(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記演算手段は、上記演算の結果の履歴情報及び上記一定間隔の距離の初期値を記憶する記憶部を含み、上記各ロープの伸び量の変化を上記履歴情報及び上記初期値から演算し、閾値以上の変化であるか否かにより上記ロープの伸びを判定する、請求項1に記載のエレベータ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係るマシンルームレスタイプのエレベータの概略構成を示す図である。
【0012】
エレベータ1は、建屋に設けられた昇降路2を有し、この昇降路2の内部に乗りかご11およびカウンタウェイト12がそれぞれにガイドレールを介して昇降動可能に支持されている。さらに、トラクションシーブ13を有する巻上機14が昇降路2の上部に設置されている。
【0013】
乗りかご11およびカウンタウェイト12は、メインロープ10を介して昇降路2内に吊り下げられている。なお、本実施形態では、メインロープ10は、メインロープ10a,10bの2本有している場合で説明するが、説明の便宜上、
図1では、一本のメインロープ10のみを示している。また、以下においては、メインロープ10a,10bを代表してメインロープ10として説明する場合がある。
【0014】
メインロープ10の一端部3aおよび他端部3bは、それぞれに昇降路2の上端にロープヒッチ4a,4bを介して固定されている。また、メインロープ10の中間部3cが乗りかご11に設けられたシーブ15、巻上機14に設けられたトラクションシーブ13およびカウンタウェイト12に設けられたシーブ16に連続的に巻き掛けられている。これにより、乗りかご11とカウンタウェイト12を2:1ローピンク形式で支持している。巻上機14の駆動によりトラクションシーブ13が回転すると、そのトラクションシーブ13の回転に伴い、乗りかご11とカウンタウェイト12がメインロープ10を介して昇降路2内をつるべ式に昇降動作する。
【0015】
また、昇降路2内には、調速機(ガバナ)17が設けられている。図中の18は調速機17を回転駆動するためのガバナロープである。調速機17は、乗りかご11の昇降動作に伴って移動するガバナロープ18を介して乗りかご11の位置、速度を検出し、何らかの異常で乗りかご11の速度が設定速度を超えた場合にブレーキを起動する。
【0016】
なお、機械室がないマシンルームレスタイプのエレベータでは、巻上機14が昇降路2内に設置されるが、本発明は特にこの構成に限定されるものではなく、機械室を有するエレベータであってもよい。機械室を有するエレベータでは、巻上機14が機械室に設置される。また、ローピングについても、
図1に示したような2:1ローピングに限らず、例えば1:1ローピングなどの他の方式であっても良い。
【0017】
ここで、本実施形態のエレベータ1(ロープ測長システム)は、光学ユニット21と、エンコーダ22と、演算装置23と、表示装置24とを備える。
【0018】
光学ユニット21は、検査対象とするメインロープ10の長手方向に一定間隔で設けられた複数のマーク20(参照:
図3)を検出する(マーク検出手段)。エンコーダ22は、メインロープ10の移動に同期してパルス信号を発生する(パルス発生手段)。演算装置23は、光学ユニット21によるマーク20の検出タイミングとエンコーダ22から出カされるパルス信号のカウント値とに基づいて、メインロープ10(10a,10b)上の各マーク20の間隔を演算し、その演算結果から各ロープ10(10a,10b)の劣化状態(伸び量)を判定する(演算手段)。表示装置24は、例えば演算装置23によって演算されたマーク20間の距離等の測長結果を表示する。なお、演算装置23と表示装置24は汎用のコンピュータからなる。
【0019】
エレベータ1では、メインロープ10の強度が規定値を下回った時にロープ交換が要求される。そのため、規定された強度低下に対応するメインロープ10の伸び量を交換基準とすることで、メインロープ10を安全に使用することができる。
【0020】
ここで、
図2および
図3を参照してメインロープ10の構造について説明しておく。
図2は第1の実施形態におけるエレベータに用いられるメインロープの構造を示す断面図である。
図3は第1の実施形態におけるエレベータに用いられるメインロープの外観を示す斜視図である。
【0021】
メインロープ10としてワイヤロープが用いられる。
図2に示すように、メインロープ10は、抗張力部材としてのロープ本体31と、ロープ本体31を全面的に被覆した外部被覆層32とを主要な要素として備えている。
【0022】
ロープ本体31は、複数本の鋼鉄製ストランド33を所定のピッチで撚り合わせることで構成されている。外部被覆層32は、例えばポリウレタンのような耐摩耗性および高摩擦係数を有する熱可塑性の樹脂材で形成されている。外部被覆層32は、メインロープ10の外表面を規定する外周面32aを有している。外周面32aは、円形の断面形状を有するとともに、各シーブ13,15,16に巻き掛けられた際に、摩擦を伴いながら接触する。
【0023】
さらに、外部被覆層32を形成する樹脂材は、隣り合うストランド33の間の隙間に充填されている。そのため、外部被覆層32は、ロープ本体31の周方向に隣り合うストランド33の間に入り込む複数の充填部34を有している。充填部34は、外部被覆層32の外周面32aの内側に位置されている。
【0024】
図3に示すように、メインロープ10の表面(つまり外部被覆層32の外周面32a)に複数のマーク20が設けられている。これらのマーク20は、メインロープ10の劣化による伸び量を検出するための要素であって、メインロープ10の全長に亘って長手方向に一定の間隔(例えば500mm間隔)で並んでいる。これらのマーク20の1つ1つは、メインロープ10の周方向に連続的な直線あるいは間欠的な点線で形成されている。
【0025】
ところで、メインロープ10は、使用期間の経過に伴ってストランド33の間の隙間およびストランド33を構成する複数の素線間の隙間が減少する。これにより、ストランド33や素線が互いに摩擦を繰り返し、ストランド33や素線の摩耗・断線が進行する。
【0026】
特に、メインロープ10が各シーブ13,15,16と接触する部分では、摩擦を繰り返し受ける。このため、メインロープ10の摩耗・断線の進行度合いは、メインロープ10がシーブ13,15,16を通過しない部分に比べて大きく、これによりメインロープ10のロープ径が減少したり、メインロープ10に局部的な伸びが生じる。したがって、メインロープ10の伸びと強度低下率との関係を明確化し、メインロープ10の中でも劣化が最大となる部分の伸びを検出することで、メインロープ10の強度を管理することができる。
【0027】
光学ユニット21は、例えば巻上機14の近傍でメインロープ10に対向させるようにして固定しておく。エンコーダ22は、ロータリー型のエンコーダであり、例えば乗りかご11の上部に固定し、回転部をガイドレール5に圧接させる。これにより、点検運転で最上階と最下階の間で乗りかご11を昇降させると、ロープヒッチ4a,4bに近い部分を除き、メインロープ10の全長の大部分は光学ユニット21を通過し、その通過時に連続的にマーク20を検出することができる。また、エンコーダ22は、乗りかご11の移動に同期してパルス信号を出力するため、略ロープ送り量に応じたパルス出力となる。
【0028】
演算装置23は、光学ユニット21から出力されるマーク検出信号をトリガにして、その間にエンコーダ22から出力されるパルス信号のカウント値に基づいてマーク間の距離を演算する。
【0029】
なお、光学ユニット21を固定する巻上機14近傍の位置は、乗りかご11側であっても、カウンタウェイト12側であってもよい。カウンタウェイト12側であれば、ロープ張力が乗りかご11の積載状態に依存しないため、交換判定の閾値は特定の構造に対して一定となり、運用上の利便性が高い。これは、乗りかご11とカウンタウェイト12の質量の違いからメインロープ10の弾性的な伸びが異なり、一定の劣化に対して異なる伸び量を示すためである。ただし、交換判定の閾値はロープ張力に合せて変更すればよいため、マーク間隔の測定において本質的な問題ではない。
【0030】
光学ユニット21に用いるセンサは、応答性に鑑みてレーザ反射光を用いた光電センサで構成することが望ましい。市販の光電センサでは、近年レーザ光を対象物に照射し、反射光強度の差によって表面の色の変化を検出するセンサが普及している。
【0031】
図4および
図5はセンサによる光学ユニット21によってメインロープ10(10a,10b)上のマーク20を光学的に検出する場合の光学ユニット21の構成を示す図である。
図4は光学ユニット21の構成を側面から説明する図、
図5は光学ユニットの構成を上側から見た断面を模式的に示す図である。光学ユニット21は、センサ部21a、レンズ21b、スリット部21cを含む。ここでは、2本のメインロープ10a,10bのマークを1つの光学ユニット21で検出する構成について説明するが、3本以上のメインロープを1つの光学ユニットで検出する構成としてもよい。即ち、光学ユニット21の個数は、メインロープ10のロープ数以下とすることができる。また、2本のメインロープ10a,10bの片側に1つの光学ユニット21を配置した構成を示すが、後述するように、マーク20の一部が欠損している場合を考慮すると、メインロープ10の両側に一対の光学ユニット21を配置しておくことが好ましい。
【0032】
センサ部21aは、レーザ光を照射するための照射部25と、反射光を受光するための受光部26とを備える。レンズ21bは、センサ部21aと、スリット部21cとの間に介在し、照射部25から照射されるレーザ光をスリット部21cの側面に対して発散して照射すると共に、スリット部21cのスリットを通過して入力される反射光を集光して受光部26に入力する。スリット部21cは、メインロープ10aに対する光路OP1、及びメインロープ10bに対する光路OP2を形成する2つのスリットSL11,SL12が設けられている。受光部26は、メインロープ10の長手方向に破線Aで示す範囲内の反射光に対して検出感度を有している。
【0033】
光学ユニット21は、このように構成されているため、照射部25からレーザ光が照射されるとレンズ21bにより発散されるレーザ光がスリット部21cの側面に照射され、光路OP1,OP2を通過したレーザ光がメインロープ10a,10bにそれぞれ照射される。そして、メインロープ10a,10bからの反射光が光路OP1,OP2を介してレンズ21bに入力され、レンズ21bにより反射が集光されて受光部26に入力される。受光部26はこの反射光を検出し、その反射光の強度からメインロープ10a,10bそれぞれのマーク20の有無を判別することができる。ここで、メインロープ10a,10bのマーク20の位置は、メインロープ10a,10bの長手方向に所定距離ずれてマークされているため、メインロープ10a,10bの2本のロープのマークを光学ユニット21によりそれぞれ検出することが可能になる。
【0034】
メインロープ10の移動速度が1m/s以下の点検運転であれば、十分な応答性能を得ることができる上、先行文献1のような画像処理カメラによる検出方法にくらべて低コストである。さらに、画像処理カメラによる検出方法では、メインロープ10a,10bから離れた場所にカメラを設置してメインロープ10を広範囲に撮影しないと、撮影画像からマーク間隔を測定することができない。これに対し、本実施形態では、メインロープ10a,10bの近くに光学ユニット21を設置すれば良いので、ロープ測長の環境を広く必要としない利点がある。
【0035】
ここで、光学ユニット21における反射光強度の判定閾値は、点検時に可変できる構成とする。これは、レーザ反射光強度に影響を与えるマーク20とロープ表面状態が経年的に変化するためである。
【0036】
例えば、マーク20の一部が欠損した場合には、反射光強度が下がるために検出感度を増加する必要がある。また、メインロープ10a、10b表面に光を反射しやすい(明るい色の)付着物が定着した場合には検出感度を下げる必要がある。メインロープ10a,10b表面の状態は、エレベータの使用条件で異なるため、物件毎に状態に応じて判定閾値を調整可能にすることで、マーク20の誤検出や検出漏れを防ぐことができる。
【0037】
なお、メインロープ10a,10bの表面に設けられたマーク20は反射光強度が高いものとして説明したが、要はメインロープ10a,10bの中でマーク20が施されている部分(マーク部)とマーク20が施されていない部分(非マーク部)とで反射光強度に差があればよく、マーク部で反射光強度が下がる構成であっても効果は同じである。
【0038】
また、メインロープ10a,10bそれぞれが自転性を有し、かつ、経年的に一部が欠損するマーク20を確実に検出するためには、ロープ全周に対して検出感度を有する構成とすればよい。この場合は、
図6に示すように、メインロープ10の両側から挟むように一対の光学ユニット21を設けておくことが好ましい。
【0039】
次に、実際の保守現場において、マーク20の誤検出や検出漏れを防止できるより望ましい構成について説明する。
【0040】
図7はメインロープ10をガイドするためのガイド装置の構成を示す図である。メインロープ10a,10bは共通する構成になるため、
図7においてはメインロープ10として説明する。
【0041】
ガイド装置40は、光学ユニット21の近傍でメインロープ10をガイドするためのガイド部材として用いられる。ガイド装置40は、コの字形状のガイド本体41を有し、そのガイド本体41の上端部41aにローラ42a、下端部41bにローラ42bがそれぞれに回転自在に取り付けられている。
【0042】
図7に示すように、ガイド装置40は、メインロープ10の両側に一対にして設けられた光学ユニット21の近傍にそれぞれ設けられ、互いに上下のローラ42a,42bでメインロープ10を挟持することで、メインロープ10の動きを抑制している。上述したように、光学ユニット21は、センサ部21aと、レーザ光を発散すると共に反射光を集光するレンズ21bと、2つの光路OP1,OP2を形成するための2つのスリットSL11、SL12を有するスリット部21cとを備え、センサ部21aは、レーザ光を照射するための照射部25と、反射光を受光するための受光部26とを備える(これらは
図7において図示を省略している)。
【0043】
また、ガイド本体41の上端部41aにはブラシ43aを有する付着物除去部44a、下端部41bにはブラシ43bを有する付着物除去部44bが設けられている。この付着物除去部44a,44bは、センサ部21aの近傍でメインロープ10に付着した塵埃等を除去するための部材である。ガイド本体41の中央部41cには遮蔽板45が設けられている。この遮蔽板45は、外部からセンサ部21aに入り込む光(太陽光など)を遮蔽するための部材であり、例えば光学ユニット21の両側に対にして設けられている。
【0044】
点検運転時にメインロープ10が振れていると、特にマーク20が一部欠損している場合に検出漏れが発生する可能性がある。したがって、常に光学ユニット21の検出範囲をメインロープ10が通過するように、メインロープ10の動きをガイドすることが望ましい。
図7に示すように、一対のガイド装置40をメインロープ10の両側に配置し、センサ部21aの上下でレーザ照射方向と同一方向から延出されたローラ42a,42bをメインロープ10に当接させることで、自転性を有するメインロープ10a,10bの動きをセンサ部21aの検出範囲で安定化させ、マーク20を正しく検出することができる。
【0045】
また、ロープ表面には、運転中にコンクリート片、塵埃等が付着することがあり、これらがセンサ部21aを通過すると誤検出を生じる可能性がある。そのため、ロープ表面のマーク20以外の部分では、ロープ表面の色変化となる付着物は除去することが望ましい。
図7に示すガイド装置40を用いれば、メインロープ10が光学ユニット21を通過する手前でブラシ43a,43bによって塵埃等の付着物が除去されるので、付着物による誤検出を防ぐことができる。
【0046】
なお、付着物を除去する手段としてはブラシ43a,43bに限定されるものではなく、ロープ表面にダメージを与えるものでなければ、例えばフェルト等の布材を押し付けるものであっても同様の効果を得ることができる。
【0047】
また、例えばメインロープ10の片側に1つの光学ユニット21を設置した構成の場合であっても、
図7のように一対のガイド装置40を用いてメインロープ10の両側から挟み込む構成が好ましい。
【0048】
一般に、エレベータではメインロープ10として3本以上のロープを用いる。これらのロープの2本毎に1つの光学ユニット21それぞれを長手方向の異なる位置に設け、各光学ユニット21に含まれるセンサ部21aの信号を演算装置23(参照:
図1)に入力すれば、各ロープのマーク間隔を同時に測定することができる。この場合、各2本ロープに対して光学ユニット21を設けると、各センサ部21aから放射される光が互いに干渉して誤検出する可能性があるが、
図7に示したガイド装置40を用いれば、遮蔽板45によって隣り合うセンサ部21aの光を遮蔽して誤検出を防ぐことができる。
【0049】
次に、本システムの動作について説明する。
【0050】
図8は本システムの動作を説明するためのフローチャートであり、点検運転によりマーク20の間隔を自動測定してメインロープ10a,10bの伸び量を判定する処理が示されている。
【0051】
まず、乗りかご11を最下階に移動させ、そこから最上階に向けて点検運転を開始する(ステップS11)。なお、最上階から最下階に向けて乗りかご11を点検運転することでも良い。この点検運転によって、乗りかご11とカウンタウェイト12を吊り下げているメインロープ10a,10bが一定の速度でゆっくり移動する。このとき、メインロープ10a,10bの移動に同期してエンコーダ22からパルス信号が出力される。演算装置23は、このエンコーダ22から出力されるパルス信号の数を逐次カウントする(ステップS12)。
【0052】
また、メインロープ10a,10bの移動に伴い、メインロープ10a,10bの表面に設けられたマーク20が光学ユニット21によって光学的に検出される。演算装置23は、光学ユニット21によってマーク20が検出された場合(ステップS13のYES)、検出されたときのタイミングで現時点のパルス信号のカウント値を確認し、そのカウント値に基づいてマーク間の距離を算出する(ステップS14)。このとき算出されたマーク間の距離を示すデータは演算装置23内の記憶部(メモリ23a(参照:
図1))に記憶される。光学ユニット21によってマーク20が検出されない場合(ステップS13のNO)、光学ユニット21は引き続きマークの検出判定を行う。
【0053】
以後同様にして、乗りかご11が最上階に到達するまでの間、マーク20の検出タイミングでパルス信号のカウント値を確認して、そのカウント値からマーク間の距離を順次算出してメモリ23aに記憶していく(ステップS12〜S15)。
【0054】
なお、パルス信号のカウント方法として、初期値(例えば「0000」)から1パルスずつ積算していく方法と、マーク検出毎に初期値にリセットしてカウントを繰り返す方法がある。前者の方法の場合には、マーク20が検出されたときのパルスの積算値と前回検出されたときのパルスの積算値との差分値を求め、その差分値からマーク間の距離を求めることになる。
【0055】
ロープ位置とかご位置を関連付けておくためには、前者の方法のように初期値から1パルスずつ積算していく方法が好ましい。この場合、マーク20が検出されたときのパルスの積算値を順次記憶しておけば、後にその積算値を指標として乗りかご11を移動させれば、メインロープ10a,10bの中でチェックしたい部分を光学ユニット21の設置場所で目視することができる。なお、例えば2:1ローピングであれば、かご速度はロープ速度の1/2となるため、パルス信号のカウント値からマーク間隔を求めるためには、そのときのローピングの比率を考慮する必要がある。
【0056】
ここで、エレベータ据付時には、メインロープ10a,10bそれぞれにおいて、長手方向の異なる位置に所定間隔ずれてマーク20が配列されている。したがって、メインロープ10a,10bの劣化による伸びがない場合には、上記パルス信号のカウント値は据付時のマーク間隔に対応した基準値と略同じになる(参照:
図9)。一方、メインロープ10a,10bの劣化によりメインロープ10が伸びている場合には、上記パルス信号のカウント値は据付時のマーク間隔に対応した基準値を超えることになる。
【0058】
図9,
図10はパルス信号とマーク間隔との関係を説明するための図であり、
図9は据付時のメインロープ10a,10bのマーク間隔D1(マーク20aとマーク
20cとの距離)、マーク間隔D2(マーク20bとマーク20dとの距離)を示し、
図10はメインロープ10aのマーク間隔D1(マーク20aとマーク20cとの距離)と、経年変化によりメインロープ10bが伸びているときのマーク間隔D3(マーク20bとマーク20dと距離)とを示している。なお、マークを異なる位置にずらしたずれ量はgで示している。ずれ量gは、例えば、
図9に示すように、マーク20aとマーク20bとの距離である。
【0059】
据付時のマーク間隔D1,D2でパルス信号をカウントしたときの基準値をnパルスとすると、メインロープ10aが劣化していない場合には、点検運転で得られるカウント値は据付時のnパルスと多少の誤差を含み略同じである。そして、
図9において、センサ部21aにて検出した波形の隣り合わないピーク間距離をメインロープ10a,10bそれぞれのマーキング間距離とする。演算装置23は、パルス信号が示す4つのピークP11,P12,P13,P14のうち、ピークP11とピークP13とのマーキング間距離d1と、ピークP12とピークP14とのマーキング間距離d2とをそれぞれ算出する。演算装置23は、マーク間隔D1及びマーキング間距離d1、並びにマーク間隔D2及びマーキング間距離d2をそれぞれ比較し略同じであれば、メインロープ10a,10bが伸びていないことを判定することができる。
図9においては、据付時のメインロープ10a,10bを測長しているため、各ロープの伸び量がほとんどなく、マーク間隔D1及びマーキング間距離d1、並びにマーク間隔D2及びマーキング間距離d2をそれぞれ略同じとなる。
【0060】
一方、劣化によりメインロープ10bが伸びた状態にあると、点検運転で得られるカウント値は据付時のマーク間隔に対応したnパルスよりも多くなる。
図10においても、
図9の場合と同様に、演算装置23はセンサ部21aにて検出した波形の隣り合わないピーク間距離をメインロープ10a,10bそれぞれのマーキング間距離とし、パルス信号が示す4つのピークP21,P22,P23,P24のうち、ピークP21とピークP23とのマーキング間距離d3と、ピークP22とピークP24とのマーキング間距離d4とをそれぞれ算出する。演算装置23は、マーク間隔D3及びマーキング間距離d3、並びにマーク間隔
D1及びマーキング間距離d4をそれぞれ比較し、マーク間隔D3,
D1よりマーキング間距離d3,d4がそれぞれ誤差以上大きければ、メインロープ10a,10bが所定以上伸びていることを判定することができる。
【0061】
また、
図10においては、メインロープ10bのマーク20bとマーク20dとの間の伸び量が大きくなっている。具体的には、メインロープ10aのマーク20aよりも先にメインロープ10bが検出されてしまうほど伸び量が大きい場合である。なお、マーク20c及びマーク20dが検出される位置は、
図9の場合とそれぞれ同様である。この場合において、演算装置23はセンサ部21aにて検出した波形の隣り合わないピーク間距離をメインロープ10a,10bそれぞれのマーキング間距離とすると、各ロープのマーキング間距離ではなく、異なるロープのマーク位置でマーキング間距離を算出することになる。このため、各ロープのマーキング間距離を算出しているか否かを判定するため、演算装置23がずれ量gの大きさを判定してもよい。演算装置23はずれ量gが誤差の範囲で略同じであれば正しく各ロープのマーキング間距離が検出されていると判定し、ずれ量gが誤差の範囲を超えている場合は、各ロープのマーキング間距離が検出されていないと判定する(参照:
図10)。これにより、演算装置23は測長結果が正しいか否かを判定することができる。
【0062】
点検運転後、演算装置23は、メモリ23aに測定結果として記憶された各マーキング間距離に基づいてメインロープ10a,10bの伸び状態を判定し(ステップS16)、その判定結果に応じて処理を実行する(ステップS17)。
【0063】
具体的には、演算装置23は、メモリ23aに記憶された測定結果に基づいてマーク間隔が予め設定された閾値を超える箇所があるか否かを判定する。該当する箇所があった場合、演算装置23は、例えば表示装置24に警告メッセージを表示したり、アラーム音を発するなどして、保守員にロープ交換時期が近付いている旨やマーキング間距離の算出にエラーが発生した旨を知らせる。これにより、保守員による点検作業を削減でき、ロープ交換が必要な時期を把握して対処することができる。
【0064】
また、パルス信号のカウント値から各部のマーク間隔の測定値と点検運転によるロープ移動量とを関連付けることは容易であるため、上記閾値を超えた箇所のロープ位置を表示装置24に表示するようにしても良い。マーク間隔が閾値を超えた箇所は損傷が進んだ部分であり、損傷原因を明らかにするため、外観観察によって損傷レベルの目視確認が望まれる。このような場合に、閾値を超えた箇所のロープ位置を表示させることで、確認作業が容易になる。
【0065】
また、メインロープ10の中で最も伸びている箇所つまりマーク間隔が最大のロープ位置を表示装置24に表示することでも良い。一般にメインロープ10の劣化が大きい箇所は、乗りかご11の停止頻度が多い階に関連付けられる曲げ負荷が最大となる部分である。しかし、例えば据付け時等に誤って損傷を受けた箇所があると、その損傷部分の劣化が先行する可能性がある。最大伸び部分のロープ位置を表示することで、このような通常劣化とは異なる劣化箇所の確認が容易になる。
【0066】
また、メモリ23aにマーク間隔の初期値とマーク測定結果(演算結果)を履歴情報として記憶しておき、演算装置23はメインロープ10の伸び量の変化を測定結果の履歴情報及び上記初期値から演算し、閾値以上の変化であるか否かによりロープの伸びを判定するようにしてもよい。さらに、その履歴情報を点検日毎にグラフ表示することでも良い。このようにすれば、マーク間隔の変化からロープ劣化の状態を容易に把握できるようになる。
【0067】
さらに、上記履歴情報を図示せぬ遠隔地のエレベータ監視センタに定期的に送るようにすれば、エレベータ監視センタ側では各物件のメインロープ10a,10bの劣化状態を一元管理できるようになり、ロープ交換時期の近い物件を保守員に知らせることができる。
【0068】
このように第1の実施形態によれば、安価な構成でメインロープ10a,10bの長手方向に設けられた各マーク20の間隔を正確に測定することでき、この測定結果からメインロープ10a,10bの劣化による伸び量を把握して適切に対処することができる。
【0069】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
【0070】
上記第1の実施形態では、2本のメインロープ10a,10bのマーク間隔を1つの光学ユニット21を用いて測長する構成について説明したが、第2の実施形態では、3本のメインロープを3つの光学ユニット21で二重に検出する構成について説明する。なお、上記第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0071】
図11及び
図12は、3本のメインロープ10a,10b,10cを3つの光学ユニット21,121,221を用いて測長する構成を示し、
図11は、当該構成を側面から説明する図であり、
図12は当該構成を上面から見た断面を模式的に示す図である。
【0072】
図11に示すように、光学ユニット21,121,221は、メインロープ10a,10b,10cの長手方向の異なる位置に配置される。長手方向に異ならせる距離は、例えば、光学ユニット21の受光部26の検出範囲よりも若干大きくする。このようにすると、各光学ユニット21,121,221が他の光学ユニットにより照射される光の反射光を受光しない。
【0073】
図12に示すように、光学ユニット121,221は、それぞれ光学ユニット21と同様な構成をしており、光学ユニット121はセンサ部121a、レンズ121b、スリット部121cを有し、光学ユニット221はセンサ部221a、レンズ221b、スリット部221cを有している。さらに、センサ部121a,221aは、それぞれ照射部25及び受光部26を有している。
【0074】
スリット部21cはメインロープ10a、10bに対する光路OP11,OP12を形成するスリットSL11,SL12を有している。このため、照射部25から照射されるレーザ光がレンズ21bにより発散した後、一部が光路OP11,OP12を通過してメインロープ10a,10bに照射され、その反射光が光路OP11,OP12を通過した後、レンズ21bにより集光され、受光部26に入力される。
【0075】
スリット部121cはメインロープ10a,10cに対する光路OP21,OP22を形成するスリットSL21、SL22を有している。このため、照射部25から照射されるレーザ光がレンズ121bにより発散した後、一部が光路OP21,OP22を通過してメインロープ10a,10cに照射され、その反射光が光路OP21,OP22を通過してレンズ121bにより集光され、受光部26に入力される。
【0076】
スリット部221cはメインロープ10b,10cに対する光路OP31,OP32を形成するスリットSL31,SL32を有している。このため照射部25から照射されるレーザ光がレンズ221bにより発散した後、一部が光路OP31,OP32を通過してメインロープ10b,10cに照射され、その反射光が光路OP31,OP32を通過してレンズ221bにより集光され、受光部26に入力される。
【0077】
このように構成されているため、演算装置23は、メインロープ10a,10b,10cのマーク検出を二重に行うことができ、2つの検出結果を利用して、メインロープ10a,10b,10cの伸び量を判定することにより、第1の実施形態の構成より正確にマーク検出を行うことができる。
【0078】
例えば、演算装置23は、光学ユニット21からメインロープ10a,10bのマークの検出結果が得られると共に、光学ユニット121からメインロープ10a,10cのマークの検出結果が得られる。このため、
図13に示すように、光学ユニット121の検出結果である第2パルス信号からマーキング間距離が検出できない場合にも、光学ユニット21による検出結果である第1パルス信号を用いてメインロープ10aのマーキング間距離を測長することができ、メインロープ10aの測長を行うことができる。つまり、光学ユニット21の測長対象となるメインロープ10aが光学ユニット121の測長対象となるメインロープ10aと重複しており、演算装置23は、重複したメインロープ10aのマークの検出結果が光学ユニット121により得られない場合、光学ユニット21による検出結果を利用してマーク間隔を演算することができる。
【0079】
なお、
図11及び
図12に示す構成は一実施形態であり、センサ部21a,121b,221aとメインロープ10a,10b,10cとの光路を確保することができればレンズ21b,121b,221bの向きや屈折率、スリット部21c,121c,221cの向きや厚さ、及びスリットSL11,SL12,SL21,SL22,SL31,SL32を設ける向きは、任意に設定することが可能である。
【0080】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、抗張力材の損傷が目視できない複数のロープそれぞれに測長管理のためにマークを施しておく場合に、点検時に保守員に負担をかけずにマーク間隔を測定して、そのマーク間隔から複数のロープそれぞれの伸びを判定することにより、ロープ測長に係るシステムのコストを低減させると共にロープ測長の正確性を向上させるエレベータを提供することができる。
【0081】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
(1)測長対象とする複数のロープそれぞれの長手方向に一定間隔で設けられた複数のマークを検出するマーク検出手段と、上記複数のロープの移動に同期してパルス信号を発生するパルス発生手段と、上記マーク検出手段による上記各マークの検出タイミングと上記パルス発生手段から出力されるパルス信号のカウント値とに基づいて上記複数のロープそれぞれの上記各マーク間隔を演算し、上記各ロープの伸びを判定する演算手段と、を備えるエレベータ。
(2)上記マーク検出手段は、光を照射する照射部と、光を受光する受光部と、上記測長対象とする上記複数のロープそれぞれに対する光路をスリットにより形成したスリット部と、上記照射部で照射する光を上記スリット部の上記各光路に向けて発散すると共に、上記各光路から受光する光を上記受光部に集光するレンズと、を備える、(1)に記載のエレベータ。
(3)上記マーク検出手段を設ける数は、上記測長対象とする上記複数のロープのロープ数以下である、(1)に記載のエレベータ。
(4)上記測長対象とする上記複数のロープのマーク位置はそれぞれ上記長手方向の異なる位置に設けられている、(1)に記載のエレベータ。
(5)上記マーク検出手段は、第1マーク検出手段と、第2マーク検出手段とを備え、上記第1マーク検出手段の測長対象となるロープの一部が上記第2マーク検出手段の測長対象となるロープと重複しており、上記演算手段は、重複したロープのマークの検出が上記第1マーク検出手段により検出できない場合、上記第2マーク検出手段による検出結果を利用して上記マーク間隔を演算する、(1)に記載のエレベータ。
(6)上記演算手段は、上記演算の結果の履歴情報及び上記一定間隔の距離の初期値を記憶する記憶部を含み、上記各ロープの伸び量の変化を上記履歴情報及び上記初期値から演算し、閾値以上の変化であるか否かにより上記ロープの伸びを判定する、(1)に記載のエレベータ。
【解決手段】一実施形態に係るエレベータは、光学ユニット21と、エンコーダ22と、演算装置23とを備える。光学ユニット21は、測長対象とする複数のロープ10それぞれの長手方向に一定間隔で設けられた複数のマークを検出する。エンコーダ22は複数のロープ10の移動に同期してパルス信号を発生する。演算装置23は光学ユニット21による上記各マークの検出タイミングと上記エンコーダから出力されるパルス信号のカウント値とに基づいて上記複数のロープ10それぞれの上記各マーク間隔を演算し、上記各ロープ10の伸びを判定する。