特許第6537839号(P6537839)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6537839
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】水性ボールペン
(51)【国際特許分類】
   B43K 7/08 20060101AFI20190625BHJP
   C09D 11/18 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
   B43K7/08
   C09D11/18
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-17436(P2015-17436)
(22)【出願日】2015年1月30日
(65)【公開番号】特開2016-141011(P2016-141011A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2018年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 太郎
(72)【発明者】
【氏名】栗原 一裕
(72)【発明者】
【氏名】高木 学
【審査官】 金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−051630(JP,A)
【文献】 国際公開第98/026016(WO,A1)
【文献】 特開2002−235025(JP,A)
【文献】 特開2006−007766(JP,A)
【文献】 特開平11−193363(JP,A)
【文献】 特開2001−180177(JP,A)
【文献】 特開2011−105866(JP,A)
【文献】 特開2008−201970(JP,A)
【文献】 特開2003−341277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00 − 1/12
5/00 − 8/24
C09D 11/00 −13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ収容筒の先端部にボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒内に少なくとも水、着色剤、有機樹脂粒子、増粘剤からなる水性ボールペン用インキ組成物を収容してなる水性ボールペンであって、ボールペンチップのボールの軸方向への移動量が15〜50μmであり、かつ、前記有機樹脂粒子がアミノ基、イミノ基、水酸基、カルボキシル基の中から1種以上を有する有機樹脂粒子、または、オレフィン系樹脂粒子であり、該有機樹脂粒子の含有量について、インキ組成物全量に対し、0.1〜5.0質量%であり、前記増粘剤が会合型増粘剤であり、酢酸ビニル、メチルメタクリレート、及びメタクリル酸の3種の単量体から構成されることを特徴とする水性ボールペン。
【請求項2】
前記有機樹脂粒子がアミノ基及び/またはイミノ基を有する含窒素樹脂粒子であることを特徴とする請求項に記載の水性ボールペン。
【請求項3】
前記有機樹脂粒子が架橋構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の水性ボールペン。
【請求項4】
前記水性ボールペン用インキ組成物にリン酸エステル系界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の水性ボールペン。
【請求項5】
前記水性ボールペン用インキ組成物のpH値が、20℃において、8〜10であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水性ボールペン。
【請求項6】
前記水性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度が、20℃、剪断速度1.92sec−1において、100〜1000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の水性ボールペン。
【請求項7】
前記水性ボールペン用インキ組成物にデキストリンを含有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の水性ボールペン。
【請求項8】
前記インキ収容筒の内径が2.3mm以下とすることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の水性ボールペン。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の水性ボールペンを軸筒内に摺動自在に配設し、前記ボールペンチップのチップ先端部を前記軸筒先端部から出没可能とした出没式の水性ボールペンであることを特徴とする水性ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ボールペン用インキ組成物に関し、さらに詳細としては、インキ漏れ出しの抑制と、ボール座の摩耗抑制に優れ、書き味を良好とする水性ボールペン用インキ組成物及びそれを用いた水性ボールペンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の水性ボールペンに用いる水性ボールペン用インキ組成物として、特許文献1として特許第3338222号公報「直液ノック式水性ボールペン用インキ」のように、保湿性を向上しキャップなしでペンを放置しても、ペン先からインキが吹きだしたり、垂れ下がったりする直流現象が発生しない直液ノック式水性ボールペン用インキのものや、特許文献2として特公平6−47661号公報「ボ−ルペン用インキ組成物」のように、インキ粘度が、50〜2000cpsである水性ボールペン用インキや、特許文献3として特許第3032516号公報「水性ボールペン用インキ組成物」のように、インキ粘度調整剤としてアルカリ増粘型エマルジョンを用いた水性ボールペン用インキ組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】「特許第3338222号公報」
【特許文献2】「特公平6−47661号公報」
【特許文献3】「特許第3032516号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの水性ボールペン用インキを用いて、出没式ボールペンやキャップオフ状態の水性ボールペンとした場合、前記水性ボールペンが下向きの状態にある場合にチップ先端からのインキ漏れによるインキ垂れ下がりが十分ではなかった。
【0005】
ところで、最近では、陳列ケースに陳列されている水性ボールペンは、使用者は、陳列ケースから水性ボールペンを取り出し、試し書きやノック操作の確認等して、前記水性ボールペンを、同陳列ケースに戻している。
【0006】
この時、出没式ボールペンのようなキャップオフ状態の水性ボールペンの場合、ボールペンチップを突出させた状態で陳列ケースに戻された場合には、ボールペンチップのボールが、ボールペン用陳列ケースの底部に当接する。そのように、試し書き等をした水性ボールペンを、同陳列ケースに戻すことを繰り返すうちに、最初に戻したボールペンの上に、何本ものボールペンが積まれ、その結果、積まれた複数のボールペンの重みによってチップ先端に負荷がかかる場合に、ボールペン用陳列ケースの底部に、ボールペンチップ先端が当接した時の衝撃をボールが受けてボール抱持室の底壁方向に移動するため、ボールとチップ先端の内壁との間に隙間を生じ、その隙間からインキが垂れ下がり、インキ漏れを発生し、陳列ケースを汚してしまい、他のケース内のボールペンも、汚れてしまう問題があった。
【0007】
前記したインキ漏れを解決するために、インキでの対応方法として、インキ粘度を高くすると、インキ消費量が少なくなり、濃い筆跡が得られず、さらに筆記時の書き味も劣ってしまう。また、チップでの対応方法として、チップ本体内にコイルスプリング等で、常時、ボールをチップ先端の内壁面に押圧し、ボールとチップ先端の微小な間隙を閉鎖することで、インキ垂れ下がりを抑制することも可能であるが、製造コストが高騰し、ボールの回転が劣りやすく、書き味にも影響が出やすい問題もあった。さらに、複合筆記具や金属軸を用いた場合など製品自重が重くなり、ボールペンチップ内のコイルスプリングの押圧力よりも大きな荷重が掛かる場合はチップ先端に押圧されていたボールが押し下げられることによりボールとチップ先端の内壁との隙間が生じるため、インキ垂れ下がりを抑制する効果は限定的であった。
【0008】
本発明は、インキの漏れ出しを抑制し、ボール座の摩耗抑制に優れ、濃い筆跡とする水性ボールペン用インキ組成物及びそれを用いた水性ボールペンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために
「1.インキ収容筒の先端部にボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒内に少なくとも水、着色剤、有機樹脂粒子、増粘剤からなる水性ボールペン用インキ組成物を収容してなる水性ボールペンであって、ボールペンチップのボールの軸方向への移動量が15μm以上であり、かつ、前記有機樹脂粒子が水素結合性官能基を有する有機樹脂粒子、または、オレフィン系樹脂粒子であり、前記増粘剤が会合型増粘剤であることを特徴とする水性ボールペン。
2.前記有機樹脂粒子の水素結合性官能基が、アミノ基、イミノ基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基の中から1種以上を有することを特徴とする第1項に記載の水性ボールペン。
3.前記有機樹脂粒子がアミノ基及び/またはイミノ基を有する含窒素樹脂粒子であることを特徴とする第1項または第2項に記載の水性ボールペン。
4.前記有機樹脂粒子が架橋構造を有することを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の水性ボールペン。
5.前記会合型増粘剤がアルカリ膨潤増粘剤であることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の水性ボールペン。
6.前記水性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度が、20℃、剪断速度1.92sec−1において、100〜1000mPa・s以下であることを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の水性ボールペン。 」とする。
7.前記水性ボールペン用インキ組成物にデキストリンを含有することを特徴とする第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の水性ボールペン。
8.前記インキ収容筒の内径が2.3mm以下とすることを特徴とする第1項ないし第7項のいずれか1項に記載の水性ボールペン。
9.第1項ないし第8項のいずれか1項に記載の水性ボールペンを軸筒内に摺動自在に配設し、前記ボールペンチップのチップ先端部を前記軸筒先端部から出没可能とした出没式の水性ボールペンであることを特徴とする水性ボールペン。」とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、ボールペンチップを突出させた状態でボールペンを陳列ケースに戻して、ボールとチップ先端の内壁との隙間が生じても、インキの漏れ出しを抑制するとともに、ボール座の摩耗を抑制し、濃い筆跡とする水性ボールペンを提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の特徴は、インキ収容筒の先端部にボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒内に少なくとも水、着色剤、有機樹脂粒子、増粘剤からなる水性ボールペン用インキ組成物を収容してなる水性ボールペンであって、ボールペンチップのボールの軸方向への移動量(クリアランス)が15μm以上であり、かつ、有機樹脂粒子の平均粒子径が15μm以下で、前記増粘剤が会合型増粘剤であることを特徴とする水性ボールペンとすることである。
【0012】
本発明では、濃い筆跡を得るために、前記ボールペンチップのボールが、軸方向への移動量を15μm以上として、インキ吐出量を多くする必要がある。しかし、単にインキ吐出量を多くしただけでは、ボールとチップ先端の内壁との間の隙間よりインキ漏れ(インキ垂れ下がり)が発生してしまい、特に、上記したように試し書き等をした水性ボールペンを、同陳列ケースに戻して、何本ものボールペンが積まれ、そのボールペンの重みによってチップ先端に負荷がかかる場合に、ボールとチップ先端の内壁との間に隙間を生じ、ひどいインキ漏れを発生してしまい、問題となってしまう。
【0013】
そこで、本発明では、平均粒子径が15μm以下である有機樹脂粒子を含有することで、前記ボールとチップ先端の内壁との間の隙間に物理的な障害を起こして、インキ漏れを抑制することを可能とし、さらに、無機粒子と比較して硬度が低いことから、粒子同士が一部変形などして、お互い密着することで、微弱な凝集により形成された構造を生じることにより、静置時のインキ漏れに対しての抵抗作用の高い構造をインキ中で形成することで、インキ漏れ抑制を可能とする。一方で、微弱な凝集により形成された構造のため、筆記時にはボールの回転などの物理作用により凝集構造は解砕されるため、筆記時のインキ流動性を阻害することなく、良好に筆記することで、濃い筆跡を得ることが可能である。さらに、平均粒子径が15μm以下である有機樹脂粒子は、ボールとボール座との間に入り込み、直接接触しづらくするため、ボールの回転抵抗を緩和し、ボール座の摩耗を抑制することが可能である。また、チップ先端でのインキ詰まりを回避し、安定したインキ流出を確保するためにも好適である。そのため、少なくとも平均粒子径が15μm以下である有機樹脂粒子を含有することが重要である。
【0014】
さらに、本発明では、ひどいインキ漏れを抑制するために、増粘剤として、会合型増粘剤を併用して用いることが重要である。会合型増粘剤は、親水性基を骨格とし、側鎖、または末端などに疎水性基を有するものであり、水性媒体中で一方の疎水性基が粒子などに吸着し、更に他方の疎水性基が他の粒子又は疎水性基と吸着することにより、微弱な架橋構造を形成することでインキ増粘効果が得られる。
そこで、会合性増粘剤と着色剤および平均粒子径が15μm以下である有機樹脂粒子を併用して用いることで、会合性増粘剤の疎水性基が着色剤(顔料)および前記有機樹脂粒子に吸着し、更に他方の疎水性基が他の着色剤(顔料)および有機樹脂粒子又は疎水性基と吸着することにより、微弱な架橋構造を形成するとともに、前記有機樹脂粒子同士で形成していた凝集構造とが相互に絡み合うことで、三次元構造を形成し、高いインキ漏れ抑制効果を呈すると推測する。さらに、前述のように、前記ボールとチップ先端の内壁との間の隙間に物理的な障害を起こすことでも、インキ漏れを抑制することが可能となる効果も得られる。
そのため、凝集構造と架橋構造とが相互に絡み合うことで形成する三次元構造と、前記有機樹脂粒子の物理的な障害による効果によって、上記のような陳列ケースなどで発生するボールペンの重みによってチップ先端に負荷がかかる場合で発生する、ひどいインキ漏れを抑制することが可能となると推測する。
【0015】
また、このような前記会合型増粘剤、着色剤、有機樹脂粒子の3種が共存することにより、その相互作用はより強固なものとなる。会合型増粘剤、着色剤、有機樹脂粒子の3種間で巨視的な会合体構造を形成することにより、インキ漏れを抑制するだけでなく、インキ中での着色剤(顔料)および有機樹脂粒子の分散性を向上し、より安定させる効果も得られる。さらに、同時にインキ増粘効果も得られるため、インキ粘度においても効率的に物性を得る(インキ粘度発現効率が良好)ことが可能となる。そのため、前記したインキ増粘効果によって、例えばインキ粘度を同等にするのに、会合型増粘剤の添加量を低く抑えることで、経時によるインキ増粘などを抑制してインキ経時安定効果を得ることが可能である。
そのため、会合型増粘剤、着色剤(顔料)、有機樹脂粒子の3種を併用して用いることにより、3種間で巨視的な会合体構造を形成することにより、インキ漏れを抑制する効果だけではなく、着色剤(顔料)や有機樹脂粒子の分散安定効果、インキ増粘効果、インキ経時安定効果を得ることが可能となり、効果的である。
【0016】
平均粒子径が15μm以下である有機樹脂粒子については、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、イミノ基、水酸基、カルボキシル基などの水素結合性官能基を有する有機樹脂粒子や、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのオレフィン系樹脂粒子等が好適に用いることができる。
【0017】
水素結合性官能基を有する有機樹脂粒子は、水素結合を形成することにより、より凝集構造を形成しやすく、よりインキ漏れを抑制しやすいため好ましい。これは、前記水素結合によって、より多くの凝集構造を形成するため、会合性増粘剤と併用することで、より架橋構造と絡みやすくなるため、密度の高い三次元構造が形成されるためである。
【0018】
前記水素結合性官能基の中でもアミノ基、イミノ基、水酸基、カルボキシル基の中から1種以上を有する有機樹脂粒子を用いることが好ましい。これは、水素結合力としてはスルホン酸基、リン酸基などよりも劣るものの、微弱な水素結合により凝集構造を形成することにより、インキ漏れ抑制効果が得られるとともに、水素結合力が微弱なことから、筆記時のボールの回転などにより容易に凝集構造が解砕しやすく、適度な水素結合力を有するためである。このため、静置時のインキ漏れ抑制効果だけでなく、書き出し性能や書き味などの筆記性能の向上を両立させる効果が得られるためである。さらに、その中でも、アミノ基及び/またはイミノ基を有する平均粒子径が15μm以下である含窒素樹脂粒子が好ましい、これは、アミノ基及び/またはイミノ基を有する含窒素樹脂粒子であると、前記会合型増粘剤との相互作用により、よりインキの増粘効率が良く(インキ粘度発現効率が良く)、安定な凝集構造を長期間とりやすく、インキ漏れを抑制しやすくするだけではなく、顔料を用いる場合は、顔料分散効果にも有利になりやすいため、好ましい。なお、アミノ基、イミノ基の官能基を有する含窒素樹脂粒子としては、3級アミン、4級アミンなども含むものとする。
【0019】
さらに、アミノ基及び/またはイミノ基を有する窒素樹脂粒子の中でも、架橋構造を有する含窒素樹脂粒子を用いることが好ましい。これは、架橋構造を有すると、強度、耐熱性、耐溶剤性などに特に優れるため水性インキ中での吸湿などもせずに安定しているため、経時安定性に優れるため好ましい。さらに前記含窒素樹脂粒子自体の安定性と、含窒素樹脂粒子間の相互的な水素結合性により、長期間凝集構造をとりやすく、インキ漏れを安定して抑制しやすいためである。特に、架橋構造を有する含窒素樹脂粒子の中でも、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂が、最も好ましい、これは、前記会合型増粘剤の疎水性基が吸着しやすく、インキの増粘効率が良く(インキ粘度発現効率が良く)インキ漏れを抑制しやすく、さらに、インキ中で安定しているためである。
【0020】
前記水素結合性官能基を有する有機樹脂粒子について、アミノ基、イミノ基を有するものは、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ナイロン樹脂、ウレタン樹脂などの含窒素樹脂粒子などが挙げられる。カルボキシル基を有するものは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイン酸、スチレン、エチレン、プロピレンなどの各種重合性モノマーから成る単重合または共重合体の重合性樹脂、カルボン酸変性などの変性処理をされたオレフィン樹脂などや、水酸基を有するものとしては、セルロース樹脂やその誘導体などが挙げられる。これらの有機樹脂粒子は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0021】
また、オレフィン系樹脂粒子については、炭化水素化合物であり、無極性であるためにインキ中で凝集が起こりやすく、インキ漏れを抑制しつつ、インキ吐出量の不足などの不具合を起こさないような最適化された凝集構造を形成しやすいためと推測される。さらに、オレフィン系樹脂粒子は高温環境下であっても安定して存在しやすく、高圧環境にあった場合では、変形はしやすく変性はしにくいという特徴を持っているため、ボールとボール座の間に挟まれても安定しているため、ボール座の摩耗抑制として好適に用いることが可能である。
【0022】
また、前記有機樹脂粒子について、水素結合性官能基を有する有機樹脂粒子については、具体的には、エポスターS6(メラミン・ホルムアルデヒド縮合粒子、平均粒子径0.3〜0.6μm)、同S(メラミン・ホルムアルデヒド縮合粒子、平均粒子径0.1〜0.3μm)、同 S12(メラミン・ホルムアルデヒド縮合粒子、平均粒子径1〜2μm)、同MS(ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合粒子、平均粒子径1〜3μm)、同M30(ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合粒子、平均粒子径2.5〜4μm)(以上(株)日本触媒製)、ナイロン SP-500(ナイロン樹脂粒子、平均粒子径5μm)((株)東レ製)、Orgasol 2001−UD−NAT− 1(ナイロン樹脂、平均粒子径5μm)、同2001−EXD− NAT−1(ナイロン樹脂、平均粒子径10μm)、同3501−EXD− NAT−1(ナイロン樹脂、平均粒子径10μm)(以上アルケマ(株)製)、MW-330(ナイロン樹脂、平均粒子径7μm)(住化エンバイロメンタルサイエンス(株)製)、FS−102(平均粒子径0.1μm、スチレン・アクリル樹脂)、FS−106(平均粒子径0.1μm、アクリル樹脂)、FS−107(平均粒子径0.1μm、アクリル樹脂)、FS−201(平均粒子径0.5μm、スチレン・アクリル樹脂)、FS−301(平均粒子径1.0μm、スチレン・アクリル樹脂)、FS−501(平均粒子径0.5μm、アクリル樹脂)、FS−701(平均粒子径0.1μm、フッ素系アクリル樹脂)、MG−351(平均粒子径1.0μ m、スチレン・アクリル樹脂)(以上日本ペイント(株)製)、スミカフレックス951HQ(平均粒子径0.8μm、アクリル樹脂粒子)、スミフィットCK 1D(平均粒子径0.1μm、アクリル樹脂粒子)(以上スミカケムテックス(株))、ケミパールS300(平均粒子径0.5μm、カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂粒子)、ケミパールSA100(平均粒子径1μm、カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂粒子)(以上三井化学(株)製)、アートパールC−600TH(平均粒子径10μm、水酸基付与ウレタン樹脂粒子))((株)根上工業製)、DispersEZ−300(平均粒子径0.3μm、水酸基変性ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子)(テクノケミカル(株)製)、CELLULOBEADS USF(平均粒子径4μm、セルロース粒子)(大東化成工業(株)製)等が挙げられる。また、オレフィン系樹脂粒子については、ノプコPEN-17(ポリオレフィン樹脂、平均粒子径0.01μm)、ノプコマル MS40(ポリエチレン樹脂、平均粒子径 1.0μm)(以上サンノプコ(株)製)、CERAFLOUR950(変性ポリエチレン樹脂、平均粒子径9μm)、同925(変性ポリエチレン樹脂、平均粒子径6μm)、同929(変性ポリエチレン樹脂、平均粒子径8μm)(BYK(株)製)、ケミパールM200(低密度ポリエチレンディスパージョン、平均粒子径6μm)、同W300(低密度ポリエチレンディスパージョン、平均粒子径3μm 、同W900(低密度PEディスパージョン、平均粒子径0.6μm)(以上三井化学(株)製)等が挙げられる。
【0023】
また、前記有機樹脂粒子の含有量について、インキ組成物全量に対し、0.1〜10.0質量%がより好ましい。これは、前記有機樹脂粒子の含有量が、0.1質量%未満だとインキ漏れを抑制しづらく、10.0質量%を越えると、凝集構造が強くなりやすく、書き味やドライアップ性能に影響が出やすいためである。さらに、より考慮すれば、0.1〜5.0質量%が好ましく、最も好ましくは、0.3〜3.0質量%が好ましい。
【0024】
会合型増粘剤については、会合性疎水性基によってポリエステル系、ポリエーテル系、ウレタン変性ポリエーテル系、ポリアミノプラスト系、などが挙げられ、さらにアルカリ膨潤会合型増粘剤、ノニオン会合型増粘剤などが挙げられる。その中でも、アルカリ膨潤会合型増粘剤が好ましい。これは、インキ粘度発現効率が高く、さらに前記有機樹脂粒子に対する吸着性が高く、より架橋構造を形成しやすく、密度の高い三次元構造が形成されるため、インキ漏れ抑制や顔料分散性を向上してインキ経時安定性を向上しやすいためである。
【0025】
また、アルカリ膨潤会合型増粘剤は、アルカリ膨潤性を示す機構としてアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、などのカルボキシル基を有する各種重合性モノマーを含む単量体または共重合体の重合性樹脂が挙げられるが、長期間安定した膨潤性を有することで、インキ漏れ抑制や顔料分散性を向上してインキ経時安定性を向上しやすい効果が期待できるため好ましく、特に、酢酸ビニル、メチルメタリレート及びメタクリル酸の3種の単量体から構成されるものが好ましい。
【0026】
また、アルカリ膨潤会合型増粘剤は、アルカリで中和することにより膨潤するため、アルカリ性のpH調整剤を用いることが好ましい。pH調整剤としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、 N−メチルジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のアルカノールアミンや水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基等が挙げられる。また、アルカリ膨潤会合型増粘剤を用いる場合は、インキ中のpH値は、pH>7としてアルカリ性にして、膨潤安定させるようにすることが好ましい。さらに、着色剤などのインキ成分の安定性を考慮すれば、pH値は10以下が好ましく、よりアルカリ膨潤会合型増粘剤の膨潤性を考慮すれば、pH値は8以上が好ましいため、pH値は8〜10の範囲がより好ましい。
【0027】
また、前記会合型増粘剤については、具体的には、RHEOLATE1、RHEOLATE101、RHEOLATE255、RHEOLATE244、RHEOLATE288、RHEOLATE266、RHEOLATE350などのRHEOLATEシリーズ(エレメンティス社製)、OPTIFLOH370、OPTIFLOH400、OPTIFLOH600、OPTIFLOTVS-VF、OPTIFLOHV80などのOPTIFLOシリーズ(ロックウッド社製)、SNシックナーなどのSNシックナー629N、SNシックナー621N、SNシックナ−660T、SNシックナー612などのSNシックナーシリーズ(サンノプコ(株)社製)などが挙げられる。
【0028】
また、前記会合型増粘剤の含有量について、インキ組成物全量に対し、0.01〜5.0質量%がより好ましい。これは、前記会合型増粘剤の含有量が、0.01質量%未満だとインキ増粘効果が十分でなく、インキ漏れを抑制しづらく、5.0質量%を越えると、インキ粘度が高くなりやすく、ボール座の摩耗を抑制、筆記時の追従性、書き味、ドライアップ性能に影響が出やすいためである。さらに、より考慮すれば、0.1〜2.0質量%が好ましく、最も好ましくは、0.2〜1.0質量%が好ましい。
【0029】
本発明のインキ粘度については、20℃環境下、剪断速度1.92 sec-1で、インキ粘度は、2000mPa・s以下にすることが好ましい、2000mPa・sを越えると、ボール座の摩耗抑制や書き味が劣りやすく、さらにインキ吐出量が少なく、濃い筆跡や良好な筆跡が得られないためである。また、前記インキ粘度が100mPa・s未満だと、インキ粘度が低過ぎて、着色剤(顔料)や有機樹脂粒子の分散安定性が十分でなく、インキ漏れも抑制しづらいため、前記インキ粘度は、100〜2000mPa・sが好ましい。さらに、インキ収容筒の内径を2.3mm以下として、従来よりもインキ収容筒の内径を細くする場合には、全インキ量に対するインキ収容筒の表面積が増大してインキ収容筒の内壁に対する抵抗が大きくなることや、経時によりインキ中の水分が蒸発しやすく、インキ増粘が起こりやすいなどにより、インキの追従性が劣りやすいため、インキ粘度は、1000mPa・s以下にすることが好ましい。そのため、インキ粘度は、20℃、剪断速度1.92sec−1において、100〜1000mPa・sの範囲が好ましい。
【0030】
前記有機樹脂粒子については、平均粒子径が小さい方が、お互い密着して、微弱な凝集構造をとりやすく、インキ漏れを抑制しやすいため、10μm以下が好ましく、さらに、6μm以下が好ましく、ボールの回転抵抗を緩和し、ボール座の摩耗を抑制することを考慮すれば、より平均粒径が小さい3μm以下が好ましい。さらに、最も好ましくは1μm以下が好ましい。これは、粒子径が微小化すると、筆記時のボールの回転などにより凝集構造が解砕されやすいため、書き出し性能や書き味などの筆記性能を向上する傾向にある。また、水素結合による凝集構造を形成することから、粒子自体が比較的小さくても巨視的な凝集構造を形成しやすいため、より細かい粒子径を用いても優れたインキ漏れ抑制効果を得ることができる。また、平均粒子径は、レーザー回折法(MICROTRAC9320-X100 Honeywell製)による体積基準法によって求められる。
【0031】
前記有機樹脂粒子の形状については、球状、もしくは異形の形状のものなどが使用できるが、摩擦抵抗を低減することを考慮すれば、球状樹脂粒子が好ましい。ここでいう球状樹脂粒子とは、真球状に限定されるものではなく、略球状の樹脂粒子や、略楕円球状の樹脂粒子などでも良い。
【0032】
本発明で用いる着色剤は、特に限定されないが、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ギオキサジン系、マイクロカプセル、アルミ顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、補色顔料等が挙げられる。染料については、直接染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料、及び各種造塩タイプ染料等が採用可能である。これらの顔料および染料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。特に、本発明のように前記会合型増粘剤を用いる場合は、前記会合型増粘剤の疎水性基が顔料に吸着することで、顔料分散性に有利になる効果もあるため、好適に用いられる。
【0033】
それらの着色剤の中でも、平均粒子径が1μm以下である顔料粒子を用いることが好ましい。これは、本発明のように、前記会合型増粘剤と前記有機樹脂粒子を用いる場合は、前記有機樹脂粒子間に隙間が発生した場合、インキ漏れに影響を及ぼすこともあるので、平均粒子径が1μm以下である顔料粒子によって、前記隙間を埋めることで、インキ漏れ抑制効果がより得られやすいためであり、より考慮すれば、平均粒子径が0.5μm以下である顔料粒子が好ましい。さらに、顔料粒子の形状については、球状、もしくは異形の形状のものなどが使用できるが、摩擦抵抗を低減することを考慮すれば、球状顔料粒子が好ましく、より好ましくは、球状の顔料樹脂粒子である。ここでいう球状顔料粒子とは、真球状に限定されるものではなく、略球状の顔料粒子や、略楕円球状の顔料粒子などでも良い。
また、顔料粒子の平均粒子径は、レーザー回折法(MICROTRAC9320-X100 Honeywell製)による体積基準法によって求められる。
【0034】
また、本発明のように前記会合型増粘剤を用いる場合は、前記有機樹脂粒子と前記顔料粒子との相互作用を考慮すると、前記有機樹脂粒子の平均粒子径をXμm、前記顔料粒子の平均粒子径をYμmとした場合、Y/ X<1.0の関係であることが好ましい、これは、前記有機樹脂粒子同士が密着した時に、前記有機樹脂粒子間に隙間が発生した時に、該隙間を埋めづらく、インキ漏れに影響が出やすいためである。より考慮すれば、Y/X<0.5の関係であることが好ましく、より好ましくは、0.001<Y/X<0.3である。
【0035】
また、インキ漏れを抑制するために、デキストリンを用いることが好ましい、これは、デキストリンを用いることで、ペン先のインキが乾燥時に、皮膜を形成することで、ボールとチップ先端の内壁との間の隙間よりインキ漏れ抑制効果が得られためである。
【0036】
また、デキストリンの重量平均分子量については、5000〜120000がより好ましい。重量平均分子量が120000を超えると、ペン先に形成される皮膜が硬く、ドライアップ時の書き出しにおいて、筆跡がカスレやすい傾向があり、一方、重量平均分子量が5000未満だと、吸湿性が高くなりやすく、ペン先の皮膜が柔らかくなりやすく、インキ漏れ抑制効果を十分に得られづらい傾向があるためである。さらに、重量平均分子量が20000より小さいと、皮膜が薄くなりやすい傾向があるため、重量平均分子量が、20000〜120000が最も好ましい。
【0037】
デキストリンの含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1〜5.0質量%が好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、インキ漏れの効果が十分得られない傾向があり、5.0質量%を越えると、インキ中で溶解しづらい傾向があるためである。よりインキ中の溶解性について考慮すれば、0.1〜3.0質量%が好ましく、よりインキ漏れについて考慮すれば、1.0〜3.0質量%が、最も好ましい。
【0038】
また、水分の溶解安定性、水分蒸発乾燥防止等を考慮し、水溶性溶剤を用いる。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール溶剤、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノール、アリルアルコール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール等のグリコールエーテル系溶剤などが挙げられる。その中でも、本発明で用いる前記樹脂粒子との溶解安定性を考慮すれば、多価アルコール溶剤を用いる方が好ましい。多価アルコール溶剤とは、二個以上の水酸基が脂肪族あるいは脂環式化合物の相異なる炭素原子に結合した化合物である溶剤であり、その中でも、2価または3価の水酸基を有する多価アルコールを少なくとも含有することが、最も好ましい。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0039】
水溶性溶剤の含有量については、溶解性、水分蒸発乾燥防止、にじみ等を考慮すると、インキ組成物全量に対し、0.1〜30.0質量%が好ましく、本発明のように、前記会合型増粘剤を用いる場合は、他の増粘剤とは異なり、水溶性溶剤の含有量を20〜30質量%含有してもインキ漏れが劣りにくいので、幅が広がるため好ましい。さらに、前記水素結合性官能基を有する有機樹脂粒子を用いた場合は、インキ漏れを考慮すれば、20.0質量%以下が好ましい、これは、溶剤による極性によって、前記有機樹脂粒子同士の水素結合を阻害し凝集構造が崩れやすくなる傾向があるためである。
【0040】
また、潤滑性を向上することで、ボールの回転をスムーズにすることで、ボール座の摩耗抑制や書き味を向上しやすくするために、リン酸エステル系界面活性剤、脂肪酸塩などを用いることが好ましい。特に、リン酸基を有するリン酸エステル系界面活性剤を用いる方が、好ましい。これは、リン酸基が金属吸着することで、より潤滑性を向上して、ボール座の摩耗抑制や書き味を向上しやすくするためである。リン酸エステル系界面活性剤の種類としては、スチレン化フェノール系、ノニルフェノール系、ラウリルアルコール系、トリデシルアルコール系、オクチルフェノール系、ヘキサノール系等が上げられる。この中でも、フェニル骨格を有すると立体障害により潤滑性に影響が出やすいため、フェニル骨格を有さないリン酸エステル系界面活性剤を用いる方が、好ましい。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0041】
また、リン酸エステル系界面活性剤の具体例としては、プライサーフシリーズ(第一工業製薬(株))の中から、プライサーフA212C(トリデシルアルコール系)、同A208B(ラウリルアルコール系)、同A213B(ラウリルアルコール系)、同A208F(短鎖アルコール系)、同A215C(トリデシルアルコール系)、同A219B(ラウリルアルコール系)等が挙げられる。また、脂肪酸塩の具体例としては、OSソープ、NSソープ、FR−14、FR−25(花王(株))等が挙げられる。これ等のリン酸エステル系界面活性剤、脂肪酸塩は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0042】
また、顔料粒子を用いてより濃い筆跡とするには、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、ジアルキルスルホコハク酸塩から選ばれる1種以上の界面活性剤を用いることが好ましい。これは、紙に対する浸透性が向上することで、顔料粒子が、紙面上に残り、より濃い鮮明な筆跡が得られるやすいためである。そのため、前記ボールペンチップのボールの軸方向への移動量を15μm以上として、インキ吐出量を多くする仕様の場合、前記界面活性剤を用いることで、より濃い鮮明な筆跡が得られやすい。その中でも、フッ素系界面活性剤を用いるのが好ましい、これは、前記フッ素系界面活性剤は、最も表面張力を低減することが可能で、紙への浸透性も向上しやすいため、濃い筆跡が得られやすいからである。
【0043】
また、シリコーン系界面活性剤は、ポリエーテル変性、メチルスチリル変性、アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、親水性特殊変性、フッ素変性、ジメチル、メチルフェニルなどのシリコーンオイル等が挙げられる。フッ素系界面活性剤は、パーフルオロ基ブチルスルホン酸塩、パーフルオロ基含有カルボン酸塩、パーフルオロ基含有リン酸エステル、パーフルオロ基含有リン酸エステル型配合物、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロ基・親水性基・親油性基含有オリゴマー、パーフルオロ基・親水性基含有オリゴマー、パーフルオロ基・親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物等が挙げられる。その中でも、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物を用いるのが好ましい。これは、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物のフッ素系界面活性剤は、より濃い筆跡になり易くすることが可能なため、好ましく用いることができる。さらに、エチレンオキシド基があると、親水性が強くなるため、水に対して溶解しやすく、経時安定性が安定する傾向にあることも挙げられる。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0044】
また、会合型増粘剤以外に、インキ粘度調整剤として剪断減粘性付与剤を併用しても良い。具体的には、架橋型アクリル酸重合体、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、グアーガム、ローカストビーンガム、λ−カラギーナン、セルロース誘導体、ダイユータンガム等が挙げられ、これらの剪断減粘性付与剤は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0045】
その他の添加剤は、所望により添加剤を含有することができる、具体的には、着色剤の経時安定性やさらに潤滑性を向上させるためにpH調整剤や、アクリル系樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、スチレン−ブタジエン系樹脂エマルジョンなどの定着剤、酸性樹脂などの顔料分散剤、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等の防菌剤、尿素、ソルビット等の保湿剤、ベンゾトリアゾール等の防錆剤、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤などを添加することができる。これらは単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0046】
また、本発明で用いる水性ボールペンについては、前記ボールペンチップのボールの軸方向への移動量については、50μmを越えると、インキの漏れを抑制しづらいため、15〜50μmが好ましく、インキ吐出量を増やして、ボール座の摩耗抑制や書き味の向上や、濃い筆跡にしやすくするには、20μm以上が好ましいため、20〜50μmが好ましく、さらに考慮すれば、25〜45μmが好ましい。前記ボールペンチップのボールの軸方向への移動量(クリアランス)とは、ボールがボールペンチップ本体の縦軸方向への移動可能な距離を示す。
【0047】
また、水性ボールペン用インキ組成物を収容するインキ収容筒については、従来よりも細い内径2.3mm以下のインキ収容筒を用いる場合には、長期間経時後にインキ中の水分が蒸発しやすく、水分蒸発率が高くなりやすい。そのため、インキ増粘が起こり、インキの追従性が劣りやすく、筆跡カスレなどが発生しやすくなるが、本発明のように、前記会合性増粘剤、着色剤、平均粒子径が15μm以下である有機樹脂粒子の3種を併用して用いることで、会合型増粘剤、着色剤、有機樹脂粒子の3種間で巨視的な会合体構造を形成することにより、20℃環境下、剪断速度1.92 sec-1で、インキ粘度を1000mPa・s以下として、より低粘度でも着色剤(顔料)や有機樹脂粒子を長期間安定して分散することができ、さらに、経時後でも前記会合体構造が崩れにくいため、インキ追従性が劣りにくい。上記のようにインキ粘度を1000mPa・s以下とすると、よりインキ追従性には効果的であるため好ましい。
【0048】
次に実施例を示して本発明を説明する
実施例1
顔料分散体(カーボンブラック:平均粒子径0.07μm、固形分量25%)
20.0質量部
水 57.9質量部
水素結合性官能基を有する有機樹脂粒子(エポスターS6:平均粒子径0.6μm)
1.0質量部
多価アルコール(エチレングリコール) 15.0質量部
デキストリン(重量平均分子量:100000) 1.0質量部
尿素 1.0質量部
pH調整剤(トリエタノールアミン) 2.0質量部
潤滑剤(リン酸エステル系界面活性剤) 1.0質量部
防錆剤(ベンゾトリアゾール) 0.5質量部
会合型増粘剤(アルカリ膨潤増粘剤:酢酸ビニル、メチルメタリレート、メタクリル酸の共重合体) 0.6質量部
【0049】
顔料分散体、水、水素結合性官能基を有する有機樹脂粒子、多価アルコール溶剤、デキストリン、尿素、pH調整剤、潤滑剤、防錆剤をマグネットホットスターラーで加温撹拌等してベースインキを作成した。
【0050】
その後、上記作製したベースインキをディスパーで撹拌しながら、会合型増粘剤を投入して均一な状態となるまで充分に混合攪拌して、実施例1の水性ボールペン用インキ組成物を得た。
尚、実施例1のインキ粘度は、ブルックフィールド社製DV−II粘度計(CPE−42ローター)を用いて20℃の環境下で、剪断速度1.92sec−1(回転数0.5rpm)の条件にてインキ粘度を測定したところ、740mPa・sであった。
また、実施例1のpHは、IM−40S型 pHメーターを用いて、20℃にて測定したところ、pH=8.5であった。
【0051】
実施例2〜21
インキ配合を表に示すように変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2〜21の水性ボールペン用インキ組成物を得た。表に、インキ配合および評価結果を示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0052】
比較例1〜 11
インキ配合を表に示すように変更した以外は、実施例1と同様な手順で比較例1〜11の水性ボールペン用インキ組成物を得た。表に、インキ配合および評価結果を示す。
【表4】
【表5】

【0053】
試験および評価
実施例1〜21及び比較例1〜11で作製した水性ボールペン用インキ組成物を、インキ収容筒の先端にボール径が0.7mmのボールを回転自在に抱持し、コイルスプリングなどの弾発部材を具備したボールペンチップ(ボールペンチップのボールの軸方向の移動量30μm)をチップホルダーに介して具備したインキ収容筒内(ポリプロピレン製、内径2.1mm)に充填したレフィル(1.0g)を(株)パイロットコーポレーション製のゲルインキボールペン(商品名:フリクションボールスリム038)に装着して、以下の試験および評価を行った。
耐摩耗試験(ボール座の摩耗抑制)、書き味の評価は、筆記試験用紙としてJIS P3201 筆記用紙Aを用い、以下のような試験方法で評価を行った。
【0054】
インキ漏れ試験:40gの重りをゲルインキボールペンに付けて、ボールペンチップを突出させて下向きにし、ボールペンチップのボールが、ボールペン用陳列ケースの底部に当接させた状態を保ち、20℃、65%RHの環境下に1日放置し、ボールペンチップ先端からのインキ漏れ量を測定した。
インキ漏れ量が10mg未満であるもの ・・・◎
インキ漏れ量が10〜20mgであるもの ・・・○
インキ漏れ量が20mgを越えて、50mg未満のもの ・・・△
インキ漏れ量が50mg以上のもの ・・・×
【0055】
耐摩耗試験:荷重100gf、筆記角度65°、4m/minの走行試験機にて筆記試験後のボール座の摩耗を測定した。
ボール座の摩耗が10μm未満のもの ・・・◎
ボール座の摩耗が10〜20μmのもの ・・・○
ボール座の摩耗が20〜30μmを越えるもの ・・・△
ボール座の摩耗が30μmを越えるもの ・・・×
【0056】
筆跡の濃さ:手書きにより筆記した筆跡を観察した。
濃く鮮明な筆跡であるもの ・・・◎
濃い筆跡であるもの ・・・○
実用上問題ない濃さの筆跡であるもの ・・・△
薄い筆跡のもの ・・・×
【0057】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかであるもの ・・・○
実用上問題ないレベルの滑らかさであるもの ・・・△
重いもの ・・・×
【0058】
経時安定性試験:ゲルインキボールペンを50℃の環境下、1ヶ月間放置後に、手書きにより筆記を行い、経時前の初期のゲルインキボールペンの筆跡などを比較した。
初期と同等レベルで、筆跡が良好であるもの ・・・◎
初期と比べると、筆跡に若干カスレが出るが、問題ないもの ・・・○
初期と比べると、筆跡にカスレが出るが、実用上問題ないレベルのもの ・・・△
初期と比べると、筆跡にカスレがひどかった、又は顔料分散の崩れがひどく、筆記不良になるもの ・・・×
【0059】
表の結果より、実施例1〜21では、インキ漏れ試験、耐摩耗試験、筆跡の濃さ、書き味、経時安定性試験ともに良好レベルの性能が得られた。尚、実施例1〜21の水性ボールペン用インキ組成物を用いて、コイルスプリングなどの弾発部材を具備しないボールペンチップ仕様に変更したゲルインキボールペンで試験したところ、インキ漏れ試験、耐摩耗試験、筆跡の濃さ、書き味ともに良好レベルの性能が得られた。
【0060】
実施例1のメラミン・ホルムアルデヒド樹脂を用いたインキ粘度と、実施例7、8のオレフィン系樹脂粒子を用いたインキ粘度とを比較すると、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂は、インキ粘度を高くする効果があるため、少量でインキ漏れを抑制することができることが分かった。
【0061】
さらに、実施例1〜21の水性ボールペン用インキ組成物を用いて、ボール径を1.0mmとしたボールペンチップ仕様に変更したゲルインキボールペンで試験したところ、インキ漏れ試験、耐摩耗試験、筆跡の濃さ、書き味、経時安定性試験ともに良好レベルの性能が得られた。そのため、ボール径が0.9mm以上のボールを用いて、インキ吐出量を多くする場合では、ボールとチップ先端の内壁との間に隙間が大きく、インキ漏れの影響が発生しやすいが、本発明の効果は顕著であり、好適に用いられる。
【0062】
表の結果より、比較例2〜7では、会合型増粘剤を用いなかった結果、比較例2〜5は経時安定性試験において、顔料分散の崩れがひどく、顔料沈降が発生し、実用上問題となるレベルであった、比較例6、7は、インキ追従性が劣り、初期と比べると、筆跡にカスレがひどく実用上問題となるレベルであった。
詳細には、比較例2〜5においては、増粘剤としてガム型増粘剤、高分子型増粘剤を用いたため、同程度の粘度でも増粘剤と着色剤および有機微粒子との相互作用が発現せず、インキの漏れ抑制効果が劣り、経時安定性試験において顔料沈降が発生した。
【0063】
表の結果より、比較例1、3、5では、平均粒子径が15μm以下の有機樹脂粒子を用いなかったため、インキ漏れがひどく、実用上問題となるレベルであった。
【0064】
比較例8では、ボールペンチップのボールの、軸方向への移動量が15μm未満であったため、インキ吐出量が少なくなってしまい、薄い筆跡になってしまった。
【0065】
比較例9〜11では、無機粒子や平均粒子径が15μmを越える有機樹脂粒子であるため、行った試験は、全体的に実用上問題となるレベルであった。
【0066】
一般的に水性ゲルボールペンのボールペンチップは、インキ漏れ抑制するために、ボールペンチップ先端に回転自在に抱持したボールを、コイルスプリングなどの弾発部材により直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボールに間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備し、チップ先端の微少な間隙も非使用時に閉鎖してあるが、本発明のようにインキの漏れ出しを抑制効果が特段に高い水性ボールペン用インキ組成物を用いると、前記コイルスプリングなどの弾発部材がなくても、インキ漏れを抑制できる。そのため、ボールと弾発部材との抵抗がなくなり、書き味が向上し、インキの流動性も向上することで、インキ追従性も向上し、さらに部品点数の低下に繋がり、コストを抑制することが可能となり、より効果的である。特に、出没式等のボールペンでは、インキ漏れの抑制については、より重要視されているので、好適に用いることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、水性ボールペン用インキ組成物として利用でき、さらに詳細としては、該水性ボールペン用インキ組成物を充填した、キャップ式、出没式等のボールペン、マーカー、万年筆などとして、広く利用することができる。