特許第6539211号(P6539211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6539211
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】硫黄変性ポリクロロプレン
(51)【国際特許分類】
   C08C 19/20 20060101AFI20190625BHJP
   C08F 36/18 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
   C08C19/20
   C08F36/18
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-550920(P2015-550920)
(86)(22)【出願日】2014年11月25日
(86)【国際出願番号】JP2014081036
(87)【国際公開番号】WO2015080075
(87)【国際公開日】20150604
【審査請求日】2017年11月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-244416(P2013-244416)
(32)【優先日】2013年11月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】能田 直弥
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良知
【審査官】 中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−003120(JP,A)
【文献】 特表平09−501459(JP,A)
【文献】 特開2015−110687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C19/00−19/44
C08F6/00−301/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄変性ポリクロロプレンラテックス固形分100質量部に、
化学式II(化学式II中、RとRはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を示す。RとRのそれぞれは同一のものでもよく異なるものでもよい。)で表される化合物0.5〜5.0質量部と、
化学式III(化学式III中、R〜Rはそれぞれ独立に水素又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。R〜Rのそれぞれは同一のものでもよく異なるものでもよい。)で表される化合物及び化学式IV(化学式IV中、R〜R14はそれぞれ独立に水素又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。R〜R14のそれぞれは同一のものでもよく異なるものでもよい。)で表される化合物の少なくとも一種を合計で0.001〜0.05質量部と、
を添加することによって、硫黄変性ポリクロロプレンラテックスを可塑化して、化学式I(化学式I中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。xは2〜8の整数を示す。)で表される構造の官能基を0.05〜0.5質量%含有する硫黄変性ポリクロロプレンを製造する、硫黄変性ポリクロロプレンの製造方法
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】
【請求項2】
前記化学式IIで表される化合物が、ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド及びジブチルキサントゲンジスルフィドから選ばれる少なくとも一種である請求項に記載の硫黄変性ポリクロロプレンの製造方法
【請求項3】
前記化学式IIIで表される化合物が、5−ブチル−3−エチル−1−フェニル−2−プロピル−1,2−ジヒドロピリジン、3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,2−ジヒドロピリジン及び2,5−ジエチル−1−フェニル−3−プロピル−1,2−ジヒドロピリジンから選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載の硫黄変性ポリクロロプレンの製造方法
【請求項4】
前記化学式IVで表される化合物が、3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,4−ジヒドロピリジン及び4,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,4−ジヒドロピリジンから選ばれる少なくとも一種である請求項1から3のいずれか一項に記載の硫黄変性ポリクロロプレンの製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、混練作業時や加硫作業時にニトロソアミン化合物が発生しにくい硫黄変性ポリクロロプレンに関する。
【背景技術】
【0002】
硫黄変性ポリクロロプレンは、実用に際して可塑化を行って分子量を調節している。硫黄変性ポリクロロプレンの可塑化を行う際には、可塑化剤としてテトラエチルチウラムジスルフィドなどのチウラム化合物が用いられている。
チウラム化合物を用いて可塑化した硫黄変性ポリクロロプレンは、混練作業時や加硫作業時にニトロソアミン化合物が発生する場合がある。
近年、環境への配慮からニトロソアミン化合物が発生しにくい硫黄変性ポリクロロプレンが求められるようになってきた。
【0003】
硫黄変性ポリクロロプレンの混練作業時や加硫作業時にニトロソアミン化合物を発生しにくくする技術として、ジチオカルバミン酸塩やキサントゲン酸塩の存在下でクロロプレンを重合させる手段が知られている(特許文献1参照)。また、不揮発性のテトラアルキルチウラムジスルフィド化合物を用いて硫黄変性ポリクロロプレンを可塑化する手段が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平6−76461号公報
【特許文献2】特開平7−62155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の少なくとも一実施形態の目的は、混練作業時や加硫作業時にニトロソアミン化合物が発生しにくい硫黄変性ポリクロロプレンを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の少なくとも一実施形態に係る硫黄変性ポリクロロプレンは、硫黄変性ポリクロロプレン100質量%中、化学式I(化学式I中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。xは2〜8の整数を示す。)で表される構造の官能基を0.05〜0.5質量%含有する。
【化1】
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態に係る硫黄変性ポリクロロプレンは、硫黄変性ポリクロロプレンラテックス固形分100質量部に、化学式II(化学式II中、RとRはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を示す。RとRのそれぞれは同一のものでもよく異なるものでもよい。)で表される化合物0.5〜5.0質量部と、化学式III(化学式III中、R〜Rはそれぞれ独立に水素又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。R〜Rのそれぞれは同一のものでもよく異なるものでもよい。)で表される化合物及び化学式IV(化学式IV中、R〜R14はそれぞれ独立に水素又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。R〜R14のそれぞれは同一のものでもよく異なるものでもよい。)で表される化合物の少なくとも一種を合計で0.001〜0.05質量部と、を添加することによって、硫黄変性ポリクロロプレンラテックスを可塑化して前記化学式Iで表される構造の官能基を硫黄変性ポリクロロプレン中に生成させて得られるものであってもよい。
【化2】
【化3】
【化4】
【0008】
前記化学式IIで表される化合物は、ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド及びジブチルキサントゲンジスルフィドから選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0009】
前記化学式IIIで表される化合物は、5−ブチル−3−エチル−1−フェニル−2−プロピル−1,2−ジヒドロピリジン、3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,2−ジヒドロピリジン及び2,5−ジエチル−1−フェニル−3−プロピル−1,2−ジヒドロピリジンから選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0010】
前記化学式IVで表される化合物は、3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,4−ジヒドロピリジン及び4,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,4−ジヒドロピリジンから選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0011】
なお、本開示において「混練作業時や加硫作業時にニトロソアミン化合物が発生しにくい硫黄変性ポリクロロプレン」とは、混練作業時や加硫作業時において、ニトロソアミン化合物の発生量が検出限界値である0.004ppm未満であるか、ニトロソアミン化合物が発生しない硫黄変性ポリクロロプレンを示す。
【発明の効果】
【0012】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、混練作業時や加硫作業時にニトロソアミン化合物が発生しにくい硫黄変性ポリクロロプレンが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の少なくとも一実施形態に係る硫黄変性ポリクロロプレンは、硫黄変性ポリクロロプレン100質量%中、前記化学式Iで表される構造の官能基を0.05〜0.5質量%含有するものである。
【0014】
<硫黄変性ポリクロロプレン>
硫黄変性ポリクロロプレンは、硫黄の存在下で、クロロプレン単独又はクロロプレンと他の単量体とを乳化重合して主鎖に硫黄を導入した硫黄変性ポリクロロプレンラテックスを得、得られた硫黄変性ポリクロロプレンラテックスを後述する特定の化合物を用いて可塑化し、一般的な方法で乾燥洗浄して得ることができる。
【0015】
硫黄変性ポリクロロプレンに含有された硫黄は、硫黄変性ポリクロロプレン中でポリスルフィド結合(S2〜S8)を形成している。ポリスルフィド結合は、後述する可塑化工程において、前記化学式IIで表される化合物と反応して硫黄変性ポリクロロプレンに前記化学式Iで表される構造の官能基を形成するものである。
クロロプレンを重合させる際に添加する硫黄の量は、クロロプレン100質量部に対して、0.2〜0.8質量部の範囲が好ましく、0.3〜0.6質量部の範囲がより好ましい。添加する硫黄の量が0.2質量部以上であると、機械的特性や動的特性がより良好となり、また、可塑化工程での可塑化速度がより速まって生産性をより高めることができる。また、添加する硫黄の量が0.8質量部以下であると、加工時の作業性がより良好となる。
【0016】
硫黄変性ポリクロロプレンの好ましいムーニー粘度は、20〜110ML(1+4)100℃、より好ましくは30〜100ML(1+4)100℃、更に好ましくは30〜60ML(1+4)100℃の範囲に調整する。硫黄変性ポリクロロプレンのムーニー粘度をこの範囲に調整することによって、硫黄変性ポリクロロプレンの混練作業時に、粘度低下による混練ロールへの付着や、粘度上昇による混練不良などが発生しにくくなる。
【0017】
クロロプレンと共重合可能な他の単量体としては、例えば、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、イソプレン、ブタジエン、メタクリル酸及びこれらのエステル類がある。これらの単量体は、単独で使用しても、複数組み合わせて使用してもよい。
【0018】
<化学式Iで表される構造の官能基>
硫黄変性ポリクロロプレン100質量%に含有される前記化学式Iで表される構造の官能基の量は、0.05〜0.5質量%であり、好ましくは0.1〜0.3質量%である。前記化学式Iで表される構造の官能基の量が0.05質量%に満たないと、得られる硫黄変性ポリクロロプレンのスコーチタイムが極端に短くなって加工途中で硬化してしまう。また、前記化学式Iで表される構造の官能基の量が0.5質量%を超えてしまうと、ムーニー粘度が低下しすぎて混練作業の作業効率が極端に低下してしまう。
【0019】
硫黄変性ポリクロロプレン中に前記化学式Iで表される構造の官能基を導入するには、重合終了後の硫黄変性ポリクロロプレンラテックスに、前記化学式IIで表される化合物と、前記化学式III及び前記化学式IVで表される化合物の少なくとも一種と、を添加して可塑化すればよい。
【0020】
また、硫黄変性ポリクロロプレン中の前記化学式Iで表される構造の官能基の含有量を調整するには、前記化学式IIで表される化合物の添加量や硫黄変性ポリクロロプレンの可塑化時間を調整すればよい。
【0021】
ここで可塑化とは、硫黄変性ポリクロロプレンの分子鎖を化学的に切断、解重合して分子鎖長を短くし、得られる硫黄変性ポリクロロプレンのムーニー粘度を成形加工に適する程度である20〜110MLの範囲まで下げる工程である。具体的には、重合終了後の硫黄変性ポリクロロプレンラテックスに、前記化学式IIで表される化合物と、前記化学式IIIで表される化合物及び前記化学式IVで表される化合物の少なくとも一種と、を添加し、40〜70℃の温度で所定のムーニー粘度に達するまで攪拌すればよい。可塑化が終了した硫黄変性ポリクロロプレンラテックスは、通常の凍結乾燥工程や洗浄工程を経て、固形の硫黄変性ポリクロロプレンとすることができる。
【0022】
硫黄変性ポリクロロプレンの可塑化において、可塑化時間は、生産性と品質管理の観点から30〜100分が好ましく、30〜60分がより好ましい。また、可塑化温度は、生産性の観点から20〜70℃が好ましく、35〜60℃がより好ましい。
【0023】
硫黄変性ポリクロロプレンに含有される前記化学式Iで表される構造の官能基の含有量は、次の手順で定量することができる。
先ず、得られた硫黄変性ポリクロロプレンをベンゼンとメタノールで精製し、再度凍結乾燥して測定用試料を得る。得られた測定用試料を、JIS K−6239に準拠して、重水素化クロロホルムに溶解させてH−NMR測定を行う。測定によって得られた測定データを、溶媒とした重水素化クロロホルム中のクロロホルムのピーク(7.24ppm)を基準に補正する。
補正した測定データに基づいて、3.44〜3.52ppmと3.58〜3.64ppmと3.70〜3.74ppmとにピークトップを有するピークの面積を算出する。
【0024】
ここで、3.44〜3.52ppmと3.58〜3.64ppm及び3.70〜3.74ppmにおけるピークは、化学式V(化学式V中、Pはポリマーを示す。R15は炭素数1〜4のアルキル基、xは2〜8の整数を表す)中の「−Sx−C(=S)−O−R15」や化学式VI(化学式VI中、Pはポリマーを示し、R16は炭素数1〜4のアルキル基、xは2〜8の整数を表す)中の「−Sx−C(=S)−O−R16」に結合しているクロロプレンのメチレン基に由来するものである。
【化5】
【化6】
【0025】
<化学式IIで表される化合物>
前記化学式IIで表される化合物は、硫黄変性ポリクロロプレンを可塑化するために添加するものである。これらの化合物は、分子中にニトロソアミン化合物の原因物質である窒素原子を含有しないものであり、これを用いて可塑化した硫黄変性ポリクロロプレンは、混練作業時や加硫作業時にニトロソアミン化合物が発生しにくいものとなる。
【0026】
前記化学式IIで表される化合物は、可塑化の際に分子構造中のS−S結合が切断されてチオラートアニオン又はチイルラジカルとなる。これらチオラートアニオン又はチイルラジカルが、硫黄変性ポリクロロプレンのポリスルフィド結合(S2〜S8)を切断、結合して、前記化学式Iで表される構造の官能基として硫黄変性ポリクロロプレンに生成される。すなわち、前記化学式IにおけるSxのうちの1つの原子は前記化学式IIの分解したS原子に由来するものであり、Rは、前記化学式IIにおけるRまたはRに由来するアルキル基である。
【0027】
前記化学式IIで表される化合物の添加量は、硫黄変性ポリクロロプレン100質量部あたり0.5〜5.0質量部の範囲であることが好ましく、0.5〜2.5質量部の範囲であることがより好ましい。前記化学式IIで表される化合物の添加量が0.5質量部以上であると、可塑化効果が高まって生産性がより向上する。前記化学式IIで表される化合物の添加量が5.0質量部以下であると、可塑化効果がより向上し、適正加硫までの速度がより速まるため、生産性がより高まる。
【0028】
前記化学式IIで表される化合物としては、例えば、ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド及びジブチルキサントゲンジスルフィドがあり、これらを少なくとも1種用いることができる。これらのなかでも、硫黄変性ポリクロロプレンの可塑化効果が高いことから、ジエチルキサントゲンジスルフィド及びジイソプロピルキサントゲンジスルフィドを単独で又は2種組み合わせて用いることが好ましく、ジエチルキサントゲンジスルフィド又はジイソプロピルキサントゲンジスルフィドを単独で用いることがより好ましい。
【0029】
<化学式IIIで表される化合物及び化学式IVで表される化合物>
前記化学式IIIで表される化合物及び前記化学式IVで表される化合物は、前記化学式IIで表される化合物が硫黄変性ポリクロロプレンを可塑化する反応を促進させるために添加するものである。
【0030】
前記化学式IIIで表される化合物及び前記化学式IVで表される化合物の少なくとも1種の添加量は、硫黄変性ポリクロロプレン固形分100質量部あたり、合計で0.0005〜0.1質量部の範囲が好ましく、0.001〜0.05質量部の範囲がより好ましい。添加量をこの範囲に調整することによって、これら化合物による可塑化促進効果が発揮されるとともに、得られる硫黄変性ポリクロロプレンの貯蔵安定性も維持できる。
【0031】
前記化学式IIIで表される化合物としては、例えば、5−ブチル−3−エチル−1−フェニル−2−プロピル−1,2−ジヒドロピリジン、3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,2−ジヒドロピリジン及び2,5−ジエチル−1−フェニル−3−プロピル−1,2−ジヒドロピリジンがあり、これらを少なくとも1種用いることができる。これらの化合物のなかでも、5−ブチル−3−エチル−1−フェニル−2−プロピル−1,2−ジヒドロピリジン、3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,2−ジヒドロピリジン及び2,5−ジエチル−1−フェニル−3−プロピル−1,2−ジヒドロピリジンを単独で又は2種組み合わせて用いることが好ましい。硫黄変性ポリクロロプレンの可塑化反応を促進させる効果が高いことから、前記化学式IIIで表される化合物として、少なくとも、3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,2−ジヒドロピリジンを用いることがより好ましい。
【0032】
前記化学式IVで表される化合物としては、例えば、3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,4−ジヒドロピリジン及び4,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,4−ジヒドロピリジンがあり、これらを少なくとも1種用いることができる。これらの化合物のなかでも、少なくとも、3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,4−ジヒドロピリジンを用いると硫黄変性ポリクロロプレンの可塑化反応を促進させる効果が高いため好ましい。
【0033】
<その他の添加物>
硫黄変性ポリクロロプレンの可塑化に際しては、チウラム類以外の可塑化剤であれば、一般に知られている可塑化剤を併用してもよい。このような可塑化剤としては、例えば、キサントゲン酸塩である、エチルキサントゲン酸カリウムや2,2−(2,4−ジオキソペンタメチレン)−n−ブチル−キサントゲン酸ナトリウムがある。
【0034】
硫黄変性ポリクロロプレンには、貯蔵時のムーニー粘度変化を防止するために安定剤を添加させることもできる。安定剤としては、例えば、2,6−ジ−ターシャリー−ブチル−4−フェニルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ターシャリー−ブチルフェノール)及び4,4’−チオビス−(6−ターシャリー−ブチル−3−メチルフェノール)がある。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の少なくとも一実施形態による効果について具体的に説明する。
【0036】
[実施例1]
実施例1の硫黄変性ポリクロロプレンは、前記化学式Iで表される構造の官能基として、化学式VII(化学式VII中、xは2〜8の整数を示す。)で表される構造の官能基を0.20質量%含有する硫黄変性ポリクロロプレンである。
【化7】
【0037】
実施例1の硫黄変性ポリクロロプレンは、化学式IIで表される化合物として「ジエチルキサントゲンジスルフィド」を可塑化剤として用い、化学式IIIで表される化合物「3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,2−ジヒドロピリジン」と化学式IVで表される化合物「3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,4−ジヒドロピリジン」を可塑化促進剤として添加して、50℃で60分間可塑化して前記化学式VIIで表される構造の官能基を導入したものである。
【0038】
実施例1の硫黄変性ポリクロロプレンは、ニトロソアミン化合物であるN−ニトロソアミンの発生量がGC−MSの検出下限値である0.004ppm未満であった。また、ムーニー粘度も40ML(1+4)100℃であり実用的なものであった。
実施例1の硫黄変性ポリクロロプレンの具体的な作製手順、評価用サンプルの調整及び評価は、以下のとおり行った。
【0039】
<硫黄変性ポリクロロプレンラテックスの作製>
内容積30リットルの重合缶に、クロロプレン単量体100質量部、硫黄0.5質量部、純水105質量部、不均化ロジン酸カリウム(ハリマ化成株式会社製)5.00質量部、水酸化ナトリウム0.40質量部、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(商品名デモールN:花王株式会社製)0.5質量部を添加した。重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加し、重合温度40℃にて窒素気流下で重合を行った。重合率80%となった時点で重合停止剤であるフェノチアジンを加えて重合を停止させた。
重合終了後の重合液に、クロロプレン単量体3.0質量部、ジエチルキサントゲンジスルフィド(商品名サンビットDIX:三新化学工業株式会社製)2.5質量部、3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,2−ジヒドロピリジン0.0025質量部、3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,4−ジヒドロピリジン0.0025質量部、β−ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩0.05質量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.05質量部からなる可塑化剤乳化液を添加し、可塑化前の硫黄変性ポリクロロプレンラテックスを得た。
【0040】
<硫黄変性ポリクロロプレンの作製>
上述の方法によって得られた可塑化前の硫黄変性ポリクロロプレンラテックスを、減圧蒸留して未反応の単量体を除去した後、液温度50℃で60分間可塑化して可塑化後の硫黄変性ポリクロロプレンラテックスを得た。得られた可塑化後の硫黄変性ポリクロロプレンラテックスを室温まで冷却した後、酢酸を添加してpHを6.0に調整し、常法の凍結−凝固法で重合体を単離して、硫黄変性ポリクロロプレンを得た。
【0041】
<評価>
「化学式Iで表される構造の官能基の含有量」
硫黄変性ポリクロロプレンに含有される前記化学式Iで表される構造の官能基の含有量は以下の手順にて定量した。
得られた硫黄変性ポリクロロプレンをベンゼンとメタノールで精製し、再度凍結乾燥して測定用試料とした。得られた測定用試料を、JIS K−6239に従ってH−NMR測定を行った。得られた測定データを、溶媒とした重水素化クロロホルム中のクロロホルムのピーク(7.24ppm)を基準に補正し、補正した測定データに基づいて、3.44〜3.52ppmと3.58〜3.64ppmと3.70〜3.74ppmとにピークトップを有するピークの面積を算出して定量した。
0.05〜0.5質量%の値を示したものを合格とした。
【0042】
「ムーニー粘度」
硫黄変性ポリクロロプレンのムーニー粘度は、JIS K−6300−1に準拠して、100℃におけるムーニー粘度を測定した。測定サンプルは、JIS K−6300−1の「5.3.1 試験片の採取・作製の2.2)ロール通し法(その他の合成ゴム)」に準拠して作製した。測定は、株式会社島津製作所製ムーニービスコメーターSMV−300を使用し、L型ローターを用いて行った。測定条件は、試験温度100℃、予熱時間1分間、試験時間4分間、ダイの密閉力11.5kNとした。
ムーニー粘度は、20〜110ML(1+4)100℃の値を示したものを合格とした。
【0043】
「ニトロソアミン化合物の発生量」
硫黄変性ポリクロロプレンのニトロソアミン化合物の発生量は、以下に示した手順によってニトロソアミン化合物発生評価サンプルを作製し、JIS T−9010の「3.4.2 総N−ニトロソアミン量とN−ニトロソアミン類の分別定量のd)1)浸せき抽出法」に準拠して試験溶液を調整した後、ヘキサンを用いてゴム成分を再沈殿させて除去し、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)を用いて定量した。ニトロソアミン化合物の定量は、ニトロアミン化合物の発生量が特定されている標準物質を用いて標準液を調整した後、同条件で測定して検量線を作成し、内標準法で行った。
測定は、Agilent Technologies社製の、ガスクロマトグラフAgilent6890Nと質量分析計Agilent5973MSDを用いて、N−ニトロソジメチルアミン、N−ニトロソジエチルアミン、N−ニトロソジプロピルアミン、N−ニトロソジブチルアミン、N−ニトロソピペリジン、N−ニトロソモルホリン、N−ニトロソ−N−メチル−N−フェニルアミン、N−ニトロソ−N−エチル−N−フェニルアミン、N−ニトロソジイソプロピルアミン、N−ニトロソ−N−エチル−N−メチルアミン及びN−ニトロソジエタノールアミンの発生量についてそれぞれ測定し、これら化合物の発生量の合計量をニトロソアミン化合物の発生量とした。
ニトロソアミン化合物の発生量は、検出下限値である0.004ppm未満の値を示したものを合格とした。
【0044】
ニトロソアミン化合物の発生量を測定する評価サンプルは、上述の方法で得られた硫黄変性クロロプレン100質量部に、ステアリン酸0.5質量部と、酸化マグネシウム4質量部と、酸化亜鉛5.0質量部とを、8インチロールを用いて混合し、150℃で30分間プレス架橋し、1〜2mm角に切断して5gに調整したものを使用した。
【0045】
[実施例2〜18、比較例1〜4]
硫黄変性ポリクロロプレンラテックスを作製する際に添加する化合物及び可塑化剤の処方を、下記表1又は表2に示した通り変更して実施例1と同様に硫黄変性ポリクロロプレンラテックスを作製して可塑化し、硫黄変性ポリクロロプレンを得た。得られた硫黄変性ポリクロロプレンについて、実施例1と同様に「化学式Iで表される構造の官能基の含有量」、「ムーニー粘度」を測定した。また、実施例1と同様にニトロソアミン化合物発生評価サンプルを作製して「ニトロソアミン化合物の発生量」を定量した。
【0046】
実施例2〜7、11〜18及び比較例2〜4の硫黄変性ポリクロロプレンにおける化学式Iで表される構造の官能基は、前記化学式VIIで表される構造の官能基と同一のものである。
【0047】
実施例8の硫黄変性ポリクロロプレンにおける化学式Iで表される構造の官能基は、前記化学式VIIで表される構造の官能基におけるエチル基がイソプロピル基に置換された構造のものである。
実施例9の硫黄変性ポリクロロプレンにおける化学式Iで表される構造の官能基は、前記化学式VIIで表される構造の官能基におけるエチル基がメチル基に置換された構造のものである。
実施例10の硫黄変性ポリクロロプレンにおける化学式Iで表される構造の官能基は、前記化学式VIIで表される構造の官能基におけるエチル基がブチル基に置換された構造のものである。
【0048】
上述した実施例1〜10の評価結果を下記表1に、実施例11〜18及び比較例1〜4の評価結果を下記表2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
本発明の少なくとも一実施形態に係る実施例1〜18の硫黄変性ポリクロロプレンは、混練作業時や加硫作業時にニトロソアミン化合物が発生しにくいものであった。
実施例18は、実施例3の原料のうち化学式IIIで表される化合物及び化学式IVで表される化合物を添加しないで作製した硫黄変性ポリクロロプレンである。実施例18の硫黄変性ポリクロロプレンは、実施例3の硫黄変性ポリクロロプレンと比較して、可塑化時間が長いにもかかわらずムーニー粘度は高かった。
このことから、化学式IIIで表される化合物及び化学式IVで表される化合物は、硫黄変性ポリクロロプレンのムーニー粘度を更に下げる効果、すなわち、可塑化反応を更に促進する効果があることが確認された。
【0052】
比較例1の硫黄変性ポリクロロプレンは、ニトロソアミンが発生した。これは、硫黄変性ポリクロロプレンが前記化学式Iで表される構造の官能基を含有していなかったためと考えられる。比較例2の硫黄変性ポリクロロプレンは、240分間の可塑化を行ったにもかかわらずムーニー粘度が120ML(1+4)100℃より低下せず、実用には適さないものであった。これは、前記化学式Iで表される構造の官能基の量が0.05質量%未満であったためと考えられる。比較例3の硫黄変性ポリクロロプレンは、可塑化時間を10分間に短縮したにもかかわらずムーニー粘度が15ML(1+4)100℃と低下しすぎてしまい工業的な製造には適さないものであった。これは、前記化学式Iで表される構造の官能基の量が0.5質量%を超えていたためと考えられる。
【0053】
比較例4は、比較例2の原料のうち化学式IIIで表される化合物及び化学式IVで表される化合物を添加しないで作製した硫黄変性ポリクロロプレンである。比較例4の硫黄変性ポリクロロプレンのムーニー粘度は、300分間の可塑化を行ったが、検出上限値である140ML(1+4)100℃以下とはならず、実施例1〜17と比較して高い値であった。また、比較例4の硫黄変性ポリクロロプレンは、比較例2の硫黄変性ポリクロロプレンと比較して、可塑化時間が長いにもかかわらずムーニー粘度は高かった。
このことから、化学式IIIで表される化合物及び化学式IVで表される化合物は、硫黄変性ポリクロロプレンのムーニー粘度を更に下げる効果、すなわち、可塑化反応を更に促進する効果があることが確認された。
【0054】
なお、本開示は、以下のような構成もとることができる。
(1)前記化学式Iで表される構造の官能基を0.05〜0.5質量%含有する硫黄変性ポリクロロプレン。
(2)硫黄変性ポリクロロプレンラテックス固形分100質量部に、前記化学式IIで表される化合物0.5〜5.0質量部と、前記化学式IIIで表される化合物及び化学式IVで表される化合物の少なくとも一種を合計で0.001〜0.05質量部と、を添加することによって、硫黄変性ポリクロロプレンラテックスを可塑化して前記化学式Iで表される構造の官能基を硫黄変性ポリクロロプレン中に生成させて得られる前記(1)に記載の硫黄変性ポリクロロプレン。
(3)前記化学式IIで表される化合物が、ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド及びジブチルキサントゲンジスルフィドから選ばれる少なくとも一種である前記(2)に記載の硫黄変性ポリクロロプレン。
(4)前記化学式IIIで表される化合物が、5−ブチル−3−エチル−1−フェニル−2−プロピル−1,2−ジヒドロピリジン、3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,2−ジヒドロピリジン及び2,5−ジエチル−1−フェニル−3−プロピル−1,2−ジヒドロピリジンから選ばれる少なくとも一種である前記(2)又は(3)に記載の硫黄変性ポリクロロプレン。
(5)前記化学式IVで表される化合物が、3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,4−ジヒドロピリジン及び4,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,4−ジヒドロピリジンから選ばれる少なくとも一種である前記(2)〜(4)のいずれかに記載の硫黄変性ポリクロロプレン。