特許第6539612号(P6539612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6539612ポリアミド系樹脂発泡シート、積層シート、発泡成形品、及び、ポリアミド系樹脂発泡シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6539612
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】ポリアミド系樹脂発泡シート、積層シート、発泡成形品、及び、ポリアミド系樹脂発泡シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/12 20060101AFI20190625BHJP
   B32B 5/32 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
   C08J9/12CFG
   B32B5/32
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-68741(P2016-68741)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-179122(P2017-179122A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】山下 洵史
【審査官】 藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−517122(JP,A)
【文献】 特開平03−128949(JP,A)
【文献】 特開平03−097404(JP,A)
【文献】 特開2013−185074(JP,A)
【文献】 特開昭60−042432(JP,A)
【文献】 特開2012−025916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00− 9/42
B29C44/00− 44/60
67/20
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
C08G69/00− 69/50
B32B 1/00− 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系樹脂組成物によって形成された発泡層を備えたポリアミド系樹脂発泡シートであって、
前記発泡層は、見掛け密度が0.025g/cm以上0.25g/cm以下で、厚みが0.5mm以上5.0mm以下で、連続気泡率が5%以上30%以下であり、
前記ポリアミド系樹脂組成物のベースポリマーがポリアミド系熱可塑性エラストマーで、3個以上のカルボン酸無水物基を1分子中に有する化合物が該ポリアミド系樹脂組成物にさらに含まれているポリアミド系樹脂発泡シート。
【請求項2】
ポリアミド系樹脂組成物によって形成された発泡層を備えたポリアミド系樹脂発泡シートであって、
前記発泡層は、見掛け密度が0.025g/cm以上0.25g/cm以下で、厚みが0.5mm以上5.0mm以下で、連続気泡率が5%以上30%以下であり、
前記ポリアミド系樹脂組成物のベースポリマーがポリアミド系熱可塑性エラストマーで、スチレン及びオレフィンの少なくとも1つとα、β−不飽和カルボン酸無水物との共重合体が該ポリアミド系樹脂組成物にさらに含まれているポリアミド系樹脂発泡シート。
【請求項3】
ポリアミド系樹脂組成物によって形成された発泡層を複数備え、該発泡層どうしが積層されている積層シートであって、
前記発泡層は、見掛け密度が0.025g/cm以上0.25g/cm以下で、厚みが0.5mm以上5.0mm以下で、連続気泡率が5%以上30%以下で、
積層された前記発泡層の合計厚みが2mm以上50mm以下であり、
前記ポリアミド系樹脂組成物のベースポリマーがポリアミド系熱可塑性エラストマーで、3個以上のカルボン酸無水物基を1分子中に有する化合物が該ポリアミド系樹脂組成物にさらに含まれている積層シート。
【請求項4】
ポリアミド系樹脂組成物によって形成された発泡層を複数備え、該発泡層どうしが積層されている積層シートであって、
前記発泡層は、見掛け密度が0.025g/cm以上0.25g/cm以下で、厚みが0.5mm以上5.0mm以下で、連続気泡率が5%以上30%以下で、
積層された前記発泡層の合計厚みが2mm以上50mm以下であり、
前記ポリアミド系樹脂組成物のベースポリマーがポリアミド系熱可塑性エラストマーで、スチレン及びオレフィンの少なくとも1つとα、β−不飽和カルボン酸無水物との共重合体が該ポリアミド系樹脂組成物にさらに含まれている積層シート。
【請求項5】
請求項1又は2記載のポリアミド系樹脂発泡シート製の成形品である発泡成形品。
【請求項6】
請求項3又は4記載の積層シート製の成形品である発泡成形品。
【請求項7】
ポリアミド系樹脂組成物によって形成された発泡層を備えたポリアミド系樹脂発泡シートを作製するポリアミド系樹脂発泡シートの製造方法であって、
発泡剤を含むポリアミド系樹脂組成物をシート状に押出発泡して前記発泡層を形成し、
該発泡層は、
見掛け密度が0.025g/cm以上0.25g/cm以下、厚みが0.5mm以上5.0mm以下で、連続気泡率が5%以上30%以下であり、且つ、前記ポリアミド系樹脂組成物のベースポリマーがポリアミド系熱可塑性エラストマーで、
3個以上のカルボン酸無水物基を1分子中に有する化合物、及び、前記ポリアミド系熱可塑性エラストマーを含む前記ポリアミド系樹脂組成物を押出機で溶融混練し、該溶融混練された溶融混練物を前記押出発泡させて前記発泡層を形成するポリアミド系樹脂発泡シートの製造方法。
【請求項8】
ポリアミド系樹脂組成物によって形成された発泡層を備えたポリアミド系樹脂発泡シートを作製するポリアミド系樹脂発泡シートの製造方法であって、
発泡剤を含むポリアミド系樹脂組成物をシート状に押出発泡して前記発泡層を形成し、
該発泡層は、
見掛け密度が0.025g/cm以上0.25g/cm以下、厚みが0.5mm以上5.0mm以下で、連続気泡率が5%以上30%以下であり、且つ、前記ポリアミド系樹脂組成物のベースポリマーがポリアミド系熱可塑性エラストマーで、
スチレン及びオレフィンの少なくとも1つと、α、β−不飽和カルボン酸無水物との共重合体、及び、前記ポリアミド系熱可塑性エラストマーを含む前記ポリアミド系樹脂組成物を押出機で溶融混練し、該溶融混練された溶融混練物を前記押出発泡させて前記発泡層を形成するポリアミド系樹脂発泡シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド系樹脂発泡シート、積層シート、発泡成形品、及び、ポリアミド系樹脂発泡シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド系樹脂は、強靱で、耐摩耗性、潤滑性、耐薬品性、耐油性に優れているため、従来、各種の用途に利用されている。
ポリアミド系樹脂は、例えば、下記特許文献1に示すように発泡シートのベースポリマーとして利用することが検討されている。
また、ポリアミド系樹脂は、下記特許文献1に示すような発泡層単層のシートだけではなく、複数の発泡層や発泡層と非発泡層とが積層された積層シート、該積層シートや前記の発泡層単層のシートに熱成形などの2次的加工が施された発泡成形品の原材料として広く利用されている。
しかし、一般的なポリアミド系樹脂は、結晶性を有するために、結晶融点付近で急激に溶融粘度を低下させる性質を有し、良好な発泡を生じさせ難いという性質を有している。
そこで、特許文献1に開示された発明では、カルボン酸無水物基を有する物質でポリアミド系樹脂を改質して溶融粘度を向上させる試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−86800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この特許文献1に開示された発明では、従来のポリアミド系樹脂に対して高い溶融粘度が発揮されるため、発泡状態の良好なポリアミド系樹脂発泡シートを得ることができる。
しかしながらポリアミド系樹脂発泡シートは、変形に対する回復性や応力に対する反発性が十分ではない場合がある。
そのため、従来のポリアミド系樹脂発泡シート、積層シート、及び、これらで出来た発泡成形品は、繰り返し圧縮される用途や柔軟性が求められる用途で使用することに問題を生じる場合がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題を解決することを課題としており、変形に対する回復性や応力に対する反発性に優れたポリアミド系樹脂発泡シート、積層シート、及び、発泡成形品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく本発明者らが鋭意検討を行ったところ、ポリアミド系熱可塑性エラストマーのようなポリマーの中でも比較的柔らかいものをベースポリマーとして用いることでポリアミド系樹脂発泡シートなどに変形に対する優れた回復性や応力に対する優れた反発性を発揮させ得ることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、上記課題を解決すべく本発明は、ポリアミド系樹脂組成物によって形成された発泡層を備えたポリアミド系樹脂発泡シートであって、前記発泡層は、見掛け密度が0.025g/cm以上0.25g/cm以下で、厚みが0.5mm以上5.0mm以下で、連続気泡率が5%以上30%以下であり、前記ポリアミド系樹脂組成物のベースポリマーがポリアミド系熱可塑性エラストマーであるポリアミド系樹脂発泡シートを提供する。
【0008】
また、上記課題を解決すべく本発明は、ポリアミド系樹脂組成物によって形成された発泡層を複数備え、該発泡層どうしが積層されている積層シートであって、前記発泡層は、見掛け密度が0.025g/cm以上0.25g/cm以下で、厚みが0.5mm以上5.0mm以下で、連続気泡率が5%以上30%以下であり、積層された前記発泡層の合計厚みが2mm以上50mm以下であり、前記ポリアミド系樹脂組成物のベースポリマーがポリアミド系熱可塑性エラストマーである積層シートを提供する。
【0009】
また、上記課題を解決すべく本発明は、上記のようなポリアミド系樹脂発泡シート製の成形品である発泡成形品や上記のような積層シート製の成形品である発泡成形品を提供する。
【0010】
さらに、上記課題を解決すべく本発明は、ポリアミド系樹脂組成物によって形成された発泡層を備えたポリアミド系樹脂発泡シートを作製するポリアミド系樹脂発泡シートの製造方法であって、発泡剤を含むポリアミド系樹脂組成物をシート状に押出発泡して前記発泡層を形成し、該発泡層は、見掛け密度が0.025g/cm以上0.25g/cm以下、厚みが0.5mm以上5.0mm以下で、連続気泡率が5%以上30%以下であり、且つ、前記ポリアミド系樹脂組成物のベースポリマーがポリアミド系熱可塑性エラストマーであるポリアミド系樹脂発泡シートの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、変形に対する回復性や応力に対する反発性に優れたポリアミド系樹脂発泡シート、積層シート、及び、発泡成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
本実施形態のポリアミド系樹脂発泡シートは、ポリアミド系樹脂組成物によって形成された発泡層を備えている。
ポリアミド系樹脂発泡シートの発泡層は、見掛け密度が0.025g/cm以上0.25g/cm以下で、厚みが0.5mm以上5.0mm以下で、連続気泡率が5%以上30%以下であり、前記ポリアミド系樹脂組成物のベースポリマーがポリアミド系熱可塑性エラストマーである。
【0013】
本実施形態の積層シートは、ポリアミド系樹脂組成物によって形成された発泡層を複数備え、該発泡層どうしが積層された積層シートである。
積層シートにおいて積層されている複数の発泡層は、見掛け密度が0.025g/cm以上0.25g/cm以下で、厚みが0.5mm以上5.0mm以下で、連続気泡率が5%以上30%以下であり、前記ポリアミド系樹脂組成物のベースポリマーがポリアミド系熱可塑性エラストマーである。
積層シートにおいて積層されている前記発泡層の合計厚みは、2mm以上50mm以下である。
【0014】
ポリアミド系樹脂発泡シートの厚みは、例えば、ポリアミド系樹脂発泡シートから採取した数十cm長さの帯状の試料により求めることができ、該試料の両端部(約20mmずつ)を除いた残りの部分に対し、長手方向に50mm間隔で測定点を設定し、この測定点をシックネスゲージ(例えば、尾崎製作所社製「ダイヤルシックネスゲージH」)を使用して、最小単位0.01mmまで厚みを測定し、この測定値の平均値から求めることができる。
なお、ポリアミド系樹脂発泡シートに樹脂フィルムがラミネートされるなどして非発泡層が形成されている場合、非発泡層と発泡層との界面で非発泡層を除去し、発泡層単体の試料を作製して発泡層の厚みを求めることができる。
【0015】
前記見掛け密度は、JIS K7222:2005「発泡プラスチック及びゴム−見かけ密度の測定」に記載されている方法によって測定することができる。
すなわち、100cm以上の試験片を材料の元のセル構造を変えないように切断し、その質量を測定し、次式により算出する。

密度(kg/m)=試験片質量(g)/試験片体積(mm)×10

(試験片状態調節)
測定用試験片は、作製後72時間以上経過したポリアミド系樹脂発泡シートから切り取り、温度23±2℃、湿度50±5%又は、温度27±2℃、湿度65±5%の雰囲気条件に16時間以上放置したものである。
【0016】
積層シートについても厚みや見掛け密度は上記のような方法で求めることができる。
【0017】
以下においては、まず、ポリアミド系樹脂発泡シートや積層シートの原材料について説明する。
【0018】
〔原材料〕
(ポリアミド系熱可塑性エラストマー)
本実施形態のポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)としては、例えば、アミド結合による繰返し構造を備えたハードセグメントと、エーテル及びエステル結合の少なくとも一方の結合による繰返し構造を備えたソフトセグメントとを有する共重合体が採用可能である。
【0019】
ハードセグメントは、好ましくは、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミドMXD6、ポリアミド6,12、ポリアミド12,12、ポリアミド4,6などとすることができる。
【0020】
ソフトセグメントは、好ましくは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどとすることができる。
【0021】
ポリアミド系樹脂組成物のベースポリマーは、単独のポリアミド系熱可塑性エラストマーで構成させてもよく、複数種類のポリアミド系熱可塑性エラストマーを組み合わせて構成させてもよい。
なお、ベースポリマーは、通常、ポリアミド系樹脂組成物中に50質量%以上の割合で含有される。
ポリアミド系熱可塑性エラストマーをポリアミド系樹脂組成物のベースポリマーとする場合、ポリアミド系樹脂組成物の80質量%以上をポリアミド系熱可塑性エラストマーとすることが好ましく、90質量%以上をポリアミド系熱可塑性エラストマーとすることが好ましい。
【0022】
ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、表面硬度であるショアD硬度が25〜75、ビカット軟化温度が60〜170℃のようなものが好ましい。
また、ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、15%伸長時においても降伏点を示さず、10%伸長後に応力を開放した際に、初期に対する伸びが2%以下となる弾性復元力を有するものが好ましい。
前記ショアD硬度はJIS K6253の試験方法に準拠して測定される。具体的には、温度23±2℃、湿度50±5%に調節された試験室内にて、100mm×100mm×厚み10mmに調整した試料に対し、D型デュロメーターを垂直に押し当て、1秒後の数値を計測する。その際、測定位置は試料外端より12mm以上内側で計測し、測定点同士は10mmの間隔を確保し、一つの試料に対し5点計測し、平均値をショアD硬度とする。
前記ビカット軟化温度はJIS K7206:1999 A50法の試験方法に準拠して測定される。
【0023】
(他ポリマー)
ポリアミド系樹脂組成物は、要すれば、ポリアミド系熱可塑性エラストマー以外のポリマー(以下、「他ポリマー」ともいう)を含んでいても良い。
該他ポリマーとしては、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。
他ポリマーとしては、ポリアミド系熱可塑性エラストマーと良好な相溶性を示すものが好ましい。
この好ましい他ポリマーとしては、前記のハードセグメントについて例示したポリアミド系樹脂が挙げられる。
【0024】
また、ポリアミド系樹脂組成物に含有させることが好ましい他ポリマーとしては、スチレン及びオレフィンの少なくとも一方と、α、β−不飽和カルボン酸無水物との共重合体(以下「酸無水物共重合体」ともいう)が挙げられる。
具体的には、無水マレイン酸、メチル無水マレイン酸、クロロ無水マレイン酸のようなα、β−不飽和カルボン酸無水物と、スチレン及び/又はエチレン、プロピレンのようなオレフィンとの共重合体であるが挙げられる。
該共重合体は、ポリアミド系熱可塑性エラストマーのハードセグメントに対してカルボン酸無水物基を反応させることができ、ポリアミド系熱可塑性エラストマーの架橋反応に寄与するものと考えられる。
即ち、ポリアミド系樹脂組成物は、カルボン酸無水物基を有する共重合体を含むことで溶融張力に優れたものとなり、独立気泡性に優れた緻密な発泡状態の発泡層を形成可能なものとなる。
従って、前記酸無水物共重合体としては、1分子中に3〜80質量%のカルボン酸無水物基を含んでいるものが好ましい。
該共重合体としては、無水マレイン酸とスチレンとの交互重合体が好ましい。
このような酸無水物共重合体は、例えば、川原油化社から販売されているSMA樹脂などとして市販されているものを採用してもよい。
【0025】
ポリアミド系樹脂組成物には、酸無水物共重合体のような繰返し構造を持たずにカルボン酸無水物基が1分子中に3個以上備えられている化合物(以下、「酸無水物化合物」ともいう)を酸無水物共重合体に加え、又は、酸無水物共重合体に代えて含有させてもよい。
この酸無水物化合物としては、1分子中に3個以上のカルボン酸無水物基を持ったグリセロールトリスアンヒドロトリメリテートなどの化合物が挙げられる。
【0026】
1分子中に3個以上のカルボン酸無水物基を持った化合物の中では、4個以上のカルボン酸無水物基を持った化合物を用いることが好ましい。
これらの酸無水物化合物は、ポリアミド系熱可塑性エラストマー100質量部に対して0.1質量部以上20質量部以下となる割合でポリアミド系樹脂組成物に含有されることが好ましく、とりわけ0.5質量部以上15質量部以下の割合で含有されることが好ましい。
また、α、β−不飽和カルボン酸無水物とスチレン及び/又はオレフィンとの共重合体は、ポリアミド系熱可塑性エラストマー100質量部に対して0.1質量部以上25質量部以下となる割合でポリアミド系樹脂組成物に含有されることが好ましい。
上記割合が好ましい理由は、前記酸無水物化合物や前記酸無水物共重合体の割合が0.1質量部未満ではポリアミド系熱可塑性エラストマーの溶融粘度を上昇させる効果に顕著性が発揮されず、逆に20又は25質量部を超えると、溶融粘度が高くなり過ぎるためである。
【0027】
(発泡剤・気泡調整剤など)
これらの他にポリアミド系樹脂組成物に含有される成分としては、発泡剤や気泡調整剤が挙げられる。
該発泡剤としては、不活性ガス、ポリアミド系熱可塑性エラストマーの軟化点より低い沸点を持った炭化水素、ハロゲン化炭化水素、ケトン等を用いることができる。
【0028】
発泡剤として用いる不活性ガスとしては、例えば、炭酸ガス、窒素、空気等が挙げられる。
【0029】
ポリアミド系熱可塑性エラストマーの軟化点より低い沸点を持った炭化水素としては、例えば、飽和脂肪族炭化水素や飽和脂環族炭化水素などが挙げられる。
飽和脂肪族炭化水素としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等が挙げられる。
飽和脂環族炭化水素としては、例えば、メチルシクロプロパン、シクロペンタン、シクロヘキサン等が挙げられる。
【0030】
前記ハロゲン化炭化水素としては、トリクロロモノフルオロメタン、ジクロロフルオロメタン、モノクロロジフルオロメタン、トリクロロトリフルオロエタン等が挙げられる。
【0031】
前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン等が挙げられる。
【0032】
前記気泡調整剤としては、例えば、タルク、マイカ、シリカ、珪藻土、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸バリウム、ガラスビーズなどの無機化合物粒子、ポリテトラフルオロエチレンなどの有機化合物粒子が採用可能である。
【0033】
前記ポリアミド系樹脂組成物は、必要に応じ、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、抗菌剤、滑剤、着色剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0034】
〔製造方法〕
上記のような原材料を用いて本実施形態のポリアミド系樹脂発泡シートや積層シートを作製する方法について説明する。
【0035】
本実施形態のポリアミド系樹脂発泡シートは、サーキュラーダイやフラットダイを装着した押出機を使った一般的な押出発泡法によって作製することができる。
本実施形態の積層シートは、個別に作製した複数枚のポリアミド系樹脂発泡シートを熱融着によって直接貼合せる方法や接着剤を介して貼合せる方法などの貼合法によって作製することができる。
また、積層シートは、2以上のポリアミド系樹脂発泡シートを1つのダイから一度に押出す共押出法によって作製することができる。
【0036】
ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、吸湿性を示す場合があるため使用前に乾燥して水分を除く乾燥工程を実施することが好ましい。
該乾燥工程は、普通の除湿乾燥機を用い、80℃〜120℃の空気(例えば、100℃の空気)を循環させた環境下に原料樹脂(ポリアミド系熱可塑性エラストマー)を1時間〜24時間程度(例えば、4時間程度)放置するようにして行えばよい。
また、要すれば、前記の酸無水物共重合体などについても同様に乾燥させてもよい。
【0037】
この乾燥工程後は、酸無水物化合物や酸無水物共重合体とポリアミド系熱可塑性エラストマーとを加熱環境下で溶融混練して酸無水物化合物や酸無水物共重合体とポリアミド系熱可塑性エラストマーとを反応させる反応工程を実施することができる。
この反応工程後は、該反応工程で得られた溶融混練物をシート状に押出発泡してポリアミド系樹脂発泡シートを形成させる押出工程を実施すればよい。
前記反応工程は、オープンロールや加圧ニーダーなどを用いて実施することも可能であるが、押出工程と装置を共用できる点においては、押出機を用いて実施することが好ましい。
オープンロールや加圧ニーダーなどを用いて反応工程を実施する場合、通常、溶融混練物を「冷却」及び「造粒」する工程を必要とするが、押出機で反応工程を実施することで、「冷却」及び「造粒」の工程を割愛し、反応工程と押出工程とを一つの押出ラインを用いて実施できる。
この場合、例えば、1つの押出機又は直列に並んだ2以上の押出機で構成された押出ラインの上流側において酸無水物化合物や酸無水物共重合体とポリアミド系熱可塑性エラストマーとを溶融混練して前記反応工程を実施し、該反応工程の開始地点よりも下流側において溶融混練物に発泡剤を加え、発泡剤を含んだ溶融混練物を押出ラインの末端に設けたダイからシート状に押出発泡させるようにすればよい。
【0038】
この押出工程で用いる押出機としては、単一スクリューを持った単軸押出機でも、2個のスクリューを持った2軸押出機の何れをも用いることができる。
2軸押出機では、2個のスクリューが同一方向に回転するものでも、異方向に回転するものでも、何れをも用いることができる。
押出機としては、出口に近いバレルの一部に、発泡剤を圧入する圧入口を設けたものを用いて、直ちに押出発泡させることが好ましい。
【0039】
前記ダイは、円環状の吐出口を有するサーキュラーダイであっても、直線状の吐出口を有するフラットダイ(Tダイ)であってもよい。
【0040】
本実施形態においては、溶融状態のポリアミド系樹脂組成物に優れた溶融張力が発揮されることで独立気泡性の高い(連続気泡率の低い)ポリアミド系樹脂発泡シートを得ることができる。
また、本実施形態のポリアミド系樹脂発泡シートは、ベースポリマーが前記のようなポリアミド系熱可塑性エラストマーであることから、変形に対する優れた回復性や応力に対する優れた反発性を発揮できる。
また、変形に対する優れた回復性や応力に対する優れた反発性を発揮する点においては、積層シートや発泡成形品についても同じである。
【0041】
ポリアミド系樹脂発泡シートは、ポリアミド系樹脂組成物とは別の樹脂組成物とを共押出することで、発泡層と非発泡層とを備えた積層構造を有するものであってもよい。
このような非発泡層を備えた積層シートも複数の発泡層を備えた積層シートと同様に変形に対する優れた回復性や応力に対する優れた反発性を発揮する。
【0042】
〔発泡成形品〕
前記ポリアミド系樹脂発泡シート及び前記積層シートは、熱成形などによって3次元的な形状を付与し、変形に対する優れた回復性や応力に対する優れた反発性を発揮する発泡成形品とすることができる。
該発泡成形品についても、発泡層の見掛け密度が0.025g/cm以上0.25g/cm以下であることが好ましい。
また、発泡成形品についても、発泡層の厚みが0.5mm以上5.0mm以下であることが好ましい。
【0043】
前記熱成形は、一般的な方法を採用して実施することができ、例えば、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、マッチモールド成形、プレス成形などといった方法で実施できる。
【0044】
前記ポリアミド系樹脂発泡シートは、柔軟性、変形に対する回復性、応力に対する反発性に優れるという点において、アスカーC硬度が30〜60、圧縮永久歪が20%以下、反発弾性が25%以上であることが好ましい。
また、上記の特性を発現するためには、前記ポリアミド系樹脂発泡シートの発泡層は、連続気泡率が5%以上30%以下であることが好ましく、8%以上20%以下であることがより好ましい。
発泡層の平均気泡径は、100μm以上500μm以下であることが好ましく、150μm以上300μm以下であることがより好ましい。
【0045】
本実施形態においては、ポリアミド系樹脂発泡シート、積層シート、及び、発泡成形品、並びに、これらの製造方法について上記のような例示を行っているが、本発明は上記例示に何等限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
<連続気泡率>
連続気泡率は、次のようにして測定する。
ポリアミド系樹脂発泡シートから採取した縦25×横25mmの切片を積み重ね、厚みを約30mmとした測定サンプルを使用して、測定機器として東京サイエンス(株)製のエヤ、コンパリスン、ピクノメーター、モデル1000を用い、ASTM D2856のエアピクノメーター法により真の容積(Vx)を測定し、次式に従って連続気泡率を算出する。

連続気泡率(%)=(Va−Vx)/Va×100

但し、「Va」は測定サンプルの外寸から求められる見かけ容積(cm)であり、「Vx」は測定サンプルの真の容積(cm)である。
【0048】
<平均気泡径>
平均気泡径はASTM D 2842−69の方法に準拠して測定する。
すなわち、押出方向(MD方向)及びそれと直交する方向(TD方向)、ならびにMD、TD方向と直交する方向(VD方向)の断面の顕微鏡写真を撮影し、その写真より切断面の一直線上(直線長さL)にかかる気泡数Nから平均弦長Tを測定する(式1)。

(式1)T=L/N

次に、平均気泡径Dは式2により算出する。

(式2)D=T/0.616
【0049】
<アスカーC硬度>
アスカーC硬度はJIS K 7312:1996の試験方法に準拠して測定される。
具体的には、温度23±2℃、湿度50±5%に調節された試験室内にて、100mm×100mm×厚み10mmに調整した試料に対し、アスカーゴム硬度計C型を垂直に押し当て、1秒後の数値を計測する。
その際、測定位置は試料外端より15mm以上内側とし、測定点どうしは10mmの間隔を確保し、一つの試料に対し5点計測し平均値を当該試料のアスカーC硬度とする。
【0050】
<圧縮永久歪>
圧縮永久歪は、JIS K6767に記載されている方法によって測定する。
すなわち、ポリアミド系樹脂発泡シートから切り出した切片を複数枚積み重ねて縦50mm×横50mm×厚み25mmの試験片を作製する。
圧縮永久歪測定板(高分子計器(株)製)を用いてJISK 7100:1999の記号「23/50」(温度23℃、相対湿度50%)、2級の標準雰囲気下で、試験片を22時間25%圧縮した状態に保ち、圧縮解放後24時間後の試験片厚みを測定し、次式により圧縮永久歪(CS(%))を測定する。

圧縮永久歪率CS(%)={(t0−t1)/t0×100}

t0;試験片の原厚み(mm)
t1;試験片を圧縮装置から取り出し24時間経過した後の厚さ(mm)
【0051】
<反発弾性>
反発弾性は、JIS K6400−3:2011に準拠して測定する。
すなわち、反発弾性試験機(高分子計器社製、FR−2)に、温度23±2℃、湿度50±5%の環境下で72時間以上状態調節した100mm×100mmの発泡シートを50mmの高さになるように積み重ねてセットし、500mmの高さ(a)から銅球(φ5/8インチ、16.3g)を自由落下させて、その反発最高到達時の高さ(b)を読み取り、次式により反発弾性(%)を算出する。

反発弾性(%)=(b)/(a)×100

ただし、同一試験片を用いて3回測定を行い、これらの中央値を反発弾性とする。
【0052】
(実施例1)
ポリアミド12をハードセグメントとし、ポリテトラメチレングリコールをソフトセグメントとするポリアミド系熱可塑性エラストマー(宇部興産社製、商品名「UBESTA9048」)を100℃の除湿乾燥機で4時間乾燥させた。
乾燥したポリアミド系熱可塑性エラストマー、スチレン−無水マレイン酸共重合体〔川原油化社製、「SMA1000P」(スチレンと無水マレイン酸とのモル比率(スチレン:無水マレイン酸)=1:1、構造単位が各6〜8個(1分子中に平均6〜8個の酸無水物基を有する)、カタログ値)〕及びタルクをタンブラーにて混合した。
このとき質量割合が下記の通りとなるように上記の材料を混合して混合物を調製した。
・ポリアミド系熱可塑性エラストマー:100質量部
・スチレン−無水マレイン酸共重合体:1.2質量部
・タルク :1.0質量部
【0053】
この混合物を単軸押出機(口径65mm、L/D=30)のホッパーに供給して溶融混練し、ポリアミド系熱可塑性エラストマーとスチレン−無水マレイン酸共重合体とを反応させた。
この押出機の途中からイソブタン(発泡剤)を2.0質量部圧入して、さらに溶融混練を実施し、得られた溶融混練物をダイに供給して押出発泡を実施した。
ダイは直径80mm、環状出口間隙0.40mmのサーキュラーダイを用いた。
そしてダイ出口より溶融混練物を筒状体として大気中に押し出し、該筒状体を発泡させつつ引き取り、円筒状マンドレル(口径205mm、長さ400mm)にて円筒状に成形し、その円筒状発泡体の一部を切開しシート状として巻き取った。
その際、円筒形マンドレルには冷却水を循環させた。
得られたポリアミド系樹脂発泡シートは、下記のようなもので、微細且つ均一な気泡を有するものであった。
【0054】
(作製したポリアミド系樹脂発泡シートの仕様)
幅:640mm
平均気泡径:258μm
見掛け密度:0.20g/cm
厚み:1.5mm
連続気泡率:15%

また、得られた発泡シートのアスカーC硬度は56であり、圧縮永久歪が14%、反発弾性が38であった。
【0055】
(実施例2)
スチレン−無水マレイン酸共重合体〔川原油化社製、「SMA1000P」〕の添加量を3.0質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてポリアミド系樹脂発泡シートを得た。得られたポリアミド系樹脂発泡シートの仕様及び、アスカーC硬度、圧縮永久歪、反発弾性を表1にまとめて記す。
【0056】
(実施例3)
発泡剤であるイソブタンの量を3.0質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリアミド系樹脂発泡シートを得た。得られたポリアミド系樹脂発泡シートの仕様及び、アスカーC硬度、圧縮永久歪、反発弾性を表1にまとめて記す。
【0057】
(比較例1)
スチレン−無水マレイン酸共重合体〔川原油化社製、「SMA1000P」〕を用いなかったこと以外は実施例1と同様にしてポリアミド系樹脂発泡シートの作製を行った。
発泡シートを得ることはできなかった。
【0058】
(比較例2)
スチレン−無水マレイン酸共重合体〔川原油化社製、「SMA1000P」〕の添加量を0.05質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてポリアミド系樹脂発泡シートを得た。得られたポリアミド系樹脂発泡シートの仕様及び、アスカーC硬度、圧縮永久歪、反発弾性を表1にまとめて記す。
【0059】
(参考例1)
ポリアミド6(ユニチカ社製、商品名「A1025」)を110℃の除湿乾燥機で4時間乾燥させた。
乾燥したポリアミド6、スチレン−無水マレイン酸共重合体〔川原油化社製、「SMA1000P」及びタルクをタンブラーにて混合した。
このとき質量割合が下記の通りとなるように上記の材料を混合して混合物を調製した。
・ポリアミド6 :100質量部
・スチレン−無水マレイン酸共重合体 :1.2質量部
・タルク :1.0質量部
【0060】
この混合物を単軸押出機(口径65mm、L/D=30)のホッパーに供給して溶融混練し、ポリアミド6とスチレン−無水マレイン酸共重合体とを反応させた。
この押出機の途中からイソブタン(発泡剤)を2.0質量部圧入して、さらに溶融混練を実施し、得られた溶融混練物をダイに供給して押出発泡を実施した。
ダイは直径80mm、環状出口間隙0.40mmのサーキュラーダイを用いた。
そしてダイ出口より溶融混練物を筒状体として大気中に押し出し、該筒状体を発泡させつつ引き取り、円筒状マンドレル(口径205mm、長さ400mm)にて円筒状に成形し、その円筒状発泡体の一部を切開しシート状として巻き取った。
その際、円筒形マンドレルには冷却水を循環させた。
得られたポリアミド系樹脂発泡シートの仕様及び、アスカーC硬度、圧縮永久歪、反発弾性を表1にまとめて記す。
【0061】
【表1】
【0062】
上記のポリアミド系樹脂発泡シートは、変形に対する回復性や応力に対する反発性に優れたものであることが確認できた。
このことからも、本発明によれば、変形に対する回復性や応力に対する反発性に優れたポリアミド系樹脂発泡シートや積層シートなどが得られることがわかる。