特許第6538970号(P6538970)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6538970硫化物ガス濃度測定装置及び硫化物ガス濃度測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6538970
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】硫化物ガス濃度測定装置及び硫化物ガス濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/497 20060101AFI20190625BHJP
【FI】
   G01N33/497 A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-515334(P2018-515334)
(86)(22)【出願日】2017年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2017013137
(87)【国際公開番号】WO2018179195
(87)【国際公開日】20181004
【審査請求日】2018年3月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507130222
【氏名又は名称】株式会社ジェイ エム エス
(73)【特許権者】
【識別番号】518091624
【氏名又は名称】斎藤 純平
(74)【代理人】
【識別番号】100205350
【弁理士】
【氏名又は名称】狩野 芳正
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 純平
(72)【発明者】
【氏名】東出 和総
(72)【発明者】
【氏名】河本 健
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰道
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−538819(JP,A)
【文献】 特表2014−522973(JP,A)
【文献】 特表2000−506601(JP,A)
【文献】 特開2010−217016(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/200948(WO,A1)
【文献】 ZHANG, J. et al.,Exhaled Hydrogen Sulfide Predicts Airway Inflammation Phenotype in COPD,RESPIRATORY CARE,2015年,Vol.60 No.2,pp.251-258
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に装着され、前記被験者の呼気が導入される呼気採取具と、
前記呼気採取具から前記呼気を受け取る入口ポートを備える圧力レギュレータと、
前記圧力レギュレータの出口ポートに接続され、前記出口ポートから吐き出される前記呼気における硫化物ガスの濃度を測定する硫化物ガスセンサと、
前記圧力レギュレータの前記入口ポートにおける圧力を測定し、測定した前記圧力を前記被験者に知覚させるように構成された圧力測定器
とを具備し、
前記圧力測定器が、表示器を備えており、
前記表示器が、
測定された前記圧力を視覚的に示す表示要素と、
目標圧力又は目標圧力範囲を視覚的に示す標示
とを備え、
前記圧力レギュレータは、前記入口ポートの圧力が前記目標圧力である又は前記目標圧力範囲にある場合に、前記出口ポートの圧力を所定の設定圧力に保つように構成されている
硫化物ガス濃度測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の硫化物ガス濃度測定装置であって、
大気に解放されている外部出口ポートと、
ポンプと、
前記硫化物ガスセンサの前記呼気が排出される出口ポートを、前記外部出口ポートと前記ポンプのいずれかに選択的に接続するように構成された切替弁
を具備する
硫化物ガス濃度測定装置。
【請求項3】
請求項に記載の硫化物ガス濃度測定装置であって、
更に、
洗浄ガスを供給する洗浄ガス源に接続されており、且つ、前記硫化物ガスセンサの前記呼気が導入される入口ポートに接続可能に設けられた外部接続ポートと、
前記硫化物ガスセンサと前記ポンプと前記切替弁とを制御すると共に、前記外部接続ポートと前記硫化物ガスセンサの入口ポートとの接続を制御する制御装置
とを具備し、
前記制御装置は、前記呼気における硫化物ガスの濃度を測定する場合、前記外部接続ポートを前記硫化物ガスセンサの入口ポートから切り離し、前記硫化物ガスセンサの出口ポートを前記外部出口ポートに接続するように前記切替弁を設定し、前記ポンプを停止した状態で、前記硫化物ガスセンサに前記呼気における硫化物ガスの濃度を測定させ、
前記制御装置は、前記呼気における硫化物ガスの濃度の測定が終了した後、前記外部接続ポートを前記硫化物ガスセンサの入口ポートに接続し、前記硫化物ガスセンサの出口ポートを前記ポンプに接続するように前記切替弁を設定した状態で前記ポンプを動作させる
硫化物ガス濃度測定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の硫化物ガス濃度測定装置を用いる硫化物ガス濃度測定方法であって、
前記呼気採取具を被験者に装着するステップと、
前記圧力レギュレータの前記入口ポートの圧力を、前記圧力測定器によって測定するステップと、
測定した前記圧力を前記表示器の前記表示要素によって視覚を通じて前記被験者に知覚させながら、前記被験者の呼気を、前記呼気採取具を介して前記圧力レギュレータの前記入口ポートに導入するステップと、
前記圧力レギュレータによって前記出口ポートの圧力を前記所定の設定圧力に保ちながら、前記圧力レギュレータの出口ポートから吐き出される前記被験者の呼気を前記硫化物ガスセンサに導入するステップと、
前記硫化物ガスセンサによって前記被験者の呼気に含まれる硫化物ガスの濃度を測定するステップ
とを具備する
硫化物ガス濃度測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物ガス濃度測定装置及び硫化物ガス濃度測定方法に関し、特に、呼気に含まれる硫化物ガスの濃度を測定するために好適な硫化物ガス濃度測定装置及び硫化物ガス濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、呼気に含まれる硫化物ガス(例えば、硫化水素)の濃度が、肺疾患、例えば、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の診断のために有用な情報であることが判明してきている。例えば、J. Zhang et al. Correlation between levels of exhaled hydrogen sulfide and airway inflammatory phenotype in patients with chronic persistent asthma. Respirology. 28 August 2014; 19: 1165-1169.は、慢性喘息の患者の呼気中の硫化水素と、気道の慢性炎症との関係について議論している。また、J. Zhang et al. Exhaled Hydrogen Sulfide Predicts Airway Inflammation Phenotype in COPD. Respiratory Care. 29 January 2015; 60(2): 251-258.は、気道の炎症のマーカーとしての呼気中の硫化水素の役割、及び COPDの重症度との関係について議論している。更に、S. Yun et al. Exhaled hydrogen sulfide in patients with chronic obstructive pulmonary disease and its correlation with exhaled nitric oxide. Chinese Medical Journal 2013; 126 (17): 3240-3244. も、呼気中の硫化水素とCOPDとの関係について議論している。
【0003】
このような背景から、呼気に含まれる硫化物ガスの濃度を正確に測定するための技術が求められている。発明者の検討によれば、呼気に含まれる硫化物ガスの濃度の測定においては、下記の点に考慮すべきである。
【0004】
まず、呼気に含まれる硫化物ガスの濃度の測定においては、肺以外の組織において発生した硫化物ガスの呼気への混入を抑制することが望ましい。肺疾患を適正に診断するためには、肺における硫化物ガスの発生についての情報を得ることが重要である。その一方で、発明者の知見によれば、硫化物ガスは、肺以外の器官、例えば、鼻腔や胃等の器官においても発生し得る。よって、肺以外の組織において発生した硫化物ガスが呼気に混入することを抑制することは、肺疾患の診断において有用である。
【0005】
また、肺疾患の病態以外の要因による硫化物ガスの濃度の変動を抑制しながら呼気に含まれる硫化物ガスの濃度を測定することが望ましい。発明者の知見によれば、呼気に含まれる硫化物ガスの濃度は、肺疾患の病態のみならず、呼気を吐き出す流量にも依存する。このため、被験者が呼気を吐き出す流量の変動を抑制しながら呼気に含まれる硫化物ガスの濃度を測定することが望ましい。
【0006】
加えて、呼気に含まれる硫化物ガスの濃度の測定においては、取得した呼気に含まれる硫化物ガスの損失を抑制することが望ましい。呼気に含まれる硫化物ガスの濃度はそれほど高くない。その一方で、呼気における硫化物ガスの濃度は、吸着や分解によって時間経過と共に減少する。これは、肺疾患の診断のために有用な情報が失われることを意味する。
【0007】
呼気の硫化物ガスの濃度の測定においては、これら3つの要望の少なくとも1つが満たされることが望ましい。
【0008】
なお、呼気における硫化水素の濃度を検出する装置は、例えば、特表2014−522973号公報、特表2015−526732号公報、特表2015−526733号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2014−522973号公報
【特許文献2】特表2015−526732号公報
【特許文献3】特表2015−526733号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J. Zhang et al. Correlation between levels of exhaled hydrogen sulfide and airway inflammatory phenotype in patients with chronic persistent asthma. Respirology. 28 August 2014; 19: 1165-1169.
【非特許文献2】J. Zhang et al. Exhaled Hydrogen Sulfide Predicts Airway Inflammation Phenotype in COPD. Respiratory Care. 29 January 2015; 60(2): 251-258.
【非特許文献3】S. Yun et al. Exhaled hydrogen sulfide in patients with chronic obstructive pulmonary disease and its correlation with exhaled nitric oxide. Chinese Medical Journal 2013; 126 (17): 3240-3244.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、呼気の硫化物ガスの濃度の測定において、肺以外の組織において発生した硫化物ガスの呼気への混入の抑制、肺疾患の病態以外の要因による硫化物ガスの濃度の変動の抑制、及び、取得した呼気からの硫化物ガスの損失の抑制のうちの少なくとも一を実現することにある。本発明の他の目的及び新規な特徴は、以下の開示から当業者には理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施形態では、硫化物ガス濃度測定装置が、被験者に装着され、被験者の呼気が導入される呼気採取具と、呼気採取具が接続された入口ポートを備える圧力レギュレータと、圧力レギュレータの出口ポートに接続され、出口ポートから出力される呼気における硫化物ガスの濃度を測定する硫化物ガスセンサと、圧力レギュレータの入口ポートにおける圧力を測定し、測定した圧力を被験者に知覚させるように構成された圧力測定器とを具備する。
【0013】
他の実施形態では、硫化物ガス濃度測定方法が、圧力レギュレータの入口ポートに接続された呼気採取具を被験者に装着するステップと、圧力レギュレータの入口ポートの圧力を測定し、測定した圧力を被験者に知覚させながら、被験者の呼気を、呼気採取具を介して圧力レギュレータの入口ポートに導入するステップと、圧力レギュレータの出口ポートから吐き出される被験者の呼気を硫化物ガスセンサに導入するステップと、硫化物ガスセンサによって被験者の呼気に含まれる硫化物ガスの濃度を測定するステップとを具備する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、呼気の硫化物ガスの濃度の測定において、肺以外の組織において発生した硫化物ガスの呼気への混入の抑制、肺疾患の病態以外の要因による硫化物ガスの濃度の変動の抑制、及び、取得した呼気からの硫化物ガスの損失の抑制のうちの少なくとも一を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態における硫化物ガス濃度測定装置の構成を示すブロック図である。
図2】本実施形態の硫化物ガス濃度測定装置の使用方法を概念的に示す図である。
図3】呼気に含まれる硫化物ガスの濃度を測定する際における本実施形態の硫化物ガス濃度測定装置の動作を示すブロック図である。
図4】硫化物ガスセンサの校正を行う際における本実施形態の硫化物ガス測定装置の動作を示すブロック図である。
図5】硫化物ガスセンサの洗浄を行う際における本実施形態の硫化物ガス測定装置の動作を示すブロック図である。
図6】本実施形態において、呼気における硫化物ガスの濃度の測定の後、硫化物ガスセンサの洗浄を自動的に行うように構成された硫化物ガス濃度測定装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明の硫化物ガス濃度測定装置及び硫化物ガス濃度測定方法の実施形態を説明する。
【0017】
図1は、一実施形態における硫化物ガス濃度測定装置10の構成を示すブロック図である。硫化物ガス濃度測定装置10は、メインユニット1と、マウスピース2と、圧力計3とを備えている。以下に詳細に説明するように、硫化物ガス濃度測定装置10は、被験者の呼気の硫化物ガス(例えば、硫化水素)の濃度を測定するように構成されている。このとき、マウスピース2は、被験者に装着され、被験者の呼気を硫化物ガス濃度測定装置10に取り入れるための呼気採取具として用いられる。なお、マウスピース2の代わりに、マスクを用いてもよい。
【0018】
メインユニット1は、筐体1aを有しており、筐体1aには、圧力レギュレータ4と、硫化物ガスセンサ5と、三方弁6と、ポンプ7とが収容されている。
【0019】
圧力レギュレータ4は、入口ポート4aと、出口ポート4bとを有している。入口ポート4aは、呼気ライン2aを介してマウスピース2に接続されている。マウスピース2に導入された被験者の呼気は、圧力レギュレータ4の入口ポート4aに供給される。圧力レギュレータ4は、入口ポート4aで受け取った被験者の呼気を所定の設定圧力で出口ポート4bから吐き出すように構成されている。圧力レギュレータ4は、入口ポート4aにおける圧力(一次圧)が十分に大きければ、出口ポート4bの圧力(二次圧)を該設定圧力に調節することができるように構成される。このような動作は、圧力レギュレータの動作として一般的であることに留意されたい。圧力レギュレータ4の出口ポート4bは硫化物ガスセンサ5に接続されている。
【0020】
本実施形態では、圧力レギュレータ4が、更に、圧力測定ポート4cを有している。圧力測定ポート4cは、入口ポート4aに連通しており、圧力測定ポート4cの圧力は入口ポート4aの圧力と同一である。本実施形態では、圧力測定ポート4cは、圧力測定ライン3aを介して圧力計3に接続されている。本実施形態では、圧力測定ポート4cに接続された圧力計3が、圧力レギュレータ4の入口ポート4aの圧力を測定する圧力測定器として用いられる。
【0021】
硫化物ガスセンサ5は、圧力レギュレータ4の出口ポート4bから被験者の呼気を受け取り、被験者の呼気に含まれる硫化物ガスの濃度を測定する。一実施形態では、硫化物ガスセンサ5としては、定電位電界式センサが用いられ得る。他の実施形態では、硫化物ガスの種類を特定可能にするために(例えば、硫化水素と他の硫化物ガス(例えば、二酸化硫黄)の識別を可能にするために)、光吸収を用いてガス検出を行う光学式ガスセンサを用いてもよい。
【0022】
三方弁6は、1つの入口ポートと2つの出口ポートを有する切替弁として構成されている。三方弁6の入口ポートは、硫化物ガスセンサ5の出口ポートに接続されている。また、三方弁6の一方の出口ポートは、外部出口ポート11に接続され、他方の出口ポートはポンプ7に接続されている。外部出口ポート11は、大気に開放されている。三方弁6は、操作により、硫化物ガスセンサ5の出口ポートを、ポンプ7又は外部出口ポート11のいずれかに接続する。
【0023】
ポンプ7は、その入口ポートが三方弁6の出口ポートに接続され、出口ポートが外部出口ポート12に接続されている。外部出口ポート12は、大気に開放されている。後述のように、ポンプ7は、硫化物ガスセンサ5の校正において用いられる。
【0024】
なお、本実施形態では、入口ポート4aと連通する圧力測定ポート4cに圧力計3が接続され、圧力計3によって圧力レギュレータ4の入口ポート4aの圧力が測定されているが、圧力計3と入口ポート4aとの接続は、様々に変更可能である。例えば、圧力計3が、呼気ライン2aに接続されてもよい。
【0025】
続いて、本実施形態の硫化物ガス濃度測定装置10の動作について説明する。
【0026】
本実施形態の硫化物ガス濃度測定装置10は、呼気に含まれる硫化物ガス(例えば、硫化水素)の濃度を測定するために用いられる。上述のように、呼気に含まれる硫化物ガスの濃度は、肺疾患、例えば、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の診断のために有用な情報であり、以下に述べられるように、本実施形態の硫化物ガス濃度測定装置10は、肺疾患の診断に適した手法によって被験者の呼気に含まれる硫化物ガスの濃度を測定する。
【0027】
図2は、被験者の呼気に含まれる硫化物ガスの濃度を測定するときの硫化物ガス濃度測定装置10の使用方法を概念的に示す図であり、図3は、硫化物ガスの濃度を測定するときの硫化物ガス濃度測定装置10の動作を示すブロック図である。被験者の呼気に含まれる硫化物ガスの濃度を測定する場合、三方弁6により、硫化物ガスセンサ5の出口ポートが外部出口ポート11に接続される。ポンプ7は、動作させる必要はない。
【0028】
図2に図示されているように、ある被験者20の呼気の硫化物ガスの濃度を測定する場合、被験者20にマウスピース2を装着してもらい、被験者20に呼気をマウスピース2に吹き込むように求める。
【0029】
被験者20が呼気をマウスピース2に吹き込む際、圧力計3によって測定された圧力を被験者20に知覚させ、圧力計3が示す圧力が、特定の目標圧力(例えば、1.5kPa)になるように調節しながら、又は、特定の目標圧力範囲(例えば、1.5kPaを中心とする特定の圧力範囲)になるように呼気を吹き込むように被験者20に求める。例えば、圧力計3の表示器3bを被験者20に見せ、圧力計3が示す圧力が目標圧力になるように、又は、目標圧力範囲になるように調節しながらマウスピース2に呼気を吹き込むように求めてもよい。圧力計3によって測定される圧力は圧力レギュレータ4の入口ポート4aの圧力であるから、このような操作により、入口ポート4aの圧力は、目標圧力又は目標圧力範囲の少なくとも近傍に調節されることになる。目標圧力又は目標圧力範囲は、圧力レギュレータ4が出口ポート4bの圧力を所定の設定圧力に調節するために十分であるように決められる。
【0030】
マウスピース2に吹き込まれた被験者20の呼気は、圧力レギュレータ4の入口ポート4aに導入され、更に、設定圧力に減圧されて出口ポート4bから吐き出され、更に、圧力レギュレータ4の出口ポート4bから圧力レギュレータ4に設定された設定圧力で硫化物ガスセンサ5の入口ポートに導入される。入口ポート4aの圧力が十分に高ければ、圧力レギュレータ4は、出口ポート4bの圧力を所定の設定圧力に保つことができる。硫化物ガスセンサ5は、圧力レギュレータ4の出口ポート4bから被験者20の呼気を受け入れ、呼気に含まれる硫化物ガスの濃度を測定する。硫化物ガスの濃度が測定された呼気は、硫化物ガスセンサ5の出口ポートから排出され、更に、三方弁6及び外部出口ポート11を介して外部に排出される。
【0031】
圧力計3によって測定された圧力を被験者20に知覚させながら、マウスピース2に呼気を吹き込むように求める操作は、肺以外の組織において発生した硫化物ガスの呼気への混入を抑制するために有効である。肺の気管と口とを結ぶ経路は、通常の状態では、鼻腔や胃に通じるように開口している。この状態では、鼻腔や胃で発生した硫化物ガスが呼気に混入し得る。しかしながら、圧力計3によって測定された圧力を、目標圧力又は目標圧力範囲に保つように被験者20に求めることで、鼻腔や胃に通じる開口を閉じながら呼気をマウスピース2に導入することができる。圧力計3によって測定された圧力をある程度高い圧力に保つためには、被験者20は、呼気を吐き出すためにある程度の力を加える必要がある。被験者20が呼気を吐き出すためにある程度の力を加えると、被験者20の体内では、肺の気管と口とを結ぶ経路に存在する鼻腔や胃に通じる開口が閉じる。これにより、肺以外の組織において発生した硫化物ガスの呼気への混入を抑制することができる。圧力レギュレータ4の入口ポート4aの圧力を圧力計3で測定する本実施形態の硫化物ガス濃度測定装置10の構成は、上記のような操作により肺以外の組織において発生した硫化物ガスの呼気への混入を抑制するために好適である。
【0032】
圧力計3によって測定された圧力を被験者20に知覚させながら、マウスピース2に呼気を吹き込むように求める操作は、被験者20が呼気を吐き出す流量の変動を抑制し、肺疾患の診断のために有用な情報を得るためにも有効である。上記のように、呼気に含まれる硫化物ガスの濃度は、被験者20が呼気を吐き出す流量に依存する。圧力計3が示す圧力が特定圧力になるように調節しながら呼気を吐き出すように被験者20に求めながら硫化物ガスの濃度を測定することで、呼気を吐き出す流量の変動の影響を抑制することができる。圧力レギュレータ4の入口ポート4aの圧力を圧力計3で測定する本実施形態の硫化物ガス濃度測定装置10の構成は、呼気を吐き出す流量の変動の影響を抑制するために好適である。
【0033】
加えて、本実施形態の硫化物ガス濃度測定装置10では、その場で(in-situ)、被験者20の呼気に含まれる硫化物ガスの濃度を、肺疾患の診断のために十分な精度で測定することができる。硫化物ガスセンサ5による硫化物ガスの濃度の検知の精度を向上するためには、検知対象のガスが一定の流量で硫化物ガスセンサ5に流入してくることが望ましい。ここで、本実施形態では、圧力レギュレータ4の作用により、出口ポート4bの圧力、即ち、硫化物ガスセンサ5の入口ポートの圧力がほぼ一定に保たれるので、硫化物ガスセンサ5には概ね一定の流量で被験者の呼気が流れ込む。よって、本実施形態の構成によれば、その場で、肺疾患の診断のために十分な精度で被験者20の呼気に含まれる硫化物ガスの濃度を測定することができる。
【0034】
その場で被験者20の呼気に含まれる硫化物ガスの濃度を測定可能であることは、取得した呼気からの硫化物ガスの損失を抑制するために有効である。上述のように、呼気における硫化物ガスの濃度は、吸着や分解によって時間経過と共に減少する。例えば、呼気をバッグに吹き込み、バッグに蓄積された呼気に含まれる硫化物ガスの濃度を測定するシステムでは、硫化物ガスがバッグに吸着され、硫化物ガスの濃度が低下する。これは、肺疾患の診断のために有用な情報が失われることを意味し、好ましくない。本実施形態の硫化物ガス濃度測定装置10は、その場で硫化物ガスの濃度の測定を行うことを可能であり、取得した呼気からの硫化物ガスの損失を抑制することができる。
【0035】
圧力計3によって測定された圧力を被験者20に知覚させるためには、様々な手法が用いられ得る。圧力計3によって測定された圧力を、視覚を通じて被験者20に知覚させてもよいし、聴覚を通じて(例えば、圧力に応じた音を発生して)被験者20に知覚させてもよい。一実施形態では、圧力計3の表示器3bを被験者20に見せてもよい。この場合、表示器3bが、測定した圧力を視覚的に示す表示要素3c(例えば、指針(indicator))と、目標圧力を示す標示(marking)3d、及び/又は、目標圧力範囲を示す標示3eとを有していてもよい。ここで、表示要素3c及び標示3d、3eは、いずれも、視覚的に知覚可能であるように構成される。この場合、表示要素3cの位置が、目標圧力を示す標示3d又は目標圧力範囲を示す標示3eの位置に合うように調節しながら、呼気をマウスピース2に吹き込むように、被験者20に求めてもよい。
【0036】
ポンプ7は、硫化物ガスセンサ5の校正や洗浄に用いられる。
【0037】
図4は、硫化物ガスセンサ5の校正を行う場合における、本実施形態の硫化物ガス濃度測定装置10の動作を示すブロック図である。硫化物ガスセンサ5の校正を行う場合、三方弁6が、硫化物ガスセンサ5の出口ポートをポンプ7に接続するように設定される。更に、硫化物ガスセンサ5の入口ポートが、圧力レギュレータ4の出口ポート4bから切り離され、校正ガスを供給するガス源(図示されない)に接続される。
【0038】
校正を行う場合、ポンプ7が一定流量でガスを吸引するように動作され、更に、既知の濃度で硫化物ガスを含んでいる校正ガスが硫化物ガスセンサ5の入口ポートに導入される。硫化物ガスセンサ5の出口ポートに接続されたポンプ7は、一定流量でガスを吸引するように動作しているので、結果として、硫化物ガスは、一定流量で硫化物ガスセンサ5に導入される。この状態で、硫化物ガスセンサ5は、校正ガスに含まれる硫化物ガスの濃度を測定する。校正ガスについて測定された硫化物ガスの濃度を用いて硫化物ガスセンサ5が校正される。
【0039】
図5は、硫化物ガスセンサ5の洗浄を行う場合における、本実施形態の硫化物ガス濃度測定装置10の動作を示すブロック図である。硫化物ガスセンサ5の洗浄を行う場合も、三方弁6が、硫化物ガスセンサ5の出口ポートをポンプ7に接続するように設定される。
【0040】
洗浄を行う場合、ポンプ7を動作させた状況で、洗浄ガスがマウスピース2に導入される。これにより、洗浄ガスが、呼気ライン2a、圧力レギュレータ4を介して硫化物ガスセンサ5の入口ポートに導入される。ポンプ7が動作しているので、硫化物ガスセンサ5の内部を洗浄した洗浄ガスは、硫化物ガスセンサ5の出口ポートからポンプ7によって吸引され、外部出口ポート12から排出される。このような操作により、マウスピース2から硫化物ガスセンサ5の入口ポートに到達する経路、及び、硫化物ガスセンサ5の内部を洗浄することができる。
【0041】
硫化物ガス濃度測定装置10は、呼気における硫化物ガスの濃度の測定の後、硫化物ガスセンサ5の洗浄を自動的に行うように構成されてもよい。図6は、このように構成された硫化物ガス濃度測定装置10の構成を示すブロック図である。図6の構成では、図1の圧力レギュレータ4の代わりに、圧力レギュレータ14が設けられ、更に、メインユニット1に、外部接続ポート13とシーケンサ15とが設けられる。シーケンサ15は、圧力計3が測定する圧力をモニタすると共に、硫化物ガスセンサ5、三方弁6、ポンプ7及び圧力レギュレータ14を制御する制御装置として用いられる。
【0042】
圧力レギュレータ14は、入口ポート4a、出口ポート4b、圧力測定ポート4cに加え、ガス導入ポート4dを備えている。ガス導入ポート4dは、外部接続ポート13に接続されている。外部接続ポート13は、洗浄ガスを供給する洗浄ガス源(図示されない)に接続される。
【0043】
図6の構成の硫化物ガス濃度測定装置10は、下記のように動作する。呼気の測定を開始する場合、シーケンサ15は、被験者にマウスピース2に呼気を吹き込むように催す光学的又は音響的出力を出力する。このとき、シーケンサ15は、硫化物ガスセンサ5の出力ポートを外部出力ポート11に接続するように三方弁6を設定し、圧力レギュレータ14のガス導入ポート4dを閉鎖する。このとき、シーケンサ15は、ポンプ7の動作を停止する。圧力計3によって測定された圧力から、被験者がマウスピース2に呼気を吹き込んだことを検出すると、シーケンサ15は、硫化物ガスセンサ5を呼気に含まれる硫化物ガスの濃度を測定するように制御する。
【0044】
呼気に含まれる硫化物ガスの濃度の測定を終了すると、シーケンサ15は、硫化物ガスセンサ5の洗浄のための動作を行う。シーケンサ15は、圧力レギュレータ14を、ガス導入ポート4dが出口ポート4bに連通するように設定する。これにより、洗浄ガス源に接続された外部接続ポート13が硫化物ガスセンサ5の入口ポートに連通する。更に、シーケンサ15は、硫化物ガスセンサ5の出力ポートをポンプ7に接続するように三方弁6を設定し、更にポンプ7を動作させる。これにより、洗浄ガスが、外部接続ポート13から圧力レギュレータ14を介して硫化物ガスセンサ5に導入される。これにより、硫化物ガスセンサ5の内部、及び、硫化物ガスセンサ5の入口ポートに接続されているラインを洗浄することができる。
【0045】
なお、圧力レギュレータ14がガス導入ポート4dを備える代わりに、圧力レギュレータ14と硫化物ガスセンサ5とを接続するラインに、シーケンサ15によって制御される三方弁(切替弁)が設けられてもよい。この場合、該三方弁は、硫化物ガスセンサ5の入力ポートを、シーケンサ15による制御の下、圧力レギュレータ14の出口ポート4bと外部接続ポート13のいずれかに接続する。呼気の硫化物ガスの濃度を測定する場合、該三方弁は、硫化物ガスセンサ5の入力ポートを圧力レギュレータ14の出口ポート4bに接続する。一方、硫化物ガスセンサ5の洗浄を行う場合、該三方弁は、硫化物ガスセンサ5の入力ポートを、洗浄ガス源に接続された外部接続ポート13に接続する。
【0046】
以上には、本発明の硫化物ガス濃度測定装置の実施形態が具体的に開示されているが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものと解釈してはならない。本発明は、様々な変更とともに実施され得ることは、当業者には自明的であろう。
【符号の説明】
【0047】
1 :メインユニット
1a :筐体
2 :マウスピース
2a :呼気ライン
3 :圧力計
3a :圧力測定ライン
3b :表示器
3c :表示要素
3d、3e :標示
4 :圧力レギュレータ
4a :入口ポート
4b :出口ポート
4c :圧力測定ポート
4d :ガス導入ポート
5 :硫化物ガスセンサ
6 :三方弁
7 :ポンプ
10 :硫化物ガス濃度測定装置
11、12:外部出口ポート
13 :外部接続ポート
14 :圧力レギュレータ
15 :シーケンサ
20 :被験者
図1
図2
図3
図4
図5
図6