(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、熱処理に限らず半導体ウェハーの処理はロット(同一条件にて同一内容の処理を行う対象となる1組の半導体ウェハー)単位で行われる。枚葉式の基板処理装置では、ロットを構成する複数枚の半導体ウェハーに対して連続して順次に処理が行われる。フラッシュランプアニール装置においても、ロットを構成する複数の半導体ウェハーが1枚ずつチャンバーに搬入されて順次に熱処理が行われる。
【0008】
稼働停止状態のフラッシュランプアニール装置がロットの処理を開始する場合、概ね室温のチャンバーにロットの最初の半導体ウェハーが搬入されて加熱処理が行われることとなる。加熱処理時には、チャンバー内にてサセプターに支持された半導体ウェハーが所定温度に予備加熱され、さらにフラッシュ加熱によってウェハー表面が処理温度にまで昇温される。その結果、昇温した半導体ウェハーからサセプター等のチャンバー内構造物に熱伝導が生じ、そのサセプター等の温度も上昇することとなる。このような、半導体ウェハーの加熱処理に伴うサセプタ
ー等の温度上昇は、ロットの最初から数枚程度継続し、やがて約10枚の半導体ウェハーの加熱処理が行われたときにサセプターの温度は一定の安定温度に到達する。すなわち、ロットの最初の半導体ウェハーは室温のサセプターに支持されて処理されるのに対して、10枚目以降の半導体ウェハーは安定温度に昇温しているサセプターに支持されて処理されるのである。
【0009】
従って、ロットを構成する複数の半導体ウェハーの温度履歴が不均一になるという問題が生じる。特に、ロットの最初から数枚程度の半導体ウェハーについては、比較的低温のサセプターに支持されて処理されるため、フラッシュ光照射時の表面到達温度が処理温度に届かないおそれもある。また、低温のサセプターに支持された半導体ウェハーにフラッシュ光を照射したときに、サセプターと半導体ウェハーとの温度差によってウェハー反りが生じることもあり、その結果として半導体ウェハーが破損するおそれもある。
【0010】
このため、従来より、ロットの処理を開始する前に、処理対象ではないダミーウェハーをチャンバー内に搬入してサセプターに支持し、処理対象のロットと同一条件にてフラッシュ加熱処理を行うことにより、事前にサセプター等のチャンバー内構造物を昇温しておくことが行われていた(ダミーランニング)。約10枚程度のダミーウェハーについてフラッシュ加熱処理を行うことにより、サセプター等が安定温度に到達するので、その後処理対象となるロットの最初の半導体ウェハーの処理を開始する。このようにすれば、ロットを構成する複数の半導体ウェハーの温度履歴が均一になるとともに、サセプターと半導体ウェハーとの温度差に起因したウェハー反りを防止することもできる。
【0011】
しかしながら、このようなダミーランニングは、処理とは無関係なダミーウェハーを消費するだけでなく、10枚程度のダミーウェハーにフラッシュ加熱処理を行うのに相当の時間を要するため、フラッシュランプアニール装置の効率的な運用が妨げられるという問題がある。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ダミーランニングを省略することができる熱処理方法および熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、基板に光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法において、チャンバー内に基板を搬入してサセプターに載置する搬入工程と、前記サセプターに載置された基板に光を照射する光照射工程と、ロットの最初の基板がチャンバー内に搬入される前に、前記サセプターの温度を測定する温度測定工程と、前記温度測定工程での測定結果に基づいて、前記サセプターを加熱する加熱工程と、を備え
、前記サセプターを加熱することなく、ロットの複数の基板に連続して光を照射して加熱することにより前記サセプターの温度が上昇して一定となったときの前記サセプターの温度を安定温度とし、前記加熱工程では、前記サセプターの温度が前記安定温度に到達するように前記サセプターを加熱することを特徴とする。
【0015】
また、請求項
2の発明は、請求項
1の発明に係る熱処理方法において、前記温度測定工程では、前記サセプターの複数箇所の温度を測定し、前記加熱工程では、前記複数箇所のそれぞれを含む領域毎に加熱制御を行うことを特徴とする。
【0016】
また、請求項
3の発明は、請求項1
または請求項2の発明に係る熱処理方法において、前記光照射工程では、前記チャンバーの一方側からフラッシュランプによって基板にフラッシュ光を照射することを特徴とする。
【0017】
また、請求項
4の発明は、請求項
3の発明に係る熱処理方法において、前記光照射工程では、さらに前記チャンバーの他方側からハロゲンランプによって基板に光を照射し、前記加熱工程では、前記ハロゲンランプからの光照射によって前記サセプターを加熱することを特徴とする。
【0018】
また、請求項
5の発明は、基板に光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置において、基板を収容するチャンバーと、前記チャンバー内に設けられ、基板を載置して支持するサセプターと、前記サセプターに載置された基板に光を照射する光照射部と、前記サセプターの温度を測定する温度測定部と、ロットの最初の基板が前記チャンバーに搬入される前に、前記温度測定部が前記サセプターの温度を測定した測定結果に基づいて、前記光照射部からの光照射によって前記サセプターを加熱するように前記光照射部を制御する制御部と、を備え
、前記サセプターを加熱することなく、ロットの複数の基板に前記光照射部から連続して光を照射して加熱することにより前記サセプターの温度が上昇して一定となったときの前記サセプターの温度を安定温度とし、前記制御部は、前記サセプターの温度が前記安定温度に到達するように前記光照射部を制御することを特徴とする。
【0020】
また、請求項
6の発明は、請求項
5の発明に係る熱処理装置において、前記温度測定部は、前記サセプターの複数箇所の温度を測定する複数の温度センサーを含み、前記制御部は、前記複数箇所のそれぞれを含む領域毎に前記光照射部からの光照射を制御することを特徴とする。
【0021】
また、請求項
7の発明は、
請求項5または請求項6の発明に係る熱処理装置において、前記光照射部は、前記チャンバーの一方側から基板にフラッシュ光を照射するフラッシュランプを含むことを特徴とする。
【0022】
また、請求項
8の発明は、請求項
7の発明に係る熱処理装置において、前記光照射部は、前記チャンバーの他方側から基板に光を照射するハロゲンランプをさらに含み、前記ハロゲンランプからの光照射によって前記サセプターを加熱することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1から請求項
4の発明によれば、ロットの最初の基板がチャンバー内に搬入される前に、サセプターの温度を測定し、その測定結果に基づいてサセプターを加熱するため、ダミーランニングを省略してもロットを構成する全ての基板について温度履歴を均一にすることができる。
【0024】
特に、請求項
2の発明によれば、サセプターの複数箇所の温度を測定し、それら複数箇所のそれぞれを含む領域毎に加熱制御を行うため、サセプターの加熱精度を向上させることができる。
【0025】
請求項
5から請求項
8の発明によれば、ロットの最初の基板がチャンバーに搬入される前に、温度測定部がサセプターの温度を測定した測定結果に基づいて、光照射部からの光照射によってサセプターを加熱するため、ダミーランニングを省略してもロットを構成する全ての基板について温度履歴を均一にすることができる。
【0026】
特に、請求項
6の発明によれば、サセプターの複数箇所の温度を測定してそれら複数箇所のそれぞれを含む領域毎に光照射部からの光照射を制御するため、サセプターの加熱精度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0029】
<第1実施形態>
図1は、本発明に係る熱処理装置1の構成を示す縦断面図である。本実施形態の熱処理装置1は、基板として円板形状の半導体ウェハーWに対してフラッシュ光照射を行うことによってその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール装置である。処理対象となる半導体ウェハーWのサイズは特に限定されるものではないが、例えばφ300mmやφ450mmである。熱処理装置1に搬入される前の半導体ウェハーWには不純物が注入されており、熱処理装置1による加熱処理によって注入された不純物の活性化処理が実行される。なお、
図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0030】
熱処理装置1は、半導体ウェハーWを収容するチャンバー6と、複数のフラッシュランプFLを内蔵するフラッシュ加熱部5と、複数のハロゲンランプHLを内蔵するハロゲン加熱部4と、を備える。チャンバー6の上側にフラッシュ加熱部5が設けられるとともに、下側にハロゲン加熱部4が設けられている。また、熱処理装置1は、チャンバー6の内部に、半導体ウェハーWを水平姿勢に保持する保持部7と、保持部7と装置外部との間で半導体ウェハーWの受け渡しを行う移載機構10と、を備える。さらに、熱処理装置1は、ハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6に設けられた各動作機構を制御して半導体ウェハーWの熱処理を実行させる制御部3を備える。
【0031】
チャンバー6は、筒状のチャンバー側部61の上下に石英製のチャンバー窓を装着して構成されている。チャンバー側部61は上下が開口された概略筒形状を有しており、上側開口には上側チャンバー窓63が装着されて閉塞され、下側開口には下側チャンバー窓64が装着されて閉塞されている。チャンバー6の天井部を構成する上側チャンバー窓63は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ加熱部5から出射されたフラッシュ光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。また、チャンバー6の床部を構成する下側チャンバー窓64も、石英により形成された円板形状部材であり、ハロゲン加熱部4からの光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。
【0032】
また、チャンバー側部61の内側の壁面の上部には反射リング68が装着され、下部には反射リング69が装着されている。反射リング68,69は、ともに円環状に形成されている。上側の反射リング68は、チャンバー側部61の上側から嵌め込むことによって装着される。一方、下側の反射リング69は、チャンバー側部61の下側から嵌め込んで図示省略のビスで留めることによって装着される。すなわち、反射リング68,69は、ともに着脱自在にチャンバー側部61に装着されるものである。チャンバー6の内側空間、すなわち上側チャンバー窓63、下側チャンバー窓64、チャンバー側部61および反射リング68,69によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。
【0033】
チャンバー側部61に反射リング68,69が装着されることによって、チャンバー6の内壁面に凹部62が形成される。すなわち、チャンバー側部61の内壁面のうち反射リング68,69が装着されていない中央部分と、反射リング68の下端面と、反射リング69の上端面とで囲まれた凹部62が形成される。凹部62は、チャンバー6の内壁面に水平方向に沿って円環状に形成され、半導体ウェハーWを保持する保持部7を囲繞する。
【0034】
チャンバー側部61および反射リング68,69は、強度と耐熱性に優れた金属材料(例えば、ステンレススチール)にて形成されている。また、反射リング68,69の内周面は電解ニッケルメッキによって鏡面とされている。
【0035】
また、チャンバー側部61には、チャンバー6に対して半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部(炉口)66が形設されている。搬送開口部66は、ゲートバルブ185によって開閉可能とされている。搬送開口部66は凹部62の外周面に連通接続されている。このため、ゲートバルブ185が搬送開口部66を開放しているときには、搬送開口部66から凹部62を通過して熱処理空間65への半導体ウェハーWの搬入および熱処理空間65からの半導体ウェハーWの搬出を行うことができる。また、ゲートバルブ185が搬送開口部66を閉鎖するとチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。
【0036】
また、チャンバー6の内壁上部には熱処理空間65に処理ガス(本実施形態では窒素ガス(N
2))を供給するガス供給孔81が形設されている。ガス供給孔81は、凹部62よりも上側位置に形設されており、反射リング68に設けられていても良い。ガス供給孔81はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間82を介してガス供給管83に連通接続されている。ガス供給管83は窒素ガス供給源85に接続されている。また、ガス供給管83の経路途中にはバルブ84が介挿されている。バルブ84が開放されると、窒素ガス供給源85から緩衝空間82に窒素ガスが送給される。緩衝空間82に流入した窒素ガスは、ガス供給孔81よりも流体抵抗の小さい緩衝空間82内を拡がるように流れてガス供給孔81から熱処理空間65内へと供給される。なお、処理ガスは窒素ガスに限定されるものではなく、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)などの不活性ガス、または、酸素(O
2)、水素(H
2)、塩素(Cl
2)、塩化水素(HCl)、オゾン(O
3)、アンモニア(NH
3)などの反応性ガスであっても良い。
【0037】
一方、チャンバー6の内壁下部には熱処理空間65内の気体を排気するガス排気孔86が形設されている。ガス排気孔86は、凹部62よりも下側位置に形設されており、反射リング69に設けられていても良い。ガス排気孔86はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間87を介してガス排気管88に連通接続されている。ガス排気管88は排気部190に接続されている。また、ガス排気管88の経路途中にはバルブ89が介挿されている。バルブ89が開放されると、熱処理空間65の気体がガス排気孔86から緩衝空間87を経てガス排気管88へと排出される。なお、ガス供給孔81およびガス排気孔86は、チャンバー6の周方向に沿って複数設けられていても良いし、スリット状のものであっても良い。また、窒素ガス供給源85および排気部190は、熱処理装置1に設けられた機構であっても良いし、熱処理装置1が設置される工場のユーティリティであっても良い。
【0038】
また、搬送開口部66の先端にも熱処理空間65内の気体を排出するガス排気管191が接続されている。ガス排気管191はバルブ192を介して排気部190に接続されている。バルブ192を開放することによって、搬送開口部66を介してチャンバー6内の気体が排気される。
【0039】
図2は、保持部7の全体外観を示す斜視図である。また、
図3は保持部7を上面から見た平面図であり、
図4は保持部7を側方から見た側面図である。保持部7は、基台リング71、連結部72およびサセプター74を備えて構成される。基台リング71、連結部72およびサセプター74はいずれも石英にて形成されている。すなわち、保持部7の全体が石英にて形成されている。
【0040】
基台リング71は円環形状の石英部材である。基台リング71は凹部62の底面に載置されることによって、チャンバー6の壁面に支持されることとなる(
図1参照)。円環形状を有する基台リング71の上面に、その周方向に沿って複数の連結部72(本実施形態では4個)が立設される。連結部72も石英の部材であり、溶接によって基台リング71に固着される。なお、基台リング71の形状は、円環形状から一部が欠落した円弧状であっても良い。
【0041】
平板状のサセプター74は基台リング71に設けられた4個の連結部72によって支持される。サセプター74は石英にて形成された略円形の平板状部材である。サセプター74の直径は半導体ウェハーWの直径よりも大きい。すなわち、サセプター74は、半導体ウェハーWよりも大きな平面サイズを有する。サセプター74の上面には複数個(本実施形態では5個)のガイドピン76が立設されている。5個のガイドピン76はサセプター74の外周円と同心円の周上に沿って設けられている。5個のガイドピン76を配置した円の径は半導体ウェハーWの径よりも若干大きい。各ガイドピン76も石英にて形成されている。なお、ガイドピン76は、サセプター74と一体に石英のインゴットから加工するようにしても良いし、別途に加工したものをサセプター74に溶接等によって取り付けるようにしても良い。
【0042】
基台リング71に立設された4個の連結部72とサセプター74の周縁部の下面とが溶接によって固着される。すなわち、サセプター74と基台リング71とは連結部72によって固定的に連結されており、保持部7は石英の一体成形部材となる。このような保持部7の基台リング71がチャンバー6の壁面に支持されることによって、保持部7がチャンバー6に装着される。保持部7がチャンバー6に装着された状態においては、略円板形状のサセプター74は水平姿勢(法線が鉛直方向と一致する姿勢)となる。チャンバー6に搬入された半導体ウェハーWは、チャンバー6に装着された保持部7のサセプター74の上に水平姿勢にて載置されて保持される。半導体ウェハーWは、5個のガイドピン76によって形成される円の内側に載置されることにより、水平方向の位置ずれが防止される。なお、ガイドピン76の個数は5個に限定されるものではなく、半導体ウェハーWの位置ずれを防止できる数であれば良い。
【0043】
また、
図2および
図3に示すように、サセプター74には、上下に貫通して開口部78および切り欠き部77が形成されている。切り欠き部77は、熱電対を使用した接触式温度計130のプローブ先端部を通すために設けられている。一方、開口部78は、放射温度計120がサセプター74に保持された半導体ウェハーWの下面から放射される放射光(赤外光)を受光するために設けられている。さらに、サセプター74には、後述する移載機構10のリフトピン12が半導体ウェハーWの受け渡しのために貫通する4個の貫通孔79が穿設されている。なお、放射温度計120および接触式温度計130は、いずれも半導体ウェハーWの温度を測定する温度計であって、サセプター74を含む保持部7の温度を測定するものではない。
【0044】
図5は、移載機構10の平面図である。また、
図6は、移載機構10の側面図である。移載機構10は、2本の移載アーム11を備える。移載アーム11は、概ね円環状の凹部62に沿うような円弧形状とされている。それぞれの移載アーム11には2本のリフトピン12が立設されている。各移載アーム11は水平移動機構13によって回動可能とされている。水平移動機構13は、一対の移載アーム11を保持部7に対して半導体ウェハーWの移載を行う移載動作位置(
図5の実線位置)と保持部7に保持された半導体ウェハーWと平面視で重ならない退避位置(
図5の二点鎖線位置)との間で水平移動させる。水平移動機構13としては、個別のモータによって各移載アーム11をそれぞれ回動させるものであっても良いし、リンク機構を用いて1個のモータによって一対の移載アーム11を連動させて回動させるものであっても良い。
【0045】
また、一対の移載アーム11は、昇降機構14によって水平移動機構13とともに昇降移動される。昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて上昇させると、計4本のリフトピン12がサセプター74に穿設された貫通孔79(
図2,3参照)を通過し、リフトピン12の上端がサセプター74の上面から突き出る。一方、昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて下降させてリフトピン12を貫通孔79から抜き取り、水平移動機構13が一対の移載アーム11を開くように移動させると各移載アーム11が退避位置に移動する。一対の移載アーム11の退避位置は、保持部7の基台リング71の直上である。基台リング71は凹部62の底面に載置されているため、移載アーム11の退避位置は凹部62の内側となる。なお、移載機構10の駆動部(水平移動機構13および昇降機構14)が設けられている部位の近傍にも図示省略の排気機構が設けられており、移載機構10の駆動部周辺の雰囲気がチャンバー6の外部に排出されるように構成されている。
【0046】
図1および
図2に戻り、チャンバー6の内部には放射温度計27が設けられている。放射温度計27は、保持部7のサセプター74から放射された赤外光を検知してサセプター74の温度を測定する温度センサーである。第1実施形態においては、放射温度計27は、サセプター74の中心部の温度を測定することができる位置に設置されている。
【0047】
チャンバー6の上方に設けられたフラッシュ加熱部5は、筐体51の内側に、複数本(本実施形態では30本)のキセノンフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。また、フラッシュ加熱部5の筐体51の底部にはランプ光放射窓53が装着されている。フラッシュ加熱部5の床部を構成するランプ光放射窓53は、石英により形成された板状の石英窓である。フラッシュ加熱部5がチャンバー6の上方に設置されることにより、ランプ光放射窓53が上側チャンバー窓63と相対向することとなる。フラッシュランプFLはチャンバー6の上方からランプ光放射窓53および上側チャンバー窓63を介して熱処理空間65にフラッシュ光を照射して半導体ウェハーWをフラッシュ加熱する。
【0048】
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。
【0049】
図8は、フラッシュランプFLの駆動回路を示す図である。同図に示すように、コンデンサ93と、コイル94と、フラッシュランプFLと、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)96とが直列に接続されている。また、
図8に示すように、制御部3は、パルス発生器31および波形設定部32を備えるとともに、入力部33に接続されている。入力部33としては、キーボード、マウス、タッチパネル等の種々の公知の入力機器を採用することができる。入力部33からの入力内容に基づいて波形設定部32がパルス信号の波形を設定し、その波形に従ってパルス発生器31がパルス信号を発生する。
【0050】
フラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部に陽極および陰極が配設された棒状のガラス管(放電管)92と、該ガラス管92の外周面上に付設されたトリガー電極91とを備える。コンデンサ93には、電源ユニット95によって所定の電圧が印加され、その印加電圧(充電電圧)に応じた電荷が充電される。また、トリガー電極91にはトリガー回路97から高電圧を印加することができる。トリガー回路97がトリガー電極91に電圧を印加するタイミングは制御部3によって制御される。
【0051】
IGBT96は、ゲート部にMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field effect transistor)を組み込んだバイポーラトランジスタであり、大電力を取り扱うのに適したスイッチング素子である。IGBT96のゲートには制御部3のパルス発生器31からパルス信号が印加される。IGBT96のゲートに所定値以上の電圧(Highの電圧)が印加されるとIGBT96がオン状態となり、所定値未満の電圧(Lowの電圧)が印加されるとIGBT96がオフ状態となる。このようにして、フラッシュランプFLを含む駆動回路はIGBT96によってオンオフされる。IGBT96がオンオフすることによってフラッシュランプFLと対応するコンデンサ93との接続が断続され、フラッシュランプFLに流れる電流がオンオフ制御される。
【0052】
コンデンサ93が充電された状態でIGBT96がオン状態となってガラス管92の両端電極に高電圧が印加されたとしても、キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、通常の状態ではガラス管92内に電気は流れない。しかしながら、トリガー回路97がトリガー電極91に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には両端電極間の放電によってガラス管92内に電流が瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。
【0053】
図8に示すような駆動回路は、フラッシュ加熱部5に設けられた複数のフラッシュランプFLのそれぞれに個別に設けられている。本実施形態では、30本のフラッシュランプFLが平面状に配列されているため、それらに対応して
図8に示す如き駆動回路が30個設けられている。
【0054】
リフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光を熱処理空間65の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されている。
【0055】
チャンバー6の下方に設けられたハロゲン加熱部4は、筐体41の内側に複数本(本実施形態では40本)のハロゲンランプHLを内蔵している。ハロゲン加熱部4は、複数のハロゲンランプHLによってチャンバー6の下方から下側チャンバー窓64を介して熱処理空間65への光照射を行って半導体ウェハーWを加熱する光照射部である。ハロゲン加熱部4は、サセプター74に支持された半導体ウェハーWの下面に石英のサセプター74を透過してハロゲン光を照射する。
【0056】
図7は、複数のハロゲンランプHLの配置を示す平面図である。40本のハロゲンランプHLは上下2段に分けて配置されている。保持部7に近い上段に20本のハロゲンランプHLが配設されるとともに、上段よりも保持部7から遠い下段にも20本のハロゲンランプHLが配設されている。各ハロゲンランプHLは、長尺の円筒形状を有する棒状ランプである。上段、下段ともに20本のハロゲンランプHLは、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように配列されている。よって、上段、下段ともにハロゲンランプHLの配列によって形成される平面は水平面である。
【0057】
また、
図7に示すように、上段、下段ともに保持部7に保持される半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域におけるハロゲンランプHLの配設密度が高くなっている。すなわち、上下段ともに、ランプ配列の中央部よりも周縁部の方がハロゲンランプHLの配設ピッチが短い。このため、ハロゲン加熱部4からの光照射による加熱時に温度低下が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部により多い光量の照射を行うことができる。
【0058】
また、上段のハロゲンランプHLからなるランプ群と下段のハロゲンランプHLからなるランプ群とが格子状に交差するように配列されている。すなわち、上段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向と下段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向とが互いに直交するように計40本のハロゲンランプHLが配設されている。
【0059】
ハロゲンランプHLは、ガラス管内部に配設されたフィラメントに通電することでフィラメントを白熱化させて発光させるフィラメント方式の光源である。ガラス管の内部には、窒素やアルゴン等の不活性ガスにハロゲン元素(ヨウ素、臭素等)を微量導入した気体が封入されている。ハロゲン元素を導入することによって、フィラメントの折損を抑制しつつフィラメントの温度を高温に設定することが可能となる。したがって、ハロゲンランプHLは、通常の白熱電球に比べて寿命が長くかつ強い光を連続的に照射できるという特性を有する。すなわち、ハロゲンランプHLは少なくとも1秒以上連続して発光する連続点灯ランプである。また、ハロゲンランプHLは棒状ランプであるため長寿命であり、ハロゲンランプHLを水平方向に沿わせて配置することにより上方の半導体ウェハーWへの放射効率が優れたものとなる。また、40本のハロゲンランプHLの出力は制御部3によって個別に調整可能とされている。
【0060】
また、ハロゲン加熱部4の筐体41内にも、2段のハロゲンランプHLの下側にリフレクタ43が設けられている(
図1)。リフレクタ43は、複数のハロゲンランプHLから出射された光を熱処理空間65の側に反射する。
【0061】
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行う回路であるCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えて構成される。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。また、
図8に示したように、制御部3は、パルス発生器31および波形設定部32を備える。上述のように、入力部33からの入力内容に基づいて、波形設定部32がパルス信号の波形を設定し、それに従ってパルス発生器31がIGBT96のゲートにパルス信号を出力する。
【0062】
上記の構成以外にも熱処理装置1は、半導体ウェハーWの熱処理時にハロゲンランプHLおよびフラッシュランプFLから発生する熱エネルギーによるハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造を備えている。例えば、チャンバー6の壁体には水冷管(図示省略)が設けられている。また、ハロゲン加熱部4およびフラッシュ加熱部5は、内部に気体流を形成して排熱する空冷構造とされている。また、上側チャンバー窓63とランプ光放射窓53との間隙にも空気が供給され、フラッシュ加熱部5および上側チャンバー窓63を冷却する。
【0063】
次に、熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順について説明する。ここで処理対象となる半導体ウェハーWはイオン注入法により不純物(イオン)が添加された半導体基板である。その不純物の活性化が熱処理装置1によるフラッシュ光照射加熱処理(アニール)により実行される。以下に説明する熱処理装置1の処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
【0064】
まず、処理対象となる半導体ウェハーWに対する加熱処理に先立って、ハロゲン加熱部4の40本のハロゲンランプHLによってサセプター74を予熱しておく。すなわち、ロットを構成する最初の半導体ウェハーWがチャンバー6に搬入される前に、制御部3の制御によりハロゲン加熱部4の40本のハロゲンランプHLが点灯して保持部7のサセプター74を加熱する。ハロゲンランプHLから熱処理空間65に向けて照射された光の一部は石英のサセプター74によっても吸収され、それによりサセプター74が昇温するのである。
【0065】
昇温するサセプター74の温度は放射温度計27によって測定される。但し、サセプター74に半導体ウェハーWが載置されているときには、半導体ウェハーWの下面から放射される放射光がサセプター74を透過して外乱光となるため放射温度計27がサセプター74の温度を測定することが困難となる。処理対象となる半導体ウェハーWがチャンバー6に搬入される前であれば、サセプター74に半導体ウェハーWが載置されていないため、放射温度計27はサセプター74の温度を測定することができる。
【0066】
放射温度計27によって測定されたサセプター74の温度は制御部3に伝達される。制御部3は、放射温度計27がサセプター74の温度を測定した測定結果に基づいて、サセプター74の温度が所定温度となるようにハロゲンランプHLの出力をフィードバック制御する。ハロゲンランプHLによってサセプター74は200℃〜300℃に加熱されるが、その加熱温度の詳細についてはさらに後述する。また、制御部3は、サセプター74の温度が上記の所定温度に到達するまで処理対象となる半導体ウェハーWの処理開始を待機させる。サセプター74の温度が所定温度にまで到達した時点でハロゲンランプHLは一旦消灯する。
【0067】
また、サセプター74の予熱と並行して、給気のためのバルブ84が開放されるとともに、排気用のバルブ89,192が開放されてチャンバー6内に対する給排気が開始される。バルブ84が開放されると、ガス供給孔81から熱処理空間65に窒素ガスが供給される。また、バルブ89が開放されると、ガス排気孔86からチャンバー6内の気体が排気される。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65の上部から供給された窒素ガスが下方へと流れ、熱処理空間65の下部から排気される。
【0068】
さらに、バルブ192が開放されることによって、搬送開口部66からもチャンバー6内の気体が排気されるとともに、図示省略の排気機構によって移載機構10の駆動部周辺の雰囲気も排気される。なお、熱処理装置1における半導体ウェハーWの熱処理時には窒素ガスが熱処理空間65に継続的に供給されており、その供給量は処理工程に応じて適宜変更される。
【0069】
制御部3は、放射温度計27によって測定されるサセプター74の温度が所定温度にまで昇温した後、熱処理装置1におけるロットの最初の半導体ウェハーWの熱処理を開始させる。処理開始時には、ゲートバルブ185が開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介してイオン注入後の半導体ウェハーWがチャンバー6内の熱処理空間65に搬入される。搬送ロボットによって搬入された半導体ウェハーWは保持部7の直上位置まで進出して停止する。そして、移載機構10の一対の移載アーム11が退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12が貫通孔79を通ってサセプター74の上面から突き出て半導体ウェハーWを受け取る。
【0070】
半導体ウェハーWがリフトピン12に載置された後、搬送ロボットが熱処理空間65から退出し、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖される。そして、一対の移載アーム11が下降することにより、半導体ウェハーWは移載機構10から保持部7のサセプター74に受け渡されて水平姿勢にて下方より保持される。半導体ウェハーWは、パターン形成がなされて不純物が注入された表面を上面としてサセプター74に載置される。また、半導体ウェハーWは、サセプター74の上面にて5個のガイドピン76の内側に載置される。サセプター74の下方にまで下降した一対の移載アーム11は水平移動機構13によって退避位置、すなわち凹部62の内側に退避する。
【0071】
半導体ウェハーWが石英にて形成された保持部7によって水平姿勢にて下方より保持された後、ハロゲン加熱部4の40本のハロゲンランプHLが一斉に点灯して予備加熱(アシスト加熱)が開始される。ハロゲンランプHLから出射されたハロゲン光は、石英にて形成された下側チャンバー窓64およびサセプター74を透過して半導体ウェハーWの裏面(表面とは反対側の主面)から照射される。ハロゲンランプHLからの光照射を受けることによって半導体ウェハーWが予備加熱されて温度が上昇する。
【0072】
ハロゲンランプHLによる予備加熱を行うときには、半導体ウェハーWの温度が接触式温度計130によって測定されている。すなわち、熱電対を内蔵する接触式温度計130が保持部7に保持された半導体ウェハーWの下面にサセプター74の切り欠き部77を介して接触して昇温中のウェハー温度を測定する。測定された半導体ウェハーWの温度は制御部3に伝達される。制御部3は、ハロゲンランプHLからの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度が所定の予備加熱温度T1に到達したか否かを監視しつつ、ハロゲンランプHLの出力を制御する。すなわち、制御部3は、接触式温度計130による測定値に基づいて、半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1となるようにハロゲンランプHLの出力をフィードバック制御する。予備加熱温度T1は、半導体ウェハーWに添加された不純物が熱により拡散する恐れのない、200℃ないし800℃程度、好ましくは350℃ないし600℃程度とされる(本実施の形態では600℃)。なお、半導体ウェハーWの温度測定は、接触式温度計130に代えてまたは加えて放射温度計120によって行うようにしても良い。
【0073】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した後、制御部3は半導体ウェハーWをその予備加熱温度T1に暫時維持する。具体的には、接触式温度計130によって測定される半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した時点にて制御部3がハロゲンランプHLの出力を調整し、半導体ウェハーWの温度をほぼ予備加熱温度T1に維持している。
【0074】
このようなハロゲンランプHLによる予備加熱を行うことによって、半導体ウェハーWの全体を予備加熱温度T1に均一に昇温している。ハロゲンランプHLによる予備加熱の段階においては、より放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部の温度が中央部よりも低下する傾向にあるが、ハロゲン加熱部4におけるハロゲンランプHLの配設密度は、半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域の方が高くなっている(
図7参照)。このため、放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部に照射される光量が多くなり、予備加熱段階における半導体ウェハーWの面内温度分布を均一なものとすることができる。さらに、チャンバー側部61に装着された反射リング69の内周面は鏡面とされているため、この反射リング69の内周面によって半導体ウェハーWの周縁部に向けて反射する光量が多くなり、予備加熱段階における半導体ウェハーWの面内温度分布をより均一なものとすることができる。
【0075】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達して所定時間が経過した時点にて、フラッシュ加熱部5のフラッシュランプFLが半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光照射を行う。フラッシュランプFLがフラッシュ光照射を行うに際しては、予め電源ユニット95によってコンデンサ93に電荷を蓄積しておく。そして、コンデンサ93に電荷が蓄積された状態にて、制御部3のパルス発生器31からIGBT96にパルス信号を出力してIGBT96をオンオフ駆動する。
【0076】
パルス信号の波形は、パルス幅の時間(オン時間)とパルス間隔の時間(オフ時間)とをパラメータとして順次設定したレシピを入力部33から入力することによって規定することができる。このようなレシピをオペレータが入力部33から制御部3に入力すると、それに従って制御部3の波形設定部32はオンオフを繰り返すパルス波形を設定する。そして、波形設定部32によって設定されたパルス波形に従ってパルス発生器31がパルス信号を出力する。その結果、IGBT96のゲートには設定された波形のパルス信号が印加され、IGBT96のオンオフ駆動が制御されることとなる。具体的には、IGBT96のゲートに入力されるパルス信号がオンのときにはIGBT96がオン状態となり、パルス信号がオフのときにはIGBT96がオフ状態となる。
【0077】
また、パルス発生器31から出力するパルス信号がオンになるタイミングと同期して制御部3がトリガー回路97を制御してトリガー電極91に高電圧(トリガー電圧)を印加する。コンデンサ93に電荷が蓄積された状態にてIGBT96のゲートにパルス信号が入力され、かつ、そのパルス信号がオンになるタイミングと同期してトリガー電極91に高電圧が印加されることにより、パルス信号がオンのときにはガラス管92内の両端電極間で必ず電流が流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。
【0078】
このようにしてフラッシュ加熱部5の30本のフラッシュランプFLが発光し、サセプター74に載置された半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光が照射される。ここで、IGBT96を使用することなくフラッシュランプFLを発光させた場合には、コンデンサ93に蓄積されていた電荷が1回の発光で消費され、フラッシュランプFLからの出力波形は幅が0.1ミリセカンドないし10ミリセカンド程度のシングルパルスとなる。これに対して、本実施の形態では、回路中にスイッチング素子たるIGBT96を接続してそのゲートにパルス信号を出力することにより、コンデンサ93からフラッシュランプFLへの電荷の供給をIGBT96によって断続してフラッシュランプFLに流れる電流をオンオフ制御している。その結果、いわばフラッシュランプFLの発光がチョッパ制御されることとなり、コンデンサ93に蓄積された電荷が分割して消費され、極めて短い時間の間にフラッシュランプFLが点滅を繰り返す。なお、回路を流れる電流値が完全に”0”になる前に次のパルスがIGBT96のゲートに印加されて電流値が再度増加するため、フラッシュランプFLが点滅を繰り返している間も発光出力が完全に”0”になるものではない。
【0079】
その結果、IGBT96によってフラッシュランプFLに流れる電流をオンオフ制御することにより、フラッシュランプFLの発光パターンを自在に規定することができ、発光時間および発光強度を自由に調整することができる。具体的には、例えば、入力部33から入力するパルス間隔の時間に対するパルス幅の時間の比率を大きくすると、フラッシュランプFLに流れる電流が増大して発光強度が強くなる。逆に、入力部33から入力するパルス間隔の時間に対するパルス幅の時間の比率を小さくすると、フラッシュランプFLに流れる電流が減少して発光強度が弱くなる。また、入力部33から入力するパルス間隔の時間とパルス幅の時間の比率を適切に調整すれば、フラッシュランプFLの発光強度が一定に維持される。さらに、入力部33から入力するパルス幅の時間とパルス間隔の時間との組み合わせの総時間を長くすることによって、フラッシュランプFLに比較的長時間にわたって電流が流れ続けることとなり、フラッシュランプFLの発光時間が長くなる。なお、フラッシュランプFLの発光時間は長くても1秒以下である。
【0080】
30本のフラッシュランプFLからフラッシュ光が照射されることによって、半導体ウェハーWがフラッシュ加熱される。フラッシュ加熱される半導体ウェハーWの表面温度は、瞬間的に1000℃以上の処理温度T2まで上昇し、半導体ウェハーWに注入された不純物が活性化された後、表面温度が急速に下降する。フラッシュランプFLが発光する前後にわたってハロゲンランプHLによる光照射は継続されているため、半導体ウェハーWの表面温度は予備加熱温度T1の近傍まで降温する。
【0081】
フラッシュ加熱処理が終了した後、所定時間経過後にハロゲンランプHLも消灯する。これにより、半導体ウェハーWが予備加熱温度T1から急速に降温する。降温中の半導体ウェハーWの温度は接触式温度計130または放射温度計120によって測定され、その測定結果は制御部3に伝達される。制御部3は、測定結果より半導体ウェハーWの温度が所定温度まで降温したか否かを監視する。そして、半導体ウェハーWの温度が所定以下にまで降温した後、移載機構10の一対の移載アーム11が再び退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12がサセプター74の上面から突き出て熱処理後の半導体ウェハーWをサセプター74から受け取る。続いて、ゲートバルブ185により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、リフトピン12上に載置された半導体ウェハーWが装置外部の搬送ロボットにより搬出され、熱処理装置1における半導体ウェハーWの加熱処理が完了する。
【0082】
ところで、典型的には、半導体ウェハーWの処理はロット単位で行われる。ロットとは、同一条件にて同一内容の処理を行う対象となる1組の半導体ウェハーWである。本実施形態の熱処理装置1においても、ロットを構成する複数枚の半導体ウェハーWが1枚ずつ順次にチャンバー6に搬入されて加熱処理が行われる。
【0083】
ここで、しばらく処理を行っていなかった熱処理装置1にて上述のようなサセプター74の予熱を行うことなくロットの処理を開始する場合、概ね室温のチャンバー6にロットの最初の半導体ウェハーWが搬入されてフラッシュ加熱処理が行われることとなる。このよう
な場合は、例えばメンテナンス後に熱処理装置1が起動されてから最初のロットを処理する場合や先のロットを処理した後に長時間が経過した場合などである。加熱処理時には、昇温した半導体ウェハーWからサセプター74等のチャンバー内構造物に熱伝導が生じるため、初期には室温であったサセプター74が半導体ウェハーWの処理枚数が増えるにつれて徐々に蓄熱により昇温することとなる。
【0084】
図9は、半導体ウェハーWの処理枚数とサセプター74の温度との相関を示す図である。処理開始前には室温であったサセプター74が半導体ウェハーWの処理枚数が増えるにつれて徐々に半導体ウェハーWからの伝熱により昇温し、やがて約10枚の半導体ウェハーWの加熱処理が行われたときにサセプター74の温度が一定の安定温度Tsに到達する。安定温度Tsに到達したサセプター74では、半導体ウェハーWからサセプター74への伝熱量とサセプター74からの放熱量とが均衡する。サセプター74の温度が安定温度Tsに到達するまでは、半導体ウェハーWからの伝熱量がサセプター74からの放熱量よりも多いため、半導体ウェハーWの処理枚数が増えるにつれてサセプター74の温度が徐々に蓄熱により上昇する。これに対して、サセプター74の温度が安定温度Tsに到達した後は、半導体ウェハーWからの伝熱量とサセプター74からの放熱量とが均衡するため、サセプター74の温度は一定の安定温度Tsに維持されることとなる。
【0085】
このように室温のチャンバー6にて処理を開始すると、ロットの初期の半導体ウェハーWと途中からの半導体ウェハーWとで異なる温度のサセプター74に支持されることによって温度履歴が不均一になることに加えて、初期の半導体ウェハーWについては低温のサセプター74に支持されてフラッシュ加熱処理が行われるためにウェハー反りが生じることもあった。このため、既述したように、従来では、ロットの処理を開始する前に、処理対象ではないダミーウェハーをチャンバー6内に搬入して処理対象の半導体ウェハーWと同様のフラッシュ加熱処理を行ってサセプター74等のチャンバー内構造物を安定温度Tsに昇温するダミーランニングが実施されていた。
【0086】
本実施形態においては、ロットの最初の半導体ウェハーWがチャンバー6に搬入される前に、ハロゲンランプHLからの光照射によってサセプター74を予熱している。このときに、制御部3は、放射温度計27がサセプター74の温度を測定した測定結果に基づいて、サセプター74の温度が上記の安定温度Tsに到達するようにハロゲンランプHLの出力を制御している。具体的には、予め実験またはシミュレーション等によって安定温度Tsを求めて制御部3の記憶部に格納しておく。そして、放射温度計27によって測定されるサセプター74の温度が安定温度Tsに到達するように、制御部3がハロゲンランプHLの出力を制御してサセプター74に対する光照射加熱を行っている。
【0087】
安定温度Tsは、サセプター74を予熱することなく、チャンバー6内にてロットの複数の半導体ウェハーWに連続して光照射加熱を行うことによりサセプター74の温度が上昇して一定となったときの当該サセプター74の温度である。安定温度Tsは、ロットを構成する半導体ウェハーWの予備加熱温度T1によって異なるが200℃〜300℃である。そして、サセプター74の温度が安定温度Tsに昇温した後に、ロットの最初の半導体ウェハーWに対する熱処理を開始している。
【0088】
ロットの最初の半導体ウェハーWに対する熱処理を開始する前に、ハロゲンランプHLからの光照射によってサセプター74を安定温度Tsに昇温しておくことにより、ロットを構成する全ての半導体ウェハーWにわたって同じ温度のサセプター74に支持されることとなり、温度履歴を均一にすることができる。また、ロットの初期の半導体ウェハーWについても、安定温度Tsに昇温したサセプター74によって支持されるため、サセプター74と半導体ウェハーWとの温度差に起因したウェハー反りを防止することができる。その結果、従来のような数枚のダミーウェハーに加熱処理を行うダミーランニングを省略することができるため、
熱処理装置1の効率的な運用が可能となる。
【0089】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態の熱処理装置の全体概略構成および半導体ウェハーWの処理手順は概ね第1実施形態と同様であるが、サセプター74の温度を測定する放射温度計の個数が異なる。第1実施形態ではサセプター74の中心部の温度を測定する放射温度計27を1個設けていたのに対し、第2実施形態においてはサセプター74の複数箇所の温度を測定する複数の放射温度計を設けている。
【0090】
具体的には、第2実施形態では、サセプター74の中心部の温度を測定する放射温度計、サセプター74の周縁部の温度を測定する放射温度計、および、サセプター74の中心部の周縁部との間の中間部の温度を測定する放射温度計の計3個の放射温度計を設置してる。そして、第2実施形態においては、サセプター74の複数の温度測定箇所のそれぞれを含む領域毎にハロゲン加熱部4からの光照射を制御する。すなわち、サセプター74の温度をゾーン制御するのである。
【0091】
図10は、サセプター74の温度のゾーン制御の一例を示す図である。略円形のサセプター74が同心円状に中心ゾーンCZ、中間ゾーンMZおよび周縁ゾーンEZの3つの領域に分割されている。上記3個の放射温度計は、それぞれ中心ゾーンCZ、中間ゾーンMZおよび周縁ゾーンEZの温度を測定する。そして、制御部3は、3個の放射温度計が中心ゾーンCZ、中間ゾーンMZおよび周縁ゾーンEZの温度を測定した測定結果に基づいて、中心ゾーンCZ、中間ゾーンMZおよび周縁ゾーンEZのそれぞれの温度が安定温度Tsに到達するようにハロゲンランプHLの出力を制御する。40本のハロゲンランプHLの出力は個別に調整可能であるため、制御部3は中心ゾーンCZ、中間ゾーンMZおよび周縁ゾーンEZのそれぞれに対応するハロゲンランプHLのみの出力を調整することができる。例えば、サセプター74の周縁ゾーンEZの温度が中心ゾーンCZおよび中間ゾーンMZの温度よりも低い場合には、周縁ゾーンEZに対応するハロゲンランプHL(周縁ゾーンEZの下方に位置するハロゲンランプHL)の出力を増大して周縁ゾーンEZに照射される光の光量を増やす。これにより、サセプター74の周縁ゾーンEZが強く加熱されて中心ゾーンCZおよび中間ゾーンMZと同じ温度となり、サセプター74の全体が均一に安定温度Tsに加熱されることとなる。
【0092】
複数の放射温度計を設けてサセプター74の温度をゾーン制御する点を除く第2実施形態の残余の構成は第1実施形態と同様である。第2実施形態においても、ロットの最初の半導体ウェハーWに対する熱処理を開始する前に、ハロゲンランプHLからの光照射によってサセプター74を安定温度Tsに昇温しておくことにより、ロットを構成する全ての半導体ウェハーWにわたって同じ温度のサセプター74に支持されることとなり、温度履歴を均一にすることができる。また、ロットの初期の半導体ウェハーWについても、安定温度Tsに昇温したサセプター74によって支持されるため、サセプター74と半導体ウェハーWとの温度差に起因したウェハー反りを防止することができる。その結果、従来のような数枚のダミーウェハーに加熱処理を行うダミーランニングを省略することができるため、
熱処理装置1の効率的な運用が可能となる。さらに、第2実施形態においては、複数の放射温度計を設けてサセプター74の温度をゾーン制御しているため、サセプター74の温度を精度良く均一に昇温することができる。
【0093】
<変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記各実施形態においては、半導体ウェハーWを予備加熱するためのハロゲンランプHLによってサセプター74を加熱するようにしていたが、これに限定されるものではなく、抵抗加熱式のヒータなど専用の加熱機構によって石英のサセプター74を加熱するようにしても良い。
【0094】
また、上記各実施形態においては、放射温度計によってサセプター74の温度を測定するようにしていたが、熱電対を組み込んだ接触式温度計によってサセプターの温度を測定するようにしても良い。
【0095】
また、放射温度計27によって石英のサセプター74の温度を正確に測定することは容易ではないこともあり、サセプター74の温度を正確に測定する必要性は必ずしもない。すなわち、サセプター74の温度が安定温度Tsに到達すれば必要十分であるため、放射温度計27によって測定されるサセプター74の温度と安定温度Tsとの相対比較において温度差がゼロとなるように制御部3がハロゲンランプHLの出力を制御すれば良い。但し、この場合は、予め実験によって安定温度Tsを同じ放射温度計27によって測定しておく必要はある。さらに、制御部3は、安定温度Tsを測定したときの放射温度計27からの出力と予熱されるサセプター74の温度を測定したときの放射温度計27からの出力とが一致するようにハロゲンランプHLの出力を制御するようにしても良い。
【0096】
また、第2実施形態においては、3個の放射温度計を設けてサセプター74を3つのゾーンに分割してゾーン制御を行っていたが、これに限定されるものではなく、2個以上の複数の温度センサーを設け、複数の温度測定箇所のそれぞれを含む領域毎に加熱制御すれば良い。
【0097】
また、第2実施形態においては、サセプター74の全てのゾーンが同じ温度となるような制御を行っていたが、処理の必要に応じてサセプター74のゾーン毎に異なる温度となるように加熱制御を行って良い。例えば、予備加熱時における半導体ウェハーWの周縁部の相対的な温度低下を防止するために、サセプター74の周縁ゾーンEZが中心ゾーンCZおよび中間ゾーンMZよりも高温となるようにハロゲンランプHLの出力を制御するようにしても良い。
【0098】
また、上記各実施形態においては、IGBT96によってフラッシュランプFLの発光を制御するようにしていたが、IGBT96は必ずしも必須の要素ではない。IGBT96を用いることなく、単純にフラッシュランプFLを発光させた場合であっても、ロットの最初の半導体ウェハーWに対する熱処理を開始する前に、サセプター74を安定温度Tsに昇温しておくことにより、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0099】
また、上記各実施形態においては、フラッシュ加熱部5に30本のフラッシュランプFLを備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの本数は任意の数とすることができる。また、フラッシュランプFLはキセノンフラッシュランプに限定されるものではなく、クリプトンフラッシュランプであっても良い。また、ハロゲン加熱部4に備えるハロゲンランプHLの本数も40本に限定されるものではなく、上段および下段に複数する配置する形態であれば任意の数とすることができる。
【0100】
また、本発明に係る熱処理装置によって処理対象となる基板は半導体ウェハーに限定されるものではなく、液晶表示装置などのフラットパネルディスプレイに用いるガラス基板や太陽電池用の基板であっても良い。また、本発明に係る技術は、高誘電率ゲート絶縁膜(High-k膜)の熱処理、金属とシリコンとの接合、或いはポリシリコンの結晶化に適用するようにしても良い。