(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、温度変化に起因するモールド部材の膨張もしくは収縮は、ホール素子に対して外力を与えるだけでなく、コアに対しても外力を及ぼすものであり、上記の先行技術はコアに対する外力の影響に関して何も対策をしていない。
【0005】
もちろん、ホール素子のような精密デバイスと違い、磁性材料であるコアがモールド部材で圧迫等される程度のことであれば、ホール素子の電気的特性に大した影響は生じない。しかし、モールド部材からの外力によってコアが変形し、それに伴ってギャップ寸法に変化が生じると、途端にホール素子の出力特性が多大な影響を受けることになる。このことは、短期的な温度変化に起因するモールド部材の膨張もしくは収縮だけでなく、経年変化によってモールド部材に体積変化を生じた場合にも同様である。
また、経年変化による影響がコア自身の構造に起因して現れる場合もある。例えば、磁性材料の長尺な帯状板材を渦巻き(トロイダル)状にして積層し、全体を任意のリング形状に加工して層間に接着ワニスを含浸させて形状を保持した構造である。なお、ギャップはリングの一部を切欠いて形成する。この場合、コア内部には帯状材料が復元しようとする力(スプリングバック)が内在しているが、通常は接着ワニスでその復元力が抑え込まれている。しかし、コアがさらされる外部環境(温度、湿度等)の変化や経年変化によって接着ワニスが変質し、復元力が解放されると、これに起因してギャップ寸法に変化が生じることになる。
さらには、この種の電流検出器に共通した事情もある。すなわち、被検出電流の磁界がコアによって集束される際、コア自身は電磁石となり、コアギャップ端面間に吸引力が働くことでギャップ寸法は変化する。この現象(吸引力によるギャップ寸法の変化)は、電流検出器の出力直線性に影響を与えることになる。また、コアギャップ内に存在する充填剤等が外部環境(温度、湿度等)の変化や経年変化により変質した場合には、ギャップ端面間の吸引力によるギャップ寸法変化量が変化するため、電流検出器の出力値を変化させることになる。
【0006】
そこで本発明は、短期的な温度変化や長期的な経年変化に伴う出力特性の変化を防止する技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の解決手段を採用する。
本発明の電流検出器は、規制部材をケースと磁性体コアとの間に介在して配置し、様々な事象に起因したギャップの伸縮を伴う磁性体コアの変形を規制するものである。
【0008】
これにより、充填材(ウレタン樹脂等)に短期的又は経年による体積変化や、コア自身の形状を保持する接着剤の変質、あるいは、コアが電磁石として働く場合の出力値に影響を及ぼす充填材の変質等が生じたとしても、それによって磁性体コアにギャップ寸法の変化を生じさせるような変形は生じないため、検出素子の出力特性に温度ドリフト(短期)や経年変化(長期)が生じるのを抑制することができる。
【0009】
規制部材の配置は、ギャップから磁性体コアの周方向にそれぞれ90度までの範囲内である。より好ましくは、ギャップの直近位置でもよい。通常、ギャップ寸法に変化を与えるような磁性体コアの変形は、ギャップに近いところで生じる。このとき、磁性体コアが環状であるため、ギャップと対極にある位置(180度離れた位置)で磁性体コアの変形を規制してもあまり有効でない。その意味では、ギャップ位置から周方向にそれぞれ90度の範囲内で磁性体コアの変形を規制すれば、効果的にギャップ寸法の変化を抑止することができる。
【0010】
ケースは、検出素子とともに磁性体コアを収容するものであるが、電流検出器全体の小型化といった観点からは、ケース内部に過大な余裕空間を持たせることは好ましくなく、通常、ケースの大きさや形状は磁性体コアの大きさや形状に合わせてなるべく最小に設定される。最適なケースの態様としては、磁性体コアを収容した状態で、その外周面及び内周面にそれぞれ一対の周壁が対向して磁性体コアの内外周を囲い、かつ、その一側面に壁板が対向して一対の周壁間を閉塞する。
【0011】
このようなケースの態様において、磁性体コアとともに充填された充填材は、一対の周壁と磁性体コアの内周面及び外周面との間に存在することとなるが、ギャップ寸法の変化を伴い磁性体コアを変形させるような充填材の体積変化の方向は、一対の周壁間の方向とも合致する。そこで本発明では、規制部材のより詳細な配置について以下の複数のものを採用する。
【0012】
〔第1態様〕
規制部材が一対の周壁と磁性体コアの外周面及び内周面との間にそれぞれ配置されている。この場合、規制部材が充填材の介在する余地を狭めているため、その分、充填材の体積変化がギャップ寸法の変化に与える影響を極めて少なく抑えることができる。
【0013】
〔第2態様〕
規制部材が壁板と磁性体コアの一側面との間に配置されている。この場合、規制部材には、壁板に対して磁性体コアを固着(接着)させる機能が含まれる。壁板は磁性体コアの一側面と対向しているため、一対の周壁と違って充填材の体積変化から受ける変形はほとんどない。つまり、充填材の体積変化によって一対の周壁は、それらの基端から先にいくほど大きく曲げ変形を受けるが、基端同士をつないでいる壁板は引っ張り方向となるため変形量自体が少ない。したがって、このような変形しにくい壁板に磁性体コアの側面を固着させることで、磁性体コアの変形を規制してギャップ寸法の変化を抑えることができる。
【0014】
規制部材は、ケースと磁性体コアとを接着する接着剤である。この場合、接着剤には線膨張係数が充填材より小さい材質を用いる。通常、ケース内に充填した充填材は、検出素子やこれを実装した回路基板にも接するため、半田クラック防止の観点から比較的柔軟性の高い材質(ウレタン樹脂等)が選ばれる。これに対し、規制部材となる接着剤は回路基板には接しておらず、半田クラックの要因とはならないため、比較的硬質で線膨張係数が小さい材質(エポキシ樹脂等)を用いることができる。これにより、磁性体コアを強固にケースに対して接着し、ギャップ寸法の変化を伴う変形を確実に抑えることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、短期的にも長期的にも出力特性の変化を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、一実施形態の電流検出器100を構成要素に分解して示した斜視図である。電流検出器100は樹脂ケース102を備えており、この樹脂ケース102には環状の磁性体コア110が一側面(
図1では下の側面)で接する状態に収容される。磁性体コア110は、円環状を基調とした形状であるが、周方向の1箇所にギャップ110aを有しており、したがって全体としてはC字形状をなしている。なお、磁性体コア110は角形の環状をなす形状であってもよいし、複数箇所にギャップ110aを有していてもよい。
【0018】
樹脂ケース102には、2本のピン102aが外面に突出して設けられており、これらピン102aは樹脂ケース102の同じ外面にて平行に並んでいる。電流検出器100は、2本のピン102aを介して図示しない基板や電流測定の対象となる機器等に取り付けることができる。
【0019】
樹脂ケース102には挿通孔104が開口(厚み方向に貫通)して形成されており、この挿通孔104には被検出電流が流れる導体(図示していない)が挿通されるものとなっている。樹脂ケース102は、導体の挿通方向でみて一端面(
図1では上面)が全体的に開口し、他端面(
図1では下面)が閉塞された容器状をなしている。さらに、樹脂ケース102内には、コア収容部102b及び基板収容部102gが隣り合うようにして形成されている。このうちコア収容部102bには磁性体コア110が収容され、基板収容部102gには回路基板114が収容されるものとなっている。
【0020】
コア収容部102bは、樹脂ケース102内では円環状の凹みとして形成されており、このような円環形状は磁性体コア110の形状に合致している。また、樹脂ケース102は、挿通孔104の周囲に内周壁102dを有するほか、内周壁102dの外側には外周壁102eを有している。このうち内周壁102dは、挿通孔104の開口形状に合わせて円筒状をなしているが、外周壁102eは、一部において磁性体コア110の外形に沿って曲面状をなしているものの、その他の部分は樹脂ケース102の外形に合わせて矩形状をなしている。
【0021】
上記の回路基板114(基板アセンブリ)には、その一方の実装面(
図1では下面)に図示しない配線パターンが形成されているほか、ホール素子130やその他の図示しない電子部品が実装されている。また、回路基板114の他方の面には、コネクタ端子108が実装されるものとなっており、樹脂ケース102内に回路基板114が収容された状態では、コネクタ端子108の一部(リード端子列)が樹脂ケース102から突出した状態となる。
【0022】
樹脂ケース102内に回路基板114が収容された状態で、ホール素子130は磁性体コア110のギャップ110a内に位置づけられる。公知のようにホール素子130は、被検出電流の導通により磁性体コア110で収束させた磁束に応じたホール電圧を出力する。
【0023】
図1には示されていないが、磁性体コア110及び回路基板114が収容された状態で、樹脂ケース102内は充填材(例えばウレタン樹脂)により充填及び封止される。充填材は、樹脂ケース102内で磁性体コア110及び回路基板114を固定するとともに、これらを封止して塵芥や水分から保護している。
【0024】
〔規制部材〕
図2は、樹脂ケース102内での磁性体コア110の規制状態を示す図である。
図2中(A)が磁性体コア110の規制前の状態を示し、
図2中(B)が規制された状態を示している。また、
図2では樹脂ケース102が水平断面(
図1中のII−II断面)により示されている。
【0025】
図2中(A):樹脂ケース102内には、磁性体コア110を収容する前にコア収容部102bの複数箇所(ここでは2箇所)に接着剤140が塗布される。接着剤140としては、充填材(ウレタン系樹脂)とは異なる材質(例えば、エポキシ系樹脂)のものが好適に用いられる。
【0026】
〔規制部材の配置〕
図2中(B):樹脂ケース102内に磁性体コア110が収容された状態で、上記の接着剤140により、磁性体コア110が樹脂ケース102に対して固着される。ここで、
図2中(B)に示されているように、接着剤140を設ける位置は、磁性体コア110の周方向でみて、ギャップ110aからそれぞれ90度の範囲内で設定することが好ましい。この後、樹脂ケース102内に充填材が充填された状態で、接着剤140は、ギャップ110aの伸縮(寸法変化)を伴う磁性体コア110の変形を規制することができる。なお、この点についてはさらに後述する。
【0027】
〔充填材〕
図3は、樹脂ケース102内に充填材106による充填及び封止がなされた状態を示す水平断面図である。
充填材106は、樹脂ケース102内の空隙を埋め尽くす態様で充填されている。このため、電流検出器100の完成状態において、充填材106は磁性体コア110の内周壁102dと内周面との間、外周面と外周壁102eとの間、ホール素子130を除くギャップ110a間、回路基板114(
図3には示されていない)と樹脂ケース102との間、磁性体コア110や回路基板114等の収容体から樹脂ケース102の開口面までの間、といった各所に隅々まで行き渡っている。なお、
図1に示されるコネクタ端子108は上記のようにリード端子列が充填材106から突出する。
【0028】
〔充填材の体積変化〕
電流検出器100の使用環境においては、温度変化が生じることで充填材106は膨張及び収縮(体積変化)を繰り返す。このとき、
図3中の矢印で示される方向への充填材106の膨張又は収縮は、ギャップ110aの収縮を伴う変形を磁性体コア110に与えようとする。
【0029】
本発明の発明者は、上記の事象によってギャップ110aの寸法が当初値からN%変化すると、ホール素子130の出力もそのままN%変動してしまうことに着目し、本発明に至る課題の着想を得た。すなわち、短期的な温度変化によって充填材106が体積変化した場合、ホール素子130の出力特性に対して温度ドリフトを与えることになり、また、経年変化によって充填材106に体積変化が生じていると、長期的にもホール素子130の出力特性に変化を与えることにもなる。
【0030】
上記の観点から、本発明の発明者は、ギャップ110aの寸法変化をいかにして抑えるかが重要であることに着眼し、これを規制部材としての接着剤140を用いて実現するに至ったものである。
【0031】
図4は、ギャップ110aの寸法が変化する方向に沿う樹脂ケース102内部の縦断面図(
図3中のIV−IV断面)である。このうち、
図4中(A)は充填材106に体積変化が生じていない通常時(常温時)を示し、
図4中(B)は充填材106の膨張時(高温時)を示し、
図4中(C)は充填材106の収縮時(低温時)を示している。また、図中に示される矢印は、ギャップ110aの寸法が変化する方向を示している(
図5についても同じ)。
【0032】
〔通常時〕
図4中(A):上記のように、充填材106は樹脂ケース102内で磁性体コア110の周囲に行き渡るように充填されており、磁性体コア110の内周面と内周壁102dとの間、外周面と外周壁102eとの間にも充填材106は介在している。
【0033】
〔膨張時〕
図4中(B):温度変化により充填材106が膨張した状態である。充填材106の膨張は、磁性体コア110の内外周面からそれぞれ内周壁102d及び外周壁102eを離隔させる方向に作用する。ただし、内周壁102d及び外周壁102eは、それぞれ基端においてコア収容部102bの壁板(ここでは底板)で連結されているため、基端ではほとんど変形が生じにくく、先端(ここでは上面の開口)に向かうほど変形が大きくなる。この場合の変形は、ギャップ110aの寸法を伸張(拡張)させる方向に作用する。なお、内周壁102d及び外周壁102eに曲げ変形(倒れ)が生じるほどであっても、これらの間をつなぐ樹脂ケース102の壁板(底板)部分は引っ張り方向の強度で持ちこたえるため、ほとんど変形(伸び)は生じない。このため、
図4中に示される水平方向の一点鎖線は、深さ方向でみて変形が生じやすい上領域Tと変形が生じにくい下領域Bとのおおよその境界線を示している(これ以降も同様)。
【0034】
〔収縮時〕
図4中(C):温度変化により充填材106が収縮した状態である。充填材106の収縮は、磁性体コア110の内外周面に対してそれぞれ内周壁102d及び外周壁102eを近接させる方向に作用する。そして、この場合の変形は、ギャップ110aの寸法を縮小(収縮)させる方向に作用する。
【0035】
本発明の発明者は、上記のような特性から好適にギャップ110aの寸法変化を抑制する接着剤140の塗布方法として、以下の2つを提供している。
すなわち、
図5は、接着剤140の好適な塗布方法1,2を示す縦断面図である。このうち、
図5中(A)が塗布方法1を示し、
図5中(B)が塗布方法2を示している。なお、
図5の断面は、樹脂ケース102内で接着剤140を配置した場所でのものであり、
図4の断面位置からギャップ110a方向にずれているものとする。
【0036】
〔線膨張係数〕
なお、本実施形態における各種材料の線膨張係数の代表値は以下の通りである。
樹脂ケース102・・・PBT :2〜3×10
−5/K
充填材106・・・・・ウレタン樹脂: 20×10
−5/K
接着剤140・・・・・エポキシ樹脂: 6×10
−5/K
【0037】
〔塗布方法1〕
図5中(A):塗布方法1は、磁性体コア110の内周面と内周壁102dとの間、外周面と外周壁102eとの間にそれぞれ接着剤140を介在させるものである。なお、製造の過程で接着剤140をコア収容部102bに塗布するため、接着剤140は磁性体コア110の一側面(
図5では底面)と樹脂ケース102内面との間にも介在する。
【0038】
塗布方法1によれば、ギャップ110aの寸法変化の方向に対し、磁性体コア110と樹脂ケース102内面との間に硬化した接着剤140が存在する。このため、特に接着剤140の接着強度(寸法変化方向のせん断に対する強さ)に依存することなく、接着剤140の存在そのものによって充填材106が存在することを排除し、ギャップ110aの寸法変化を伴う磁性体コア110の変形を規制することができる。したがって、信頼性が高い。
【0039】
〔塗布方法2〕
図5中(B):塗布方法2は、磁性体コア110と樹脂ケース102内面との間に接着剤140を介在させるものである。
塗布方法2によれば、接着剤140の接着強度(寸法変化方向のせん断に対する強さ)によってギャップ110aの寸法変化を伴う磁性体コア110の変形を規制する。充填材106が体積変化しても、上記のように接着剤140の接着位置では樹脂ケース102に変形が生じにくいため、接着による変形の規制が有効に機能し、ギャップ110aの寸法変化を抑えることができる。
【0040】
また、充填材106ほどの大きさではないが、接着剤140にも上記のように固有の線膨張係数がある。このため、磁性体コア110と樹脂ケース102内面(内周壁102d、外周壁102e)との間に接着剤140がある場合(例えば塗布方法1)、接着剤140もギャップ110aの寸法変化に寄与するが、塗布方法2であれば、磁性体コア110と樹脂ケース102内面との間の部位に接着剤140が存在しないため、接着剤140の線膨張係数の影響も無くすことができる。
【0041】
なお、
図4に示される変化は短期的な温度変化について示したものであるが、充填材106に経年的な体積変化が発生した場合についても同様に、接着剤140によるギャップ110aの寸法変化の抑制を有効に機能させることができる。
【0042】
本実施形態の電流検出器100によれば、短期的な温度変化による出力特性の温度ドリフトを抑えるとともに、長期的な経年変化による出力特性のずれを抑えることができる。これにより、電流検出器100の製品としての信頼性を向上し、品質を長く保証することができる。
【0043】
〔その他の有用性〕
本実施形態による手法は、磁性体コア自身の構造的な要因に基づくギャップ寸法変化や、電流検出器に固有の要因に基づくギャップ寸法変化に対しても有効である。以下、この点について説明する。
【0044】
〔磁性体コア自身の構造的要因への対策〕
図6は、磁性体コアの他の構造例を示す図である。ここでは便宜上、第2実施形態の電流検出器200とするが、磁性体コア210以外の構成は先の実施形態で挙げた電流検出器100と同様である。したがって、先の実施形態と共通する構成については、図示とともに同じ符号を付し、重複した説明を省略する。
【0045】
第2実施形態の電流検出器200は、巻鉄心(トロイダル)タイプの磁性体コア210を備えている。この磁性体コア210は、複数の帯板状材料210a〜210fが径方向に積層された状態で、全体として環状に形成されている。このような帯板状材料210a〜210fの積層構造は、磁性体コア210の製造方法に基づく。すなわち、複数の帯板状材料210a〜210fは、元は1枚の長尺な帯板状材料であったものを渦巻状に曲げ加工してリング形状化し、全体に接着ワニスを含浸させて固めた後、周方向の一部を切断(切欠)してギャップ110aを形成したものである。したがって、完成状態では元の長尺板が複数枚に分断され、複数の帯板状材料210a〜210fとなって積層された構造となる。ここでは図示していないが、接着ワニスは帯板状材料210a〜210fの層間に介在してこれらを相互に接着しているほか、磁性体コア210の内周面、外周面及び円環状の両側面を覆うようにして全体のリング形状を保持している。なお、帯板状材料210a〜210fの枚数(元の材料の巻数、積層数)は図示の例に限られず、任意とすることができる。
【0046】
本発明の発明者は、磁性体コア210の構造的な要因でギャップ110aに寸法変化を生じることを突き止めた。すなわち、上記のように巻鉄心タイプの磁性体コア210は、元は帯板状であった磁性材料を巻き付けて任意のリング形状へと加工し、接着ワニスにより形状を保持しているものである。このような構造において、磁性体コア210には帯板状材料210a〜210fが元の板状に戻ろうとする復元力(スプリングバック)が内在しているが、通常は接着ワニスで復元力は抑え込まれている。
【0047】
しかし、磁性体コア210がさらされる外部環境(温度、湿度等)の変化や経年変化により接着ワニスが変質(軟化又は硬化)すると、その復元力が解放(発揮)されることにより磁性体コア210が変形し、ギャップ110aの寸法が変化する。
【0048】
そこで、ここでも先の実施形態で挙げた手法(規制部材による磁性体コア210の変形の規制)が有効に機能し、第2実施形態の電流検出器200においても、磁性体コア210の変形を規制し、ギャップ110aの寸法変化を確実に抑えることで出力特性を維持することができる。
【0049】
〔電流検出器の固有要因への対策〕
次に
図7は、磁性体コアが電磁石として作用する場合の説明図である。ここでも便宜上、第3実施形態の電流検出器300とするが、基本的な構成は全て先の実施形態で挙げた電流検出器100と同じである。したがって、先の実施形態と同じ構成については、図示とともに同じ符号を付し、重複した説明を省略する。
【0050】
この種の電流検出器300に共通する事象として、挿通孔104内に挿通された導体302に被検出電流Ipが流れると、その磁界Tpが磁性体コア110によって集束される際、磁性体コア110自身は電磁石となり、ギャップ110aの端面間(S極−N極間)に磁気吸引力が働くことで寸法が変化する。この磁気吸引力によるギャップ寸法の変化が電流検出器300からの出力直線性に影響を及ぼし、検出誤差となり得ることが分かっている。
【0051】
また、ギャップ110a内に存在する充填剤106が外部環境(温度、湿度等)の変化や経年変化により変質した場合には、ギャップ110a端面間に働く吸引力による寸法変化量が変化するため、電流検出器300の出力値を変化させることになる。
【0052】
そこで、ここでも先の実施形態で挙げた手法(規制部材による磁性体コア110の変形の規制)が有効に機能し、第3実施形態の電流検出器300においても、磁性体コア110の変形を規制し、ギャップ110aの寸法変化を確実に抑えることで出力特性を維持することができる。
【0053】
本発明は上述した実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施可能である。一実施形態では、接着剤140の配置を2箇所としているが、3箇所以上に配置してもよい。
上記に挙げた線膨張係数の代表値は一例であり、また、使用する材料についても適宜に変更が可能である。
【0054】
その他、図示とともに挙げた電流検出器100やその一部の構造はあくまで好ましい一例であり、基本的な構造に各種の要素を付加し、あるいは一部を置換しても本発明を好適に実施可能であることはいうまでもない。