【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の少なくとも一実施形態による効果について具体的に説明する。
【0036】
[実施例1]
実施例1の硫黄変性ポリクロロプレンは、前記化学式Iで表される構造の官能基として、化学式VII(化学式VII中、xは2〜8の整数を示す。)で表される構造の官能基を0.20質量%含有する硫黄変性ポリクロロプレンである。
【化7】
【0037】
実施例1の硫黄変性ポリクロロプレンは、化学式IIで表される化合物として「ジエチルキサントゲンジスルフィド」を可塑化剤として用い、化学式IIIで表される化合物「3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,2−ジヒドロピリジン」と化学式IVで表される化合物「3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,4−ジヒドロピリジン」を可塑化促進剤として添加して、50℃で60分間可塑化して前記化学式VIIで表される構造の官能基を導入したものである。
【0038】
実施例1の硫黄変性ポリクロロプレンは、ニトロソアミン化合物であるN−ニトロソアミンの発生量がGC−MSの検出下限値である0.004ppm未満であった。また、ムーニー粘度も40ML(1+4)100℃であり実用的なものであった。
実施例1の硫黄変性ポリクロロプレンの具体的な作製手順、評価用サンプルの調整及び評価は、以下のとおり行った。
【0039】
<硫黄変性ポリクロロプレンラテックスの作製>
内容積30リットルの重合缶に、クロロプレン単量体100質量部、硫黄0.5質量部、純水105質量部、不均化ロジン酸カリウム(ハリマ化成株式会社製)5.00質量部、水酸化ナトリウム0.40質量部、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(商品名デモールN:花王株式会社製)0.5質量部を添加した。重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加し、重合温度40℃にて窒素気流下で重合を行った。重合率80%となった時点で重合停止剤であるフェノチアジンを加えて重合を停止させた。
重合終了後の重合液に、クロロプレン単量体3.0質量部、ジエチルキサントゲンジスルフィド(商品名サンビットDIX:三新化学工業株式会社製)2.5質量部、3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,2−ジヒドロピリジン0.0025質量部、3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,4−ジヒドロピリジン0.0025質量部、β−ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩0.05質量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.05質量部からなる可塑化剤乳化液を添加し、可塑化前の硫黄変性ポリクロロプレンラテックスを得た。
【0040】
<硫黄変性ポリクロロプレンの作製>
上述の方法によって得られた可塑化前の硫黄変性ポリクロロプレンラテックスを、減圧蒸留して未反応の単量体を除去した後、液温度50℃で60分間可塑化して可塑化後の硫黄変性ポリクロロプレンラテックスを得た。得られた可塑化後の硫黄変性ポリクロロプレンラテックスを室温まで冷却した後、酢酸を添加してpHを6.0に調整し、常法の凍結−凝固法で重合体を単離して、硫黄変性ポリクロロプレンを得た。
【0041】
<評価>
「化学式Iで表される構造の官能基の含有量」
硫黄変性ポリクロロプレンに含有される前記化学式Iで表される構造の官能基の含有量は以下の手順にて定量した。
得られた硫黄変性ポリクロロプレンをベンゼンとメタノールで精製し、再度凍結乾燥して測定用試料とした。得られた測定用試料を、JIS K−6239に従って
1H−NMR測定を行った。得られた測定データを、溶媒とした重水素化クロロホルム中のクロロホルムのピーク(7.24ppm)を基準に補正し、補正した測定データに基づいて、3.44〜3.52ppmと3.58〜3.64ppmと3.70〜3.74ppmとにピークトップを有するピークの面積を算出して定量した。
0.05〜0.5質量%の値を示したものを合格とした。
【0042】
「ムーニー粘度」
硫黄変性ポリクロロプレンのムーニー粘度は、JIS K−6300−1に準拠して、100℃におけるムーニー粘度を測定した。測定サンプルは、JIS K−6300−1の「5.3.1 試験片の採取・作製の2.2)ロール通し法(その他の合成ゴム)」に準拠して作製した。測定は、株式会社島津製作所製ムーニービスコメーターSMV−300を使用し、L型ローターを用いて行った。測定条件は、試験温度100℃、予熱時間1分間、試験時間4分間、ダイの密閉力11.5kNとした。
ムーニー粘度は、20〜110ML(1+4)100℃の値を示したものを合格とした。
【0043】
「ニトロソアミン化合物の発生量」
硫黄変性ポリクロロプレンのニトロソアミン化合物の発生量は、以下に示した手順によってニトロソアミン化合物発生評価サンプルを作製し、JIS T−9010の「3.4.2 総N−ニトロソアミン量とN−ニトロソアミン類の分別定量のd)1)浸せき抽出法」に準拠して試験溶液を調整した後、ヘキサンを用いてゴム成分を再沈殿させて除去し、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)を用いて定量した。ニトロソアミン化合物の定量は、ニトロアミン化合物の発生量が特定されている標準物質を用いて標準液を調整した後、同条件で測定して検量線を作成し、内標準法で行った。
測定は、Agilent Technologies社製の、ガスクロマトグラフAgilent6890Nと質量分析計Agilent5973MSDを用いて、N−ニトロソジメチルアミン、N−ニトロソジエチルアミン、N−ニトロソジプロピルアミン、N−ニトロソジブチルアミン、N−ニトロソピペリジン、N−ニトロソモルホリン、N−ニトロソ−N−メチル−N−フェニルアミン、N−ニトロソ−N−エチル−N−フェニルアミン、N−ニトロソジイソプロピルアミン、N−ニトロソ−N−エチル−N−メチルアミン及びN−ニトロソジエタノールアミンの発生量についてそれぞれ測定し、これら化合物の発生量の合計量をニトロソアミン化合物の発生量とした。
ニトロソアミン化合物の発生量は、検出下限値である0.004ppm未満の値を示したものを合格とした。
【0044】
ニトロソアミン化合物の発生量を測定する評価サンプルは、上述の方法で得られた硫黄変性クロロプレン100質量部に、ステアリン酸0.5質量部と、酸化マグネシウム4質量部と、酸化亜鉛5.0質量部とを、8インチロールを用いて混合し、150℃で30分間プレス架橋し、1〜2mm角に切断して5gに調整したものを使用した。
【0045】
[実施例2〜18、比較例1〜4]
硫黄変性ポリクロロプレンラテックスを作製する際に添加する化合物及び可塑化剤の処方を、下記表1又は表2に示した通り変更して実施例1と同様に硫黄変性ポリクロロプレンラテックスを作製して可塑化し、硫黄変性ポリクロロプレンを得た。得られた硫黄変性ポリクロロプレンについて、実施例1と同様に「化学式Iで表される構造の官能基の含有量」、「ムーニー粘度」を測定した。また、実施例1と同様にニトロソアミン化合物発生評価サンプルを作製して「ニトロソアミン化合物の発生量」を定量した。
【0046】
実施例2〜7、11〜18及び比較例2〜4の硫黄変性ポリクロロプレンにおける化学式Iで表される構造の官能基は、前記化学式VIIで表される構造の官能基と同一のものである。
【0047】
実施例8の硫黄変性ポリクロロプレンにおける化学式Iで表される構造の官能基は、前記化学式VIIで表される構造の官能基におけるエチル基がイソプロピル基に置換された構造のものである。
実施例9の硫黄変性ポリクロロプレンにおける化学式Iで表される構造の官能基は、前記化学式VIIで表される構造の官能基におけるエチル基がメチル基に置換された構造のものである。
実施例10の硫黄変性ポリクロロプレンにおける化学式Iで表される構造の官能基は、前記化学式VIIで表される構造の官能基におけるエチル基がブチル基に置換された構造のものである。
【0048】
上述した実施例1〜10の評価結果を下記表1に、実施例11〜18及び比較例1〜4の評価結果を下記表2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
本発明の少なくとも一実施形態に係る実施例1〜18の硫黄変性ポリクロロプレンは、混練作業時や加硫作業時にニトロソアミン化合物が発生しにくいものであった。
実施例18は、実施例3の原料のうち化学式IIIで表される化合物及び化学式IVで表される化合物を添加しないで作製した硫黄変性ポリクロロプレンである。実施例18の硫黄変性ポリクロロプレンは、実施例3の硫黄変性ポリクロロプレンと比較して、可塑化時間が長いにもかかわらずムーニー粘度は高かった。
このことから、化学式IIIで表される化合物及び化学式IVで表される化合物は、硫黄変性ポリクロロプレンのムーニー粘度を更に下げる効果、すなわち、可塑化反応を更に促進する効果があることが確認された。
【0052】
比較例1の硫黄変性ポリクロロプレンは、ニトロソアミンが発生した。これは、硫黄変性ポリクロロプレンが前記化学式Iで表される構造の官能基を含有していなかったためと考えられる。比較例2の硫黄変性ポリクロロプレンは、240分間の可塑化を行ったにもかかわらずムーニー粘度が120ML(1+4)100℃より低下せず、実用には適さないものであった。これは、前記化学式Iで表される構造の官能基の量が0.05質量%未満であったためと考えられる。比較例3の硫黄変性ポリクロロプレンは、可塑化時間を10分間に短縮したにもかかわらずムーニー粘度が15ML(1+4)100℃と低下しすぎてしまい工業的な製造には適さないものであった。これは、前記化学式Iで表される構造の官能基の量が0.5質量%を超えていたためと考えられる。
【0053】
比較例4は、比較例2の原料のうち化学式IIIで表される化合物及び化学式IVで表される化合物を添加しないで作製した硫黄変性ポリクロロプレンである。比較例4の硫黄変性ポリクロロプレンのムーニー粘度は、300分間の可塑化を行ったが、検出上限値である140ML(1+4)100℃以下とはならず、実施例1〜17と比較して高い値であった。また、比較例4の硫黄変性ポリクロロプレンは、比較例2の硫黄変性ポリクロロプレンと比較して、可塑化時間が長いにもかかわらずムーニー粘度は高かった。
このことから、化学式IIIで表される化合物及び化学式IVで表される化合物は、硫黄変性ポリクロロプレンのムーニー粘度を更に下げる効果、すなわち、可塑化反応を更に促進する効果があることが確認された。
【0054】
なお、本開示は、以下のような構成もとることができる。
(1)前記化学式Iで表される構造の官能基を0.05〜0.5質量%含有する硫黄変性ポリクロロプレン。
(2)硫黄変性ポリクロロプレンラテックス固形分100質量部に、前記化学式IIで表される化合物0.5〜5.0質量部と、前記化学式IIIで表される化合物及び化学式IVで表される化合物の少なくとも一種を合計で0.001〜0.05質量部と、を添加することによって、硫黄変性ポリクロロプレンラテックスを可塑化して前記化学式Iで表される構造の官能基を硫黄変性ポリクロロプレン中に生成させて得られる前記(1)に記載の硫黄変性ポリクロロプレン。
(3)前記化学式IIで表される化合物が、ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド及びジブチルキサントゲンジスルフィドから選ばれる少なくとも一種である前記(2)に記載の硫黄変性ポリクロロプレン。
(4)前記化学式IIIで表される化合物が、5−ブチル−3−エチル−1−フェニル−2−プロピル−1,2−ジヒドロピリジン、3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,2−ジヒドロピリジン及び2,5−ジエチル−1−フェニル−3−プロピル−1,2−ジヒドロピリジンから選ばれる少なくとも一種である前記(2)又は(3)に記載の硫黄変性ポリクロロプレン。
(5)前記化学式IVで表される化合物が、3,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,4−ジヒドロピリジン及び4,5−ジエチル−1−フェニル−2−プロピル−1,4−ジヒドロピリジンから選ばれる少なくとも一種である前記(2)〜(4)のいずれかに記載の硫黄変性ポリクロロプレン。