(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジンと、前記エンジンに接続される湿式のクラッチと、前記クラッチの出力軸と接続されるファンと、前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサと、前記クラッチの油温を検出する油温度センサと、前記ファンの回転数を検出するファン回転数センサと、前記クラッチの動作を制御するコントローラと、を備えた作業機械のクラッチ制御装置であって、
前記コントローラは、
入力されるクラッチ接続要求に基づいて、前記ファンの目標ファン回転数を演算する目標ファン回転数演算部と、
前記目標ファン回転数と前記クラッチの制御信号との関係を規定した複数のクラッチ特性曲線を前記クラッチの油温と前記エンジンの回転数とに対応付けて記憶するクラッチ特性曲線記憶部と、
前記油温度センサおよび前記エンジン回転数センサから出力される検出信号に基づき、前記複数のクラッチ特性曲線の中から1つの前記クラッチ特性曲線を選択し、選択された前記クラッチ特性曲線を参照して前記目標ファン回転数に対応する第1のクラッチ制御信号を出力するクラッチ指令演算部と、
前記目標ファン回転数と、前記ファン回転数センサから出力される前記ファンの実ファン回転数との差分に基づき、第2のクラッチ制御信号を出力するフィードバック制御部と、
前記第1のクラッチ制御信号と前記第2のクラッチ制御信号とを加算して、第3のクラッチ制御信号を前記クラッチに対して出力する加算器と、を含むことを特徴とする作業機械のクラッチ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る作業機械のクラッチ制御装置を実施するための形態を図に基づいて説明する。
【0010】
「第1実施形態」
図1は本発明に係るクラッチ制御装置が適用される作業機械のエンジンルーム内の全体構成図である。本発明に係るクラッチ制御装置は、例えば油圧ショベル、ホイールローダ、ダンプトラック等の種々の作業機械に適用可能であるが、以下の実施形態では本発明を油圧ショベルに適用した例を説明する。
【0011】
図1に示すように、エンジンルーム100には原動機としてのエンジン11が配設されており、エンジン11は駆動軸11aを介して様々な機器、例えば発電機10が接続されている。また、エンジン11にはエンジンコントローラ25が搭載されており、このエンジンコントローラ25がエンジン11の状態監視、回転数指令に応じた燃料噴射量の調整などを行っている。また、エンジン11は、エンジン11の冷却水を冷却するラジエータ21と配管24を介して接続され、また、ターボによって圧縮された吸気ガスを冷却するインタークーラ22と配管23を介して接続されている。なお、エンジン11の冷却水は、ポンプ(P)により配管24内を循環している。
【0012】
ファン12は、クラッチ13を介してエンジン11と接続されており、エンジン11の駆動により回転して、ラジエータ21およびインタークーラ22に冷却風を供給する。クラッチ13には油配管14a、14bを通じてエンジン11からエンジンオイルが供給されている。油配管14a、14bには、クラッチ13に供給するエンジンオイルの圧力を調整するための電磁ソレノイド駆動式の圧力制御弁(例えば、減圧弁)27が設けられている。
【0013】
エンジンルーム100の外にはコントローラ50が配設され、エンジン11の回転数指令を作成した後、エンジン11のエンジンコントローラ25へ送信したり、クラッチ13の断接状態の制御をしたりしている。
【0014】
また、
図1に示すように、ファン12の回転数を計測するファン回転数センサ31、エンジン11の駆動軸11aの回転数を計測するエンジン回転数センサ32、クラッチ13からの戻り油の温度を計測する油温度センサ33を備えている。ファン回転数センサ31、エンジン回転数センサ32、および油温度センサ33はコントローラ50と接続されている。
【0015】
次に、クラッチ13の構造について説明する。
図2は、
図1に示すクラッチ13の断面図である。
図2に示すクラッチ13は、ディスククラッチの一種である湿式多板型クラッチであり、入力軸80と一体である摩擦プレート83と、出力軸81と一体である摩擦プレート84とを接触させて摩擦力を発生させることで入力軸80の回転を出力軸81に伝達させている。ここで、多板型とは、一対の摩擦プレート83、84が入力軸側と出力軸側で交互に複数組み(
図2では5組)配置されているクラッチのことを示す。また、湿式とは、一対の摩擦プレート83、84間にエンジンオイル(以下、「油」と略記する場合がある)が供給されているクラッチのことを示す。
【0016】
具体的には、クラッチ13は、入力軸80、出力軸81、固定軸82、入力軸側の摩擦プレート83、出力軸側の摩擦プレート84、これら摩擦プレート83、84を押圧するピストン85、摩擦プレート83、84を引き離す方向に力を加える皿ばね86、ピストン85に力を印加するための油が供給されるピストン室87、ピストン室87の油圧を制御する圧力制御弁27(
図1参照)、その他図示しないシールリング、軸受、止め輪などで構成されている。
【0017】
固定軸82はエンジン11に図示しないボルトなどで固定され、入力軸80は図示しないベルトなどで駆動される。固定軸82にはピストン室87と連通している油通路82a、摩擦プレート83、84へ油を供給する油通路82b、油を排出するための油通路82cが設けられている。また、出力軸81にはボルトなどでファン12が固定されている。
【0018】
エンジン11のエンジンコントローラ25は、エンジン11の稼働状況、冷却水・吸気ガスの温度からクラッチ接続要求Sc−e(
図3参照)を作成し、コントローラ50へ出力する。クラッチ接続要求Sc−eは例えばデューティ比(パルス信号のHighの時間割合を百分率で表したもの)の形で出力され、エンジン11の稼働状況が悪くなったり、冷却水・吸気ガスの温度が高くなったりするほどデューティ比の値は大きくなる。
【0019】
クラッチ13は、コントローラ50から出力されたクラッチ制御信号Sc(
図3参照)に従って動作する(詳細は後述する)。圧力制御弁27にはクラッチ制御信号Scの値に応じた電圧が印加される。圧力制御弁27は印加電圧の大きさに従い、弁を開く。圧力制御弁27が開いている時には油通路82aと高圧側の油配管14aとが連通し、ピストン室87の圧力が上昇する。圧力制御弁27が閉じている時には油通路82aと低圧側の油配管14bとが連通し、ピストン室87の圧力が低下する。印加電圧が高いほど、ピストン室87の圧力は高くなり、印加電圧が低いほどピストン室87の圧力も低くなる。ピストン室87の圧力が上昇するとピストン85は一対の摩擦プレート83、84を押圧する。
【0020】
一対の摩擦プレート83、84は押圧され接触すると、摩擦力により入力軸80の回転を出力軸81へ伝達し、ファン12を回転させる。逆に、ピストン室87の圧力が低くなると、ピストン85が一対の摩擦プレート83、84を押圧する力が低下する。ピストン85の力が低下すると、一対の摩擦プレート83、84は皿ばね86の押圧力により互いに離されるため、入力軸80の回転を出力軸81へ伝達しなくなり、ファン12の回転が弱まる。このように、ピストン室87内の圧力を変化させることにより、ファン12の回転数を制御する。
【0021】
この時、クラッチ13内には油が油通路82bから供給され、摩擦プレート83、84間を潤滑する。そして、クラッチ13内に供給された油は、油通路82cから排出される。この油によって、一対の摩擦プレート83、84が接触していなくても一対の摩擦プレート83、84間の油を介して入力軸80の回転を出力軸81へ伝える力、すなわちドラグトルクが発生する。
【0022】
ドラグトルクの大きさは、油の粘性、摩擦プレート83、84間の隙間、エンジン11の回転数に依存する。油の温度、エンジン回転数は使用状況により変化していくため、クラッチ特性は常に変化する。そこで、本実施形態では、変化するクラッチ特性に対応したクラッチ制御信号Sc−cc(
図3参照)の演算を行って、ファン12の回転数が適切となるよう制御している。以下、本実施形態に係るクラッチ制御装置の具体的な制御について説明する。
【0023】
図3は第1実施形態に係るクラッチ制御装置のコントローラ50の内部構成を示す機能ブロック図である。第1実施形態に係るコントローラ50は、例えば図示しないCPU(Central Processing Unit)と、CPUによる処理を実行するための各種プログラムを格納するROM(Read Only Memory)やHDD(Hard Disc Drive)などの記憶装置と、CPUがプログラムを実行する際の作業領域となるRAM(Random Access Memory)と、を含むハードウェアを用いて構成されている。
【0024】
図3に示すように、コントローラ50は、目標ファン回転数Nftを演算する目標ファン回転数演算部60と、クラッチ制御信号Sc−cc(第1のクラッチ制御信号)を生成するクラッチ指令演算部62と、クラッチ制御信号Sc−fb(第2のクラッチ制御信号)を生成するフィードバック制御部61と、クラッチ制御信号Sc−ccとクラッチ制御信号Sc−fbとを加算してクラッチ制御信号Sc(第3のクラッチ制御信号)を出力する加算器64と、を含む。また、クラッチ指令演算部62は、複数のクラッチ特性曲線を記憶するクラッチ特性曲線記憶部62aを有している。
【0025】
コントローラ50は、エンジン11のエンジンコントローラ25からクラッチ接続要求Sc−eを受け取り、目標ファン回転数演算部60へ入力する。目標ファン回転数演算部60はクラッチ接続要求Sc−eから目標ファン回転数Nftを決定する。目標ファン回転数演算部60にて決定された目標ファン回転数Nftは、フィードバック制御部61およびクラッチ指令演算部62に入力される。
【0026】
フィードバック制御部61にはファン回転数センサ31で検出した実ファン回転数Nfも入力され、フィードバック制御部61は、実ファン回転数Nfと目標ファン回転数Nftの差分に応じたクラッチ制御信号Sc−fbを出力する。
【0027】
クラッチ指令演算部62には、目標ファン回転数Nftのほか、油温度センサ33で検出したクラッチ油温度Toとエンジン回転数センサ32で検出したエンジン回転数Neも入力される。クラッチ指令演算部62は、入力されたクラッチ油温度Toとエンジン回転数Neに基づいて、クラッチ特性曲線記憶部62aに記憶されている複数のクラッチ特性曲線の中から適切なクラッチ特性曲線を選択する。そして、クラッチ指令演算部62は、選択されたクラッチ特性曲線を参照して、入力された目標ファン回転数Nftに対するクラッチ制御信号Sc−ccを出力する。
【0028】
加算器64は、入力されたクラッチ制御信号Sc−fbおよびクラッチ制御信号Sc−ccを加算して、クラッチ制御信号Scをクラッチ13に出力する。このクラッチ制御信号Scに従ってクラッチ13が動作することで、ファン12のファン回転数が適切に制御される。
【0029】
次に、クラッチ特性曲線について
図4を参照して説明する。
図4はクラッチ特性曲線を示す図である。クラッチ特性曲線は、目標ファン回転数Nftとクラッチ制御信号Sc−ccの関係を表したもので、
図4に示すように、目標ファン回転数Nftが決まるとクラッチ制御信号Sc−ccが一意的に決まる曲線である。クラッチ特性曲線は、一定回転数で駆動するエンジン11に接続したクラッチ13へ接続信号を入力し、クラッチ13の出力軸81の回転数を測定することで実験的に作成することができる。
【0030】
次に、クラッチ油温度Toの変化によるクラッチ特性への影響について
図5を参照して説明する。
図5はクラッチ油温度毎のクラッチ特性曲線を示した図である。
図5に示すように、クラッチ13はクラッチ油温度Toによって特性が変化し、クラッチ特性曲線L1を基準とした場合、クラッチ油温度Toが高くなるとクラッチ特性曲線L2のようにクラッチ特性曲線はクラッチ特性曲線L1より左上へ、正確には原点(0,0)から点P(Nftmax,100)を結んだ直線へ近づく。一方、クラッチ油温度Toが低くなると、クラッチ特性曲線L3のように右下に凸の形となる。
【0031】
油は温度が高くなると粘性が小さく、温度が低くなると粘性が大きくなるため、一般に温度が高くなるとドラグトルクは小さく、温度が低くなるとドラグトルクは大きくなる。ドラグトルクが小さい時の回転の伝達は摩擦プレート83、84の摩擦力が支配的となり、クラッチ制御信号Sc−ccに比例してファン回転数は変化する。また、ドラグトルクが大きいときには、摩擦プレート83、84の摩擦力に加えてドラグトルクにより回転の伝達が大きくなるため、クラッチの接触が小さい場合でもファン回転数は大きくなる。
【0032】
次に、エンジン回転数Neの変化によるクラッチ特性への影響について
図6を参照して説明する。
図6はエンジン回転数毎のクラッチ特性曲線を示した図である。クラッチ13のドラグトルクはクラッチ13の入力軸80と出力軸81の回転数差が大きいほど大きくなる。また、クラッチ13の入力軸80の回転数が出力軸81の最大回転数となるため、クラッチ特性曲線L1を基準とした場合にエンジン回転数Neが低いほど、クラッチ特性曲線L2のようにクラッチ特性曲線は最大値がクラッチ特性曲線L1より左側へ、曲線が原点(0,0)と点P2(Nft2,100)を繋いだ直線に近くなる。一方、エンジン回転数Neが高くなると、クラッチ特性曲線L3のようにクラッチ特性曲線は最大値がクラッチ特性曲線L1より右側へ、曲線が原点(0,0)と点P3(Nftmax,100)を繋いだ直線から乖離して右下方向に凸の形となる。
【0033】
このように、クラッチ油温度Toの変化とエンジン回転数Neの変化によってクラッチ特性曲線は多様な変化をするため、本実施形態では、複数のクラッチ特性曲線がクラッチ特性曲線記憶部62aに記憶されている。
【0034】
次に、各演算部の演算方法について説明する。まず、目標ファン回転数演算部60の演算方法について、
図7を用いて説明する。
図7は目標ファン回転数演算部60による目標ファン回転数Nftの演算方法を示す図である。
図7に示すように、目標ファン回転数演算部60は、横軸がクラッチ接続要求Sc−e、縦軸が目標ファン回転数Nftとなるようなルックアップテーブル70を有している。クラッチ接続要求Sc−eが入力されると、ルックアップテーブル70により目標ファン回転数Nftが決定され出力される。ルックアップテーブル70はラジエータ21およびインタークーラ22の冷却能力を考慮して、クラッチ接続要求Sc−eに対して必要なファン回転数となるように目標ファン回転数Nftを設定している。
【0035】
次に、フィードバック制御部61の演算方法について、
図8を用いて説明する。
図8はフィードバック制御部61によるクラッチ制御信号Sc−fbの演算方法を示す図である。
図8に示すように、フィードバック制御部61は、ゲイン71、加算器72、比例ゲイン73、積分ゲイン74、微分ゲイン75、積分器76、微分器77、および加算器78を有している。フィードバック制御部61は、実ファン回転数Nfと目標ファン回転数Nftが入力されると、実ファン回転数Nfをゲイン71により−1倍し、加算器72により目標ファン回転数Nftとの差分ΔNfを算出する。
【0036】
差分ΔNfは3つの信号に分岐し、第1の信号は比例ゲイン73が乗算され、第2の信号は積分ゲイン74が乗算された後、積分器76により積分され、第3の信号は微分ゲイン75が乗算された後、微分器77により微分され、これら3つの信号は加算器78により加算され、クラッチ制御信号Sc−fbとして出力される。
【0037】
なお、比例ゲイン73、微分ゲイン75の値を0とすることで、I(Integral)制御として用いることもできる。比例ゲイン73、積分ゲイン74、微分ゲイン75の値は、実験により発散、振動しない値を求めて設定している。
【0038】
次に、クラッチ指令演算部62の演算方法について、
図9を用いて説明する。
図9はクラッチ指令演算部62によるクラッチ制御信号Sc−ccの演算方法を示す図である。
図9に示すように、クラッチ特性曲線記憶部62aにはクラッチ特性曲線LUT1乃至LUTnが保存されている。nの値は、使用するエンジン回転数Neの範囲、クラッチ油温度Toの範囲、およびクラッチ特性曲線を作成する間隔により適切な個数が決まる。クラッチ特性曲線を作成する間隔は、最低でもエンジン回転数200rpm毎、クラッチ油温度10℃毎が好ましい。
【0039】
クラッチ指令演算部62は、クラッチ油温度To、エンジン回転数Neが入力されると、クラッチ特性曲線記憶部62aに記憶されているクラッチ特性曲線LUT1乃至LUTnの中から、入力されたクラッチ油温度Toとエンジン回転数Neとに対応する1つのクラッチ特性曲線79を選択する。クラッチ指令演算部62は、選択されたクラッチ特性曲線79に目標ファン回転数Nftを入力して、その目標ファン回転数Nftに対するクラッチ制御信号Sc−ccを出力する。
【0040】
こうして演算されたクラッチ制御信号Sc−ccとクラッチ制御信号Sc−fbとは、上述したように加算器64により加算され、コントローラ50からクラッチ制御信号Scとしてクラッチ13に出力される。そして、このクラッチ制御信号Scにより、圧力制御弁27の動作が制御される。そのため、ピストン室87の圧力が所望の値となり、ドラグトルクを考慮した適切なクラッチ13の出力軸81の回転数となる。
【0041】
このように本実施形態では、現状のクラッチ状態を考慮したクラッチ制御信号Sc−ccと、クラッチ13の摩耗や油の劣化によって生ずるファン回転数の目標値と現在値との乖離を考慮したクラッチ制御信号Sc−fbとから生成されるクラッチ制御信号Scによってクラッチ13の動作を制御するため、素早く(応答性が高く)、正確なファン回転数を得ることができ、余剰なファン動力を低減し、燃料消費量を少なくすることができる。
【0042】
「第2実施形態」
次に、本発明の第2実施形態に係るクラッチ制御装置について説明する。
図10は第2実施形態に係るクラッチ制御装置のコントローラ50の内部構成を示す機能ブロック図である。
図10に示すように、第2実施形態では、コントローラ50がエンジンオイルの劣化を判定する油劣化判定部62bと、クラッチ特性曲線を修正するクラッチ特性曲線修正部63とをさらに含む構成とした点に主な特徴がある。そこで、以下ではこれらの特徴部分を中心に説明し、第1実施形態と同一構成についての説明は省略する。
【0043】
図10に示すように、クラッチ特性曲線修正部63は、実ファン回転数Nf、クラッチ油温度To、エンジン回転数Ne、およびクラッチ制御信号Scを受け取り、クラッチ特性曲線修正信号Smを演算により生成する。クラッチ特性曲線修正信号Smはクラッチ特性曲線記憶部62aに入力され、クラッチ特性曲線記憶部62aが、クラッチ特性曲線記憶部62aに記憶されているクラッチ特性曲線を修正する。なお、クラッチ特性曲線の修正頻度は、例えば1回/日程度が好ましい。修正頻度を高くすると、フィードバック制御による回転数差分の補完と干渉し、ハンチングが発生し、ファン回転数を制御することが困難になるからである。
【0044】
クラッチ特性曲線修正部63は、クラッチ特性曲線修正信号Smを記憶する修正信号記憶部63aを有している。エンジン11の駆動中に演算されたクラッチ特性曲線修正信号Smは、一旦、修正信号記憶部63aに記憶される。そして、エンジン11の停止処理において、クラッチ特性曲線記憶部62aにクラッチ特性曲線修正信号Smが送信され、クラッチ特性曲線が修正される。つまり、油圧ショベルが運転を停止する毎にクラッチ特性曲線が修正される。
【0045】
クラッチ特性曲線の修正方法について
図11を用いて説明する。
図11は、クラッチ特性曲線の修正前と修正後を示す図である。
図11に示すように、クラッチ特性曲線修正信号Smは、修正クラッチ特性曲線番号LUTm、修正目標回転数Nfm、および修正クラッチ制御信号Scmから構成されている。クラッチ特性曲線記憶部62aは、クラッチ特性曲線修正部63からクラッチ特性曲線修正信号Smを受け取ると、修正クラッチ特性曲線番号LUTmのクラッチ特性曲線を呼び出し、修正目標回転数Nfmのときのクラッチ制御信号を修正クラッチ制御信号Scmに置き換える。この修正を、受信したクラッチ特性曲線修正信号Sm毎に行い、修正されたクラッチ特性曲線がクラッチ特性曲線記憶部62aに新たに記憶される(更新される)。こうして、油圧ショベルの運転開始時に、常に最新のクラッチ特性曲線に基づいてクラッチ13の動作を制御できる。よって、ファン12の回転数も常に最適な状態に保つことができる。
【0046】
また、第2実施形態では、クラッチ指令演算部62が、油の劣化を判定する油劣化判定部62bを有している。さらに、クラッチ特性曲線記憶部62aには、油の劣化を判定するために、例えば
図12に示すような油劣化時のクラッチ特性曲線が、クラッチ油温度Toとエンジン回転数Neとに対応付けて複数記憶されている。
図12は、現在のクラッチ特性曲線と油劣化時のクラッチ特性曲線との比較を示す図である。
【0047】
油劣化判定部62bは、現在のクラッチ特性曲線を油劣化時のクラッチ特性曲線と比較し、両者が近似していれば、油(エンジンオイル)の交換を促すように警告発信機(報知装置)64に警告を発信する(
図10参照)。なお、油劣化時のクラッチ特性曲線は、油交換の目安となる使用時間、例えば、2000時間使用した油でのクラッチ特性を測定して油劣化時のクラッチ特性曲線として記憶しておけば良い。
【0048】
エンジンオイルの劣化判定方法について説明する。
図13はエンジンオイルの劣化判定方法を説明するための図、
図14はエンジンオイルの劣化判定の範囲を説明するための図である。
図13に示すように、油劣化判定部62bは、判定を行う対象の現在のクラッチ特性曲線と油が劣化した際のクラッチ特性曲線を目標ファン回転数全体で差分を取り、その差分の値の平均値(mean)と劣化判定用の閾値ΔSc-thを比較し、平均値が閾値ΔSc-th以下であれば油が劣化していると判定する。
【0049】
そして、油の劣化判定の範囲については、エンジン回転数が最高回転数のみの比較でも良いし、他にも
図14に示すように、エンジン回転数がハイアイドルから最高回転数までの範囲で現在のクラッチ特性曲線と油が劣化した際のクラッチ特性曲線との差分を取り、その差分すべてで平均値を算出して、劣化判定用の閾値ΔSc-thと比較する方法でもよい。
【0050】
次に、コントローラ50によるクラッチ特性曲線の修正処理の手順について、
図15および
図16を用いて説明する。
図15は、コントローラ50によるクラッチ特性曲線の修正処理の手順を示すフローチャート、
図16は
図15に定義された修正処理の詳細手順を示すフローチャートである。
【0051】
エンジン11が駆動した時点、すなわち油圧ショベルの運転が開始された時点から制御が始まり(ステップS1)、エンジン11のエンジンコントローラ25から、クラッチ接続要求Sc−e、実ファン回転数Nf、クラッチ油温度To、エンジン回転数Neがコントローラ50に入力される(ステップS2)。目標ファン回転数演算部60は、ステップS2で入力されたクラッチ接続要求Sc−eから目標ファン回転数Nftを演算する(ステップS3)。フィードバック制御部61は、ステップS3で演算された目標ファン回転数Nft、ステップS2で入力された実ファン回転数Nfからクラッチ制御信号Sc−fbを演算する(ステップS4)。
【0052】
クラッチ指令演算部62は、クラッチ特性曲線記憶部62aに保存されている複数のクラッチ特性曲線の中からステップS2で入力されたクラッチ油温度To、エンジン回転数Neに対応する、現状に最適なクラッチ特性曲線を選択する(ステップS5)。そして、クラッチ指令演算部62は、ステップS5で選択されたクラッチ特性曲線、ステップS3で演算された目標ファン回転数Nftからクラッチ制御信号Sc−ccを演算する(ステップS6)。
【0053】
加算器64は、ステップS4で演算されたクラッチ制御信号Sc−fbとステップS6で演算されたクラッチ制御信号Sc−ccを加算して、クラッチ制御信号Scを求める(ステップS7)。コントローラ50は、ステップS7で演算されたクラッチ制御信号Scをクラッチ13へ出力する(ステップS8)。
【0054】
クラッチ特性曲線修正部63は、ステップS8で演算されたクラッチ制御信号Sc、ステップS2で入力された実ファン回転数Nf、クラッチ油温度To、エンジン回転数Neからクラッチ特性曲線修正信号Smを作成する(ステップ9)。クラッチ特性曲線修正部63は、ステップS9で作成されたクラッチ特性曲線修正信号Smを、エンジン11の駆動中、修正信号記憶部63aに記憶する(ステップS10)。
【0055】
次いで、コントローラ50は、現在エンジン11が停止シーケンスに入っているか判定する(ステップS11)。入っている場合、ステップS12に進む。入っていない場合、ステップS2に戻る。
【0056】
ステップS12に進むと、修正信号記憶部63aに記憶されているクラッチ特性曲線修正信号Smがクラッチ特性曲線記憶部62aに出力される。そして、このクラッチ特性曲線修正信号Smに基づいて、クラッチ特性曲線の修正処理が実行される。このステップS12の処理の詳細について、
図16を参照して説明する。修正処理が開始されると(ステップS12−1)、クラッチ特性曲線記憶部62aは、集積したクラッチ特性曲線修正信号Smからクラッチ特性の近似曲線を作成し(ステップS12−2)、作成した近似曲線からLUTのテーブル値を作成する(ステップS12−3)。
【0057】
次いで、クラッチ特性曲線記憶部62aは、LUTのテーブル値に対応するクラッチ特性曲線に上書きし(ステップS12−4)、上書きしたクラッチ特性曲線を保存する(ステップS12−5)。ステップS12−6において、上書きしていないクラッチ特性曲線があればステップS12−4に戻り、なければ修正処理は終了する(ステップS12−7)。そして、
図15に戻り、コントローラ50はエンジン11の停止処理を行って(ステップS13)、処理を終了する(ステップS14)。
【0058】
このように、第2実施形態によれば、クラッチ特性曲線修正部63によりクラッチ特性曲線の補正を行うことができるため、現在のクラッチの状態を考慮して、より正確にファン12の回転数を制御できる。また、油劣化判定部62bによりエンジンオイルの劣化を判定し、警告発信機65によりユーザにエンジンオイルの交換を促すことで、適切なタイミングでエンジンオイル交換をすることができるため、エンジンの寿命低下、故障を防止し、エンジンの修理・交換頻度を低減できる。
【0059】
なお、上述した実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。例えば、第2実施形態では油劣化判定部62bによりエンジンオイルの劣化を判定して警告を出す構成としたが、特にエンジンオイルの交換を報知する必要がなければ、コントローラ50から油劣化判定部62bの構成を外すことも可能である。