(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、複数の電源回路を並列に接続した並列型電源装置において、電源回路の稼働台数を最適に制御するための手法を提供するものである。並列型電源装置は、たとえば、太陽光発電などの自然エネルギーによる発電設備を効率的に利用するために、ピークシフトを実現する蓄電システムにおいて用いられる。こうした蓄電システムでは、発電設備から出力された電力を蓄電池に充電すると共に、蓄電池から放電された電力をパワーコンディショナに供給する必要があるため、双方向に電力変換可能な双方向DC/DCコンバータが用いられる。この双方向DC/DCコンバータにおいて、本発明による並列型電源装置を適用することで、広範囲の出力負荷変動に対応すると共に、高効率で電力変換を行うことができる。
【0009】
なお、本発明の適用範囲は、上記のような蓄電システムにおいて用いられる電源装置に限らない。この他にも本発明は、複数の電源回路を並列に接続した電源装置の全般に対して有効である。また、後述するように、本発明による制御手法は、簡易な方式により実現することができる。そのため、本発明を適用することで、従来よりも安価なコントローラの使用を可能にすると共に、設計コストや制御プログラムの作成工数の削減にも貢献するものである。
【0010】
以下では、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電源装置を適用した蓄電システムの全体構成図である。
図1に示す蓄電システムは、電源装置10と蓄電池3により構成されており、DC/DCコンバータ5とパワーコンディショナ6の間に、高電圧バス配線9を介して接続されている。電源装置10は、双方向に電力変換が可能な双方向DC/DCコンバータである電源回路1a、1b、1cおよび1dが並列接続された電源部1と、電源回路1a、1b、1cおよび1dにそれぞれ接続された制御部2a、2b、2cおよび2dとを備える。DC/DCコンバータ5には太陽電池7が接続されており、パワーコンディショナ6には負荷8が接続されている。
【0012】
太陽電池7により発電された電力は、DC/DCコンバータ5により所定電圧の直流電力に変換された後、パワーコンディショナ6を介して負荷8に供給される。発電電力のうち負荷8に供給されなかった分は、余剰電力としてDC/DCコンバータ5から電源装置10に出力され、電源装置10を介して蓄電池3に充電されて蓄えられる。こうして蓄電池3に蓄えられた余剰電力は、負荷8の電力需要に応じて放電され、電源装置10を介してパワーコンディショナ6に出力される。パワーコンディショナ6は、DC/DCコンバータ5から、または電源装置10を介して蓄電池3から出力された直流電力を交流電力に変換し、負荷8に供給する。
【0013】
電源部1は、制御部2a〜2dの制御により、電源回路1a〜1dのいずれか少なくとも一つを動作させて、入力電力を所定の出力電力に変換するための電力変換を行う。すなわち、蓄電池3の充電時には、電源部1は、DC/DCコンバータ5から電源装置10に入力された直流電力を、蓄電池3の充電電圧に応じた直流電力に変換して出力する。一方、蓄電池3の放電時には、電源部1は、蓄電池3から電源装置10に入力された直流電力を、パワーコンディショナ6の動作電圧に応じた直流電力に変換して出力する。
【0014】
なお、
図1では再生可能エネルギーである太陽光を利用して発電を行う太陽電池7を発電設備とした例を示したが、他の発電設備、たとえば風力発電設備等を太陽電池7の代わりに用いてもよい。天候等によって発電電力が変動する発電設備や、電力需要に応じて発電電力を柔軟に調節するのが困難な発電設備であれば、どのような発電設備であっても、
図1のような蓄電システムを用いて発電電力の効率的な利用を図ることができる。
【0015】
図2は、電源回路1aおよび制御部2aの構成図である。なお、電源回路1a〜1dと、制御部2a〜2dとは、それぞれ同一の構成を有している。そのため、以下ではこれらを代表して、電源回路1aおよび制御部2aの構成について説明する。
【0016】
電源回路1aは、コンデンサ11aおよび11bと、スイッチング素子12a、12b、12cおよび12dと、ダイオード13a、13b、13cおよび13dと、インダクタ15とを有する。コンデンサ11aは蓄電池3側に設けられており、蓄電池3の電圧Vbatが印加される。コンデンサ11bは高電圧バス配線9側に設けられており、高電圧バス配線9の電圧Vbusが印加される。
【0017】
スイッチング素子12a〜12dは、IGBTでそれぞれ構成されており、ダイオード13a〜13dがそれぞれ逆並列接続されている。スイッチング素子12aのエミッタ端子にはスイッチング素子12bのコレクタ端子がカスケード接続されており、スイッチング素子12aのコレクタ端子はコンデンサ11aの正極側に、スイッチング素子12bのエミッタ端子はコンデンサ11aの負極側にそれぞれ接続されている。同様に、スイッチング素子12cのエミッタ端子にはスイッチング素子12dのコレクタ端子がカスケード接続されており、スイッチング素子12cのコレクタ端子はコンデンサ11bの正極側に、スイッチング素子12dのエミッタ端子はコンデンサ11bの負極側にそれぞれ接続されている。スイッチング素子12aのエミッタ端子およびスイッチング素子12bのコレクタ端子は、インダクタ15を介して、スイッチング素子12cのエミッタ端子およびスイッチング素子12dのコレクタ端子と接続されている。すなわち、電源回路1aは、中央のインダクタ15に関して左右対称のトポロジーであるHブリッジ型の構成を有している。このような回路構成により、非絶縁型の双方向コンバータである電源回路1aが実現される。
【0018】
制御部2aは、ゲート駆動回路21a、21b、21cおよび21dと、制御回路22とを有する。ゲート駆動回路21a〜21dは、スイッチング素子12a〜12dのゲート端子にそれぞれ接続されており、各ゲート端子にゲート駆動信号をそれぞれ出力する。このゲート駆動信号に応じてスイッチング素子12a〜12dがそれぞれスイッチング動作を行うことで、電源回路1aにおいて電力変換が行われる。制御回路22は、所定の制御動作を実行し、ゲート駆動回路21a〜21dを動作させるためのPWM制御信号を、ゲート駆動回路21a〜21dにそれぞれ出力する。なお、制御回路22の制御動作については、後で
図3を参照して詳細に説明する。
【0019】
制御回路22は、電源回路1aに入出力される電力の向きや電圧の大小に応じて、ゲート駆動回路21a〜21dに出力するPWM制御信号を変化させ、スイッチング素子12a〜12dの動作を切り替える。具体的には、DC/DCコンバータ5から高電圧バス配線9を介してコンデンサ11b側に入力された電力を昇圧してコンデンサ11a側に出力し、蓄電池3を充電する際には、制御回路22は、電源回路1aを昇圧充電モードで動作させる。この昇圧充電モードでは、制御回路22は、スイッチング素子12a、12dをそれぞれオフ状態とし、スイッチング素子12cをオン状態としたままで、スイッチング素子12bをオンオフ制御するように、PWM制御信号を出力する。一方、DC/DCコンバータ5からコンデンサ11b側に入力された電力を降圧してコンデンサ11a側に出力し、蓄電池3を充電する際には、制御回路22は、電源回路1aを降圧充電モードで動作させる。この降圧充電モードでは、制御回路22は、スイッチング素子12a、12b、12dをそれぞれオフ状態とし、スイッチング素子12cをオンオフ制御するように、PWM制御信号を出力する。また、上記とは反対に、蓄電池3を放電させてコンデンサ11a側に入力された電力を昇圧してコンデンサ11b側に出力し、パワーコンディショナ6を介して負荷8に供給する際には、制御回路22は、電源回路1aを昇圧放電モードで動作させる。この昇圧放電モードでは、制御回路22は、スイッチング素子12b、12cをそれぞれオフ状態とし、スイッチング素子12aをオン状態としたままで、スイッチング素子12dをオンオフ制御するように、PWM制御信号を出力する。一方、蓄電池3を放電させてコンデンサ11a側に入力された電力を降圧してコンデンサ11b側に出力する際には、制御回路22は、電源回路1aを降圧放電モードで動作させる。この降圧放電モードでは、制御回路22は、スイッチング素子12b、12c、12dをそれぞれオフ状態とし、スイッチング素子12aをオンオフ制御するように、PWM制御信号を出力する。
【0020】
なお、電源回路1aにおいて、スイッチング素子12a、12bおよびダイオード13a、13bと、スイッチング素子12c、12dおよびダイオード13c、13dとは、それぞれ上下アーム直列回路14を構成している。これらの上下アーム直列回路14には、各スイッチング素子やダイオードがモジュールとして一体化された状態で市販されたものを利用することも可能である。
【0021】
次に、制御回路22の制御動作について説明する。
図3は、制御回路22の制御ブロック図である。制御回路22は、差分演算部31、PI制御部32、乗算演算部33、稼働台数決定部34、参照テーブル記憶部35、位相シフト量設定部36、位相テーブル記憶部37、ID設定部38、除算演算部39、差分演算部40、PI制御部41およびPWM制御部42を有する。制御回路22は、参照テーブル記憶部35および位相テーブル記憶部37を除いたこれらの構成を、CPUにより所定のプログラムを実行することで実現する。すなわち、これらの構成は、制御回路22が実行するプログラムの機能としてそれぞれ実現される。一方、参照テーブル記憶部35および位相テーブル記憶部37については、制御回路22は、CPUに内蔵または併設されたメモリ等に所定の情報を記憶させることで、これらの構成を実現する。
【0022】
なお、
図3では、制御回路22が高電圧バス配線9の電圧Vbusを一定とするような制御を行う場合の制御ブロック例を示している。この場合、発電電力に対して負荷8の電力需要が小さいと電圧Vbusが上昇するため、制御回路22は、余剰電力を蓄電池3に充電して電圧Vbusを低下させるような制御動作を行う。反対に、発電電力に対して負荷8の電力需要が大きいと電圧Vbusが低下するため、制御回路22は、蓄電池3を放電して電圧Vbusを上昇させ、パワーコンディショナ6を介して負荷8に電力を供給するような制御動作を行う。これらの制御動作において、制御回路22は、電圧Vbusをモニタして目標電圧と比較し、その比較結果に基づいて一般的なPI制御を行うことにより、電流制御値を導出する。そして、電源回路1aに実際に流れている電流を検出し、得られた電流制御値と比較することにより、電源回路1aの入出力電力を制御する。
【0023】
制御回路22において、高電圧バス配線9から検出された電圧Vbusの値は、差分演算部31および乗算演算部33に入力される。差分演算部31は、目標電圧に対応する電圧指令値Vrefと電圧Vbusとの差分を演算し、その算出結果をPI制御部32に出力する。PI制御部32は、差分演算部31から出力された電圧指令値Vrefと電圧Vbusとの差分に基づいてPI制御を行うことで電流指令値Irefを演算し、その演算結果を乗算演算部33および除算演算部39に出力する。
【0024】
乗算演算部33は、PI制御部32から出力された電流指令値Irefと電圧Vbusとの積を演算することで電力指令値Prefを求め、その演算結果を稼働台数決定部34に出力する。稼働台数決定部34は、乗算演算部33から出力された電力指令値Prefに基づいて、参照テーブル記憶部35に記憶されている参照テーブルを参照することにより、電源部1において稼働させる電源回路の数を表す稼働台数mを決定する。そして、決定した稼働台数mを位相シフト量設定部36および除算演算部39に出力する。なお、稼働台数決定部34における稼働台数mの具体的な決定方法については、後で詳しく説明する。
【0025】
ID設定部38は、電源回路1aに対して予め設定されているID番号id(idは1以上の自然数)を位相シフト量設定部36に出力する。なお、電源回路1a〜1dには、その動作優先度に応じて、予め固有のID番号がそれぞれ設定されている。制御部2a〜2dがそれぞれ有する制御回路22において、ID設定部38は、この電源回路ごとに固有のID番号を出力する。すなわち、電源回路1aの動作優先度が最も高ければ、制御部2aのID設定部38は、id=1を出力する。反対に、電源回路1aの動作優先度が最も低ければ、制御部2aのID設定部38は、電源部1が有する電源回路の台数と同じ値であるid=4を出力する。
【0026】
位相シフト量設定部36は、稼働台数決定部34から出力された稼働台数mと、ID設定部38から出力されたID番号idとを比較し、その比較結果に基づいて電源回路1aを動作させるか否かを判断する。具体的には、m≧idであれば電源回路1aを動作させると判断し、m<idであれば電源回路1aを動作させないと判断する。その結果、電源回路1aを動作させると判断した場合には、位相シフト量設定部36は、稼働台数mおよびID番号idに基づいて、位相テーブル記憶部37に記憶されている位相テーブルを参照することにより、PWM制御の位相シフト量θsを設定し、PWM制御部42に出力する。この位相シフト量θsは、電源部1において動作中の電源回路1aと他の電源回路との間でPWM制御のタイミングが互いに重複しないように、電源回路1aを制御するためのものである。さらに、位相シフト量θsが変化した場合には、位相シフト量設定部36は、その変化に要する遷移期間を設定する。この遷移期間において、位相シフト量設定部36は、遷移期間中であることを示す状態信号statをPWM制御部42に出力する。なお、位相シフト量設定部36における位相シフト量θsの具体的な設定方法については、後で詳しく説明する。
【0027】
除算演算部39は、PI制御部32から出力された電流指令値Irefを、稼働台数決定部34から出力された稼働台数mで割ることにより、電源部1において動作中の電源回路の一台当たりの電流指令値Iref_mを求め、その演算結果を差分演算部40に出力する。差分演算部40は、除算演算部39から出力された電源回路一台当たりの電流指令値Iref_mと、電源回路1aにおいて現在流れている電流を検出して得られた電流検出値Isnsとの差分を演算し、その算出結果をPI制御部41に出力する。PI制御部41は、差分演算部40から出力された電流指令値Iref_mと電流検出値Isnsとの差分に基づいてPI制御を行うことで電圧制御値Vcontを演算し、その演算結果をPWM制御部42に出力する。
【0028】
PWM制御部42は、PI制御部41から出力された電圧制御値Vcontに基づいて周知のPWM制御を行うことにより、スイッチング素子12a〜12dのいずれかをスイッチング動作させるためのPWM制御信号を生成する。このときPWM制御部42は、外部から入力された同期信号syncと、位相シフト量設定部36から出力された位相シフト量θsとに基づいて、PWM制御のタイミングを決定する。なお、同期信号syncは、制御部2a〜2dに対して共通に入力される。さらにPWM制御部42は、位相シフト量設定部36から状態信号statが出力されている場合には、遷移期間中であるため通常の制御周期とは異なる制御周期でPWM制御を行い、電源回路1aを制御する。この点については、後で詳しく説明する。
【0029】
PWM制御部42により生成されたPWM制御信号は、ゲート駆動回路21a〜21dに出力される。このPWM制御信号に基づいて、ゲート駆動回路21a〜21dからスイッチング素子12a〜12dの各ゲート端子にゲート駆動信号がそれぞれ出力されることで、前述のような電源回路1aの各モードに応じたスイッチング動作が行われる。
【0030】
次に、稼働台数決定部34における稼働台数mの具体的な決定方法について説明する。稼働台数決定部34は、電力指令値Prefに基づいて、電源装置10における電力変換効率が最大となるように、稼働台数mを決定する。この電力変換効率が最大となる動作条件は、以下のように決定される。
【0031】
電源装置10の電力変換効率は、入力電力と出力電力との差分、すなわち損失によって決まる。そのため、以下ではまず、電源装置10の損失特性について考察する。
【0032】
電源装置10の損失は、制御部2a〜2dを動作させるための固定分(0次成分)と、配線抵抗などに由来する比例成分(1次成分)と、電源回路1a〜1dの各スイッチング素子のスイッチング動作などに由来する周波数由来成分(2次成分)とを含む。さらに、これより高次の成分を含む場合もある。そのため、負荷率をx(0<x<1)とすれば、電源回路1a〜1dの一台当たりの損失Loss(x)は、以下の式(1)のように多項式に展開して表すことができる。
【数1】
【0033】
図4は、稼働台数mの決定方法を説明する図である。
図4(a)に示す損失曲線51は、上記の式(1)で表される負荷率xと損失Loss(x)との関係を表すグラフである。この損失曲線51は、式(1)の第1項に相当する固定分と、第2項に相当する比例成分と、第3項以降に相当する周波数成分との合計を表している。
【0034】
実用的には、上記の式(1)の代用として、以下の近似式(2)を用いることができる。近似式(2)において、aは固定損失(出力0のときの消費電力)を、bは最大負荷時の変動損失(全損失から固定損失を減算したもの)を、nは乗数(n≧1)をそれぞれ表している。なお、
図4(a)に示すように、aの値は損失曲線51の固定分に相当し、bの値は損失曲線51の比例成分と周波数成分を合計したものに相当する。
【数2】
【0035】
上記の近似式(2)におけるa、b、nの値は、それぞれ電源回路1a〜1dの出力特性の測定結果から容易に導出することができる。そのため、以降の説明では、この近似式(2)に基づいて検討を進める。
【0036】
負荷率xのときの電源回路1a〜1dの一台当たりの出力電力P(x)は、電源回路1a〜1dの最大出力Pmaxと負荷率xの積として求められる。そのため、電源回路1a〜1dの効率η(x)は、前述の近似式(2)を用いて、以下の式(3)のような負荷率xの関数として表すことができる。
【数3】
【0037】
次に、電源部1において、電源回路1a〜1dのうち二台を同時に動作させた場合について検討する。このときの電源部1からの出力電力は、二台の電源回路の負荷率をそれぞれx、yとし、これらを合わせた合計負荷率をk(x+y=k、0<k<2)とすると、k・Pmaxと表すことができる。したがって、このときの電源部1全体での効率は、上記の式(3)から、負荷率x、yの関数であるη(x,y)として以下の式(4)のように表すことができる。
【数4】
【0038】
上記の式(4)では、(x/k)
n+(1−x/k)
nの値が最小となるときに、電源部1の全体効率η(x,y)の値が最大となる。ここで、x/kの値が取り得る範囲は、負荷率xおよび合計負荷率kの値によって異なるが、0<x/k≦1のように表すことができる。
【0039】
図4(b)に示す各曲線は、n=1.1、1.6、1.9のそれぞれの場合について、上記の範囲におけるx/kと(x/k)
n+(1−x/k)
nとの関係を表すグラフである。
図4(b)から、nの値に関わらず、x/k=1/2のとき、すなわちx=yのときに、(x/k)
n+(1−x/k)
nの値が最小となり、したがって電源部1の全体効率η(x,y)が最大となることが分かる。
【0040】
さらに、電源回路1a〜1dのうち三台を同時に動作させた場合の電源部1全体での効率は、三台の電源回路の負荷率をそれぞれx、y、z(x+y+z=k、0<k<3)とすると、負荷率x、y、zの関数であるη(x,y,z)として以下の式(5)のように表すことができる。
【数5】
【0041】
ここで、x+y=k−zであることから、上記の式(5)は、前述の式(4)においてkをk−zに置き換えた場合に相当する。したがって、任意のzの値に対して式(5)のη(x,y,z)が最大となるxおよびyの条件は、x=yである。これにより、式(5)は以下の式(6)のように変形できる。
【数6】
【0042】
上記の式(4)では、分母の第三項の値が最小となるとき、すなわち2(x/k)
n+(1−2x/k)
nの値が最小となるときに、電源部1の全体効率η(x,y,z)の値が最大となる。ここで、2(x/k)
n+(1−2x/k)
nの値が最小となる条件を解くと、x/k=y/k=z/k=1/3、すなわちx=y=zが導かれる。この条件を満たすときに、電源部1の全体効率η(x,y,z)の値が最大となる。
【0043】
同時に動作させる電源回路の台数をさらに増やした場合についても、上記と同様の手順により、各電源回路の負荷率を等しくしたときに電源部1の効率が最大となることが導かれる。すなわち、電源回路の稼働台数mに対する電源部1の全体効率は、負荷率xの関数η(x)として、以下の式(7)で表される。そして、各電源回路の負荷率が等しくなるように制御することで、η(x)の値を最大とすることができる。
【数7】
【0044】
上記の式(7)で表される電源部1の全体効率η(x)が最大となる条件を満たすとき、すなわち各電源回路の負荷率が等しくなるときには、x=k/mの関係が成り立つ。したがって、稼働台数mに対する電源部1の損失は、m台を等負荷で動作させる場合、前述の近似式(2)を基に、以下の近似式(8)のように表すことができる。なお、近似式(8)において、合計負荷率kの下限値は0であり、上限値は稼働台数mに等しい。
【数8】
【0045】
なお、実際のシステムにおいては、さらに低損失化を図るために、固定損失のうち非稼働時に停止可能なものは停止するといった処理がなされることがあり、上記の式(7)や式(8)に修正が必要な場合もある。しかし、このような場合であっても、複数台の電源回路を同時に稼働させるときの最大効率条件には本質的に影響しない。
【0046】
図4(c)に示す損失曲線52、53、54は、電源部1の損失特性の一例をそれぞれ表すグラフである。これらの損失曲線は、上記の近似式(8)において乗数n=1.6とした場合の、稼働台数m=1、2、3における合計負荷率kと損失Loss(k)との関係をそれぞれ表している。
図4(c)では、k=0.76の近傍において、m=1の損失曲線52とm=2の損失曲線53とが互いに交差している。また、k=1.33の近傍において、m=2の損失曲線53とm=3の損失曲線54とが互いに交差している。これにより、0<k≦0.76では一台の電源回路のみを動作させ、0.76<k≦1.33では二台の電源回路を同時に動作させ、1.33<k≦3では三台の電源回路を同時に動作させることで、合計負荷率kの全範囲に渡って電源部1の損失を最小とし、効率を最大とできることが分かる。
【0047】
稼働台数決定部34は、上記のような原理に従って、電力指令値Prefに対して電源部1の損失が常に最低となるような稼働台数mを決定することができる。具体的には、各電源回路の最大出力Pmaxに応じて定まる電力指令値Prefごとの合計負荷率kと、上記のような合計負荷率kごとに効率が最大となる稼働台数mとの関係に基づいて、電力指令値Prefごとに最適な稼働台数mの情報を、予め参照テーブルとして参照テーブル記憶部35に設定しておく。稼働台数決定部34は、この参照テーブルを参照することで、電力指令値Prefに対して最適な稼働台数mの値を決定することができる。
【0048】
制御部2a〜2dの各制御回路22は、こうして決定された稼働台数mに基づいて、前述のように除算演算部39において電流指令値Irefを稼働台数mで割ることにより、動作中の電源回路一台当たりの電流指令値Iref_mを求める。そして、この電流指令値Iref_mに基づいて、電源回路1a〜1dのうち対応するものをそれぞれ制御する。これにより、任意の負荷8の状態に対して、常に電源部1全体での効率が最大となるように、電源装置10を運用することができる。
【0049】
図5は、電源部1の効率特性の一例を示す図である。
図5に示す効率曲線55、56、57は、前述の式(7)において負荷率x=k/m、乗数n=1.6とした場合の、稼働台数m=1、2、3における合計負荷率kと全体効率η(x)との関係をそれぞれ表している。
図5でも
図4(c)と同様に、k=0.76の近傍において、m=1の効率曲線55とm=2の効率曲線56とが互いに交差している。また、k=1.33の近傍において、m=2の効率曲線56とm=3の効率曲線57とが互いに交差している。これにより、0<k≦0.76では一台の電源回路のみを動作させ、0.76<k≦1.33では二台の電源回路を同時に動作させ、1.33<k≦3では三台の電源回路を同時に動作させるように制御することで、合計負荷率kの全範囲に渡って常に電源部1の効率が最高となるように電源装置10を運用できることが分かる。特に、軽負荷領域ほど顕著に効率を改善することが可能となる。
【0050】
以上のように、本実施形態の電源装置10では、最大出力Pmaxが等しい多数台の電源回路1a〜1dを電源部1において同時に駆動する際に、制御部2a〜2dにより、各電源回路の負荷が等しくなるように出力を制御する。これにより、電源装置10全体で最も効率の良い運転を行うことができる。
【0051】
次に、位相シフト量設定部36における位相シフト量θsの具体的な設定方法について説明する。位相シフト量設定部36は、稼働台数mに基づいて、動作中の各電源回路での位相差が略等位相となるように、位相シフト量θsを設定する。
【0052】
一般的なPWM制御では、制御周期は固定されており、出力変動は周期内のパルス幅、すなわちデューティ比を制御することで行われる。出力と連動させて制御周期を変化させると演算が複雑になるため、高性能な演算装置を使用する必要が生じてコストが上昇したり、演算処理時間が延びて応答性が低下したりする可能性がある。そのため、以下の説明では、定常時の制御周期が概ね固定されているPWM制御によって電源回路1a〜1dの出力を調整する例について説明する。なお、この他に、許容された周波数の範囲においてオン時のデューティが所定値、たとえば50%に固定されており、出力の調整が周波数の変動によって実現される電流共振型のコンバータも知られている。しかし、こうした電流共振型のコンバータでは周波数が常に変動するため、並列構成とした場合には相互の位相を適切に制御することができない。したがって、本実施形態の電源装置10において電源回路1a〜1dに適用するのは困難である。
【0053】
並列構成の電源回路1a〜1dにおいて、これまで説明してきたように常に効率を最大として運転するためには、稼働している各電源回路が等負荷で制御されることが必要である。しかし、複数台の電源回路の制御が同期していると、同じタイミングでスイッチング素子12a〜12dのいずれかのスイッチングが行われるため、各電源回路に流れる電流に大きなリップルが生じる。その結果、コンデンサ11a、11bの電圧リップルが増大し、コンデンサ11a、11bの寿命を早めることにつながる。
【0054】
上記の電流リップルを低減するためには、動作中の電源回路の制御タイミングを互いにずらして、各電源回路間での位相差が略等間隔となるような制御位相で制御を行うことが望ましい。たとえば、稼働台数が二台の場合には、互いの位相差が180°のときに等間隔となるのに対して、稼働台数が三台の場合には、互いの位相差が120°のときに等間隔となる。すなわち、稼働台数mに対して各電源回路間で等間隔となる位相差θdは、以下の式(9)で表すことができる。
θd(°)=360/m (9)
【0055】
位相シフト量設定部36は、上記の式(9)で表される位相差θdに従って、稼働台数mが変化したときの変動量がなるべく小さくなるように、動作中の各電源回路に対する位相シフト量θsを設定する。具体的には、稼働台数mとID番号idの組み合わせごとに最適な位相シフト量θsの情報を、予め位相テーブルとして位相テーブル記憶部37に設定しておく。位相シフト量設定部36は、この位相テーブルを参照することで、稼働台数mおよびID番号idに対して最適な位相シフト量θsの値を決定することができる。
【0056】
なお、位相テーブル記憶部37において設定可能な位相テーブルは一種類ではなく、複数存在する位相テーブルの中からいずれかを選択して用いることが可能である。
図8は、位相テーブルの例を示す図である。
図8(a)では、稼働台数mが1から5の間で変化するときの位相テーブルの一例を示している。
図8(a)の位相テーブルから、稼働台数mが変化したときの位相シフト量θsの変動量は最大でも、id=2におけるm=2とm=3の間での変動量、すなわち180°−120°=60°であることが分かる。
【0057】
図8(b)では、稼働台数mが1から5の間で変化するときの位相テーブルの他の一例を示している。
図8(b)の位相テーブルでは、稼働台数mが変化したときの位相シフト量θsの最大変動量は、1≦m≦4の範囲では30°であり、mが5まで変化する場合には36°であることが分かる。そのため、
図8(a)の位相テーブルを用いた場合と比較して、位相シフト量θsの変動をさらに小さくすることができる。ただしこの場合には、m=3のときに、id=1の電源回路に対する位相シフト量θsを30°に設定する必要がある。そのため、
図8(a)の位相テーブルと比べて、やや複雑な制御が必要となる。
【0058】
なお、実際の電源回路1a〜1dの制御においては、各電源回路間で電流ばらつきが存在するため、各電源回路間の位相差を必ずしも厳密に等間隔とする必要はない。各電源回路間の位相差が互いに一定の範囲内で略等間隔となるように制御されていれば、特に問題は生じない。また、
図8(a)、
図8(b)の表では、稼働台数mが5までの位相テーブルの例しか示していないが、稼働台数mが6以上の場合についても、同様にして各電源回路の位相シフト量θsを設定することができる。この場合には、各電源回路間の位相差が60°以下となるため、稼働台数mが5以下の場合と比べて、位相シフト量θsの変動量はさらに縮小することとなる。
【0059】
ここで、制御部2a〜2dのうちいずれかの制御回路22において、稼働台数mの増減に応じて位相シフト量θsを急激に変更すると、その制御回路22からゲート駆動回路21a〜21dのいずれかに対して出力されるPWM制御信号のデューティが急変する。これに応じて、スイッチング素子12a〜12dのいずれかにおいて、オン期間やオフ期間が変動することになる。オフ期間が変動する場合にはあまり問題は生じないが、オン期間が変動する場合、特にオン期間が長くなる場合には、過電流の発生により当該スイッチング素子が破壊されたり、不要な電流振動が発生したりする可能性がある。
【0060】
そこで本実施形態の制御回路22では、上記のような問題を解決するために、稼働台数mの変化に応じて位相シフト量θsを変更するときには、一定の遷移期間を設定する。この遷移期間では、PWM制御部42におけるPWM制御の制御周期を、元の制御周期から一定の比率で変更することにより、位相シフト量θsの変更を連続的に行い、これに応じて制御位相が徐々に変化するように制御する。これにより、上記のような問題に対処することができる。
【0061】
図6は、稼働台数mが変化した場合の電源回路1a〜1dの負荷率および制御位相の変化の様子の一例を示す図である。
図6(a)のグラフ61〜64は、電源回路1a〜1dの負荷率の変化をそれぞれ示しており、
図6(b)のグラフ65〜68は、電源回路1a〜1dの制御位相の変化をそれぞれ示している。なお、これらのグラフでは、説明を分かりやすくするため、電源回路1a、1b、1c、1dの順に動作優先度が高く、また電源部1の合計負荷率kが単調に増加するものとしている。
【0062】
稼働台数mが1である時刻t1までの間は、グラフ61に示すように、電源回路1aの負荷率が徐々に上昇する。また、このときの電源回路1aの制御位相は、グラフ65に示すように0°である。
【0063】
時刻t1から時刻t2までの間は、稼働台数mが1から2に変化する遷移期間である。この遷移期間では、制御部2a、2bは、電源回路1a、1bの負荷配分をそれぞれ連続的に変化させる。その結果、グラフ61、62に示すように、電源回路1a、1bの負荷率が一致するまで、電源回路1aの負荷率が低下する一方で、電源回路1bの負荷率が0から立ち上がって上昇する。その後、時刻t2から時刻t3までの期間では、グラフ61、62に示すように、電源回路1a、1bの負荷率が上昇する。また、時刻t1から時刻t3までの期間では、グラフ65に示すように、電源回路1aの制御位相は0°である一方で、グラフ66に示すように、電源回路1bの制御位相は180°である。すなわち、このときの電源回路1aと電源回路1bの位相差は180°である。制御部2a、2bでは、これらの制御位相の値に応じて、電源回路1a、1bに対する位相シフト量θsが位相シフト量設定部36によりそれぞれ設定される。
【0064】
時刻t3から時刻t4までの間は、稼働台数mが2から3に変化する遷移期間である。この遷移期間では、制御部2a〜2cは、電源回路1a〜1cの負荷配分をそれぞれ連続的に変化させる。その結果、グラフ61〜63に示すように、電源回路1a〜1cの負荷率が一致するまで、電源回路1aおよび1bの負荷率が低下する一方で、電源回路1cの負荷率が0から立ち上がって上昇する。また、グラフ66に示すように、電源回路1bの制御位相が180°から120°に連続的に変化する。その後、時刻t4から時刻t5までの期間では、グラフ61〜63に示すように、電源回路1a〜1cの負荷率が上昇する。また、グラフ65〜67に示すように、電源回路1a〜1cの制御位相は、それぞれ0°、120°、240°である。すなわち、このときの電源回路1a〜1cの位相差はそれぞれ120°であり等しい。制御部2a〜2cでは、これらの制御位相の値に応じて、電源回路1a〜1cに対する位相シフト量θsが位相シフト量設定部36によりそれぞれ設定される。
【0065】
時刻t5から時刻t6までの間は、稼働台数mが3から4に変化する遷移期間である。この遷移期間では、制御部2a〜2dは、電源回路1a〜1dの負荷配分をそれぞれ連続的に変化させる。その結果、グラフ61〜64に示すように、電源回路1a〜1dの負荷率が一致するまで、電源回路1a〜1cの負荷率が低下する一方で、電源回路1dの負荷率が0から立ち上がって上昇する。また、グラフ66、67に示すように、電源回路1bの制御位相が120°から90°に、電源回路1cの制御位相が240°から270°にそれぞれ連続的に変化する。その後、時刻t6以降の期間では、グラフ61〜64に示すように、電源回路1a〜1dの負荷率が上昇する。また、グラフ65〜68に示すように、電源回路1a〜1dの制御位相は、それぞれ0°、90°、270°、180°である。すなわち、このときの電源回路1a〜1dの位相差はそれぞれ90°であり等しい。制御部2a〜2dでは、これらの制御位相の値に応じて、電源回路1a〜1dに対する位相シフト量θsが位相シフト量設定部36によりそれぞれ設定される。
【0066】
図7は、遷移期間における電源回路1a〜1dの制御周期の変化の様子の一例を示す図である。
図7(a)のグラフ71〜74は、稼働台数mが2から3に増加する場合の電源回路1a〜1dの制御周期をそれぞれ示しており、
図7(b)のグラフ75〜78は、稼働台数mが3から2に減少する場合の電源回路1a〜1dの制御周期をそれぞれ示している。
【0067】
稼働台数mが増加する場合には、
図7(a)において、稼働台数mを変更する前の定常状態である状態Aから遷移期間である状態Bに入ると、グラフ73において破線で示すように、電源回路1aに対する位相差が240°の制御周期で電源回路1cが起動する。また、グラフ72に示すように、電源回路1bの制御周期が状態Aのときの基本周期よりも短い制御周期に変化することで、電源1aに対する位相差が180°から徐々に縮小する。その後、電源回路1bの位相差が120°になって稼働台数mの変更が完了すると、状態Cにおいてグラフ72に示すように、電源回路1bの制御周期が元の基本周期へと戻り、定常状態での制御が繰り返される。
【0068】
稼働台数mが減少する場合には、
図7(b)において、稼働台数mを変更する前の定常状態である状態Aから遷移期間である状態Bに入ると、グラフ77において破線で示すように、電源回路1cの動作が停止する。また、グラフ76に示すように、電源回路1bの制御周期が状態Aのときの基本周期よりも長い制御周期に変化することで、電源1aに対する位相差が120°から徐々に拡大する。その後、電源回路1bの位相差が180°になって稼働台数mの変更が完了すると、状態Cにおいてグラフ76に示すように、電源回路1bの制御周期が元の基本周期へと戻り、定常状態での制御が繰り返される。
【0069】
以上説明したように、電源回路間の位相差が縮小する方向に変化する場合には、遷移期間における電源回路1a〜1dの制御周期は、定常状態での基本周期よりも短くなるように変化する。すなわち、この場合の遷移期間における電源回路1a〜1dの制御周波数は、定常状態での制御周波数よりも高くなる。反対に、電源回路間の位相差が拡大する方向に変化する場合には、遷移期間における電源回路1a〜1dの制御周期は、定常状態での基本周期よりも長くなるように変化する。すなわち、この場合の遷移期間における電源回路1a〜1dの制御周波数は、定常状態での制御周波数よりも低くなる。
【0070】
ここで、上記の遷移期間における制御周波数の変化の具体例として、基本周期に対応する定常状態での制御周波数が20kHzであり、遷移期間が2msである場合について説明する。この場合、遷移期間中に位相差を上記のように180°から120°まで、または120°から180°まで変化させるためには、遷移期間における制御周波数を、定常状態での制御周波数の20kHzから0.5%程度変化させ、約20.1kHzまたは約19.9Hzとすればよい。この程度の制御周波数の変化であれば、電源回路1a〜1dにおいて大きな電流変動や過電流の発生には至らず、安定な動作が可能である。また、制御回路22において、PWM制御の演算プロセスにも影響を与えず、簡易なアルゴリズムで容易に実装可能である。
【0071】
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0072】
(1)電源装置10は、電源部1と、制御部2a〜2dとを備える。電源部1は、並列接続された複数の電源回路1a〜1dを有し、電源回路1a〜1dのいずれか少なくとも一つを動作させて、入力電力を所定の電力指令値に応じた出力電力に変換する。制御部2a〜2dは、電源部1において動作中の各電源回路の負荷が等しくなるように、電源部1を制御する。このようにしたので、複数の電源回路1a〜1dを並列に接続した電源装置10を高効率で動作させることができる。
【0073】
(2)制御部2a〜2dは、制御回路22の稼働台数決定部34により、電力指令値Prefに基づいて、電源部1において動作させる電源回路の数を表す稼働台数mを決定する。具体的には、参照テーブル記憶部35において予め設定された電力指令値Prefごとに最適な稼働台数mを表す参照テーブルに基づいて、稼働台数mを決定する。このようにしたので、電源部1全体での効率が最大となるように、電源部1において動作させる電源回路の数を適切に決定することができる。
【0074】
(3)制御部2a〜2dは、制御回路22の位相シフト量設定部36により、電源部1において動作中の電源回路の数を表す稼働台数mに基づいて、動作中の各電源回路をそれぞれ制御するための位相シフト量θsを設定する。具体的には、動作中の各電源回路間での位相差が略等間隔となるように、位相シフト量θsを設定する。このようにしたので、動作中の電源回路の制御タイミングを互いにずらして、それぞれに流れる電流リップルを低減することができる。
【0075】
(4)制御部2a〜2dは、制御回路22のPWM制御部42により、稼働台数mを変更する前後の定常状態では、動作中の各電源回路をそれぞれ所定の制御周期で制御する。また、稼働台数mが変更されたことで、動作中の電源回路のいずれかについて位相シフト量設定部36により位相シフト量θsが変更された場合、所定の遷移期間が経過するまでの間は、定常状態での制御周期とは異なる制御周期で当該電源回路を制御する。このようにしたので、位相シフト量θsが変更された場合でも、位相シフト量θsを徐々に変化させることができる。その結果、制御回路22からゲート駆動回路21a〜21dのいずれかに出力されるPWM制御信号のデューティが急変し、それによってスイッチング素子12a〜12dのいずれかに過電流や不要な電流振動が発生するのを防止できる。
【0076】
(5)制御部2a〜2dは、遷移期間中には
図6(a)に示すように、動作中の各電源回路の負荷配分をそれぞれ連続的に変化させる。このようにしたので、上記と同様に、制御回路22からゲート駆動回路21a〜21dのいずれかに出力されるPWM制御信号のデューティが急変し、それによってスイッチング素子12a〜12dのいずれかに過電流や不要な電流振動が発生するのを防止できる。
【0077】
(6)電源部1が有する複数の電源回路1a〜1dの各々は、双方向に電力変換が可能な双方向コンバータとすることが好ましい。このようにすれば、
図1のような蓄電システムにおいて用いるのに好適な電源装置10を提供することができる。
【0078】
(7)制御部2a〜2dは、電源部1が有する複数の電源回路1a〜1dの各々に設けられている。これにより、制御部2a〜2dが電源回路1a〜1dをそれぞれ分散制御するようにしたので、簡易なアルゴリズムで制御部2a〜2dの動作を実現可能である。
【0079】
(第2の実施形態)
次に本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態では、電源部1の電源回路1a〜1dを一つの統合制御部が集中制御する例について説明する。
【0080】
図9は、本発明の第2の実施形態に係る電源装置を適用した蓄電システムの全体構成図である。
図9に示す蓄電システムは、
図1に示した第1の実施形態に係る蓄電システムと比較して、電源装置10の代わりに電源装置100が設けられている点が異なっている。電源装置100は、
図1と同様の電源部1と、電源部1の電源回路1a、1b、1cおよび1dにそれぞれ接続された駆動制御部20a、20b、20cおよび20dと、電源回路1a〜1dを集中制御する統合制御部4とを備える。
【0081】
図10は、電源回路1aおよび駆動制御部20aの構成図である。
図10において、電源回路1aの構成は、
図2に示したものと同一である。また、第1の実施形態における制御部2a〜2dと同様に、駆動制御部20a〜20dは同一の構成を有している。そのため、以下ではこれらを代表して、駆動制御部20aの構成について説明する。
【0082】
駆動制御部20aは、第1の実施形態において
図2に示したものと同じゲート駆動回路21a〜21dと、駆動制御回路220とを有する。駆動制御回路220は、第1の実施形態で説明した制御回路22の機能のうち、PWM制御に係る機能を分担する。具体的には、
図3の制御ブロック図のうち、差分演算部31、PI制御部32、除算演算部39、差分演算部40、PI制御部41およびPWM制御部42に相当する各機能が駆動制御回路220において実現される。
【0083】
一方、
図9の統合制御部4は、第1の実施形態で説明した制御回路22の機能のうち、稼働台数mの決定および動作中の各電源回路に対する位相シフト量θsの設定に係る機能を分担する。具体的には、
図3の制御ブロック図のうち、乗算演算部33、稼働台数決定部34、参照テーブル記憶部35、位相シフト量設定部36、位相テーブル記憶部37およびID設定部38に相当する各機能を制御部2a〜2dについて統合したものが、統合制御部4において実現される。
【0084】
本実施形態の電源装置100では、以上説明した駆動制御部20a〜20dの各駆動制御回路220と統合制御部4との機能分担により、第1の実施形態で説明したのと同様の制御が電源回路1a〜1dに対して行われる。これにより、第1の実施形態の電源装置10と同様に、各電源回路の負荷が等しくなるように出力を制御して、電源装置100全体で最も効率の良い運転を行うことができる。
【0085】
なお、本実施形態における駆動制御回路220と統合制御部4との機能分担は、上記で説明したものに限らない。合計負荷率kに基づいて最適な稼働台数mを決定すると共に、動作中の各電源回路での位相差が略等位相となるように位相シフト量θsを設定できれば、どのような機能分担としても構わない。
【0086】
以上説明した本発明の第2の実施形態によれば、第1の実施形態で説明した(1)〜(6)の作用効果に加えて、さらに下記(8)の作用効果を奏する。
【0087】
(8)統合制御部4は、電源部1が有する複数の電源回路1a〜1dに対して一つ設けられている。これにより、統合制御部4が電源回路1a〜1dを集中制御するようにしたので、分散制御の場合と比べて制御演算を実行する演算装置の個数を減らして、さらなるコスト低減を図ることができる。
【0088】
なお、上記の各実施形態では、電源回路1a〜1dとして双方向に電力変換が可能な双方向DC/DCコンバータを用いた例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。たとえば、単方向の電力変換のみが可能な電源回路を並列に接続した電源装置についても、本発明を適用可能であり、前述のような作用効果を得られることは言うまでもない。また、非絶縁型コンバータだけでなく、複数の絶縁型コンバータを並列に構成した場合でも、本発明を適用することで、各コンバータが等負荷となるように稼働台数を制御して、任意の負荷に対して常に最高効率条件で動作させることが可能である。
【0089】
以上説明した各実施形態や変形例はあくまで一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。