(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2工程において、前記リング状部材の前記打ち抜き加工開始から前記成形加工が完了するまでの時間は、0.1秒以内である、請求項2に記載の軌道輪の製造方法。
前記第2工程において、前記リング状部材が前記内筒と前記外筒のいずれか一方と前記第1の金型との間に挟持される挟持力は、0.2MPa以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の軌道輪の製造方法。
前記鋼材は、0.4質量%以上の炭素を含み、2mm以下の厚みを有しており、かつ厚み方向においてリング状に打ち抜かれる、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の軌道輪の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0019】
まず、本発明の一実施の形態に係るスラストニードルころ軸受1の構成について説明する。
図1は、スラストニードルころ軸受1の軸方向に沿った断面構造を示している。
図1を参照して、スラストニードルころ軸受1は、一対の軌道輪11と、複数のニードルころ12と、保持器13とを含む。
【0020】
軌道輪11は、たとえば炭素濃度が0.4質量%以上である鋼からなり、中央に穴が設けられた円盤形状を有している。軌道輪11は、一方の主面においてニードルころ12が接触する軌道輪転走面11Aを有している。一対の軌道輪11は、軌道輪転走面11Aが互いに対向するように配置されている。軌道輪11の内周側は、ころ12の脱落を防止するために浅く折り曲げられている。軌道輪11は、ビッカース硬さが700HV以上である。軌道輪11の軌道輪転走面11Aにおける平面度は、約10μmである。
【0021】
ニードルころ12は、たとえば鋼からなり、外周面においてころ転動面12Aを有している。ニードルころ12は、
図1に示すように、ころ転動面12Aが軌道輪転走面11Aに接触するように、一対の軌道輪11の間に配置されている。
【0022】
保持器13は、たとえば樹脂からなり、複数のニードルころ12を軌道輪11の周方向において所定のピッチで保持する。より具体的には、保持器13は、円環形状を有するとともに、周方向において等間隔に形成された複数のポケット(図示しない)を有している。そして、保持器13は、ポケットにおいてニードルころ13を収容する。
【0023】
複数のニードルころ12は、保持器13によって軌道輪11の周方向に沿った円環状の軌道上において転動自在に保持されている。以上の構成により、スラストニードルころ軸受1は、一対の軌道輪11が互いに相対的に回転可能に構成されている。また軌道輪11は、以下に説明する本実施の形態に係る軌道輪の製造方法により製造される。
【0024】
図2は、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
図3は、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法における各種パラメータの変化を説明するためのタイムチャートである。
図3には、(A)鋼材に供給される電流の経時変化、(B)鋼材の温度の経時変化、(C)プレス機のストローク(外筒)、(D)プレス機の内筒突出量、(E)油圧式チャックの圧力、(F)第1および第2クランプ部の間に作用する張力が示されている。
【0025】
以下、
図2のフローチャートおよび
図3のタイムチャートを主に参照しながら、
図2および
図3に付された「S0〜S13」の順に本実施の形態に係る軌道輪の製造方法を説明する。
【0026】
まず、軌道輪11を得るための材料である鋼材が準備される(S0)。
図4は、鋼材としてのコイル材の形状を概略的に示した図である。コイル材2は、
図4に示すように、圧延された薄板状の鋼材がコイル状に巻き取られたものである。
【0027】
コイル材2は、たとえば0.4質量%以上の炭素を含む鋼からなる。より具体的には、コイル材2は、たとえばSAE規格のSAE1070、機械構造用炭素鋼鋼材であるJIS規格のS40CおよびS45C、S50C,S55C,S60C、高炭素クロム軸受鋼であるJIS規格のSUJ2、炭素工具鋼鋼材であるJIS規格のSK85、機械構造用合金鋼鋼材であるJIS規格のSCM440,SCM445、合金工具鋼鋼材であるJIS規格のSKS5、ばね鋼鋼材であるJIS規格のSUP13、またはステンレス鋼材であるJIS規格のSUS440Cなどの鋼からなる。またコイル材2は、2mm以下の厚みを有する薄板状の鋼材である。
【0028】
次に、コイル材2から軌道輪11を得るための成形台としてのプレス機3が準備され(S0)、コイル材2がプレス機3に設置される(S1)。ここで、プレス機3の構成について図示して説明しておく。
【0029】
図5は、プレス機3の上下方向(プレスのストローク方向)に沿った断面を示す図である。プレス機3は、プレス用ダイ30と、成形用ダイ31,32と、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bとを含む。
【0030】
プレス用ダイ30は、円筒状の形状をしている。プレス用ダイ30は、外筒30Aと、内筒30Bとを含む。外筒30Aと、内筒30Bとは、それぞれ円筒状の下端部に設けられたプレス部35A,35Bを含む。プレス部35A,35Bは、プレス時には面一な下端面を形成し、成形用ダイ31,32の上端面との間でコイル材2をせん断する打抜き加工を行なうための部分である。プレス用ダイ30は、上下方向において成形用ダイ31,32と対向するように配置されている。またプレス用ダイ30は、図示しない駆動機構によって、成形用ダイ31,32に接近するように、または成形用ダイ31,32から離れるようにストロークさせることが可能となっている。成形用ダイ31,32はプレス機のベース36に固定されている。
【0031】
図6は、プレス部35Aを平面視した状態を示す図である。
図6中破線で示すように、プレス部35Aの内部には、冷却水の通路となる水冷回路35Cが周方向に沿って設けられている。
図6では、冷却水の流れを示す矢印が付されている。このように冷却水を循環させてプレス部35Aを冷却することにより、プレス部35Aをコイル材2に接触させた際に、コイル材2の急速冷却(ダイクエンチ)を行なうことができる。なお、外筒30Aのプレス部35Aだけではなく、成形用ダイ32および内筒30Bのプレス部35Bにも同様に冷却水の通路を設けて冷却してもよい。
【0032】
再び
図5を参照して、成形用ダイ31,32は、上下方向においてプレス用ダイ30と対向するように配置されている。成形用ダイ31は、
図5に示すように円柱形状を有する。成形用ダイ32は、リング形状であり、内径が成形用ダイ31の直径よりも大きい。成形用ダイ32は、径方向において成形用ダイ31との間に隙間を有するように、成形用ダイ31の外側に配置されている。成形用ダイ32には、内周部において径方向内側に突出する凸部32Aが形成されている。
【0033】
図7は、
図5の状態からプレス用ダイ30が下降しリング状部材を打ち抜いた状態を示す断面図である。
【0034】
図7に示すように、プレス用ダイ30が成形用ダイ31,32側へストロークされた場合、プレス部35A,35Bが成形用ダイ31,32の隙間に位置する。
【0035】
第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bは、プレス機3においてコイル材2を固定し、かつコイル材2に対して張力を印加するためのものである。第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bは、
図7に示すようにコイル材2を上記上下方向から挟持している状態と、
図5に示すように挟持していない状態とを変更可能に設けられている。第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bは、任意の構成を有していればよいが、たとえば油圧クランプやエアクランプであってもよい。
【0036】
第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bは、コイル材2の延在方向において、プレス用ダイ30および成形用ダイ31,32を挟んで互いに対向する位置に設けられている。第1クランプ部33Aは上記延在方向においてコイル材2の供給側に配置され、第2クランプ部33Bは上記延在方向においてコイル材2の排出側に配置されている。
【0037】
第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bは、互い対向する方向(コイル材2の延在方向)において相対的に移動可能に設けられている。たとえば、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bはそれぞれ油圧クランプであって油圧シリンダ(図示しない)を含み、油圧シリンダにより上記対向する方向において互いに離れるように移動可能に設けられている。これにより、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bは、プレス用ダイ30と成形用ダイ31,32との間に配置されたコイル材2に対し、コイル材2の延在方向に張力を印加することができる。コイル材2に対して第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bが印加可能な張力は、0MPa超え500MPa以下である。ここで、張力とは、コイル材2の長さ方向の応力(コイル材2を伸ばすための応力であって、具体的にはコイル材2を通電するためにクランプし、熱膨張によるたわみを伸ばすためにコイル材2に印加される応力)をいう。
【0038】
コイル材2に電流を供給するために通電端子が設けられる。通電端子は、図示しない直流電源または交流電源に接続されており、コイル材2に直流電流または交流電流を供給する。そして、この電流の供給によって生じた発熱によりコイル材2を加熱することができる。通電端子は、たとえば第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bよりも内側に位置し、コイル材2において第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bによって張力が加えられている部分に接触可能に設けられてもよいが、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bと兼用されても良い。
【0039】
以下、
図3のタイムチャートに示すようにプレス機3が順次動作する。まず、時刻t1において、コイル材2がプレス機3の第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bにより挟持される(S2)。第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bには、コイル材2を保持するための圧力P1が供給される。
【0040】
次に、時刻t2において、コイル材2に張力が加えられる(S3)。具体的には、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bのうちの少なくとも一方がコイル材2の延在方向において他方から離れるように相対的に移動される。これにより、コイル材2において、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bにそれぞれ保持されている部分の間に位置する領域には、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bの相対的な移動量(第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33B間の距離の変化量)に応じた張力が加えられる。コイル材2に対して加えられる張力は、たとえば0MPa超え500MPa以下である。第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bの相対的な位置関係は、少なくともプレス成形が終了する時刻t8まで保持される。つまり、コイル材2に加えられる張力は、少なくとも加熱およびプレス成形が行なわれる間保持される。
【0041】
次に、時刻t3において、通電加熱が開始される(S4)。まず通電端子がコイル材2に接触するように移動される。そして、通電端子を介してコイル材2に電流が供給される。これにより、コイル材2が電流の供給により生じた発熱(ジュール熱)によって加熱される(通電加熱)。
【0042】
時刻t3〜t4の間所定電流が流されることによって温度が上昇し、時刻t5において、コイル材2の温度が目標温度に到達する(S5)。目標温度に到達する少し手前の時刻t4で電流が下げられ、時刻t5〜t6において、コイル材2が目標温度において一定時間保持される(S6)。時刻t6において、プレス機3におけるコイル材2の通電加熱が完了する(S7)。
【0043】
ここで、コイル材2の加熱温度(目標温度)は、コイル材2を構成する鋼のA
1変態点以上の温度であって、たとえば1000℃である。「A
1変態点」とは、鋼を加熱した場合に、鋼の組織がフェライトからオーステナイトへ変態を開始する温度に相当する点をいう。そのため、上記通電加熱によって、コイル材2を構成する鋼の組織がオーステナイトに変態する。
【0044】
次に、コイル材2のプレス成形が開始される(S8)。具体的には、時刻t7において、
図7のプレス用ダイ30が成形用ダイ31,32側へストロークする。この段階では、外筒30Aと内筒30Bは一体的にストロークする。これにより、プレス部35A,35Bがコイル材2に接触し、コイル材2の一部がコイル材2の厚み方向においてリング状に打ち抜かれる(S9)。これにより、リング状のリング状部材2Aが得られる。その後、時刻t8においてリング状部材2Aの成形加工が行なわれる。
【0045】
図8は、打ち抜き後に行なわれる成形加工の前工程を示す断面図である。
図9は、打ち抜き後に行なわれる成形加工の後工程を示す断面図である。
【0046】
時刻t8において、プレス用ダイ30がさらに成形用ダイ31,32側へストロークされることにより、外筒30Aのプレス部35Aが成形用ダイ32の凸部32Aと接触し、下死点に到達する(S10)。外筒30Aのストロークは下死点で停止した状態であり、内筒30Bは外筒30Aから
図3(D)に示すように下方に突出する。
図8に示した状態では、プレス部35Aは、凸部32Aとの間でリング状部材2Aを挟持する。その際の挟持力は0.2MPa以上であり、好ましくは1MPa以上とすると良い。
【0047】
さらに
図9を参照して、内筒30Bが外筒30Aから下方に突出することにより、リング状部材2Aに絞り加工が行なわれる。これにより、リング状部材2Aの内周部が、リング状部材2Aの厚み方向に向くように下方向に折り曲げられる。このようにして、プレス機3においてリング状部材2Aに多段プレス加工が施される(S11)。この多段プレス加工によって、外筒30Aでリング状部材2Aの外周部を押さえた状態で、内筒30Bが外筒30Aから突出し、内筒30Bでリング状部材2Aの内周部が絞り加工され、成形体2Bが成形される。外周部を押さえた状態で内周部に絞り加工を行なうことによって、成形体2Bの外周部に生じるしわや割れを防止することができる。なお、リング状部材2Aの温度が高いうちに絞り加工を行なわなければならないので、外筒30Aが下死点に到達後すぐに絞り加工を完了させる必要がある。時刻t7〜t8に示される打ち抜き開始から絞り加工完了までの時間は、たとえば0.1秒以内であり、好ましくは0.02秒以内とすると良い。
【0048】
そして、時刻t8〜t9の一定時間、成形体2Bがプレス機3(プレス用ダイ30、成形用ダイ31および32)と接触した状態において保持される。このとき、
図6に示したようにプレス用ダイ30内の水冷回路35Cに冷却水が供給されているので、リング状部材2Aの熱は冷却されたプレス用ダイ30に奪われる。なお、成形用ダイ32にも同様な水冷回路を設けてもよい。これにより、リング状部材2AがMs点以下の温度にまで急冷されることにより、焼入処理が行なわれる。
【0049】
ここで、「Ms点(マルテンサイト変態点)」とは、オーステナイト化した鋼が冷却される際に、マルテンサイト化を開始する温度に相当する点をいう。その結果、成形体2Bを構成する鋼の組織がマルテンサイトに変態する。このようにして、時刻t9において成形体2Bの焼入処理(ダイクエンチ)が完了する(S12)。
【0050】
最後に、時刻t10において、コイル材2を保持するために第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bに供給されていた圧力がアンクランプされ、抜きカス材となったコイル材2および焼入処理が完了した成形体2Bがプレス機3から取り出される。このとき、第1クランプ部33Aと第2クランプ部33Bとの間のクランプ力を緩めることにより、コイル材2に加えられていた張力が緩められる(S13)。上記のような工程S0〜S13を備える製造方法により、軌道輪11が製造される。
【0051】
なお、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法は、上記の構成に限られるものではなく、種々の変形が可能である。
【0052】
たとえば、コイル材2に張力を加える方法としては、第1クランプ部33Aおよび第2クランプ部33Bはいずれもプレス機3の外部に設けられていてもよい。
【0053】
また、コイル材2の加熱方法としては、通電加熱に限られるものではなく、間接抵抗加熱、誘導加熱、接触伝熱および遠赤外線加熱からなる群より選択される少なくともいずれかの方法を採用することができる。以下、各加熱方法についてより詳細に説明する。
【0054】
図10は、加熱方法の一例である抵抗加熱について説明するための図である。抵抗加熱においては、2つの加熱方法が考えられる。1つは、
図10(a)に示すように、抵抗R1を有する被加熱物100を直接通電して生じたジュール熱により被加熱物100を加熱する方法である。他の1つは、
図10(b)に示すように、抵抗R2を有する発熱体102を通電して生じたジュール熱により、発熱体102の近くに配置された被加熱物100を間接的に加熱する方法である。
【0055】
図10(a)を参照して、被加熱物100を直接通電して加熱する方法においては、抵抗R1を有する被加熱物100に対して電源101から電流Iが供給される。これにより、被加熱物100において電流Iの供給による発熱(P=R1・I
2)が生じて、被加熱物100が加熱される。本実施の形態においては、コイル材2に対して通電端子から直流電流が供給されることにより生じた発熱により、コイル材2が加熱されてもよい。また、コイル材2に対して通電端子から交流電流が供給されることにより生じた発熱により、コイル材2が加熱されてもよい。
【0056】
また、
図10(b)を参照して、被加熱物100を間接的に加熱する方法においては、抵抗R2を有する発熱体102に対して電源101から電流Iが供給される。これにより、発熱体102において電流Iの供給による発熱(P=R2・I
2)が生じて、発熱体102が加熱される。本実施の形態においては、発熱体102に対しては、直流電流が供給されてもよいし、交流電流が供給されてもよい。
【0057】
図11は、加熱方法の他の一例である誘導加熱について説明するための図である。
図11を参照して、誘導加熱においては、コイル104に対して交流電源103から交流電流が供給されることにより、被加熱物100において交番磁束Bが発生する。また被加熱物100において、交番磁束Bを打ち消す方向に渦電流Iが発生する。そして、渦電流Iと被加熱物100の抵抗Rとにより生じた発熱によって、被加熱物100が加熱される。
【0058】
図12は、加熱方法の他の一例である接触加熱について説明するための図である。
図12を参照して、接触伝熱においては、内部加熱ロール106と外部加熱ロール105からの伝熱によって、被加熱物100が加熱される。
【0059】
なお、図示しないが、遠赤外線加熱においては、被加熱物に遠赤外線を照射することにより、遠赤外エネルギーが被加熱物に与えられる。これにより、被加熱物を構成する原子間の振動が活性化することで発熱が生じ、被加熱物が加熱される。
【0060】
また、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法では、
図9に示すように、リング状部材2Aの内周部がリング状部材2Aの厚み方向に向くように絞り加工によって折り曲げられることにより、プレス機3において成形体2Bが成形されたが、これに限られるものではない。たとえば、リング状部材2Aの内周部ではなく外周部に絞り加工がされても良い。
【0061】
図13は、成形加工の変形例を説明するための第1の図である。
図14は、成形加工の変形例を説明するための第2の図である。
【0062】
図13、
図14に示した例では、リング状のリング状部材2Aの外周部に成形加工が施され、成形体2Cを製造される。この場合、成形用ダイ131の内周面において径方向内側に突出する凸部131Aが形成されている。このため、上記実施の形態の場合と同様にプレス用ダイ130のストロークを行なった場合、リング状のリング状部材2Aの内周部が凸部131Aと内筒130Bの先端部との間に挟持される。
【0063】
そして、プレス用ダイ130の外筒130Aが内筒130Bよりもさらにストロークされる。これにより、
図14に示すように、リング状部材2Aの内周部が、リング状部材2Aの厚み方向に向くように絞り加工によって折り曲げられ、成形体2Cが成形される。このようにしても、焼入処理の前にプレス機においてリング状部材2Aに成形加工を施すことができ、上記実施の形態の場合と同様の効果を奏することができる。
【0064】
次に、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法による作用効果について、比較例を参照しながら説明する。まず、比較例における軌道輪の製造方法について、
図15〜
図23を参照して説明する。
図15を参照して、まず、圧延された薄板状の鋼材がコイル状に巻き取られたコイル材200が準備される。次に、
図16および
図17を参照して、コイル材200がダイ310上に設置され、ダイ300をダイ310側へストロークすることにより、コイル材200に打抜き加工が施される。これにより、リング状の成形体200Aが得られる。次に、
図18および
図19を参照して、成形体200Aがダイ320上に設置され、ダイ330をダイ320側へストロークすることにより、成形体200Aの内周部に成形加工が施される。
【0065】
次に、
図20に示すように、熱処理前の段取り工程において、複数の成形体200Aがバー410に掛けられた状態で並べられる。その後、
図21に示した浸炭炉400の中に、これらの成形体200Aが入れられ、成形体200Aに対して浸炭処理が実施される。次に、
図22に示すように、浸炭処理後の成形体200Aに衝風420を当てて冷却することにより、成形体200Aに焼入処理が施される。最後に、
図23を参照して、焼戻炉430において焼入処理後の成形体200Aに対してプレステンパー処理が施される。以上のように、比較例の軌道輪の製造方法は多くの工程からなるため、軌道輪の製造コストが高くなる。
【0066】
これに対して、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法では、コイル材2の加熱、打抜、成形加工および焼入処理のそれぞれの工程が、全てプレス機3において一つの工程として実施される。そのため、上記比較例における軌道輪の製造方法のように、上記工程が別々に実施される場合に比べて、製造工程をより短縮することができる。その結果、軌道輪の製造コストをより低減することが可能になり、より安価な軌道輪の提供が可能になる。
【0067】
さらに、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法において、軌道輪を得る工程では、鋼材に対して鋼材の表面に沿った少なくとも一方向に張力を加えた状態で、加熱と打ち抜きとが行なわれる。そのため、軌道輪を得る工程において鋼材に対して張力を加えていない状態で上記加熱および上記打ち抜きを行なう場合と比べて、得られる軌道輪の加工品質を向上させることができる。
【0068】
さらに、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法においては、打ち抜き加工後の成形を多段プレスによって、絞り加工が行なわれる。多段プレスによって、リング状のリング状部材2Aの外周(または内周)を押さえつつ、絞り加工するため、しわが生じにくく、曲げ角度も直角に近くすることができ、加工精度が良好となる。
【0069】
本実施の形態に係る軌道輪の製造方法により製造された軌道輪11は、以下のように評価することにより高い加工品質を有していることを確認できた。
【0070】
図24は、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法を実施するために用いたプレス機の構成を示す図である。
【0071】
図24に示すプレス機3は、第1クランプ部33A(一方の通電端子を兼ねる)が1つのシリンダ37に接続されており、第2クランプ部33B(他方の通電端子を兼ねる)が別の1つのシリンダ37に接続されている構成とした。
【0072】
図24に示すプレス機3を用いて、コイル材2に対して延在方向に10MPaの張力を印加した状態のまま、A
1変態点以上の温度である1000℃までコイル材2を直接抵抗加熱し、その後ダイクエンチ加工を行なった。
【0073】
このようにして
図25の写真に示すような軌道輪11が製造された。このようにして製造された複数の軌道輪11(鋼材:SAE1070)に対してビッカース硬さ測定を行なった結果、平均の硬さは約790HVであった。また、この軌道輪11の一部を切断し、その断面をナイタル腐食し、断面を光学顕微鏡によりミクロ組織観察した場合、
図26の写真のようなマルテンサイト組織が確認された。
【0074】
さらに、軌道輪11に対してタリロンドを用いて平面度の測定を行なった結果、平面度は約10μmであった。これに対し、本実施の形態における軌道輪を得る工程において、コイル材2に対して張力を加えていない状態で上記加熱および上記打ち抜きを行なって得られた軌道輪は、平面度が約40μmであった。
【0075】
このように、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法によれば、製造工程の短縮を図るとともに、十分な焼入処理を施すことにより高い硬度を有し、かつ高い加工品質を有する軌道輪11を製造することができることが確認された。
【0076】
最後に、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法について再び図を参照して総括する。
図2、
図5を参照して、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法は、成形台に鋼材をA
1変態点以上の温度に加熱した状態で設置する第1工程(S1〜S7)と、成形台において、鋼材からリング状部材を打ち抜いた後に、リング状部材を成形加工するとともに焼入れ処理する第2工程(S8〜S12)とを備える。成形台は、第1の金型(成形用ダイ31,32)および第2の金型(プレス用ダイ30)を含む。第2の金型は、内筒30Bと外筒30Aに分割可能に構成される。第2工程において、コイル材2が第1の金型と第2の金型との間に配置されるとともに、内筒30Bの先端部と外筒30Aの先端部とがコイル材2に押し当てられることによりコイル材2からリング状部材2Aが打ち抜かれる。
図5〜
図9に示すように、打ち抜かれたリング状部材2Aは、外筒30Aと成形用ダイ32との間に挟持された状態で、内筒30Bの先端がさらにリング状部材2Aに押し当てられることによってリング状部材2Aの成形加工が行なわれるとともに焼入れ処理が行なわれる。
【0077】
なお、変形例に示したように、打ち抜かれたリング状部材2Aは、内筒130Bと成形用ダイ131との間に挟持された状態で、外筒130Aの先端がさらにリング状部材2Aに押し当てられることによってリング状部材2Aの成形加工が行なわれるとともに焼入れ処理が行なわれるようにしても良い。
【0078】
上記製造方法によれば、打ち抜き、成形、焼入れが短時間でかつ中途の段どり作業が不要で行なえるので安価に製造できるとともに、成形加工の加工精度も良好である。
【0079】
好ましくは、第2工程では、第1段階で打ち抜き加工を行ない、第2段階で焼入れ処理とともに成形加工として絞り加工を行なう。
【0080】
上記製造方法は、軌道輪のような形状に特に適している。
より好ましくは、第2工程において、リング状部材の打ち抜き加工開始から成形加工が完了するまでの時間は、0.1秒以内である。
【0081】
上記製造方法は短時間で打ち抜き加工と成形加工を行ない直ちにダイクエンチによる焼入れ処理を行なうので、焼入れの前にリング状部材が徐冷されてしまうことが無く、焼入れ効果が高い。
【0082】
好ましくは、第2工程において、リング状部材が内筒と外筒のいずれか一方と第1の金型との間に挟持される挟持力は、0.2MPa以上である。
【0083】
このように挟持力を高くしているので、絞り加工においてしわや割れが生じにくい。
好ましくは、鋼材は、0.4質量%以上の炭素を含み、2mm以下の厚みを有しており、かつ厚み方向においてリング状に打ち抜かれる。
【0084】
このような鋼材を使用するので、焼入れが良好に行なわれると共に、ダイクエンチによっても内部まで焼入れ処理ができる。
【0085】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。