(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
測定された各前記エネルギースペクトルの測定位置での前記ホウ素の濃度分布を前記患部3次元情報保存部から取得して、この濃度分布と前記エネルギースペクトルとを関連付けるデータ関連付け部をさらに備えて、
前記細胞内ホウ素濃度計算部は、前記エネルギースペクトルに基づいてホウ素の濃度をそれぞれ計算し、対応する前記濃度分布を用いて腫瘍細胞及び正常細胞のそれぞれのホウ素濃度を求めることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のホウ素中性子捕捉療法用治療装置。
前記患部3次元情報保存部で保存されている前記ホウ素の前記濃度分布データを取得して、ホウ素の濃度をパラメータとして変化させた場合に、中性子の照射により測定されるガンマ線のエネルギースペクトルを予測する放射線スペクトル予測部をさらに備えて、
前記細胞内ホウ素濃度計算部は、測定された各前記エネルギースペクトルと予測されたガンマ線のエネルギースペクトルとを照合して正常細胞及び腫瘍細胞のそれぞれのホウ素濃度を計算することを特徴とする請求項4または請求項5に記載のホウ素中性子捕捉療法用治療装置。
被ばく線量評価部で予測された前記被ばく線量に応じて、治療中に前記患者に投与する前記薬剤の投与量を調整するホウ素点滴部をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のホウ素中性子捕捉療法用治療装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
本実施形態に係るホウ素中性子捕捉療法用治療装置10(以下、“治療装置10”と省略する)は、ホウ素(
10B)を含む薬剤を投与した患者の腫瘍部に中性子を照射して、ホウ素と中性子の核反応を利用して患部の治療を行う装置である。なお、本実施形態では、陽子線をターゲットに照射して生成させた中性子を治療に用いているが、原子炉により生成された中性子を用いても良い。
【0019】
図1に示すように、第1実施形態に係る治療装置10は、陽子線加速器11、照射ユニット12、治療台18、血液サンプリング部19、血中ホウ素濃度計測部20、制御装置50、を備えている。
【0020】
陽子線加速器11は、サイクロトロンなど(図示省略)を用いて陽子を加速し、陽子線(陽子ビーム)を生成する。生成された陽子線は、照射ユニット12に導かれる。
【0021】
照射ユニット12は、ターゲット13、コリメータ14、減速材15、シャッター16、を備えている。ターゲット13は、陽子線加速器11から導かれた陽子線を照射されて、中性子を発生させる。コリメータ14は、ターゲット13で発生された中性子を、照視野に中性子を導くための流路を形成している。
【0022】
減速材15は、ターゲット13と中性子照射ポート17との間に設けられて、中性子のエネルギーを治療に必要なエネルギーまで減速させるものである。シャッター16は、コリメータ14により形成された流路内の中性子の通過または遮断を行うための遮蔽板である。
【0023】
シャッター16は、中性子の照射時には開放される一方、照射停止時あるいは中性子の照射を途中で停止する必要がある場合に閉止される。シャッター16の開/閉動作は、制御装置50により制御される。
【0024】
治療台18上の患者は、中性子照射ポート17に患部を向けた姿勢に配置される。これにより、中性子照射ポート17から出力された中性子は患者の患部に照射される。
【0025】
血液サンプリング部19は、治療中(患者への中性子照射中)にリアルタイムで、一定時間ごとに一定量の血液を患者から採取する。そして、採取した血液を血中ホウ素濃度計測部20に送る。
【0026】
血中ホウ素濃度計測部20は、サンプリングされた血液から、血液中のホウ素濃度を計測する。血液中のホウ素濃度は、ICP−MSやICP−AES、レーザーアブレーションICPMSなどの化学分析装置を用いて計測される。または、採取した血液に中性子等の放射線を照射して、ホウ素核反応によって放出されるガンマ線を用いて血液中のホウ素濃度を求めても良い。
【0027】
図2は、ホウ素核反応によって放出されるガンマ線を用いて血液中のホウ素濃度求める際の血中ホウ素濃度計測部20の構成例を示している。
【0028】
血中ホウ素濃度計測部20は、中性子源21、減速材22、血液ホルダ23、ガンマ線計測器24、濃度計算部25、を備えている。
【0029】
血液ホルダ23は、血液サンプリング部19でサンプリングされた血液を保持している。中性子源21は、中性子を自発的に発生するものであり、
252Cf、
241Am/Be、
241Am/Li、
124Sb/Beのような放射線同位体元素が例示される。また、中性子源21として、DT反応やDD反応を利用した小型の核融合中性子源を使用してもよい。
【0030】
中性子源21から発生する中性子は一般に高速中性子であり、ホウ素との反応効率を上げるために減速させる必要がある。減速材22は、中性子源21と血液ホルダ23との間に設けられて、中性子源21で発生した中性子のエネルギーを熱中性子以下に減速させる。なお、減速材として22は、ポリエチレン、水、重水等の一般に水素を多く含む材質を使用できる。
【0031】
血液ホルダ23内の血液試料は、減速材22により熱中性子以下に減速された中性子が照射される。そして、血液試料内に含まれるホウ素と中性子とが核反応して、ガンマ線(即発ガンマ線)が発生する。
【0032】
ガンマ線計測器24は、核反応により発生したガンマ線を検出して、ガンマ線スペクトルを計測する計測器である。ガンマ線計測器24として、Ge、CdTe、CdTe、CdZnTe、TlBr等の半導体検出器が使用できる。
【0033】
または、NaI(Tl)、CsI(Tl)、LaBr
3(Ce)、CeBr
3等のシンチレータに光検出器を組み合わせたものを使用することもできる。光検出器としては、光電子増倍管(PMTs)やシリコンPMT(Si−PN)や、フォトダイオード(PD)、MPPC(Multi−Pixel Photon Counter)、アバランシェフォトダイオード(APD)やCCD/CMOS等の撮像素子でも光を電気信号として計測できるものであればいずれの種類でも良い。シンチレータガスの発光波長に対して感度を有するものを適宜選定する。
【0034】
濃度計算部25は、計測されたガンマ線のエネルギースペクトルに基づいて血液中のホウ素濃度を計算する。具体的には、ホウ素が中性子を捕獲して発生する即発ガンマ線478keVと、体細胞中の水素が中性子を捕獲して発生するガンマ線2.2MeVの比率を既知のホウ素濃度で求めておく。そして、実際に測定されたガンマ線の強度比からホウ素濃度を導出する。また、ガンマ線の光子数はホウ素の量と相関があるため、ガンマ線計測器24で検出されたガンマ線の光子数からホウ素濃度を定量することも可能である。
【0035】
図3は、第1実施形態に係る治療装置10の変形例を示す構成図である。この変形例は、
図2で示したホウ素の核反応を利用して血中のホウ素濃度を求める方法の別の構成例である。ここでは、中性子源21(
図2)の代わりに照射ユニット12内で生成された中性子を利用している。
【0036】
照射ユニット12は、生成された中性子を、患者に照射する中性子の方向とは異なる方向に分岐させる血液試料照射ポート26を有している。
この血液試料照射ポート26には、このポートの出口側に血液試料を保持する血液ホルダ23と、血液ホルダ23に案内される中性子のエネルギーを熱中性子以下に減速させる減速材27と、が設けられている。なお、一般的に、治療で必要な中性子フラックスは10
9n/cm
2/sとなるが、分析で必要とされる中性子フラックスは10
6n/cm
2/sと程度となる。
【0037】
ターゲット13から発生した中性子は直進成分だけでなく角度を持って広がる成分も含まれる。血液試料照射ポート26は、この角度を持って広がる中性子の一部を、血液ホルダ23に案内している。
【0038】
そして、中性子とホウ素との核反応により発生するガンマ線を用いて血液中のホウ素濃度を求める。なお、ホウ素濃度を求める構成は、
図2で示したガンマ線計測器24、濃度計算部25と同一の構成となるため説明を省略する。
【0039】
図1に戻って説明を続ける。
制御装置50は、細胞内ホウ素濃度計算部51、ホウ素濃度保存部52、患部3次元情報保存部53、被ばく線量評価部54、制御量設定部55、治療台位置制御部56、照射中性子制御部57、入力部58、を備えている。なお、入力部58は、外部からのデータを入力するユニットである。
【0040】
細胞内ホウ素濃度計算部51は、血液中のホウ素濃度を血中ホウ素濃度計測部20から入力する。そして、血液中のホウ素濃度との予め保持された相関関係に基づいて、計測された血液中のホウ素濃度から正常細胞及び腫瘍細胞のそれぞれのホウ素濃度を計算する。
【0041】
通常、血液中のホウ素濃度と正常細胞のホウ素濃度はほぼ同程度となる一方、腫瘍細胞のホウ素濃度は正常細胞の数倍(例えば、5倍)となる。相関関係とは、血液中、正常細胞、及び腫瘍細胞間のホウ素濃度の比率を意味している。細胞内ホウ素濃度計算部51は、これらの比率を用いて、血液中のホウ素濃度から正常細胞及び腫瘍細胞のそれぞれのホウ素濃度を計算する。なお、以下において、“細胞中細胞“と記載した場合は、正常細胞及び腫瘍細胞を意味する。
【0042】
血液中と細胞中とのホウ素濃度の相関関係は、事前に
18Fに代表されるガンマ線を発生するトレーサーを添加したホウ素薬剤を患者に投与し、PET(Positron Emission Tomography)などの医療画像装置にて患部付近の薬剤分布を測定することにより求められる。
【0043】
ホウ素濃度保存部52は、細胞内ホウ素濃度計算部51で計算された腫瘍細胞及び正常細胞のそれぞれのホウ素濃度を保存する。ホウ素濃度保存部52は、細胞中のホウ素濃度が計算される毎に保存していく。なお、細胞内ホウ素濃度の初期値は、治療前に事前に計測された患者の血中ホウ素濃度データが入力部58を介して制御装置50に入力された際に、細胞内ホウ素濃度計算部51で血中ホウ素濃度から細胞内ホウ素濃度に変換されて保存される。
【0044】
患部3次元情報保存部53は、患者の腫瘍領域の位置データ及びホウ素の濃度分布データを含む3次元情報を保存する。この3次元情報は、治療開始前に、MRI、X線CT、及びPET等の医療画像装置で取得される。そして、入力部58を介して入力されて患部3次元情報保存部53に保存される。
【0045】
図4は、患部3次元情報保存部53に保存される3次元情報の一例を示した画像である。腫瘍部の3次元の断層画像が取得され、この領域におけるホウ素の濃度分布が示されている。ホウ素濃度が高い領域が腫瘍細胞であることが分かる。
【0046】
被ばく線量評価部54は、細胞内のホウ素濃度を用いて中性子の照射により生じる患者の被ばく線量を予測する。なお、被ばく線量の予測は、正常細胞の被ばく線量と腫瘍細胞の被ばく線量とをそれぞれ別々に評価する。
【0047】
具体的な予測計算方法は、計算された細胞内のホウ素濃度と患部3次元情報保存部53で保存された3次元情報をもとに、設定されている中性子照射条件下で、モンテカルロ法を用いたシミュレーションにより被ばく線量を予測する。なお、被ばく線量の予測は、
必ずシミュレーションを行う必要は無く、計測された細胞内のホウ素濃度の変化量に基づき補正係数算出し、この補正係数を予測前の被ばく線量に乗じて求めても良い。これにより、簡易に被ばく線量を求めることが可能となる。
【0048】
被ばく線量評価部54は、ホウ素濃度保存部52で細胞中のホウ素濃度の更新されるたびに被ばく線量の予測を行う。
【0049】
なお、被ばく線量評価部54は、治療前に、細胞中のホウ素濃度の初期値と3次元情報とをもとに、正常細胞の被ばく線量ができるだけ低く、腫瘍細胞の被ばく線量ができるだけ高くなるような中性子照射の制御条件や患者の位置、あるいは姿勢を導出する。これらの条件は、制御量設定部55で設定され、最初の中性子照射における制御量となる。
【0050】
制御量設定部55は、被ばく線量評価部54で予測された被ばく線量に応じて、中性子の照射時間及び照射強度を含む制御量を設定する。
【0051】
具体的には、被ばく線量の予測結果が治療開始時の予測よりも高い被ばく線量となる場合、中性子の照射強度を減少、あるいは照射時間を短く設定する。これにより、患者の耐容線量を超えないようにすることができる。一方、被ばく線量の予測結果が治療開始時の予測よりも低い場合には、中性子の照射強度を増大、或いは照射時間を長く設定する。これにより適切な治療ができる。
【0052】
治療台位置制御部56は、制御量設定部55で設定された患者の位置、あるいは姿勢が再現されるように治療台18の位置調整を行う。
【0053】
照射中性子制御部57は、制御量設定部55で設定された中性子の照射条件が再現されるように、陽子線加速器11を制御する。
【0054】
図5は、第1実施形態に係る治療装置10における制御手順の一例を示すフローチャートである(適宜、
図1参照)。
【0055】
患部3次元情報保存部53は、3次元情報を入力して保存する(S10)。一方、制御装置50は、入力部58を介して血中ホウ素濃度を入力する(S11)。この血中ホウ素濃度は、細胞内ホウ素濃度計算部51で細胞内ホウ素濃度に変換されて、初期値としてホウ素濃度保存部52に保存される。
【0056】
被ばく線量評価部54は、治療前に、細胞中のホウ素濃度の初期値と3次元情報とをもとに、正常細胞の被ばく線量ができるだけ低く、腫瘍細胞の被ばく線量ができるだけ高くなるような中性子の照射条件や患者の姿勢を導出する(S12)。制御量設定部55は、導出された制御量を照射条件として設定する(S13)。
【0057】
治療台位置制御部56は、制御量設定部55で設定された患者姿勢が再現されるように治療台18の位置を調整する(S14)。照射中性子制御部57は、制御量設定部55で設定された照射条件が再現されるように、陽子線加速器11を制御し、中性子の照射開始される(S15)。
【0058】
血液サンプリング部19は、治療中にリアルタイムで、一定量の血液を患者から採取する(S16)。そして、採取した血液を血中ホウ素濃度計測部20に送る。
【0059】
血中ホウ素濃度計測部20は、血中ホウ素濃度の計測する(S17)。そして、細胞内ホウ素濃度計算部51は、血液中のホウ素濃度との予め保持された相関関係に基づいて、計測された血液中のホウ素濃度から正常細胞及び腫瘍細胞それぞれのホウ素濃度を計算する(S18)。
【0060】
被ばく線量評価部54は、計算された正常細胞及び腫瘍細胞のそれぞれのホウ素濃度を用いて中性子の照射により生じる患者の被ばく線量を予測する(S19)。制御量設定部55は、予測された被ばく線量に応じて中性子の照射強度及び照射時間を含む制御量の調整する(S20)。
【0061】
中性子の照射時間が終了するまでS16〜S20を繰り返す(S21:NO)。照射時間が終了した場合には、中性の照射を停止して治療を終了する(S21:YES,終了)。
【0062】
このように、細胞内のホウ素濃度を治療中にリアルタイムで求め、このホウ素濃度を用いて被ばく線量を予測する。そして、予測された被ばく線量に応じて中性子の照射制御を行うことで、患者の代謝特性の違いの影響を受けることなく、治療計画を正確に再現できるとともに、高い安全性を実現できる。
【0063】
(第2実施形態)
図6は、第2実施形態に係る治療装置10の構成図を示している。なお、第1実施形態(
図1)と同様の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0064】
第2実施形態では、血中のホウ素濃度を計測して細胞中のホウ素濃度を求めるのではなく、患部領域から発生するガンマ線を直接計測することで細胞中のホウ素濃度を求める。つまり、第2実施形態と第1実施形態との違いは、測定対象が血液であるか、患部組織であるかの点で相違する。
【0065】
ガンマ線測定部28は、患部3次元情報保存部53で保存されている3次元情報を参照して、腫瘍領域及び正常領域のそれぞれの位置情報を取得する。そして、各領域から患者の体内で発生するガンマ線を検出して、ガンマ線のエネルギースペクトルを測定する。
【0066】
図7は、ガンマ線測定部28の構成例を示している。
ガンマ線測定部28は、ガンマ線計測器30、ガイドレーザ31、カメラ32、ガイドレーザ31のアライメントを行うミラーセット36、電源に起因するノイズを低減するフィルタ37、測定位置調整機構33、を備えている。測定位置調整機構33を除く各機器は、遮蔽容器34に収容されて保護される。移動アーム38は、ガンマ線測定部28を支持しており、任意の位置に移動可能なアームである。なお、ガンマ線計測器30は、
図2で示したガンマ線測定用の計測器と同様のものが使用できる。
【0067】
コリメータ35は、ガンマ線計測器30の検出口側に設けられており、患部における特定の場所以外から飛来するガンマ線を遮断する役割を有する。コリメータ35を介すことで、ガンマ線計測器30では特定の方向から飛来するガンマ線のみが検出される。
【0068】
ガイドレーザ31は、患者の表面に、ガンマ線の検出方向に沿ってレーザを照射するものである。これにより、ガンマ線の飛来方向が視覚的に示される。
カメラ32は、レーザが照射された領域の画像データを取得する。
【0069】
測定位置調整機構33は、取得された画像データとレーザの照射位置を用いて、ガンマ線の測定位置を調整する。患者の姿勢は、治療部位に応じて座位、仰臥位、側臥位等様々となるため、測定位置を調整する際に、患者の体や、治療にかかわる他の設備と干渉しない位置にガンマ線測定部28を配置する必要がある。
【0070】
なお、ガイドレーザ31の照射位置、カメラ32の画角、ガンマ線計測器30及びコリメータ35の有効検出領域は予め実験若しくは解析的に求めておく。
【0071】
図8は、腫瘍細胞付近から放出されるガンマ線を測定する場合を示す説明図である。
ガンマ線測定部28は、患部3次元情報保存部53から腫瘍細胞付近の位置情報を取得し、レーザビームの照準を測定位置に合わせて、腫瘍細胞付近でのガンマ線のエネルギースペクトルを測定する。
【0072】
これに対して、
図9は、正常細胞付近から放出されるガンマ線を測定する場合を示す説明図である。ガンマ線測定部28は、患部3次元情報保存部53から正常腫瘍細胞付近の位置情報を取得し、レーザビームの照準を測定位置に合わせて、正常細胞付近でのガンマ線のエネルギースペクトルを測定する。
【0073】
図6に戻って説明を続ける。
データ関連付け部59は、ガンマ線測定部28で測定された各位置におけるホウ素の濃度分布を患部3次元情報保存部53から取得して、この濃度分布と測定結果であるエネルギースペクトルとを関連付ける。
【0074】
細胞内ホウ素濃度計算部51は、エネルギースペクトルに基づいてホウ素の濃度をそれぞれ計算し、対応する濃度分布を用いて腫瘍細胞及び正常細胞のそれぞれのホウ素濃度を求める。エネルギースペクトルから測定位置付近のホウ素の濃度(絶対値)が求められるため、濃度分布を用いることで細胞内のホウ素濃度が求められる。
【0075】
体内中でホウ素の濃度が均一でないことや、部位によっては生体組織成分自体も均一でないおそれがあるが、ホウ素の濃度分布を利用することで正確に細胞中のホウ素濃度の評価ができる。
【0076】
なお、ホウ素濃度の計算方法としては、ホウ素が中性子を捕獲して発生する即発ガンマ線478keVと、体細胞中の水素が中性子を捕獲して発生するガンマ線2.2MeVの比率を既知のホウ素濃度で求めておき、実際に測定されたガンマ線の強度比(計数率比)からホウ素濃度を計算する。
【0077】
また、水素は体内の至るところにあるため、信号が大きく誤差が発生するおそれがある。そこで、
図10に示すように、ガンマ線測定部28の患者の患部付近に既知の元素成分を含むマーカ39を設置し、マーカ39に中性子が照射することによって発生するガンマ線とホウ素の即発ガンマ線の強度比率を取ることでホウ素の濃度を評価することもできる。
【0078】
図11は、第2実施形態に係る治療装置10における制御手順の一例を示すフローチャートである(適宜、
図6参照)。なお。S30〜S35の動作は、
図5で示したS10〜S15と同一の動作となるため説明を省略する。
【0079】
ガンマ線測定部28は、3次元情報を参照して、腫瘍領域及び正常領域の位置情報を取得する(S36)。そして、ガンマ線測定部28は、取得した位置でガンマ線を検出して、ガンマ線のエネルギースペクトルを計測する(S37)。
【0080】
データ関連付け部59は、計測されたガンマ線のエネルギースペクトルの計測値と計測位置での濃度分布とを関連付ける(S38)。
【0081】
細胞内ホウ素濃度計算部51は、エネルギースペクトルに基づいてホウ素の濃度をそれぞれ計算し(S39)、対応する濃度分布を用いて腫瘍細胞及び正常細胞のそれぞれのホウ素濃度を求める(S40)。S41〜S43のステップは第1実施形態(
図5)のS19〜S21と同一となるため説明を省略する。
【0082】
このような方法により、ガンマ線を直接計測することで細胞中のホウ素濃度測定することで、採血不要なので患者の負担を軽減できるとともに、治療計画通りの被ばく線量を患者に付与できる。
【0083】
また、治療対象の特殊な症例として、肝腫瘍の場合に高いホウ素濃度を実現するため、ホウ素薬剤を動脈内投与し動脈塞栓を行う場合がある。この場合は、採血でホウ素濃度が評価できない。この場合であっても第2実施形態の構成を用いることで、治療中にホウ素濃度をリアルタイムで測定でき、中性子の照射制御にフィードバック可能となる。
【0084】
図12は、第2実施形態に係る中性子ホウ素捕捉療法用の治療装置10の変形例を示す構成図である。
【0085】
放射線スペクトル予測部60は、患部3次元情報保存部53で保存されているホウ素の濃度分布データを取得する。そして、ホウ素の濃度をパラメータとして変化させた場合に、中性子の照射により測定されるガンマ線のエネルギースペクトルを予測する。
【0086】
細胞内ホウ素濃度計算部51は、測定されたエネルギースペクトルと予測されたガンマ線のエネルギースペクトルとを照合して、正常細胞及び腫瘍細胞のそれぞれのホウ素濃度を求める。このように、ホウ素の濃度分布データを利用して正常細胞及び腫瘍細胞のそれぞれのホウ素濃度を求めることもできる。
【0087】
(第3実施形態)
図13は、第3実施形態に係る治療装置10の構成図を示している。なお、
図13において第2実施形態(
図6)と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0088】
治療中に患部より発生するガンマ線は、患者のホウ素濃度に依存するだけでなく、中性子フラックスにも大きく影響を受ける。特に中性子は空気中でも散乱してしまうため、患者の位置がずれると、患部に照射される中性子フラックスも大きく変化する。
【0089】
中性子モニタ40は、中性子の照視野近傍に装着されて、患者に照射される中性子フラックスをモニタする。なお、中性子モニタ40は、治療を阻害しないサイズや材質であることが望ましい。そして、被ばく線量評価部54は、中性子モニタ40でモニタされた中性子フラックスを被ばく線量の予測条件に用いる。
【0090】
このように、患部に照射される中性子フラックスを中性子モニタ40にて直接モニタし、被ばく線量の計算条件に用いることで、より正確に被ばく線量の評価精度が向上させることができる
【0091】
(第4実施形態)
図14は、第4実施形態に係る治療装置10の構成図を示している。なお、
図14において第2実施形態(
図6)と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0092】
第4実施形態では、少なくとも2つ以上の照射室を設けて、各照射室に照射ユニット12を設置する。ビーム切替電磁石41は、陽子線加速器11とターゲット13との間に設けられて、各照射室に導入される陽子線ビームを切り替える。
【0093】
照射室には、治療台18と着脱可能に構成され、血液試料を保持する血液測定ユニット42、ガンマ線測定部28、治療前ホウ素濃度計算部43、を備えている。なお、
図14では省略したが、照射室1にも、治療前ホウ素濃度計算部43を備えている。
【0094】
ガンマ線測定部28は、治療中に患者の患部から発生するガンマ線の測定を行う一方、血液測定ユニット42の装着時には血液試料から発生するガンマ線の測定を行う。
【0095】
治療前ホウ素濃度計算部43は、血液測定ユニット42からガンマ線の計測結果に基づいてホウ素濃度は計算する。計算されたデータは、血液中の濃度として制御装置50に入力される。
【0096】
このような構成とすることで、一方の照射室で治療する際に、既に患者位置決めを完了し中性子照射を行う前に、患者採血を行い、事前に必要な血中のホウ素濃度測定を他方の照射室で実施することができ、より効率的な装置の運用が可能となる。
【0097】
(第5実施形態)
図15は、第5実施形態に係る治療装置10の構成図を示している。なお、
図15において第2実施形態(
図6)と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0098】
ホウ素薬剤点滴部44は、被ばく線量評価部54で予測された被ばく線量を入力して、この被ばく線量に応じて、治療中に患者に投与する前記薬剤の投与量を調整する。例えば、正常細胞の被ばく線量が少ない場合にはホウ素薬剤を追加する。
【0099】
これにより、ホウ素を含む薬剤投入を治療中に調整することができるため、患者の代謝特性の違いの影響を低減して、治療計画通りの被ばく線量を患者に付与できる。
【0100】
以上述べた各実施形態の中性子捕捉療法用治療装置によれば、細胞内のホウ素濃度を治療中にリアルタイムで測定して、このホウ素濃度を用いて被ばく線量を予測して、中性子の制御量を調整することで、治療計画を正確に再現できるとともに、高い安全性を実現できる。
【0101】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。なお、第3実施形態から第5実施形態に示した構成は、血液中のホウ素濃度を計測する構成である第1実施形態と組み合わせることができる。