特許第6537611号(P6537611)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6537611
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】殺芽方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/18 20060101AFI20190625BHJP
   A61L 2/04 20060101ALI20190625BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20190625BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20190625BHJP
   A01N 43/40 20060101ALI20190625BHJP
   A61L 101/32 20060101ALN20190625BHJP
   A61L 101/36 20060101ALN20190625BHJP
【FI】
   A61L2/18
   A61L2/04
   A01P3/00
   A01N25/00 102
   A01N43/40 101D
   A61L101:32
   A61L101:36
【請求項の数】10
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2017-530540(P2017-530540)
(86)(22)【出願日】2015年7月29日
(86)【国際出願番号】JP2015071499
(87)【国際公開番号】WO2017017810
(87)【国際公開日】20170202
【審査請求日】2018年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪井 知美
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06656919(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0715318(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0148751(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0058878(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/18
A01N 25/00
A01N 43/40
A01P 3/00
A61L 2/04
A61L 101/32
A61L 101/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程1、工程2、および工程3を含む殺芽方法:
工程1:芽胞形成菌とジピコリン酸又はその塩とを接触させておく工程;
工程2:芽胞形成菌とカチオン界面活性剤とを接触させておく工程であって、該カチオン界面活性剤が、一般式(1)で表されるアルキルトリメチルアンモニウム塩である、工程
【化1】
〔式中、R11〜R14のいずれか1つが、水酸基、エステル基、アミド基を有していても良い炭素数3以上の炭化水素基であり、R11〜R14の残りの3つはメチル基を示し、Xは無機または有機のアニオン性化合物を示す。〕;および
工程3:芽胞形成菌を50℃以上にて、3分以上90分以下加温する工程
(但し、工程1及び工程2を開始後に工程3を終了するものとする)。
【請求項2】
前記工程1、工程2、および工程3を同時に行う期間を有する、請求項1記載の殺芽方法。
【請求項3】
前記ジピコリン酸の前記カチオン界面活性剤に対するモル比が、[ジピコリン酸のモル濃度]/[カチオン界面活性剤のモル濃度]で、1/20以上1000以下である、請求項1又は2に記載の殺芽方法。
【請求項4】
前記工程1および工程2において、芽胞形成菌、ジピコリン酸又はその塩、およびカチオン界面活性剤を液中で接触させておく、請求項1〜のいずれか1項記載の殺芽方法。
【請求項5】
液中のジピコリン酸又はその塩の含有量が0.05mM以上200mM以下である、請求項記載の殺芽方法。
【請求項6】
液中のカチオン界面活性剤の含有量が0.1mM以上1000mM以下である、請求項4又は5記載の殺芽方法。
【請求項7】
ジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤を含有する、殺芽助剤組成物であって、該カチオン界面活性剤が、一般式(1)で表されるアルキルトリメチルアンモニウム塩である、殺芽助剤組成物:
【化2】
〔式中、R11〜R14のいずれか1つが、水酸基、エステル基、アミド基を有していても良い炭素数3以上の炭化水素基であり、R11〜R14の残りの3つはメチル基を示し、Xは無機または有機のアニオン性化合物を示す。〕
【請求項8】
ジピコリン酸又はその塩を0.05mM以上200mM以下含有する液体組成物である、請求項記載の殺芽助剤組成物。
【請求項9】
前記カチオン界面活性剤を0.1mM以上1000mM以下含有する液体組成物である、請求項7又は8記載の殺芽助剤組成物。
【請求項10】
前記ジピコリン酸の前記カチオン界面活性剤に対するモル比が、[ジピコリン酸のモル濃度]/[カチオン界面活性剤のモル濃度]で、1/20以上1000以下である、請求項7〜9のいずれか1項記載の殺芽助剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芽胞形成菌の殺芽方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バチルス属やクロストリジウム属などの芽胞形成菌は、強固な殻構造を作り、熱や薬剤などに極めて高い抵抗力を有する芽胞を形成する。ある種の芽胞形成菌は人体に侵入すると毒素を産生することが知られている。例えば、医療現場では、シーツや枕カバーなどのリネン製品は主に加熱消毒されるが、加熱消毒では耐熱性である芽胞形成菌を殺菌できない。そのため、リネン製品を介した芽胞形成菌の院内感染で死者まで出る被害も発生している。
【0003】
芽胞形成菌を殺菌するためには、多くの場合、高圧蒸気で滅菌したり、次亜塩素酸Naなどの強力な化学的殺菌剤が高濃度で用いられたりする。また、食品加工においては、芽胞対策として過酷な熱処理、もしくは低温流通方法がとられている。
【0004】
US2014/0308162号公報には、衣料用洗剤に用いられる消毒およびリンス組成物が開示されている。また、US2014/0238445号公報には、ホスフィノこはく酸を含む組成物を用いた洗浄工程と過カルボン酸を含む組成物を用いた消毒およびリンス工程を含む、洗浄、消毒およびリンスの方法が開示されている。さらにWO2013/079308号公報には、芽胞を含む菌を殺菌することについて開示されている。US2004/0058878号公報は発芽剤と4級アンモニウム塩を組み合わせることによって殺芽効果を向上することについて開示されている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、下記の工程1、工程2、および工程3を行う殺芽方法に関する。
工程1:芽胞形成菌とジピコリン酸又はその塩とを接触させておく工程;
工程2:芽胞形成菌とカチオン界面活性剤とを接触させておく工程;および
工程3:芽胞形成菌を50℃以上に加温する工程。
(但し、工程1及び工程2を開始後に工程3を終了するものとする)。
【0006】
本発明は、ジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤を含有する、殺芽助剤組成物に関する。
【発明の詳細な説明】
【0007】
これまでに開示された技術では、芽胞、つまり休眠状態の芽胞形成菌に対する殺菌効果が十分ではなく、芽胞菌数の低減効果が不十分であった。
【0008】
高濃度の殺菌剤や高圧蒸気滅菌による殺芽方法は、病院など広範囲の環境を消毒するには適しておらず、器材損傷性や人体への毒性がある可能性もあることから、使用用途や使用環境に制約がある。
【0009】
食品加工においては、芽胞対策として過酷な熱処理、もしくは低温流通方法がとられているが、風味や品質の劣化、電力コストなどの課題も生じる。
【0010】
本発明は、医療や食品分野で危害となる芽胞形成菌を、効率的かつ効果的に殺菌することができる殺芽方法に関する。さらに、本発明は、芽胞形成菌を殺菌する為に用いる殺芽助剤組成物に関する。本発明において「殺芽」とは芽胞を有する状態の菌を発芽させて殺すことを主に意図する。
【0011】
本発明者は前記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、ジピコリン酸(2,6−ピリジンジカルボン酸)又はその塩とカチオン界面活性剤とを芽胞形成菌に接触させておくことで、穏やかな加温で効果的に殺芽できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
本発明によれば、芽胞形成菌を、殺菌することができる殺芽方法が提供される。さらに、本発明では、芽胞形成菌を殺菌する為に用いる殺芽助剤組成物が提供される。
【0013】
芽胞形成菌とは、栄養不存在下で芽胞を形成することによって、一定の熱処理や乾燥に対して抵抗性を有する細菌のことをいう。芽胞とは、細菌が形づくる、菌が形成する強固な殻構造を示し、菌自体とは区別する。本発明の殺芽対象となる「芽胞形成菌」は、医療現場や食品、飲料製品に存在する一般的な芽胞形成菌である。例えば、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)やバチルス・サチルス(Bacillus subtilis)といったバチルス(Bacillus)属の細菌、クロストリジウム・デフィシル(Clostridium difficile)といったクロストリジウム(Clostridium)属の細菌、アンフィバチルス(Amphibacillus)属の細菌、スポロサルシナ(Sporosarcina)属の細菌、ジオバチルス(Geobacillus)属の細菌、エアリバチルス(Aeribacillus)属の細菌、アリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属の細菌などが挙げられる。これらの芽胞形成菌が芽胞を形成すると、芽胞形成菌は耐熱性を有する。ここで耐熱性とは、本発明の実施例に供した芽胞形成菌で示されるように、初期菌数10〜10CFU/mLの芽胞を形成している状態で、80℃で30分以上加温した場合に、10CFU/mL以上の芽胞形成菌が生存できることをいう。
【0014】
本発明において「殺芽」とは芽胞を有する状態の菌を発芽させて殺すことを主に意図する。発芽とは、芽胞形成菌の芽胞が発芽することであり、これにより通常の増殖、代謝能を有する菌体になる現象を指す。殺芽には、集団で存在する芽胞を有する菌の全体の菌数を減少させることも含む。殺芽効果とは、特に限定はされないが、例えば、実施例で示すように、芽胞を有する菌の生菌数が、初期菌数が10CFU/mLであったものが10CFU/mL未満となる状態を示す。
【0015】
本発明は、下記の工程1、工程2、および工程3を行うことにより、優れた殺芽効果を有する。
工程1:芽胞形成菌とジピコリン酸又はその塩とを接触させておく工程;
工程2:芽胞形成菌とカチオン界面活性剤とを接触させておく工程;および
工程3:芽胞形成菌を50℃以上に加温する工程。
(但し、工程1及び工程2を開始後に工程3を終了するものとする)。
【0016】
本発明においては、工程1、2、および3の順番は特に限定はない。但し、工程1及び工程2を開始後に工程3を終了するものとする。すなわち、工程1、工程2、および工程3を含む一連の操作において、工程3終了後に工程1または工程2のいずれか、またはいずれもを開始することは含まれない。
【0017】
本発明の殺芽方法が優れた殺芽効果を有する理由は、定かではないが以下のように考えられる。工程1、工程2及び工程3を行うことにより、芽胞が発芽する。カチオン界面活性剤によって、ジピコリン酸又はその塩と芽胞形成菌の親和性が高まり、ジピコリン酸又はその塩が芽胞形成菌内に入り易く、加温時に効果的に発芽が促進されるものと推定される。発芽した芽胞形成菌は、工程2及び工程3で容易に殺菌可能となる。
【0018】
また、ジピコリン酸又はその塩の芽胞形成菌内における作用は、菌種によって特異的な特定のレセプターを介する作用ではないので、芽胞形成菌の種類によらず殺芽効果を有すると考えられる。
【0019】
なお、ここで、菌の耐熱性の低下を確認することにより、発芽したことを確認することができる。耐熱性の低下は、芽胞形成菌を、例えば、80℃の環境下で処理し、生存している菌数を調べることにより、確認することができる。
【0020】
本発明において、ジピコリン酸塩を用いる場合、ジピコリン酸の対イオンとしては、特に限定されないが、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のアルカリ金属イオン;カルシウムイオンやマグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオンが例示される。
【0021】
本発明において、「カチオン界面活性剤」とは、溶液に溶解した場合に親水性部分が陽イオンに帯電する界面活性剤を指し、限定はされないが、第1級アンモニウム塩、第2級アンモニウム塩、第3級アンモニウム塩、第4級アンモニウム塩等が例示される。本発明のカチオン界面活性剤は、より具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルトリエチルアンモニウム塩、アルキルジメチルエチルアンモニウム塩、アルキルメチルジエチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ジアルキルジエチルアンモニウム塩、ジアルキルエチルメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルベンゼトニウム塩等の第4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩などの第1級アンモニウム塩が挙げられる。
【0022】
ここで、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルトリエチルアンモニウム塩、アルキルジメチルエチルアンモニウム塩及びアルキルメチルジエチルアンモニウム塩は、下記一般式(1)で表される化合物を指す。
【0023】
【化1】
【0024】
〔式中、R11〜R14のいずれか1つが、水酸基、エステル基、アミド基を有していても良い炭素数3以上の炭化水素基であり、R11〜R14の残りの3つはメチル基又はエチル基を示し、Xは無機または有機のアニオン性化合物を示す。〕
【0025】
ここで、炭素数3以上の炭化水素基の炭素数は、殺芽効果をより向上させる観点から、好ましくは6以上、より好ましくは10以上であり、より好ましくは12以上であり、より好ましくは14以上であり、そして、好ましくは22以下、より好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。炭素数3以上の炭化水素基は、直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基であってよく、好ましくは直鎖のアルキル基である。Xは、塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲンイオン、硫酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、酢酸イオン等が挙げられる。好ましくは無機イオンであり、より好ましくはハロゲンイオンであり、より好ましくは塩化物イオンである。
【0026】
ここで、ジアルキルジメチルアンモニウム、ジアルキルジエチルアンモニウム塩及びジアルキルエチルメチルアンモニウム塩、は、下記一般式(2)で表される化合物をいう。
【0027】
【化2】
【0028】
〔式中、R21〜R24のいずれか2つが、水酸基、エステル基、アミド基を有していても良い炭素数3以上の炭化水素基であり、R21〜R24の残りの2つはメチル基又はエチル基を示し、Xは無機または有機のアニオン性化合物を示す。ここで、R21〜R24のいずれか2つの水酸基、エステル基、アミド基を有していても良い炭素数3以上の炭化水素基は同一でなくても良い。〕
【0029】
ここで、炭素数3以上の炭化水素基の炭素数は、殺芽効果をより向上させる観点から、好ましくは6以上、より好ましくは10以上であり、そして、好ましくは22以下、より好ましくは20以下、より好ましくは18以下、より好ましくは14以下である。炭素数3以上の炭化水素基は、直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基であってよく、好ましくは直鎖のアルキル基である。Xは、塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲンイオン、硫酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、酢酸イオン等が挙げられる。好ましくは無機イオンであり、より好ましくはハロゲンイオンであり、より好ましくは塩化物イオンである。
【0030】
ベンザルコニウム塩は、下記一般式(3)で表される化合物をいう。
【化3】
【0031】
〔式中、R31は炭化水素基であり、Xは無機または有機のアニオン性化合物を示す。〕
【0032】
31の炭素数は、好ましくは6以上、より好ましくは10以上であり、より好ましくは12以上であり、より好ましくは14以上であり、そして、好ましくは22以下、より好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。R31は、直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基であってよく、好ましくは直鎖のアルキル基である。Xは、好ましくは塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲンイオン、硫酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、酢酸イオン等が挙げられる。好ましくは無機イオンであり、より好ましくはハロゲンイオンであり、より好ましくは塩化物イオンである。
【0033】
ここで、アルキルピリジニウム塩、アルキルベンゼトニウム塩、またはアルキルアミン塩という場合の「アルキル」は、好ましくは、炭素数3以上の炭化水素基を指す。炭素数3以上の炭化水素基の炭素数は、好ましくは6以上、より好ましくは10以上であり、そして、好ましくは22以下、より好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。炭素数3以上の炭化水素基は、直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基であってよく、好ましくは直鎖のアルキル基である。
【0034】
カチオン界面活性剤としては、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩またはベンザルコニウム塩が好ましく、ジアルキルジメチルアンモニウム塩およびアルキルトリメチルアンモニウム塩がより好ましく、アルキルトリメチルアンモニウム塩がさらに好ましい。
【0035】
ここで、塩は、限定はされないが、塩化物、臭化物等のハロゲン化物、硫酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩等が挙げられる。好ましくは無機塩であり、より好ましくはハロゲン化物であり、より好ましくは塩化物である。
【0036】
カチオン界面活性剤としては、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウムまたは塩化ベンザルコニウムが好ましく、塩化ジアルキルジメチルアンモニウムおよび塩化アルキルトリメチルアンモニウムがより好ましく、塩化アルキルトリメチルアンモニウムがさらに好ましい。
【0037】
ジピコリン酸のカチオン界面活性剤に対するモル比(〔ジピコリン酸のモル濃度〕/〔カチオン界面活性剤のモル濃度〕)は、好ましくは1/1000以上であり、より好ましくは1/100以上であり、より好ましくは1/50以上であり、より好ましくは1/20以上であり、より好ましくは1/10以上であり、より好ましくは1/5以上であり、より好ましくは1/2以上であり、そして、好ましくは1000以下であり、より好ましくは100以下であり、より好ましくは50以下であり、より好ましくは20以下であり、より好ましくは10以下であり、より好ましくは5以下であり、より好ましくは2以下である。
【0038】
<工程1および工程2>
【0039】
本発明の工程1は、芽胞形成菌とジピコリン酸又はその塩とを接触させておく工程である。本発明の工程2は、芽胞形成菌とカチオン界面活性剤とを接触させておく工程である。ここで、工程1および工程2には、次のいずれの態様も含まれる。
(1)工程1と工程2を同時に行う態様、すなわち、芽胞形成菌とジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤とを同時に接触を開始し、同時に接触を終了する態様。
(2)先に工程1を行い、工程1終了後に工程2を行う態様。例えば、芽胞形成菌とジピコリン酸又はその塩とを接触させておく工程1を行った後に、ジピコリン酸又はその塩を除去し、その後カチオン界面活性剤を加えて、芽胞形成菌とカチオン界面活性剤とを接触させておくことができる。
(3)先に工程2を行い、工程2終了後に工程1を行う態様。例えば、芽胞形成菌とカチオン界面活性剤とを接触させておく工程2を行った後に、カチオン界面活性剤を除去し、その後、ジピコリン酸又はその塩を加えて、芽胞形成菌とジピコリン酸又はその塩とを接触させておくことができる。
(4)先に工程1を行い、工程1を終了することなく、工程2を開始する態様。ここでは、先に芽胞形成菌とジピコリン酸又はその塩とを接触させ、次にジピコリン酸又はその塩を除去することなく、カチオン界面活性剤とを接触させておくことができる。
(5)先に工程2を行い、工程2を終了することなく、工程1を開始する態様。ここでは、先に芽胞形成菌とカチオン界面活性剤とを接触させ、次にカチオン界面活性剤を除去することなく、ジピコリン酸とを接触させておくことができる。
【0040】
ジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤は、それぞれ液体または固体の状態で提供され得る。また、ジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤は、簡便性の観点から、好ましくは殺芽助剤組成物として提供される。
【0041】
ここで接触とは、溶液中で接触させておく方法、または、芽胞形成菌が固形物表面に存在する場合は、ジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤を含む溶液等、後述の液体の殺芽助剤組成物を固形物表面に塗布する方法が挙げられる。固形物表面に塗布する方法としては、噴霧する方法、刷毛やスポンジ等の道具を使用する方法が挙げられる。ここで、固形物表面とは特に限定されないが、硬質表面などを指す。
【0042】
芽胞形成菌とジピコリン酸又はその塩とを溶液中で接触させておく場合、その接触する際の溶液中のジピコリン酸又はその塩の含有量は、殺芽効果をより向上させる観点から、好ましくは0.05mM以上、より好ましくは0.5mM以上、より好ましくは3mM以上、より好ましくは4mM以上、より好ましくは6mM以上、より好ましくは8mM以上であり、そして、ジピコリン酸を含む溶液の安定性の観点から、好ましくは1M以下であり、より好ましくは200mM以下、より好ましくは100mM以下、より好ましくは50mM以下、より好ましくは20mM以下である。また、芽胞形成菌とジピコリン酸又はその塩を溶液中で接触させておく場合、その溶液中のジピコリン酸又はその塩の含有量は、上記の観点を総合すると、好ましくは、0.05mM〜1M、より好ましくは0.05〜200mM、より好ましくは3〜100mM、より好ましくは3〜25mMである。ここで、ジピコリン酸塩である場合、含有量は全て酸換算したものとする(以下、特に断りがない限り同じ意味とする)。
【0043】
接触にあたって、初期菌数とジピコリン酸又はその塩の濃度との関係は、特に限定はされない。例えば、殺芽効果をより向上させる観点から、初期菌数10CFU/mLに対するジピコリン酸又はその塩の濃度は、好ましくは0.05mM以上、より好ましくは0.5mM以上、より好ましくは3mM以上、より好ましくは4mM以上、より好ましくは6mM以上、より好ましくは8mM以上であり、そして、好ましくは1M以下であり、より好ましくは200mM以下、より好ましくは100mM以下、より好ましくは50mM以下、より好ましくは20mM以下である。
【0044】
芽胞形成菌とカチオン界面活性剤とを溶液中で接触させておく場合、その接触する際の溶液中のカチオン界面活性剤の含有量は、殺芽効果をより向上させる観点から、好ましくは0.01mM以上、より好ましくは0.05mM以上、より好ましくは0.1mM以上、より好ましくは0.5mM以上、より好ましくは3mM以上、より好ましくは4mM以上、より好ましくは6mM以上、より好ましくは8mM以上であり、そして、好ましくは1000mM以下、より好ましくは500mM以下、さらに好ましくは300mM以下、より好ましくは100mM以下である。また、芽胞形成菌とカチオン界面活性剤を溶液中で接触させておく場合、その溶液中のカチオン界面活性剤の含有量は、上記の観点を総合すると、好ましくは、0.01〜1000mM、より好ましくは0.05〜1000mM、より好ましくは0.1〜1000mM、より好ましくは0.5〜500mM、より好ましくは3〜300mM、より好ましくは4〜100mM、より好ましくは6〜100mM、より好ましくは8〜100mMである。
【0045】
芽胞形成菌とカチオン界面活性剤を溶液中で接触させておく場合、その接触する際の溶液中のカチオン界面活性剤の含有量は、殺芽効果をより向上させる観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。また、芽胞形成菌とジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤を溶液中で接触させておく場合、その溶液中のカチオン界面活性剤の含有量は、上記の観点を総合すると、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.05〜1質量%である。
【0046】
接触にあたって、初期菌数とカチオン界面活性剤の濃度との関係は、特に限定はされない。例えば、殺芽効果をより向上させる観点から、初期菌数10CFU/mLに対するカチオン界面活性剤の濃度は、好ましくは0.01mM以上、より好ましくは0.05mM以上、より好ましくは0.1mM以上、より好ましくは0.5mM以上、より好ましくは1mM以上、より好ましくは10mM以上、より好ましくは100mM以上であり、そして、好ましくは1000mM以下、より好ましくは500mM以下、より好ましくは300mM以下、より好ましくは250mM以下である。
【0047】
これらの好ましい濃度は、ジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤を同時に芽胞形成菌に接触させておく場合にあっても、別々に接触させておく場合にあっても同じである。
【0048】
本発明の工程3開始前に、工程3とは独立して行われる工程1または工程2の温度は、殺芽効果をより向上させる観点から、それぞれ独立して、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、より好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは50℃未満、より好ましくは49℃以下、より好ましくは45℃以下、より好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下である。また、工程3とは独立して行われる工程1および工程2における芽胞形成菌とジピコリン酸又はその塩またはカチオン界面活性剤を含む溶液との接触温度は、同様の観点から、好ましくは15℃〜50℃未満、より好ましくは15℃〜40℃、より好ましくは15〜30℃である。
【0049】
これらの好ましい温度は、工程1および工程2を同時に行う場合にあっても、別々に行う場合にあっても同じであるが、工程1と工程2とが別々に行われる場合、工程1と工程2の温度は、異なっていても同じであってもよい。
【0050】
本発明の工程3とは独立に行われる工程1または工程2の時間は、殺芽効果をより向上させる観点から、それぞれ独立して、好ましくは1秒以上、より好ましくは5秒以上、より好ましくは30秒以上、より好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上、より好ましくは8分以上、より好ましくは10分以上、より好ましくは15分以上、より好ましくは20分以上、より好ましくは25分以上であり、そして、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下、より好ましくは6時間以下、より好ましくは3時間以下、より好ましくは60分以下、より好ましくは50分以下、より好ましくは40分以下、より好ましくは35分以下である。また、工程1におけるジピコリン酸又はその塩と芽胞形成菌との接触時間は、上記の観点を総合すると、好ましくは1秒〜24時間、より好ましくは1秒〜6時間、より好ましくは1秒〜3時間、より好ましくは1秒〜60分、より好ましくは5秒〜60分、より好ましくは30秒〜60分である。
【0051】
<工程3>
本発明の工程3は、芽胞形成菌を50℃以上に加温する工程である。
【0052】
本発明の工程3は、好ましくは芽胞形成菌を50℃以上250℃以下で加温する工程である。
【0053】
芽胞形成菌を加温する温度は、殺芽効果をより向上させる観点から、50℃以上、より好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上、より好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下である。本発明の工程3において加温する際の温度は、上記の観点から、好ましくは50℃〜250℃、より好ましくは50℃〜100℃、より好ましくは55℃〜100℃、より好ましくは60℃〜100℃、より好ましくは65℃〜90℃、より好ましくは70℃〜90℃であり、より好ましくは75℃〜85℃である。
【0054】
通常、芽胞形成菌は発芽しないと100℃以下では殺菌し難い。しかし、本発明においては、工程1および工程2により発芽が促進されるので、工程3において100℃以下でも殺芽効果が得られる。尚、本発明においても100℃より高い温度で殺芽することも可能である。
【0055】
本発明の工程3の加温する時間は、殺芽効果をより向上させる観点から、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上、より好ましくは8分以上、より好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上、より好ましくは25分以上であり、そして、好ましくは3時間以下、より好ましくは90分以下、より好ましくは70分以下、より好ましくは50分以下、より好ましくは40分以下、より好ましくは35分以下である。本発明の工程3の加温する時間は、上記の観点から、好ましくは3分〜90分、より好ましくは5分〜70分、より好ましくは8分〜50分、より好ましくは10分〜50分、より好ましくは20〜40分、より好ましくは25〜35分である。この時間は、工程1及び/または工程2と同時の期間を含んでいても良い。
【0056】
本発明の工程3の加温とは、結果的に芽胞形成菌を含む系の温度が上がる態様であれば特に限定されない。加温には、例えば、芽胞形成菌に乾熱、湿熱、煮沸、熱水、蒸気熱などを適用する方法が挙げられる。ここで、例えば、熱水に芽胞形成菌を浸す方法や、芽胞形成菌の存在する硬質表面などの固体や芽胞形成菌を含む液等を恒温槽に設置する方法、食品加工における加熱調理等の加熱処理による方法、レーザーの照射等で結果的に芽胞の温度が上昇する方法などが例示される。
【0057】
工程1、工程2、及び工程3において、溶液の24℃におけるpHは、特に限定はされないが、好ましくは3以上であり、より好ましくは4以上、さらに好ましくは6以上であり、安全性の観点から、好ましくは12以下、より好ましくは9以下、より好ましくは8.5以下である。また、前記溶液の24℃におけるpHは、上記の観点を総合すると、好ましくは3〜12、より好ましくは3〜9、より好ましくは4〜8.5である。
【0058】
pH調整は、ジピコリン酸又はその塩またはカチオン界面活性剤溶液を予め調製する場合に行うことができる。あるいは、芽胞形成菌と接触させておく際に芽胞形成菌を含む溶液中にジピコリン酸又はその塩またはカチオン界面活性剤を加えた後に行うこともできる。pH調整剤としては、一般に用いられる酸や塩基、例えば、塩酸や硫酸などの無機酸、乳酸やクエン酸あるいはそれらの塩などの有機酸、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの無機塩基、トリイソプロパノールアミンなどの有機塩基が挙げられる。pH調整剤としては、酸としては塩酸や硫酸などの無機酸が好ましく、塩基としては水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの無機塩基が好ましい。
【0059】
本発明の殺芽方法において、工程3で加温した芽胞形成菌を、氷を入れた水、もしくは冷却した容器等で急冷することにより工程3を終了することができる。あるいは、工程3において加温した芽胞形成菌を、しばらく時間を置いて自然に熱を冷ますことにより工程3を終了することができる。ここで、加温した芽胞形成菌は、液中に存在する状態であり得る。
【0060】
芽胞形成菌が液中に存在する場合、本発明の殺芽方法は、工程1、工程2、および工程3またはそれらの工程の前後において芽胞形成菌を攪拌する工程を有してもよい。工程1、工程2、および工程3は繰り返すことができる。
【0061】
工程3は工程1および工程2を終了してから行うことができる(態様1)。
【0062】
態様1で、「工程1および工程2の終了後に工程3を行う」とは、ジピコリン酸又はその塩とカチオン界面活性剤とを除去した後に工程3を行うことであり、工程1および工程2の終了と共に、という意味である。態様1は、工程1および工程2を終えて、好ましくは24時間以内、より好ましくは12時間以内、より好ましくは6時間以内、より好ましくは1時間以内、より好ましくは30分以内、さらに好ましくは15分以内、さらに好ましくは5分以内、さらに好ましくは1分以内に工程3に移行する。
【0063】
工程1または工程2と工程3を同時に行う期間を有しても良い(態様2)。
【0064】
態様2で、「工程1または工程2と工程3を同時に行う期間を有し」とは、ジピコリン酸又はその塩又はカチオン界面活性剤を除去した後に工程3を行うことであり、工程1又は工程2の終了と共に、という意味である。態様2は、工程1又は工程2を終えて、好ましくは24時間以内、より好ましくは12時間以内、より好ましくは6時間以内、より好ましくは1時間以内、より好ましくは30分以内、さらに好ましくは15分以内、さらに好ましくは5分以内、さらに好ましくは1分以内に工程3に移行する。
【0065】
工程1および工程2および工程3を同時に行う期間を有してもよい(態様3)。態様3は以下の様に分けられる。
態様3−1 工程1及び/または工程2を、工程3より先に開始する
態様3−2 工程1と工程2と工程3を同時に開始する
態様3−3 工程3を工程1及び工程2より先に開始する
態様3−4 工程1または工程2と工程3を同時に開始する
態様3の中、殺芽効果をより向上させる観点から、態様3−1が好ましいがこれに限定されない。
【0066】
本発明の殺芽方法は、殺芽方法をより向上させる観点から、工程1と工程2と工程3を同時に行う期間を有する態様(態様3)が好ましい。
【0067】
<殺芽助剤組成物>
本発明の殺芽助剤組成物は、ジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤を含む組成物である。本発明の殺芽助剤組成物は、発芽を目的として行う、加温前処理に使用する。また、組成物自体を常温(約20℃〜約38℃)で用いて殺芽することを目的とする殺芽剤組成物とは区別される。特に、本発明の工程1および工程2の後、あるいは工程1および工程2と同時に、加温することで殺芽効果を発揮し得る組成物を指す。本発明において、殺芽助剤組成物は、工程1および工程2で使用され得る。
【0068】
殺芽助剤組成物としては、液体組成物または固体組成物が挙げられる。
【0069】
液体の殺芽助剤組成物は、ジピコリン酸又はその塩、カチオン界面活性剤、および溶媒を含む。
【0070】
殺芽助剤組成物が液体の場合に、含まれる溶媒としては、水、または親水性溶媒が挙げられる。親水性溶媒としてはエタノール、メタノール、イソプロパノール等の1価アルコール類;グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類;メチルカルビトール、エチルカルビトール等のカルビトール類などが挙げられる。溶媒は、殺芽効果をより向上させる観点から、好ましくは水または水と親水性溶媒の混合物であり、より好ましくは水である。
【0071】
液体の殺芽助剤組成物としては、簡便性の観点から、好ましくはジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤を含む溶液、より好ましくはジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤を含む水溶液である。
【0072】
液体の殺芽助剤組成物は、さらに、pH調整剤を含有することができる。液体の殺芽助剤組成物に含まれるpH調整剤としては、一般に用いられる酸や塩基、例えば、塩酸や硫酸などの無機酸、乳酸やクエン酸あるいはそれらの塩などの有機酸、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの無機塩基、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどの有機塩基が挙げられる。pH調整剤としては、酸としては塩酸や硫酸などの無機酸が好ましく、塩基としては水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの無機塩基が好ましい。
【0073】
液体の殺芽助剤組成物、好ましくはジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤を含む溶液、より好ましくはジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤を含む水溶液の24℃におけるpHは、特に限定はされないが、好ましくは3以上であり、より好ましくは4以上、さらに好ましくは6以上であり、安全性の観点から、好ましくは12以下であり、より好ましくは9以下、より好ましくは8.5以下である。また、前記溶液の24℃におけるpHは、上記の観点を総合すると、好ましくは3〜12、より好ましくは3〜9、より好ましくは4〜8.5である。
【0074】
液体の殺芽助剤組成物は、好ましくはジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤を含む溶液中、より好ましくはジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤を含む水溶液中のジピコリン酸の含有量は、殺芽効果をより向上させる観点から、好ましくは0.05mM以上、より好ましくは0.5mM以上、より好ましくは3mM以上、より好ましくは4mM以上、より好ましくは6mM以上、より好ましくは8mM以上であり、そして、ジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤を含む溶液の安定性の観点から、好ましくは1M以下であり、より好ましくは200mM以下、より好ましくは100mM以下、より好ましくは50mM以下、より好ましくは20mM以下である。また、液体の殺芽助剤組成物中のジピコリン酸又はその塩の含有量は、上記の観点を総合すると、好ましくは、0.05mM〜1M、より好ましくは0.05mM〜200mM、より好ましくは、3mM〜100mM、より好ましくは3mM〜15mM、より好ましくは4mM〜15mMである。
【0075】
液体の殺芽助剤組成物は、好ましくはジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤を含む溶液中、より好ましくはジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤を含む水溶液中のカチオン界面活性剤の含有量は、殺芽効果をより向上させる観点から、好ましくは0.05mM以上、より好ましくは0.5mM以上、より好ましくは3mM以上、より好ましくは4mM以上、より好ましくは6mM以上、より好ましくは8mM以上であり、そして、好ましくは1M以下であり、より好ましくは200mM以下、より好ましくは100mM以下、より好ましくは50mM以下、より好ましくは20mM以下である。また、液体の殺芽助剤組成物中のカチオン界面活性剤の含有量は、上記の観点を総合すると、好ましくは0.1〜1M、より好ましくは0.5〜500mM、より好ましくは3〜300mM、より好ましくは4〜100mM、より好ましくは6〜100mM、8〜100mMである。
【0076】
液体の殺芽助剤組成物中のカチオン界面活性剤の含有量は、殺芽効果をより向上させる観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。また、液体の殺芽助剤組成物のカチオン界面活性剤の含有量は、上記の観点を総合すると、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.05〜1質量%である。
【0077】
本発明の殺芽助剤組成物は、ジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤、水あるいは他の溶媒を含み、過酢酸、スルホペルオキシカルボン酸、またはジカルボン酸ジエステルのいずれも含まない組成物であり得る。ここで含まないとは、殺芽助剤組成物が殺芽効果を有しないことを示し、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下、より好ましくは1ppm以下、より好ましくは実質的に0ppmである。ここで実質的とは検出限界以下である。
【0078】
本発明の液体の殺芽助剤組成物、好ましくはジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤を含む溶液、より好ましくはジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤を含む水溶液、は粉末状のジピコリン酸又はその塩またはカチオン界面活性剤を水あるいはその他の溶媒と混合することにより、好ましくは溶解することにより調製することができる。
【0079】
固体の殺芽助剤組成物としては、ジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤またはジピコリン酸又はその塩、カチオン界面活性剤、および固形化剤を含む組成物が挙げられる。
【0080】
固体の殺芽助剤組成物が含有する固形化剤としては、これに限定されるものではないが、数平均分子量が1,000〜100,000のポリエチレングリコール;カルナウバロウ、キャンデリラロウ、ホホバ油、ミツロウ、ラノリンなどのロウ類;パラフィン、ワセリン、セレシン、マイクロクリスタリンワックスなどの炭素数15以上の炭化水素;ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸などの炭素数12〜22の高級脂肪酸;セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの炭素数14〜22の高級アルコールが挙げられる。
【0081】
固体の殺芽助剤組成物は、さらに、pH調整剤を含有することができる。固体の殺芽助剤組成物が含有するpH調整剤としては、一般に用いられる酸や塩基、例えば、塩酸や硫酸などの無機酸、乳酸やクエン酸あるいはそれらの塩などの有機酸、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの無機塩基、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどの有機塩基が挙げられる。pH調整剤としては、酸としては塩酸や硫酸などの無機酸が好ましく、塩基としては水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの無機塩基が好ましい。
【0082】
本発明の殺芽助剤組成物は、本発明の殺芽方法の工程1および工程2で使用する際に、芽胞形成菌と殺芽助剤組成物を含む溶液中のジピコリン酸の含有量が、殺芽効果をより向上させる観点から、好ましくは0.05mM以上、より好ましくは0.5mM以上、より好ましくは3mM以上、より好ましくは4mM以上、より好ましくは6mM以上、より好ましくは8mM以上であり、そして、ジピコリン酸およびカチオン界面活性剤を含む溶液の安定性の観点から、好ましくは200mM以下、より好ましくは100mM以下、より好ましくは30mM以下、より好ましくは25mM以下、より好ましくは20mM以下であるように使用することが好ましい。また、本発明の殺芽助剤組成物は、本発明の殺芽方法の工程1および工程2で使用する際に、芽胞形成菌と殺芽助剤組成物を含む溶液中のジピコリン酸の含有量が、上記の観点を総合すると、好ましくは0.05〜200mM、より好ましくは0.5〜100mM、より好ましくは3〜30mM、より好ましくは3〜25mMであるように使用することが好ましい。
【0083】
液体の殺芽助剤組成物は、本発明の殺芽方法の工程1および工程2で使用する際に、芽胞形成菌と殺芽助剤組成物を含む溶液中のカチオン界面活性剤の含有量が、好ましくはジピコリン酸およびカチオン界面活性剤を含む溶液中、より好ましくはジピコリン酸およびカチオン界面活性剤を含む水溶液中のカチオン界面活性剤の含有量は、殺芽効果をより向上させる観点から、好ましくは0.1mM以上、より好ましくは0.5mM以上、より好ましくは3mM以上、より好ましくは4mM以上、より好ましくは6mM以上、より好ましくは8mM以上であり、そして、好ましくは1000mM以下、より好ましくは500mM以下、さらに好ましくは300mM以下、より好ましくは100mM以下である。また、液体の殺芽助剤組成物を使用する際のカチオン界面活性剤の含有量は、上記の観点を総合すると、好ましくは0.1〜1000mM、より好ましくは0.5〜500mM、より好ましくは3〜300mM、より好ましくは4〜100mM、より好ましくは6〜100mMである。
【0084】
液体の殺芽助剤組成物は、本発明の殺芽方法の工程1および工程2で使用する際に、芽胞形成菌と殺芽助剤組成物を含む溶液中のカチオン界面活性剤の含有量が、殺芽効果をより向上させる観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。また、液体の殺芽助剤組成物を使用する際のカチオン界面活性剤の含有量は、上記の観点を総合すると、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.05〜1質量%である。
【0085】
本発明のジピコリン酸又はその塩は、合成によるもの、または微生物から抽出する方法を用いる発酵法によるものの、いずれでも使用できる。本発明のカチオン界面活性剤は、市販されているもの、合成によるもののいずれも使用できる。
【0086】
本発明の殺芽方法および殺芽助剤組成物は、食品加工設備の殺菌洗浄や、衣料の殺菌洗浄等に使用することができる。
【0087】
上述した実施の形態に関し、本発明は以下の殺芽方法および殺芽助剤組成物を開示する。
【0088】
<項1>
下記の工程1、工程2および工程3を行う殺芽方法:
工程1:芽胞形成菌とジピコリン酸又はその塩とを接触させておく工程;
工程2:芽胞形成菌とカチオン界面活性剤とを接触させておく工程;および
工程3:芽胞形成菌を50℃以上に加温する工程
(但し、工程1及び工程2を開始後に工程3を終了するものとする)。
【0089】
<項2>
工程1、工程2、および工程3を同時に行う期間を有する、<項1>記載の殺芽方法。
【0090】
<項3>
工程1の終了後に工程2及び工程3を行う、<項1>記載の殺芽方法。
【0091】
<項4>
工程2の終了後に工程1及び工程3を行う、<項1>記載の殺芽方法。
【0092】
<項5>
カチオン界面活性剤が、第1級アンモニウム塩、第2級アンモニウム塩、第3級アンモニウム塩、または第4級アンモニウム塩のいずれかである、<項1>〜<項4>のいずれか記載の殺芽方法。
【0093】
<項6>
カチオン界面活性剤が、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルベンゼトニウム塩等の第4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩等の第1級アンモニウム塩である、<項1>〜<項5>のいずれか記載の殺芽方法。
【0094】
<項7>
カチオン界面活性剤が、一般式(1)で表わされる第4アンモニウム塩である、<項1>〜<項6>のいずれか記載の殺芽方法。
【化4】
【0095】
〔式中、R11〜R14のいずれか1つが、水酸基、エステル基、アミド基を有していても良い炭素数3以上の炭化水素基であり、R11〜R14の残りの3つはメチル基又はエチル基を示し、Xは無機または有機のアニオン性化合物を示す。〕
【0096】
<項8>
カチオン界面活性剤が、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルトリエチルアンモニウム塩、アルキルジメチルエチルアンモニウム塩、アルキルメチルジエチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ジアルキルジエチルアンモニウム塩、ジアルキルエチルメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジニウム塩、およびアルキルベンゼトニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種である、<項1>〜<項7>のいずれか記載の殺芽方法。
【0097】
<項9>
前記工程1および工程2において、芽胞形成菌、ジピコリン酸又はその塩、およびカチオン界面活性剤を液中で接触させておく、<項1>〜<項8>のいずれか記載の殺芽方法。
【0098】
<項10>
液中のジピコリン酸又はその塩の含有量が0.05mM以上200mM以下である<項9>記載の殺芽方法。
【0099】
<項11>
液中のカチオン界面活性剤の含有量が0.1mM以上1000mM以下である、<項9>記載の殺芽方法。
【0100】
<項12>
芽胞形成菌とジピコリン酸又はその塩とが接触する時のジピコリン酸又はその塩の濃度が0.05mM以上、より好ましくは0.5mM以上、より好ましくは3mM以上、より好ましくは4mM以上、より好ましくは6mM以上、より好ましくは8mM以上であり、そして、好ましくは200mM以下、より好ましくは100mM以下、より好ましくは50mM以下、より好ましくは20mM以下、<項1>〜<項11>のいずれか記載の殺芽方法。
【0101】
<項13>
芽胞形成菌とカチオン界面活性剤とが接触する時のカチオン界面活性剤の濃度が、0.1mM以上、より好ましくは0.5mM以上、より好ましくは3mM以上、より好ましくは4mM以上、より好ましくは6mM以上、より好ましくは8mM以上であり、そして、好ましくは1000mM以下、より好ましくは500mM以下、より好ましくは300mM以下、より好ましくは100mM以下である、<項1>〜<項12>のいずれか記載の殺芽方法。
【0102】
<項14>
芽胞形成菌とカチオン界面活性剤とが接触する時のカチオン界面活性剤の濃度が、0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である、<項1>〜<項13>のいずれか記載の殺芽方法。
【0103】
<項15>
工程1および工程2を、それぞれ独立してまたは同時に15℃以上50℃未満で行う、<項1>〜<項14>のいずれか記載の殺芽方法。
【0104】
<項16>
工程3とは独立して行われる工程1および工程2を、それぞれ独立してまたは同時に、15℃以上、より好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは50℃未満、より好ましくは49℃以下、より好ましくは45℃以下、より好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下で行う、<項1>〜<項15>のいずれか記載の殺芽方法。
【0105】
<項17>
工程3とは独立に行われる工程1の時間、すなわち、芽胞形成菌とジピコリン酸又はその塩との接触時間が、好ましくは、1秒以上、より好ましくは5秒以上、より好ましくは30秒以上、より好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上、より好ましくは8分以上、より好ましくは10分以上、より好ましくは15分以上、より好ましくは20分以上、より好ましくは25分以上であり、そして、好ましくは60分以下、より好ましくは50分以下、より好ましくは40分以下、より好ましくは35分以下である、<項1>〜<項16>のいずれか記載の殺芽方法。
【0106】
<項18>
工程3とは独立に行われる場合の工程2の時間、すなわち、芽胞形成菌とカチオン界面活性剤との接触時間が、好ましくは1秒以上、より好ましくは5秒以上、より好ましくは30秒以上、より好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上、より好ましくは8分以上、より好ましくは10分以上、より好ましくは15分以上、より好ましくは20分以上、より好ましくは25分以上であり、そして、好ましくは60分以下、より好ましくは50分以下、より好ましくは40分以下、より好ましくは35分以下である、<項1>〜<項17>のいずれか記載の殺芽方法。
【0107】
<項19>
工程3と同時に行う期間を有する場合の工程1における芽胞形成菌とジピコリン酸又はその塩とを接触する接触時間の合計が、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、より好ましくは15分以上、より好ましくは20分以上、より好ましくは25分以上であり、そして、好ましくは90分以下、より好ましくは80分以下、より好ましくは70分以下、より好ましくは65分以下、より好ましくは60分以下、より好ましくは50分以下、より好ましくは40分以下、より好ましくは35分以下である、<項1>〜<項18>のいずれか記載の殺芽方法。
【0108】
<項20>
工程3と同時に行う期間を有する場合の工程2における芽胞形成菌とカチオン界面活性剤の接触時間の合計が、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、より好ましくは15分以上、より好ましくは20分以上、より好ましくは25分以上であり、そして、好ましくは90分以下、より好ましくは80分以下、より好ましくは70分以下、より好ましくは65分以下、より好ましくは60分以下、より好ましくは50分以下、より好ましくは40分以下、より好ましくは35分以下である、<項1>〜<項19>のいずれか記載の殺芽方法。
【0109】
<項21>
工程3において芽胞形成菌を50℃以上に加温する時間が、3分以上90分以下である、<項1>〜<項20>いずれか記載の殺芽方法。
【0110】
<項22>
工程3の温度が好ましくは50℃以上、より好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上、より好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下である、<項1>〜<項21>のいずれか記載の殺芽方法。
【0111】
<項23>
工程3の加温する時間が、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上、より好ましくは8分以上、より好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上、より好ましくは25分以上であり、そして、好ましくは90分以下、より好ましくは70分以下、より好ましくは50分以下、より好ましくは40分以下、より好ましくは35分以下である、<項1>〜<項22>のいずれか記載の殺芽方法。
【0112】
<項24>
前記工程3開始前に、前記工程1および工程2をそれぞれ独立してまたは同時に15℃以上50℃未満で行う期間を有する、<項1>〜<項23>のいずれか記載の殺芽方法。
【0113】
<項25>
工程3開始前に、前記工程1および工程2をそれぞれ独立してまたは同時に1秒以上60分以下行う、<項1>〜<項24>のいずれか記載の殺芽方法。
【0114】
<項26>
前記工程1および工程2を合計でそれぞれ独立してまたは同時に30分以上90分以下行う、<項1>〜<項25>のいずれか記載の殺芽方法。
【0115】
<項27>
ジピコリン酸又はその塩およびカチオン界面活性剤を含有する、殺芽助剤組成物。
【0116】
<項28>
ジピコリン酸又はその塩を好ましくは0.05mM以上、より好ましくは0.5mM以上、より好ましくは3mM以上、そして、好ましくは200mM以下、より好ましくは100mM以下、より好ましくは30mM以下含有する液体組成物である、<項27>記載の殺芽助剤組成物。
【0117】
<項29>
カチオン界面活性剤を好ましくは0.1mM以上、より好ましくは0.5mM以上、より好ましくは3mM以上、そして、好ましくは1000mM以下、より好ましくは500mM以下、より好ましくは300mM以下含有する液体組成物である、<項27>または<項28>記載の殺芽助剤組成物。
【0118】
<項30>
ジピコリン酸又はその塩、カチオン界面活性剤、および水あるいは他の溶媒を含み、過酢酸、スルホペルオキシカルボン酸およびジカルボン酸ジエステルの含有量が、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下、より好ましくは1ppm以下、より好ましくは実質的に0ppmである、<項27>〜<項29>のいずれか記載の殺芽助剤組成物。
【実施例】
【0119】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0120】
菌の調製
芽胞形成菌:Bacillus subtilis 168株を供試菌株として用いた。芽胞形成菌の含有量が10 CFU/mLである水分散液を作製して実験に用いた。この水分散液中の芽胞形成菌は、顕微鏡観察により、95%以上が芽胞を形成していることを確認した後に実験に用いた。
【0121】
ジピコリン酸水溶液の調製
ジピコリン酸(以下、DPAともいう)は試薬(和光純薬工業株式会社製、製造コード165−05342)を、溶媒は50mMにイオン交換水で調整したTris−HClbuffer(和光純薬工業株式会社製、製造コード318−90225)を、pH調整剤は水酸化ナトリウムを用いた。ジピコリン酸水溶液の調製は24℃にて行った。卓上型pHメーター型式9611(HORIBA製)にてジピコリン酸水溶液のpHを測定しながら、pH調整剤をジピコリン酸水溶液に滴下して、ジピコリン酸水溶液のpHを調整した。実施例において、特に断らない限り、pHは、24℃におけるpHである。特に断りがない限り、pH7(24℃)に調整し、実験を行った。
【0122】
界面活性剤
以下の界面活性剤を用いた。
ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド(コータミン24P、花王(株)製)
アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド(サニゾ―ルC花王(株)製)
ラウリル硫酸ナトリウム(エマール0、花王(株)製)
ポリオキシエチレン(3)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム(エマール20C、花王(株)製)
ポリオキシエチレン(2)ラウリルエ一テル硫酸ナトリウム(エマールE−27C、花王(株)製)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ネオペレックスG−15、花王(株)製)
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(エマルゲン108、花王(株)製)
ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル(エマルゲン123P、花王(株)製)
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(エマルゲン130K、花王(株)製)
モノラウリン酸ポリエチレングリコール(エマノーン1112、花王(株)製)
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) (エマノーンCH−60、花王(株)製)
ラウリルグルコシド(マイドール12、花王(株)製)
ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド(東京化成製、以下C12トリメチルアンモニウムクロライド)
テトラデシルトリメチルアンモニウムクロライド(東京化成製、以下C14トリメチルアンモニウムクロライド)
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド(東京化成製、以下C16トリメチルアンモニウムクロライド)
オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド(東京化成製、以下C18トリメチルアンモニウムクロライド)
ジオクタジメチルアンモニウムクロライド(東京化成製、以下C8ジメチルアンモニウムクロライド)
ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(東京化成製、以下C10ジメチルアンモニウムクロライド)
ジドデシルジメチルアンモニウムクロライド(東京化成製、以下C12ジメチルアンモニウムクロライド)
ジテトラデシルジメチルアンモニウムクロライド(東京化成製、以下C14ジメチルアンモニウムクロライド)
ジヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド(東京化成製、以下C16ジメチルアンモニウムクロライド)
ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド(東京化成製、以下C18ジメチルアンモニウムクロライド)
【0123】
実施例1−1:
殺芽試験
表1に記載された10mMジピコリン酸水溶液(以下、DPA溶液ともいう)、0.10質量%ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドと芽胞形成菌とを用いて、次の手順により殺芽試験を行い、殺芽効果を評価した。評価結果を表1に示す。(尚、表中、「%」とは「質量%」である。以下同じ。)
【0124】
―手順―
【0125】
(1)工程1および工程2:芽胞形成菌の水分散液(以下、芽胞液という;以下の実施例において同じ)100 μLを、DPA水溶液800μLと、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドの水溶液100 μLとを混合し、試験液とした。DPAの終濃度は10mMであり、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドの終濃度は0.1質量%であった。ここで、終濃度とは、混合後の水溶液(合計1mLの状態)における濃度を意味する(以下の実施例において同じ)。
(2)工程1および工程2:上記(1)の試験液(pH7.0)を24℃で30分間静置した。
(3)工程3:上記(2)の後、試験液をそのまま80℃で30分間加温処理した。
加温工程には、Major Science社のアルミブロック恒温槽MD−01N−110を用いた。
(4)(3)で熱処理した試験液をLP水溶液(LP希釈液(ダイゴ、日本製薬(株)製))で段階希釈し、それぞれの希釈液をLB寒天培地(BD社製)に100μL塗抹し、37℃、16時間培養した。
(5)(4)の培養後、生えてきたコロニー数にて、生存菌数X(CFU/mL)を求めた。
【0126】
比較例1−1、1−2
実施例1−1の手順(1)において、終濃度10 mM DPAおよび終濃度0.1質量%カチオン界面活性剤を含む水溶液の代わりに、表1に示した水溶液を用いた。それ以外は実施例1−1と同様に行った。
【0127】
【表1】
【0128】
実施例2−1および比較例2−1〜2−10:
DPA水溶液に、表2に示す各界面活性剤水溶液を混合した水溶液を用いた。水溶液中のDPAの終濃度は10mM、各界面活性剤の終濃度は0.1質量%であった。実施例1−1と同様の条件にて、殺芽試験を行い、殺芽効果を評価した。評価結果を表2に示す。
【0129】
【表2】
【0130】
実施例3−1〜3−10:
DPA水溶液に、表3に示す各界面活性剤水溶液を混合した水溶液を用いた。水溶液中のDPAと各界面活性剤の終濃度は10mMであった。実施例1−1と同様の条件にて殺芽試験を行い、殺芽効果を評価した。評価結果を表3に示す。
【0131】
比較例3−1〜3−3:
工程3の温度をRT(25℃)とした以外は、実施例3−1、3−3、3−4と同様の条件で殺芽効果を評価した。
【表3】
【0132】
実施例4−1〜4−13:
DPA水溶液に、表4に示す各界面活性剤水溶液を混合した水溶液を用いた。水溶液中のDPAの終濃度は10mM、各界面活性剤の終濃度は表4に示す濃度であった。実施例1−1と同様の条件にて殺芽試験を行い、殺芽効果を評価した。評価結果を表4に示す。
【表4】
【0133】
実施例5−1〜5−3:
DPA水溶液に、C18トリメチルアンモニウムクロライド水溶液を混合した水溶液を用いた。水溶液中のDPAの終濃度は10mM、C18トリメチルアンモニウムクロライドの終濃度は20mMであった。手順(3)における加温温度を表5に示す温度とした。実施例1−1と同様の条件にて殺芽試験を行い、殺芽効果を評価した。評価結果を表5に示す。
【表5】
【0134】
実施例6−1〜6−4
DPA水溶液に、C18トリメチルアンモニウムクロライド水溶液を混合した水溶液を用いた。水溶液中のDPAの終濃度は10mM、C18トリメチルアンモニウムクロライドの終濃度は1mMであった。手順(1)および(2)における試験液のpH(24℃)を表6に示す値とした。実施例1−1と同様の条件にて殺芽試験を行い、殺芽効果を評価した。評価結果を表6に示す。実施例6−2はフタル酸と水酸化ナトリウムの緩衝系を、実施例6−3はホウ酸と水酸化ナトリウムの緩衝系を、実施例6−4は塩化カリウムと水酸化ナトリウムの緩衝系を用いた。
【表6】
【0135】
実施例7−1
―手順―
(1)工程1:芽胞液100 μLを、DPA水溶液900 μLと混合し、試験液(pH7.0)とした。DPAの終濃度は10mMであった。
(2)試験液を30分間24℃で静置した。
(3)下記方法で芽胞からDPA溶液を除去した。工程1の試験液を遠心分離器(株式会社クボタ製テーブルトップマイクロ冷却遠心機3500、以下同じ)で15krpm5分間の条件で遠心分離操作を行い、上清を取り除いた。
(4)工程2:上清を取り除いて、ただちに、C16トリメチルアンモニウムクロライド水溶液を終濃度10mMとなるように1mL加え、24℃で30分間静置した。
(5)工程3:上記(4)の後、試験液を80℃で30分間加温処理した。
(6)(5)の試験液を滅菌水で段階希釈し、それぞれの希釈液をLB寒天培地(BD社製)に100μL塗抹し、37℃、16時間培養した。
(7)(6)の培養後、生えてきたコロニー数にて、生存菌数X(CFU/mL)を求めた。
【0136】
実施例7−2
―手順―
(1)工程2:芽胞液100μLを、C16トリメチルアンモニウムクロライド水溶液900 μLと混合し、試験液(pH7.0)とした。C16トリメチルアンモニウムクロライドの終濃度は10mMであった。
(2)試験液を30分間24℃で静置した。
(3)下記方法で、芽胞からC16トリメチルアンモニウムクロライド溶液を除去した。(2)の試験液を遠心分離器で15krpm5分間の条件で遠心分離操作を行い、上清を取り除いた。
(4)工程1:上清を取り除いて、ただちに、DPA水溶液を終濃度10mMとなるように1mL加え、24℃で30分間静置した。
(5)工程3:上記(4)の後、試験液を80℃で30分間加温処理した。
(6)(5)の試験液を滅菌水で段階希釈し、それぞれの希釈液をLB寒天培地(BD社製)に100μL塗抹し、37℃、16時間培養した。
(7)(6)の培養後、生えてきたコロニー数にて、生存菌数X(CFU/mL)を求めた。
【0137】
実施例7−3
―手順―
(1)工程1および工程2:芽胞液100 μLを、DPAとC16トリメチルアンモニウムクロライドの水溶液900 μLとを混合し、試験液(pH7.0)とした。DPAとC16トリメチルアンモニウムクロライドの終濃度は10mMであった。
(2)工程3:(1)の後、ただちに、試験液を80℃で30分間加温処理した。
(3)(2)の試験液を滅菌水で段階希釈し、それぞれの希釈液をLB寒天培地(BD社製)に100μL塗抹し、37℃、16時間培養した。
(4)(3)の培養後、生えてきたコロニー数にて、生存菌数X(CFU/mL)を求めた。
【0138】
比較例7−1
―手順―
(1)芽胞液100 μLをDPA溶液900 μLと混合し、試験液(pH7.0)とした。DPAの終濃度は10mMであった。
(2)(1)の後、ただちに、試験液を80℃で30分間加温処理した。
(3)下記方法で、芽胞からDPA溶液を除去した。
(2)の試験液を遠心分離器で15krpm5分間の条件で遠心分離操作を行い、上清を取り除いた。
(4)上清を取り除いて、ただちに、C16トリメチルアンモニウムクロライド水溶液を終濃度10mMとなるように1mL加え、24℃で30分間静置した。
(5)(4)の試験液を滅菌水で段階希釈し、それぞれの希釈液をLB寒天培地(BD社製)に100μL塗抹し、37℃、16時間培養した。
(6)(5)の培養後、生えてきたコロニー数にて、生存菌数X(CFU/mL)を求めた。
【0139】
比較例7−2
―手順―
(1)工程3:芽胞液100 μLを、80℃で30分間加温処理した。
(2)工程2:(1)の後、室温まで冷却後、ただちに、C16トリメチルアンモニウムクロライド水溶液900 μLと混合し、30分静置し、試験液(pH7.0)とした。C16トリメチルアンモニウムクロライドの終濃度は10mMであった。
(3)(2)の試験液を滅菌水で段階希釈し、それぞれの希釈液をLB寒天培地(BD社製)に100μL塗抹し、37℃、16時間培養した。
(4)(3)の培養後、生えてきたコロニー数にて、生存菌数X(CFU/mL)を求めた。
【0140】
【表7】
【0141】
実施例8−1:
実施例3−1と同様に殺芽試験を行った。
【0142】
比較例8−1:
DPA水溶液ではなく、同濃度のイソフタル酸水溶液を用いた。それ以外は実施例8−1と同様に行った。
【0143】
【表8】
【0144】
実施例9−1
(1)工程1および工程2:芽胞液100 μLを、DPA水溶液800μLと、C16トリメチルアンモニウムクロライドの水溶液100μLと、各々混合し、試験液(pH7.0)とした。DPAとC16トリメチルアンモニウムクロライドの終濃度は10mMであった。
(2)工程3:上記(1)の後、すぐに試験液をそのまま80℃で30分間加温処理した。加温工程には、Major Science社のアルミブロック恒温槽MD−01N−110を用いた。
(3)上記(2)で熱処理した試験液をLP水溶液(LP希釈液(ダイゴ、日本製薬(株)製))で段階希釈し、それぞれの希釈液をLB寒天培地(BD社製)に100μL塗抹し、37℃、16時間培養した。
(4)(3)の培養後、生えてきたコロニー数にて、生存菌数X(CFU/mL)を求めた。
【0145】
比較例9−1
実施例9−1と同様に操作を行ったが、工程3の加温はせず、室温で30分静置した。
【0146】
比較例9−2
実施例9−1の(1)工程1および工程2のDPA及びカチオン界面活性剤水溶液に代えて、芽胞液を精製水と接触させた。工程3の加温は実施例9−1と同様に実施した。
【0147】
実施例9−1、比較例9−1〜9−2の結果を表9に示す。
【0148】
【表9】
【0149】
実施例10−1〜10−2
DPA水溶液に、C16トリメチルアンモニウムクロライド水溶液を混合した水溶液を用いた。DPAの終濃度は表10に示す濃度であり、C16トリメチルアンモニウムクロライドの終濃度は10mMであった。実施例1−1と同様の条件にて殺芽試験を行い、殺芽効果を評価した。評価結果を表10に示す。
【0150】
【表10】
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明の殺芽方法は、例えば、リネン洗浄、食品腐敗防止、環境浄化などの幅広い用途に使用することができる。