特許第6539018号(P6539018)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6539018樹脂結合炭素質ブラシおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6539018
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】樹脂結合炭素質ブラシおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 13/00 20060101AFI20190625BHJP
   H01R 39/26 20060101ALI20190625BHJP
   H01R 43/12 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
   H02K13/00 P
   H01R39/26
   H01R43/12
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-89272(P2014-89272)
(22)【出願日】2014年4月23日
(65)【公開番号】特開2015-208199(P2015-208199A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2016年12月20日
【審判番号】不服2018-5224(P2018-5224/J1)
【審判請求日】2018年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】592026174
【氏名又は名称】東炭化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】香川 佳一
(72)【発明者】
【氏名】白川 秀則
【合議体】
【審判長】 佐々木 芳枝
【審判官】 柿崎 拓
【審判官】 久保 竜一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/190822(WO,A1)
【文献】 特開2003−134740(JP,A)
【文献】 特開平1−295642(JP,A)
【文献】 特開昭55−53155(JP,A)
【文献】 特開2012−178967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 13/00
H01R 39/26,43/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素粉を含むとともに炭素化されていない樹脂による結合のみを含む炭素質材料と
前記炭素質材料の粒子間に配置される金属粉とを含み、
前記炭素質材料の平均粒径は0.3mm以上であり、
前記炭素質材料および前記金属粉の全体に対する前記金属粉の割合が1重量%以上30重量%以下である、樹脂結合炭素質ブラシ。
【請求項2】
前記炭素質材料の平均粒径は2.5mm以下である、請求項1記載の樹脂結合炭素質ブラシ。
【請求項3】
前記金属粉は、銀粉である、請求項1または2記載の樹脂結合炭素質ブラシ。
【請求項4】
前記炭素質材料の粒子間に配置される金属粉により金属層が形成され、前記金属層の厚みは1μm以上20μm以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂結合炭素質ブラシ。
【請求項5】
炭素粉および樹脂を混合することにより炭素質材料を作製する工程と、
作製された炭素質材料の平均粒径を0.3mm以上に調整する工程と、
平均粒径が調整された炭素質材料と金属粉とを混合することによりブラシ材料を作製する工程と、
作製されたブラシ材料を成形する工程と、
炭素質材料に含まれる樹脂が炭化しない温度で、成形されたブラシ材料に熱処理を行うことによって炭素質材料中の樹脂を結合させる工程とを備え、
炭素質材料と金属粉とを混合する工程において、炭素質材料および金属粉の全体に対する金属粉の割合を1重量%以上30重量%以下に調整する、樹脂結合炭素質ブラシの製造方法。
【請求項6】
前記ブラシ材料を作製する工程は、前記炭素質材料の樹脂が未硬化の状態で行われる、請求項5記載の樹脂結合炭素質ブラシの製造方法。
【請求項7】
前記ブラシ材料を作製する工程において、前記金属粉の平均粒径は、0.5μm以上20μm以下である、請求項5または6記載の樹脂結合炭素質ブラシの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂結合炭素質ブラシおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータのブラシとして、炭素を含みかつ樹脂結合(レジンボンド)によって成形される樹脂結合炭素質ブラシがある(例えば、特許文献1参照)。樹脂結合炭素質ブラシは適度な柔軟性を有し、回転体(ロータ)に対する滑り性が高い。そのため、樹脂結合炭素質ブラシと回転体との間で生じる摩擦音は比較的小さく、樹脂結合炭素質ブラシを用いることによりモータの静音化が可能となる。一般家庭で用いられるような静音性が求められる電気機器のモータに、樹脂結合炭素質ブラシが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−50276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂結合炭素質ブラシは樹脂の含有量が多いので、電気抵抗率が比較的高い。モータの出力を上げるために、樹脂結合炭素質ブラシの電気抵抗率を低くすることが求められる。
【0005】
本発明の目的は、電気抵抗率が低下された樹脂結合炭素質ブラシおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)第1の発明に係る樹脂結合炭素質ブラシは、炭素粉を含むとともに炭素化されていない樹脂による結合のみを含む炭素質材料と炭素質材料の粒子間に配置される金属粉とを含み、炭素質材料の平均粒径は0.3mm以上であり、炭素質材料および金属粉の全体に対する金属粉の割合が1重量%以上30重量%以下である。
【0007】
この樹脂結合炭素質ブラシにおいては、炭素質材料の粒子間に金属粉が配置されることにより導電性が高まり、電気抵抗率が低くなる。この場合、炭素質材料の平均粒径が0.3mm以上であるので、炭素質材料の粒子間において、金属粉が分散的でなく集中的に配置される。それにより、金属による3次元的な網状のつながりが形成される。その結果、効果的に電気抵抗率が低下される。
【0008】
また、炭素質材料および金属粉の全体に対する金属粉の割合が1重量%以上であるので、金属粉による導電性が十分に確保される。さらに、炭素質材料および金属粉の全体に対する金属粉の割合が30重量%以下であるので、炭素質材料の粒子間における結合力の低下が防止される。
【0009】
(2)炭素質材料の平均粒径は2.5mm以下であってもよい。この場合、電気抵抗率を低下させつつ樹脂結合炭素質ブラシの成形を容易に行うことができる。
【0010】
(3)金属粉は、銀粉であってもよい。この場合、金属粉の酸化が抑制されるとともに、本来的に電気抵抗率が低い銀が用いられることにより、効果的に電気抵抗率が低下される。
【0011】
(4)炭素質材料の粒子間に配置される金属粉により金属層が形成され、金属層の厚みは1μm以上20μm以下であってもよい。この場合、金属層により3次元的な金属のつながりが形成されるため、効果的に電気抵抗率が低下される。
【0012】
(5)第2の発明に係る樹脂結合炭素質ブラシの製造方法は、炭素粉および樹脂を混合することにより炭素質材料を作製する工程と、作製された炭素質材料の平均粒径を0.3mm以上に調整する工程と、平均粒径が調整された炭素質材料と金属粉とを混合することによりブラシ材料を作製する工程と、作製されたブラシ材料を成形する工程と、炭素質材料に含まれる樹脂が炭化しない温度で、成形されたブラシ材料に熱処理を行うことによって炭素質材料中の樹脂を結合させる工程とを備え、炭素質材料と金属粉とを混合する工程において、炭素質材料および金属粉の全体に対する金属粉の割合を1重量%以上30重量%以下に調整する。
【0013】
この製造方法によれば、炭素質材料の粒子間に金属粉が配置されることにより導電性が高まり、電気抵抗が低減される。この場合、炭素質材料の平均粒径が0.3mm以上であるので、炭素質材料の粒子間において、金属粉が分散的でなく集中的に配置される。それにより、金属による3次元的な網状のつながりが形成される。その結果、効果的に電気抵抗率が低減される。
【0014】
また、炭素質材料および金属粉の全体に対する金属粉の割合が1重量%以上であるので、金属粉による導電性が十分に確保される。さらに、炭素質材料および金属粉の全体に対する金属粉の割合が30重量%以下であるので、炭素質粒子間における結合力の低下が防止される。
【0015】
(6)ブラシ材料を作製する工程は、炭素質材料の樹脂が未硬化の状態で行われてもよい。この場合、炭素質材料に金属粉が付着しやすくなるので、金属による3次元的な網状のつながりを効率良く形成することができる。
【0016】
(7)ブラシ材料を作製する工程において、金属粉の平均粒径は、0.5μm以上20μm以下であってもよい。この場合、金属による3次元的な網状のつながりにより効果的に電気抵抗率が低下される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、樹脂結合炭素質ブラシの電気抵抗率が低下される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施の形態に係る樹脂結合炭素質ブラシを用いた交流モータの模式的斜視図である。
図2】炭素質材料の平均粒径と電気抵抗率との関係を説明するための図である。
図3】顕微鏡により観察される実施例1の炭素質粒子の表面を示す図である。
図4】顕微鏡により観察される実施例2の炭素質粒子の表面を示す図である。
図5】顕微鏡により観察される実施例3の炭素質粒子の表面を示す図である。
図6】顕微鏡により観察される比較例1の炭素質粒子の表面を示す図である。
図7】顕微鏡により観察される実施例1のブラシ基材の切断面を示す図である。
図8】顕微鏡により観察される実施例2のブラシ基材の切断面を示す図である。
図9】顕微鏡により観察される実施例3のブラシ基材の切断面を示す図である。
図10】第1のモータにおける測定結果を示す図である。
図11】第2のモータにおける測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態に係る樹脂結合炭素質ブラシについて図面を参照しながら説明する。
【0020】
(1)ブラシの構成
図1は、本実施の形態に係る樹脂結合炭素質ブラシ(以下、ブラシと略記する)を用いた交流モータの模式的斜視図である。図1の交流モータ10は、ブラシ1および回転体2を含む。回転体2は整流子であり、回転軸Gの周りで回転可能に設けられる。ブラシ1にはリード線4が接続される。ブラシ1の一端が回転体2の外周面に接触するように、図示しないブラシスプリングによりブラシ1が付勢される。図示しない電源からリード線4を介してブラシ1に電流が供給される。その電流がブラシ1から回転体2に供給されることにより、回転体2が回転軸Gの周りで回転する。回転体2が回転することにより、ブラシ1が回転体2に対して摺動する。
【0021】
なお、本実施の形態では、交流モータ10にブラシ1が用いられるが、これに限らず、直流モータにブラシ1が用いられてもよい。
【0022】
(2)ブラシの製造方法
ブラシ1の製造方法について説明する。まず、炭素粉およびバインダーを混練することにより炭素質材料を作製する。炭素粉としては、黒鉛粉を用いることが好ましい。黒鉛粉としては、天然黒鉛粉、人造黒鉛粉または膨張黒鉛粉等を用いることができ、これらのうち複数を混合して用いてもよい。バインダーとしては、合成樹脂を用いることができ、熱硬化性合成樹脂または熱可塑性合成樹脂のいずれを用いてもよく、またはこれらを混合して用いてもよい。
【0023】
バインダーとして、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フラン樹脂、ポリアミド樹脂、またはポリイミド樹脂を用いることが好ましい。また、これらのバインダーがアセトン等のケトン類、またはメタノールもしくはエタノール等のアルコール類等の溶媒に溶解され、その溶解液が炭素粉と混練されてもよい。
【0024】
炭素粉およびバインダーの総量に対する炭素粉の割合は、例えば5重量%以上95重量%以下であり、50重量%以上90重量%以下であることが好ましい。
【0025】
炭素粉およびバインダーの混練時に、タングステン、タングステンカーバイト、モリブデンおよびこれらの硫化物のうち1種類または複数種類を添加剤として加えてもよい。炭素粉およびバインダーの総量に対する添加剤の割合は、例えば、0.1重量%以上10重量%以下であり、1重量%以上5重量%以下であることが好ましい。
【0026】
次に、炭素質材料の平均粒径が0.3mm以上となるように、炭素質材料の造粒を行う。この場合、混練により造粒を行ってもよく、または造粒粉を篩を用いて整粒してもよい。あるいは、炭素質材料を粉砕する等の他の方法により造粒を行ってもよい。造粒後の炭素質材料の平均粒径は0.3mm以上2.5mm以下であることが好ましく、0.8mm以上2.0mm以下であることがより好ましい。
【0027】
次に、造粒後の炭素質材料と金属粉とを混合することによりブラシ材料を作製する。ブラシ材料の総量に対する金属粉の割合は、1重量%以上30重量%以下に調整され、2.5重量%以上10重量%以下であることが好ましい。金属粉としては、例えば、銀粉または銅粉が用いられる。金属粉として銀粉が用いられる場合、銀粉の見かけ密度は0.5g/cm以上0.8g/cm以下であることが好ましい。また、金属粉の平均粒径が小さいほど、金属による3次元的な網状のつながり(以下、金属のネットワークと呼ぶ)を形成しやすくなる。一方、金属粉の平均粒径が小さすぎると、金属粉の取り扱いが困難となる。そこで、金属粉の平均粒径は、0.5μm以上20μm以下であることが好ましく、2μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0028】
炭素質材料と金属粉とを混合する際には、炭素質材料に含まれる樹脂が未硬化の状態であることが好ましい。未硬化の樹脂には金属粉が付着しやすいので、炭素質材料の表面に均一に金属粉を付着させることができる。それにより、金属のネットワークを効率よく形成することができる。また、樹脂が未硬化の状態でかつバインダーの溶媒が残存する状態で炭素質材料と金属粉とを混合してもよい。
【0029】
次に、作製されたブラシ材料を加圧成形する。続いて、成形後のブラシ材料に対して、樹脂が炭化されない温度で熱処理を行う。これにより、ブラシ材料中の樹脂が硬化および結合され、樹脂結合質のブラシ基材が作製される。熱処理の温度は、ブラシ材料中の樹脂が炭素化されない温度であり、例えば150℃以上250℃以下である。熱処理は、窒素雰囲気下、アンモニア還元雰囲気下、または真空下で行われることが好ましい。この場合、金属粉の酸化を抑制することができる。作製されたブラシ基材から所望の寸法および形状を有するブラシ1を作製する。
【0030】
図2は、炭素質材料の平均粒径と電気抵抗率との関係を説明するための図である。図2(a)には、炭素質材料の平均粒径が比較的小さい場合の炭素質材料の粒子および金属粒子の状態が示される。図2(b)には、炭素質材料の粒径が比較的大きい場合の炭素質材料の粒子および金属粒子の状態が示される。以下、造粒後の炭素質材料の粒子を炭素質粒子と呼ぶ。
【0031】
炭素質材料の平均粒径が0.3mmより小さく例えば約0.1mmである場合、図2(a)に示すように、複数の炭素質粒子P1および複数の金属粒子P2がそれぞれ分散的に配置される。そのため、複数の金属粒子P2が互いに接触しにくくなり、ブラシ1の電気抵抗率が高くなる。
【0032】
一方、炭素質材料の平均粒径が0.3mm以上である場合、図2(b)に示すように、複数の炭素質粒子P1間に形成される隙間に複数の金属粒子P2が集中的にかつ連続的に配置され、金属のネットワークが形成される。これにより、複数の金属粒子P2による導電性が確保され、ブラシ1の電気抵抗率が低くなる。
【0033】
複数の炭素質粒子P1間において金属粒子P2により形成される金属層の厚みは、1μm以上20μm以下であることが好ましい。この場合、金属のネットワークにより効果的に電気抵抗率が低下される。
【0034】
また、炭素質材料の平均粒径が2.5mmより大きく調整された場合、ブラシ1の成形が困難となる。そのため、炭素質材料の平均粒径が2.5mm以下に調整されることにより、ブラシ1の電気抵抗率を低下させつつブラシ1の成形を容易に行うことが可能となる。
【0035】
また、ブラシ材料中の金属粉の割合が、1重量%以上に調整されるので、複数金属粒子P2による導電性が確保される。一方、ブラシ材料中の金属粉の割合が、30重量%以下に調整されるので、炭素質粒子P1の表面全体が金属粒子P2によって覆われることがない。そのため、複数の炭素質粒子P1間における結合力の低下が防止される。したがって、ブラシ1の曲げ強さが確保される。また、金属の割合が大きくなり過ぎないので、摺動特性への悪影響を防止することができる。
【0036】
ブラシ1の電気抵抗率を低くするため、炭素質材料に金属粉が添加される代わりに、ブラシ1の表面に金属めっき(例えば、銅めっき)が行われることが考えられる。しかしながら、めっき層の厚みの違いによりブラシ1の電気抵抗率にばらつきが生じやすい。また、めっき層の剥離が生じると、ブラシ1の電気抵抗率が大きく変化する。そのため、状況によってはブラシ1の電気抵抗率が安定しなくなる虞がある。
【0037】
それに対して、本実施の形態では、加圧成形および熱処理の前に、炭素質材料の平均粒径およびブラシ材料中の金属粉の割合が一定範囲に調整されるので、ブラシ1の電気抵抗率にばらつきが生じにくい。また、ブラシ1の電気抵抗率が大きく変化することもほとんどない。さらに、導電性の高い部分がブラシ1の表面に偏在することがないので、炭素質材料による電気抵抗率の変動が小さくなる。したがって、電気抵抗率を効果的に低下させることができる。
【0038】
(3)効果
このように、本実施の形態では、炭素質材料の平均粒径が0.3mm以上となるように炭素質材料が造粒された後、炭素質材料と金属粉とが混合される。その後、炭素質材料および金属粉からなるブラシ材料の加圧成形および熱処理が行われる。
【0039】
これにより、炭素質材料の粒子間に金属粉が配置されるので、導電性が高まり、電気抵抗率が低くなる。この場合、炭素質材料の平均粒径が0.3mm以上であるので、炭素質材料の粒子間において、金属粉が分散的でなく集中的に配置される。それにより、効果的に電気抵抗率が低くなる。
【0040】
また、本実施の形態では、炭素質材料および金属粉の全体に対する金属粉の割合が1重量%以上に調整されるので、金属粉による導電性が十分に確保される。さらに、炭素質材料および金属粉の全体に対する金属粉の割合が30重量%以下に調整されるので、炭素質材料の粒子間における結合力の低下が防止される。したがって、ブラシ1の曲げ強さ等の機械的な強度が確保される。
【0041】
(4)実施例および比較例
(4−1)実施例1
結晶度が高い人造黒鉛粉を炭素粉として用い、アセトンに溶解されたエポキシ樹脂をバインダーとして炭素粉に加え、これらを常温で混練することにより炭素質材料を作製した。混練前の炭素粉の平均粒径は50μmであった。また、80重量部の炭素粉に対して20重量部のエポキシ樹脂を用いた。
【0042】
続いて、混練によって炭素質材料の造粒を行い、篩を用いて炭素質材料の平均粒径が0.8mmとなるように粒径調整を行った。粒径調整後の炭素質材料に5.6μmの平均粒径を有する銀粉を加え、これらを粉体混合機により混合することによりブラシ材料を作製した。この場合、ブラシ材料中の炭素質材料の割合が97.5重量%となり、金属粉の割合が2.5重量%となるように、炭素質材料および金属粉の量を調整した。作製されたブラシ材料を2t/cmの圧力で加圧成形し、成形後のブラシ材料に200℃で熱処理を行うことにより、ブラシ基材を作製した。
【0043】
(4−2)実施例2
ブラシ材料中の炭素質材料および金属粉の割合をそれぞれ95.0重量%および5.0重量%に調整した点を除いて、実施例1と同様にブラシ基材を作製した。
【0044】
(4−3)実施例3
ブラシ材料中の炭素質材料および金属粉の割合をそれぞれ90.0重量%および10.0重量%に調整した点を除いて、実施例1と同様にブラシ基材を作製した。
【0045】
(4−4)実施例4
平均粒径が2.0mmとなるように炭素質材料の粒径調整を行った点を除いて、実施例1と同様にブラシ基材を作製した。
【0046】
(4−5)実施例5
平均粒径が1.5mmとなるように炭素質材料の粒径調整を行った点を除いて、実施例1と同様にブラシ基材を作製した。
【0047】
(4−6)実施例6
平均粒径が1.0mmとなるように炭素質材料の粒径調整を行った点を除いて、実施例1と同様にブラシ基材を作製した。
【0048】
(4−7)実施例7
平均粒径が0.5mmとなるように炭素質材料の粒径調整を行った点を除いて、実施例1と同様にブラシ基材を作製した。
【0049】
(4−8)比較例1
以下の点を除いて、実施例1と同様にブラシ基材を作製した。炭素粉とバインダーとを混練することにより炭素質材料を作製した後、熱風乾燥機により炭素質材料を乾燥させ、粉砕機により平均粒径が0.25mmとなるように炭素質材料を粉砕した。その後、銀粉を加えることなく炭素質材料の加圧成形および熱処理を行うことによりブラシ基材を作製した。
【0050】
(4−9)比較例2
湿式造粒機により平均粒径が0.8mmとなるように炭素質材料の粒径調整を行った点を除いて、比較例1と同様にブラシ基材を作製した。
【0051】
(4−10)比較例3
炭素質材料および金属粉の割合がそれぞれ97.5重量%および2.5重量%となるように炭素質材料に銀粉を加えた点を除いて、比較例1と同様にブラシ基材を作製した。
【0052】
(5)評価
(5−1)炭素質材料の粒子表面
実施例1〜3および比較例1において、加圧成形前の炭素質粒子の表面を顕微鏡により観察した。図3は、顕微鏡により観察される実施例1の炭素質粒子の表面を示す図である。図4は、顕微鏡により観察される実施例2の炭素質粒子の表面を示す図である。図5は、顕微鏡により観察される実施例3の炭素質粒子の表面を示す図である。図6は、顕微鏡により観察される比較例1の炭素質粒子の表面を示す図である。
【0053】
図3図5に示すように、実施例1〜3では、炭素質粒子の表面にほぼ均一に銀粉が付着している。そのため、これらの炭素質材料(ブラシ材料)に加圧成形および熱処理が行われることによりブラシ1が作製された場合、複数の炭素質粒子間に銀粉が集中的に配置され、ブラシ1の電気抵抗率が低下される。
【0054】
また、図3に示される実施例1に比べて、図4に示される実施例2では、炭素質材料の粒子表面に付着する銀粉の量が多い。さらに、図4に示される実施例2に比べて、図5に示される実施例3では、炭素質材料の粒子表面に付着する銀粉の量が多い。そのため、実施例1に対応するブラシ1の電気抵抗率に比べて実施例2に対応するブラシ1の電気抵抗率が低くなり、実施例2に対応するブラシ1の電気抵抗率に比べて実施例3に対応するブラシ1の電気抵抗率が低くなる。
【0055】
一方、図6に示すように、比較例1では、炭素質材料の粒子表面に銀粉が付着していない。そのため、この炭素質材料に加圧成形および熱処理が行われることによりブラシ1が作製されても、ブラシ1の電気抵抗率が低くならない。
【0056】
(5−2)切断面
実施例1〜3において、作製されたブラシ基材の切断面を顕微鏡により観察した。図7は、顕微鏡により観察される実施例1のブラシ基材の切断面を示す図であり、図8は、顕微鏡により観察される実施例2のブラシ基材の切断面を示す図であり、図9は、顕微鏡により観察される実施例3のブラシ基材の切断面を示す図である。
【0057】
図7図9に示すように、実施例1〜3では、炭素質材料の複数の粒子間に銀粉が集中的に配置されることがわかった。特に、図9の実施例3においては、線状に延びるように銀粉が配置されることが明確に視認される。
【0058】
(5−3)かさ密度、硬度、抵抗率および曲げ強さ
実施例1〜7および比較例1〜3で作製されたブラシ基材から6×6×42mmの寸法を有する棒状の試験片を作製し、その試験片のかさ密度、硬度、曲げ強さおよび電気抵抗率を測定した。硬度は、ショア硬度計のC型を用いて測定した。
【0059】
表1には、実施例1〜7および比較例1〜3における銀の含有率および炭素質材料の平均粒径が示されるとともに、これらのかさ密度、硬度、曲げ強さおよび電気抵抗率の測定結果が示される。
【0060】
【表1】
表1に示すように、比較例1および比較例2に比べて、実施例1〜7における電気抵抗率は低い。これにより、銀粉および炭素質材料を含むブラシ材料からブラシ基材が作製されることにより、炭素質材料のみからブラシ基材が作製される場合に比べて、電気抵抗率が低くなることがわかった。また、比較例3に比べて、実施例1〜7における電気抵抗率は低い。これにより、炭素質材料の平均粒径が0.3mm以上であることにより、炭素質材料の平均粒径が0.3mmより小さい場合に比べて、電気抵抗率が低くなることがわかった。さらに、実施例1よりも実施例2における電気抵抗率が低く、実施例2よりも実施例3における電気抵抗率が低い。これにより、炭素質材料の平均粒径が同じである場合には、銀の含有率が高いほど、電気抵抗率が低くなることがわかった。
【0061】
また、銀の含有率が同じである実施例1および実施例4〜7に関して、炭素質材料の平均粒径が0.5mm以上2.0mm以下の範囲で異なっても、電気抵抗率に大きな差はなかった。
【0062】
また、実施例1〜7における曲げ強さは、12.3MPa以上14.5MPa以下の範囲内であり、図1のモータ10に用いるブラシ1の曲げ強さとして適正な範囲にあることがわかった。なお、かさ密度および硬度に関しては、実施例1〜7と比較例1〜3との間に大きな差はなかった。
【0063】
(5−4)モータの効率
実施例1〜7および比較例1〜3で作製されたブラシ基材から6.1×9×20mmの寸法を有するブラシ1を作製し、そのブラシ1を掃除機のモータ10で使用し、モータ効率を測定した。ここで、モータ効率とは、モータ10に入力される電気エネルギーに対するモータ10で出力される機械エネルギーの比率である。ブラシ1の電気抵抗率が低いほど、モータ効率は高い。モータ効率の測定は、DIN(ドイツ工業規格)44959「掃除機吸い込み仕事率測定方法」に準じて行った。
【0064】
本測定では、2台のモータ10を用いた。一方のモータ10(以下、第1のモータ10と呼ぶ)では、実施例1〜3、比較例1および比較例2に対応するブラシ1を使用し、ブラシ基材中の銀の含有率とモータ効率との関係を調べた。他方のモータ10(以下、第2のモータ10と呼ぶ)では、実施例4〜7、比較例1および比較例3に対応するブラシ1を使用し、炭素質材料の平均粒径とモータ効率との関係を調べた。いずれのモータ10に関しても、定格電圧および電源電圧は100Vであり、周波数は60Hzであり、ブラシ1から回転体2(図1)に加わる圧力は40KPaであった。また、吸い込み口絞り径を19mmとした。また、モータ10の動作が安定するまで20分間のエージングを行った後に、モータ効率の測定を行った。
【0065】
図10は、第1のモータ10における測定結果を示す図である。図11は、第2のモータ10における測定結果を示す図である。図10(a)および図11(a)には、測定されたモータ効率が示される。図10(b)および図11(b)には、比較例1に対応するブラシ1を使用した場合のモータ効率と、他の例に対応するブラシ1を使用した場合のモータ効率との差(効率差)が示される。
【0066】
第1のモータ10においては、図10に示すように、比較例1および比較例2に対応するブラシ1を使用した場合にモータ効率が46.7〜46.8%であった。一方、実施例1〜実施例3に対応するブラシ1を使用した場合にモータ効率が47.3〜48.8%であった。
【0067】
このように、実施例1〜3に対応するブラシ1を使用した場合には、比較例1および比較例2に対応するブラシ1を使用した場合に比べて、モータ効率が高かった。これにより、銀粉および炭素質材料を含むブラシ材料からブラシ基材が作製されることにより、炭素質材料のみからブラシ基材が作製される場合に比べて、モータ効率が高くなることがわかった。
【0068】
また、実施例1に対応するブラシ1を使用した場合より、実施例2に対応するブラシ1を使用した場合のモータ効率が高く、実施例2に対応するブラシ1を使用した場合より、実施例3に対応するブラシ1を使用した場合のモータ効率が高かった。これにより、炭素質材料の平均粒径が同じである場合には、銀の含有率が高いほど、モータ効率が高くなることがわかった。
【0069】
第2のモータ10においては、図11に示すように、比較例1および比較例3に対応するブラシ1を使用した場合にモータ効率がそれぞれ48.4%であった。一方、実施例4〜7に対応するブラシ1を使用した場合にモータ効率が48.8〜48.9%であった。
【0070】
このように、実施例4〜7に対応するブラシ1を使用した場合には、比較例3に対応するブラシ1を使用した場合に比べて、モータ効率が高かった。これにより、炭素質材料の平均粒径が0.5mm以上であることにより、炭素質材料の平均粒径が0.5mmより小さい場合に比べて、モータ効率が高くなることがわかった。
(6)参考形態
第1の参考形態に係る樹脂結合炭素質ブラシは、炭素および樹脂を含む炭素質材料と、炭素質材料の粒子間に配置される金属粉とを含み、炭素質材料の平均粒径は0.3mm以上であり、炭素質材料および金属粉の全体に対する金属粉の割合が1重量%以上30重量%以下である。
この樹脂結合炭素質ブラシにおいては、炭素質材料の粒子間に金属粉が配置されることにより導電性が高まり、電気抵抗率が低くなる。この場合、炭素質材料の平均粒径が0.3mm以上であるので、炭素質材料の粒子間において、金属粉が分散的でなく集中的に配置される。それにより、金属による3次元的な網状のつながりが形成される。その結果、効果的に電気抵抗率が低下される。
また、炭素質材料および金属粉の全体に対する金属粉の割合が1重量%以上であるので、金属粉による導電性が十分に確保される。さらに、炭素質材料および金属粉の全体に対する金属粉の割合が30重量%以下であるので、炭素質材料の粒子間における結合力の低下が防止される。
第2の参考形態に係る樹脂結合炭素質ブラシの製造方法は、炭素粉および樹脂を混合することにより炭素質材料を作製する工程と、作製された炭素質材料の平均粒径を0.3mm以上に調整する工程と、平均粒径が調整された炭素質材料と金属粉とを混合することによりブラシ材料を作製する工程と、作製されたブラシ材料を成形する工程と、炭素質材料に含まれる樹脂が炭化しない温度で、成形されたブラシ材料に熱処理を行う工程とを備え、炭素質材料と金属粉とを混合する工程において、炭素質材料および金属粉の全体に対する金属粉の割合を1重量%以上30重量%以下に調整する。
この製造方法によれば、炭素質材料の粒子間に金属粉が配置されることにより導電性が高まり、電気抵抗が低減される。この場合、炭素質材料の平均粒径が0.3mm以上であるので、炭素質材料の粒子間において、金属粉が分散的でなく集中的に配置される。それにより、金属による3次元的な網状のつながりが形成される。その結果、効果的に電気抵抗率が低減される。
また、炭素質材料および金属粉の全体に対する金属粉の割合が1重量%以上であるので、金属粉による導電性が十分に確保される。さらに、炭素質材料および金属粉の全体に対する金属粉の割合が30重量%以下であるので、炭素質粒子P1間における結合力の低下が防止される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、種々のモータに有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 ブラシ
2 回転体
4 リード線
10 交流モータ
P1 炭素質粒子
P2 金属粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11