特許第6539084号(P6539084)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6539084
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】ステアリングコラム装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/19 20060101AFI20190625BHJP
【FI】
   B62D1/19
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-66656(P2015-66656)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-185756(P2016-185756A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2018年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237307
【氏名又は名称】富士機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】上坂 陽太
(72)【発明者】
【氏名】足立 拓也
【審査官】 鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0300236(US,A1)
【文献】 特開2015−044507(JP,A)
【文献】 特開平09−193812(JP,A)
【文献】 特開2011−178231(JP,A)
【文献】 特表平10−509395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形状を有し、車両前後方向に沿って配設されるアウターコラムと、
前記アウターコラムの筒壁を筒軸方向に沿って貫通するスリットと、
前記スリットの筒軸方向に沿った両縁部に立設された一対のクランプ部と、
筒形状を有し、前記アウターコラム内に筒軸方向に移動可能に挿入されるインナーコラムと、
軸形状を有し、前記一対のクランプ部を貫通して配置される操作軸と、前記操作軸に配置した操作レバーを軸周りに締結方向に回動操作することで、前記一対のクランプ部間が狭まり、前記インナーコラムを前記アウターコラムに締結するロック手段と、
前記操作軸とともに軸周りに回動可能に前記操作軸上に配置されるとともに、外周面に偏心カムを備える偏心カム部材と、前記インナーコラム外周面に筒軸方向に沿って配設される帯状の板材に、複数のロック孔が長手方向に連続して開口し、梯子形状を有するロックプレートと、
一端が前記アウターコラムに揺動可能に支持され、他端側が前記偏心カム部材と前記インナーコラムとの間に筒軸方向に沿って配置されるサポートレバーと、
前記ロックプレートと前記サポートレバーの間に配置され、前記ロック孔に係脱可能な弾性片からなるロック爪を有する爪プレートと、
一端が前記爪プレートに係合されるとともに、他端が前記アウターコラムに係合された衝撃吸収部材と、
前記操作軸の締結方向への回動操作で、前記偏心カムが前記サポートレバーを介して前記爪プレートを前記ロックプレートに押付け、前記ロック爪を前記ロック孔に係合可能なロック位置に移動させ、前記インナーコラムに対して筒軸方向に設定値以上の荷重が加わった際に、前記ロック爪が前記ロック孔に係合することで前記爪プレートが、前記インナーコラムとともに筒軸方向へ移動しつつ、前記衝撃吸収部材を変形させることで、衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収手段とを備え
前記衝撃吸収部材は、平面視でU字形状に曲げられた線条材であり、前記U字形状における横棒部分が前記爪プレートに設けられた一対の支持部材に係止され、前記U字形状における縦棒部分が前記横棒部分から車両後方側へ延びるとともに、前記操作軸によって折返されて、前記縦棒部分の端部が車両前方側へ延びつつ、前記アウターコラムに係止されることを特徴とするステアリングコラム装置。
【請求項2】
請求項1に記載のステアリングコラム装置において、
前記支持部材は、前記爪プレートに形成された鉤状の部材であり、前記衝撃吸収部材の前記横棒部分を係止する鉤状の係止部を有していることを特徴とするステアリングコラム装置。
【請求項3】
請求項1、または請求項2に記載のステアリングコラム装置において、
前記爪プレートには、複数の前記ロック爪が前記ロック孔とは異なる間隔で筒軸方向に連続する爪列が、操作軸方向に隣接して複数設けられ、
これらの前記爪列が、筒軸方向に互いにずれた状態で配置されていることを特徴とするステアリングコラム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突事故の二次衝突の際に、衝撃荷重によって、コラムがステアリングシャフトとともに収縮し、衝撃エネルギーを吸収するステアリングコラム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のステアリングコラム装置として、図7に示すように、特許文献1のステアリングコラム装置101では、車体側に固定されるアウターコラム103と、アウターコラム103内を車両前後方向に移動可能に配設されるインナーコラム104と、インナーコラム104をアウターコラム103に締結する締結手段105と、衝突事故によって乗員がステアリングホイールに激突する二次衝突が生じた際に、衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収手段106とを備えている。
【0003】
締結手段105は、インナーコラム104を間に挟むようにアウターコラム103から立設する一対のクランプ部132と、一対のクランプ部132を貫通する操作軸151と、インナーコラム104に筒軸方向に沿って配設される帯状の部材に、複数のロック孔154aが長手方向に連続し、梯子形状を有するロックプレート154と、操作軸151上に配設され、操作軸151を軸周りに回動操作することで、ロック孔154aに係脱するロック爪155bとを備えている。ロック爪155bが隣り合うロック孔154aを仕切る格154bの部分に係合することで、ロックプレート154は任意の位置に保持される。
【0004】
衝撃吸収手段106は、インナーコラム104が乗員の激突によって前方へ移動する際に、任意の位置に保持されたロックプレート154とインナーコラム104との間に設けられたエネルギー吸収部材をしごくように曲げ変形することで、衝撃エネルギーを吸収する。
【0005】
また、特許文献2のステアリングコラム装置の衝撃吸収手段206では、図8に示すように、インナーコラムが乗員の激突によって前方へ移動する際に、ロックプレート254を引裂くことで、衝撃エネルギーを吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2012/000593A1
【特許文献2】WO2009/121386A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このような衝撃吸収手段の構成では、ロックプレート154,254を設置し、変形したり、引裂いたりするために、大きなスペースが必要となるため、装置全体の大型化を招いてしまうという問題があった。
【0008】
そこで、本願発明は上記事情を考慮し、装置全体を大型化することなく、衝撃エネルギーを吸収することができるステアリングコラム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、筒形状を有し、車両前後方向に沿って配設されるアウターコラムと、前記アウターコラムの筒壁を筒軸方向に沿って貫通するスリットと、前記スリットの筒軸方向に沿った両縁部に立設された一対のクランプ部と、筒形状を有し、前記アウターコラム内に筒軸方向に移動可能に挿入されるインナーコラムと、軸形状を有し、前記一対のクランプ部を貫通して配置される操作軸と、前記操作軸に配置した操作レバーを軸周りに締結方向に回動操作することで、前記一対のクランプ部間が狭まり、前記インナーコラムを前記アウターコラムに締結するロック手段と、前記操作軸とともに軸周りに回動可能に前記操作軸上に配置されるとともに、外周面に偏心カムを備える偏心カム部材と、前記インナーコラム外周面に筒軸方向に沿って配設される帯状の板材に、複数のロック孔が長手方向に連続して開口し、梯子形状を有するロックプレートと、一端が前記アウターコラムに揺動可能に支持され、他端側が前記偏心カム部材と前記インナーコラムとの間に筒軸方向に沿って配置されるサポートレバーと、前記ロックプレートと前記サポートレバーの間に配置され、前記ロック孔に係脱可能な弾性片からなるロック爪を有する爪プレートと、一端が前記爪プレートに係合されるとともに、他端が前記アウターコラムに係合された衝撃吸収部材と、前記操作軸の締結方向への回動操作で、前記偏心カムが前記サポートレバーを介して前記爪プレートを前記ロックプレートに押付け、前記ロック爪を前記ロック孔に係合可能なロック位置に移動させ、前記インナーコラムに対して筒軸方向に設定値以上の荷重が加わった際に、前記ロック爪が前記ロック孔に係合することで前記爪プレートが、前記インナーコラムとともに筒軸方向へ移動しつつ、前記衝撃吸収部材を変形させることで、衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収手段とを備え、前記衝撃吸収部材は、平面視でU字形状に曲げられた線条材であり、前記U字形状における横棒部分が前記爪プレートに設けられた一対の支持部材に係止され、前記U字形状における縦棒部分が前記横棒部分から車両後方側へ延びるとともに、前記操作軸によって折返されて、前記縦棒部分の端部が車両前方側へ延びつつ、前記アウターコラムに係止されることを特徴としている。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載のステアリングコラム装置において、前記支持部材は、前記爪プレートに形成された鉤状の部材であり、前記衝撃吸収部材の前記横棒部分を係止する鉤状の係止部を有していることを特徴としている。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1、または請求項2に記載のステアリングコラム装置において、前記爪プレートには、複数の前記ロック爪が前記ロック孔とは異なる間隔で筒軸方向に連続する爪列が、操作軸方向に隣接して複数設けられ、これらの前記爪列が、筒軸方向に互いにずれた状態で配置されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明において、弾性爪を有する爪プレートを用いることで、ロック手段のロックを確実に行なうことができる。また、爪プレートをサポートレバーを介して押付けることで、爪プレートがインナーコラムとともに移動するため、確実に爪プレートを噛合わせることができるとともに、噛合い状態を保つことができる。さらに、爪プレートがサポートレバー上を滑るように移動しつつ、衝撃吸収部材を引っ張るように変形させるため、衝撃エネルギーの吸収を安定して行なうことができる。
【0013】
また、請求項の発明において、衝撃吸収部材に線条材を用いることで、衝撃吸収手段を小さくすることができる。また、操作軸に巻き掛けた部分で曲げ変形するため、エネルギー吸収荷重が安定する。これにより、装置全体を大型化することなく、衝撃エネルギーを吸収することができる。
請求項2の発明において、支持部材が爪プレートに形成された鉤状の部材であるので、衝撃吸収部材の横棒部分を鉤状の係止部に係止することができる。
【0014】
請求項3の発明において、爪プレートが複数の爪列を備え、各爪列が筒軸方向にずれて配置されていることで、いずれかの爪列のロック爪がロック孔に係合するため、空走区間を短くすることができ、衝撃エネルギーがインナーコラムに加わった直後から衝撃エネルギーを吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態を示す左側面図である。
図2】本発明の一実施形態を示す平面図である。
図3】本発明の一実施形態を示す底面図である。
図4図1のIII-III線に沿った断面図である。
図5】本実施形態のロック手段と衝撃吸収手段との構成を示す分解斜視図である。
図6】本実施形態のロック手段と衝撃吸収手段との動作を示す模式図で、(a)はロック手段のロックが解除された状態、(b)はロック手段がロックされた状態、(c)はインナーコラムに加わった衝撃を吸収した状態を表している。
図7】従来技術ステアリングコラム装置を示す斜視図である。
図8】従来技術の衝撃吸収手段を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1図6に示すように、本実施形態は、手動式のステアリングコラム装置1である。また、本実施形態のステアリングコラム装置1は、車体に固定するための取付ブラケット2と、車両上下方向に揺動可能(チルト位置調整可能)に取付ブラケット2に支持されるアウターコラム3と、車両前後方向に移動可能(テレスコ位置調整可能)にアウターコラム3に支持されるインナーコラム4と、取付ブラケット2とアウターコラム3とインナーコラム4を一体に締結するロック手段5と、インナーコラム4に掛かる衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収手段6とを備えている。
【0017】
取付ブラケット2は、車体の天井面(図示せず)に固定される前側固定部21aと、後側固定部21bとを備えている。前側固定部21aは、アウターコラム3を揺動可能に軸支する軸支部23を備え、後側固定部21bは、その左右側縁部から垂下する一対の垂下部22とを備えている。両垂下部22には、車両上下方向(チルト方向)に沿ったチルト位置調整範囲を規定するチルト長孔24が開口している。チルト長孔24は、軸支部23を中心とする円弧状の長孔で構成されている。
【0018】
アウターコラム3は、筒形状を有し、一対の垂下部22の間に、車両前後方向に沿って配設される。アウターコラム3は、前端側上縁部分に軸支受部30を備えており、軸支受部30が、取付ブラケット2の軸支部23にボルト23aを介して軸支されることで、アウターコラム3の後端側が車両上下方向に揺動する。
【0019】
また、アウターコラム3には、筒壁3aの下面を貫通しつつ、後端縁から筒軸方向に沿って延びるスリット31が設けられている。スリット31の筒軸方向の寸法は、アウターコラム3の後端から挿入されたインナーコラム4が、衝撃吸収後の最も収縮した状態で、インナーコラム4の前端に対応するアウターコラム3の部位まで切込むように設定されている。
【0020】
また、スリット31の筒軸方向に沿った両縁部には、一対のクランプ部32が立設されている。両クランプ部32は、スリット31の後端側に位置し、垂下部22に対向する部位に車両上下方向に沿って立設されている。また、両クランプ部32には、操作軸51が、軸周りに回動自在に貫通する。
【0021】
さらに、アウターコラム3は、その天井部分に筒壁3aを貫通しつつ、筒軸方向に沿って延びるテレスコ長孔34を備えている。
【0022】
インナーコラム4は、筒形状を有し、アウターコラム3の筒内を筒軸方向に移動可能に挿入される。なお、インナーコラム4とアウターコラム3の筒内には、ステアリングシャフト11が軸支されている。ステアリングシャフト11は、アウターコラム3内に軸支されるロアシャフト11Lと、インナーコラム4内に軸支されるアッパーシャフト11Uとで構成されている。アッパーシャフト11Uとロアシャフト11Lとをスプライン連結することで、軸周りにはアッパーシャフト11Uとロアシャフト11Lが一体に回転し、軸方向にはアッパーシャフト11Uがロアシャフト11Lに対して移動可能に構成されている。
【0023】
また、インナーコラム4は、その外周面にストッパ41が突設されている。ストッパ41は、テレスコ長孔34内を長手方向に移動可能に挿嵌されるとともに、設定値以上の剪断荷重が加わった際に破断するように設定されている。そして、インナーコラム4が筒軸方向に移動し、テレスコ位置調整を行なう際に、ストッパ41がテレスコ長孔34内を移動することで、テレスコ位置調整範囲が規定される。
【0024】
ロック手段5は、操作レバー51aと、操作軸51と、固定カム52aと、回転カム52bとを備えている。
【0025】
操作軸51は、軸形状を備え、両垂下部22のチルト長孔24と、アウターコラム3の両クランプ部32を車幅方向に沿って貫通するとともに、軸周りに回動自在に支持されている。また、操作軸51は、その一端側端部に、右側垂下部22Rの外面に係合するワッシャーがスラスト軸受を介してナットにより固定されるとともに、他端側端部は、一体に設けた頭部と左側垂下部22Lの外面側にの間にカム手段52と、操作レバー51aが設置される。そして、操作レバー51aと左側垂下部22Lとの間に位置する操作軸51上のカム手段52は、固定カム52aと回転カム52bから構成されている。また、操作軸51上の両クランプ部32間に位置する部位に、偏心カム部材53が操作軸51と一体で回転可能に配置される。
【0026】
固定カム52aは、その中心を操作軸51が貫通する幅広の円環形状を備え、固定カム面が操作レバー51a側に面して配置されている。また、固定カム52aは、固定カム面の裏面側がチルト長孔24内に嵌め込まれ、操作軸51周りに回転せず、且つチルト長孔24内を上下に移動可能に配置されている。固定カム面には、その周方向に山部と谷部が交互に形成されている。
【0027】
回転カム52bは、その中心を操作軸51が貫通する幅広の円環形状を備え、回転カム面が固定カム面に面するように配置されている。また、回転カム52bは、操作レバー51aと一体で回転可能に結合されるとともに、貫通する操作軸51とともに、操作軸51周りに回転するように操作軸51に組付けられている。回転カム面には、その周方向に山部と谷部が交互に形成されている。
【0028】
偏心カム部材53は、略円筒形状を備え、外周面には径方向に突出する偏心カム53aが形成されている。また、偏心カム部材53は、操作軸51とともに軸周りに回動するように、操作軸51が挿嵌されている。
【0029】
ロックプレート54は、幅方向に円弧状に湾曲する帯状の板材からなり、インナーコラム4外周面に筒軸方向に沿って配設される。また、ロックプレート54には、複数のロック孔54aが長手方向に連続して開口し、梯子形状に形成されている。
【0030】
爪プレート55は、弾性を有する長方形の板材からなる基板55aに、ロック爪55bと、弾性腕部55c、支持部材55eとが形成されている。
【0031】
ロック爪55bは、基板55aからロックプレート54に向かって、車両後方側を切り起こすように、ロック孔54aに対して挿入可能に、斜めに切り起こされた弾性片によって構成されている。また、ロック爪55bは、ロックプレート54の複数のロック孔54aに同時に係合可能なように等間隔に、筒軸方向に連続して複数切り起こされることで、爪列55dを構成している。さらに、基板55aには、同様の爪列55dが、操作軸方向に隣接して設けられ、これら爪列55dは、ロック爪55bの筒軸方向の間隔が互いに1/2だけずれるように設定されている。
【0032】
弾性腕部55cは、爪プレート55の四隅に、インナーコラム4の外周面に対して当接可能に、且つロック爪55bよりも高く、且つ長く斜めに切り起こされた弾性片によって構成されている。
【0033】
支持部材55eは、爪プレート55の前端部を、下方に向けて略直角に曲げ形成した一対の鉤状の部材であり、後述する衝撃吸収ワイヤー64の係止部を有している。
【0034】
サポートレバー56は、断面四角形状を備えたレール状の部材からなり、スリット31内に筒軸方向に沿って、ロック手段5のロック時にインナーコラム4と略平行になるように配設される。また、サポートレバー56は、その一端がアウターコラム3の外周に設けられたレバー支持部36に揺動自在に軸支され、他端側が偏心カム部材53と爪プレート55との間に挟持される。なお、偏心カム部材53とサポートレバー56は、一対の支持部材55eの間で回動するように、配設されている。なお、サポートレバー56を介して爪プレート55をロックプレート54に押付ける構成とすることで、偏心カム部材53の回転方向の力(摩擦力)が爪プレート55には伝わらず、径方向の力のみが爪プレート55に伝わるように構成されている。これにより、ロック操作をする際に、インナーコラム4が所望する位置から筒軸方向にずれることなく固定することができる。
【0035】
衝撃吸収手段6は、操作軸51、偏心カム部材53、ロックプレート54、爪プレート55、サポートレバー56、および衝撃吸収ワイヤー64(衝撃吸収部材)を備えている。また、衝撃吸収手段6は、衝撃吸収ワイヤー64をしごくように曲げ変形させるために、しごき部61と、補助軸62とを備える。
【0036】
しごき部61は、円筒形状を備え、偏心カム部材53上の偏心カム53aの両脇に位置する部位に設定されている。
【0037】
補助軸62は、一対のクランプ部32間に、操作軸51と平行になるように、且つ筒軸方向に操作軸51と重なる部位に、少なくともしごき部61との間に衝撃吸収ワイヤー64が挿通可能な間隔を空けて配置されている。なお、補助軸62としごき部61の間隔を広げる方向に、補助軸62に位置を変更することで、衝撃エネルギーの吸収荷重を下げることができ、補助軸62を設ける位置で衝撃エネルギーの吸収荷重の変更が容易に行える。
【0038】
衝撃吸収ワイヤー64は、線条材を二つ折りにした略U字形状を備えている。衝撃吸収ワイヤー64は、その一端側の横棒部分となる二つ折り部分が一対の支持部材55eに係止されて固定されるとともに、他端側の縦棒部分となる平行部分が筒軸方向に沿って車両後方に延設され、さらに衝撃吸収ワイヤー64の平行部分は、しごき部61に巻き掛けるように折返されつつ、しごき部61と補助軸62との間の隙間に通して、車両前方に配索される。また、前方に配索された衝撃吸収ワイヤー64の平行部分は、線条材の弾性力によって、スリット31内のインナーコラム4外周面上に配設されたワイヤー台座35に係止される。そして、衝撃吸収ワイヤー64は、しごき部61でしごかれつつ、曲げ変形することで衝撃エネルギーを吸収する。
【0039】
次に、本実施形態のステアリングコラム装置1の組立手順を説明する。まず、インナーコラム4に固定したロックプレート54、およびワイヤー台座35をアウターコラム3のスリット31に挿入しながら、アウターコラム3の筒内にインナーコラム4挿入する。アウターコラム3とインナーコラム4の間には、樹脂カラー3aが介在されている。樹脂カラー3aは、アウターコラム3の内面に係止しておく。
【0040】
次に、取付ブラケット2の垂下部22間にアウターコラム3を配設し、アウターコラム3の軸支受部30を取付ブラケット2の軸支部23に支持しつつ、懸架バネ14を用いてアウターコラム3を取付ブラケット2に懸架する。
【0041】
また、レバー支持部36にレバーピン36aを介してサポートレバー56を揺動自在に配置する。そして、サポートレバー56の後端側とロックプレート54との間に爪プレート55を配置するとともに、しごき部61に衝撃吸収ワイヤー64が巻き掛けられた偏心カム部材53をサポートレバー56内に配置する。そして、偏心カム部材53とインナーコラム4との間に隙間に、前方側から後方側へ衝撃吸収ワイヤー64の平行部分を挿通させつつ、一端側の二つ折り部分を支持部材55eに固定する。
【0042】
次に、操作軸51を偏心カム部材53に貫通しつつ、取付ブラケット2とアウターコラム3とに組付ける。操作軸51は、図4の図中左側から操作レバー51a、回転カム52b、固定カム52a、左側垂下部22Lのチルト長孔24、左側クランプ部32L、偏心カム部材53、右側クランプ部32R、右側垂下部22Rのチルト長孔24の順に貫通し、さらに右側垂下部22Rの外側に、ワッシャー、スラスト軸受を貫通し、ナットを螺着して組付ける。
【0043】
そして、衝撃吸収ワイヤー64は、しごき部61に巻き掛けられつつ折返され、しごき部61と補助軸62との間の隙間に通して、平行部分が前方に配索される。そして、前方に配索された衝撃吸収ワイヤー64の平行部分は、線条材の弾性力によって、ワイヤー台座35に係止保持される。そして、ロアシャフト11Lにアッパーシャフト11Uをスプライン連結した状態でアウターコラム3の前端側から挿入し、アウター軸受12を介して、アウターコラム3の筒内にロアシャフト11Lを軸支するとともに、インナー軸受13を介して、インナーコラム4の筒内にアッパーシャフト11Uを軸支する。
【0044】
次に、本実施形態のステアリングコラム装置1の操作手順を説明する。
【0045】
インナーコラム4を所望の位置に固定するには、まず、インナーコラム4を所望する位置に、チルト方向(車両上下方向)とテレスコ方向(車両前後方向)へ移動させて、操作レバー51aを上方に揺動操作する。操作レバー51aを上方に揺動操作することによって、操作軸51が軸周りに締結方向に回動する。
【0046】
操作軸51とともに、操作レバー51aと一体の回転カム52bが締結方向に回動することで、固定カム52aの山部と回転カム52bの山部が重なり、軸方向寸法が拡がる。これによって、操作軸51がカム手段52側に引っ張られ、垂下部22とクランプ部32とが圧接され、任意のチルト位置にアウターコラム3が保持されるとともに、一対のクランプ部32間が狭まることで、アウターコラム3が縮径し、インナーコラム4が任意のテレスコ位置に保持される。
【0047】
また、操作軸51が締結方向に回動することで、偏心カム部材53が回転し、偏心カム53aがサポートレバー56を介して爪プレート55をロックプレート54に押付ける。爪プレート55をロックプレート54に押付けることで、いずれかのロック爪55bが、いずれかのロック孔54aに挿入され、挿入されたロック爪55bの先端がそれぞれのロック孔54aを仕切る格54bの部分に係合可能となる。また、爪プレート55をロックプレート54に押付けた際に、他のロック爪55bが格54b上に位置していた場合、このロック爪55bは格54bに押付けられたまま、押付け方向に対して後退するように弾性変形する。これによって、操作軸51の回動操作が妨げられることはなく、いずれかのロック爪55bが格54bに係合する。
【0048】
また、インナーコラム4の位置調整を行なうには、インナーコラム4とアウターコラム3の締結を解除する。このためには、まず、操作レバー51aを下方(解除方向)に揺動操作する。操作レバー51aを下方に揺動操作することによって、操作軸51が軸周りに締結解除方向に回動する。
【0049】
操作軸51とともに、操作レバー51aと一体の回転カム52bが締結解除方向に回動することで、固定カム52aの山部と回転カム52bの谷部が重なり、カム手段5aの軸方向寸法が狭まる。これによって、操作軸51が緩み、垂下部22とクランプ部32との圧接が解消され、取付ブラケット2に対してアウターコラム3がチルト方向(車両上下方向)に移動可能となるとともに、一対のクランプ部32間が拡がることで、アウターコラム3が拡径し、インナーコラム4がテレスコ方向(車両前後方向)に移動可能となる。
【0050】
また、操作軸51が締結解除方向に回動することで、偏心カム部材53が回転して、偏心カム53aがインナーコラム4外周面から離間する方向へ移動する。そして、弾性腕部55cの弾性力によって、ロック爪55bがロック孔54aから離間し、ロックが解除される。
【0051】
操作レバー51aを締結操作し、インナーコラム4がアウターコラム3に締結された状態で、インナーコラム4に設定値を超える衝撃荷重が加わった場合には、ロック孔54aに係合したロック爪55bを格54bが押すことで、インナーコラム4とともに、爪プレート55が車両前方へ移動し、爪プレート55が衝撃吸収ワイヤー64の二つ折り部分とともに筒軸方向前方へ移動する。このとき、衝撃吸収ワイヤー64がしごき部61と補助軸62によって、しごかれつつ、曲げ変形することで、衝撃エネルギーを吸収する。
【0052】
以上、上記実施形態によれば、弾性爪を有する爪プレート55を用いることで、ロック手段5のロックを確実に行なうことができる。また、爪プレート55をサポートレバー56を介して押付けることで、爪プレート55がインナーコラム4とともに移動するため、確実に爪プレート55を噛合わせることができるとともに、噛合い状態を保つことができる。さらに、爪プレート55がサポートレバー56上を滑るように移動しつつ、衝撃吸収部材64を引っ張るように変形させるため、衝撃エネルギーの吸収を安定して行なうことができる。
【0053】
衝撃吸収部材に線条材を用いることで、衝撃吸収手段6を小さくすることができる。また、操作軸51に巻き掛けた衝撃吸収ワイヤー64の平行部分を曲げ変形するため、エネルギー吸収荷重が安定する。これにより、装置全体を大型化することなく、衝撃エネルギーを吸収することができる。
【0054】
爪プレート55が複数の爪列55dを備え、各爪列55dが筒軸方向にずれて配置されていることで、いずれかの爪列55dのロック爪55bがいずれかのロック孔54aに係合するため、空走区間を短くすることができ、衝撃エネルギーがインナーコラムに加わった直後から衝撃エネルギーを吸収することができる。
【0055】
テレスコ長孔34とストッパ41を設けることで、通常時には、テレスコ位置調整範囲内でインナーコラム4を位置調整しつつ、衝撃吸収時には、ストッパ41が破断して、衝撃エネルギーを吸収することができる。
【0056】
なお、本実施形態の爪プレート55では、各爪列55dにおけるロック爪55bの筒軸方向の間隔が一定となっているが、ロック爪55bの間隔が、爪列55d毎に異なる設定としても良いとともに、同じ爪列55dの中で、ロック爪55bの間隔を変える設定としても良い。これにより、いずれかのロック孔の54aの格54bがこれに係合するいずれかのロック爪55bを最初に押すまでの空走区間をさらに短くすることができる。
【0057】
また、本実施形態のステアリングコラム装置1では、アウターコラム3にテレスコ長孔34を設け、インナーコラム4にストッパ41を配置する構成としているが、インナーコラム4にテレスコ長孔34を設け、アウターコラム3にストッパ41を配置する構成としても、本実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0058】
なお、本実施形態の支持部材55eは、爪プレート55の車両前方側に設けられているが、爪プレート55の車両後方側でも良く、また、前後両方に設けても良い。また、支持部材55eはサポートレバー56に係合して、爪プレート55の左右方向へのズレを防止でき、支持部材55eを爪プレート55の車両後方側に設ける方が車両前方側に設ける場合よりも、爪プレート55の左右方向のズレをより防止することができる。
【符号の説明】
【0059】
1…ステアリングコラム装置
3…アウターコラム
3a…筒壁
4…インナーコラム
5…ロック手段
6…衝撃吸収手段
31…スリット
32…クランプ部
34…テレスコ長孔
41…ストッパ
51…操作軸
52…カム手段
53…偏心カム部材
53a…偏心カム
54…ロックプレート
54a…ロック孔
55…爪プレート
55b…ロック爪
55d…爪列
56…サポートレバー
64…衝撃吸収部材(衝撃吸収ワイヤー)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8