(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記動力制御部は、前記変更部が前記糸の状態を変更する間、前記糸の張力が前記張力基準範囲に収まるように前記送り動力部及び前記引き取り動力部の少なくとも一方を制御する、
請求項6に記載の糸状態変更装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワインディングの際に糸の欠陥を除去することにより、糸の品質を向上することができる。ここで、スラブキャッチャは、糸が切断されていること及び糸の太さが所定値以上の場合であることを検出することはできる。しかしながら、例えば、糸が切れてはいないものの細くなっているような場合等は検知することが難しい。このように、ワインディング時に糸の状態を変更する技術には改良の余地があると考えられる。
【0005】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、ワインディング時に糸の状態を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、糸状態変更装置である。この装置は、糸を送り出す送り動力部と、前記送り動力部が送り出した糸を引き取る引き取り動力部と、前記送り動力部と前記引き取り動力部との間に配置され、前記送り動力部と前記引き取り動力部との間を移動する糸の太さに関する状態を検出する状態検出部と、前記状態検出部と前記引き取り動力部との間に配置され、前記糸の太さに関する状態を変更する変更部と、を備える。
【0007】
前記状態検出部は、前記送り動力部と前記引き取り動力部との間を移動する糸の太さが所定の太さ基準範囲を外れる箇所を検出してもよく、前記変更部は、前記状態検出部が検出した箇所における前記糸の状態を変更してもよい。
【0008】
前記変更部は、前記糸において、前記状態検出部が検出した箇所に対して前記送り動力部側に存在する第1の箇所を把持する第1把持部と、前記糸において、前記状態検出部が検出した箇所に対して前記引き取り動力部側に存在する第2の箇所を把持する第2把持部と、前記第1の箇所を含み前記送り動力部側にある糸と、前記第2の箇所を含み前記引き取り動力部側にある糸とを交差させ、少なくとも前記状態検出部が検出した箇所を含む糸を切断する切断部と、前記切断部による切断の後に前記交差した部分の糸を結合する結合部と、を備えてもよい。
【0009】
前記変更部は、両端に前記第1把持部及び前記第2把持部が設けられた棒状部材と、前記棒状部材に接続され、前記第1把持部及び前記第2把持部が前記糸を把持した状態で、前記棒状部材を引き下げかつ回転させる変更部回転モータと、を備えてもよい。
【0010】
前記変更部は、前記棒状部材の回転軸上に取り付けられ、斜めに溝が形成されたスクリューシャフトと、前記変更部回転モータに取り付けられ、前記スクリューシャフトの前記溝と噛み合うように配置された歯車とを含んでもよく、前記スクリューシャフトは、前記変更部回転モータの動力による前記歯車の回転に伴い、前記棒状部材を回転させつつ引き下げてもよい。
【0011】
前記糸状態変更装置は、前記送り動力部と前記引き取り動力部との間を移動する糸の張力を検出する張力検出部と、前記糸の張力が所定の張力基準範囲に収まるように、前記送り動力部及び前記引き取り動力部の少なくとも一方の動作を制御する動力制御部と、をさらに備えてもよい。
【0012】
前記動力制御部は、前記変更部が前記糸の状態を変更する間、前記糸の張力が前記張力基準範囲に収まるように前記送り動力部及び前記引き取り動力部の少なくとも一方を制御してもよい。
【0013】
本発明の第2の態様は、上述の糸状態変更装置と、前記糸状態変更装置を通った糸を原料として衣類を製造する編み機と、を備える衣類製造システムである。このシステムにおいて、前記糸状態変更装置は、前記糸状態変更装置が糸の状態を変更している間、前記衣類の製造を中断する。
【0014】
前記編み機は、前記衣類の製造するための編成データを取得するデータ取得部と、前記糸状態変更装置が前記糸の状態を変更するために参照する糸の張力に関する基準範囲及び糸の太さに関する基準範囲を、前記編成データ毎に糸状態変更装置に設定する設定部と、をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ワインディング時に糸の状態を向上させる技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施の形態の概要>
図1は、実施の形態に係るワインダーシステムWを説明するための図である。実施の形態に係るワインダーシステムWは、糸状態変更装置1、給糸用ボビン2、及びワインダ3を備える。
【0018】
糸状態変更装置1は、給糸用ボビン2とワインダ3との間に配置される。糸状態変更装置1は、給糸用ボビン2から引き出された糸Tの不具合箇所を修正し、ワインダ3によって巻き取られる糸Tの状態を安定化する。
【0019】
ここで「糸の不具合箇所」とは、給糸用ボビン2から引き出された糸Tのうち、「糸結び箇所」、「毛羽が多量な箇所」、「糸が極端に太い箇所」、又は「糸が極端に細い箇所」を意味する。また、「糸の安定化」とは、糸の不具合箇所を切断し、糸Tの太さを均一に近づけることをいう。
【0020】
このため、糸状態変更装置1は、給糸用ボビン2から引き出されてワインダ3によって巻き取られるまでの間の糸Tの太さに関する状態を検出する。糸状態変更装置1は、糸Tのうち、太さが所定の基準範囲から外れる箇所の状態を均一な状態となるように変更する。これにより、実施の形態に係る糸状態変更装置1は、給糸用ボビン2の糸Tの状態を、編み、撚り、及び織りに適した安定した状態に改変することができる。
【0021】
<糸状態変更装置1の構成>
図1に示すように、糸状態変更装置1は、送り動力部10、引き取り動力部11、状態検出部12、変更部13、給糸テンションコントローラ14、張力検出部15、及び動力制御部16を含む。
【0022】
送り動力部10は、例えば既知のモータである。送り動力部10は、給糸用ボビン2に巻かれた糸Tを送り出す。引き取り動力部11も、送り動力部10と同様に、例えば既知のモータである。引き取り動力部11は、送り動力部10が送り出した糸Tを引き取る。
【0023】
状態検出部12は、送り動力部10と引き取り動力部11との間に配置される。状態検出部12は、例えば既知の光学式二次元寸法測定装置であり、送り動力部10と引き取り動力部11との間を移動する糸Tの太さに関する状態を検出する。より具体的には、状態検出部12は、送り動力部10と状態検出部12との間を移動する糸Tの太さが所定の太さ基準範囲を外れる箇所を検出する。
【0024】
変更部13は、状態検出部12と引き取り動力部11との間に配置される。変更部13は、糸Tの太さに関する状態を変更する。より具体的には、変更部13は、状態検出部12が検出した基準範囲を外れる箇所における糸Tの状態を変更する。これにより、糸状態変更装置1は、糸Tの太さが基準範囲を超える箇所(例えば、糸Tの結び目や多量の毛羽)や、基準範囲を下回る箇所(例えば、繊維の撚りが少なく細い箇所)を取り除くことができる。
【0025】
給糸テンションコントローラ14は、送り動力部10が給糸用ボビン2から引き出す糸Tの張力が所定の範囲となるように糸Tの張力を制御する装置である。また、糸状態変更装置1は、送り動力部10と引き取り動力部11との間を移動する糸Tの張力を検出する張力検出部15も備える。張力検出部15が検出した糸Tの張力は、動力制御部16に出力される。動力制御部16は、糸Tの張力が所定の張力基準範囲に収まるように送り動力部10及び引き取り動力部11の少なくとも一方の動作を制御する。
【0026】
例えば、張力検出部15が検出した糸Tの張力が張力基準範囲を下回る場合、動力制御部16は、送り動力部10による糸Tの送り出し量が、引き取り動力部11による糸Tの引き取り量よりも相対的に下回るように、送り動力部10及び引き取り動力部11の少なくとも一方の動作を制御する。これにより、張力検出部15は、糸Tの張力を大きくすることができる。張力検出部15が糸Tの張力を張力基準範囲内に収めることにより、状態検出部12が糸Tの太さに関する状態を検出する際の条件を均一に近づけることができる。結果として、状態検出部12による糸Tの太さに関する状態の検出精度を高めることができる。
【0027】
なお、張力検出部15が検出した糸Tの張力が張力基準範囲を上回る場合、動力制御部16は、送り動力部10による糸Tの送り出し量が、引き取り動力部11による糸Tの引き取り量よりも相対的に上回るように、送り動力部10及び引き取り動力部11の少なくとも一方の動作を制御してもよい。これにより、張力検出部15は、糸Tの張力を小さくすることができる。
【0028】
図2は、実施の形態に係る状態検出部12による糸Tの太さの計測結果を模式的に示す図である。
図1に示すように、状態検出部12は、送り動力部10と引き取り動力部11との間を移動する糸Tの太さを計測する。
図2に示すグラフは、状態検出部12が計測した糸Tの太さの時間変化を示している。すなわち、
図2に示すグラフにおいて、横軸は時間を示し縦軸は糸Tの太さを示す。
【0029】
図2に示すグラフにおいて、格子状のハッチングで示す領域は糸Tの太さが正常であることを示す範囲であり、上述した「太さ基準範囲」である。変更部13は、糸Tの太さが太さ基準範囲から外れる場合、その個所を切断した上で結合する。この意味で、「太さ基準範囲」は、変更部13が糸Tの状態を変更するか否かを決定するために参照する、状態変更有無決定範囲ということもできる。
【0030】
図2に示すグラフにおいて、斜線のハッチングで示す領域は、糸Tが毛羽だっていることを示す「毛羽検出領域」である。糸Tが毛羽だっていても、糸Tの太さが太さ基準範囲に収まることもある。したがって、変更部13は、糸Tの太さが毛羽検出領域に入る場合、糸Tが多量に毛羽だっていると判定する。
【0031】
糸状態変更装置1の使用者は、糸Tの太さが毛羽検出領域に入る場合に変更部13に切断及び結合を実施させるか否かを設定したり、毛羽検出領域の範囲を任意に変更したりすることができる。これは例えば動力制御部16の表示部(不図示)に糸状態変更装置1の動作設定のパラメータを変更するためのGUI(Graphical User Interface)を表示させ、使用者がGUIを介してパラメータを変更することで実現できる。
【0032】
図2に示すグラフにおいて、円C1で示す箇所は、糸Tの太さが太さ基準範囲を下回る箇所、すなわち、糸Tの太さが足りない個所を示している。また、円C2、円C3、及び円C4で示す箇所は、糸Tの結び目(ノッター)である。限定はしないが、変更部13は、糸Tの太さが1500マイクロメートルを超える場合、糸Tの結び目と判定する。
【0033】
続いて、変更部13による糸Tの状態変更処理についてより詳細に説明する。
図3(a)−(d)は、実施の形態に係る変更部13による状態変更処理を説明するための図である。
図3(a)に示すように、実施の形態に係る変更部13は、糸Tを掴んで引き下げるための第1把持部130及び第2把持部131を備えている。
【0034】
図3(a)中、破線の円Vで囲まれた形状は、第2把持部131を視点Eから見た場合の形状を示している。
図3(a)に示すように、第2把持部131はフック状の構造を有しており、糸Tをひっかけることができる。図示はしないが、第1把持部130も第2把持部131と同様の構造を有している。
図3(a)に示す例では、変更部13は、点線で示す位置にあった糸Tを、実線で示す位置まで引き下げている。
【0035】
第1把持部130は、糸Tにおいて、状態検出部12が検出した箇所に対し送り動力部10側に存在する第1の箇所を把持する。一方、第2把持部131は、糸Tにおいて、状態検出部12が検出した箇所に対して引き取り動力部11側に存在する第2の箇所を把持する。
図3(a)−(d)においては、状態検出部12が検出した箇所として結び目Nが例示されている。
【0036】
第1把持部130と第2把持部131とは、それぞれ棒状部材132の両端に接続している。変更部13は、棒状部材132の長手方向の中央部を回転中心として回動することができる。具体的には、変更部13は変更部回転モータ133を備えており、変更部回転モータ133の回転駆動力によって棒状部材132を回動させることができる。
図3(a)−(d)に示す例では、棒状部材132の回転軸上に結び目Nが存在するように、変更部13は糸Tを把持している。なお、変更部回転モータ133は、動力制御部16が出力する制御信号にしたがって動作する。
【0037】
図3(b)は、変更部回転モータ133が棒状部材132を半回転させた場合の様子を示す図である。
図3(b)に示すように、変更部回転モータ133が棒状部材132を半回転させた結果、第1把持部130が把持した第1の箇所を含み、かつ送り動力部10側にある糸Tと、第2把持部131が把持した第2の箇所を含み、かつ引き取り動力部11側にある糸とは、点Xにおいて交差する。
【0038】
以上のように、
図3(a)に示す糸の引き下げ動作と、
図3(b)に示す棒状部材132の回転動作(糸を交差させる動作)との組み合わせにより、結び目Nを迅速に適切な位置に誘導し、後続する糸Tの切断・結合すなわち結び目Nの除去工程を迅速かつ正確に行うことができる。なお、本実施の形態では、糸の引き下げ(
図3(a))の後に糸を交差(
図3(b))させる例について説明したが、糸を交差させてから引き下げることも可能であるし、後述の変形例のように両者(引き下げ・交差)を同時に行ってもよい。
【0039】
図3(c)に示すように、変更部13は切断部134を備えている。切断部134は、糸Tを点Xにおいて交差させた状態で、少なくとも状態検出部12が検出した箇所である結び目Nを含む糸Tを切断する。さらに、変更部13は結合部135も備えている。結合部135は、切断部134による糸Tの切断の後に、点Xにおいて交差した部分を含む糸Tを結合する。変更部13が備える切断部134及び結合部135は、既知のスプライサを用いることで実現できる。
【0040】
図3(d)に示すように、切断部134が糸Tを切断することにより、結び目Nを含む糸Tが切断され除去される。結合部135が糸Tの切断個所を結合することにより、糸Tは再び連続する一本の糸となる。これにより、糸状態変更装置1は、糸Tの状態を安定化する(すなわち、糸Tの太さを均一に近づける)ことができる。
【0041】
上述したように、動力制御部16は、糸Tの張力が所定の張力基準範囲に収まるように糸Tの張力を制御する。特に、変更部13が糸Tを交差させる場合には、糸Tが緩まないようにするために、動力制御部16は、送り動力部10、引き取り動力部11、及び変更部回転モータ133を協働させることが要求される。そこで、動力制御部16は、変更部13が糸Tの状態を変更する間、糸Tの張力が張力基準範囲に収まるように送り動力部10及び引き取り動力部11の少なくとも一方を制御する。
【0042】
図4(a)−(d)は、変更部13が糸Tの状態を変更する間における糸状態変更装置1の動作を説明するための図である。具体的には、
図4(a)は、変更部13が糸Tの状態を変更する間における糸Tの張力の変化を模式的に示すグラフである。
図4(b)−(d)は、それぞれ、引き取り動力部11、送り動力部10、及び変更部回転モータ133の動作を示すタイミングチャートである。なお、図示はしないが、ワインダ3の動作と引き取り動力部11の動作とは連動している。
【0043】
図4(a)−(d)において、時刻T1より前は、送り動力部10と引き取り動力部11とはともに動作している。このため、送り動力部10によって引き出された給糸用ボビン2の糸Tは、ワインダ3によって巻かれている。
【0044】
時刻T1のとき、状態検出部12が検出した糸Tの太さが太さ基準範囲から外れた。このため動力制御部16は、時刻T1において、状態検出部12が検出した個所が変更部13の中心となるように、送り動力部10及び引き取り動力部11の制御(送り動力部10による糸Tの送り出し量及び引き取り動力部11による糸Tの引き取り量のうち少なくとも一方の変更。)を開始した。この結果、時刻T2において、状態検出部12が検出した個所が変更部13の中心となったため、動力制御部16は、引き取り動力部11の動作を停止した。なお、
図4(a)中、斜線で示す領域は上述した張力基準範囲である。
【0045】
時刻T2において、動力制御部16は引き取り動力部11の動作を停止するとともに、変更部回転モータ133に回動を開始させる。時刻T3に至るまでは送り動力部10は停止しないので糸Tに緩みが生じることになる。これにより、変更部回転モータ133が回動しても糸Tの張力が上昇することを抑制できる。
【0046】
時刻T3において変更部回転モータ133の回動が停止すると同時に、変更部13により糸Tの状態が変更される。動力制御部16は、糸Tの状態が変更される時刻T3において、送り動力部10を停止させるとともに、停止していた引き取り動力部11を再び作動させる。これにより、変更部13による糸Tの変更処理で発生した糸Tの緩みを取ることができる。
【0047】
時刻T4において糸Tの緩みが解消したため、動力制御部16は、停止していた送り動力部10を再び作動させる。これにより、糸状態変更装置1は、時刻T1から時刻T4に至るまでの間糸Tの巻き取り作業を中断し、変更部13に糸Tの不具合部分を修正させることができる。また、糸状態変更装置1は、時刻T4以降は、糸Tの巻き取り動作を継続することができる。
【0048】
<衣類製造システム>
以上、給糸用ボビン2に巻かれた糸Tの状態を安定化させる糸状態変更装置1について説明した。ここで、糸状態変更装置1は、糸Tを用いて衣類を製造するための装置の前処理として、糸Tの状態を安定化してもよい。以下では、糸状態変更装置1と、糸状態変更装置1を通った糸Tを原料として衣類を製造する編み機とを備える衣類製造システムについて説明する。
【0049】
図5は、実施の形態に係る衣類製造システムSの概要を説明するための図である。実施の形態に係る衣類製造システムSは、編み機5と、
図1に示す糸状態変更装置1とを備える。編み機5は、糸状態変更装置1を通った糸を原料として衣類を製造する。限定はしないが、一例として、編み機5は、製品を一着丸ごと立体的に編み上げることができる無縫製編み機である。この場合、糸Tは、構造タンパク質からなる繊維であってもよい。
【0050】
編み機5は、糸Tのうち衣類の製造に適さない不具合部分を除去することで安定化した糸Tを用いて製品を製造することができる。このため、編み機5は、製造する製品の品質及び歩留まりを向上することができる。
【0051】
編み機5は、編み機5における衣類製造処理を制御するための制御部50を備えている。制御部50は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサであり、図示しない記憶部に記憶されたプログラムを実行することによって、中断部51、データ取得部52、及び設定部53として機能する。
【0052】
中断部51は、編み機5による衣類製造処理の中断及び再開を制御する。
図4を参照して上述したように、時刻T1から時刻T4に至るまでの間は、糸Tの巻き取り作業が中断される。したがって、糸状態変更装置1から編み機5への糸の供給も中断することになる。
【0053】
そこで、中断部51は、糸状態変更装置1が糸Tの状態を変更している間、衣類の製造を中断する。これは、中断部51が動力制御部16から、糸Tの状態変更作業の開始信号及び終了信号を受け取ることで実現できる。糸状態変更装置1と編み機5とを連動することにより、糸Tの状態を安定化と衣類製造との両立を円滑に実現することができる。
【0054】
ここで、編み機5が製造する製品は多岐にわたり、それぞれ原料の種類やサイズも異なる。このため、編み機5が製品を製造するために糸Tに求められる太さ基準範囲も製品によって異なる。結果として、糸状態変更装置1に設定すべき張力基準範囲も製品によって異なる。
【0055】
そこで、データ取得部52は、製品を製造するための編成データを記憶部から取得する。設定部53は、糸状態変更装置1が糸Tの状態を変更するために参照する糸の張力に関する基準範囲及び糸の太さに関する基準範囲を、データ取得部52が取得した編成データ毎に糸状態変更装置1に設定する。これにより、糸状態変更装置1は、編み機5が製造する製品が要求する品質の糸Tを編み機5に供給することができる。
【0056】
図6は、実施の形態に係るデータ取得部52及び設定部53が参照する編成データデータベースのデータ構造を模式的に示す図である。編成データデータベースは編み機5の記憶部に格納されている。
【0057】
編み機5が製品を製造するための編成データには、各編成データを一意に特定するための編成データ識別子が割り当てられている。
図6に示すように、編成データデータベースは、編成データ識別子毎に、編成データの本体である編成データファイルのファイル名、張力基準範囲、及び太さ基準範囲を対応付けて記憶している。
【0058】
ここで、太さ基準範囲は、編成データを参照して製品を製造するために必要な糸Tの太さの範囲を示す。また、張力基準範囲は、糸Tの太さを測定する際の糸Tの張力を定める。
図6は、編成データ識別子がNID01234である編成データに関するデータ構造である。編成データ識別子がNID01234である編成データのデータファイル名は「NID01234.dat」であり、供給すべき糸Tの太さ基準範囲はdddマイクロメートルからcccマイクロメートル、張力基準範囲はbbbセンチニュートンからaaaセンチニュートンである。
【0059】
設定部53は、編成データデータベースから読み出した太さ基準範囲及び張力基準範囲を糸状態変更装置1に設定する。これにより、編み機5は、製造する製品の仕様にあった糸Tの供給を受けることができる。
【0060】
<糸状態変更装置1が奏する効果>
以上説明したように、実施の形態に係る糸状態変更装置1によれば、ワインディング時に糸の状態を向上させる技術を提供することができる。特に、状態検出部12が、糸Tの太さが所定の太さ基準範囲を外れる箇所を検出することにより、糸Tにおいて基準よりも太い箇所のみならず、基準よりも細い箇所を特定することができる。
【0061】
糸Tにおいて、多量毛羽や、結び目Nといった繊維の不良箇所は、編み機5において針に引っかかったり、絡まったりすることの原因となる。編み機5において糸Tが針に引っかかったり、絡まったりすると、張力負荷等によって糸切れや糸外れの原因となり、編み地に「ほつれ」を生み出すことにつながる。さらに、編み機5において糸Tが針に引っかかったり、絡まったりすると、編み針の曲がりや折れ等、編み機5自体の損傷にもつながりかねない。
【0062】
実施の形態に係る糸状態変更装置1は、糸Tにおける多量毛羽、結び目N、極端に細い箇所を除去することにより、糸Tを編み、撚り、(織り)に適した安定した繊維に改変することができる。また、編み機5の損傷も抑制することができる。
【0063】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の分散・統合の具体的な実施の形態は、以上の実施の形態に限られず、その全部又は一部について、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を合わせ持つ。
【0064】
<変形例>
上記では、変更部13が第1把持部130と第2把持部131を用いて糸Tを引き下げる場合について説明したが、変更部13の構成はこれに限られない。例えば、変更部13は、斜めに溝が切られたスクリューシャフトを用いて糸の引き下げを実現してもよい。以下、このような場合について説明する。
【0065】
図7(a)−(b)は、実施の形態の変形例に係る変更部13を模式的に示す図である。変形例に係る変更部13は、第1把持部130、第2把持部131、棒状部材132、変更部回転モータ133、スクリューシャフト136、及び歯車137を備える。
【0066】
変形例に係る第1把持部130は、実施の形態に係る第1把持部130とは形状が異なる。具体的には、変形例に係る第1把持部130は、中央部がくぼんだ円柱形状をしており、くぼみに糸Tをひっかけて巻き付ける。しかしながら、実施の形態に係る第1把持部130と、変形例に係る第1把持部130との機能は変わらない。変形例に係る第2把持部131についても同様である。
【0067】
第1把持部130は、糸Tにおいて、状態検出部12が検出した箇所に対し送り動力部10側に存在する第1の箇所と接触する。一方、第2把持部131は、糸Tにおいて、状態検出部12が検出した箇所に対して引き取り動力部11側に存在する第2の箇所をと接触する。
【0068】
スクリューシャフト136は、棒状部材132の回転軸上に取り付けられており、斜めに溝が切られた表面を持つ。歯車137は、変更部回転モータ133に取り付けられ、スクリューシャフト136の溝と噛み合うように配置されている。変形例に係る変更部13は、変更部回転モータ133の動力を歯車137用いてスクリューシャフト136に伝達することにより、スクリューシャフト136を回転させる。これにより、回転した溝のピッチの分だけスクリューシャフト136が移動する。
図7(a)はスクリューシャフト136の移動開始前の状態を示す図であり、
図7(b)は、スクリューシャフト136の移動中の様子を示す図である。
【0069】
変形例に係る変更部13においては、スクリューシャフト136は、変更部回転モータ133の動力による歯車137の回転に伴い、棒状部材132を回転させつつ引き下げる。このため、実施の形態に係る変更部における、糸Tの引き下げ工程(
図3(a)及び
図3(b)に示す工程)を一工程で実現することができる。