(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記移動機構によって前記加工ヘッドを移動させる方向は、前記ピアスから前記製品までを切断するアプローチに沿った方向であることを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工機。
前記移動機構によって前記加工ヘッドを移動させる方向は、前記ピアスを開ける位置を中心とした所定の角度方向であることを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工機。
レーザビームによって板金より製品を切断するために前記製品の外部にピアスを開けるピアシング加工を施すときに、加工ヘッドの先端に取り付けられたノズルの開口から射出されるレーザビームの前記開口内の位置を、前記開口の中心から前記製品より離れる方向の位置へと変位させ、
前記開口より前記板金へとアシストガスを吹き付けて、前記レーザビームによる熱によって溶融した前記板金の溶融金属を吹き飛ばす
ことを特徴とするレーザ加工方法。
前記開口の中心が前記ピアスを開ける位置の直上から、レーザビームの前記開口内の位置を変位させる方向とは反対側に変位した位置の直上に位置するように、前記加工ヘッドを移動させ、
レーザビームの前記開口内の位置を前記開口の中心から前記製品より離れる方向の位置であって前記ピアスを開ける位置に対応する位置へと変位させる
ことを特徴とする請求項5に記載のレーザ加工方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、1またはそれ以上の実施形態のレーザ加工機の全体的な構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、1またはそれ以上の実施形態のレーザ加工機におけるコリメータユニット及び加工ヘッドの詳細な構成例を示す斜視図である。
【
図3A】
図3Aは、板金の板厚が薄い場合のピアシング加工動作を概念的に示す側面図である。
【
図3B】
図3Bは、板金の板厚が厚い場合のピアシング加工動作を概念的に示す側面図である。
【
図4】
図4は、板金に複数の矩形状の製品を板取りした状態を示す部分平面図である。
【
図5A】
図5Aは、通常のピアシング加工におけるピアシングの位置とノズルの位置との関係を示す部分平面図である。
【
図5B】
図5Bは、第1の変位方法を採用したピアシング加工におけるピアシングの位置とノズルの位置との関係を示す部分平面図である。
【
図5C】
図5Cは、第2の変位方法を採用したピアシング加工におけるピアシングの位置とノズルの位置との関係を示す部分平面図である。
【
図6】
図6は、ビーム変位機構によるレーザビームの板金への照射位置の変位を説明するための図である。
【
図7】
図7は、ビーム変位機構によってレーザビームの板金への照射位置を変位させたときの溶融金属の飛散の仕方を示す側面図及び平面図である。
【
図8】
図8は、1またはそれ以上の実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法によってピアシング加工を施したときのスパッタの付着状態の一例を示す部分平面図である。
【
図9】
図9は、板金に4つの製品を板取りした状態を示す平面図である。
【
図10A】
図10Aは、
図9に示す製品210dにピアシング加工を施すときの、通常のピアシング加工におけるピアシングの位置とノズルの位置との関係を示す部分平面図である。
【
図10B】
図10Bは、
図9に示す製品210dにピアシング加工を施すときの、第3の変位方法を採用したピアシング加工におけるピアシングの位置とノズルの位置との関係を示す部分平面図である。
【
図10C】
図10Cは、
図9に示す製品210dにピアシング加工を施すときの、第4の変位方法を採用したピアシング加工におけるピアシングの位置とノズルの位置との関係を示す部分平面図である。
【
図11】
図11は、1またはそれ以上の実施形態のレーザ加工機による板金の加工動作、1またはそれ以上の実施形態のレーザ加工方法によって実行される板金の加工処理を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、ピアスの周囲に付着したスパッタの広がり角度と方向角度差の定義を説明するための図である。
【
図14A】
図14Aは、ノズル径2mmのノズルを用いたときの、板金へのレーザビームの照射位置の変位量と、広がり判定度、方向判定度、及び評価との関係を示す図である。
【
図14B】
図14Bは、ノズル径3mmのノズルを用いたときの、板金へのレーザビームの照射位置の変位量と、広がり判定度、方向判定度、及び評価との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、1またはそれ以上の実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法について、添付図面を参照して説明する。
図1において、レーザ加工機100は、レーザビームを生成して射出するレーザ発振器10と、レーザ加工ユニット20と、レーザ発振器10より射出されたレーザビームをレーザ加工ユニット20へと伝送するプロセスファイバ12とを備える。また、レーザ加工機100は、操作部1と、CAMとして機能するコンピュータ機器2と、操作部40と、NC装置50と、加工プログラムデータベース60と、加工条件データベース70と、アシストガス供給装置80とを備える。
【0013】
NC装置50は、レーザ加工機100の各部を制御する制御装置の一例である。操作部1及びコンピュータ機器2は、レーザ加工機100に対する上位装置として、レーザ加工機100の外部に設けられていてもよい。
【0014】
レーザ発振器10としては、レーザダイオードより発せられる励起光を増幅して所定の波長のレーザビームを射出するレーザ発振器、またはレーザダイオードより発せられるレーザビームを直接利用するレーザ発振器が好適である。レーザ発振器10は、例えば、固体レーザ発振器、ファイバレーザ発振器、ディスクレーザ発振器、ダイレクトダイオードレーザ発振器(DDL発振器)である。
【0015】
レーザ発振器10は、波長900nm〜1100nmの1μm帯のレーザビームを射出する。ファイバレーザ発振器及びDDL発振器を例とすると、ファイバレーザ発振器は、波長1060nm〜1080nmのレーザビームを射出し、DDL発振器は、波長910nm〜950nmのレーザビームを射出する。
【0016】
レーザ加工ユニット20は、加工対象の板金Wを載せる加工テーブル21と、門型のX軸キャリッジ22と、Y軸キャリッジ23と、Y軸キャリッジ23に固定されたコリメータユニット30と、加工ヘッド35とを有する。X軸キャリッジ22は、加工テーブル21上でX軸方向に移動自在に構成されている。Y軸キャリッジ23は、X軸キャリッジ22上でX軸に垂直なY軸方向に移動自在に構成されている。X軸キャリッジ22及びY軸キャリッジ23は、加工ヘッド35を板金Wの面に沿って、X軸方向、Y軸方向、または、X軸とY軸との任意の合成方向に移動させる移動機構として機能する。
【0017】
加工ヘッド35には、先端部に円形の開口36aを有し、開口36aよりレーザビームを射出するノズル36が取り付けられている。ノズル36の開口36aより射出されたレーザビームは板金Wに照射される。
【0018】
図2に示すように、コリメータユニット30は、プロセスファイバ12より射出された発散光のレーザビームを平行光(コリメート光)に変換するコリメーションレンズ31を備える。また、コリメータユニット30は、ガルバノスキャナユニット32と、ガルバノスキャナユニット32より射出されたレーザビームをX軸及びY軸に垂直なZ軸方向下方に向けて反射させるベンドミラー33を備える。加工ヘッド35は、ベンドミラー33で反射したレーザビームを集束して、板金Wに照射する集束レンズ34を備える。
【0019】
レーザ加工機100は、ノズル36の開口36aより射出されるレーザビームが開口36aの中心に位置するように芯出しされている。基準の状態では、レーザビームは、開口36aの中心より射出する。ガルバノスキャナユニット32は、加工ヘッド35内を進行して開口36aより射出されるレーザビームの開口36a内での位置を変位させるビーム変位機構として機能する。結果として、ガルバノスキャナユニット32は、レーザビームを板金Wに照射する位置を、開口36aの中心直下の位置から所定距離だけ離隔した位置へと変位させる。
【0020】
ガルバノスキャナユニット32はビーム変位機構の一例であり、ビーム変位機構はガルバノスキャナユニット32に限定されない。
【0021】
ガルバノスキャナユニット32は、コリメーションレンズ31より射出されたレーザビームを反射するスキャンミラー321と、スキャンミラー321を所定の角度となるように回転させる駆動部322とを有する。また、ガルバノスキャナユニット32は、スキャンミラー321より射出されたレーザビームを反射するスキャンミラー323と、スキャンミラー323を所定の角度となるように回転させる駆動部324とを有する。
【0022】
以上のように構成されるレーザ加工機100は、レーザ発振器10より射出されたレーザビームによって板金Wを切断して所定の形状を有する製品を製作する。このとき、レーザ加工機100は、板金Wの製品の外部となる位置にレーザビームによってピアシング加工を施し、ピアスから製品外周の所定の位置までの直線状のアプローチを切断する。レーザ加工機100は、レーザビームがアプローチの製品側の端部である製品外周の所定の位置に到達したら、製品外周に沿って板金を切断することによって製品を製作する。なお、ピアスから製品外周までを切断するアプローチ加工は一般的には直線状であるが、円弧状であっても構わない。
【0023】
次に、アシストガスを板金Wに吹き付けながら板金Wにピアシング加工を施す際に、ピアス周囲の溶融金属が付着する方向を制御するための具体的な方法を説明する。1またはそれ以上の実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法によれば、ピアス周囲の溶融金属が付着する方向を制御することにより、製品側に付着する溶融金属の量を低減させることができる。1またはそれ以上の実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法によれば、ピアス周囲の製品側に溶融金属が付着しないようにすることもできる。
【0024】
図3A及び
図3Bは、一般的なレーザ加工方法を用いて板金Wへのピアシング加工動作を概念的に示している。即ち、開口36aの中心はピアシング加工を施す位置の直上に位置していて、レーザビームを板金Wにおける開口36aの中心直下に照射するピアシング加工動作を示している。
図3Aは板金Wの板厚が薄い場合、
図3Bは板金Wの板厚が厚い場合を示している。
【0025】
図3Aにおいて、板金Wにピアシング加工を施す際には、NC装置50は、ノズル36を板金Wから離すように加工ヘッド35を上昇させる。従って、一点鎖線で示すレーザビームのビームウエストは板金Wから離れた上方に位置している。なお、レンズの調整によっては、ビームウエストを板金Wの表面または内部に設定することも可能であり、ビームウエストの位置の選択は自由である。
【0026】
レーザビームは開口36aの中心を通って板金Wに照射され、照射位置の金属がレーザビームの熱によって溶融して溶融金属Wmeltとなる。アシストガス供給装置80によって加工ヘッド35へと供給されたアシストガスAGは、開口36aを通って板金Wに吹き付けられる。アシストガスAGは溶融金属Wmeltに対して周方向にほぼ均等に作用して、溶融金属Wmeltはピアスとなる位置の周囲にほぼ均等に飛散する。なお、飛散する溶融金属Wmeltと、板金Wに付着して固化した堆積金属塊との双方をスパッタと称することがあるが、1またはそれ以上の実施形態においては堆積金属塊をスパッタと称することとする。
【0027】
板金Wの板厚が厚い
図3Bにおいては、ピアスが形成されるまでの時間が長くなり、開口36aの中心直下の溶融箇所が面方向に微小に移動する現象が発生することがある。すると、溶融金属Wmeltの量が周方向に均等でなくなって所定の方向に偏り、量が偏った方向により多くの溶融金属Wmeltが飛散する。
【0028】
図3Bは、図の左方向に多くの溶融金属Wmeltが飛散して、ピアスとなる位置の左方向にスパッタSpが多く付着している状態を示している。溶融金属Wmeltの量が偏る方向はランダムであるので、溶融金属Wmeltが多く飛散してスパッタSpが多く付着する方向はランダムとなる。
【0029】
図4に示すように、板金Wに複数の矩形状の製品200が板取りされていて、レーザ加工機100が各製品200を切断する場合を考える。コンピュータ機器2は、
図4に示す位置にピアシング加工を施してピアス201を開け、ピアス201を開けたらアプローチ202を切断し、アプローチ202の製品200側の端部から製品200の外周に沿って板金Wを切断する加工プログラムを作成する。加工プログラムは、加工プログラムデータベース60に記憶されている。
【0030】
NC装置50は、加工プログラムデータベース60より加工プログラムを読み出し、加工条件データベース70に記憶されている複数の加工条件のいずれかを選択する。NC装置50は、読み出した加工プログラム及び選択した加工条件に基づいて板金Wを加工するよう、レーザ加工機100を制御する。
【0031】
図5Aに示すように、加工プログラムによって、ピアシング加工を施してピアス201を開ける位置は板金W上の座標(X1,Y1)に設定されている。レーザビームが開口36aの中心より射出されるとすれば、NC装置50は、開口36aの中心が座標(X1,Y1)に位置するように加工ヘッド35を位置させればよい。開口36aの中心が座標(X1,Y1)に位置すれば、開口36aの中心はピアス201を開ける位置の直上に位置する。
【0032】
1またはそれ以上の実施形態においては、溶融金属Wmeltが飛散してスパッタSpが付着する方向を制御するために、
図5Bに示す第1の変位方法、または、
図5Cに示す第2の変位方法を採用することによって、レーザビームが板金Wに照射される位置を開口36aの中心直下から変位した位置に位置させる。
【0033】
第1の変位方法においては、
図5Bに示すように、NC装置50は、開口36aの中心が座標(X1,Y1)よりもアプローチ202上の製品200側に変位させた位置の直上に位置するように、加工ヘッド35をアプローチ202に沿って製品200側に変位させる。これに加えて、NC装置50は、レーザビームが板金Wに照射される位置が座標(X1,Y1)となるように、ガルバノスキャナユニット32におけるスキャンミラー321または323の角度を変更する。結果として、レーザビームが板金Wに照射される位置は開口36aの中心直下ではなく、製品200から離れた側に変位する。
【0034】
第2の変位方法においては、
図5Cに示すように、NC装置50は、開口36aの中心が座標(X1,Y1)に位置するように加工ヘッド35を位置させる。これに加えて、NC装置50は、レーザビームが板金Wに照射される位置が、アプローチ202の延長線上で座標(X1,Y1)よりも製品200から離れた側に位置するように、ガルバノスキャナユニット32におけるスキャンミラー321または323の角度を変更する。結果として、レーザビームが板金Wに照射される位置は開口36aの中心直下ではなく、製品200から離れた側に変位する。
【0035】
このように、NC装置50は、第1または第2の変位方法を採用することによって、開口36aから射出されるレーザビームの開口36a内の位置を、開口36aの中心から製品200より離れる方向の位置へと変位させるよう、ガルバノスキャナユニット32を制御する。
第1の変位方法によれば、レーザビームの開口36a内の位置は、開口36aの中心から製品200より離れる方向の位置であり、ピアス201を開ける位置である座標(X1,Y1)に対応する位置へと変位する。第2の変位方法によれば、レーザビームの開口36a内の位置は、座標(X1,Y1)から製品200より離れる方向の位置に対応する位置へと変位する。
【0036】
図5Cに示す第2の変位方法を採用すると、NC装置50が、ピアス201を開ける位置を変更し、アプローチ202を延長するよう加工プログラムを修正する必要がある。場合によっては、隣り合う製品の外周切断線とピアシング加工位置との干渉を考慮しなくてはならず、処理を複雑化させることがある。よって、第2の変位方法よりも第1の変位方法の方が好ましい。
【0037】
図6において、ベンドミラー33で折り曲げられて集束レンズ34を通過する細実線は、レーザ加工機100が基準の状態であるときのレーザビームの光軸を示している。ガルバノスキャナユニット32による作用によって、レーザビームの光軸が細実線で示す位置から太実線で示す位置へと変位したとする。ベンドミラー33で反射するレーザビームが角度θで傾斜したとすると、板金Wへのレーザビームの照射位置は距離Δsだけ変位する。
【0038】
なお、詳細には、ベンドミラー33の手前に位置しているガルバノスキャナユニット32の作動により、ベンドミラー33に入射するレーザビームの光軸の角度が変化し、光軸がベンドミラー33の中心から外れる。
図6では、簡略化のため、ガルバノスキャナユニット32の作動前後でベンドミラー33へのレーザビームの入射位置を同じ位置としている。
【0039】
集束レンズ34の焦点距離をEFL(Effective Focal Length)とすると、距離Δsは、EFL×sinθで計算される。NC装置50は、レーザビームを予め設定した距離Δsだけ変位させるように、ガルバノスキャナユニット32によってレーザビームの光軸を角度θだけ傾斜させればよい。距離Δsは開口36aの半径未満の距離であり、好ましくは、開口36aの半径から所定の余裕量だけ引いた距離を最大距離とした最大距離以下の距離である。
【0040】
ガルバノスキャナユニット32によって板金Wへのレーザビームの照射位置を距離Δsだけ変位させると、厳密には、レーザビームの照射位置を変位させない状態で設定した板金Wの厚さ方向に対するビームウエストの位置がずれる。距離Δsは数十から数百マイクロメートルの距離であるので、ビームウエストの位置がずれることによって問題が発生することはほとんどない。ビームウエストの位置を調整する必要がある場合には、例えば、集束レンズ34をZ軸方向に変位させればよい。
【0041】
図7において、(a)は、加工ヘッド35の側面方向から見て、開口36aの中心から外側へと変位させたレーザビームによって板金Wにピアスを開ける動作を概念的に示し、(b)は、板金Wの上方から板金Wを見た状態を概念的に示している。
図7に示すように、アシストガスAGは板金Wへと周方向に均等に吹き付けられるものの、板金Wに照射されるレーザビームが変位しているため、溶融金属Wmeltはレーザビームが変位した方向に飛散する。
【0042】
図7の(a)においては、
図3Aと同様に板金Wの板厚が薄い場合を示しているが、板金Wの板厚が厚い場合も同様である。板金Wの板厚が厚く、溶融金属Wmeltの量が仮に製品200側に偏ったとしても、板金W上でレーザビームを変位させる距離Δsは溶融金属Wmeltの量が偏る距離よりも格段に大きいため、溶融金属Wmeltはレーザビームが変位した方向に飛散する。
【0043】
1またはそれ以上の実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法によれば、
図8に示すように、板金Wに、ピアス201の周囲の製品200とは反対側にスパッタSpを付着させ、製品200側にはスパッタSpをほとんど付着させないように制御することができる。よって、製品200の近くにピアス201を開けることができるので、
図4に示す隣接する製品200の間隔Dを狭くすることができる。その結果、1またはそれ以上の実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法によれば、歩留まりを向上させることが可能となる。
【0044】
また、1またはそれ以上の実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法によれば、スパッタSpがアプローチ202にほとんど付着しないので、アプローチ加工が安定し、加工不良を発生させるおそれを低減させることができる。
【0045】
次に、
図9に示すように、板金Wから図示のような矩形の4つの角部を切り落とした形状を有する製品210a〜210dが板取りされていて、レーザ加工機100が各製品210a〜210dを切断する場合を考える。製品210a〜210dそれぞれに対してピアス211及びアプローチ212が中央部の非製品領域に設定されている。
【0046】
図9においても、
図5Aまたは
図5Bと同様に、NC装置50は、ピアシング加工を施してピアス211を開ける際に、板金Wに照射するレーザビームの位置が開口36aの中心直下からアプローチ212に沿った方向の製品200から離れた側に変位するように制御してもよい。
【0047】
板金Wに照射するレーザビームの位置を変位させる方向は、アプローチ212に沿った方向に限定されない。加工プログラムに板金Wに照射するレーザビームの位置を変位させる角度方向を設定し、NC装置50が板金Wに照射するレーザビームの位置を開口36aの中心直下から設定された角度方向に変位させるように制御してもよい。
【0048】
図10A〜
図10Cを用いて、製品210dのピアス211を開ける場合を例として、レーザビームの位置を変位させる角度方向を設定する場合について説明する。角度は、時計回りにプラス、反時計回りにマイナスであるとする。ここでは、角度方向は−45度の方向であるとする。
【0049】
図10Aに示すように、加工プログラムによって、ピアス211を開ける位置は板金W上の座標(X10,Y10)に設定されている。レーザビームが板金Wに照射される位置がノズル36の開口36aの中心直下に位置しているとすれば、NC装置50は、開口36aの中心がピアス211の直上である座標(X10,Y10)に位置するように加工ヘッド35を位置させればよい。開口36aの中心が座標(X10,Y10)に位置すれば、開口36aの中心はピアス211を開ける位置の直上に位置する。
【0050】
1またはそれ以上の実施形態においては、
図10Bに示す第3の変位方法、または、
図10Cに示す第4の変位方法を採用することによって、開口36aから射出されるレーザビームの開口36a内の位置を、開口36aの中心から設定された角度方向に変位した位置へと変位させる。設定された角度方向とは、製品200より離れる角度方向である。第3の変位方法は第1の変位方法と同様に、加工プログラムによって設定されているピアス211の位置を維持させる変位方法である。第4の変位方法は第2の変位方法と同様に、加工プログラムによって設定されているピアス211の位置を維持しない変位方法である。
【0051】
第3の変位方法においては、
図10Bに示すように、NC装置50は、開口36aの中心が座標(X10,Y10)に対して−45度の角度方向の反対側である135度の角度方向に変位させた位置の直上となるように、加工ヘッド35を変位させる。これに加えて、NC装置50は、レーザビームが板金Wに照射される位置が座標(X10,Y10)となるように、ガルバノスキャナユニット32におけるスキャンミラー321または323の角度を変更する。結果として、レーザビームが板金Wに照射される位置は開口36aの中心直下ではなく、開口36aの中心直下から−45度の角度方向に離れた側に変位する。
【0052】
第4の変位方法においては、
図10Cに示すように、NC装置50は、開口36aの中心が座標(X10,Y10)に位置するように加工ヘッド35を位置させる。これに加えて、NC装置50は、レーザビームが板金Wに照射される位置が、座標(X10,Y10)から−45度の角度方向に離れた側に位置するように、ガルバノスキャナユニット32におけるスキャンミラー321または323の角度を変更する。結果として、レーザビームが板金Wに照射される位置は開口36aの中心直下ではなく、開口36aの中心直下から−45度の角度方向に離れた側に変位する。
【0053】
図10Cに示す第4の変位方法を採用すると、NC装置50が、ピアス211を開ける位置を変更し、ピアス211から当初設定されていたアプローチ212の途中まで新たにアプローチ213を設定するよう加工プログラムを修正する必要がある。よって、第4の変位方法よりも第3の変位方法の方が好ましい。なお、アプローチ212の製品210d側の端部からの長さが当初設定されていたアプローチ212の長さの1/2を超える位置で、アプローチ213と接続するのがよい。
【0054】
図9において、製品210a、210b、及び210cのピアス211を開ける際には、レーザビームが板金Wに照射される位置を開口36a内の中心から、それぞれ、135度、−135度、及び45度の角度方向に離れた側に変位させるのがよい。レーザビームを開口36aの中心から設定された角度方向に変位させる場合でも、各ピアスに対応する製品より離れる位置へと変位させればよい。
【0055】
加工プログラムに板金Wに照射するレーザビームの位置を変位させる角度方向を設定する代わりに、オペレータが操作部40を操作して角度方向を設定し、NC装置50が板金Wに照射するレーザビームの位置を変位させるように制御してもよい。
【0056】
図11に示すフローチャートを用いて、1またはそれ以上の実施形態のレーザ加工機による板金Wの加工動作、1またはそれ以上の実施形態のレーザ加工方法によって実行される板金Wの加工処理を説明する。
図11は、第1または第3の変位方法を採用した場合のフローチャートを示している。
【0057】
図11において、NC装置50は、板金Wの加工処理が開始されると、ステップS1にて、選択された加工条件に基づいて、加工条件を設定する。加工条件は、製品の外周を切断するときの加工条件に加えて、ピアシング加工条件を選択するための情報、及びアプローチ加工条件を選択するための情報を含む。加工条件は、加工ヘッド35の移動速度、レーザパワー、レーザビームの発振周波数及びデューティ、アシストガスのガス圧及びガスの種類、板金Wとノズル36との距離であるノズルギャップ等を含む。
【0058】
ピアシング加工条件は、レーザパワー、レーザビームの発振周波数及びデューティ、アシストガスのガス圧及びガスの種類、ノズルギャップ、ピアスを開ける時間等を含む。アプローチ加工条件は、加工ヘッド35の移動速度、レーザパワー、レーザビームの発振周波数及びデューティ、アシストガスのガス圧及びガスの種類、ノズルギャップ等を含む。
【0059】
NC装置50は、ステップS2にて、加工ヘッド35をピアス位置に対応する位置に位置決めし、ステップS3にて、加工ヘッド35を設定された距離だけ、
図5Bまたは
図10Bで説明したように製品側へと変位させる。設定された距離とは、レーザビームの板金Wへの照射位置を開口36aの中心直下から変位させる距離である。ステップS2とステップS3とを別々に実行しなくてもよい。即ち、所定の位置にある加工ヘッド35を、ピアス位置に対応する位置に一旦位置決めすることなく、ピアス位置に対応する位置から設定された距離だけ変位させた位置へと位置決めしてもよい。
【0060】
レーザビームの板金Wへの照射位置を開口36aの中心直下から変位させる距離は、開口36aの直径(ノズル径)が大きくなるほど長くすることが好ましい。変位させる距離は、例えば100μmのように具体的な数値で設定されていてもよいし、ノズル径の例えば10%のように割合で設定されていてもよい。
【0061】
NC装置50は、ステップS4にて、開口36aより射出されるレーザビームの開口36a内での位置を変位させるよう、ガルバノスキャナユニット32の基準の角度に設定されているスキャンミラー321または323の角度を変更する。
【0062】
NC装置50は、ステップS5にて、ピアシング加工条件に基づいて、ノズルギャップを設定し、アシストガスを吹き付けながらレーザビームを板金Wに照射して、ピアシング加工を施すようレーザ加工機100を制御する。NC装置50は、ステップS6にて、ピアシング加工が完了したか否かを判定する。NC装置50は、ピアシング加工が完了していなければ(NO)、ステップS5及びS6の処理を繰り返し、ピアシング加工が完了すれば(YES)、処理をステップS7へと移行させる。NC装置50は、ピアシング加工が完了したら、レーザビームの射出を一旦停止させてもよい。
【0063】
NC装置50は、ステップS7にて、加工ヘッド35をピアス位置に対応する位置に戻し、スキャンミラー321または323の角度を基準の角度に戻す。NC装置50は、ステップS8にて、アプローチ加工条件に基づいて、ノズルギャップを設定し、アシストガスを吹き付けながらレーザビームを板金Wに照射して、アプローチ加工を施すようレーザ加工機100を制御する。ステップS8におけるノズルギャップは、ステップS5におけるノズルギャップよりも格段に小さい距離である。なお、アプローチ加工に際しては、加工ヘッド35をビアス位置(光軸)へ戻しながら、並行してアプローチ加工の光軸移動を実施させることも可能である。
【0064】
NC装置50は、ステップS9にて、アプローチ加工が完了したか否かを判定する。NC装置50は、アプローチ加工が完了していなければ(NO)、ステップS8及びS9の処理を繰り返し、アプローチ加工が完了すれば(YES)、処理をステップS10へと移行させる。NC装置50は、アプローチ加工が完了したら、レーザビームの射出を一旦停止させてもよい。
【0065】
NC装置50は、ステップS10にて、加工条件に基づいて、ノズルギャップを設定し、アシストガスを吹き付けながらレーザビームを板金Wに照射して、製品の外周を切断するようレーザ加工機100を制御する。同様に、ステップS10におけるノズルギャップは、ステップS5におけるノズルギャップよりも格段に小さい距離である。
【0066】
NC装置50は、ステップS11にて、製品の外周切断が完了したか否かを判定する。NC装置50は、製品の外周切断が完了していなければ(NO)、ステップS10及びS11の処理を繰り返し、製品の外周切断が完了すれば(YES)、板金Wの加工処理を終了させる。
【0067】
図12、
図13A及び
図13B、
図14A及び
図14Bを用いて、本発明者が検証した、1またはそれ以上の実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法による効果を説明する。スパッタSpは板金Wにできるだけ狭い角度範囲で付着することが好ましい。また、スパッタSpはレーザビームを変位させた方向とできるだけ差が少ない方向に付着することが好ましい。
【0068】
図12に示すように、ピアス201または211の周囲にスパッタSpが付着しているとき、スパッタSpが扇状に広がる角度を広がり角度φ、レーザビームを変位させた方向と扇状に広がったスパッタSpの中央の角度方向との差を方向角度差Δφとする。広がり角度φ及び方向角度差Δφが小さいほど、溶融金属Wmeltが付着する方向を制御できているということになる。
【0069】
そこで、広がり角度φと広がり判定度との対応を
図13Aに示すよう規定する。一例として、広がり角度φが270度以上、180度以上270度未満、135度以上180度未満、90度以上135度未満、45度以上90度未満、45度未満をそれぞれ広がり判定度0、1、2、3、4、5とする。広がり判定度は大きいほどよい。
【0070】
方向角度差Δφと方向判定度との対応を
図13Bに示すよう規定する。一例として、方向角度差Δφが135度以上、90度以上135度未満、77.5度以上90度未満、45度以上77.5度未満、22.5度以上45度未満、22.5度未満をそれぞれ方向判定度0、1、2、3、4、5とする。方向判定度も大きいほどよい。
【0071】
図14A及び
図14Bにおいて、レーザビームを板金Wに照射する位置を、開口36aの中心直下の位置から変位させる距離を変位量とする。
図6で説明した距離Δsが変位量である。
図14A及び
図14Bの広がり判定度及び方向判定度は、3回のピアシング加工を行ったときの平均値を示している。
【0072】
図14Aは、ノズル径2mmのノズル36を用い、レーザパワーを4kwとして、板金Wとして板厚6mmのステンレス鋼にピアシング加工を施したときの、変位量と、広がり判定度、方向判定度、及び評価との関係を示している。
【0073】
図14Aに示すように、ノズル径2mmの場合には、変位量25μmまでは広がり判定度及び方向判定度が小さく、評価は「不可」である。変位量50μm〜100μmでは広がり判定度及び方向判定度がいずれも大きくなり、評価は「可」である。変位量150μm以上では、広がり判定度及び方向判定度がいずれも5または5に近い値であり、評価は「良好」である。ノズル径2mmのノズル36を用いる場合、変位量は50μm以上とすることが好ましく、150μm以上とすることがさらに好ましい。
【0074】
図14Bは、ノズル径3mmのノズル36を用い、
図14Aと同じ条件で板金Wにピアシング加工を施したときの、変位量と、広がり判定度、方向判定度、及び評価との関係を示している。
【0075】
図14Bに示すように、ノズル径3mmの場合には、変位量50μmまでは広がり判定度及び方向判定度がいずれも0であり、評価は「不可」である。変位量250μmでは広がり判定度及び方向判定度がいずれも大きくなり、評価は「可」である。変位量450μm及び650μmでは、広がり判定度が4前後の値、方向判定度が5であり、評価は「良好」である。ノズル径3mmのノズル36を用いる場合、変位量は250μm以上とすることが好ましく、450μm以上とすることがさらに好ましい。
【0076】
NC装置50は、レーザビームを板金Wに照射する位置を、開口36aの中心直下の位置から、ノズル径、ノズル36の形状、ピアシング加工時のノズルギャップ、アシストガスのガス圧等の条件に応じて最適に設定した変位量で変位させればよい。
【0077】
本発明は以上説明した1またはそれ以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。1またはそれ以上の実施形態においては、切断線の内側が製品であって切断線の外側にピアシング加工を施す場合を説明したが、製品の内側に穴を形成する場合には製品内側の切り落とす領域内にピアシング加工を施せばよい。この場合にも本発明を用いることができる。
【課題】アシストガスを板金に吹き付けながら板金にピアスを開けるピアシング加工を施す際に、ピアス周囲の製品側に付着する溶融金属の量を低減させるように溶融金属が付着する方向を制御することができるレーザ加工機を提供する。
【解決手段】加工ヘッド35の先端には、レーザビームを開口36aより射出するノズル36が装着されている。加工ヘッド35内に設けられた集束レンズ34は、レーザビームを集束させて板金に照射する。ビーム変位機構(ガルバノスキャナユニット32)は、開口36aより射出されるレーザビームの開口36a内での位置を変位させる。NC装置50は、アシストガスを板金に吹き付けながら、レーザビームによって製品の外部にピアシング加工を施すときに、開口36aから射出されるレーザビームの開口36a内の位置を、開口36aの中心から製品より離れる方向の位置へと変位させるようビーム変位機構を制御する。