【実施例】
【0046】
〔水素を含まないフッ素オリゴマーの添加量の影響〕
《実施例1〜10、比較例1》
<原料>
原料には、以下の製品を用いた。
・フッ素オリゴマー(a):デュポン社製、Krytox 143AD、分子量7480
・エラストマー(B):ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社、フッ素ゴム P959
・共架橋剤:日本化成社製、TAIC
・架橋剤:日本油脂社製、25B
・充填材:カンカーブ(cancarb limited)社製、MTカーボンN990
【0047】
<混練組成物の作製>
2軸オープンロールに、エラストマー(B)、充填材、共架橋剤、架橋剤、フッ素オリゴマーを表1に示す配合となるように投入し混練した。混練時間は、フッ素オリゴマーの添加量が多くなるほど長くし、フッ素オリゴマーの大きさが同程度になるように調整した。
【0048】
<成型温度、成型時間>
先ず、MDR装置(Flexsys社製、RHEOMETER MDR 2000)に、上記混練組成物を適量投入した。そして、150℃、1時間で試験を実施し、成型時間の指標となるTc90のデータを得た。
【0049】
<成型、2次架橋(Oリングの製造)>
150℃に加熱したOリング成型用金型に混練組成物を適量投入した。次に、MDRで算出したTc90を基に決定した時間の1.2倍の時間にて各サンプルを成型した。成型終了後、金型から成型体を取り出し、不要なバリを取り除いた。そして、180℃のオーブン中で4時間二次架橋を実施し、シール材を製造した。
【0050】
【表1】
【0051】
(1)耐プラズマ性評価
以下の条件でプラズマを曝露し、曝露前後での試験片の質量減少率で耐プラズマ性を評価した。
・装置:神港精機製表面波プラズマエッチング装置
・試験片:φ3.53×30mm(AS568−214サイズのカット品)
・ガス:O
2+CF
4
・処理圧力:133Pa
・出力:3kW
・曝露時間:2時間
・重量減少率(重量%)=〔(プラズマ曝露前の重量−プラズマ曝露直後の重量)/(プラズマ曝露前の重量)〕×100
【0052】
図1は、耐プラズマ性能の評価結果を表すグラフである。
図1から明らかなように、エラストマー(B)に対するフッ素オリゴマー(a)の添加割合が、0.1重量%でも耐プラズマ性能が向上した。そして、フッ素オリゴマー(a)の添加量が3重量%までは、耐プラズマ性能が急激に向上し、以後はフッ素オリゴマー(a)の添加量が増えるにしたがって、耐プラズマ性能が徐々に向上した。
【0053】
また、
図2は成型時間のグラフである。
図2から明らかなように、フッ素オリゴマー(a)の添加量が多くなるほど、成型時間が増加した。
【0054】
図1及び
図2に示す結果より、エラストマー(B)に耐プラズマ性能を付与するとの観点では、エラストマー(B)に対するフッ素オリゴマー(a)の添加量は、実施例1〜10に示す0.1〜30重量%の範囲であればよい。一方、フッ素オリゴマー(a)の添加量に対する耐プラズマ性能と成型時間、つまり、生産効率を考えると、エラストマー(B)に対するフッ素オリゴマーの添加量は、1〜15重量%程度がより好ましいことが明らかとなった。
【0055】
(2)シール材中のフッ素オリゴマー(a)の測定
実施例5の試験片から切片を採取し、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JEM−2000X」)を用いて透過電子顕微鏡写真を撮影した。
図3は、撮影した写真で、写真中の白い点がフッ素オリゴマー(a)の微粒子状の凝集体である。写真から明らかなように、フッ素オリゴマー(a)の凝集体が、シール材中に分散していることを確認した。写真中の凝集体の平均粒径は0.4μmであった。なお粒径は、対象となる白い点の重心を通りかつ対象の外周2点を結ぶ径のうちで最大の長さを、その対象の粒径とした。
【0056】
〔フッ素オリゴマーの種類の影響〕
《実施例11〜19》
次に、実施例5の各原料の配合をベースに、フッ素オリゴマーの種類を変えた実験を行った。実施例11〜19で用いたフッ素オリゴマーの種類及び分子量、並びに、各原料の配合は表2のとおりである。また、実験手順は、上記<混練組成物>、<成型温度、成型時間>、<成型、2次架橋(Oリングの製造)>と同様の手順で行い、耐プラズマ性の評価も、上記「(1)耐プラズマ性評価」と同様の手順で行った。
【0057】
【表2】
【0058】
図4は、実施例5、11〜19及び比較例1のシール材の耐プラズマ性能の評価結果を表すグラフである。なお、図中の白抜き番号は実施例の番号を表す。
図4から明らかなように、製造メーカー及び種類によらず、フッ素オリゴマー(a)を添加することで、耐プラズマ性能が向上した。なお、フッ素オリゴマーの種類、同じシリーズでも分子量により耐プラズマ性能に差異が見られた。したがって、製造に際しては、好適な種類のフッ素オリゴマー(a)を用いればよい。
【0059】
〔架橋方法の違いによる耐プラズマ性能への影響〕
《実施例20〜23、比較例2》
上記の実施例1〜19に示したシール材は加熱により架橋したが、γ線によりエラストマー(B)を架橋した場合の耐プラズマ性について実験を行った。
表3に示す配合及び原料を用い、上記<混練組成物>と同様の手順で組成物を作製し、シート状に成型した。次に、常温でγ線照射装置(ラジエ工業株式会社)を用いて、γ線量120kGyで照射を行った。架橋したシール材は、上記「(1)耐プラズマ性評価」と同様の手順で評価を行った。
また、γ線架橋と熱による架橋と比較する為、表3に示す配合及び原料を用いて、上記<混練組成物>、<成型温度、成型時間>、<成型、2次架橋(Oリングの製造)>と同様の手順でシール材を製造し、上記「(1)耐プラズマ性評価」と同様の手順で評価を行った。表3に評価結果を示す。
【0060】
【表3】
【0061】
表3から明らかなように、エラストマー(B)をγ線で架橋すると、熱で架橋した場合より耐プラズマ性能はやや劣るものの、分子量や添加量を調整することで充分な耐プラズマ性能が得られることが分かった。
【0062】
以上の結果より、エラストマー(B)の架橋方法によらず、フッ素オリゴマー(a)を添加することで、耐プラズマ性能が得られることが明らかとなった。したがって、エラストマー(B)を架橋する際の温度に応じて幅広い範囲のフッ素オリゴマー(a)を用いることができる。
【0063】
〔エラストマー(B)及びパーフルオロエラストマー(A)を混合した場合の影響〕
《実施例24〜29、比較例3》
次に、架橋性エラストマーとして、エラストマー(B)と、耐薬品性能を付与することができるパーフルオロエラストマー(A)を混合した実験を行った。
原料は、実施例1〜10と同様の原料に加え、
・パーフルオロエラストマー(A):ダイキン工業社製、ダイエルパーフロGA−15
を用いた。各原料の配合は表4のとおりで、実験手順は、上記<混練組成物>、<成型温度、成型時間>、<成型、2次架橋(Oリングの製造)>と同様に行い、耐プラズマ性の評価も、上記「(1)耐プラズマ性評価」と同様の手順で行った。
【0064】
【表4】
【0065】
図5は、耐プラズマ性能の評価結果を表すグラフである。
図5から明らかなように、エラストマー(B)とパーフルオロエラストマー(A)を混合した場合でも、フッ素オリゴマー(a)の添加量を多くするほど耐プラズマ性能が向上した。上記結果よりエラストマー(B)とパーフルオロエラストマー(A)を混合した架橋性エラストマーにフッ素オリゴマー(a)を添加しても、耐プラズマ性能を向上することができ、負の相互作用はない。したがって、耐薬品性能等が必要な場合は、パーフルオロエラストマー(A)を添加してもよいことが明らかとなった。
【0066】
図6は、実施例27の試験片の切片を採取し、上記「(2)シール材中のフッ素オリゴマー(a)の測定」と同様の手順で撮影した写真である。フッ素オリゴマー(a)とパーフルオロエラストマー(A)は写真中の白い点であるが、写真から両者を区別することは困難である。写真から明らかなように、白い小さな点はエラストマー(B)中に凝集せずに分散していたことから、フッ素オリゴマー(a)とパーフルオロエラストマー(A)を同時にエラストマー(B)に添加しても、分散することが明らかとなった。
【0067】
〔水素を含むフッ素オリゴマーを添加した時の耐プラズマ性能〕
《比較例1、4〜7》
次に、水素を含まないフッ素オリゴマー(a)に代え、水素を含むフッ素オリゴマーを添加した場合の影響について実験を行った。実験は、下記表5に示す配合及び原料とした以外は、上記《実施例1〜10、比較例1》と同様の手順で耐プラズマ性能を調べた。各比較例の重量減少率(重量%)についても、表5に示す。
【0068】
【表5】
【0069】
上記表5に示すように、水素を含むフッ素オリゴマーを添加した場合には、硬度の低下は見られるものの、耐プラズマ性能の向上は見られず、フッ素オリゴマーを添加しなかった場合とほぼ同様の結果となった。以上の結果より、フッ素オリゴマーが水素を含む場合、エラストマー(B)をプラズマから保護する機能を発揮しないことが明らかとなった。したがって、成型品の硬度を低下するとの観点に加え、耐プラズマ性を向上するとの観点からは、水素を含むフッ素オリゴマーより、水素を含まないフッ素オリゴマー(a)の方が好ましいことを確認した。
【0070】
〔フッ素オリゴマー(a)の添加量と硬度の関係〕
実施例1〜10で作製したシール材の硬度は、成型体(Oリング)をBAREISS製マイクロゴム硬度計(型式:HPEII shore AM/M)に設置して測定した。なお、比較のため、パーフルオロエラストマー(A)の添加量を変えたシール材も複数作製し、同様の手順で硬度を調べた。
【0071】
図7は、シール材の硬度の変化率を示すグラフである。なお、グラフはエラストマー(B)のみの硬度を100とし、そして、パーフルオロエラストマー(A)を添加した各シール材と同じ添加量のフッ素オリゴマー(a)を添加した時の硬度を、エラストマー(B)のみの硬度(100)に対する比で表している。
図7から明らかなように、エラストマー(B)に対してパーフルオロエラストマー(A)を添加した場合、エラストマー(B)の硬度は殆ど変化しなかった。一方、エラストマー(B)にフッ素オリゴマー(a)を添加した場合、エラストマー(B)の硬度は低くなった。
【0072】
〔充填材を変えた場合の耐プラズマ性の評価〕
《実施例30、31》
図7に示したように、架橋性エラストマーにフッ素オリゴマー(a)を添加することで、成型品の硬度を下げられることを確認した。次に、実施例1〜10において充填材として用いたカンカーブに換え、耐プラズマ性能に優れるSiCを用いた。原料には、以下の製品を用いた。
・フッ素オリゴマー(a):デュポン社製、Krytox 143AD、分子量7480
・パーフルオロエラストマー(A):ダイキン工業社製、ダイエルパーフロGA−15
・エラストマー(B):ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社、フッ素ゴム P959
・共架橋剤:日本化成社製、TAIC
・架橋剤:日本油脂社製、25B
・充填材:SiC(ナノメーカーズ社製)、かさ密度:0.6g/cm
3
なお、充填材のかさ密度は、100mlメスシリンダー(内径28mm)に5gの粉末を投入し、2cmの高さから20回タッピングした後の目盛りをよみ、その体積から算出した。
【0073】
各原料を表6に示す配合とし、実施例1〜10の<成型、2次架橋(Oリングの製造)>において、160℃で15分成型した以外は、実施例1〜10と同様の手順で、シール材を製造し、耐プラズマ性の評価を行った。評価結果も表6に示す。
【0074】
【表6】
【0075】
表6に示すように、充填材としてSiCを添加することで、耐プラズマ性が著しく向上した。フッ素オリゴマー(a)を添加することで成型品の硬度が下げられる。したがって、従来と同じ硬度の成型品を製造する場合、硬度の低下分を所期の特性を持つ充填材を添加できるので、充填材の種類や添加量等、原料の配合の自由度が大きくなることが明らかとなった。
【0076】
〔架橋性エラストマー成分を変えた場合の硬度変化の評価〕
《実施例32、33、比較例8》
架橋性エラストマーとして、パーフルオロエラストマー(A)のみを用いた場合の硬度変化を評価した。各原料の配合は表7に示すとおりで、パーフロエラストマー(A)は《実施例24〜29》で用いた製品と同様で、その他の原料は《実施例1〜10》と同様である。次に、実施例1〜10と同様の手順で、シール材を製造し、耐プラズマ性の評価を行った。また、硬度については、上記〔フッ素オリゴマー(a)の添加量と硬度の関係〕と同様の手順で行った。評価結果も表7に示す。
【0077】
【表7】
【0078】
表7に示すように、架橋性エラストマーとしてパーフルオロエラストマー(A)のみを用いた場合でも、フッ素オリゴマー(a)を添加することで、成型品の硬度を低下できることが明らかとなった。なお、パーフルオロエラストマー(A)のみを用いた場合、フッ素オリゴマー(a)を添加しても耐プラズマ性はほぼ同じであった。これは、パーフルオロエラストマー(A)が耐プラズマ性に特に優れている材料であるため、耐プラズマ性が変化しなかったと考えられる。
【0079】
《実施例34、比較例9》
次に、架橋性エラストマーとして、エラストマー(B)及びパーフルオロエラストマー(A)以外の、架橋性エラストマーを用いた場合の硬度変化を評価した。各原料の配合は表8に示すとおりで、架橋性エラストマーとして用いたエチレンプロピレンゴム(EPDM、LUNXESS社製 Keltan 8340A)以外の原料は、《実施例1〜10》と同様である。次に、実施例1〜10と同様の手順で、シール材を製造した。また、硬度については、上記〔フッ素オリゴマー(a)の添加量と硬度の関係〕と同様の手順で行った。評価結果も表に示す。
【0080】
【表8】
【0081】
表8に示すように、エラストマー(B)及びパーフルオロエラストマー(A)以外の架橋性エラストマーを用いた場合でも、フッ素オリゴマー(a)を添加することで、成型品の硬度を低下できることが明らかとなった。
【0082】
上記実施例1〜34、及び比較例1〜9の結果より、水素を含まないフッ素オリゴマー(a)を架橋性エラストマーに添加することで、得られた成型品の硬度を低くできることが明らかとなった。更に、架橋性エラストマーの種類によるが、フッ素オリゴマー(a)を添加することで、成型品の耐プラズマ性を向上することができた。したがって、架橋性エラストマーにフッ素オリゴマー(a)を添加することで、成型品の硬度を低下することができ、成型品の柔軟性が高くできる。また、充填材の添加等、組成物・成型品の原料の配合の自由度が大きくできることが明らかとなった。