特許第6539425号(P6539425)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6539425架橋性エラストマー組成物、成型品、シール材、該シール材を含むプラズマ処理装置及び半導体製造装置、並びに、成型品の硬度低下剤、成型品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6539425
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】架橋性エラストマー組成物、成型品、シール材、該シール材を含むプラズマ処理装置及び半導体製造装置、並びに、成型品の硬度低下剤、成型品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20190625BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20190625BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20190625BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20190625BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20190625BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
   C08L27/12
   C08L27/18
   C08L53/00
   C08L71/00
   C08L83/04
   C09K3/10 M
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-76659(P2019-76659)
(22)【出願日】2019年4月12日
(62)【分割の表示】特願2017-553867(P2017-553867)の分割
【原出願日】2016年11月29日
【審査請求日】2019年4月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-233655(P2015-233655)
(32)【優先日】2015年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】大谷 浩二郎
(72)【発明者】
【氏名】窪山 剛
(72)【発明者】
【氏名】清水 智也
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特表平08−508532(JP,A)
【文献】 特開平01−193349(JP,A)
【文献】 特開2004−307765(JP,A)
【文献】 特開2006−206874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C09K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含まないフッ素オリゴマー(a)、及び、架橋性エラストマー、
を少なくとも含み、
前記水素を含まないフッ素オリゴマー(a)は、
分子量が3830〜8200であり、
下記式(1)乃至(8)で表される基本骨格を含むフッ素オリゴマーから選択され、
前記架橋性エラストマーが、
ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロペン系共重合体、ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロペン/テトラフロロエチレン系共重合体、テトラフロロエチレン/プロピレン系共重合体、これらの共重合体にエチレンまたはパーフロロアルキルビニルエーテルを共重合させたもの、ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロペン/テトラフロロエチレン系共重合体とテトラフロロエチレン/エチレン交互共重合体またはポリビニリデンフロライドとのブロック共重合体、シリコーンゴムから選ばれる少なくとも1種のエラストマー(B)、及び、
パーフルオロオレフィンと、パーフルオロ(アルキルビニル)エーテル、パーフルオロ(アルコキシビニル)エーテル及びその混合物からなる群より選択されたパーフルオロビニルエーテルと、硬化部位モノマーとの共重合単位を含有するパーフルオロエラストマー(A)、
含み、
前記架橋性エラストマーに対する前記水素を含まないフッ素オリゴマー(a)の割合が、0.1〜30重量%である、
架橋性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記架橋性エラストマーの合計重量を100とした時、前記パーフルオロエラストマー(A)の割合が99.5以下である、
請求項1に記載の架橋性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記架橋性エラストマーに対する前記水素を含まないフッ素オリゴマー(a)の割合が1〜15重量%である、
請求項1に記載の架橋性エラストマー組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の架橋性エラストマー組成物を架橋して得られる成型品。
【請求項5】
請求項4に記載の成型品の形状がシール状であるシール材。
【請求項6】
請求項5に記載のシール材を含むプラズマ処理装置。
【請求項7】
請求項5に記載のシール材を含む半導体製造装置。
【請求項8】
水素を含まないフッ素オリゴマー(a)、及び、架橋性エラストマーを少なくとも含む架橋性エラストマー組成物を架橋する工程を含み、
前記水素を含まないフッ素オリゴマー(a)は、
分子量が3830〜8200であり、
下記式(1)乃至(8)で表される基本骨格を含むフッ素オリゴマーから選択され、
前記架橋性エラストマーが、
ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロペン系共重合体、ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロペン/テトラフロロエチレン系共重合体、テトラフロロエチレン/プロピレン系共重合体、これらの共重合体にエチレンまたはパーフロロアルキルビニルエーテルを共重合させたもの、ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロペン/テトラフロロエチレン系共重合体とテトラフロロエチレン/エチレン交互共重合体またはポリビニリデンフロライドとのブロック共重合体、シリコーンゴムから選ばれる少なくとも1種のエラストマー(B)、及び、
パーフルオロオレフィンと、パーフルオロ(アルキルビニル)エーテル、パーフルオロ(アルコキシビニル)エーテル及びその混合物からなる群より選択されたパーフルオロビニルエーテルと、硬化部位モノマーとの共重合単位を含有するパーフルオロエラストマー(A)、
含み、
前記架橋性エラストマーに対する前記水素を含まないフッ素オリゴマー(a)の割合が、0.1〜30重量%である、
成型品の製造方法。
【請求項9】
ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロペン系共重合体、ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロペン/テトラフロロエチレン系共重合体、テトラフロロエチレン/プロピレン系共重合体、これらの共重合体にエチレンまたはパーフロロアルキルビニルエーテルを共重合させたもの、ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロペン/テトラフロロエチレン系共重合体とテトラフロロエチレン/エチレン交互共重合体またはポリビニリデンフロライドとのブロック共重合体、シリコーンゴムから選ばれる少なくとも1種のエラストマー(B)、及び、
パーフルオロオレフィンと、パーフルオロ(アルキルビニル)エーテル、パーフルオロ(アルコキシビニル)エーテル及びその混合物からなる群より選択されたパーフルオロビニルエーテルと、硬化部位モノマーとの共重合単位を含有するパーフルオロエラストマー(A)、
を含む架橋性エラストマーを架橋して得られる成型品の硬度低下および耐プラズマ性向上のための、
分子量が3830〜8200であり、下記式(1)乃至(8)で表される基本骨格を含む、
水素を含まないフッ素オリゴマー(a)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、成型品を製造するための架橋性エラストマー組成物、該架橋性エラストマー組成物を架橋して得られる成型品、シール材、該シール材を含むプラズマ処理装置及び半導体製造装置、並びに、成型品の硬度低下剤、成型品の製造方法に関する。
【0002】
プラズマ雰囲気や薬品雰囲気等の環境下で使用される装置に用いるシール材等の成型品には、様々な化学種に対して高い安定性が求められており、主にフッ素系エラストマーからなる成型品が使用される(特許文献1参照)。これらの装置では、近年効率化等の理由から高濃度で化学反応性の高いガス、薬液等が使用されるようになっており、これまで広く用いられているフッ素系エラストマーからなる成型品では、劣化が激しく使用できないという問題が起こっている。
【0003】
フッ素系エラストマーの中でもパーフルオロエラストマーは特に優れた耐プラズマ性、耐薬品性を示すことから、上記の厳しい環境下で使用される装置に多用されている(特許文献2参照)。しかしながら、パーフルオロエラストマーは熱間強度が低く、高温処理中にO−リング成型体が切れる等の不具合が発生するおそれがある。
【0004】
上記問題点を解決するために、特定の未架橋のパーフルオロエラストマー(A)と、前記未架橋のパーフルオロエラストマー(A)と相溶しない特定の未架橋のエラストマー(B)とを一定の比率で混合することが知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−119468号公報
【特許文献2】特開2000−044930号公報
【特許文献3】特許第4778782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、成型品の一例であるシール材はプラズマ処理装置や半導体製造装置に装着した時に、弾性変形することで装置の密閉性を高めることができる。特許文献3に記載されている架橋物は、耐プラズマ性、耐薬品性に優れ、かつ耐熱性や機械的強度を兼備するシール材を提供することができるが、硬度が比較的高い。そのため、耐プラズマ性等の性能を有し、より硬度が低く柔軟性があるシール材等の成型品が望まれているが、現在のところ、そのような成型品を形成するための材料は知られていない。
【0007】
本願は、上記問題を解決する為になされたものであり、鋭意研究を行ったところ、水素を含まないフッ素オリゴマー(以下、単に「フッ素オリゴマー」と記載することがある。)(a)を架橋性エラストマーに加えると、架橋性エラストマーを架橋して得られる成型品の硬度を低くできること、を新たに見出した。
【0008】
すなわち、本願の目的は、成型品の硬度を低くする機能を有するフッ素オリゴマーを含む架橋性エラストマー組成物、架橋性エラストマー組成物を架橋して得られる成型品、シール材、該シール材を含むプラズマ処理装置及び半導体製造装置、並びに、成型品の硬度低下剤、成型品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願は、以下に示す、架橋性エラストマー組成物、成型品、シール材、該シール材を含むプラズマ処理装置及び半導体製造装置、並びに、成型品の硬度低下剤、成型品の製造方法に関する。
【0010】
(1)水素を含まないフッ素オリゴマー(a)、及び、架橋性エラストマー、
を少なくとも含む、
架橋性エラストマー組成物。
(2)前記架橋性エラストマーが、
ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロペン系共重合体、ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロペン/テトラフロロエチレン系共重合体、テトラフロロエチレン/プロピレン系共重合体、これらの共重合体にエチレンまたはパーフロロアルキルビニルエーテルを共重合させたもの、ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロペン/テトラフロロエチレン系共重合体とテトラフロロエチレン/エチレン交互共重合体またはポリビニリデンフロライドとのブロック共重合体、シリコーンゴムから選ばれる少なくとも1種のエラストマー(B)、及び/又は、
パーフルオロオレフィンと、パーフルオロ(アルキルビニル)エーテル、パーフルオロ(アルコキシビニル)エーテル及びその混合物からなる群より選択されたパーフルオロビニルエーテルと、硬化部位モノマーとの共重合単位を含有するパーフルオロエラストマー(A)、
を少なくとも含む、
上記(1)に記載の架橋性エラストマー組成物。
(3)前記架橋性エラストマーが、前記パーフルオロエラストマー(A)を含み、
前記架橋性エラストマーの合計重量を100とした時、前記パーフルオロエラストマー(A)の割合が99.5以下である、
上記(2)に記載の架橋性エラストマー組成物。
(4)前記架橋性エラストマーが、前記エラストマー(B)及び前記パーフルオロエラストマー(A)のみを含む、
上記(3)に記載の架橋性エラストマー組成物。
(5)前記架橋性エラストマーに対する前記水素を含まないフッ素オリゴマー(a)の割合が、0.1〜30重量%である、
上記(1)〜(4)の何れか一つに記載の架橋性エラストマー組成物。
(6)前記架橋性エラストマーに対する前記水素を含まないフッ素オリゴマー(a)の割合が1〜15重量%である、
上記(5)に記載の架橋性エラストマー組成物。
(7)上記(1)〜(6)の何れか一つに記載の架橋性エラストマー組成物を架橋して得られる成型品。
(8)上記(7)に記載の成型品の形状がシール状であるシール材。
(9)上記(8)に記載のシール材を含むプラズマ処理装置。
(10)上記(8)に記載のシール材を含む半導体製造装置。
(11)水素を含まないフッ素オリゴマー(a)を有効成分として含む、成型品の硬度低下剤。
(12)水素を含まないフッ素オリゴマー(a)、及び、架橋性エラストマーを少なくとも含む架橋性エラストマー組成物を架橋する工程を含む、
成型品の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本願で開示する架橋性エラストマー組成物は、水素を含まないフッ素オリゴマー(a)を添加しなかった組成物と比較して、成型品の硬度を低下することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例1〜10及び比較例1のシール材の耐プラズマ性能の評価結果を表すグラフである。
図2図2は、MDRで算出したTc90を基に決定した、実施例1〜10及び比較例1のシール材の成型時間のグラフである。
図3図3は、図面代用写真で、実施例5の試験片の透過電子顕微鏡写真である。
図4図4は、実施例5、11〜19及び比較例1のシール材の耐プラズマ性能の評価結果を表すグラフである。
図5図5は、実施例24〜29及び比較例3のシール材の耐プラズマ性能の評価結果を表すグラフである。
図6図6は、図面代用写真で、実施例27の試験片の透過電子顕微鏡写真である。
図7図7は、シール材の硬度の変化率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、架橋性エラストマー組成物、成型品、シール材、該シール材を含むプラズマ処理装置及び半導体製造装置、並びに、成型品の硬度低下剤、成型品の製造方法について詳しく説明する。なお、本明細書において、「架橋性エラストマー組成物」とは、架橋性エラストマーを架橋する前の組成物を意味する(以下、「架橋性エラストマー組成物」は、単に「組成物」と記載することがある。)。また、「架橋性」と「未架橋」とは同義である。「シール材」とは、組成物を混練後、装置等のシールに適した形状にした後、架橋・硬化させたものを意味する。「成型品」とは、シールに適した形状に加え、シール以外の用途に適した形状を含めたものを意味する。
【0014】
成型品・シール材(以下、まとめて「成型品」と記載することもある。)の原料である組成物の実施形態は、フッ素オリゴマー(a)及び架橋性エラストマーを少なくとも含んでいる。
【0015】
フッ素オリゴマー(a)は、C、F、Oの元素から構成されるオリゴマーであって、例えば、以下の基本骨格を含むフッ素オリゴマー(a)が挙げられる。
【0016】
【化1】
【0017】
上記式(1)〜(8)で表されるフッ素オリゴマー(a)は、n、mの数により分子量が異なり、分子量が大きくなるほど一般的に粘度及び沸点が高くなる。上記基本骨格を含むフッ素オリゴマー(a)は、合成したものを用いてもよいし、フッ素系溶剤(オイル、グリース)として市販されているものを用いてもよい。市販されているフッ素オリゴマー(a)は、n、mの数により粘性等の特性が異なる様々なグレードの製品が知られている。例えば、デュポン社製のクライトックス(登録商標)シリーズ;ソルベイ社のフォンブリン(登録商標)シリーズ、ガルデン(登録商標)シリーズ;ダイキン社製のデムナムシリーズ;等が挙げられる。なお、上記の製品及び骨格は、単なる例示に過ぎず、水素を含まなければ、その他の骨格、製品であってもよい。また、上記式(1)〜(8)に示すように、フッ素オリゴマー(a)は基本骨格にエーテル結合を含み、また、後述する架橋性エラストマーの架橋工程において架橋しない。一方、特許文献3の未架橋のパーフルオロエラストマー(A)は側鎖にエーテル結合を含んでおり、基本骨格が異なっている。また、架橋性エラストマーの架橋工程において、パーフルオロエラストマー(A)自身も架橋する点で異なっている。
【0018】
基本骨格に水素を含むフッ素オリゴマーとしては、例えば、3M社製のノベック等が知られている。しかしながら、後述する実施例及び比較例に示すとおり、基本骨格に水素を含まないフッ素オリゴマー(a)を架橋性エラストマーに添加した場合には、成型品の硬度を下げるとともに、架橋性エラストマーの種類によっては、成型品の耐プラズマ性を向上することができる。また、耐プラズマ性が優れている架橋性エラストマーに水素を含まないフッ素オリゴマー(a)を添加した場合も成型品の硬度を下げることができ、架橋性エラストマーが元々有している耐プラズマ性を損なうことはない。つまり、架橋性エラストマーを架橋した成型品の硬度を低下するとともに、耐プラズマ性を向上または維持することができる。一方、基本骨格に水素を含むフッ素オリゴマーを添加した場合には、成型品の耐プラズマ性を向上させることはできない。したがって、基本骨格に水素を含まないフッ素オリゴマー(a)のほうが好ましい。
【0019】
フッ素オリゴマー(a)の分子量は、成型品の硬度が低下し、耐プラズマ性能が得られれば(又は維持)特に制限はない。しかしながら、粘度が低すぎると架橋性エラストマーに練り込みにくく、また、粘度が高いとせん断力が必要である。したがって、混練に好適な範囲となるように、適宜調整すればよい。
【0020】
架橋性エラストマーは、工業用に用いられている未架橋のエラストマーであれば、特に制限はない。例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリイソブチレン、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。例示したゴムは、それぞれ単独で、あるいは混合して使用してもよい。例示した架橋性エラストマーは、水密用または気密用等の用途、使用する装置、環境等に応じて適宜選択すればよい。
【0021】
プラズマ処理装置や半導体製造装置等、耐プラズマ性が求められる装置に成型品を使用する場合は、架橋性エラストマーの中でも耐プラズマ性に優れている、パーフルオロエラストマー(A)、及び/又は、フッ素ゴム、シリコーンゴム(以下、フッ素ゴム及びシリコーンゴムをまとめて「エラストマー(B)」と記載することがある。)を使用する、又は架橋性エラストマーの一部として含むことが好ましい。
【0022】
フッ素ゴムとしては、ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロペン系共重合体、ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロペン/テトラフロロエチレン系共重合体、テトラフロロエチレン/プロピレン系共重合体、等が挙げられる。また、これらの共重合体にエチレンやパーフロロアルキルビニルエーテルを更に共重合させたものでもよい。また、フッ素ゴム(ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロペン/テトラフロロエチレン系共重合体)とフッ素樹脂(テトラフロロエチレン/エチレン交互共重合体及びポリビニリデンフロライド)とのブロック共重合体であるフッ素系熱可塑性エラストマーも使用可能である。また、これらのフッ素ゴムを混合することも可能である。
【0023】
シリコーンゴムとしては、メチルビニルシリコーンゴム、メチルビニルフェニルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、等が挙げられる。また、これらのシリコーンゴムを混合してもよい。
【0024】
フッ素オリゴマー(a)をエラストマー(B)に加えることで、エラストマー(B)から得られた成型品の硬度を低下するとともに、更に、耐プラズマ性を向上することもできる。したがって、耐プラズマ性が求められる成型品の架橋性エラストマー成分としては、エラストマー(B)のみでもよい。一方、耐プラズマ性能に加え、耐薬品性能及び/又は耐熱性能が求められる場合は、架橋性エラストマー成分として、未架橋のパーフルオロエラストマー(A)のみを用いてもよい。又は、未架橋のパーフルオロエラストマー(A)と未架橋のエラストマー(B)とを混合してもよい。
【0025】
未架橋のパーフルオロエラストマー(A)としては、パーフルオロオレフィンと、パーフルオロ(アルキルビニル)エーテル、パーフルオロ(アルコキシビニル)エーテル、及びその混合物からなる群より選択されたパーフルオロビニルエーテルと、硬化部位モノマーとの共重合単位を含有するパーフルオロエラストマー、等が挙げられる。
【0026】
硬化部位モノマーとしては、ヨウ素や臭素を含む硬化部位モノマーやシアノ基を含む硬化部位モノマーが挙げられる。ヨウ素や臭素を含む硬化部位モノマーとしては、CF=CF(CFI、CF=CF(CFBr、I(CFI等が挙げられる。またシアノ基を含む硬化部位モノマーの例としては、シアノ基含有パーフルオロビニルエーテルが挙げられ、例えば、CF=CFO(CFOCF(CF)CN(n:2〜4)、CF=CFO(CFCN(n:2〜12)、CF=CFO[CFCF(CF)O](CFCN(n:2、m:1〜5)、CF=CFO[CFCF(CF)O](CFCN(n:1〜4、m:1〜2)、CF=CFO[CFCF(CF)O]CFCF(CF)CN(n:0〜4)等が挙げられる。
【0027】
パーフルオロエラストマー(A)と他の架橋性エラストマー成分を混合する場合、架橋性エラストマーの合計重量を100とした時、パーフルオロエラストマー(A)の割合が99.5以下であることが好ましい。パーフルオロエラストマー(A)以外の架橋性エラストマーにフッ素オリゴマー(a)を添加することで、成型品の耐プラズマ性を向上できるので、パーフルオロエラストマー(A)の添加量を少なくしても耐プラズマ性能を発揮できる。架橋性エラストマーとして、エラストマー(B)及びパーフルオロエラストマー(A)のみを用いた場合も、エラストマー(B)及びパーフルオロエラストマー(A)の合計重量を100とした時、パーフルオロエラストマー(A)の割合が99.5以下とすればよい。ところで、成型品(架橋性エラストマー組成物)には、耐プラズマ性や耐熱性等を向上させるために、充填材を添加することがあるが、一般的に充填材を添加すると、成型品の硬度は高くなる。しかしながら、実施形態に示す成型品(架橋性エラストマー組成物)は、架橋性エラストマーにフッ素オリゴマー(a)を添加することで、フッ素オリゴマー(a)を添加しなかった成型品と比較して、硬度を低くできる。したがって、フッ素オリゴマー(a)を添加することで得られる硬度の低下分については、充填材を添加することもできることから、成型品(架橋性エラストマー組成物)の原料の配合の自由度が大きくなる。
【0028】
なお、フッ素オリゴマー(a)の原料単価は、パーフルオロエラストマー(A)の約1/100程度である。フッ素オリゴマー(a)を架橋性エラストマーに添加することで耐プラズマ性を付与できるので、パーフルオロエラストマー(A)の一部又は全部を他の架橋性エラストマー成分に換えることができ、成型品の原料コストも下げることができる。
【0029】
架橋性エラストマーに対するフッ素オリゴマー(a)の割合は、硬度を低くできれば特に制限はない。また、硬度の低下に加え、得られた成型品の耐プラズマ性を向上させる場合も、耐プラズマ性が向上できる範囲であれば特に制限はない。フッ素オリゴマー(a)の添加量が少なくとなると、硬度が低下せず、耐プラズマ性を向上することができない。したがって、架橋性エラストマーに対するフッ素オリゴマー(a)の割合は、0.1重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましい。一方、フッ素オリゴマー(a)の添加量が多くなると、硬度が低下し、耐プラズマ性能は向上するので、硬度の低下及び耐プラズマ性能との観点からはフッ素オリゴマー(a)の添加量の上限は特にない。ところで、成型品を製造するためには、フッ素オリゴマー(a)と架橋性エラストマーを混練した後に、架橋性エラストマーを架橋して成型する工程が必要である。しかしながら、フッ素オリゴマー(a)の添加量が多くなるほど成型する時間が長くなり、生産効率が悪くなる。したがって、成型品の生産効率との観点からは、架橋性エラストマーに対するフッ素オリゴマー(a)の添加量は、30重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましい。したがって、架橋性エラストマーに対するフッ素オリゴマー(a)の添加量は、0.1〜30重量%が好ましく、1〜15重量%がより好ましい。
【0030】
なお、上記の架橋性エラストマーに対するフッ素オリゴマー(a)の割合は、成型品における割合である。組成物においても、架橋性エラストマーに対するフッ素オリゴマー(a)の割合を上記と同様にしてもよいが、組成物をマスターバッチとして用い、成型する前に更に架橋性エラストマー等を加えて混練する場合は、フッ素オリゴマー(a)の割合は、上記範囲以外でもよい。また、組成物には、必要に応じて後述する架橋剤、共架橋剤、充填材等を含んでいてもよいが、架橋剤、共架橋剤、充填材等は、成型品を製造する工程で必要に応じて加えてもよい。
【0031】
架橋性エラストマーの架橋は、加熱、電離放射線等の公知の方法を用いればよい。ところで、特許文献3に記載されているシール材は、未架橋のパーフルオロエラストマー(A)と未架橋のエラストマー(B)を混練後に架橋することで、パーフルオロエラストマー(A)とエラストマー(B)はそれぞれが架橋した高分子となる。一方、実施形態に示す成型品では、架橋性エラストマーは架橋するが、フッ素オリゴマー(a)は架橋せず、微粒子状の凝集体のままである。そのため、実施形態に示す成型品・シール材と特許文献3に記載されているシール材とは、物として異なる。
【0032】
ところで、加熱により架橋性エラストマーを架橋する場合、架橋性エラストマーの種類により異なるものの、150℃前後の温度で加熱することで架橋反応を進行させる。また、必要に応じて、150℃〜250℃の温度で2次架橋を行う。その際、上記のとおりフッ素オリゴマー(a)は架橋せず、微粒子状の凝集体として架橋性エラストマーが架橋したエラストマー中に分散するが、フッ素オリゴマー(a)の沸点が低いと、加熱による架橋の際に蒸発する可能性がある。そのため、加熱により架橋反応を進行させる場合、沸点が加熱温度より高いフッ素オリゴマー(a)を用いることが好ましい。フッ素オリゴマー(a)は、一般的に分子量が大きくなるほど沸点も高くなるので、分子量が比較的高いフッ素オリゴマー(a)を用いればよい。
【0033】
一方、加熱によらない電離放射線等の方法により架橋する場合は、加熱により架橋する場合より沸点の低いフッ素オリゴマー(a)を用いることができる。その場合、電離放射線の照射環境の温度より、沸点が高いフッ素オリゴマーを用いればよい。
【0034】
架橋性エラストマーの架橋方法としては、有機過酸化物による架橋が挙げられる。有機過酸化物架橋剤としては、架橋性エラストマー架橋用の公知のものを用いることができ、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)へキサン、等が挙げられる。
【0035】
共架橋剤としては、架橋性エラストマー架橋用の公知のものを用いることができる。例えば、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルトリメリレート、N,N’−m−フェニレンジマレイミド、トリメチロールプロパントリメタクリレート、等が挙げられる。その他、アクリレート系、メタクリレート系モノマー、等も用いることができる。
【0036】
また、成型品の実施形態は、効果を損なわない範囲で、カーボンブラック、炭化ケイ素(SiC)、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、珪酸塩鉱物(例えば、マイカ、タルク等)、硫酸バリウム、及び、有機補強材等の充填材、又は老化防止剤等を含んでもよい。なお、充填材の粒径は、種類により異なるものの10nm〜500nmのナノ粒子であり、そのままでは飛散等により取扱が難しい。そのため、充填材を添加する場合は、造粒した充填材を用いてもよい。造粒は、公知の造粒技術を用いて造粒してもよいし、造粒済みの市販品を用いてもよい。造粒した充填材のかさ密度は、0.05〜5.0g/cm3程度が好ましい。かさ密度が0.05g/cm3より小さいと、造粒効果が得られ難くなる。一方、かさ密度が5.0g/cm3超えると、架橋性エラストマーに充填材を混練する際に、均一に分散し難くなる。
【0037】
成型品は、先ず、フッ素オリゴマー(a)、架橋性エラストマー、有機過酸化物架橋剤及び共架橋剤を混練して組成物を作製する。なお、フッ素オリゴマー(a)及び架橋性エラストマーのみを含む組成物のマスターバッチを用いる場合は、混練する際に、架橋性エラストマー、有機過酸化物架橋剤及び共架橋剤を適宜添加すればよい。更に、必要に応じて、充填材等を混練してもよい。混練には、オープンロール、ニーダー、バンバリーミキサー、2軸押出し機、等の公知の混練機を用いればよいが、これらに限定されるものではない。得られた組成物は、架橋性エラストマー中に、フッ素オリゴマー(a)が分散した構造となる。なお、架橋性エラストマー成分であるパーフルオロエラストマー(A)は、他の架橋性エラストマー成分と混合せずに、添加量に応じて海島構造となる。したがって、フッ素オリゴマー(a)は海島構造中に分散した構造となる。
【0038】
そして、上記の組成物を架橋することにより成型品が得られる。架橋方法としては通常の過酸化物架橋による成型方法に従うことができる。一般的には、組成物を所望形状の金型に所定量充填し、加熱プレスする。必要に応じて、オーブンで150℃〜250℃、1時間〜32時間の二次架橋を施してもよい。
【0039】
また、加熱プレスに代え、電離放射線を用いる場合、電離放射線の種類としては、直接または間接に空気を電離する能力を持つ電磁波または粒子線であれば適用可能である。例えば、α線、β線、γ線、重陽子線、陽子線、中性子線、X線、電子線が挙げられるが、これらに限定されない。また、これら放射線を組み合わせて使用しても良いが、特にγ線が好適に使用される。γ線は、透過力が高いため、架橋性エラストマーを均一に架橋することができる。
【0040】
なお、組成物中のフッ素オリゴマー(a)の分散は、架橋後の成型品においてもほぼそのまま維持される。したがって、成型品は、架橋性エラストマーの架橋物中に、原料として添加したフッ素オリゴマー(a)の凝集体が分散する。フッ素オリゴマー(a)は、架橋性エラストマーの架橋物中に、平均粒径が10μm以下となるように分散することが好ましく、2μm以下がより好ましい。平均粒子径は、混練する時間及び混練速度等により調整できる。
【0041】
シール材の形状(以下、「シール状」と記載することがある。)は、例えば、シート状、棒状、リング状、各種の複雑なブロック形状等、その用途に応じて任意の形状が挙げられる。また、成型品の形状は、上記のシール状に加え、容器状、板状、プラズマ処理が必要な物品のホルダー等が挙げられる。例えば、プラズマ処理が必要な物品をチャンバー内に置く際に、当該物品を保持し且つプラズマ処理が必要な部分は露出し、プラズマ処理が不要な部分は被覆するような形状のホルダーを作製することで、チャンバー内で所望の物品をプラズマ処理することができる。
【0042】
シール材は、フッ素オリゴマー(a)を加えると硬度が低下することから弾性変形しやすくなり、密閉性に優れた成型品(シール材)を製造できる。そのため、装置、配管用のシール材等に有用である。また、後述する実施例からも明らかなように、フッ素オリゴマー(a)を添加することで、シール材の耐プラズマ性を向上することもできる。
【0043】
上記の特性を有することから、成型品は高温、真空といった厳しい環境下での使用に好適である。したがって、プラズマに曝されるプラズマ処理装置や半導体製造装置に、シール材として組み込むことができる。プラズマ処理装置や半導体製造装置は、シール材を使用するものであれば、公知の装置を用いることができる。なお、プラズマガスの種類は不問であり、例えば、プラズマ処理装置ではO、CF、O+CF、H、CHF、CHF、CH、Cl、C、BCl、NF、NH等が一般的であるが、成型品は何れのプラズマに対しても優れた耐性を有する。従って成型品は、特定のプラズマに対するものではない。
【0044】
上記のとおり、フッ素オリゴマー(a)は、架橋性エラストマーを架橋して得られた成型品の硬度を低下できるので、成型品の硬度低下剤として用いることもできる。フッ素オリゴマー(a)を成型品の硬度低下剤として用いる場合、合成または市販のフッ素オリゴマー(a)をそのまま用いてもよい。フッ素オリゴマー(a)は分子量が低いことから単体でも液体に近い粘度を有するため、市販のフッ素オリゴマー(a)の純度は100%である。なお、必要に応じて、フッ素オリゴマー(a)を溶剤で溶解したもの、あるいは、架橋性エラストマー等に混練したものを硬度低下剤としてもよい。有効成分としてフッ素オリゴマー(a)が含まれていれば、形態について特に制限はない。
【0045】
以下に実施例を掲げ、本願の実施形態の具体例を説明するが、本願で開示する実施形態の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例】
【0046】
〔水素を含まないフッ素オリゴマーの添加量の影響〕
《実施例1〜10、比較例1》
<原料>
原料には、以下の製品を用いた。
・フッ素オリゴマー(a):デュポン社製、Krytox 143AD、分子量7480
・エラストマー(B):ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社、フッ素ゴム P959
・共架橋剤:日本化成社製、TAIC
・架橋剤:日本油脂社製、25B
・充填材:カンカーブ(cancarb limited)社製、MTカーボンN990
【0047】
<混練組成物の作製>
2軸オープンロールに、エラストマー(B)、充填材、共架橋剤、架橋剤、フッ素オリゴマーを表1に示す配合となるように投入し混練した。混練時間は、フッ素オリゴマーの添加量が多くなるほど長くし、フッ素オリゴマーの大きさが同程度になるように調整した。
【0048】
<成型温度、成型時間>
先ず、MDR装置(Flexsys社製、RHEOMETER MDR 2000)に、上記混練組成物を適量投入した。そして、150℃、1時間で試験を実施し、成型時間の指標となるTc90のデータを得た。
【0049】
<成型、2次架橋(Oリングの製造)>
150℃に加熱したOリング成型用金型に混練組成物を適量投入した。次に、MDRで算出したTc90を基に決定した時間の1.2倍の時間にて各サンプルを成型した。成型終了後、金型から成型体を取り出し、不要なバリを取り除いた。そして、180℃のオーブン中で4時間二次架橋を実施し、シール材を製造した。
【0050】
【表1】
【0051】
(1)耐プラズマ性評価
以下の条件でプラズマを曝露し、曝露前後での試験片の質量減少率で耐プラズマ性を評価した。
・装置:神港精機製表面波プラズマエッチング装置
・試験片:φ3.53×30mm(AS568−214サイズのカット品)
・ガス:O2+CF4
・処理圧力:133Pa
・出力:3kW
・曝露時間:2時間
・重量減少率(重量%)=〔(プラズマ曝露前の重量−プラズマ曝露直後の重量)/(プラズマ曝露前の重量)〕×100
【0052】
図1は、耐プラズマ性能の評価結果を表すグラフである。図1から明らかなように、エラストマー(B)に対するフッ素オリゴマー(a)の添加割合が、0.1重量%でも耐プラズマ性能が向上した。そして、フッ素オリゴマー(a)の添加量が3重量%までは、耐プラズマ性能が急激に向上し、以後はフッ素オリゴマー(a)の添加量が増えるにしたがって、耐プラズマ性能が徐々に向上した。
【0053】
また、図2は成型時間のグラフである。図2から明らかなように、フッ素オリゴマー(a)の添加量が多くなるほど、成型時間が増加した。
【0054】
図1及び図2に示す結果より、エラストマー(B)に耐プラズマ性能を付与するとの観点では、エラストマー(B)に対するフッ素オリゴマー(a)の添加量は、実施例1〜10に示す0.1〜30重量%の範囲であればよい。一方、フッ素オリゴマー(a)の添加量に対する耐プラズマ性能と成型時間、つまり、生産効率を考えると、エラストマー(B)に対するフッ素オリゴマーの添加量は、1〜15重量%程度がより好ましいことが明らかとなった。
【0055】
(2)シール材中のフッ素オリゴマー(a)の測定
実施例5の試験片から切片を採取し、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JEM−2000X」)を用いて透過電子顕微鏡写真を撮影した。図3は、撮影した写真で、写真中の白い点がフッ素オリゴマー(a)の微粒子状の凝集体である。写真から明らかなように、フッ素オリゴマー(a)の凝集体が、シール材中に分散していることを確認した。写真中の凝集体の平均粒径は0.4μmであった。なお粒径は、対象となる白い点の重心を通りかつ対象の外周2点を結ぶ径のうちで最大の長さを、その対象の粒径とした。
【0056】
〔フッ素オリゴマーの種類の影響〕
《実施例11〜19》
次に、実施例5の各原料の配合をベースに、フッ素オリゴマーの種類を変えた実験を行った。実施例11〜19で用いたフッ素オリゴマーの種類及び分子量、並びに、各原料の配合は表2のとおりである。また、実験手順は、上記<混練組成物>、<成型温度、成型時間>、<成型、2次架橋(Oリングの製造)>と同様の手順で行い、耐プラズマ性の評価も、上記「(1)耐プラズマ性評価」と同様の手順で行った。
【0057】
【表2】
【0058】
図4は、実施例5、11〜19及び比較例1のシール材の耐プラズマ性能の評価結果を表すグラフである。なお、図中の白抜き番号は実施例の番号を表す。図4から明らかなように、製造メーカー及び種類によらず、フッ素オリゴマー(a)を添加することで、耐プラズマ性能が向上した。なお、フッ素オリゴマーの種類、同じシリーズでも分子量により耐プラズマ性能に差異が見られた。したがって、製造に際しては、好適な種類のフッ素オリゴマー(a)を用いればよい。
【0059】
〔架橋方法の違いによる耐プラズマ性能への影響〕
《実施例20〜23、比較例2》
上記の実施例1〜19に示したシール材は加熱により架橋したが、γ線によりエラストマー(B)を架橋した場合の耐プラズマ性について実験を行った。
表3に示す配合及び原料を用い、上記<混練組成物>と同様の手順で組成物を作製し、シート状に成型した。次に、常温でγ線照射装置(ラジエ工業株式会社)を用いて、γ線量120kGyで照射を行った。架橋したシール材は、上記「(1)耐プラズマ性評価」と同様の手順で評価を行った。
また、γ線架橋と熱による架橋と比較する為、表3に示す配合及び原料を用いて、上記<混練組成物>、<成型温度、成型時間>、<成型、2次架橋(Oリングの製造)>と同様の手順でシール材を製造し、上記「(1)耐プラズマ性評価」と同様の手順で評価を行った。表3に評価結果を示す。
【0060】
【表3】
【0061】
表3から明らかなように、エラストマー(B)をγ線で架橋すると、熱で架橋した場合より耐プラズマ性能はやや劣るものの、分子量や添加量を調整することで充分な耐プラズマ性能が得られることが分かった。
【0062】
以上の結果より、エラストマー(B)の架橋方法によらず、フッ素オリゴマー(a)を添加することで、耐プラズマ性能が得られることが明らかとなった。したがって、エラストマー(B)を架橋する際の温度に応じて幅広い範囲のフッ素オリゴマー(a)を用いることができる。
【0063】
〔エラストマー(B)及びパーフルオロエラストマー(A)を混合した場合の影響〕
《実施例24〜29、比較例3》
次に、架橋性エラストマーとして、エラストマー(B)と、耐薬品性能を付与することができるパーフルオロエラストマー(A)を混合した実験を行った。
原料は、実施例1〜10と同様の原料に加え、
・パーフルオロエラストマー(A):ダイキン工業社製、ダイエルパーフロGA−15
を用いた。各原料の配合は表4のとおりで、実験手順は、上記<混練組成物>、<成型温度、成型時間>、<成型、2次架橋(Oリングの製造)>と同様に行い、耐プラズマ性の評価も、上記「(1)耐プラズマ性評価」と同様の手順で行った。
【0064】
【表4】
【0065】
図5は、耐プラズマ性能の評価結果を表すグラフである。図5から明らかなように、エラストマー(B)とパーフルオロエラストマー(A)を混合した場合でも、フッ素オリゴマー(a)の添加量を多くするほど耐プラズマ性能が向上した。上記結果よりエラストマー(B)とパーフルオロエラストマー(A)を混合した架橋性エラストマーにフッ素オリゴマー(a)を添加しても、耐プラズマ性能を向上することができ、負の相互作用はない。したがって、耐薬品性能等が必要な場合は、パーフルオロエラストマー(A)を添加してもよいことが明らかとなった。
【0066】
図6は、実施例27の試験片の切片を採取し、上記「(2)シール材中のフッ素オリゴマー(a)の測定」と同様の手順で撮影した写真である。フッ素オリゴマー(a)とパーフルオロエラストマー(A)は写真中の白い点であるが、写真から両者を区別することは困難である。写真から明らかなように、白い小さな点はエラストマー(B)中に凝集せずに分散していたことから、フッ素オリゴマー(a)とパーフルオロエラストマー(A)を同時にエラストマー(B)に添加しても、分散することが明らかとなった。
【0067】
〔水素を含むフッ素オリゴマーを添加した時の耐プラズマ性能〕
《比較例1、4〜7》
次に、水素を含まないフッ素オリゴマー(a)に代え、水素を含むフッ素オリゴマーを添加した場合の影響について実験を行った。実験は、下記表5に示す配合及び原料とした以外は、上記《実施例1〜10、比較例1》と同様の手順で耐プラズマ性能を調べた。各比較例の重量減少率(重量%)についても、表5に示す。
【0068】
【表5】
【0069】
上記表5に示すように、水素を含むフッ素オリゴマーを添加した場合には、硬度の低下は見られるものの、耐プラズマ性能の向上は見られず、フッ素オリゴマーを添加しなかった場合とほぼ同様の結果となった。以上の結果より、フッ素オリゴマーが水素を含む場合、エラストマー(B)をプラズマから保護する機能を発揮しないことが明らかとなった。したがって、成型品の硬度を低下するとの観点に加え、耐プラズマ性を向上するとの観点からは、水素を含むフッ素オリゴマーより、水素を含まないフッ素オリゴマー(a)の方が好ましいことを確認した。
【0070】
〔フッ素オリゴマー(a)の添加量と硬度の関係〕
実施例1〜10で作製したシール材の硬度は、成型体(Oリング)をBAREISS製マイクロゴム硬度計(型式:HPEII shore AM/M)に設置して測定した。なお、比較のため、パーフルオロエラストマー(A)の添加量を変えたシール材も複数作製し、同様の手順で硬度を調べた。
【0071】
図7は、シール材の硬度の変化率を示すグラフである。なお、グラフはエラストマー(B)のみの硬度を100とし、そして、パーフルオロエラストマー(A)を添加した各シール材と同じ添加量のフッ素オリゴマー(a)を添加した時の硬度を、エラストマー(B)のみの硬度(100)に対する比で表している。図7から明らかなように、エラストマー(B)に対してパーフルオロエラストマー(A)を添加した場合、エラストマー(B)の硬度は殆ど変化しなかった。一方、エラストマー(B)にフッ素オリゴマー(a)を添加した場合、エラストマー(B)の硬度は低くなった。
【0072】
〔充填材を変えた場合の耐プラズマ性の評価〕
《実施例30、31》
図7に示したように、架橋性エラストマーにフッ素オリゴマー(a)を添加することで、成型品の硬度を下げられることを確認した。次に、実施例1〜10において充填材として用いたカンカーブに換え、耐プラズマ性能に優れるSiCを用いた。原料には、以下の製品を用いた。
・フッ素オリゴマー(a):デュポン社製、Krytox 143AD、分子量7480
・パーフルオロエラストマー(A):ダイキン工業社製、ダイエルパーフロGA−15
・エラストマー(B):ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社、フッ素ゴム P959
・共架橋剤:日本化成社製、TAIC
・架橋剤:日本油脂社製、25B
・充填材:SiC(ナノメーカーズ社製)、かさ密度:0.6g/cm3
なお、充填材のかさ密度は、100mlメスシリンダー(内径28mm)に5gの粉末を投入し、2cmの高さから20回タッピングした後の目盛りをよみ、その体積から算出した。
【0073】
各原料を表6に示す配合とし、実施例1〜10の<成型、2次架橋(Oリングの製造)>において、160℃で15分成型した以外は、実施例1〜10と同様の手順で、シール材を製造し、耐プラズマ性の評価を行った。評価結果も表6に示す。
【0074】
【表6】
【0075】
表6に示すように、充填材としてSiCを添加することで、耐プラズマ性が著しく向上した。フッ素オリゴマー(a)を添加することで成型品の硬度が下げられる。したがって、従来と同じ硬度の成型品を製造する場合、硬度の低下分を所期の特性を持つ充填材を添加できるので、充填材の種類や添加量等、原料の配合の自由度が大きくなることが明らかとなった。
【0076】
〔架橋性エラストマー成分を変えた場合の硬度変化の評価〕
《実施例32、33、比較例8》
架橋性エラストマーとして、パーフルオロエラストマー(A)のみを用いた場合の硬度変化を評価した。各原料の配合は表7に示すとおりで、パーフロエラストマー(A)は《実施例24〜29》で用いた製品と同様で、その他の原料は《実施例1〜10》と同様である。次に、実施例1〜10と同様の手順で、シール材を製造し、耐プラズマ性の評価を行った。また、硬度については、上記〔フッ素オリゴマー(a)の添加量と硬度の関係〕と同様の手順で行った。評価結果も表7に示す。
【0077】
【表7】
【0078】
表7に示すように、架橋性エラストマーとしてパーフルオロエラストマー(A)のみを用いた場合でも、フッ素オリゴマー(a)を添加することで、成型品の硬度を低下できることが明らかとなった。なお、パーフルオロエラストマー(A)のみを用いた場合、フッ素オリゴマー(a)を添加しても耐プラズマ性はほぼ同じであった。これは、パーフルオロエラストマー(A)が耐プラズマ性に特に優れている材料であるため、耐プラズマ性が変化しなかったと考えられる。
【0079】
《実施例34、比較例9》
次に、架橋性エラストマーとして、エラストマー(B)及びパーフルオロエラストマー(A)以外の、架橋性エラストマーを用いた場合の硬度変化を評価した。各原料の配合は表8に示すとおりで、架橋性エラストマーとして用いたエチレンプロピレンゴム(EPDM、LUNXESS社製 Keltan 8340A)以外の原料は、《実施例1〜10》と同様である。次に、実施例1〜10と同様の手順で、シール材を製造した。また、硬度については、上記〔フッ素オリゴマー(a)の添加量と硬度の関係〕と同様の手順で行った。評価結果も表に示す。
【0080】
【表8】
【0081】
表8に示すように、エラストマー(B)及びパーフルオロエラストマー(A)以外の架橋性エラストマーを用いた場合でも、フッ素オリゴマー(a)を添加することで、成型品の硬度を低下できることが明らかとなった。
【0082】
上記実施例1〜34、及び比較例1〜9の結果より、水素を含まないフッ素オリゴマー(a)を架橋性エラストマーに添加することで、得られた成型品の硬度を低くできることが明らかとなった。更に、架橋性エラストマーの種類によるが、フッ素オリゴマー(a)を添加することで、成型品の耐プラズマ性を向上することができた。したがって、架橋性エラストマーにフッ素オリゴマー(a)を添加することで、成型品の硬度を低下することができ、成型品の柔軟性が高くできる。また、充填材の添加等、組成物・成型品の原料の配合の自由度が大きくできることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
実施形態に示す組成物、該組成物から得られた成型品は、硬度を低くでき、また、原料の配合の自由度が向上する。したがって、プラズマ処理装置や半導体製造装置をはじめ、各種装置のシール材等の成型品として好適に用いることができる。
【要約】
【課題】架橋性エラストマーを架橋して得られる成型品の硬度を低くすることを課題とする。
【解決手段】水素を含まないフッ素オリゴマー(a)、及び、架橋性エラストマー、を少なくとも含む架橋性エラストマー組成物を架橋することで、課題を解決できる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7