形成されている。
【0044】
上記積層シート10’でも、上記第1実施形態と同様にして、第2面10bの平滑を維持したまま、第1面10aにエンボス模様が形成される。他の工程も第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0045】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において各種の変形例を採用することができる。例えば、エンボス模様は胴部ブランク全域に形成されなくてもよい。第2樹脂層、印刷層は省いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、高いシール性を要求される紙製容器に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 紙製容器
2 胴部ピース
3 底部ピース
4 胴部ブランク
10,10’ 積層シート
10a 第1面
10b 第2面
10x 凹部
11 紙層
12 接着層
13 透明樹脂層
14 第1樹脂層
15 第2樹脂層
16 金属蒸着層
17 印刷層
21 エンボスロール
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