【実施例】
【0031】
以下、実施例等に基づき本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例の内容に制限されるものではない。
【0032】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例に係るSiC単結晶インゴットの結晶成長に用いた種結晶の準備を行なうための装置であって、溶液成長法による単結晶成長装置の一例が示されている。この単結晶成長装置は、Si−C溶液1が収容される黒鉛坩堝2を備え、この黒鉛坩堝2は水冷ステンレスチャンバー3内に配置されている。また、黒鉛坩堝2は、シード軸10が貫通する坩堝蓋4により実質的に閉鎖され、坩堝2の外周は断熱材5により保温されており、さらにその外周に誘導加熱用の高周波コイル6が設けられている。単結晶成長装置内の雰囲気は、ガス導入口7とガス排気口8を利用して調整される。
【0033】
黒鉛坩堝2に、SiとTiとを融液原料として仕込み、高周波コイル6に通電して誘導加熱により坩堝内の原料を融解し、Si−Ti合金の融液を形成した。加熱中に容器である黒鉛坩堝2の溶解によって炭素が高温溶液に融解し、SiCの高温溶液(Si-C溶液)が形成された。そして、昇華再結晶法により得られたバルクのSiC単結晶から口径51mmの基板を切り出し、鏡面研磨して、(000−1)面に4度のオフ角を有した種結晶基板9を準備した。
【0034】
この種結晶基板9を成長温度よりも50℃低いSi−C溶液1に着液後、さらに成長温度1940℃に昇温して、約1時間加熱した。成長温度に達してから炭素が坩堝溶解によって十分に融液に供給されるまでは、溶液は炭素が未飽和の状態である。このため種結晶基板9の表層は、溶液に溶解する。本実施例1では、種結晶基板9の表層が溶解した分(溶解厚み)は約30μmであった。溶液の炭素が飽和に達した後は、種結晶基板9上にSiC結晶が溶液成長した。結晶成長時間は種結晶基板9の着液から15時間とした。この間、黒鉛坩堝2とシード軸10とは、互いに逆方向に10rpmで回転させた。成長終了後、シード軸10を上昇させて、種結晶基板9を溶液1から切り離して、種結晶を回収した。
【0035】
得られた種結晶は、種結晶基板9の上に溶液成長法によってSiC結晶が新たに約500〜600μmの厚みで成長していた。この種結晶の成長表面をレーザー顕微鏡により観察した結果、ステップ高さ約30μm、テラス幅約300μmのステップバンチングの形成が見られた。
【0036】
また、
図2は、本発明の実施例に係るSiC単結晶インゴットを製造するための装置であって、改良レーリー法による単結晶成長装置の一例を示す。結晶成長は、SiCの昇華原料11を誘導加熱により昇華させ、SiC種結晶12上に再結晶させることにより行われる。上記の溶液成長法によって成長面にステップバンチングが形成された種結晶12を単結晶成長装置の黒鉛蓋13の内面に取り付け、昇華原料11を充填した黒鉛坩堝14にセットした。黒鉛坩堝14を熱シールドのために黒鉛製フェルト15で被覆した後、黒鉛支持棒17の上に載せて二重石英管16の内部に設置した。
【0037】
そして、二重石英管16の内部を真空排気装置18によって真空排気した後、雰囲気ガスとして高純度Arガス及び窒素ガスを、配管19を介してマスフローコントローラ20で制御しながら流入させ、石英管内圧力(成長雰囲気圧力)を真空排気装置18で80kPaにした。この圧力下において、ワークコイル21に電流を流して温度を上げ、種結晶12の温度が2200℃になるまで上昇させた。その後、30分かけて成長雰囲気圧力を1.3kPaに減圧して、ステップバンチングが形成された種結晶12の(000−1)面を結晶成長面とする30時間の結晶成長を行った。
【0038】
上記のプロセスにより、高さ9mm、口径51mmのSiC単結晶インゴットが得られた。先ず、該インゴットから、種結晶12からの高さで表される成長高さ3mmの位置において、種結晶表面に平行に(すなわち4°のオフ角を有するように)評価用基板Aを切り出した。
【0039】
得られた評価用基板Aについて、520℃の溶融KOHに基板の全面が浸るように5分間浸して溶融KOHエッチングを行い、エッチングされた評価用基板Aの表面を、光学顕微鏡(倍率:80倍)で観察して転位密度を計測した。ここでは、J. Takahashi et al., Journal of Crystal Growth, 135, (1994), 61-70に記載されている方法に従い、貝殻型ピットを基底面転位、小型の6角形ピットを貫通刃状転位、中型・大型の6角形ピットを貫通らせん転位として、エッチピット形状による転位欠陥を分類し、各転位密度を求めた。その結果、評価用基板Aの外周から直径比で内側に5%のリング状領域(外周から幅2.55mmの領域)を除いた残りの領域でほぼ一様に転位密度が分散していることを確認した。なお、同様にして種結晶についても確認したところ、面内に転位密度は一様に分布していた。
【0040】
次に、
図3(a)に示したように、得られたインゴットを、種結晶12のc軸のオフ方向と反対方向へ4°傾いた方向が結晶のc軸となるように切り出し、(0001)面に種結晶と反対方向にオフ角を持つ評価用基板Bを得た。その際、評価用基板Bが種結晶の成長面中心を通るようにして切り出し、評価用基板Bの表面には、種結晶領域と成長SiC単結晶領域とが含まれるようにして、
図3(b)に示したように、評価用基板Bの表面上のa辺と種結晶の直径方向上のb辺とのなす角が8°であり、高さhの直角三角形が形成されるようにした。本切り出し方法を用いることにより、成長に従う転位密度の変化を連続的に観察することが可能となる。また、成長方向の変化が実質的に1/sin8°(約7倍)に拡大されるため、より詳細な高精度の転位密度計測を行なうことができる。
【0041】
得られた評価用基板Bについて、先の評価用基板Aと同様に、520℃の溶融KOHに基板の全面が浸るように5分間浸して溶融KOHエッチングを行い、エッチングされた基板の表面を、成長SiC単結晶の高さ(h)の変化に沿うようにしながら、
図3(b)に示したa辺(=h/sin8°)上の測定点を光学顕微鏡(倍率:80倍)で観察して貫通転位密度を計測した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
(比較例1)
比較例1では、種結晶の結晶成長面のSi−C溶液による溶液成長を行なわずに、昇華再結晶法で得られたバルクのSiC単結晶から口径51mmの基板を切り出し、鏡面研磨して、(0001)面に4度のオフ角を有した種結晶基板をそのまま用いて、昇華再結晶法によりSiC単結晶の結晶成長を行なった。すなわち、種結晶の溶液成長工程を行わなかった以外は実施例1と同様にして、比較例1に係るSiC単結晶インゴットを製造した。
【0044】
このとき、種結晶基板の結晶成長面上にはステップ高さ10μm以上又はテラス幅200μm以上のステップバンチングは見られなかった。得られたSiC単結晶インゴットは実施例1と同様に(0001)面に種結晶と反対方向にオフ角を持つように切り出して、評価用基板Bを得て、実施例1と同様にKOHエッチングを行ない、光学顕微鏡で転位密度を計測した。結果を表1に示す。
【0045】
ここで、実施例1及び比較例1における種結晶基板の結晶成長面上の各測定点でのSiC単結晶の成長高さ(h(mm))と貫通らせん転位密度(個/cm
2)の値との関係を
図4に示す。
図5は、実施例1及び比較例1に関して、SiC単結晶の前記成長高さ(h(mm))と貫通刃状転位密度(個/cm
2)の値との関係を示す。尚、
図4及び
図5の縦軸は、対数表示である。
【0046】
図4中に描かれた実線及び点線はそれぞれ、実施例1のデータ及び比較例1のデータを近似する1次関数のグラフである。これらのグラフから分かるように、
図4中に描かれた実線の傾きは、点線の傾きよりも急峻である。すなわち、実施例1における転位密度の減少率は、比較例1における転位密度の減少率よりも大きい。また、従来法によって製造された比較例1のSiC単結晶インゴットは、成長高さ1.9mmで貫通らせん転位密度が約1000個/cm
2であるのに対し、本発明の製造方法を用いて製造された実施例1のSiC単結晶インゴットでは、約100個/cm
2まで減少している。
【0047】
また、
図5の実線のグラフ(実施例1のデータに対応)と点線のグラフ(比較例1のデータに対応)との比較から分かるように、本発明の製造方法は貫通刃状転位の転位密度変化に何ら悪影響を及ぼすものでなく、貫通刃状転位の転位密度の減少率を増加している。種結晶との界面近傍の成長初期は、従来では貫通転位密度が高く、SiC単結晶基板の切り出しには不向きとされていたのに対して、本発明によれば、成長高さ約2mmから種結晶以上の品質のSiC単結晶基板を切り出すことも可能となる。
【0048】
また、
図4のグラフの傾向からして、成長高さ1.5mm以降では貫通らせん転位密度が500個/cm
2以下を達成できていると考えられ、実施例1に係るインゴットの成長高さが9mmであることからして、高さ方向における結晶領域の約80%以上が貫通らせん転位密度500個/cm
2以下を満たすSiC単結晶インゴットが得られたと言える。