(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6538345
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】工作機械のワーク計測装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/20 20060101AFI20190625BHJP
B23Q 17/24 20060101ALI20190625BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20190625BHJP
G01B 5/012 20060101ALI20190625BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20190625BHJP
G05B 19/19 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
B23Q17/20 A
B23Q17/24 D
B23Q17/00 D
G01B5/012
G01B11/00 H
G05B19/19 H
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-258458(P2014-258458)
(22)【出願日】2014年12月22日
(65)【公開番号】特開2016-117131(P2016-117131A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000212566
【氏名又は名称】中村留精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078673
【弁理士】
【氏名又は名称】西 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】荒井 智則
【審査官】
村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−109480(JP,A)
【文献】
特開平11−033880(JP,A)
【文献】
特開2010−228011(JP,A)
【文献】
特開2012−101320(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0157610(US,A1)
【文献】
米国特許第5825017(US,A)
【文献】
特開2004−322255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/20
B23Q 17/00
B23Q 17/24
G01B 5/012
G01B 11/00
G05B 19/19
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元平面を移動する刃物台と、タッチパネルからなるディスプレイと、前記平面に直交する方向からワークを撮影するカメラと、当該カメラの画像からワーク像を取得するワーク像取得手段と、取得したワーク像を前記ディスプレイに表示する表示手段と、
ワーク像を表示した状態でディスプレイパネルがタッチされたときにそのタッチ座標をワークの計測点とする計測点取得手段と、
工作機械の刃物台に装着したタッチプローブがワーク像に基づいて設定される干渉領域に進入しない経路で前記計測点間の刃物台の移動経路を自動で取得する経路取得手段と、
刃物台が経路取得手段が取得した経路を移動する間にタッチプローブの検出信号を受けたときの刃物台座標を取得する座標取得手段と、
取得した複数の刃物台座標からワークの寸法を取得するワーク寸法取得手段とを備えている、
工作機械のワーク計測装置。
【請求項2】
前記経路取得手段が、予め登録された複数の経路パターンと、それらの経路パターンから一の経路をオペレータに選択させるパターン指定手段と、指定された経路パターンの各直線又は屈折点の位置を設定する位置設定手段とを備えている、請求項1記載のワーク計測装置。
【請求項3】
前記経路取得手段が取得した経路データを出力する経路出力手段を備えている、請求項1又は2記載のワーク計測装置。
【請求項4】
前記ワーク像取得手段が、ワークを装着していない状態でのカメラの画像を記憶する画像メモリと、ワークを装着した状態でのカメラ画像と画像メモリに記憶した画像との差分画像からワークの画像を取得する、請求項1、2又は3記載のワーク計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械の機内でワーク寸法を計測する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械で加工されたワークは、指定された寸法及び精度で加工されているかどうかを確認するために、ワーク寸法の計測を行う。従来は、加工されたワークを工作機械から取り出してマイクロメータや3次元測定器を用いて計測していたが、計測作業の効率化ないし自動化のため、ワークの加工を行った工作機械の機内でワークの計測を行うことも多くなっている。また、テスト加工の際には、加工途中のワークを計測することもあり、この場合には機内で計測を行うのが便利である。
【0003】
工作機械の機内でワークの計測を行う手段として、従来、刃物台にワークとの接触を検出するタッチプローブ(検出針)を装着し、オペレータが手動で刃物台を移動してタッチプローブの検出端をワークに接触させ、タッチプローブが接触信号を出力したときの刃物台の座標を読み取り、複数の接触点の刃物台座標に基づいてワークの寸法を計算していた。
【0004】
この手動による計測では、オペレータはNC工作機械に設けられている手動パルス発生器のハンドルを回してタッチプローブの検出端をワークの定められた位置に接触させるという操作を複数回繰り返す必要があり、作業が繁雑で時間がかかる。また、刃物台の移動中に誤ってタッチプローブをワークの接触点でない箇所やチャックに衝突させる危険がある。
【0005】
多数のワークを自動連続加工する場合には、工具刃先の摩耗などによって加工精度が低下したまま加工を継続して多数の不良品を発生するのを避けるために、所定間隔で加工済ワークの計測を行う必要がある。そこで、上記の手動操作を自動で行う計測プログラムを作成して、所定のタイミングで当該プログラムを呼び出して自動計測を行っている。
【0006】
しかし、計測プログラムの作成には専門的な知識が必要で、時間もかかるという問題がある。また、完成ワークを計測するための計測プログラムでは、加工途中のワークの計測を行うことはできない。ワークは、手動で加工される場合もあり、加工途中でワーク寸法を計測したい場合もあるので、このような場合にその都度加工プログラムを作成することは、不可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、手動でワークの計測を行う際のオペレータの作業負担を軽減し、誤操作によるタッチプローブの破損等の事故を防止して、より簡単にワークの計測を行うことができるようにすることを第1の課題としている。更にこの発明は、計測プログラムを作成する必要があるときに、当該プログラムを容易かつ短時間で作成することができる手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、工作機械の機内に設置したカメラ2で加工前後の、あるいは加工途中のワークwを撮影し、その画像pを操作盤のディスプレイ8に表示し、画面上で計測したい箇所(計測点)をオペレータに指定させることで計測位置を指定し、当該計測位置に刃物台に装着したタッチプローブ3の検出端31を自動で移動させ、その移動の間にタッチプローブの検出信号を受けたときに刃物台5の座標を取得することにより、上記課題を解決したものである。
【0009】
この発明の工作機械のワーク計測装置は、2次元平面を移動する刃物台5と、タッチパネルからなるディスプレイ8と、前記平面に直交する方向からワークwを撮影するカメラ2と、カメラの画像からワーク像pを取得するワーク像取得手段11と、取得したワーク像をディスプレイ8に表示する表示手段12と、ワーク像pを表示した状態でディスプレイパネルがタッチされたときにそのタッチ座標をワークの計測点とする計測点取得手段14と、工作機械の刃物台5に装着したタッチプローブ3がワーク像pに基づいて設定される干渉領域iに進入しない経路での計測点間の刃物台の移動経路を取得する経路取得手段15と、刃物台5が経路取得手段15が取得した経路を移動する間にタッチプローブ3の検出信号を受けたときの刃物台座標を取得する座標取得手段16と、取得した複数の刃物台座標からワークwの寸法を取得するワーク寸法取得手段17とを備えている。
【0010】
上記手段を備えたこの発明のワーク計測装置は、制御器1の操作盤からワーク寸法の計測が指令されたとき、カメラ2で機内を撮影し、取得した画像からワーク像pを取得し、ワークw及び必要なチャック4その他の機械部材の干渉領域i、jを演算し、ワーク像pと干渉領域i、jの境界をディスプレイ8に表示して、計測点の指定信号を待つ。計測点が指定される毎に計測点の座標を記憶し、指定終了信号を受けたら、複数の計測点にタッチプローブの検出端31を順次移動させるための経路を取得して、当該経路を移動中にタッチプローブの検出信号を受けたとき刃物台5の座標を読み取り、刃物台を次の計測点に移動する。そして、計測点間の移動を終了した後、取得した複数の刃物台座標から計測点間の寸法を演算してディスプレイに表示する。
【0011】
計測点間の移動経路は、無数に存在するが、刃物台の基準移動方向(旋盤であればZ−X軸方向)の直線移動と方向変換とを少ない回数で行う経路を演算させるか、あるいは、複数の経路のパターン(例えばL形とかコの字形とかの経路パターン)を予め登録し、その経路パターンをディスプレイ画面に表示し、オペレータに計測点の指定と経路パターンの選択とを行わせることで、適切な移動経路を設定することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
この発明では、素材ワークや完成ワークの計測だけでなく、加工途中の任意の時点でのワーク形状の計測を必要が生じたときにすぐに行うことができ、カメラで撮影したワーク像を表示したディスプレイ画面で計測点を指定するので、オペレータが計測箇所を容易にかつ自由に指定でき、必要なときに必要な箇所の計測を簡単に行うことができるという効果がある。
【0013】
また、計測したい位置を指定するだけでタッチプローブでの自動計測ができ、計測時間を短縮できる。更に、ワークの連続自動加工時に使用する計測プログラムの出力が可能で、計測プログラムを半自動で作成するツールとしても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明の計測装置を搭載した旋盤の要部を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、この発明の実施形態を説明する。
図1は、この発明の計測装置を搭載した旋盤の模式的な平面図で、4は図示されていない主軸の先端に取り付けられているワークチャック、wはワークチャック4に把持されているワーク、3はタッチプローブである。タッチプローブ3は、刃物台5に搭載したタレット6の工具装着ステーションの一箇所にホルダ7を介して装着されている。タッチプローブの検出端31と、刃物台の基準座標51の正確な位置関係は、この旋盤を制御しているCNC装置1に登録されている。
【0016】
チャック4の回転中心である主軸軸線aの上方、すなわち図の紙面の手前側にカメラ2がその光軸を刃物台5の移動平面(Z−X平面)に直交する方向に向けて設置されている。
【0017】
CNC装置1には、画像メモリ21を備えたワーク像取得手段11、表示手段12、干渉領域設定手段13、計測点取得手段14、経路取得手段15、座標取得手段16、ワーク寸法取得手段17及び経路出力手段18又は/及び経路記憶手段19が登録されている。
【0018】
画像メモリ21には、ワークwを装着しない状態で撮影したカメラ2の画像が記録されている。ワーク像取得手段11は、操作盤からのオペレータの指令により、カメラ2でワークwを撮影してその画像を取得し、取得した画像と画像メモリ21に記憶されている画像との差分画像により、ワークの画像pを抽出し、その抽出データを表示手段12に送る。表示手段12は、抽出されたワーク像pをCNC装置1のディスプレイ8に表示する。
【0019】
干渉領域設定手段13は、画像解析により、タッチプローブの検出端31が移動するZ−X平面上でのワークwの干渉領域iを求め、その領域データを予め求めたチャック4の干渉領域jの領域データと共に表示手段12に送る。表示手段12は、干渉領域i、jの境界線をディスプレイ8にワーク像pと共に表示する。
【0020】
図2では、カメラ2が取得した画像から画像解析によって求めた検出面上のワーク像pが表示されている。干渉領域設定手段13は、このようにして求めたワーク像pの境界をタッチプローブ3とワークwとの衝突を回避するのに必要な安全距離eだけ拡げた位置に干渉領域i、jの境界を設定する。
【0021】
図2に示すように、干渉領域は、ワークwについてのみでなく、必要に応じてチャック4についても設定する。チャック4の形状や寸法は判っており、工具とチャックの干渉(衝突)を避けるための干渉チェック手段を備えた工作機械では、当該干渉チェック手段により、タッチプローブ3とチャック4の干渉を防止できる。干渉チェック手段を備えていない工作機械では、カメラ2が取得したチャック4の画像からワークwについて同様な画像解析手段でチャック4についての干渉領域jを設定することができる。
【0022】
計測点取得手段14は、タッチパネルからなるディスプレイ8から押圧信号が出力されたとき、その押圧点の座標を取得し、その押圧点に最も近いワーク像pの境界線上の点を計測点として記憶する。計測点取得手段14は、一つの計測点m1を取得したとき、主軸軸線aを挟む対称位置にある境界線上の点m2を取得した計測点m1と対をなす計測点として取得するようにしてもよい。これは例えばオペレータによって径寸法の計測が指令されたときに、当該対となる計測点m2を取得するようにすればよい。
【0023】
計測点を取得した後、操作盤からの確認信号を受けると、経路取得手段15は、タッチプローブの検出端31を取得した総ての計測点に接触させるための刃物台5の移動経路を設定する。通常、工作機械の刃物台は、直交2軸方向(旋盤であればZ軸方向とX軸方向)の直線送り装置を備えており、加減速が少ない方が移動時間を短くできるので、取得した干渉領域iに近接して、それぞれの軸方向の直線路Lz、Lxを設定し、各計測点におけるワーク像の境界線と直交する方向(境界線が斜めであれば直交方向に近い軸方向)の接近路Laとこれに交叉する直線路Lz、Lxを順にたどる経路の内、交叉する点(屈折点)が最も少ない経路を選ぶようにすることで、適切な移動経路を取得することができる。
【0024】
複数の計測点の移動順序は、主軸軸線aの上方か下方かによって2群のグループに分け、それぞれの側で一方の端の計測点から隣接する計測点を順に計測して行く経路とするのがよい。
【0025】
また、複雑な形状のワークの計測においては、何種類かの経路パターン、すなわちコの字形とかL字形の経路パターンr1、r2・・・を予めCNC装置1に登録しておいて、そのパターン形状をディスプレイ8に表示してオペレータに選択させるパターン指定手段22と、指定された経路パターンの直線や屈折点の位置を演算する位置設定手段23とを設ければよい。パターン指定手段22は、計測点への移動を開始する毎に、オペレータにどの経路パターンを使用するかをタッチ操作によって選択させるようにする。
【0026】
位置設定手段23は、ある経路パターンが指定されたとき、そのパターンの経路に沿ってタッチプローブの検出端31を移動させるときの、当該パターンに含まれる直線又は屈折点の座標を、その経路に沿っての移動中にタッチプローブの検出端31が干渉領域内に進入しない位置となるように設定する。
【0027】
このようにして計測転換の移動軌跡が設定されると、座標取得手段16は、刃物台の移動を開始させ、予め定めた距離まで検出端が近づいたときに、刃物台の移動速度を高速移動から低速移動に切り換え、この低速移動中にタッチプローブ3から検出信号が出力されたときに刃物台を停止させると共に、検出信号が出力されたときの刃物台座標を当該計測点に対応する座標として記憶し、刃物台を次の計測点への移動経路に沿って移動させる。総ての計測点の座標を取得したら、座標取得手段16は、刃物台5を計測開始時の原点位置へと復帰させる。
【0028】
以上の動作により、オペレータが手動で刃物台を移動して計測点の座標を取得するのと同様な座標が取得できるので、これらの計測点の座標を用いてワーク寸法取得手段17がワークの直径や長さ寸法などの寸法を演算してディスプレイ画面に表示する。
【0029】
完成ワークについて、上記のワーク計測手順を実行してやれば、そのときの動作がそのまま連続自動加工中にワークの加工精度を確認するためのワーク寸法計測時における計測プログラムで実行すべき動作となるので、その動作データを出力する経路出力手段18又はCNC装置に記憶する経路記憶手段19を設けることにより、当該ワークに対する計測プログラムを容易に作成することが可能になる。
【0030】
すなわち、ワークの連続自動加工中に適時当該記憶した動作を呼び出すことによってワークの加工精度を計測することができるので、それらの動作を呼び出す間隔の設定と、計測された加工精度の良否を判別する判別手順とを追加するだけでワークの加工精度を確認しながら行う自動連続加工を実現することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 制御器
2 カメラ
3 タッチプローブ
4 チャック
5 刃物台
8 ディスプレイ
11 ワーク像取得手段
12 表示手段
14 計測点取得手段
15 経路取得手段
16 座標取得手段
17 ワーク寸法取得手段
31 検出端
p ワークの画像
w ワーク
i、j 干渉領域