(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記結晶構造に取り込まれるNiおよび前記安定化ジルコニア担体に担持されるNiの総和が、50〜80原子%であることを特徴とする、請求項1に記載のメタン化反応用触媒。
請求項1に記載のメタン化反応用触媒を、300〜400℃の条件下において、二酸化炭素および水素ガスを少なくとも含む混合ガスに接触させることを特徴とする、メタンの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.メタン化反応用触媒
メタン化反応用触媒は、二酸化炭素を水素と反応させてメタン化するための触媒であって、安定化ジルコニア担体と、安定化ジルコニア担体に担持される金属状態のNiとを備えている。
【0022】
安定化ジルコニア担体は、Zrを主体とする正方晶系の結晶構造を有し、その結晶構造にCaおよびNiが取り込まれている。
【0023】
より具体的には、安定化ジルコニア担体は、Zrを主体する正方晶系、好ましくは、
図1に示すように、体心正方晶系のジルコニア結晶構造を有している。つまり、安定化ジルコニア担体の結晶構造は、Zrを主体(基本成分)として構成しており、安定化ジルコニア担体の結晶構造の複数の格子点には、主にZrイオン(Zr
4+)が配置されている。
【0024】
また、安定化ジルコニア担体の結晶構造には、CaおよびNiが取り込まれており、正方晶系の結晶構造が安定化されている。
【0025】
安定化ジルコニア担体の結晶構造にCaおよびNiが取り込まれるとは、結晶構造の複数の格子点のうち一部の格子点が、Zrイオン(Zr
4+)から、Caイオン(Ca
2+)およびNiイオン(Ni
2+)のいずれかに置き換わることを意味する。つまり、結晶構造にCaが取り込まれるとは、結晶構造の格子点に配置されるZrイオンがCaイオンに置き換わることであり、結晶構造にNiが取り込まれるとは、結晶構造の格子点に配置されるZrイオンがNiイオンに置き換わることである。
【0026】
そのため、安定化ジルコニア担体の複数の格子点には、Zr
4+、Ca
2+およびNi
2+のいずれか1つが配置されている。
【0027】
このような安定化ジルコニア担体は、下記一般式(1)で示される。
一般式(1):
Zr
4+1−(x+y)Ca
2+xNi
2+yO
2−(x+y) (1)
(一般式(1)中、xおよびyは1未満であり、かつ、x+yは1未満を示す。)
一般式(1)において、xは、例えば、0.133以上、1未満、好ましくは、0.248以下である。
【0028】
一般式(1)において、yは、例えば、0.010以上、1未満、好ましくは、0.050以下である。
【0029】
また、安定化ジルコニア担体における結晶格子間隔は、Zr
4+、Ca
2+およびNi
2+のそれぞれのイオン半径が下記のように異なることから、結晶構造に取り込まれるCaおよびNiの量に依存して変化する。
Zr
4+:0.079nm
Ca
2+:0.099nm
Ni
2+:0.069nm
より具体的には、Zrイオンと比較してイオン半径が大きいCaイオンが、結晶構造により多く取り込まれると(すなわち一般式(1)においてxが増加すると)、安定化ジルコニア担体における結晶格子面間隔は、増加(膨張)する。一方、Zrイオンと比較してイオン半径が小さいNiイオンが、結晶構造により多く取り込まれると(すなわち一般式(1)においてyが増加すると)、安定化ジルコニア担体における結晶格子面間隔が、低下(縮小)する。
【0030】
安定化ジルコニア担体の結晶構造における[111]面(
図1において仮想線にて示す。)の格子間隔は、例えば、0.2940nm以上、好ましくは、0.2945nm以上、例えば、0.2965nm以下、好ましくは、0.2960nm以下である。
【0031】
また、安定化ジルコニア担体の結晶構造にCaおよびNiが取り込まれると、Zrイオン(Zr
4+)が4価であり、Caイオン(Ca
2+)およびNiイオン(Ni
2+)のそれぞれが2価イオンであることから、その結晶構造において、酸素の欠陥(欠落)が生じ、酸素空孔が形成される。
【0032】
つまり、安定化ジルコニア担体を示す上記一般式(1)に、形成される酸素空孔「Vo」を含めると、下記一般式(2)で示される。
【0033】
一般式(2):
Zr
4+1−(x+y)Ca
2+xNi
2+yO
2−(x+y)Vo
x+y (2)
(一般式(2)中、xおよびyは、上記一般式(1)のxおよびyと同様の範囲を示す。)
また、メタン化反応用触媒では、金属状態のNiが、上記の安定化ジルコニア担体に担持されている。
【0034】
そのため、メタン化反応用触媒は、下記一般式(3)で示される。
【0035】
一般式(3):
Ni/Zr
4+1−(x+y)Ca
2+xNi
2+yO
2−(x+y)Vo
x+y (3)
(一般式(3)中、xおよびyは、上記一般式(1)のxおよびyと同様の範囲を示す。)
すなわち、メタン化反応用触媒は、安定化ジルコニア担体を構成するZrと、安定化ジルコニア担体の結晶構造に取り込まれるCaと、安定化ジルコニア担体の結晶構造に取り込まれるNiと、安定化ジルコニア担体に担持されるNiとを含んでいる。
【0036】
このようなメタン化反応用触媒において、元素状態の金属を基準とした原子%で、Zrの原子%は、6原子%以上、好ましくは、7原子%以上、さらに好ましくは、15原子%以上、62原子%以下、好ましくは、60原子%以下、さらに好ましくは、50原子%以下である。なお、メタン化反応用触媒における、各原子の原子%は、後述するメタン化反応用触媒の製造方法において使用される原料(ジルコニアおよび/またはZrの塩と、Caの塩と、Niの塩)の仕込量から換算される。
【0037】
Zrの原子%が上記下限以上あれば、安定化ジルコニア担体において、正方晶系の結晶構造を確実に形成することができ、Zrの原子%が上記上限以下あれば、触媒活性に必要なNiの原子%を十分に確保することができる。
【0038】
また、メタン化反応用触媒において、元素状態の金属を基準とした原子%で、Caの原子%は、1原子%以上、好ましくは、1.4原子%以上、さらに好ましくは、2.6原子%以上、20原子%以下、好ましくは、18原子%以下、さらに好ましくは、10原子%以下である。
【0039】
Caの原子%が上記下限以上であれば、正方晶系の結晶構造を確実に安定化することができ、Caの原子%が上記上限以下であれば、過剰なCaが所望しない酸化物(例えば、CaZrO
3など)を形成し、触媒活性を阻害することを抑制できる。
【0040】
また、メタン化反応用触媒において、元素状態の金属を基準とした原子%で、結晶構造に取り込まれるNiと、安定化ジルコニア担体に担持されるNiとの総和(以下、Niの総和とする。)の原子%は、30原子%以上、好ましくは、50原子%以上、さらに好ましくは、55原子%以上、90原子%以下、好ましくは、80原子%以下、さらに好ましくは、75原子%以下である。
【0041】
Niの総和の原子%が上記下限以上であれば、触媒活性の向上を図ることができ、Niの総和の原子%が上記上限以下であれば、Niが凝集し、Niの分散性が低下してしまうことを抑制できる。
【0042】
また、メタン化反応用触媒において、Ca/(Zr+Ca)の原子比は、0.14以上、好ましくは、0.15以上、さらに好ましくは、0.165以上、0.25以下、好ましくは、0.22以下、さらに好ましくは、0.20以下である。
【0043】
Ca/(Zr+Ca)の原子比が上記下限以上上記上限以下であれば、安定化ジルコニア担体に酸素空孔を良好に形成でき(上記一般式(2)参照)、後述するメタンの製造方法において、安定化ジルコニア担体が、二酸化炭素分子(CO
2)の酸素原子(O)を確実に引き付けることができる。そのため、触媒活性の向上を確実に図ることができ、二酸化炭素のメタンへの転換率(以下、CO
2転換率%とする。)の向上を図ることができる。
【0044】
とりわけ、Niの総和の原子%が50原子%以上80原子%以下であり、かつ、Ca/(Zr+Ca)の原子比が、0.15以上0.22以下である場合、CO
2転換率%の向上をより確実に図ることができ(例えば、CO
2転換率%が80%以上)、Niの総和の原子%が55原子%以上75原子%以下であり、かつ、Ca/(Zr+Ca)の原子比が、0.15以上0.22以下である場合、CO
2転換率%の向上をより一層確実に図ることができる(例えば、CO
2転換率%が90%以上)。
【0045】
また、メタン化反応用触媒において、(Ca+Ni)/(Zr+Ca+Ni)の原子比は、例えば、0.400以上、好ましくは、0.550以上、さらに好ましくは、0.740以上、例えば、0.925以下、好ましくは、0.900以下、さらに好ましくは、0.780以下である。
【0046】
(Ca+Ni)/(Zr+Ca+Ni)の原子比が上記下限以上上記上限以下であれば、安定化ジルコニア担体に酸素空孔を良好に形成でき(上記一般式(2)参照)、後述するメタンの製造方法において、安定化ジルコニア担体が、二酸化炭素分子(CO
2)の酸素原子(O)を確実に引き付けることができる。
【0047】
また、メタン化反応用触媒には、必要に応じて、希釈成分、粒子成分、バインダーなどを添加することができる。
【0048】
希釈成分は、後述するメタン化反応にイナート(不活性)な物質であって、メタン化反応用触媒に希釈成分を添加することにより、メタン化反応用触媒の温度制御を容易にすることができる。
【0049】
希釈成分としては、例えば、アルミナ(例えば、α−アルミナ、θ−アルミナ、γ−アルミナなど)などが挙げられ、好ましくは、α−アルミナが挙げられる。このような希釈成分は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。
【0050】
希釈成分の添加割合は、メタン化反応用触媒100質量部に対して、例えば、100質量部以上、好ましくは、1000質量部以上、例えば、10000質量部以下、好ましくは、5000質量部以下である。
【0051】
粒子成分としては、例えば、アルミナ(例えば、α−アルミナ、θ−アルミナ、γ−アルミナなど)、シリカ、チタニアなどが挙げられ、好ましくは、アルミナ、さらに好ましくは、γ−アルミナが挙げられる。粒子成分は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。
【0052】
バインダーとしては、例えば、ケイ酸塩、チタン酸塩、アルミン酸塩、ジルコン酸塩などが挙げられる。バインダーは、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。
【0053】
2.メタン化反応用触媒の製造方法
次に、メタン化反応用触媒の製造方法の一実施形態について説明する。
【0054】
メタン化反応用触媒を製造するには、例えば、まず、原料としての、ジルコニア(ZrO
2)および/またはZrの塩と、Caの塩と、Niの塩とを、元素状態の金属を基準として、Zr:6〜62原子%、Ca:1〜20原子%、Ni:30〜90原子%の割合となり、かつ、Ca/(Zr+Ca)の原子比が、0.14〜0.25となるように混合して混合物を調製する。
【0055】
Zrの塩としては、例えば、Zrの硝酸塩(例えば、硝酸ジルコニウム(Zr(NO
3)
4)、硝酸酸化ジルコニウム(ZrO(NO
3)
2)など)、Zrの塩酸塩(例えば、塩化酸化ジルコニウム(ZrCl
2O)など)、Zrの酢酸塩(例えば、酢酸酸化ジルコニウム(ZrO(C
2H
3O
2)
2)など)などが挙げられる。Zrの塩は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。
【0056】
このようなZrの塩は、市販品を用いることもでき、市販品としては、例えば、硝酸ジルコニウム五水和物(BOCサイエンス社製)、硝酸酸化ジルコニウム二水和物(関東化学社製)、塩化酸化ジルコニウム八水和物(関東化学社製)などが挙げられる。
【0057】
ジルコニアおよびZrの塩のなかでは、好ましくは、ジルコニアが挙げられる。
【0058】
Caの塩としては、例えば、Caの硝酸塩(例えば、硝酸カルシウム(Ca(NO
3)
2)など)、Caの塩化物(例えば、塩化カルシウム(CaCl
2)など)などが挙げられる。Caの塩は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。
【0059】
Caの塩のなかでは、好ましくは、Caの硝酸塩が挙げられ、さらに好ましくは、硝酸カルシウムが挙げられる。
【0060】
Niの塩としては、例えば、Niの硝酸塩(例えば、硝酸ニッケル(Ni(NO
3)
2)など)、Niの塩化物(例えば、塩化ニッケル(NiCl
2)など)などが挙げられる。Niの塩は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。
【0061】
Niの塩のなかでは、好ましくは、Niの硝酸塩が挙げられ、さらに好ましくは、硝酸ニッケルが挙げられる。
【0062】
ジルコニアおよび/またはZrの塩と、Caの塩と、Niの塩とを混合するには、例えば、ジルコニアのヒドロゾルおよび/またはZrの塩の水溶液と、Caの塩の水溶液と、Niの塩の水溶液とを、各原子(Zr、CaおよびNi)の原子%が上記の範囲であり、かつ、Ca/(Zr+Ca)の原子比が上記の範囲となる割合で混合し、撹拌する。
【0063】
より具体的には、ジルコニアのヒドロゾルおよび/またはZrの塩の水溶液と、Caの塩の水溶液とを、例えば、1時間以上30時間以下、撹拌混合して、均一な溶液とした後、Niの塩の水溶液を加え、例えば、1時間以上30時間以下、撹拌混合する。
【0064】
これによって、ジルコニアおよび/またはZrの塩と、Caの塩と、Niの塩とを含有する混合溶液が調製される。
【0065】
次いで、混合溶液を、例えば、30分以上3時間以下静置した後、例えば、マッフル炉などの加熱炉により、蒸発乾固させる。
【0066】
混合溶液の乾燥温度としては、例えば、100℃以上、好ましくは、150℃以上、例えば、300℃以下、好ましくは、200℃以下である。混合溶液の乾燥時間としては、例えば、30分以上、好ましくは、1時間以上、例えば、10時間以下、好ましくは、3時間以下である。
【0067】
これによって、混合溶液から水分が除去されて、ジルコニアおよび/またはZrの塩と、Caの塩と、Niの塩とが均一に混合される混合物が調製される。
【0068】
次いで、混合物を、例えば、マッフル炉などの加熱炉により、焼成する。
【0069】
焼成温度としては、500℃以上、好ましくは、600℃以上、800℃以下である。
【0070】
焼成温度が上記下限以上上記上限以下であれば、安定化ジルコニア担体の結晶構造を確実に正方晶系とすることができる。
【0071】
焼成時間としては、例えば、1時間以上、好ましくは、3時間以上、例えば、10時間以下、好ましくは、7時間以下である。
【0072】
これによって、混合物が焼成されて、上記一般式(1)で示す安定化ジルコニア担体が形成するとともに、安定化ジルコニア担体に酸化ニッケルが担持され、下記一般式(4)で示される触媒前駆体が調製される。
【0073】
一般式(4):
NiO/Zr
4+1−(x+y)Ca
2+xNi
2+yO
2−(x+y)Vo
x+y (4)
(一般式(4)中、xおよびyは、上記一般式(1)のxおよびyと同様の範囲を示す。)
つまり、安定化ジルコニア担体の結晶構造にCaおよびNiが取り込まれるとともに、安定化ジルコニア担体に酸化ニッケルが担持される。
【0074】
次いで、触媒前駆体を、必要により、乳鉢などで粉砕しふるいにかけた後、水素気流下において、還元処理する。
【0075】
還元温度としては、例えば、200℃以上、好ましくは、300℃以上、例えば、600℃以下、好ましくは、500℃以下である。還元時間としては、例えば、1時間以上、好ましくは、3時間以上、例えば、10時間以下、好ましくは、7時間以下である。
【0076】
以上によって、安定化ジルコニア担体に担持される酸化ニッケルが還元されて、上記一般式(3)で示されるメタン化反応用触媒が調製される。
【0077】
なお、安定化ジルコニア担体に含有されるZr、CaおよびNiは、安定化ジルコニア担体に担持される酸化ニッケルにより被覆されているため、この還元工程において還元されず、酸化状態が維持される。
【0078】
また、メタン化反応用触媒に希釈成分を添加する場合、メタン化反応用触媒と希釈成分とを上記の割合で混合した後、還元処理することができる。
【0079】
また、メタン化反応用触媒に粒子成分および/またはバインダーを添加する場合、上記の混合溶液に、粒子成分および/またはバインダーを添加した後、蒸発乾固し焼成することができる。これにより、最大3mm径の粒状の触媒前駆体を形成することができる。また、粒子成分および/またはバインダーをメタン化反応用触媒に添加し混合した後、再度、加熱焼成することもできる。
【0080】
3.メタンの製造方法
次に、上記のメタン化反応用触媒を用いたメタンの製造方法について説明する。
【0081】
メタン化反応用触媒によりメタンを製造するには、メタン化反応用触媒を、常圧下、300℃以上、好ましくは、350℃以下、400℃以下の条件下において、二酸化炭素および水素ガスを少なくとも含む混合ガスに接触させる。
【0082】
混合ガスは、二酸化炭素および水素ガスを少なくとも含んでいれば特に制限されず、他のガスとして、一酸化炭素、窒素などを含んでいてもよい。つまり、混合ガスとしては、二酸化炭素および水素の混合ガス、一酸化炭素、二酸化炭素および水素の混合ガス、および、それらを主成分とする混合ガスが挙げられる。なお、混合ガスにおいて、二酸化炭素と水素ガスとのモル比は、1:4である。
【0083】
また、混合ガスの流量は、例えば、20L/時以上、好ましくは、50L/時以上、例えば、100L/時以下、好ましくは、70L/時以下である。
【0084】
このように、メタン化反応用触媒と混合ガスとを接触させると、メタン化反応用触媒の酸素空孔が二酸化炭素の酸素原子を引き付けるため、メタン化反応用触媒の表面上において、下記化学式(5)に示す化学反応が進行して、二酸化炭素と水素とが効率よく反応して、メタンが生成する。
【0087】
この上記化学式(5)に示す化学反応は、生成する水をメタンとともに除去することで、常圧下において、平衡を生成物側(メタン側)に傾けることができ、簡易な設備でメタンを効率よく製造することができる。
【0088】
また、混合ガスが一酸化炭素を含有する場合、メタン化反応用触媒は、まず、一酸化炭素の全てをメタンに転換した後、二酸化炭素をメタンに転換する。そのため、一酸化炭素を確実に除去できる。
【0089】
また、このようなメタンの製造方法では、メタン化反応用触媒の表面に担持される金属Niが、混合ガスの供給により、メタン化反応用触媒から剥離して離脱してしまう場合がある。この場合、その剥離部分から露出する安定化ジルコニア担体のNiイオンが、混合ガス中の水素によって還元されて金属状態となり、触媒活性点として作用するため、メタン化反応用触媒は、触媒活性を十分に確保することができる。
【0090】
4.作用効果
メタン化反応用触媒では、Ca/(Zr+Ca)の原子比が、0.14〜0.25であるので、二酸化炭素の転換率の向上を図ることができる。また、希土類元素と比較して廉価なCaが、安定化ジルコニア担体の結晶構造に、Niとともに取り込まれ、その結晶構造を安定化するので、原料コストの低減を図ることができる。つまり、メタン化反応用触媒は、原料コストの低減を図ることができながら、二酸化炭素の転換率の向上を図ることができる。
【0091】
また、メタン化反応用触媒の製造方法では、ジルコニアおよび/またはZrの塩と、Caの塩と、Niの塩とを、元素状態の金属を基準として、Zr、CaおよびNiのそれぞれの原子%が、所定の範囲となり、かつ、Ca/(Zr+Ca)の原子比が、所定の範囲となるように混合して混合物を調製し、混合物を乾固させ、500〜800℃で焼成し、次いで還元処理することにより、上記のメタン化反応用触媒を製造できる。
【0092】
そのため、簡易な方法でありながら、二酸化炭素の転換率の向上を図ることができるメタン化反応用触媒を製造できる。
【0093】
また、メタンの製造方法では、上記のメタン化反応用触媒を、300〜400℃の条件下において、二酸化炭素および水素ガスを少なくとも含む混合ガスに接触させるので、二酸化炭素を効率よくメタンに転換でき、メタンを効率よく製造できる。
【0094】
なお、メタン化反応用触媒は、正方晶系の結晶構造を有する安定化ジルコニア担体を備えているが、単斜晶系の結晶構造を有するジルコニア(単斜晶系ジルコニア)を一部含んでいてもよい。
【実施例】
【0095】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0096】
実施例1〜20および比較例1〜10
ジルコニア(二酸化ジルコニウム、Zrの酸化物)のヒドロゾル(商品名:「Zr30AH」、日産化学工業社製、Zr:30質量%、pH=4.0)に、硝酸カルシウム四水和物(Caの塩)を純水に溶解した硝酸カルシウム水溶液を、表1〜表3に示す組成(ZrおよびCaの原子%およびCa/(Zr+Ca)の原子比)となるように加え、撹拌して均一な白色溶液を調製した。
【0097】
次いで、白色溶液に、硝酸ニッケル六水和物(Niの塩)を純水に溶解した硝酸ニッケル水溶液を、表1〜表3に示す組成(Niの原子%)となるように加え、24時間撹拌して、均一な混合溶液とした。
【0098】
次いで、混合溶液を1時間静置した後、マッフル炉に入れ、170℃で2時間保持して、水分を除去し乾固して、ジルコニアと、硝酸カルシウムと、硝酸ニッケルとの混合物を調製した。そして、混合物を、650℃で5時間焼成し、灰色の触媒前駆体を調製した。
【0099】
次いで、触媒前駆体をメノウ乳鉢で粉砕し、100μmメッシュのふるいにかけて通過分を採取した。
【0100】
そして、通過分の触媒前駆体0.15gと、α−アルミナ(酸化アルミニウム、希釈成分)8.75gとを混合して、アルミナ添加触媒前駆体を調製し、アルミナ添加触媒前駆体を、内径15mm×長さ50mmの石英管(反応管)の中に配置し、石英ウールで固定した。アルミナ添加触媒前駆体の装填量は、約10cm
3であった。
【0101】
次いで、反応管を電気炉内に配置し、熱電対を反応管内に挿入して、アルミナ添加触媒前駆体に接触させた。そして、熱電対が示す温度が400℃になるように加熱し、水素気流下で5時間還元して、アルミナが添加されたメタン化反応用触媒を得た。
【0102】
メタン化反応用触媒は、安定化ジルコニア担体と、安定化ジルコニア担体に担持される金属状態のNiとを備えていた。
【0103】
実施例21〜24、比較例11および12
混合物の焼成温度を650℃から800℃に変更した以外は、上記と同様にして、メタン化反応用触媒を得た。
【0104】
測定および評価)
1)安定化ジルコニア担体の[111]面における結晶格子間隔
実施例5〜12、21〜24および比較例3〜6、11および12のメタン化反応用触媒について、安定化ジルコニア担体の[111]面における結晶格子間隔を、粉末X線回折法により得られた111回折線の角度からBraggの式を用いて算出した。その結果を表1、2、4および
図2に示す。なお、表1、2および4では、安定化ジルコニア担体をZr担体とし、
図2では、原子%をat.%として示す。
【0105】
図2では、Ca/(Zr+Ca)の原子比が増加するにつれて、安定化ジルコニア担体の[111]面における結晶格子間隔が増加(膨張)し、Niの原子%が増加すれば、安定化ジルコニア担体の[111]面における結晶格子間隔が低下(縮小)することが確認された。
【0106】
2)X線回折
実施例5〜8、比較例3および比較例4のメタン化反応用触媒の触媒成分について、X線回折(視射角10
o,Cu−Kα)により分析した。その結果を
図3に示す。
【0107】
また、実施例21〜24、比較例11および12のメタン化反応用触媒の触媒成分について、X線回折(視射角10
o,Cu−Kα)により分析した。その結果を
図4に示す。
【0108】
なお、
図3および
図4では、正方晶系の結晶構造を有するジルコニアを、t−ZrO
2とし、単斜晶系の結晶構造を有するジルコニアを、m−ZrO
2として示す。
【0109】
図3および
図4では、メタン化反応用触媒の主成分が、正方晶系の結晶構造を有するジルコニア(正方晶系ジルコニア)と、金属状態のNiとであることが確認された。なお、メタン化反応用触媒では、少量の単斜晶系の結晶構造を有するジルコニア(単斜晶系ジルコニア)が生成しているが、Caの存在が正方晶系ジルコニアを安定化していた。還元されなかった酸化ニッケルNiOは、安定化ジルコニア担体の内部に包含されていた。
【0110】
3)二酸化炭素のメタンへの転換率(CO
2転換率%)
実施例1〜20および比較例1〜10のメタン化反応用触媒を、300℃、350℃または400℃(反応温度)に維持し、二酸化炭素、水素および窒素を含む原料ガス(混合ガス)を、反応管に供給して、各メタン化反応用触媒と接触させた。
【0111】
なお、原料ガスにおいて、二酸化炭素と水素とのモル比は1:4であり、窒素は5体積%であった。また、原料ガスの流量は、60L/時であり、触媒成分1gに対して、400L/(時・g)であった。
【0112】
そして、各メタン化反応用触媒と接触した後、反応管から流出する反応ガスを、熱伝導度検出(TCD)型ガスクロマトグラフィで分析した。反応ガスには、未反応の水素、未反応の二酸化炭素、および、生成物であるメタンのみが含有されており、メタンへ反応選択率は、100%であった。
【0113】
反応管に供給した原料ガスにおける水素および二酸化炭素の導入量と、反応ガスにおける水素および二酸化炭素の未反応量との比率から、二酸化炭素のメタンへの転換率(CO
2転換率%)を求めた。
【0114】
その結果を、表1〜表3および
図5に示す。なお、
図5では、反応温度が350℃である場合のCO
2転換率%を示し、原子%をat.%として示す。
【0115】
図5では、メタン化反応用触媒におけるCa/(Zr+Ca)の原子比が0.14〜0.25の範囲内にあるときに、CO
2転換率%が向上することが確認された。
【0116】
また、メタン化反応用触媒におけるNiの原子%が、50〜80原子%であるときに、CO
2転換率%がより向上することが確認された。
【0117】
また、Niの原子%が50〜80原子%であり、かつ、Ca/(Zr+Ca)の原子比が0.15〜0.22の範囲内にあるときに、CO
2転換率%が、80%を超過することが確認された。
【0118】
また、Niの原子%が70原子%であり、かつ、Ca/(Zr+Ca)の原子比が0.165〜0.20の範囲内にあるときに、CO
2転換率%が、90%を超過することが確認された。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】
【0122】
【表4】
【0123】
なお、上記発明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記特許請求の範囲に含まれる。