特許第6537863号(P6537863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6537863
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】腹膜透析装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/28 20060101AFI20190625BHJP
【FI】
   A61M1/28 110
   A61M1/28 130
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-64325(P2015-64325)
(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公開番号】特開2016-182255(P2016-182255A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2018年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(72)【発明者】
【氏名】筒井 裕一
(72)【発明者】
【氏名】國分 友隆
(72)【発明者】
【氏名】清水 伸孝
【審査官】 寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−167040(JP,A)
【文献】 特表2007−529282(JP,A)
【文献】 特開2009−011667(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0025449(US,A1)
【文献】 特開2013−202231(JP,A)
【文献】 特開2003−024435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析液バッグから供給される透析液を加温部において加温し該加温された透析液を腹腔に注入するよう構成された腹膜透析装置であって、
ダイアフラムポンプを押圧して前記加温部に透析液を充填するプライミング動作又は前記ダイアフラムポンプから前記加温部への送液路における透析液漏れを検査するリークチェック動作の少なくとも一方の動作の完了後、前記加温部に存在する透析液の少なくとも一部を該加温部以外の所定の場所に移動するよう制御する前処理手段と、
前記前処理手段による前記移動の後、透析液を前記加温部を介した腹腔への注入を開始するよう制御する送液手段と、を有し、
前記所定の場所は、前記透析液バッグ、又は、前記ダイアフラムポンプから前記透析液バッグへの送液路である
ことを特徴とする腹膜透析装置。
【請求項2】
前記前処理手段は、前記ダイアフラムポンプを利用して前記加温部に存在する透析液の少なくとも一部を吸引し、該ダイアフラムポンプを利用して該吸引した透析液を前記所定の場所に送液する
ことを特徴とする請求項1に記載の腹膜透析装置。
【請求項3】
前記前処理手段は、前記加温部からの透析液の吸引及び前記所定の場所への透析液の送液を複数回実行する
ことを特徴とする請求項2に記載の腹膜透析装置。
【請求項4】
前記加温部は、透析液の入口となる入口部と透析液の出口となる出口部とを有しており、
前記前処理手段は、前記プライミング動作及び前記リークチェック動作においては前記入口部を介して透析液を前記加温部に送液し、前記加温部からの透析液の吸引においては前記出口部を介して透析液を前記加温部から吸引する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の腹膜透析装置。
【請求項5】
前記ダイアフラムポンプ、前記入口部、前記出口部、前記透析液バッグへの接続チューブ、前記腹腔への接続チューブは、クランプによる1か所以上の押圧により流路を設定可能な流路切替部を介して接続されている
ことを特徴とする請求項に記載の腹膜透析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹膜透析装置における送液技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自宅等で患者自身が腹膜透析を行えるように構成された腹膜透析装置が普及してきている。例えば、特許文献1には、腹膜透析液を送液するためのダイアフラムおよび加温チューブが一体的に形成されたカセットを利用する腹膜透析装置が開示されている。ところで、腹膜透析において、患者の腹腔内に適切な量の腹膜透析液を正確に注入することは、治療効果を向上させるために重要なことである。そこで、特許文献1には、注入された腹膜透析液の量を測定する手法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−167935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、腹膜透析装置において、タイダール法や小児患者への適用が検討されている。これらの適用を対象とする場合、腹腔への腹膜透析液の注入排出量は、これまでと比較して少量であるため、腹膜透析装置における送液量の誤差の影響が相対的に大きくなることになる。そのため、より正確に送液量をコントロール可能とする技術の実現が期待されている。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、より正確な腹膜透析液の送液を可能とする技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の問題点を解決するため、本発明に係る腹膜透析装置は以下の構成を備える。すなわち、透析液バッグから供給される透析液を加温部において加温し該加温された透析液を腹腔に注入するよう構成された腹膜透析装置において、ダイアフラムポンプを押圧して前記加温部に透析液を充填するプライミング動作又は前記ダイアフラムから前記加温部への送液路における透析液漏れを検査するリークチェック動作の少なくとも一方の動作の完了後、前記加温部に存在する透析液の少なくとも一部を該加温部以外の所定の場所に移動(ただし、腹腔への注入を除く)するよう制御する前処理手段と、前記前処理手段による前記移動の後、透析液を前記加温部を介した腹腔への注入を開始するよう制御する送液手段と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、より正確な腹膜透析液の送液を可能とする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る腹膜透析装置およびカセットを示す図である。
図2】カセットを含む送液路の接続構成を説明する図である。
図3】流路切替部の構成の一例を示す図である。
図4】第1実施形態に係る腹膜透析装置の機能ブロックを示す図である。
図5】ダイアフラムポンプを押圧するポンプ室の断面を示す図である。
図6】透析液の送液手順の概略を示すフローチャートである。
図7】ポンピング1回あたりの送液量に起因する送液誤差及びその低減方法を説明する図である。
図8】プライミング及びリークチェックに伴う加温チューブ103における透析液の状態を例示的に示す図である。
図9】複数のパラメータセットを含むテーブルを例示的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を詳しく説明する。なお、以下の実施の形態はあくまで例示であり、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。
【0010】
(第1実施形態)
本発明に係る腹膜透析装置の第1実施形態として、取替え可能カセットを利用する腹膜透析装置を例に挙げて以下に説明する。
【0011】
<1.装置構成>
図1は、第1実施形態に係る腹膜透析装置およびカセットを示す図である。ここでは、本発明に関する部分についてのみ説明を記載する。
【0012】
腹膜透析装置100には、腹膜透析液を腹腔に注入するためのカセット101が装着される。また、腹膜透析装置100は、カセット装着部106、操作部107a、107b及び表示部108を含む。カセット101は、ポンプであるダイアフラムポンプ102、加温チューブ103、流路切替部104及び接続チューブ105を含む。接続チューブ105についての詳細は、図2を参照して後述する。
【0013】
カセット装着部106には、カセット101が装着される。操作部107a、107bは、例えば、ユーザ(患者)が腹膜透析を開始する際の開始指示や、腹膜透析を終了する際の終了指示を入力するために使用される。表示部108は、ユーザ(患者)に情報を報知するものであり、例えば、腹膜透析装置100の動作状態を報知する。ここで、動作状態とは、例えば、腹腔に透析液を注入する注入処理や腹腔から透析液を排液する排液処理の実施中、終了などの状態を示す。
【0014】
カセット101は、ダイアフラムポンプ102、加温チューブ103、流路切替部104及び接続チューブ105を含んでいる。
【0015】
ダイアフラムポンプ102は、膨張/収縮することにより、透析液を送液するポンプとして機能する。ダイアフラムポンプ102は、フランジ部材により密閉状態で収容され、外部から空気圧で減圧加圧されることにより、張圧・押圧される。なお、空気圧のほかに、ダイアフラムポンプ102の表面にピストンなどを配置し、これらを引き押しすることによっても、張圧・押圧され得る。これにより、ダイアフラムポンプ102は、透析液を送液するために、張圧されると膨張し、押圧されると縮小されるように構成されている。張圧及び押圧に伴うダイアフラムポンプ102の動作については、図5を用いて後述する。
【0016】
加温チューブ103は、加温チューブ103内を流れる透析液を加温する。具体的には、加温チューブ103は、腹膜透析装置100に配置されるヒータにより挟み込まれることにより、透析液を加温する。加温チューブ103内には、例えば、最大で40mL程度の透析液が収容される。
【0017】
流路切替部104は、カセット101に張り巡らされたチューブにおいて、透析液の流路を切替える。例えば、腹膜透析装置100に配置される1以上のクランプにより流路切替部104内のチューブの1以上の箇所を押圧することにより流路を切り替える。主に、流路切替部104は、注液処理用又は排液処理用の流路に切替える。例えば、注液処理用の流路は、後述する透析液バッグに収容されている透析液を注入する場合、透析液バッグ、ダイアフラムポンプ102、加温チューブ103、カセット101に接続された透析カテーテルの順で通じる流路となる。一方、排液処理用の流路とは、透析カテーテル、流路切替部104の排液処理用のチューブ、ダイアフラムポンプ102、後述する排液処理タンク202の順で通じる流路となる。
【0018】
さらに、流路切替部104は、加温チューブ103からチューブに腹膜透析液が流れ出る流路を開口又は遮断する。例えば、流路切替部104は、腹膜透析を行う場合に当該流路を開口し、腹膜透析が終了した後に当該流路を遮断する。また、この遮断は、加温チューブ103内に透析液を充填するプライミング動作や、流路における透析液の漏れを検出するリークチェック動作においても実施される。なお、ここでは、流路を開口又は遮断する流路切替部104は、クランプによって形成されるものとして説明するが、流路切替部104は、他の手法で流路を切り替える構成であってもよい。
【0019】
上述したダイアフラムポンプ102、加温チューブ103、及びカセット101に張り巡らされたチューブの構成材料としては、それぞれ、軟質の樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリ−(4−メチルペンテンー1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の各種熱可塑性エラストマー、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(例えば2層以上の積層体として)用いることができる。
【0020】
図2は、カセットを含む送液路の接続構成を説明する図である。ここでは、図1で説明した構成に加えて、接続チューブ105に接続される要素について説明する。したがって、図1と同一の要素については、同一の番号を付し、説明を省略する。
【0021】
カセット101には、接続チューブ105によって、透析カテーテル201、透析液バッグ203a、203b及び排液処理タンク202が接続される。透析カテーテル201は、カセット101に接続された一方の端部と、腹腔204に接続されるように構成された他方の端部とを有するチューブである。カセット101は、この透析カテーテル201を介して、腹腔204に透析液を注入する注液処理及び腹腔204から透析液を排出する排液処理を行う。透析液バッグ203a、203bは、患者の腹腔204内に注入される透析液を収容する。排液処理タンク202は、患者の腹腔204内から排出される使用済みの透析液を収容する。
【0022】
流路切替部104には、複数の開口部が設けられており、カセット101が腹膜透析装置100に装着された状態で、腹膜透析装置100のクランプが作動されることで、当該開口部を介して、流路切替部104内の注液路や排液路の所定の位置がクランプされることとなる。
【0023】
図3は、流路切替部の構成の一例を示す図である。図3において、C1〜C8で示されている矩形は腹膜透析装置100のクランプにより閉塞が制御される位置を示している。C1〜C8の1以上の箇所がクランプにより同時に閉塞されることにより、所定の流路が設定されることになる。
【0024】
ダイアフラムポンプ102は、カセット101に設けられた開口部を介して、外部から張圧・押圧されるよう構成されている。これにより、カセット101が腹膜透析装置100に装着された状態で、腹膜透析装置100のポンピング作動部をポンピング作動させることで、ダイアフラムポンプ102は膨張/収縮を繰り返す、すなわちダイアフラムポンプ102を含むポンプ室内部を加圧状態と減圧状態との間で変化を繰り返すこととなる。この結果、透析液の送液が制御されることとなる。
【0025】
加温チューブ103の流路の両端は、それぞれが流路切替部104に接続されている。ここでは、流路切替部104の透析液は、入口部である一端を介して加温チューブ103内部に注入され、出口部である他端を介して流路切替部104に戻ることとなる。
【0026】
なお、加温チューブ103は、カセット101の外側に開口部を介して露出して配置される。これにより、カセット101が腹膜透析装置100に装着された状態で、腹膜透析装置100の面ヒータが、加温チューブ103を加温することが可能となる。
【0027】
図4は、第1実施形態に係る腹膜透析装置の機能ブロックを示す図である。ここでは、腹膜透析装置100の主要な機能ブロックについてのみ記載しているが、他の機能ブロックを含んでもよい。
【0028】
腹膜透析装置100は、CPU401、操作部107a、107b、電源回路403、流量制御部404、記憶部405、流量測定部406、切替制御部408、ヒータ制御部409、ヒータ411及びポンピング作動部410を含む。CPU401は、例えば記憶部405に記憶された制御プログラムを実行することにより、各機能ブロックを統括的に制御する。
【0029】
操作部107a、107bは、図1に示すように、腹膜透析装置100の外面に配置され、操作者からの入力を受け付けて、CPU401に通知する。例えば、操作部107a、107bは、腹膜透析を開始する際に、操作者によって治療の開始を指示するために使用される。電源回路403は、CPU401へ電力を供給する。流量制御部404は、予め指定された量(送液目標量)の透析液をダイアフラムポンプ102によって送液させるように制御する。記憶部405は、CPU401により実行される各種制御プログラムや、腹膜透析を行うために必要となる各パラメータを予め記憶している。
【0030】
切替制御部408は、流路切替部104を制御することにより、透析液の流路を制御する。ヒータ制御部409は、ヒータ411の温度を制御する。ポンピング作動部410は、ダイアフラムポンプ102を含むポンプ室を減圧又は加圧することにより、ダイアフラムポンプ102への張圧・押圧を制御して、透析液の送液を制御する。したがって、流量制御部404は、腹膜透析の際に送液する透析液の量に応じて、ポンピング作動部410に対し、ダイアフラムポンプ102の張圧・押圧制御を指示することとなる。
【0031】
第1実施形態によれば、流量測定部406は、腹腔に注入された透析液の量を測定する。例えば、流量測定部406は、透析液の腹腔への注入開始から注入終了までの間、ダイアフラムポンプ102から送液された透析液の量を1回の押圧ごとに算出し積算する。
【0032】
また、CPU401には、カセット101に配置された温度センサ412及び気泡センサ413からの信号が入力される。温度センサ412は、腹膜透析装置100内に配置される1以上の温度センサである。例えば、腹腔に注入される透析液の温度制御を適切に行うべく、透析液バッグからダイアフラムへ送液される透析液の温度(加温前の温度)、加温チューブから透析カテーテル201へ送液される透析液の温度(加温後の温度)、を計測する。なお、温度センサ412は、応答速度が極めて速いサーモパイル型赤外線センサ(非接触型の温度センサ)を用いることが望ましい。これにより、ヒータ制御部409は、ヒータの温度を高精度に制御することができる。気泡センサ413は、流路切替部104における透析液の入り口側及び出口側に配置され、透析液中の気泡を検知する。
【0033】
<2.装置の概略動作>
上述したように、腹膜透析装置100は、ダイアフラムポンプ102を含むポンプ室内部を加圧状態と減圧状態との間で変化させることで透析液の送液を行う。例えば、注液処理を行う場合、まず、切替制御部408は、透析液バッグ203aとダイアフラムポンプ102とが流路切替部104によって連通された状態に設定し、ポンピング作動部410は、減圧を行う。これにより、ダイアフラムポンプ102には、透析液バッグ203aから透析液が流れ込む。次に、切替制御部408は、ダイアフラムポンプ102と加温チューブ103とが流路切替部104によって連通された状態で、加圧する。これにより、ダイアフラムポンプ102内に蓄積された透析液が加温チューブ103に押し出され、送液が行われる。
【0034】
<2.1.送液量の算出>
腹膜透析装置100の流量測定部406は、透析液の注液処理を行っている間、ダイアフラムポンプ102のポンピング動作に応じて、送液した透析液の量を算出により導出する。これは、ボイル・シャルルの法則に従って導出される。図5を参照して、ダイアフラムポンプ102から送液された透析液の量を測定する方法について説明する。
【0035】
図5は、ダイアフラムポンプを張圧・押圧するポンプ室510の断面を示す図である。チューブ501内では、矢印504に示すように、供給する場合と送液する場合とで透析液503の流れが変わる。
【0036】
図5(a)は、ダイアフラムポンプ102内に透析液503が充填された様子を示している。透析液503の充填は、ダイアフラムポンプ102と透析液バッグ203aとが連通した状態で、ポンプ室510を減圧することにより、ダイアフラムポンプ102を張圧することで行われる。ダイアフラムポンプ102は、ソフトな材質で形成された膜502を含む。したがって、ダイアフラムポンプ102内に透析液503が充填されると、図5(a)に示すように、膜502が膨張するため、ダイアフラムポンプ102内の体積は増大し、ポンプ室510内の体積はV1となる。
【0037】
透析液503が充填されると、ダイアフラムポンプ102と加温チューブ103とが連通した状態で、ポンプ室510に圧力(空気圧)P1を加えることにより、ダイアフラムポンプ102を押圧することで、流路切替部104内のチューブを介して加温チューブ103に透析液503を送液する。
【0038】
図5(b)は、ダイアフラムポンプ102内に充填された透析液503を送液した後の様子を示す。圧力P1が加えられると、膜502は、透析液503が充填されたダイアフラムポンプ102内の方に押されて、透析液503を流路切替部104内のチューブの方向へ送り出す。また、膜502の位置が移動することによって、図5(b)に示すように、ポンプ室510内の体積がV2となる。
【0039】
ここで、V1<V2という条件式が成り立つ。また、ボイル・シャルルの法則では、PV/Tは常に一定となる。ここで、腹膜透析を行う際のダイアフラムポンプ102付近の温度(絶対温度)を、ほぼ一定と仮定すると、PVが一定(ボイルの法則)となる。即ち、ポンプ室510内の体積がV1からV2に増大すると、圧力P1は、圧力P2に低下することとなる。
【0040】
この原理を利用して、流量測定部406は、送液した透析液の量を導出する。具体的に手順を説明すると、流量測定部406は、ポンピングによる送液が実施されている間、圧力を圧力センサを用いて測定している。上述したように、圧力P1は、ダイアフラムポンプ102内に透析液503が充填されている状態で、加圧した時点の圧力となる。また、圧力P2は、ダイアフラムポンプ102内の透析液503が全て流れ出た状態の圧力P1から低下した圧力となる。したがって、測定部407は、圧力センサが圧力P2を検出すると、ダイアフラムポンプ102内の体積に相当する容量の透析液503を送液したと測定する。
【0041】
例えば、腹膜透析装置100は、圧力P1を140mmHg(18.7kPa)とし、圧力P2を50mmHg(6.7kPa)として、記憶部405に予め格納している。したがって、流量測定部406は、格納されている圧力P1及び圧力P2の間で、圧力の変化を測定することとなる。
【0042】
<3.送液制御の概略>
図6は、透析液の送液手順の概略を示すフローチャートである。以下に記載される手順は、CPU401が統括的に制御を行う。なお、以下の処理は、装置の接続設定(透析液バッグ203a、透析カテーテル201のカセット101への接続や、当該カセット101の腹膜透析装置100へのセット)及びユーザからの送液設定(送液する透析液の量の設定など)が完了し、ユーザによる操作部107a、107bの操作による透析動作の開始指示に基づいて開始される。
【0043】
ステップS601では、CPU401は、加温チューブ103に透析液を充填するプライミング動作を実施するよう制御する。具体的には、切替制御部408を制御して、流路切替部104において加温チューブ103への経路を設定する。その後、ポンピング作動部410を制御して、ダイアフラムポンプ102を押圧し、加温チューブ103に透析液を充填する。
【0044】
ステップS602では、CPU401は、ダイアフラムポンプ102から加温チューブ103への送液路における透析液の漏れを検査するリークチェック動作を実施するよう制御する。具体的には、ポンピング作動部410を制御して、ダイアフラムポンプ102を更に押圧し、加温チューブ103方向に透析液を押し込む。なお、リークチェック動作において漏れが検出された場合は、エラー終了する。なお、ステップS601とステップS602とは、順番が逆になっても、またはどちらか一方を行うものであっても良い。
【0045】
ステップS603では、CPU401は、ポンピング作動部410を制御し、ダイアフラムポンプ102のポンピングによる送液を行う。具体的には、切替制御部408を制御して、流路切替部104においてダイアフラムポンプ102と透析液バッグ203aとが連通するよう設定する。その後、ポンピング作動部410を制御し、ダイアフラムポンプ102内に透析液を吸引する。更に、切替制御部408を制御して、流路切替部104において加温チューブ103を経由した透析カテーテル201への経路を設定する。その後、ポンピング作動部410を制御し、ダイアフラムポンプ102のポンピングを押圧する。
【0046】
ステップS604では、CPU401は、流量測定部406は、S603でのポンピング動作による送液量を算出する。具体的には、ダイアフラムポンプ102の圧力を監視して、送液された透析液の量を算出する。上述したように、この算出は、ボイル・シャルルの法則に従ってなされる。なお、S605を経由した2回目以降のループにおいては、先行するループまでに送液された透析液の量に現在のループでの送液量を加算して得られる積算値を併せて算出する。
【0047】
ステップS605では、CPU401は、送液目標量の透析液を送液したか否かを判定する。送液目標量の透析液を送液した場合は送液処理を終了し、送液していない場合はS603に進む。
【0048】
このようにして、送液目標量の透析液が患者の腹腔に注入されることになる。ところで、図6に示す送液手順においては、いくつか送液誤差を生じる可能性がある動作が含まれる。具体的には以下の3つの点において送液誤差が生じうると考えられる。
(I)ポンピング(S603)1回あたりの送液量に起因する送液誤差。
(II)プライミング(S601)及びリークチェック(S602)において加温チューブ103に注入された透析液に起因する誤差。
(III)温度の不均一性に依存する送液量の算出(S604)誤差。
【0049】
そこで、以下ではこれらの3つの点に関して送液誤差を低減する手法について説明する。
【0050】
<3.1.(I)ポンピング(S603)1回あたりの送液量に起因する送液誤差の低減>
上述したように、腹膜透析装置100は、カセット101のダイアフラムポンプ102を繰り返し押圧することにより送液目標量の透析液を患者の腹腔に送液する。そのため、図5に示すように送液の最小単位はダイアフラムポンプ102内の容積となる。
【0051】
図7(a)は、ポンピング(S603)1回あたりの送液量に起因する送液誤差を説明する図である。ここでは、送液目標値から押圧1回の送液量相当分(ここではダイアフラムポンプ102内の容積である18mL)だけ少ない量を閾値として設定し、送液積算値が当該閾値を超えた場合に、後続する1回の押圧を最後の押圧と決定する制御における例を示している。このような制御の場合、図7(a)の上段の「最悪ケース」で示される送液パターンの場合、ほぼ18mLの送液超過が発生することになる。
【0052】
例えば、容積の小さいダイアフラムポンプを利用することにより、送液誤差を低減することは可能であるが、その場合、送液完了までにより長い時間を要することになる。そこで、ここでは、ダイアフラムポンプ102の押圧量を小さくし1回あたりの送液量を少なくすることを考える。なお、ダイアフラムポンプ102の押圧量の制御は、例えば、陽圧タンクとポンプ室とを接続するバルブの開放時間(すなわち1回の押圧期間の長さ)を変更することにより実現される。
【0053】
図7(b)は、送液誤差を低減する制御を説明する図である。図に示されるように、送液目標値から所定量だけ少ない第1閾値を設定し、当該第1閾値を超えた場合に、ダイアフラムポンプ102への押圧を、先行する押圧における第1の押圧量(ここでは18mL相当の押圧量)より少ない第2の押圧量(ここでは4mL相当の押圧量)に変更する。なお、ダイアフラムポンプ102の応答性などを考慮し、送液目標値から、第2の押圧量による送液量の2倍から10倍の量(図7(b)においては7.5倍としている)だけ少ない値を第1閾値として設定するとよい。一方、第1閾値を、送液目標値に依存した値(例えば、目標値の80%など)として設定してもよい。
【0054】
なお、第2の押圧量への変更後は、図7(a)の場合と同様に、送液目標値から押圧1回の送液量相当分(ここでは4mL)たけ少ない量を第2閾値として設定し、送液積算値が当該第2閾値を超えた場合に、後続する1回の押圧を最後の押圧と決定する。
【0055】
このような制御を行うことにより、送液の最小単位が小さくなるため、結果として送液誤差が低減されることになる。例えば、上述の例では、送液誤差の最大値が18mL(図7(a)の上段の「最悪ケース」)から4mL(図7(b)の上段の「最悪ケース」)に低減されることになる。また、第2の押圧量への変更前においては送液速度は従来と同様であり、送液速度が低下する第2の押圧量への変更後はわずかの時間であるため、送液完了までに長時間を要することもないという利点がある。
【0056】
なお、上述の説明においては、第1閾値を設定し当該第1閾値を超えた場合に、第2の押圧量に変更するとして説明した。ただし、指定された送液目標量が少ない場合のみ上述の制御を行い、送液目標量が多い(例えば1000mL以上)場合には押圧量の変更を行わないように制御してもよい。例えば、送液目標量が所定の量以上である場合、送液積算値が、第1閾値を超えた場合であっても、ダイアフラムポンプへの押圧を第2の押圧量に変更せず、送液積算値が、送液目標量から第3の所定量だけ少ない第3閾値を超えた場合に、後続する1回の押圧を最後の押圧と決定し、最後の押圧の完了後、押圧制御を停止させる。ここで、第3の所定量は、第1の押圧量により送出される透析液の量と同程度の量が設定される。
【0057】
<3.2.(II)プライミング(S601)及びリークチェック(S602)において加温チューブ103に注入された透析液に起因する誤差の低減>
上述したように、腹膜透析装置100は、患者の腹腔への透析液の送液に先立って、プライミング(S601)及びリークチェック(S602)を行う。
【0058】
図8は、プライミング(S601)及びリークチェック(S602)に伴う加温チューブ103における透析液の状態を例示的に示す図である。なお、図8における流路切替部104の黒色矩形は、クランプによりチューブの閉塞が行われていることを示している。
【0059】
図6を参照して説明したように、プライミング(S601)においては加温チューブ103に透析液を充填し、リークチェック(S602)においては、加温チューブ103に透析液を更に加圧して押し込むことになる。そのため、リークチェックのあと、ポンピング(S603)を開始する場合、加温チューブ103に残留する透析液の量だけ送液過多となる。加温チューブ103の容量(例えば40mL)の全てが誤差となるわけではないものの、リークチェック(S602)の加圧により加温チューブ103に透析液相当量については、加温チューブ103から透析カテーテル201への経路の閉塞を解除したとたん、加温チューブ103の内圧により透析カテーテル201内に透析液が漏れ出す可能性が高い。例えば、10〜20mLの透析液が漏れ出し、送液超過につながる。
【0060】
そこで、図8の状態803〜804に示すように、加温チューブ103内に残存する透析液をダイアフラムポンプ102により吸引し、吸引した透析液を、透析液バッグ203a、又は、ダイアフラムポンプ102から透析液バッグ203aへの送液路に送液する。すなわち、加温チューブ103内に残存する透析液を、送液制御に影響しない他の場所に移動する。なお、加温チューブ103内に残存する透析液をダイアフラムポンプ102により吸引する際には、状態803に示すように、プライミング及びリークチェックにより透析液を注入した入口部とは異なる出口部を介して吸引するとよい。
【0061】
上述のように、ダイアフラムポンプ102の容積(ここでは18mL)が加温チューブ103の容量(ここでは40mL)より小さい場合は、吸引動作(状態803)と送液動作(状態804)を複数回実行してもよい。ただし、加温チューブ103内に残存する透析液の全てを移動する必要は無く少なくとも一部を移動すれば、送液誤差は低減されるため、吸引動作(状態803)と送液動作(状態804)を1回のみ実行するよう制御してもよい。
【0062】
また、送液誤差は低減されるため、プライミング又は(プライミングの動作とリークチェックの動作との順番が逆になった場合は)リークチェックの後に実行するものであっても良い。なお、プライミングの動作とリークチェックの動作のどちらか一方のみを行うものである場合には、それらの動作の後に実行すれば良い。
【0063】
なお、図8の状態803においては吸引した透析液を透析液バッグ203aへ移動する例を示しているが、他の場所、例えば、排液処理タンク202に移動するよう制御してもよい。
【0064】
このような制御を行うことにより、加温チューブ103内に残留する透析液が透析カテーテル201に漏れ出す量を低減させることが可能となり、結果として送液誤差が低減されることになる。
【0065】
<3.3.(III)温度の不均一性に依存する送液量の算出(S604)誤差の低減>
図5を参照して説明したように、流量測定部406は、ダイアフラムポンプ102周辺の温度(絶対温度T)は均一(一定)であると仮定し、ボイルの法則に基づき圧力(P)×体積(V)=一定であるとして送液量を算出していた。しかし、実際には、季節や時刻、あるいは空調に依存して腹膜透析装置100の周辺温度は変化する。また、腹膜透析装置100の動作に伴い、装置内温度も変化する。そのためダイアフラムポンプ102周辺の温度は一定であると仮定した計算式では、送液量の計算に許容できない誤差が発生する可能性がある。例えば、温度差が20度(陽圧タンクの温度は例えば10℃、透析液温度は例えば30℃)の場合、誤差が5%程度発生することが分かっている。
【0066】
そこで、ダイアフラムポンプ102に関わる温度として、
・ダイアフラムを押圧する気体の温度(Tt)(陽圧タンクに格納された気体の温度)
・加温前の透析液温度(Te)(透析液バッグ203aからダイアフラムポンプ102に供給される透析液の温度)
を取得し、流量測定部406は、これらの温度に基づいて送液量を補正し算出する。
【0067】
具体的には、ダイアフラムを押圧する気体の温度を取得するため、温度センサ412として、ダイアフラムの押圧に利用する陽圧タンクの温度を計測する温度センサをさらに含むよう構成される。なお、加温前の透析液温度については、ヒータ制御部409における加温制御においても利用される既存の温度センサを利用するとよい。
【0068】
この場合、圧力(P)×体積(V)=一定であると仮定した場合に算出される送液量は以下の算出誤差を有している。
【0069】
算出誤差 = K×(Te−Tt)+L×Tt+c (式1)
(K,L,cは所定の定数)
この式は、Te及びTtに関する式として書き下すと
算出誤差 = a×Te+b×Tt+c (式2)
(a,b,cは所定の定数)
となる。
【0070】
そこで、a,b,cの値のセットについては予め実験的に求めておき、ROMなどの記憶部405に予めパラメータセットとして記憶しておくとよい。そして、流量測定部406は、測定した温度(Te及びTt)と所定のパラメータセットを(式2)に代入して算出誤差を算出し、圧力(P)×体積(V)=一定であると仮定した場合に算出される送液量を補正(補償)する補正演算を行い、より正確な送液量を算出するとよい。
【0071】
なお、a,b,cの値のセットは、例えば、上述の(3.1.)節において述べたポンピング1回あたりの送液量の変化などに依存して、適切な値が変化する。そのため、腹膜透析装置100が有する互いに異なる複数の送液動作に対応する複数のパラメータセットを用意しておくとよい。また、カセット101に複数の種類が有る場合は、カセットの種別毎にパラメータセットを用意するとよい。
【0072】
図9は、記憶部405が予め複数のパラメータセットをテーブルとして記憶している状態を例示的に示している。
【0073】
以上説明したとおり第1実施形態によれば、送液手順において生じる送液誤差を低減することが可能となる。その結果、患者の腹腔内に適切な量の腹膜透析液をより正確に注入することが可能となり、治療効果が向上することが期待できる。
【0074】
なお、第1実施形態においては3つの送液誤差低減の手法について説明したが、これらは組み合わせて利用してもよいし単独で利用するよう構成しても良い。
【符号の説明】
【0075】
100 腹膜透析装置
101 カセット
102 ダイアフラムポンプ
103 加温チューブ
104 流路切替部
107a、107b 操作部
401 CPU
403 電源回路
404 流量制御部
405 記憶部
406 流量測定部
408 切替制御部
409 ヒータ制御部
410 ポンピング作動部
411 ヒータ
412 温度センサ
412 気泡センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9