(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記架橋構造が、アミド基を有する構造、イミド基を有する構造、イミノ基を有する構造、ウレア基を有する構造、ピリジニウム基を有する構造、カーボネート基を有する構造、ウレタン基を有する構造、スルホニル基を有する構造、及びエステル基を有する構造より成る群から選択される構造の1種類以上を含む、請求項4に記載の気体分離膜。
赤外分光分析における、前記架橋構造に含まれる官能基に帰属される吸光度の合計値Aの、アミノ基に帰属される吸光度Bに対する比として定義される官能基比率A/Bが、0.1以上7.5以下である、
請求項5に記載の気体分離膜。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術においては、限りなく薄い膜厚の分離層を、多孔性支持体の表面上に欠陥なく形成することは困難であった。その理由としては、多孔性支持体の表面上に分離層を形成するときに、該分離層の材料である気体分離性高分子が支持体の内部に入り込むことに起因すると考えられる。
従って従来技術による気体分離膜は、期待される気体分離性能が得られず、例えば、分離係数及び透過速度の面で不足を来たす。
従って本発明の目的は、分離係数が大きく、気体の透過係数が大きく、無欠陥で高い透過速度を示す気体分離膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意検討を行った。その結果、多孔質支持体上に、気体分離性高分子としてポリアミンから成る分離層を有する気体分離膜において、以下の方策:
(1)多孔質支持体上に分離層を形成する際に、気体分離性高分子の一部を、多孔質支持体内に適度に染込ませること、
(2)分離層として用いる気体分離性高分子の分子量を下げること、及び
(3)気体分離性高分子の側鎖に化学修飾を施すこと、
のうちの少なくとも1つを行うことによって、上記の目的を達成し得ることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりに要約される。
[1] 多孔性支持体と、前記多孔性支持体上に形成されたポリアミン層とを有し、
前記ポリアミンを構成するポリアミンの数平均分子量が10万以上50万以下であることを特徴とする、
気体分離膜。
[2] 前記ポリアミンの数平均分子量が10万以上20万以下である、[1]に記載の気体分離膜。
[3] 前記ポリアミンがゲル性高分子である、
[1]又は[2]に記載の気体分離膜。
[4] 前記ポリアミンがキトサンである、
[3]に記載の気体分離膜。
【0008】
[5] 多孔性支持体と、前記多孔性支持体上に形成されたポリアミン層とを有し、
前記ポリアミン層はポリアミンから構成され、
前記多孔性支持体のポリアミン層側には、ポリアミンが含浸して成る含浸層が形成されており、
前記含浸層の厚さが20μm以下であり、
前記含浸層の厚さの前記ポリアミン層の厚さに対する比が5以下であることを特徴とする、
気体分離膜。
[6] 前記含浸層の厚さが5μm以下であり、
前記含浸層の厚さの前記ポリアミン層の厚さに対する比が3以下である、
[5]に記載の気体分離膜。
[7] 前記ポリアミンがゲル性高分子である、
[5]又は[6]に記載の気体分離膜。
[8] 前記ポリアミンがキトサンである、
[7]に記載の気体分離膜。
【0009】
[9] 多孔性支持体と、前記多孔性支持体上に配置されたポリアミン層と、を有し、
前記ポリアミン層が架橋構造を有することを特徴とする、
気体分離膜。
[10] 前記架橋構造が、アミド基を有する構造、イミド基を有する構造、イミノ基を有する構造、ウレア基を有する構造、ピリジニウム基を有する構造、カーボネート基を有する構造、ウレタン基を有する構造、スルホニル基を有する構造、及びエステル基を有する構造より成る群から選択される構造の1種類以上を含む、[9]に記載の気体分離膜。
[11] 赤外分光分析における、前記架橋構造に含まれる官能基に帰属される吸光度の合計値Aの、アミノ基に帰属される吸光度Bに対する比として定義される官能基比率A/Bが、0.1以上7.5以下である、
[10]に記載の気体分離膜。
【0010】
[12] 前記官能基比率A/Bが0.9以上5.0以下である、
[11]に記載の気体分離膜。
[13] 前記ポリアミンがゲル性高分子である、
[9]〜[12]のいずれか一項に記載の気体分離膜。
[14] 前記ポリアミンがキトサンである、[13]に記載の気体分離膜。
[15] 前記ポリアミンの数平均分子量が10万以上50万以下である、
[5]〜[8]のいずれか一項に記載の気体分離膜。
[16] 前記ポリアミンの数平均分子量が10万以上20万以下である、
[15]に記載の気体分離膜。
【0011】
[17] 前記多孔性支持体のポリアミン層側には、ポリアミンが含浸して成る含浸層が形成されており、
前記含浸層の厚さが20μm以下であり、
前記含浸層の厚さの前記ポリアミン層の厚さに対する比が5以下である、
[9]〜[14]のいずれか一項に記載の気体分離膜。
[18] 前記含浸層の厚さが5μm以下であり、
前記含浸層の厚さの前記ポリアミン層の厚さに対する比が3以下である、
[17]に記載の気体分離膜。
【0012】
[19] 多孔性支持体と、前記多孔性支持体上に形成されたポリアミン層とを有し、
前記ポリアミン層を構成するポリアミンが官能基で化学修飾されており、
前記ポリアミンの官能基による修飾率が1%以上80%以下であることを特徴とする、
気体分離膜。
[20] 前記ポリアミンの官能基による修飾率が1%以上50%以下である、
[19]に記載の気体分離膜。
[21] 前記ポリアミンの官能基による修飾率が1%以上31%以下である、
[20]に記載の気体分離膜。
[22] 前記官能基が、pKa5以上のプロトン酸基を有する基である、
[19]〜[21]のいずれか一項に記載の気体分離膜。
【0013】
[23] 前記ポリアミンがゲル性高分子である、
[19]〜[22]のいずれか一項に記載の気体分離膜。
[24] 前記ポリアミンがキトサンである、
[23]に記載の気体分離膜。
[25] 前記官能基が、イミダゾール基、イソブチル基、及びグリセリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基である、
[19]〜[24]のいずれか一項に記載の気体分離膜。
[26] 前記ポリアミン層を構成するポリアミンが官能基で化学修飾されており、かつ前記ポリアミンの官能基による修飾率が1%以上80%以下である、
[1]〜[18]のいずれか一項に記載の気体分離膜。
[27] 前記ポリアミンの官能基による修飾率が1%以上50%以下である、
[26]に記載の気体分離膜。
[28] 前記ポリアミンの官能基による修飾率が1%以上31%以下である、
[27]に記載の気体分離膜。
【0014】
[29] 前記ポリアミンが、pKa5以上のプロトン酸基を有する、
[1]〜[18]及び[26]〜[28]のいずれか一項に記載の気体分離膜。
[30] 前記ポリアミン層を構成するポリアミンが、Ag及びCuより成る群から選択される1種以上の金属原子を含む金属塩を形成している、
[1]〜[29]のいずれか一項に記載の気体分離膜。
[31] プロパン40質量%及びプロピレン60質量%から成る混合ガスを用い、
供給側ガス流量を190cc/min、透過側ガス流量を50cc/minとし、加湿雰囲気下、等圧式によって30℃において測定されたプロピレンガスの透過速度が15GPU以上1,500GPU以下であり、プロピレン/プロパンの分離係数αが50以上1,000以下である、
[1]〜[30]のいずれか一項に記載の気体分離膜。
【0015】
[32] [1]〜[31]のいずれか一項に記載の気体分離膜の製造方法であって、少なくとも下記工程:
多孔性支持体を製造する多孔性支持体製造工程、
ポリアミンを含有する水溶液から成る塗工液を製造する塗工液製造工程;及び
前記多孔性支持体の表面に前記塗工液を塗工する塗工工程;
を含むことを特徴とする、
気体分離膜の製造方法。
[33] 前記塗工工程の前に、前記多孔性支持体を粘性水溶液中に含浸させる含浸工程を有する、[32]に記載の気体分離膜の製造方法。
[34] 前記粘性水溶液が、グリセリン、エチレングリコール、及びプロピレングリコールから選択される1種以上の溶質を含有する水溶液である、
[33]に記載の気体分離膜の製造方法。
[35] 前記塗工工程の前又は後に、塗工液塗工後の多孔性支持体を、架橋剤を含有する水溶液に接触させる接触工程を含む、[33]又は[34]に記載の気体分離膜の製造方法。
[36] 前記ポリアミンが、化学修飾を施されたポリアミンである、[32]〜[35]のいずれか一項に記載の気体分離膜の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、オレフィン等に対して、高い透過速度及び高い分離性能を示す気体分離膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について、その好ましい形態(以下「本実施形態」ということがある。)を中心に、詳細を説明する。
本実施形態における気体分離膜は、多孔性支持体と前記多孔性支持体上に配置されたポリアミン層とを有する。
【0019】
[多孔性支持体]
本実施形態の気体分離膜における多孔性支持体は、膜の表裏をつないで貫通する微細な穴を多数有する膜から成る支持体である。この多孔性支持体は、実質的には気体分離性能を有さないが、本実施形態の気体分離膜に機械的強度を与えることができる。その形状としては、例えば、中空糸状、平膜状等であることができる。
多孔性支持体の素材は問わない。耐薬品性及び耐溶剤性の観点からは、ポリスルホン、ポリエーテルスルフォン、PVDF、PTFE等が好ましく;耐熱性の観点からは、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾイミダゾール等のホモポリマー又はコポリマー等が好ましく;これらのうちのいずれか単独又はこれらの混合物から形成されるものが好ましい。
【0020】
多孔性支持体の外表面の平均孔径は、透過性及び機械的強度の双方を十分に確保し易くし、分離係数を適当な範囲に調整する観点から、1nm以上1,000nm以下が好ましい。
多孔性支持体の膜厚は、機械的強度と透過性とのバランスを良好とする観点から、5μm以上500μm以下が好ましい。
多孔性支持体が中空糸状である場合、その外径としては、0.3mm以上3mm以下が好ましく、0.5mm以上1.5mm以下がより好ましい。これは、中空糸膜の外径が小さすぎると、中空糸膜モジュールを作製する際に、中空糸の取り扱いが困難になる等の問題が生じ;逆に中空糸膜の外径が大きすぎると、同じサイズの筒状容器内に挿入できる中空糸膜の本数が減って濾過面積が減少する等の問題が生じるためである。
中空糸状の多孔性支持体の内径は、0.05mm以上1mm以下が好ましい。これは、中空糸の内径が小さすぎると、圧損及び原料代の増加につながる等の問題を生じ;逆に、中空糸膜の内径が大きすぎると、稼働の加圧で膜が折れる等の問題が生じるためである。
【0021】
これらの平均孔径、膜厚、並びに中空糸の外形及び内径は、それぞれ、多孔性支持体の製造条件を制御することにより、所望の範囲に調整することができる。
中空糸状の多孔性支持体は、1本のみを使用してもよく、複数本をまとめて使用してもよい。中空糸状の多孔性支持体の複数をまとめて使用する場合の使用本数としては、10本以上100,000本以下とすることが好ましく、10,000本以上50,000本以下とすることがより好ましい。
【0022】
[ポリアミン層]
ポリアミン層は、本実施形態の気体分離膜に実用的な気体分離性能を付与する機能を有する。
ポリアミン層は、少なくともポリアミンを含む構成材料から形成される。分離層としてポリアミンを含む構成材料から形成されるポリアミン層を有する気体分離膜は、該分離層に任意的に含有される金属塩を高濃度で分散することができる。このことは、例えばオレフィンとパラフィンとの分離に好適な気体分離膜を得るために有利である。
【0023】
ここで使用されるポリアミンは、ゲル性高分子であることが好ましい。ここで、ゲル性高分子とは、水により膨潤する高分子を意味する。ポリアミンがゲル性高分子であることにより、分離層に任意的に含有される金属塩を高濃度で均一に分散することができる。
本実施形態において好適に使用されるポリアミンとしては、例えば、ポリアリルアミン誘導体、ポリエチレンイミン誘導体、ポリアミドアミンデンドリマー誘導体等が挙げられる。
【0024】
ポリアミンは、結晶性高分子であることが好ましい。このことにより、得られる気体分離膜におけるポリアミン層の耐久性が向上する。
ポリアミンは、ゲル性高分子であり、且つ結晶性高分子であることが、更に好ましい。ゲル性高分子であり、且つ結晶性高分子であるポリアミンから形成されたポリアミン層は、任意的に含有される金属塩を高濃度で均一に分散できるとともに、高い耐久性を有することとなる。
【0025】
本実施形態において好適に使用されるポリアミンとしては、例えばキトサンが挙げられる。ここで、キトサンとは、繰返し単位として少なくともβ−1,4−N−グルコサミンを含み、該繰り返し単位におけるβ−1,4−N−グルコサミンの割合が70モル%以上のものを指す。キトサンは、繰り返し単位として及びβ−1,4−N−アセチルグルコサミンを含んでいてもよい。キトサンの繰り返し単位におけるβ−1,4−N−アセチルグルコサミンの割合の上限値は、好ましくは30モル%以下である。
【0026】
ポリアミンは、官能基によって化学修飾されていても構わない。この官能基としては、例えば、イミダゾール基、イソブチル基、及びグリセリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基であることが好ましい。
【0027】
上記の官能基は、pKa5以上のプロトン酸基を有する基であることが好ましい。該プロトン酸のpKaは、10以上であることがより好ましく、30以上であることが更に好ましく、60以上であることが特に好ましい。
pKaが5未満のプロトン酸を有する官能基は、ポリアミン層に任意的に含有される金属イオンと過度に強く相互作用する。そのため、得られる気体分離膜を、例えばオレフィンとパラフィンとの分離に適用することが困難になる。従って、上記の官能基に含有されるプロトン基のうちの最も酸性度の高いプロトン基のpKaは、5以上であることが好ましく、より好ましくは10以上、30以上、又は60以上である。
【0028】
上記の官能基として、具体的には例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、及びその誘導体;
アリル基、ビニル基等のアルケニル基、及びその誘導体;
フェニル基、フェノール基、ピリジル基、イミダゾール基、ベンジル基、ベンザル基、キノリル基、ナフチル基、インドール基、フェノール基、チオフェン基、オキサゾール基、ベンゾイル基等の芳香族基、及びその誘導体;
アセチル基、アルデヒド基、エステル基、イミド基、アミド基等のカルボニル基、及びその誘導体;
アンモニウム基、グアニジノ基等のカチオン基、及びその誘導体;
メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、及びその誘導体;
グリセリル基等のヒドロキシル基、及びその誘導体;
スルホンアミド基、スルホンエステル基、スルホンオキシド基、チオール基、チオエーテル基、チオカルボニル基等の含硫黄基、及びその誘導体;
アミノ基及びその誘導体;
イミノ基及びその誘導体
等から成る群より選択される1種以上を使用することが好ましい。ここでの誘導体とは、シアノ基、ニトロソ基、ニトロ基、イソニトリル基、ハロゲン原子等から成る群より選択される置換基が少なくとも1つ以上含まれる官能基を指す。
【0029】
ポリアミン層は、修飾剤によって化学修飾を施されるのと同時に、原料であるポリアミンに由来するアミノ基の一部が残存していることが好ましい。ポリアミン層がアミノ基を有することにより、該残存アミノ基が、該ポリアミン層に任意的に含有される金属塩に配位することが可能となり、金属塩を高分散且つ強固に保持することが可能となる。その結果、得られる気体分離膜を、例えばオレフィンとパラフィンとの分離に好適に適用することができることとなる。
【0030】
ポリアミンの化学修飾率は、1%以上80%以下が好ましく、1%以上50%以下がより好ましく、1%以上31%以下が特に好ましい。これは、修飾率が低すぎる場合には高い透過性を得ることができないこと、及び修飾率が高すぎる場合には実用性のある膜性能が得られないこと、の双方を考慮したためである。
【0031】
本明細書における化学修飾率とは、下記数式:
化学修飾率(モル%)=(ポリアミンの官能基のうち化学修飾された官能基のモル数)/
(化学修飾された官能基のモル数と化学修飾されていない官能基のモル数との和)
×100
によって算出される数値のことである。ここで、ポリアミンの官能基とは、上記のとおり、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、又はアルデヒド基を言い、好ましくはアミノ基である。
【0032】
ポリアミン層におけるアミノ基の存在は、例えば赤外分光分析によって確認することができる。アミノ基は、波数3,500cm
−1〜3,000cm
−1の領域に赤外吸収を有するから、この領域のピークを調べることにより、アミノ基の存否を確認することができる。
赤外分光分析は、ATR−IR法により、例えば以下の条件下に行うことができる。
IR装置:Bruker社製、形式「LUMOS」
測定法:ATR法(Ge結晶)
波数分解能:4cm
−1
積算回数:64回
測定領域:50μm×50μm
分析深さ:1μm未満
【0033】
ポリアミンが化学修飾を施されているかどうかは、元素分析、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)、固体核磁気共鳴分析(固体NMR)、X線光電子分光分析(XPS)等によって確認することができる。
【0034】
例えば元素分析の場合、105℃2時間乾燥させた測定試料について測定した、炭素(C)、窒素(N)、及び酸素(O)の各元素の元素比率(質量%)において、44.1<C≦55.0、6.0≦N≦16.0及び28.0≦O<41.9が好ましく、44.1<C≦48.0、7.0≦N≦13.0及び33.0≦O<41.9がより好ましい。
元素分析は、例えば以下の条件下に行うことができる。
装置:ヤナコ社製、形式「MT−6型」
【0035】
炭素、窒素及び酸素の各元素比率が上記の関係式を満足しているポリアミンは、所望する範囲に化学修飾されている。そのため、極めて実用性の高い、高透過性の分離膜が得られることとなり、好ましい。
ここでCが44.1未満又はOが41.9を超える場合は、実用性のある透過性が得られない場合がある。Cが55.0より大又はOが28.0未満の場合は、所望の分離度が得られない場合がある。上記のNの値が6.0未満又は16.0を超えると、気体透過性の不足及び分離度の不足のうちの少なくとも一方が発生する場合があり、好ましくない。
【0036】
ポリアミンの数平均分子量は、気体分離性能と透過性とのバランスを良好とする観点から、10万以上50万以下であることが好ましく、10万以上20万以下であることが更に好ましい。この数平均分子量は、プルランを標準物質とし、サイズ排除クロマトグラフィーによって測定して得られた値である。
【0037】
ポリアミン層は、架橋構造を有していても構わない。本明細書における架橋構造とは、ポリアミンの繰り返し単位において、互いに隣り合わない少なくとも2単位以上が架橋構造を介する共有結合によって連結している構造を指す。この架橋構造は、例えば、アミド基を有する構造、イミド基を有する構造、イミノ基を有する構造、ウレア基を有する構造、ピリジニウム基を有する構造、カーボネート基を有する構造、ウレタン基を有する構造、スルホニル基を有する構造、及びエステル基を有する構造より成る群から選択される構造の1種類以上を含むことが、製造上の容易さの点から、好ましい。
【0038】
ポリアミン層における架橋構造の存在及びその種類は、例えば、赤外分光分析、X線光電子分光分析(XPS)、固体核磁気共鳴分析(固体NMR)、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)等により、確認することができる。
【0039】
赤外線分光分析において、アミド基又はイミド基の場合は波数1,700cm
−1〜1,500cm
−1の領域に、ウレア基、カーボネート基又はウレタン基の場合は波数1,900cm
−1〜1,650cm
−1の領域に、ピリジニウム基の場合は波数1,700cm
−1〜1,500cm
−1の領域に、スルホン基の場合は波数1,350cm
−1〜1,300cm
−1の領域に、エステル基の場合は1,300cm
−1〜1,000cm
−1の領域に、それぞれ吸収を有する。
架橋構造を調べるための赤外分光分析は、ATR−IR法により、例えば以下の条件下に行うことができる。
IR装置:Bruker社製、形式「LUMOS」
測定法:ATR法(Ge結晶)
波数分解能:4cm
−1
積算回数:64回
測定領域:50μm×50μm
分析深さ:1μm未満
【0040】
ポリアミン層は、上記のような架橋構造を有するとともに、原料であるポリアミン類に由来するアミノ基の一部が残存していることが好ましい。ポリアミン層がアミノ基を有することにより、該ポリアミン層に任意的に含有される金属塩との配位が容易となる。その結果、得られる気体分離膜を、例えばオレフィンとパラフィンとの分離に好適に適用することができることとなる。
ポリアミン類層におけるアミノ基の存在は、例えば赤外分光分析によって確認することができる。アミノ基は、波数3,500cm
−1〜3,000cm
−1の領域に赤外吸収を有するから、この領域のピークを調べることにより、アミノ基の存否を確認することができる。
アミノ基を存在を知るための赤外分光分析は、ATR−IR法により、例えば上記架橋構造を調べるための赤外分光分析と同じ条件下に行うことができる。
【0041】
本実施形態の気体分離膜におけるポリアミン層は、架橋構造及びアミノ基の双方を有することが好ましい。これらの存在比は、赤外分光分析における、アミド基、イミド基、ウレア基、ピリジニウム基、イミノ基、カーボネート基、ウレタン基、スルホニル基、及びエステル基の吸光度の合計値Aの、アミノ基の吸光度Bに対する比A/Bとして定義される官能基比率によって評価することができる。本実施形態におけるポリアミン層は、この官能基比率が、10以下であることが好ましく、0.1以上7.5以下であることがより好ましく、0.9以上5.0以下であることが更に好ましい。
官能基比率を知るための赤外分光分析は、ATR−IR法により、例えば上記架橋構造を調べるための赤外分光分析と同じ条件下に行うことができる。
【0042】
本実施形態の気体分離膜におけるポリアミン層が架橋構造を有することにより、該気体分離膜は気体分離性能と透過性とを両立できるだけではなく、ポリアミン層が実用的な機械的強度を有することとなり、好ましい。
【0043】
本実施形態の気体分離におけるポリアミン層は、オレフィンと親和性のある物質を含んでいても構わない。その場合の気体分離膜は、例えばオレフィンとパラフィンとの分離に適用することができる。
上記オレフィンと親和性のある物質としては、例えば金属塩等が挙げられる。
金属塩としては、例えば、Ag及びCuより成る群から選択される1種以上の金属原子を含む金属塩が好ましい。より好ましくは、
1価の銀、及び1価の銅からなる群より選ばれる金属イオン、又はその錯イオンと;
F
−、Cl
−、Br
−、I
−、CN
−、NO
3−、SCN
−、ClO
4−、CF
3SO
3−、BF
4−、及びPF
6−からなる群より選ばれるアニオンと;
から構成される金属塩である。
【0044】
ポリアミン層における金属塩の濃度は、10質量%以上70質量%以下が好ましく、30質量%以上70質量%以下がより好ましく、50質量%以上70質量%以下が更に好ましい。金属塩の濃度が低すぎると、気体分離性能の向上効果が得られない場合がある。金属塩濃度が高すぎると、製造コストが高くなる不都合が生じる場合がある。
【0045】
本実施形態の気体分離膜におけるポリアミン層の膜厚は、気体分離性能と透過性とのバランスを良好とする観点から、0.01μm以上3μm以下であることが好ましく、0.01μm以上1μm以下であることがより好ましい。ポリアミン層の膜厚が厚すぎると、高い透過性が得られない場合がある。ポリアミン層の膜厚が薄すぎると、気体分離性能が不十分となる場合がある。
ポリアミン層の膜厚を3μm以下に設定すると、該ポリアミン層の形成工程で任意に行われる乾燥工程において、好ましからざる三次元網目架橋構造が形成されることはない点でも好適である。
【0046】
ポリアミン層の膜厚は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、ガスクラスターイオン銃搭載X線光電子分光分析(GCIB−XPS)、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)等によって測定することができる。
【0047】
TEMは、例えば以下の条件下に行うことができる。
(前処理)
気体分離膜を、例えば凍結破砕したものを測定試料とし、該試料の外表面にPtコーティングを施した上でエポキシ樹脂に包埋する。そしてウルトラミクロトーム(例えば、LEICA社製、形式「UC−6」)による切削で超薄切片を作製した後、RuO
4染色を行い、これを検鏡用試料とする。
(測定)
測定は、例えば日立製のTEM、形式「S−5500」を用いて、加速電圧:30kVにて行うことができる。
【0048】
TOF−SIMSは、例えばアルバック・ファイ社製、形式「nanoTOF」を用いて、以下の条件下に行うことができる。
一次イオン:Bi
3++
加速電圧:30kV
イオン電流:約0.1nA(DCとして)
分析面積:200μm×200μm
分析時間:6秒/サイクル
検出イオン:正イオン
中和:電子銃+Arモノマー使用
(スパッタ条件)
スパッタイオン:Ar
2500+
加速電圧:20kV
イオン電流:約5nA
スパッタ面積:600μm×600μm
スパッタ時間:10分/サイクル
中和:電子銃+Arモノマー使用
【0049】
[含浸層]
本実施形態の気体分子膜においては、本実施形態における含浸層は、多孔性支持体のポリアミン層側に、ポリアミンが含浸して成る含浸層が形成されていてもよい。
この含浸層は、多孔性支持体及びポリアミン層との間に、明確な境界を持っていてもよいし、明確な境界を持っていなくても構わない。含浸層におけるポリアミンの割合は、厚み方向で同じであってもよいし、傾斜組成となっていてもよい。好ましくは、含浸層のうちのポリアミン層と接する領域においてはポリアミンの含有割合が大きく、該含有割合が深さ方向に漸減して行き、遂にはゼロとなる地点で含浸層が終わる場合である。
【0050】
上記のポリアミン層が金属塩を含有する場合、この含浸層も金属塩を含有する。含浸層における金属塩の含有割合は、ポリアミンと金属塩との合計に対して占める金属塩の質量割合が、上記ポリアミン層における金属塩の割合とほぼ等しい値となる。
【0051】
含浸層の厚さは、得られる気体分離膜における分離性能と透過性とのバランスの観点から、設定される。この観点から、含浸層の厚さが20μm以下であって、含浸層の厚さのポリアミン類層の厚さに対する比が5以下であることが好ましく、含浸層の厚さが5μm以下であって、含浸層の厚さのポリアミン類層の厚さに対する比が3以下であることがより好ましい。含浸層の厚さが20μmを超えると、透過度若しくは分離係数又はこれらの双方が、実用性の高い値を示さない等の不都合が生じる場合がある。含浸層の厚さのポリアミン類層の厚さに対する比が5を超えた場合にも、同様に、透過度若しくは分離係数又はこれらの双方が、実用性の高い値を示さない等の不都合が生じる場合がある。
【0052】
含浸層の厚さは、0.1μm以上であることが好ましく、含浸層の厚さのポリアミン層の厚さに対する比は、0.02以上であることが好ましい。含浸層の厚さが薄すぎると、ポリアミン層が剥がれを生ずる等の不都合を生じる場合がある。
含浸層の厚さは、例えば、アルゴンガスクラスターイオン銃搭載X線光電子分光分析(GCIB―XPS)によって測定された相対元素濃度の分布曲線から知ることができる。
GCIB−XPSは、例えばアルバック・ファイ社製の形式「VersaProbeII」を用いて、以下の条件下に行うことができる。
【0053】
(GCIB条件)
加速電圧:15kV
クラスターサイズ:Ar
2500
クラスター範囲:3mm×3mm
エッチング中の試料回転:有
エッチング間隔:3分/レベル
試料電流:23nA
トータルエッチング時間:69分
(XPS条件)
X線:15kV、25W
ビームサイズ:100μm
【0054】
[気体分離膜の性能]
ポリアミン層に金属塩を含む実施形態の気体分離膜は、オレフィンとパラフィンとの分離に好適に用いることができる。具体的には、例えば、プロパン40質量%及びプロピレン60質量%から成る混合ガスを用い、供給側ガス流量を190cc/min、透過側ガス流量を50cc/minとし、加湿雰囲気下等圧式によって30℃において測定されたプロピレンガスの透過速度Qが15GPU以上1,500GPU以下であり、プロピレン/プロパンの分離係数αが50以上1,000以下である。プロピレンガスの透過速度Qは、好ましくは50GPU以上1,500GPU以下であり、より好ましくは100GPU以上1,500GPU以下である。プロピレン/プロパンの分離係数αは、好ましくは100以上1,000以下であり、より好ましくは150以上1,000以下である。これらの値は、プロピレン分圧1気圧以下、具体的には0.6気圧の条件で測定されるべきである。
【0055】
気体分離膜の性能は、例えば以下の条件下に測定することができる。
装置:ジーティーアールテック社製、形式「等圧式ガス透過率測定装置(GTR20FMAK)」
温度:25℃
【0056】
[気体分離膜の製造方法]
次に、本実施形態の気体分離膜の製造方法について説明する。
本実施形態の気体分離膜は、少なくとも下記工程:
多孔性支持体を製造する多孔性支持体製造工程、
ポリアミンを含有する水溶液から成る塗工液を製造する塗工液製造工程、及び
上記多孔性支持体の表面に上記塗工液を塗工する塗工工程
を含むことを特徴とする。
【0057】
上記塗工工程の前に、多孔性支持体を粘性水溶液中に含浸させる含浸工程を有していてもよい。この場合、含浸層を有する気体分離膜を容易に製造することができる。
上記塗工工程の前又は後に、塗工液塗工後の多孔性支持体を、架橋剤を含有する水性溶液に接触させる接触工程を有していてもよい。この場合、架橋構造を有するポリアミン層を具備する気体分離膜を容易に製造することができる。
前記ポリアミンが、化学修飾を施されたポリアミンであってもよい。この場合、化学修飾を施されたポリアミンを含有するポリアミン層を具備する気体分離膜を容易に製造することができる。
上記塗工後の多孔性支持体から、塗工液中の溶媒を乾燥除去するための乾燥工程を行ってもよい。
【0058】
(多孔性支持体製造方法)
本実施形態において好ましく使用される多孔性支持体の製造方法について説明する。
多孔性支持体は、非溶媒誘起相分離法又は熱誘起相分離法により得ることができる。
以下に、非溶媒誘起相分離法によってポリエーテルスルフォンの中空糸膜を製造する場合について説明する。
先ず、ポリエーテルスルフォン(PES)を溶媒に溶解させ、PES溶液を準備する。本実施形態で使用されるPESの分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーによって測定したポリスチレン換算の数平均分子量として、好ましくは2,000以上100,000以下であり、より好ましくは10,000以上50,000以下である。これは、分子量が低すぎると、実用性の高い耐久性を示さない等の問題を生じる場合があり;逆に、分子量が大きすぎると、該多孔性支持体の製造が困難になる等の問題を生じる場合があるためである。
【0059】
本実施の形態において、上記PES溶液中のPESの濃度は、15質量%以上50質量%以下が好ましく、25質量%以上40質量%以下がより好ましい。これは、PESの濃度が低すぎると、実用性の高い耐久性を示さない等の問題を生じる場合があり;逆に、PESの濃度が高すぎると、該多孔性支持体の製造が困難になる等の問題を生じる場合があるためである。
PES溶液の溶媒としては、例えば、N―メチル―2―ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の良溶媒;グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等の貧溶媒が用いられる。PES溶液中の良溶媒/貧溶媒の質量比は、該PES溶液を紡糸原液として用いる場合の安定性を高めること、均質膜構造を得易くすること等を考慮して、97/3から40/60とするのが好ましい。
【0060】
上記で得られたPES溶液を紡糸原液として用いて紡糸を行う。二重管状ノズルの外側スリットから該PES溶液を、中心孔から芯液を、それぞれ吐出する。芯液は、紡糸原液であるPES溶液に対して不活性な流体を使用する。不活性な流体とは、紡糸原液を凝固せず、紡糸原液と混和しない流体であり、液体及び気体のいずれであってもよい。
不活性な液体としては、例えば、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィン、ミスチリン酸イソプロピル等が挙げられる。不活性な気体としては、例えば、窒素やアルゴン等が挙げられる。芯液として紡糸原液に対して不活性な流体を用いると、中空糸膜の構造が均一な構造を取り易く、乾燥時に表面張力の影響を受けて膜構造が変化し易いので、好適に適用することができる。芯液の吐出量は、紡糸原液であるPES溶液の吐出量に対して、0.1倍以上10倍以下とすることが好ましく、0.2倍以上8倍以下とすることがより好ましい。芯液の吐出量と、紡糸原液であるPES溶液の吐出量とを、上記範囲で適当に制御することにより、好ましい形状の多孔性支持体を製造できる。
【0061】
ノズルから吐出された紡糸原液は、空中走行部を通過させた後、凝固漕に浸漬させて、凝固及び相分離を行わせることにより、中空糸膜が形成される。凝固層中の凝固液としては、例えば水を用いることができる。
凝固漕から引き上げられた湿潤状態の中空糸膜は、溶媒等を除去するために洗浄漕で洗浄した後、ドライヤーに通して乾燥させる。
上記のようにして、中空糸状の多孔性支持体を得ることができる。
この中空糸状の多孔性支持体は、1本のみを次の工程に供してもよいし、複数本をまとめて次の工程に供してもよい。
【0062】
(含浸工程)
上記のように得られる多孔性支持体は、これをそのまま次の塗工工程に供してもよいし、該多孔性支持体を粘性水溶液中に含浸させる含浸工程を行ったうえで塗工工程に供してもよい。
【0063】
本実施形態では、粘性水溶液の粘度は1cP以上200cP以下が好ましく、5cP以上150cP以下がより好ましく、10cP以上100cP以下が更に好ましい。これは、粘性水溶液の粘度が低すぎると、粘性水溶液を用いる効果が出ない等の問題を生じる場合があり、逆に、粘性水溶液の粘度が高すぎると、該粘性水溶液が多孔性支持体に十分に含浸されない等の問題を生じる場合があるためである。
【0064】
本実施形態における粘性水溶液の溶質としては、水と任意の割合で混合する物質を用いることができる。例えば、グリコール、グリコールエーテル等が好適に用いられる。グリコールとしては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が、グリコールエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、3−メチル3−メトキシブタノール、エチレングリコールt−ブチルエーテル、3−メチル3−メトキシブタノール、3−メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等がそれぞれ挙げられる。好ましくは、グリセリン、エチレングリコール、及びプロピレングリコールから選択される1種以上である。これらの溶質は、単独で使用しても混合して使用してもよい。
【0065】
粘性水溶液における溶質の濃度は、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上80質量%以下が好ましい。溶質をこの範囲で水と混合し、上記の粘度範囲に調整することにより、粘性水溶液を調製することができる。
粘性水溶液のpHとしては、4以上10以下が好ましく、5以上9以下がより好ましい。粘性水溶液のpHが低すぎても高すぎても、該粘性水溶液の多孔性支持体への含浸が十分に起こらない場合があるためである。
【0066】
多孔性支持体を粘性水溶液に浸漬させる場合の浸漬温度は、0℃以上100℃以下とすることが好ましく、20℃以上80℃以下とすることがより好ましい。浸漬温度が低すぎると、粘性水溶液の多孔性支持体への含浸が十分に起こらない等の問題を生じる場合があり;逆に、浸漬温度が高すぎると、浸漬中に粘性水溶液中の溶媒(水)が過度に揮発する等の問題を生じる場合があるためである。
浸漬時間は、15分以上5時間以下とすることが好ましく、30分以上3時間以下とすることがより好ましい。浸漬時間が短すぎると、多孔性支持体への含浸が十分に起こらない等の問題を生じるばあいがあり;逆に、浸漬時間が長すぎると、気体分離膜の製造効率が落ちる等の問題を生じる場合がある。
【0067】
(塗工液製造工程)
本実施形態において使用する塗工液は、少なくともポリアミンを含有する水溶液である。このポリアミンは、化学修飾を施されたポリアミン(化学修飾ポリアミン)であってもよいし、化学修飾を施されていないポリアミンであってもよい。
【0068】
−化学修飾ポリアミンの製造方法−
化学修飾ポリアミンは、ポリアミンを修飾剤と反応させることによって、得ることができる。
修飾剤は、イミダゾール基、イソブチル基、及びグリセリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基と、ポリアミンと反応可能な反応性基と、を有していることが好ましい。上記イミダゾール基、イソブチル基、及びグリセリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基は、脂肪族基又は芳香族基であることができる。
【0069】
上記ポリアミンと反応可能な反応性基は、ポリアミンのアミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、又はアルデヒド基と反応し得る基であり、例えば、カルボキシル基、カルボン酸ハライド基、カルボン酸無水物基、アルデヒド基、ケトン基、及びイソシアネート基から成る群より選択される1種類以上の基を挙げることができる。
【0070】
修飾剤は、上記官能基及び反応性基の他に、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、及びその誘導体;
アリル基、ビニル基等のアルケニル基、及びその誘導体;
フェニル基、フェノール基、ピリジル基、イミダゾール基、ベンジル基、ベンザル基、キノリル基、ナフチル基、インドール基、フェノール基、チオフェン基、オキサゾール基、ベンゾイル基等の芳香族基、及びその誘導体;
アセチル基、アルデヒド基、エステル基、イミド基、アミド基等のカルボニル基、及びその誘導体;
アンモニウム基、グアニジノ基等のカチオン基、及びその誘導体;
メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、及びその誘導体;
グリセリル基等のヒドロキシル基、及びその誘導体;
スルホンアミド基、スルホンエステル基、スルホンオキシド基、チオール基、チオエーテル基、チオカルボニル基等の含硫黄基、及びその誘導体;
アミノ基及びその誘導体;
イミノ基及びその誘導体
等から成る群より選択される1種以上を使用することが好ましい。ここでの誘導体とは、シアノ基、ニトロソ基、ニトロ基、イソニトリル基、ハロゲン原子等から成る群より選択される置換基が少なくとも1つ以上含まれる官能基を指す。
【0071】
修飾剤の具体例としては、例えば、イソブチルアルデヒド、グリセリルアルデヒド、ダゾール−4−カルボキシアルデヒド、4−イミダゾールカルボン酸、イソ酪酸クロリド、グリオキシル酸、1,3−プロパンスルトン等を挙げることができる。
これらの修飾剤は、単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【0072】
ポリアミンと修飾剤との反応は、好ましくは水性溶液中で行われる。この水性溶液における溶媒としては、水、及び水と有機溶媒とから成る混合溶媒を使用することができる。該混合溶媒における有機溶媒の含有割合は、溶媒の全量に対して80質量%以下の範囲であることが好ましい。ここで使用される有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール;アセニトトリル、アセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の極性溶媒;等が用いられる。これらの有機溶媒は単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【0073】
反応は、ポリアミン及び修飾剤の濃度が、それぞれ0.1質量%以上10質量%以下となる濃度で実施することが好ましく、0.5質量%以上5質量%以下がより好ましい。修飾剤とポリアミン類の濃度がそれぞれ0.1質量%以上であると、反応が十分に進む。
反応温度は、0℃以上100℃以下とすることが好ましく、20℃以上80℃以下とすることがより好ましい。温度が低すぎると、反応が十分に進まないという問題が起こり、逆に温度が高すぎると溶媒が揮発してしまうという問題が起こる。
反応時間は、6時間以上36時間以下が好ましく、12時間以上24時間以下がより好ましい。反応時間が短すぎると、反応が十分に進まないという問題があり、逆に反応時間が長すぎると製造効率が悪くなるという問題がある。
【0074】
修飾剤に、アルデヒド基又はケトン基を有する化合物を用いる場合、反応後の溶液を還元剤によって還元したうえで塗工液の調製に供することが好ましい。還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム等が挙げられる。ポリアミンのアミノ基と、アルデヒド基又はケトン基と、の反応により形成されるシッフ塩基を還元することによりアミンに変換することができるため、加水分解に対する耐性を持たせることができる。
修飾剤に、カルボキシル基を有する化合物を用いる場合、反応溶液に縮合剤を添加したうえでポリミントの反応を行うことが好ましい。縮合剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩等が挙げられる。縮合剤を添加することにより、反応が十分に進む。
【0075】
反応後の溶液は、必要に応じて塩基性水溶液、水、有機溶媒等で洗浄してもよい。
上記のようにして、化学修飾ポリアミンを得ることができる。
化学修飾ポリアミンの修飾率は、核磁気共鳴分析(NMR)、赤外分光分析等で算出することができる。このことについては上述した。
【0076】
−塗工液の製造−
本実施形態の塗工液は、所望のポリアミン又は上記のようにして得られた化学修飾ポリアミンを水性溶媒に溶解することにより、製造することができる。化学修飾ポリアミンを用いる場合には、反応液をそのまま塗工液の調製に供してもよい。
塗工液における、ポリアミンの濃度は、0.2質量%以上10質量%以下が好ましく、0.5質量%以上5質量%以下がより好ましい。ポリアミン濃度が0.2質量%未満であると、実用性の高い気体分離膜を得られない場合がある。
塗工液には、溶媒の全量に対して80質量%以下の範囲で有機溶媒が含まれていても構わない。ここで使用される有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール;アセニトリル、アセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の極性溶媒;等が用いられる。これらの有機溶媒は単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【0077】
ポリアミン類水溶液には、界面活性剤が含まれていても構わない。界面活性剤は、ポリアミン及び後述の架橋剤(使用する場合)と静電反発しないこと、酸性、中性、及び塩基性のいずれの水溶液にも均一に溶解すること、等の観点から、ノニオン性界面活性剤を用いることが好ましい。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンの長鎖脂肪酸エステル、パーフルオロ基を有するフッ素界面活性剤等が挙げられる。その具体例としては、ポリオキシエチレンの長鎖脂肪酸エステルとして、例えば、Tween20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)、Tween40(ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート)、Tween60(ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート)、Tween80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)(以上、東京化成工業社製)、トリトン−X100、プルロニック−F68、プルロニック−F127等を;パーフルオロ基を有するフッ素界面活性剤として、例えば、フッ素系界面活性剤FC−4430、FC−4432(以上、3M社製)、S−241、S−242、S−243(以上、AGCセイミケミカル社製)、F−444、F−477(以上、DIC社製)等を;それぞれ挙げることができる。
【0078】
塗工液における界面活性剤の濃度は、該塗工液の全量に対して、0.001質量%以上1質量%以下とすることが好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下とすることがより好ましい。これは、界面活性剤の濃度が高すぎると、該界面活性剤が塗工液へ溶解し難くなる等の問題を生じる場合があり;逆に、界面活性剤の濃度が低すぎると、得られる気体分離膜において、気体分離性能の低下等の問題を生じる場合があるためである。
【0079】
−塗工工程−
塗工工程においては、粘性水溶液に含浸した、又は含浸していない多孔性支持体を、上記のような塗工液と接触させる。このときの接触方法としては、例えば、ディップ塗工法(浸漬法)、グラビア塗工法、ダイ塗工法、噴霧塗工法等による塗工が好ましい。
多孔性支持体と接触させる際の塗工液の温度は、0℃以上100℃以下とすることが好ましく、20℃以上80℃以下とすることがより好ましい。接触温度が低すぎると、塗工液が多孔性支持体上に均一に塗工されない等の問題を生じる場合があり;逆に、接触温度が高すぎると、接触中に塗工液の溶媒(例えば水)が過度に揮発する等の問題を生じる場合がある。
接触を浸漬法による場合の接触時間(浸漬時間)は、15分以上5時間以下とすることが好ましく、30分以上3時間以下とすることがより好ましい。接触時間が短すぎると、多孔性支持体上への塗工が不十分になる等の問題を生じる場合があり;逆に、接触時間が長すぎると、気体分離膜の製造効率が落ちる等の問題を生じる場合がある。
【0080】
−乾燥工程−
上記塗工工程の後、任意的に乾燥工程(溶媒除去工程)を設けてもよい。この乾燥工程は、塗工後の多孔性支持体を、好ましくは80℃以上160℃以下、より好ましくは120℃以上160℃以下の環境下に、好ましくは5分以上5時間以下、より好ましくは10分以上3時間以下、例えば静置する方法により行うことができる。これは、乾燥温度が過度に低い場合若しくは乾燥時間が過度に短い場合又はこれらの双方である場合には、溶媒を十分に乾燥除去することができない等の問題を生じる場合があり;逆に、乾燥温度が過度に高い場合若しくは乾燥時間が過度に長い場合又はこれらの双方である場合には、製造コストの増加、製造効率の低下等の問題を生じる場合があるためである。
【0081】
(ポリアミン層が架橋構造を有する気体分離膜の製造方法)
ポリアミン層における架橋構造は、ポリアミンと架橋剤とを接触せしめることによって、形成することができる。
架橋剤は、好ましくは水性水溶液中に含有される状態でポリアミンとの接触に供されることが好ましい。
ポリアミンの架橋構造を得るためには、多孔性支持体と架橋剤溶液とを接触させた後にポリアミンを含有する塗工液と接触させる方法、多孔性支持体と塗工液とを接触させた後に架橋剤溶液を接触させる方法、多孔性支持体と塗工液とを接触させ、任意工程である乾燥工程を行った後に架橋剤溶液と接触させてもよい。
【0082】
架橋剤水溶液に含有される架橋剤は、アミノ基を有するポリアミン類と反応可能な反応性基として、酸ハロゲン基、無水カルボン酸基、アルデヒド基、ケトン基、イソシアネート基、ビニルスルホン基から成る群より選択される1種類以上の基を有する化合物である。架橋剤は、これらの基から選択される1種以上の基を、1個の分子内に2個以上有する脂肪族又は芳香族の化合物であることが好ましい。1個の分子内に存在する2個以上の反応性基は、互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0083】
本実施形態における架橋剤の例としては、例えば、
トリメシン酸ハライド、イソフタル酸ハライド、テレフタル酸ハライド、トリメト酸ハライド等の芳香族酸ハロゲン化物;
1,2,3,4―ブタンテトラカルボン酸二無水物等の脂肪族無水カルボン酸;
トルエンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;
テレフタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド等の芳香族アルデヒド;
グルタルアルデヒド、マロンジアルデヒド等の脂肪族アルデヒド;
2,5−ヘキサジオン等の脂肪族ケトン;
VS−B、VS−C(以上富士フィルムファインケミカル製)等のビニルスルホニル;
等を挙げることができる。これらの架橋剤は、単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【0084】
本実施形態における架橋剤溶液の濃度は、0.1重量%以上10重量%以下が好ましく、0.5重量%以上5重量%以下がより好ましい。架橋剤溶液濃度が0.1重量%以上であると、多孔性支持体上での架橋構造の形成がし易い。
【0085】
架橋剤溶液における溶媒は、水性溶媒であることが好ましい。この水性溶媒とは、水、又は水と有機溶媒との混合溶媒である。混合溶媒を使用する場合には、溶媒の全量に対して80重量%以下の範囲で有機溶媒が含まれていても構わない。ここで使用される有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、アセニトトリル、アセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の極性溶媒、等が用いられる。これらの有機溶媒は単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【0086】
架橋剤溶液には、界面活性剤が含まれていても構わない。界面活性剤は、架橋剤及びポリアミンと静電反発しないこと、酸性、中性、及び塩基性のいずれの水溶液にも均一に溶解すること、等の観点から、ノニオン性界面活性剤を用いることが好ましい。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンの長鎖脂肪酸エステル、パーフルオロ基を有するフッ素界面活性剤等が挙げられる。その具体例としては、
ポリオキシエチレンの長鎖脂肪酸エステルとして、例えば、Tween20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)、Tween40(ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート)、Tween60(ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート)、Tween80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)(以上、東京化成工業社製)、トリトン−X100、プルロニック−F68、プルロニック−F127等を;
パーフルオロ基を有するフッ素界面活性剤として、例えば、フッ素系界面活性剤FC−4430、FC−4432(以上、3M社製)、S−241、S−242、S−243(以上AGCセイミケミカル)等を;
それぞれ挙げることができる。
【0087】
架橋剤溶液における界面活性剤の濃度は、該架橋剤溶液の全量に対して、0.001質量%以上1質量%以下とすることが好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下とすることがより好ましい。これは、界面活性剤の濃度が高すぎると、該界面活性剤が塗工液へ溶解し難くなる等の問題を生じる場合があり;逆に、界面活性剤の濃度が低すぎると、得られる気体分離膜において、気体分離性能の低下等の問題を生じる場合があるためである。
【0088】
多孔性支持体を架橋剤溶液と接触させる方法としては、例えば、ディップ塗工法(浸漬法)、グラビア塗工法、ダイ塗工法、噴霧塗工法等による塗工が好ましい。
多孔性支持体と接触させる際の架橋剤溶液の温度は、0℃以上100℃以下とすることが好ましく、20℃以上80℃以下とすることがより好ましい。接触温度が低すぎると、架橋剤水溶液が多孔性支持体上に均一に塗布されない等の問題を生じる場合があり;逆に、接触温度が高すぎると、接触中に架橋剤水溶液の溶媒(水)が過度に揮発する等の問題を生じる場合がある。
接触を浸漬法による場合の接触時間(浸漬時間)は、15分以上5時間以下とすることが好ましく、30分以上3時間以下とすることがより好ましい。接触時間が短すぎると、多孔性支持体上への塗布が十分に起こらない等の問題を生じる場合があり、逆に、接触時間が長すぎると、気体分離膜の製造効率が落ちる等の問題を生じる場合がある。
【0089】
多孔性支持体を架橋剤溶液と接触させた後、任意的に乾燥工程(溶媒除去工程)を設けてもよい。この乾燥工程は、架橋剤溶液と接触させた後の多孔性支持体を、好ましくは80℃以上160℃以下、より好ましくは120℃以上160℃以下の環境下に、好ましくは5分以上5時間以下、より好ましくは10分以上3時間以下、例えば静置する方法により行うことができる。乾燥温度が過度に低い場合若しくは乾燥時間が過度に短い場合又はこれらの双方である場合には、溶媒を十分に乾燥させることができない等の問題を生じる場合があり;逆に、乾燥温度が過度に高い場合若しくは乾燥時間が過度に長い場合又はこれらの双方である場合には、製造代の増加、製造効率の低下等の問題を生じる場合がある。
【0090】
(金属塩を含有するポリアミン層を有する気体分離膜の製造方法)
ポリアミン層が金属塩を含有する気体分離膜は、上記のようにして得られた気体分離膜を、所望の金属塩を含有する金属塩水溶液と更に接触させることにより、製造することができる。その後、任意的に乾燥工程を行ってもよい。
【0091】
上記金属塩水溶液中の金属塩の濃度は、0.1モル/L以上50モル/L以下が好ましい。金属塩水溶液中の金属塩の濃度が0.1モル/L以下であると、得られる気体分離膜をオレフィンとパラフィンとの分離に使用したときに実用性の高い分離性能を示さない場合がある。この濃度が50モル/Lを超えると、原料コストの増加につながる等の不都合が生じる。
気体分離膜の、金属塩水溶液との接触処理は、浸漬法によることが好ましい。浸漬時の水溶液温度は、10℃以上90℃以下とすることが好ましく、20℃以上80℃以下とすることがより好ましい。この浸漬温度が低過ぎると、ポリアミン層への金属塩の含浸が十分に起こらない等の問題を生じる場合があり;逆に、浸漬温度が高過ぎると、浸漬中に金属塩水溶液の溶媒(水)が過度に揮発する等の問題を生じる場合がある。
【0092】
気体分離膜を金属塩水溶液と接触させた後の乾燥工程は、多孔性支持体を架橋剤溶液と接触させた後に任意的に行われる乾燥工程と同様の条件で実施することができる。
【0093】
以上の製造条件により、本実施形態の気体分離膜を製造することができる。
【0094】
(含浸層の形成)
上記の製造方法では、含浸層を形成するための独立した製造工程を有さない。しかしながら、上記の一連の工程を含む製造方法により、ポリアミンの一部が多孔性支持体の表面から深さ方向に浸透するため、該浸透部分が本実施形態における含浸層となる。
【実施例】
【0095】
以下に、本実施形態について、実施例等を用いて更に具体的に説明する。しかしながら本発明は、これらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【0096】
[実施例1−1]
キトサン(数平均分子量約10万)4.00g、イソブチルアルデヒド0.358g、酢酸4.50g、水392gを混合し、25℃で24時間撹拌した。その後、1規定水酸化ナトリウム水溶液でpHを約10に調整し、生成した沈殿物を濾別した。得られた沈殿物を、蒸留水とエタノールで洗浄し、終夜乾燥させることで、イソブチル修飾キトサンを3.10g得た。イソブチル修飾率は、プロトン核磁気共鳴分光分析(1H−NMR)測定により算出した。1H−NMR測定は、得られたイソブチル修飾キトサンを重水:重トリフルオロ酢酸の混合溶媒(10:1)に10mg/mLになるように溶解させ、重クロロホルムを標準物質として行った。修飾率を表1に示す。
1H−NMRは、以下の条件下で行った。
装置名:日本電子株式会社製、形式「JNM−GSX400G」(400MHz)
測定温度:25℃
積算回数:16回
【0097】
[実施例1−2、1−3、1−5、1−7、1−8、1−13〜16]
数平均分子量約10万のキトサンの代わりにポリアミンとして表1に記載の数平均分子量のキトサンを同量用い、イソブチルアルデヒド0.358gの代わりに表1に記載の種類及び量の修飾剤を用いた以外は実施例1−1と同様の方法により、化学修飾したキトサンを得た。修飾率は、実施例1−1と同様の方法で測定した。化学修飾キトサンの収量及び修飾率を表1に示す。
実施例1−14〜1−16は参考例である。
【0098】
[実施例1−4]
キトサン4.00g、イソブチルアルデヒド0.358g、酢酸4.50g、水392gを混合し、25℃で24時間撹拌した。その後、1規定水酸化ナトリウム水溶液でpHを約5に調整し、水素化ホウ素ナトリウム1.41gを少しずつ添加し、室温で3時間撹拌した。その後、1規定水酸化ナトリウム水溶液でpHを約10に調整し、生成した沈殿物を濾別した。得られた沈殿物を、蒸留水とエタノールで洗浄し、終夜乾燥させることで、イソブチル修飾キトサンを3.56g得た。イソブチル修飾率は、実施例1−1と同様の方法で測定した。修飾率を表1に示す。
【0099】
[実施例1−4、1−6、1−9〜12]
イソブチルアルデヒド0.358gの代わりに表1に記載の種類及び量の修飾剤を用いた以外は実施例4と同様の方法により、化学修飾したキトサンを得た。修飾率は、実施例1と同様の方法で測定した。実施例6においては、修飾剤を2種類混合して使用した。化学修飾キトサンの収量及び修飾率を表1にそれぞれ示す。
【0100】
【表1】
【0101】
以下の実施例2−1〜2−16、3−1〜3−3、及び4−1〜4−7、並びに比較例2−1〜2−3においては、多孔性支持体上にポリアミン層を形成し、その気体分離性能を調べた。多孔性支持体としては、外径500μm、内径300μm、表面の孔径が50nm、及び長さ20cmのポリエーテルスルフォンから成る中空糸を200本束ねて筒状容器内に収納し、パッケージ化したものを用いた。
【0102】
[実施例2−1]
上記支持体を、下記組成のポリアミン水溶液(液温25℃)中に、1cm/secの速度で浸漬させ、支持体の全部が上記水溶液中に没した後、5秒間静置した。その後、1cm/secの速度で引上げ、120℃において10分加熱することにより、中空糸状の気体分離膜を製造した。
ポリアミン水溶液の組成は以下のとおりである。
ポリアミン:実施例1で製造したイソブチル修飾キトサン1質量%
界面活性剤:Novec FC−4430(商品名、3M社製、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系界面活性剤)0.01質量%
その他の成分:酢酸1質量%
を含有する水溶液。
このように製造した中空糸状気体分離膜を、0.8M水酸化ナトリウム溶液(溶媒=エタノール:水=(体積比80:20))に3日間浸漬した後、蒸留水で5回洗浄した。その後、7M硝酸銀水溶液に24時間浸漬することにより、銀塩を含有する中空糸状気体分離膜を得た。この銀塩を含有する前後のポリアミン層につき、硝酸銀水溶液浸漬前後の質量を電子天秤により測定し、比較したところ、該ポリアミン層に含有される銀塩(硝酸銀)の濃度は67質量%であることが分かった。
この銀塩を含有する中空糸状気体分離膜を用いて、プロパン及びプロピレンの透過速度を測定した。
測定は、透過側にプロパン及びプロピレンから成る混合ガス(プロパン:プロピレン=
40:60(質量比))を、供給側にヘリウムを、それぞれ用い、供給側ガス流量を50cc/min、透過側ガス流量を50cc/minとして、加湿雰囲気下等圧式により、測定温度30℃において行った。その結果を表2に示す。
プロパン及びプロピレンの透過速度の測定は、以下の条件下で行った。
装置:ジーティーアールテック社製、形式「等圧式ガス透過率測定装置(GTR20FMAK)」
測定温度:25℃」
【0103】
[実施例2−2〜2−16及び比較例2−1〜2−3]
上記実施例2−1において、ポリアミン水溶液の組成、並びに浸漬後の加熱温度及び時間を、それぞれ、表2に記載のとおりとした以外は、実施例2−1と同様の方法により、中空糸状気体分離膜を製造し、プロパン及びプロピレンの透過速度を測定した。その結果を表2に示す。
実施例2−14及び2−16は参考例である。
【0104】
[実施例3−1]
上記支持体を、粘性水溶液としてのグリセリン30質量%水溶液(液温25℃)に4時間浸漬させた。次いで、粘性水溶液浸漬後の支持体を、ポリアミンとして上記実施例1−1で製造したイソブチル修飾キトサン1質量%、界面活性剤としてS−242(商品名、AGCセイミケミカル社製、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系界面活性剤)0.02質量%、及びその他の成分として酢酸1質量%を含むポリアミン水溶液(液温25℃)に、1cm/secの速度で浸漬させ、支持体の全部が上記水溶液中に没した後、5秒間静置した。その後、1cm/secの速度で引上げ、120℃において10分乾燥することにより、中空糸膜状の気体分離膜を製造した。得られた中空糸状気体分離膜を、0.8M水酸化ナトリウム溶液(溶媒=エタノール:水(体積比80:20))に3日間浸漬した後、蒸留水で5回洗浄した。その後、7M硝酸銀水溶液に24時間浸漬することにより、銀塩を含有する中空糸状気体分離膜を得た。この銀塩を含有する前後のポリアミン類層につき、硝酸銀水溶液浸漬前後の質量を電子天秤により測定し、比較したところ、該ポリアミン類層に含有される銀塩(硝酸銀)の濃度は65質量%であることが分かった。
この銀塩を含有する中空糸状気体分離膜を用いて、上記実施例2−1と同様の手法により、プロパン及びプロピレンの透過速度を測定した。測定結果を表2に示す。
【0105】
[実施例3−2及び3〜3]
上記実施例3−1において、粘性水溶液の種類、ポリアミン水溶液の組成、並びに該ポリアミン水溶液に浸漬した後の加熱温度及び時間を、それぞれ、表2に記載のとおりとした以外は、実施例3−1と同様の方法により、中空糸状気体分離膜を製造し、プロパン及びプロピレンの透過速度を測定した。測定結果を表2に示す。
実施例3−2及び3−3は参考例である。
【0106】
[実施例4−1]
上記支持体を、架橋剤としてのグルタルアルデヒドを1質量%、界面活性剤としてTween20(商品名、東京化成工業社製、及びポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)0.1質量%を含有する架橋剤水溶液(液温25℃)中に、1cm/secの速度で浸漬させ、支持体の全部が上記水溶液中に没した後、15分間静置した。その後、1cm/secの速度で引上げた。次いで、該支持体を、ポリアミンとしてキトサン(数平均分子量10万)1質量%、界面活性剤としてTween20(商品名、東京化成工業社製、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)0.1質量%、及びその他の成分として酢酸1質量%を含むポリアミン水溶液(液温25℃)中に、1cm/secの速度で浸漬させ、支持体の全部が上記水溶液中に没した後、15分間静置した。その後、1cm/secの速度で引上げ、120℃において7.5分加熱することにより、中空糸状の気体分離膜を製造した。得られた中空糸状気体分離膜を、0.8M水酸化ナトリウム溶液(溶媒=エタノール:水=(体積比80:20))に3日間浸漬した後、蒸留水で5回洗浄した。その後、7M硝酸銀水溶液に24時間浸漬することにより、銀塩を含有する中空糸状気体分離膜を得た。この銀塩を含有する前後のポリアミン層につき、硝酸銀水溶液浸漬前後の質量を電子天秤により測定し、比較したところ、該ポリアミン層に含有される銀塩(硝酸銀)の濃度は67質量%であることが分かった。
この銀塩を含有する中空糸状気体分離膜を用いて、実施例2−1と同様の方法により、プロパン及びプロピレンの透過速度を測定した。測定結果を表2に示す。
実施例4−1は参考例である。
【0107】
[実施例4−2〜4−7]
上記実施例4−1において、架橋剤水溶液の種類、ポリアミン水溶液の組成、並びに該ポリアミン水溶液に浸漬した後の加熱温度及び時間を、それぞれ、表2に記載のとおりとした以外は、実施例4−1と同様の方法により、中空糸状気体分離膜を製造し、プロパン及びプロピレンの透過速度を測定した。測定結果を表2に示す。
実施例4−2〜4−7は参考例である。
【0108】
【表2】
【0109】
表2における粘性水溶液及び架橋剤水溶液の組成を表3に示す。
【0110】
【表3】
【0111】
表2において、実施例3−2及び4−1〜4−7においてポリアミンとして使用したキトサンの数平均分子量は10万である。実施例3−3及び比較例2−1においてポリアミンとして使用したキトサンの数平均分子量は50万である。
表2及び表3における界面活性剤種類欄の略称は、それぞれ、以下の意味である。
(界面活性剤種類)
Tween20:商品名、東京化成工業社製、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレアート
FC−4430:NovecFC−4430、商品名、3M社製、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系界面活性剤
S−241:商品名、AGCセイミケミカル社製、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系界面活性剤
S−242:商品名、AGCセイミケミカル社製、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系界面活性剤
F−444:商品名、DIC社製、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系界面活性剤
F−477:商品名、DIC社製、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系界面活性剤
【0112】
[分析例1−1]
上記実施例2−13で得た中空糸気体分離膜の多孔性支持体をクロロホルムにより完全に溶解させた後、沈殿物を回収し、50℃において24時間減圧乾燥して得たポリアミン層について、ヤナコ社製の元素分析装置「MT−6型」を用いて元素分析を実施した。分析結果を表4に示す。
上記中空糸気体分離膜のポリアミン層に含有されるポリアミンは、上記実施例1−11で得られた化学修飾ポリアミンに由来する。
【0113】
[分析例1−2]
上記実施例2−11で得た中空糸気体分離膜について、分析例1−1と同様の方法により、元素分析を実施した。その結果を表4に示す。
上記中空糸気体分離膜のポリアミン層に含有されるポリアミンは、上記実施例1−12で得られた化学修飾ポリアミンに由来する。
【0114】
[分析例1−3]
ポリアミンとして上記実施例1−2で得た化学修飾キトサン0.5質量%を用いて調製したポリアミン水溶液を使用した以外は実施例2−13と同様の方法により、中空糸状気体分離膜を製造した。
上記中空糸気体分離膜につき、分析例1−1と同様の方法により、元素分析を実施した。その結果を表4に示す。
【0115】
[分析例1−4]
修飾剤としてイミダゾール−4−カルボキシアルデヒド1.19g及びイソブチルアルデヒド0.895gを用いた以外は上記実施例1−4と同様の方法により、修飾キトサン3.37gを得た。
ポリアミンとして上記のポリアミン0.5質量%を用いた以外は実施例2−13と同様の方法により、中空糸状気体分離膜を製造した。
上記中空糸気体分離膜につき、分析例1−1と同様の方法により、元素分析を実施した。その結果を表4に示す。
【0116】
[分析例1−5]
ポリアミンとしてキトサン(数平均分子量50万)を用いた以外は実施例2−13と同様の方法により中空糸状気体分離膜を製造した。
上記中空糸気体分離膜を、分析例1−1と同様の方法により、元素分析を実施した。その結果を表4に示す。
【0117】
【表4】
【0118】
[分析例2−1]
実施例3−3で得られた中空糸状気体分離膜について、X線光電子分光装置(XPS)により、外側表面の相対元素濃度を調べた。その結果を表5に示す。
XPS分析は、以下の条件下で行った。
XPS装置:サーモフィッシャーESCALAB250
励起源:mono.AIKα、15kV×10mA
分析サイズ:約1mmの楕円形状
光電子取出角:0°
取り込み領域:
Survey Scan:0〜1、100eV
Narrow Scan:S2p、C1s、01s、N1s
Pass Energy:
Survey Scan:100eV
Narrow Scan:20eV
【0119】
【表5】
【0120】
表5に示したとおり、気体分離膜表面では、キトサン由来のNが検出され、支持体であるポリエーテルスルフォンの指標となるSは検出限界以下であった。これらのことから、該中空糸状気体分離膜の外側表面にキトサンから成るポリアミン層が存在することが示された。
【0121】
[分析例3−1]
実施例3−3で得られた中空糸状気体分離膜、及び比較例2−1で得られた中空糸状気体分離膜について、それぞれ、アルゴンガスクラスターイオン銃搭載X線光電子分光装置(GCIB―XPS)により、相対元素濃度を外側表面から深さ方向に調べた。この相対元素濃度より算出したポリアミン層及び含浸層の厚さを表6に示す。
実施例3−3の中空糸状気体分離膜についての相対元素濃度を表すグラフを
図1に示す。
図1における「PES」は、「ポリエーテルスルフォン」の略である。
GCIB−XPS分析は、以下の条件下で行った。
装置:アルバック・ファイ社製、形式「VersaProbeII」
(GCIB条件)
加速電圧:15kV
クラスターサイズ:Ar
2500
クラスター範囲:3mm×3mm
エッチング中の試料回転:有
エッチング間隔:3分/レベル
試料電流:23nA
トータルエッチング時間:69分
(XPS条件)
X線:15kV、25W
ビームサイズ:100μm
【0122】
【表6】
【0123】
[分析例4−1]
実施例3−3で得られた中空糸状気体分離膜、及び比較例2−1で得られた中空糸状気体分離膜について、それぞれ、走査型電子顕微鏡(SEM)により、断面の観察を行った。その結果を
図2(実施例3−3)及び
図3(比較例2−1)にそれぞれ示す。
SEM分析は、以下の条件下で行った。
装置:日本電子株式会社製、形式「CarryScope」
加速電圧:20kV
図2及び
図3にそれぞれ示したとおり、多糖類層及び含浸層の合計の厚さは、実施例3−3の中空糸状気体分離膜について約1.8μm、比較例2−1の中空糸状気体分離膜について約30μmであった。これらの結果は、上記分析例3−1における表6の結果とよく一致している。
比較例2−1の中空糸状気体分離膜の結果は、多孔性内支持体の内部にまでキトサンが深く染み込んでいることを示している。
【0124】
[分析例5−1〜5−5]
実施例4−1〜4−5でそれぞれ得られた中空糸状気体分離膜の外側表面について、反射型赤外分光法(IR−ATR)を用いて赤外吸光分光分析を行った。
赤外吸光分光分析は、以下の条件下で行った。
IR装置:Bruker社製、形式「LUMOS」
測定法:ATR法(Ge結晶)
波数分解能:4cm−1
積算回数:64回
測定領域:50μm×50μm
分析深さ:1μm未満
上記のIR−ATRにおいて、ポリアミン由来の3,600cm
−1〜3,000cm
−1付近のピークの架橋構造由来のイミノ基ピークに対する比として算出される官能基比率を表7に示す。
【0125】
【表7】
【0126】
実施例4−1について得られたIR−ATRチャートを
図4に示す。
図4を参照すると、架橋構造であるイミノ基に帰属される波数1,650cm
−1付近のピークが見られる。このことから、これらの気体分離膜におけるポリアミン層には、キトサン由来のアミノ基とグルタルアルデヒド由来のアルデヒド基との反応によって生成したイミノ基を有する架橋構造が存在することが確認された。
【0127】
以上の実施例から、分子量の比較的小さいポリアミンを用いると実用性が高い透過性能及び分離性能を有する気体分離膜を製造できることが検証された。その理由は、ポリアミンの分子量が小さいことによって塗工液の粘度を低くすることができ、その結果、得られるポリアミン層が薄膜化されるためであると考えられる。
多孔性支持体を、種々の官能基で修飾したポリアミン類を含有する水溶液に浸漬させる工程を含む本発明の製造方法によって製造された気体分離膜は、実用性の高い透過性能及び分離性能を示すことが検証された。その理由は、ポリアミンを官能基で修飾することにより、ポリアミンの高い凝集力を弱めることができたためと考えられる。すなわち、ポリアミンの凝集力が弱められると、得られる気体分離膜におけるポリアミンの分子鎖間距離が長くなり、その結果、実用性の高い気体分離性能を示すようになったためであると考えられる。
【0128】
粘性水溶液による処理を経由し、ポリアミンとともに界面活性剤を含有する塗工液を用いる本発明における好ましい気体分離膜の製造方法によると、ポリアミン層を多孔性支持体内に適度に染込ませ、含浸層を薄く形成できることが明らかとなった。その結果、実用性の高い透過性能及び分離性能を示す気体分離膜を製造できることが検証された。