特許第6537897号(P6537897)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6537897
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】薬剤放散装置
(51)【国際特許分類】
   A01M 1/20 20060101AFI20190625BHJP
【FI】
   A01M1/20 E
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-114101(P2015-114101)
(22)【出願日】2015年6月4日
(65)【公開番号】特開2017-8(P2017-8A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 和之
(72)【発明者】
【氏名】若槻 健
(72)【発明者】
【氏名】多田 健志
【審査官】 川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−086918(JP,A)
【文献】 特開2006−047449(JP,A)
【文献】 特開2011−160265(JP,A)
【文献】 特開2005−185139(JP,A)
【文献】 特開2012−110250(JP,A)
【文献】 特開2007−235562(JP,A)
【文献】 特開2004−008139(JP,A)
【文献】 実開昭61−182273(JP,U)
【文献】 特開2008−271853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を保持する薬剤保持体と、
上記薬剤保持体に送風して薬剤を空気中に放散させるための送風部を駆動する電動モーターと、
上記電動モーターに電力を供給する電力供給部と、
上記電動モーター及び上記電力供給部を収容する装置本体と、
上記電力供給部の電力を上記電動モーターに供給する供給状態と供給しない非供給状態とに切り替えるための電源スイッチ、または上記電動モーターが作動しているか否かを周囲の者に光によって報知するための動作状態報知用発光体が実装された基板と、
上記装置本体と共に上記薬剤保持体の収容空間を形成するとともに、該収容空間を覆うように形成され、上記薬剤保持体の交換時に上記収容空間を開放可能に上記装置本体に取り付けられたカバーとを備えた薬剤放散装置において、
上記カバーは、支軸周りに回動することによって上記収容空間を開放可能に上記装置本体に取り付けられ、
上記基板は、上記装置本体から上記カバーまで延びるフレキシブル基板であり、フレキシブル基板は、上記支軸よりも上記装置本体の内側を通っており、
上記カバーの裏面には、上記フレキシブル基板における上記カバー側の端部を保持する基板保持部が設けられ、
上記電源スイッチまたは上記動作状態報知用発光体は、上記フレキシブル基板の上記カバー側の端部に実装されるとともに当該フレキシブル基板を介して上記装置本体と接続されていることを特徴とする薬剤放散装置。
【請求項2】
請求項に記載の薬剤放散装置において、
上記電源スイッチまたは上記動作状態報知用発光体は、上記カバーの表面に臨むように設けられていることを特徴とする薬剤放散装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の薬剤放散装置において、
上記フレキシブル基板における上記装置本体側の端部は、該装置本体に対して非固定状態とされていること特徴とする薬剤放散装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の薬剤放散装置において、
上記カバーは、上記装置本体と共に上記電力供給部の収容空間を形成し、該電力供給部の交換時に上記電力供給部の収容空間を開放可能であり、
上記カバーを閉じた状態において、当該カバーの裏面、上記電力供給部の収容空間及び上記薬剤保持体の収容空間によって囲まれたカバー裏面側空間が形成され、
上記基板のうち少なくとも上記電源スイッチまたは上記動作状態報知用発光体が実装された部分は、上記カバー裏面側空間に配置されることを特徴とする薬剤放散装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば害虫防除剤等の薬剤を空気中に放散する薬剤放散装置に関するものであり、特に、電動モーターを使用して送風することで薬剤を放散する技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の薬剤放散装置としては、薬剤保持体に保持されている薬剤を電動モーターで駆動されるファンによって放散するように構成されたものが知られている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0003】
特許文献1のケースの内部には、薬剤保持体及び電動モーターの他、電動モーターに電力を供給するための電池も収容されている。ケースは、上部本体と下部本体とを備えており、上部本体は下部本体に対して着脱自在に取り付けられている。上部本体を下部本体から取り外すことによって薬剤保持体を交換することが可能になっている。
【0004】
また、特許文献2では、電動モーターや電池を収容するケース本体に、薬剤保持体を覆うように形成されたカバーが設けられており、カバーをケース本体から取り外すことで薬剤保持体の交換作業を行うことができるようになっている。また、ケース本体の外面には、電動モーターに電力を供給する状態と供給しない状態とに切り替えるための電源スイッチが設けられている。
【0005】
また、特許文献3の薬剤放散装置も特許文献2と同様にカバーをケース本体から取り外すことで薬剤保持体の交換作業を行うことができるようになっている構造である。特許文献3では、薬剤放散装置の作動状態を報知するためのインジケータが実装された基板を備えており、この基板はケース本体の内部に収容されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−13421号公報
【特許文献2】特開2004−229664号公報
【特許文献3】特開2005−218305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電動モーターで駆動されるファンによって薬剤を放散する装置の場合、特許文献2のように電源スイッチを設けておき、不要時には電源を切ることができるようにして無駄な使用を抑えたいという要求がある。また、特許文献3のように例えば電源が入っているか否かを周囲の者に報知するためのインジケータ(発光体)等を設けたいという要求もある。
【0008】
特許文献2では、装置本体の前面の一部に電源スイッチが設けられているので、カバーは電源スイッチを覆わないように小型なものとし、これにより、カバーを外すことなく、電源スイッチの操作を可能にしている。
【0009】
ところが、例えば、薬剤放散装置を人間の体に装着して使用する場合のように、薬剤放散装置を小型化したいという要求がある。しかしながら、薬剤の効力を十分に得るためには、薬剤保持体の大きさをできるだけ大きくし、かつ、単位時間当たりに薬剤保持体に送風される空気量を多く確保したいので、薬剤保持体を覆うカバーが大型化する。つまり、装置本体は小型化し、カバーが大型化するので、特許文献2のように装置本体に電源スイッチを設けた場合には、カバーが邪魔になって電源スイッチの操作性が悪化し、使用者によるON/OFFの切替操作が煩雑になる。また、電源スイッチの視認性が悪化して電源スイッチの状態を確認し難い場合も考えられる。
【0010】
また、特許文献3のように電源が入っているか否かを報知するための発光体を設ける場合も同様にカバーが邪魔になって視認性が悪化することが考えられる。
【0011】
つまり、薬剤放散装置の装置本体において、電源スイッチはできるだけ操作し易い位置に配置したいという要求があり、また、発光体はできるだけ視認性がよい位置に配置したいという要求があるが、これらを満たすことができる配置場所は限られている。従って、電源スイッチや発光体が実装された基板の配置場所には大きな制約が生じる。このため、薬剤放散装置の装置本体において、当該基板に干渉しないように配置しなければならない電池やモーターのレイアウトにも大きな制約が生じ、デザインの自由度が低いという問題があった。また、基板の配置スペースを確保するために装置本体が大型化するという問題があった。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、装置本体を小型化し、かつ、電源スイッチの操作性及び視認性を良好にし、また、発光体を設ける場合には発光体の視認性を良好にし、さらに、モーター等のレイアウト自由度を向上させて薬剤放散装置のデザイン性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、第1の発明は、
薬剤を保持する薬剤保持体と、
上記薬剤保持体に送風して薬剤を空気中に放散させるための送風部を駆動する電動モーターと、
上記電動モーターに電力を供給する電力供給部と、
上記電動モーター及び上記電力供給部を収容する装置本体と、
上記電力供給部の電力を上記電動モーターに供給する供給状態と供給しない非供給状態とに切り替えるための電源スイッチ、または上記電動モーターが作動しているか否かを周囲の者に光によって報知するための動作状態報知用発光体が実装された基板と、
上記装置本体と共に上記薬剤保持体の収容空間を形成するとともに、該収容空間を覆うように形成され、上記薬剤保持体の交換時に上記収容空間を開放可能に上記装置本体に取り付けられたカバーとを備えた薬剤放散装置において、
上記カバーは、支軸周りに回動することによって上記収容空間を開放可能に上記装置本体に取り付けられ、
上記基板は、上記装置本体から上記カバーまで延びるフレキシブル基板であり、フレキシブル基板は、上記支軸よりも上記装置本体の内側を通っており、
上記カバーの裏面には、上記フレキシブル基板における上記カバー側の端部を保持する基板保持部が設けられ、
上記電源スイッチまたは上記動作状態報知用発光体は、上記フレキシブル基板の上記カバー側の端部に実装されるとともに当該フレキシブル基板を介して上記装置本体と接続されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、電力供給部から電動モーターに電力が供給されて送風部が駆動されると、薬剤保持体に送風されて薬剤が空気中に放散される。使用後に薬剤保持体を交換する際には、収容空間を開放するようにカバーを操作することで、容易に交換することが可能になる。
【0015】
また、電源スイッチや動作状態報知用発光体が実装された基板がカバー側に設けられるので、従来、装置本体側に必要であった基板配設用のスペースを省略することが可能になる。これにより、装置本体が小型になるとともに、モーターや電力供給部のレイアウトの自由度が向上する。その結果として、薬剤放散装置のデザイン性が向上する。
【0016】
また、電源スイッチまたは動作状態報知用発光体が実装された部分がカバーに設けられているので、電源スイッチまたは動作状態報知用発光体もカバー側に配置されることになる。このため、電源スイッチの視認性が良好になるとともに、操作性も良好になる。同様に、動作状態報知用発光体の視認性が良好になる。
【0017】
また、電源スイッチまたは動作状態報知用発光体をカバー側に設けたにもかかわらず、当該カバーと装置本体側とを接続するための配線を別途設ける必要が無い。すなわち、電源スイッチまたは動作状態報知用発光体をカバー側に実装する基板としての本来の機能と、当該カバーと装置本体とを電気的に接続する機能とを、フレキシブル基板が兼ねるので、部品点数が削減されるとともに、組立作業性が良好になる。また、フレキシブル基板であるから、支軸周りのカバーの回動に追従することができ、断線の恐れを無くすことができる。
【0018】
また、フレキシブル基板が外部に露出し難くなるので、フレキシブル基板の損傷が抑制されるとともに、薬剤放散装置の見栄えが良くなる。
【0019】
第2の発明は
上記電源スイッチまたは上記動作状態報知用発光体は、上記カバーの表面に臨むように設けられていることを特徴とする。
【0020】
これにより、電源スイッチの視認性がより一層良好になるとともに、操作性もより一層良好になる。また、動作状態報知用発光体の視認性もより一層良好になる
【0021】
の発明は、第1または2の発明において、
上記フレキシブル基板における上記装置本体側の端部は、該装置本体に対して非固定状態とされていることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、フレキシブル基板における装置本体側の端部が装置本体に対して固定されずにフリーな状態になるので、自由に動けるようになる。これにより、カバーを回動させる際に、フレキシブル基板におけるカバー側の端部がカバーと一緒に動いても、フレキシブル基板に無理な力が作用しにくくなる。
【0023】
の発明は、第1から3のいずれか1つの発明において、
上記カバーは、上記装置本体と共に上記電力供給部の収容空間を形成し、該電力供給部の交換時に上記電力供給部の収容空間を開放可能であり、
上記カバーを閉じた状態において、当該カバーの裏面、上記電力供給部の収容空間及び上記薬剤保持体の収容空間によって囲まれたカバー裏面側空間が形成され、
上記基板のうち少なくとも上記電源スイッチまたは上記動作状態報知用発光体が実装された部分は、上記カバー裏面側空間に配置されることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、カバーを開けることで、当該カバーと共に基板が移動し、薬剤保持体及び電力供給部の収容空間を両方とも一度に開放でき、この開放状態において薬剤保持体及び電力供給部の交換の際に基板が邪魔になることがない。すなわち、薬剤保持体及び電力供給部によって囲まれた余分なスペースに基板を配置するという合理的なレイアウトを、使用者の利便性を損なうことなく実現できる。
【発明の効果】
【0025】
第1の発明によれば、基板のうち少なくとも電源スイッチまたは動作状態報知用発光体が実装された部分がカバーに設けられているので、装置本体を小型化しながら、電源スイッチの操作性及び視認性を良好にし、また、発光体を設ける場合には発光体の視認性を良好にすることができる。さらに、モーターや電力供給部のレイアウト自由度を向上させることができ、薬剤放散装置のデザイン性を向上させることができる。
【0026】
また、カバーが支軸周りに回動可能に装置本体に取り付けられ、電源スイッチまたは動作状態報知用発光体が装置本体からカバーまで延びるフレキシブル基板を介して装置本体と接続されている。これにより、電源スイッチまたは動作状態報知用発光体を実装する基板としての本来の機能と、当該カバーと装置本体とを電気的に接続する機能とを、フレキシブル基板が兼ねるので、部品点数を削減できるとともに、組立作業性を良好にすることができる。さらに、薬剤保持体の交換時にカバーを回動させる際、断線の恐れを無くすことができる。
【0027】
また、フレキシブル基板が支軸よりも装置本体の内側を通っているので、フレキシブル基板が外部に露出し難くなる。これにより、フレキシブル基板の損傷を抑制できるとともに、薬剤放散装置の見栄えを良くすることができる。
【0028】
第2の発明によれば、電源スイッチまたは動作状態報知用発光体をカバーの表面に臨むように設けたので、電源スイッチの操作性及び視認性をより一層良好にすることができ、また、動作状態報知用発光体の視認性をより一層良好にすることができる
【0029】
の発明によれば、フレキシブル基板における装置本体側の端部を、該装置本体に対して非固定状態にしてフリーな状態にすることができる。これにより、カバーを回動させる際に、フレキシブル基板におけるカバー側の端部がカバーと一緒に動いても、フレキシブル基板に無理な力が作用しにくくなり、耐久性を向上させることができる。
【0030】
の発明によれば、基板のうち少なくとも電源スイッチまたは動作状態報知用発光体が実装された部分がカバー裏面側空間に配置されているので、薬剤保持体及び電力供給部によって囲まれた余分なスペースに基板を配置するという合理的なレイアウトを、使用者の利便性を損なうことなく実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施形態に係る薬剤放散装置を正面側から見た斜視図である。
図2】薬剤放散装置を背面側から見た斜視図である。
図3】薬剤放散装置の平面図である。
図4】薬剤放散装置の底面図である。
図5】薬剤放散装置の正面図である。
図6】薬剤放散装置の背面図である。
図7】薬剤放散装置の左側面図である。
図8図3におけるVIII−VIII線断面図である。
図9図3におけるIX−IX線断面図である。
図10】カバーを開放状態にして薬剤保持カートリッジを取り外した薬剤放散装置の斜視図である。
図11図10におけるXI−XI線断面図である。
図12】薬剤保持カートリッジを正面側から見た斜視図である。
図13】薬剤保持カートリッジの平面図である。
図14】薬剤保持カートリッジの底面図である。
図15】薬剤保持カートリッジの左側面図である。
図16】薬剤保持カートリッジの正面図である。
図17図13におけるXVII−XVII線断面図である。
図18図13におけるXVIII−XVIII線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0033】
図1は、本発明の実施形態に係る薬剤放散装置1を正面側、かつ、上方から見た斜視図である。この薬剤放散装置1は、例えば使用者に取り付けて使用することができるようになっている。薬剤放散装置1の取付部位としては、使用者の腕や脚、衣服、ベルト等であり、例えば手首、上腕部、足首等に取り付けて使用するのが好ましいが、取付部位はこれら部位に限定されるものではない。
【0034】
薬剤放散装置1は、薬剤保持カートリッジ2(図11に仮想線で示す)と、薬剤保持カートリッジ2が着脱自在に装着される装置本体5とを備えている。この実施形態の説明では、説明の便宜を図るために、図1図9に示すように薬剤放散装置1の長手方向一側を前側とし、長手方向他側を後側とする。そして、薬剤放散装置1を前側から見たときに右となる側を右とし、左となる側を左とする。
【0035】
(薬剤保持カートリッジ2の構成)
図12図18に基づいて薬剤保持カートリッジ2の構成について説明する。薬剤保持カートリッジ2は、ケース3と、薬剤を保持する薬剤保持体4とを備えている。ケース3は、薬剤保持体4を収容する収容体である。薬剤保持体4に保持される薬剤としては、常温で揮発する性質を有する各種薬剤であればよく、例えば害虫忌避剤、殺虫剤、芳香剤、除菌剤、消臭剤等を挙げることができ、これらのうち、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。薬剤を薬剤保持体4に含浸させることによって保持させてもよいし、薬剤保持体4の表面に付着させることによって保持させてもよい。薬剤は液体であるのが好ましい。
【0036】
図17に示すように、薬剤保持体4は、連続する波形をなすように折り曲げ成形したプリーツ形状の布材で構成されている。布材としては、例えば不織布や織布等を用いることができるが、これら以外にも通気性を有し、かつ、薬剤を保持することができるもの(通気性を有する発泡材等)であればよく、特に限定されない。薬剤保持体4の全体に略均一に薬剤が保持されている。
【0037】
この実施形態では、説明の便宜を図るために、図12図18に示すように薬剤保持カートリッジ2の前側、後側、右側及び左側を定義する。薬剤保持カートリッジ2の前側、後側、右側及び左側は、薬剤保持カートリッジ2を装置本体5に装着した状態において薬剤放散装置1の前側、後側、右側及び左側と同じ側となる。
【0038】
薬剤保持体4は平面視で略正方向に近い形状とされており、詳細は後述するが、装置本体5によって送風される空気が上方から下方へ通過するようになっている。図17に示すように、薬剤保持体4の前側及び後側の所定範囲のプリーツ4bの高さ(プリーツ高さ)は、それら以外の部分、即ち、前後方向中間部のプリーツ4aの高さに比べて低く設定されている。つまり、薬剤保持体4におけるプリーツ4a、4bの連続する方向の両端部のプリーツ4bの高さは、プリーツ4a、4bの連続する方向の中間部のプリーツ4aの高さに比べて低く設定されている。
【0039】
この実施形態では、薬剤保持体4の前側及び後側のプリーツ高さの低い部分は、2山ずつとなっているが、山の数はこれに限られるものではなく、任意の数に設定することができる。また、薬剤保持体4の前側及び後側のプリーツ高さは、前後方向中間部のプリーツ高さの1/3以下、例えば1/2に設定することができる。
【0040】
ケース3は、共に樹脂材からなる上側ケース部材10と下側ケース部材20とを組み合わせることによって構成されている。下側ケース部材20は、薬剤保持体4が載置される底壁部21と、底壁部21の周縁部から上方へ延びる側壁部22とを有している。底壁部21は、薬剤保持体4の底面の形状と略同じ正方形状をなしている。
【0041】
上側ケース部材10は、上壁部11と、上壁部11の周縁部から下方へ延びる側壁部12とを有している。上側ケース部材10の側壁部12の内側に、下側ケース部材20の側壁部22が嵌合することによって上側ケース部材10と下側ケース部材20とが一体化している。
【0042】
上側ケース部材10の上壁部11は、薬剤保持体4を上方から覆うように配置される。上側ケース部材10の上壁部11は、前後方向中央部が最も上に位置し、そこから前側及び後側へ行くに従って下に位置するように、全体として上方へ膨出するように形成されている。これにより、上壁部11のうち、前側及び後側の壁部、即ち薬剤保持体4における前側及び後側のプリーツ4bを覆う壁部が、前後方向中間部の壁部、即ち薬剤保持体4における前後方向中間部のプリーツ4aを覆う壁部よりも下に位置するように形成される。
【0043】
図12図13に示すように、上側ケース部材10の上壁部11には、ケース3の内部に空気を流入させる複数の流入用開口部(空気流通孔)11a、11a、…が形成されている。各流入用開口部11aは、ケース3の前後方向に長い形状とされている。そして、流入用開口部11a、11a、…は、流入用開口部11aの長手方向と交差する方向、即ち左右方向に互いに間隔をあけて形成されている。上壁部11の中央部に形成されている流入用開口部11aは、上壁部11の前側や後側に形成されている開口部11bに比べて前後方向に長くなっている。この開口部11bもケース3の内部に空気を流入させるためのものである。また、流入用開口部11aは、前後方向中間部の開口幅(左右方向の寸法)が広く、前側及び後側へ行くほど開口幅が狭くなっている。
【0044】
図12図15に示すように、上側ケース部材10の左右の側壁部12の下端部には、前後方向中央部に切欠部12aが形成されている。切欠部12aの幅は、上方へ行くほど狭くなっている。また、上側ケース部材10の左右の側壁部12には、前側及び後側にそれぞれ側壁開口部12bが形成されている。
【0045】
図14に示すように、下側ケース部材20の底壁部21には、ケース3の内部に流入した空気を流出させる流出用開口部21aが形成されている。流出用開口部21aは、底壁部21の外形状と略相似形状とされている。流出用開口部21aの周縁部には、薬剤保持体4の周縁部を空気流れ方向下流側から覆うように形成された覆い部21bが設けられている。覆い部21bは、流出用開口部21aの周縁部の全周に亘って設けられており、ケース3を下方から見たとき略矩形の枠状をなしている。これにより、薬剤保持体4の周縁部が全周に亘って覆い部21bにより覆われるとともに、空気流れ方向下流側から支持される。覆い部21bは、ケース3の内面と薬剤保持体4の周縁部との隙間に空気が流れにくくするためのものである。
【0046】
尚、この実施形態では、覆い部21bを流出用開口部21aの周縁部に設けているが、これに限らず、図示しないが、流入用開口部11aの形状を流出用開口部と同様にして、その流入用開口部11aの周縁部の全周に、薬剤保持体4の周縁部を空気流れ方向上流側から覆うように形成された覆い部を設けてもよい。また、流出用開口部21aの周縁部及び流入用開口部11aの周縁部の両方に覆い部を設けてもよい。また、覆い部21bは、流出用開口部21aの周縁部の全周に亘って設けることなく、一部に設けてもよく、例えば、薬剤保持体4のプリーツ4b、4bを覆う部分にのみ設けることもできる。また、同様に、流入用開口部11aの周縁部に覆い部を設ける場合に、流入用開口部11aの周縁部の全周に設けてもよいし、一部にのみ設けてもよい。
【0047】
覆い部21bは、薬剤保持体4の前側及び後側のプリーツ4b、4bをそれぞれ空気流れ方向下流側から覆うことになる。つまり、薬剤保持体4における覆い部21bによって覆われるプリーツ4b、4bは、覆い部21bによって覆われないプリーツ4aに比べてプリーツ高さが低く設定されることになる。薬剤保持体4における覆い部21bによって覆われる部分のプリーツ4bの高さを低くしているので、その分、薬剤保持カートリッジ2が小型になる。
【0048】
また、下側ケース部材20の底壁部21には、左右方向に延びる細い板状部21cと、前後方向に延びる細い板状部21dとが流出用開口部21aを横切るように設けられている。板状部21c、21dによって薬剤保持体4が下方から支持されることになる。
【0049】
(装置本体5の構成)
図1図11に基づいて装置本体5の構成について説明する。図8に示すように、装置本体5は、ベース部材30と、送風部としてのファン50と、ファン50を駆動する電動モーター51と、電動モーター51に電力を供給する電池(電力供給部)52、52とを有している。ファン50、電動モーター51及び電池52、52は、装置本体5のベース部材30に収容されるようになっている。電池52は、例えば単三電池や単四電池等である。
【0050】
すなわち、ベース部材30は、例えば樹脂材を成形してなるものであり、下板部31と下板部31の周縁部から上方へ延びる側板部32とを有し、上方に開放する凹状部材である。下板部31の下面31aは、使用者への取付状態で使用者に接触する取付面であり、この下面31aは、前後方向中央部が最も上に位置するように緩やかに湾曲形成され、使用者の例えば腕等に接触した際にフィットし易い形状となっている。
【0051】
図1に示すように、ベース部材30の前端部には、左右両端部からそれぞれ斜め下方へ突出する突出板部33、33が形成されている。突出板部33、33の突出方向先端部には、左右方向に延びる棒状部34の両端部がそれぞれ固定されている。棒状部34は、ベース部材30の下板部31及び側板部32の外面から離れている。また、図2に示すように、ベース部材30の後端部にも前端部と同様な突出板部33、33と棒状部34とが設けられている。棒状部34、34には、使用者の腕等に巻き付けて薬剤放散装置1を使用者に取り付けるためのバンドB(図3にのみ仮想線で示す)が連結される。バンドBは従来から周知のものを用いることができ、例えば布製で、長さを調節することが可能なバンド等を挙げることができる。上記前側の棒状部34は第1バンド連結部であり、後側の棒状部34は第2バンド連結部であり、これらにより、薬剤放散装置1を使用者に取り付けるための取付部が構成されている。また、前側の棒状部34と後側の棒状部34とは前後方向に互いに間隔をあけて配置されることなる。
【0052】
図8に示すように、ベース部材30の下板部31の略中央部に電動モーター51が固定されている。電動モーター51の出力軸51aは上方へ突出している。出力軸51aの上端部には、ファン50の中心部が回転一体に固定されている。ファン50は、周知のものであり、電動モーター51によって回転駆動されると、上方から空気を吸い込んで側方から流出させるように送風する。また、ベース部材30には、ファン50を下方、及び側方から覆うように形成されて空気の流路を区画形成するための空気流路形成部材53が設けられている。
【0053】
装置本体5の内部における空気流路形成部材53よりも前側及び後側には、それぞれ電池52を交換可能に収容する前側電池収容空間S1及び後側電池収容空間S2が形成されており、前側電池収容空間S1及び後側電池収容空間S2の間に電動モーター51が配置されている。各電池収容空間S1、S2は、装置本体5の左右両端部近傍に亘る細長い形状であり、上方にのみ開放されている。各電池収容空間S1、S2に電池52を収容する際には上方のみから収容することができ、一方、各電池収容空間S1、S2から電池52を取り出す際には上方へのみ取り出すことができるようになっている。各電池収容空間S1、S2の左右方向の寸法は、電池52の左右方向の寸法と略等しく設定され、また、各電池収容空間S1、S2の前後方向の寸法は、電池52の前後方向の寸法(外径)と略等しく設定されている。
【0054】
ファン50の上方には、薬剤保持体4を含む薬剤保持カートリッジ2を交換可能に収容するためのカートリッジ収容空間Rが形成されている。このカートリッジ収容空間Rは、装置本体5と、該装置本体5に取り付けられたカバー40とによって形成された空間である。カバー40は、カートリッジ収容空間Rを上方から覆うように形成され、詳細は後述するが、薬剤保持体4を含む薬剤保持カートリッジ2の交換時に、カートリッジ収容空間Rを開放可能に装置本体5に取り付けられている。
【0055】
カートリッジ収容空間Rは、前側及び後側電池収容空間S1、S2の上方に形成されている。カートリッジ収容空間Rに収容された薬剤保持カートリッジ2は、装置本体5によって下方から支持される。また、図10に示すように、装置本体5の内部には、左右両側に、それぞれ薬剤保持カートリッジ2を位置決めするための位置決め部57、57が設けられている。位置決め部57、57は、上下方向に延びる板状に形成されており、その上端部が薬剤保持カートリッジ2のケース3の切欠部12aに嵌合するようになっている。
【0056】
図8及び図11にも示すように、カートリッジ収容空間Rの前後方向の寸法は、カートリッジ収容空間Rの前端部及び後端部がそれぞれ前側及び後側電池収容空間S1、S2の開放部分に重なるように設定されている。カートリッジ収容空間Rの左右方向の寸法は、薬剤保持カートリッジ2の左右方向の寸法と略等しく設定され、また、カートリッジ収容空間Rの前後方向の寸法は、薬剤保持カートリッジ2の前後方向の寸法と略等しく設定されている。
【0057】
したがって、平面視で、前側電池収容空間S1に収容された電池52の後部が、カートリッジ収容空間Rに収容された薬剤保持カートリッジ2の前部に重複し、後側電池収容空間S2に収容された電池52の前部が、カートリッジ収容空間Rに収容された薬剤保持カートリッジ2の後部に重複することになる。このため、前側電池収容空間S1に収容された電池52を前側電池収容空間S1から取り出す際に電池52の移動軌跡上に、カートリッジ収容空間Rに収容された薬剤保持カートリッジ2が位置することになるとともに、後側電池収容空間S2に収容された電池52を後側電池収容空間S2から取り出す際にも電池52の移動軌跡上に、カートリッジ収容空間Rに収容された薬剤保持カートリッジ2が位置することになる。つまり、前側電池収容空間S1から取り出す電池52及び後側電池収容空間S2から取り出す電池52のいずれにも、カートリッジ収容空間Rに収容された薬剤保持カートリッジ2が干渉するように配置される。尚、前側電池収容空間S1から取り出す電池52及び後側電池収容空間S2から取り出す電池52のいずか一方にのみ、カートリッジ収容空間Rに収容された薬剤保持カートリッジ2が干渉するように配置されていてもよい。
【0058】
また、図8に示すように、カバー40を閉じた状態において、当該カバー40の裏面、後側電池収容空間S2及びカートリッジ収容空間Rによって囲まれたカバー裏面側空間Tが形成されるようになっている。
【0059】
装置本体5のベース部材30の後端部には、左右方向に延びる支軸35が設けられている。この支軸35は、カバー40を回動可能に支持するためのものであり、従って、カバー40は支軸35周りに回動することによってカートリッジ収容空間Rを開放可能に装置本体5に取り付けられている。カバー40の開放状態を図11に示す。
【0060】
図9に示すように、装置本体5のベース部材30の左右両側には、ファン50によって薬剤保持体4に送風された空気を放出するための薬剤放散孔55がそれぞれ形成されている。薬剤放散孔55の上流端は、装置本体5におけるファン50が配設された空間に連通している。図7に示すように、薬剤放散孔55の下流端開口は、ベース部材30の側面に開口しており、前側の棒状部34と後側の棒状部34との間に配置されている。この薬剤放散孔55の下流端開口は、ベース部材30の下板部31の下面31aに沿うように、前後方向に長い形状となっている。薬剤放散孔55の下流端開口の前端は、前側電池収容空間S1よりも後に位置しており、また、薬剤放散孔55の下流端開口の後端は、後側電池収容空間S2よりも前に位置している。
【0061】
図7に示す側面視で薬剤放散孔55の内部にファン50の一部が見えるように、薬剤放散孔55が形成されている。これにより、ファン50から送風された空気が薬剤放散孔55から放散されやすくなる。
【0062】
また、図7に示すように、薬剤放散孔55の下流端開口の縁部のうち、上縁部55a及び上縁部55bは略前後方向に延びている。下縁部55bは、薬剤放散装置1の使用者への取付状態で使用者に近い側に位置する第1縁部であり、上縁部55aは、第1縁部よりも使用者から離れた第2縁部である。下縁部55bは、前側及び後側へ行くほど上に位置するように形成されている。また、上縁部55aは、前側及び後側へ行くほど下に位置するように形成されている。これにより、薬剤放散孔55の下流端開口の開口幅(上下方向の寸法)は、前側及び後側へ行くほど狭くなり、前後方向中間部が広くなる。
【0063】
図9の断面図に示すように、左側の薬剤放散孔55の下流端開口の上縁部55aは、下縁部55bよりも左側、即ち、空気流れ方向下流側に位置付けられている。また、右側の薬剤放散孔55の下流端開口の上縁部55aは、下縁部55bよりも右側、即ち、空気流れ方向下流側に位置付けられている。これにより、薬剤放散孔55を流通して下流端開口に達した空気が矢印イで示すように薬剤放散装置1の下方へ向けて流れ易くなる。
【0064】
図1図2に示すように、カバー40は、例えば樹脂材を成形してなるものであり、カートリッジ収容空間Rと、前側及び後側電池収容空間S1、S2との両方を上方から覆うように大型に形成されている。従って、装置本体5の上面は略全体がカバー40によって覆われる。
【0065】
カバー40は、上板部41と、上板部41の左右両側縁部から下方へ延びる側板部42とを有している。図7に示すように、上板部41は、カートリッジ収容空間Rの外方へ膨出するように形成されており、全体として、前後方向中央部が最も上に位置し、前側及び後側へ行くほど下に位置するように湾曲している。図8に示すように、薬剤保持カートリッジ2のケース3におけるカバー40によって覆われる部分、即ち、ケース3の上壁部11は、カバー40の膨出形状に対応するように、前後方向中央部が最も上に位置するように膨出している。
【0066】
図1図2等に示すように、カバー40の上板部41には、空気をカートリッジ収容空間Rに吸入させる吸入口となる複数の開口部41a、41a、…が形成されている。カバー40の開口部41aは、略前後方向に長い形状であり、従って、カートリッジ収容空間Rに収容された薬剤保持カートリッジ2の流入用開口部11aと略同方向に長い形状となる。カバー40の開口部41aは、該開口部41aの長手方向と交差する方向である左右方向に互いに間隔をあけて形成されている。
【0067】
また、カバー40の上板部41には、左右両側部に、貫通孔41cが形成されている。貫通孔41cも前後方向に長い形状とされており、空気をカートリッジ収容空間Rに吸入させるためのものである。
【0068】
カバー40は、装置本体5の上方に位置しているので、装置本体5の薬剤放散孔55の下流端開口は、薬剤放散装置1の使用者への取付状態でカバー40の開口部41aよりも使用者に近くなるように配置される。これにより、吸入用の開口部41aと薬剤放散孔55とを離して配置しながら、薬剤放散孔55から放散される薬剤を含んだ空気を使用者に近いところへ向けて供給することが可能になる。
【0069】
図2図3等に示すように、カバー40の後端部には、装置本体5の支軸35に支持される支持部43が設けられている。支持部43は、支軸35を囲むように形成された略筒状をなしている。尚、図示しないが、支軸をカバー40に設け、支持部を装置本体5に設けてもよい。
【0070】
図10図11に示すように、カバー40の前端部には係合部47が下方へ突出するように設けられている。係合部47には、係合孔47aが形成されている。一方、装置本体5の前端部には、係合爪38が突出するように設けられている。図8等に示すように、カバー40が全閉状態にあるときに、装置本体5の係合爪38がカバー40の係合孔47aに嵌入することによってカバー40が開方向に回動しないようにロックされる。カバー40を開放する場合には、カバー40や装置本体5を弾性変形させて装置本体5の係合爪38をカバー40の係合孔47aから離脱させてロックを解除すればよい。
【0071】
図2に示すように、カバー40の後部には、電源スイッチ配設孔41bが形成されている。電源スイッチ配設孔41bは、前後方向に長い形状である。電源スイッチ配設孔41bには、前後方向にスライド操作可能な電源スイッチ60がカバー40の表面に臨むように設けられている。また、電源スイッチ配設孔41bには、運転ランプ63もカバー40の表面に臨むように設けられている。
【0072】
すなわち、この薬剤放散装置1には、電池52、52、電動モーター51、電源スイッチ60、運転ランプ63及び抵抗器(図示せず)によって電気回路が構成されている。電源スイッチ60は、電池52、52の電力を電動モーター51に供給する供給状態と、供給しない非供給状態とに切り替えるためのスイッチである。運転ランプ63は、電動モーター51が作動しているか否かを周囲の者(使用者を含む)に光によって報知するための動作状態報知用発光体であり、例えばLED等で構成することができる。抵抗器は、例えば特開2011−130742号公報に開示されているように、電池52、52の寿命と、薬剤保持カートリッジ2の寿命とを略一致させるためのものである。
【0073】
図8に示すように、電源スイッチ60及び運転ランプ63は、フレキシブル基板62の一端部に実装されている。フレキシブル基板62は、従来から周知のものであり、柔軟性を有するフィルムとフィルム上に設けられた導電層とを有する基板であり、弱い力で変形させることができるとともに、変形させた後にも導電層による導通状態を維持でき、しかも、繰り返し変形させても断線しないように構成されている。電源スイッチ60及び運転ランプ63は、フレキシブル基板62と、フレキシブル基板62の他端部から延びる配線(図示せず)とを介して装置本体5の電動モーター51や電池52と接続されている。
【0074】
フレキシブル基板62の一端部62aは、カバー40の上板部41の内面において電源スイッチ配設孔41bの裏側に固定されている。より具体的には、フレキシブル基板62の一端部62aは、上記カバー裏面側空間Tに配置されている。
【0075】
このフレキシブル基板62の一端部62aは、電源スイッチ60及び運転ランプ63が実装された部分であり、ガラス繊維を含むエポキシ樹脂によって補強されて他の部分に比べて厚肉で高剛性になっている。これにより、例えば使用者が電源スイッチ60を操作等した際に、フレキシブル基板62の一端部62aが変形することはなく、スイッチ操作に支障をきたすことはない。
【0076】
フレキシブル基板62の一端部62aは、カバー40の裏面に設けられた基板保持部48によって保持されている。基板保持部48の配設位置は、フレキシブル基板62の一端部62aと後側の電池52との間である。基板保持部48は、フレキシブル基板62の一端部62aに対して、当該基板62の裏側(電源スイッチ60等が実装される側と反対側)から覆うように形成されている。これにより、例えば薬剤放散装置1が落下等して衝撃が作用し、電池52が飛び出したとしても、当該電池52がフレキシブル基板62の一端部62aに接触してしまうことを防止できる。尚、基板保持部48はカバー40を閉じた状態において電池52を上から押さえて当該電池52の飛び出しを抑制する機能も持っている。
また、この実施形態では、フレキシブル基板62の一端部62aに上記抵抗器も実装されているが、これに限られるものではなく、抵抗器はフレキシブル基板62の他の部分に実装することもできるし、フレキシブル基板62以外の部分に設けて電気的に接続することもできる。
【0077】
また、電源スイッチ60及び運転ランプ63が実装された部分は、フレキシブル基板62でない基板で構成することもでき、この場合は、当該基板をフレキシブル基板62に接続すればよい。
【0078】
尚、電源スイッチ60及び運転ランプ63の配設位置は、カバー40の後部以外であってもよく、例えば前部であってもよいし、前後方向の中央部であってもよいが、フレキシブル基板62の取り回しを考慮するとカバー40の後部が好ましい。
【0079】
フレキシブル基板62は、装置本体5の支軸35よりも装置本体5の内側を通ってベース部材30へ向かって延びている。フレキシブル基板62の他端部は、ベース部材30の内部において後側電池収容空間S2の下方に達している。このフレキシブル基板62の装置本体5側の端部は、装置本体5に対して非固定状態、即ち装置本体5に対して固定されておらず、フリーな状態とされている。フレキシブル基板62の長さは、カバー40を回動操作した際に、フレキシブル基板62の装置本体5側の端部が装置本体5から抜けないように十分な長さに設定されている。
【0080】
フレキシブル基板62は、装置本体5の左右方向中央部を通るように配置されている。これは、電源スイッチ60及び運転ランプ63をカバー40の左右方向中央部に配置しているからである。尚、仮に、電源スイッチ60及び運転ランプ63を装置本体5側に設けようとした場合、当該電源スイッチ60及び運転ランプ63は、装置本体5の左右いずれかの側面に設けることが一般的に想定される構成であるが、このような構成とする場合、電源スイッチ60及び運転ランプ63を実装するための基板は装置本体5の左右いずれかに寄せて配置する必要がある。この点、本実施形態では、装置本体5側に電源スイッチ60及び運転ランプ63を設けないので、フレキシブル基板62の装置本体5側における左右方向の配設位置は限定されない。
【0081】
尚、上記実施形態では、電源スイッチ60及び運転ランプ63の両方をカバー4に設けているが、これに限らず、電源スイッチ60及び運転ランプ63の一方のみをカバー4に設けてもよい。また、電源スイッチ60及び運転ランプ63を別々に設けてもよい。
【0082】
(薬剤放散装置1の動作)
次に、薬剤放散装置1の動作について説明する。薬剤放散装置1は、図3に仮想線で示すバンドBを使用して使用者の腕等に取り付ける。そして、電源スイッチ60をスライドさせて「ON」にすると、電池52、52の電力が電動モーター51及び運転ランプ63に供給されて電動モーター51が作動するとともに、運転ランプ63が点灯する。電源スイッチ60をカバー40に設けているので、装置本体5を小型化し、かつ、カバー40を大型化して大きな薬剤保持体4を収容可能にする場合に、電源スイッチ60の視認性が良好になるとともに、操作性も良好になる。同様に、運転ランプ63をカバー40に設けているので、運転ランプ63の視認性が良好になる。
【0083】
電動モーター51が作動すると、ファン50が回転駆動され、ファン50の上方から空気を吸い込んで側方から流出させる。この空気の流れにより、図9に矢印ロで示すようにカバー40の上方の空気がカバー40の上板部41に形成されている開口部41a及び貫通孔41cからカートリッジ収容空間Rに吸入される。カートリッジ収容空間Rには、薬剤保持カートリッジ2が収容されているので、吸入された空気は、薬剤保持カートリッジ2に向けて流れて、薬剤保持カートリッジ2のケース3の上部に形成されている流入用開口部11a及び開口部11bからケース3の内部に流入する。ケース3の内部に流入した空気は、ケース3の下部に流出用開口部21a(図14に示す)が形成されているので、下方へ流れていき、この間に、薬剤保持体4を通過して薬剤を含んだ空気となり、流出用開口部21aからケース3の外部に流出する。
【0084】
空気がケース3に流入する際、図14に示すように、薬剤保持体4の周縁部がケース3の覆い部21bによって空気流れ方向下流側から覆われているので、空気は、ケース3の内面と薬剤保持体4の周縁部との隙間に向けて流れにくくなる。これにより、ケース3の内面と薬剤保持体4の周縁部との隙間を流れる空気、即ち、薬剤を含んでいない空気が減少するので、薬剤による効力の低下が抑制される。
【0085】
上述したように、薬剤保持体4におけるプリーツ4bの高さを低くし、この高さの低いプリーツ4bを覆い部21bによって覆っている。従って、薬剤保持体4におけるプリーツ4bは、プリーツ4aに比べて空気の通過しにくい部分となっている。よって、プリーツ4bの高さを低くしてその部分の空気の通過面積が狭くなっても、効力の低下は殆ど問題にならない程度である。
【0086】
薬剤保持カートリッジ2の流出用開口部21aからケース3の外部に流出した薬剤を含む空気は、装置本体5の左右の薬剤放散孔55、55にそれぞれ流入した後、図9に矢印イで示すように、各薬剤放散孔55の下流端開口から外部に放散される。このとき、各薬剤放散孔55の下流端開口の縁部のうち、使用者から離れている上縁部55aが、使用者に近い側の下縁部55bよりも空気流れ方向下流側に位置しているので、薬剤を含んだ空気が使用者へ向けて流れ易くなる。これにより、薬剤が使用者側に届きやすくなるので、薬剤による効力がより高まる。また、各薬剤放散孔55が装置本体5の下面31aに沿うように延びているので、薬剤を含んだ空気が装置本体5の広い範囲から放散される。
【0087】
また、装置本体5の前側の棒状部34及び後側の棒状部34の間に、各薬剤放散孔55の下流端開口が配置されているので、バンドBや棒状部34、34が、薬剤を含む空気の放散を阻害することはなく、薬剤を含む空気が所望の方向にスムーズに放散される。以上のことから、薬剤による効力が十分に得られる。
【0088】
(薬剤保持カートリッジ2の交換要領)
次に、薬剤保持カートリッジ2の交換要領について説明する。この実施形態に係る薬剤放散装置1では、電気回路に抵抗器を設けて薬剤保持カートリッジ2の寿命と電池52、52の寿命とを略一致させているので、薬剤保持カートリッジ2の交換時には、電池52、52も同時に交換することが前提となっている。
【0089】
まず、装置本体5の係合爪38をカバー40の係合孔47aから離脱させてカバー40のロックを解除する。そして、カバー40を支軸35周りに上方へ回動させてカートリッジ収容空間Rを開放状態にする。このとき、電源スイッチ60及び運転ランプ63がフレキシブル基板62に設けられているので、カバー40の回動動作はスムーズに行えるとともに、フレキシブル基板62の一端部62aが移動し、薬剤保持カートリッジ2及び電池52の交換の際に基板62が邪魔になることがない。すなわち、この実施形態では、薬剤保持カートリッジ2及び電池52によって囲まれた余分なスペースであるカバー裏面側空間Tにフレキシブル基板62の一端部62aを配置するという合理的なレイアウトを、使用者の利便性を損なうことなく実現している。
【0090】
カバー40を開放状態にした後、カートリッジ収容空間Rに収容されている薬剤保持カートリッジ2を取り出す。薬剤保持カートリッジ2は、装置本体5に載置されているだけなので、取り出し作業は容易に行える。
【0091】
また、前側及び後側電池収容空間S1、S2に収容されている電池52、52を取り出す。前側電池収容空間S1から取り出す電池52及び後側電池収容空間S2から取り出す電池52のいずれにも、カートリッジ収容空間Rに収容された薬剤保持カートリッジ2が干渉するように配置されているので、仮に薬剤保持カートリッジ2を先に取り出さなかった場合には、電池52が薬剤保持カートリッジ2に干渉することになる。これにより、使用者は薬剤保持カートリッジ2も交換が必要であることに気づきやすくなり、電池52、52と薬剤保持カートリッジ2の同時交換を促すことができる。
【0092】
電池52、52を取り出した後、新しい電池52、52を前側及び後側電池収容空間S1、S2に収容する。その後、新しい薬剤保持カートリッジ2をカートリッジ収容空間Rに収容する。このとき、カバー40の開口部41a、41a、…の延びる方向と、薬剤保持カートリッジ2の流入用開口部11aの延びる方向とが略同方向であるため、薬剤保持カートリッジ2の流入用開口部11aの延びる方向がカバー40の開口部41a、41a、…の延びる方向と略一致するように、薬剤保持カートリッジ2を向ければよく、初めての者でも薬剤保持カートリッジ2の向きを直感的に、かつ、容易に判別することが可能になる。
【0093】
また、カバー40の開放状態でカバー4が支軸35を介して装置本体5に連結されるので、カバー40の開口部41a、41a、…の延びる方向と装置本体5のカートリッジ収容空間Rとの関係が変わることはなく、カバー40の開口部41a、41a、…の延びる方向を基準にして薬剤保持カートリッジ2の方向を容易に判別することが可能になる。
【0094】
また、カバー40の膨出形状と、薬剤保持カートリッジ2のケース3の膨出形状とが対応しているので、両者の膨出形状を利用して薬剤保持カートリッジ2の方向を容易に判別することが可能になる。
【0095】
薬剤保持カートリッジ2をカートリッジ収容空間Rに収容する際には、装置本体5の位置決め部57、57を薬剤保持カートリッジ2のケース3の切欠部12aに嵌合させる。これにより、薬剤保持カートリッジ2が所定位置で保持される。
【0096】
しかる後、カバー40を支軸35周りに回動させて閉じ、装置本体5の係合爪38をカバー40の係合孔47aに嵌入してカバー40をロックする。この状態で、カバー40の内面が薬剤保持カートリッジ2を上方から押圧して薬剤保持カートリッジ2のガタつきが抑制される。
【0097】
また、フレキシブル基板62のカバー40側の端部がカバー40に固定され、かつ、フレキシブル基板62が支軸35の内側を通っているので、カバー40の開閉動作に伴ってフレキシブル基板62が押されたり、引っ張られたりすることになる。このとき、フレキシブル基板62の装置本体5側は装置本体5に対してフリーな状態となっているので、カバー40の開閉動作時に容易に動くことができ、フレキシブル基板62に無理な力がかからないようにすることができる。
【0098】
(作用効果)
以上説明したように、カバー40に電源スイッチ60及び運転ランプ63を設けたので、装置本体5を小型化し、かつ、カバー40を大型化した場合に、電源スイッチ60の操作性及び視認性を良好にすることができ、また、運転ランプ63の視認性を良好にすることができる。
また、電源スイッチ60や運転ランプ63が実装された基板62の一端部62aがカバー4側に設けられるので、従来、装置本体5側に必要であった基板配設用のスペースを省略することが可能になる。これにより、装置本体5が小型になるとともに、電池52等のレイアウトの自由度が向上する。その結果として、薬剤放散装置1のデザイン性が向上する。
【0099】
また、カバー40が支軸35周りに回動可能に装置本体5に取り付けられ、電源スイッチ60及び運転ランプ63がフレキシブル基板62を介して装置本体5と接続されているので、薬剤保持カートリッジ2の交換時にカバー40を回動させる際、断線の恐れを無くすことができる。
【0100】
また、フレキシブル基板62が支軸35よりも装置本体5の内側を通っているので、フレキシブル基板62が外部に露出し難くなる。これにより、フレキシブル基板62の損傷を抑制できるとともに、薬剤放散装置1の見栄えを良くすることができる。
【0101】
また、フレキシブル基板52における装置本体5側の端部を、装置本体5に対して非固定状態にしてフリーな状態にしている。これにより、カバー40を回動させる際に、フレキシブル基板62におけるカバー40側の端部がカバー40と一緒に動いても、フレキシブル基板62に無理な力が作用しにくくなり、耐久性を向上させることができる。
【0102】
また、前側及び後側電池収容空間S1、S2から取り出す電池52、52に、カートリッジ収容空間Rに収容された薬剤保持カートリッジ2が干渉するように配置されているので、電池52、52の交換時に薬剤保持カートリッジ2も同時に交換するように促すことができ、薬剤の効力が使用者の気づかないうちに低下してしまっているのを未然に防止できる。
【0103】
また、前側電池収容空間S1と後側電池収容空間S2との間に電動モーター51を配置するようにしたので、薬剤放散装置1の重量バランスを良好にすることができる。
【0104】
また、電池52、52を薬剤放散装置1の下に配置して低重心化を図ることができる。この場合、交換時に少なくとも電池52の一部に薬剤保持カートリッジ2が確実に干渉するので、薬剤保持カートリッジ2の交換を効果的に促すことができる。
【0105】
また、カートリッジ収容空間R及び電池収容空間S1、S2の両方を覆うように形成されたカバー40が装置本体5に取り付けられているので、カバー40を開くことでカートリッジ収容空間R及び電池収容空間S1、S2の両方を開放することができ、薬剤保持カートリッジ2及び電池52、52の両方を容易に交換することができる。尚、電池52の本数は2本に限られるものではなく、1本であってもよいし、3本以上であってもよい。
【0106】
また、薬剤保持カートリッジ2の薬剤保持体4の周縁部を空気流れ方向から覆う覆い部21bをケース3に設けたので、薬剤保持体4とケース3の内面との隙間からの空気の流通を抑制して効力を高めることができる。そして、薬剤保持体4における覆い部21bによって覆われるプリーツ4bの高さを低く設定したので、効力を大きく低下させることなく、薬剤保持体4を小さくして薬剤保持カートリッジ2を小型化することができる。
【0107】
また、ケース3の外形状を薬剤保持体4のプリーツ高さに対応した形状にしたので、薬剤保持カートリッジ2をコンパクトにすることができる。
【0108】
また、カバー40の開口部41a、41a、…の延びる方向と、薬剤保持カートリッジ2の流入用開口部11aの延びる方向とが略同方向であるため、薬剤保持カートリッジ2を装置本体5に取り付ける際の向きを直感的に、かつ、容易に判別することができ、薬剤保持カートリッジ2を初めて交換する場合であっても戸惑うことなく、容易に交換できる。
【0109】
また、装置本体5の薬剤放散孔55における下流端開口の上縁部55aを、下縁部55bよりも空気流れ方向下流側に位置付けたので、薬剤放散孔55の下流端開口から放散される薬剤を含んだ空気が使用者へ向けて流れ易くなる。これにより、薬剤が使用者側に届きやすくなり、その結果、薬剤による効力を高めることができる。
【0110】
尚、薬剤放散装置1は、例えば置いて使用することもできるし、鞄等に取り付けて使用することもできる。
【0111】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0112】
以上説明したように、本発明は、例えば、使用者に取り付けて使用することができる。
【符号の説明】
【0113】
1 薬剤放散装置
2 薬剤保持カートリッジ
4 薬剤保持体
5 装置本体
35 支軸
40 カバー
50 ファン(送風部)
51 電動モーター
52 電池(電力供給部)
60 電源スイッチ
62 フレキシブル基板
63 運転ランプ(動作状態報知用発光体)
R カートリッジ収容空間
S1、S2 電池収容空間
図1
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