(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6539745
(24)【登録日】2019年6月14日
(45)【発行日】2019年7月3日
(54)【発明の名称】液体ダンパーシステム
(51)【国際特許分類】
F16F 9/12 20060101AFI20190625BHJP
D06F 37/12 20060101ALI20190625BHJP
【FI】
F16F9/12
D06F37/12 A
D06F37/12 D
【請求項の数】17
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-544386(P2017-544386)
(86)(22)【出願日】2016年6月24日
(86)【国際出願番号】JP2016068859
(87)【国際公開番号】WO2017061147
(87)【国際公開日】20170413
【審査請求日】2018年3月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-199097(P2015-199097)
(32)【優先日】2015年10月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加賀田 翔
(72)【発明者】
【氏名】小島 匠吾
(72)【発明者】
【氏名】石田 幸男
【審査官】
保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−144941(JP,A)
【文献】
特開2002−292184(JP,A)
【文献】
特開2004−261589(JP,A)
【文献】
特開2013−185649(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/104313(WO,A1)
【文献】
特開2006−112515(JP,A)
【文献】
実開平03−081437(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F21/00−25/00
37/00−37/42
39/12−39/14
F16F9/00−9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体に生じる振動を抑制する液体ダンパーシステムであって、
前記回転体と同軸で回転可能であり、液体が封入されたケース内に前記液体が周方向に移動する際に衝突し得る衝突部が設けられた液体ダンパーと、
前記液体ダンパーを前記回転体に対して相対回転させる相対回転手段と、
を備えることを特徴とする液体ダンパーシステム。
【請求項2】
駆動装置により回転駆動される前記回転体に生じる振動を抑制する請求項1に記載の液体ダンパーシステム。
【請求項3】
定常回転する前記回転体に生じる振動を抑制する請求項1または2に記載の液体ダンパーシステム。
【請求項4】
前記相対回転手段として、前記液体ダンパーが回転する際の空気抵抗を増大させる空気抵抗付与部が設けられている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の液体ダンパーシステム。
【請求項5】
前記空気抵抗付与部は、前記液体ダンパーの回転方向と交差する面を有する板状部材である請求項4に記載の液体ダンパーシステム。
【請求項6】
前記板状部材は、前記液体ダンパーの外周面に設けられている請求項5に記載の液体ダンパーシステム。
【請求項7】
前記板状部材は、前記液体ダンパーの軸方向における端面に設けられている請求項5に記載の液体ダンパーシステム。
【請求項8】
前記板状部材は、前記液体ダンパーの回転中心から離れるにつれて前記回転方向の下流側へと向かう形状を有する請求項6または7に記載の液体ダンパーシステム。
【請求項9】
前記板状部材に対して前記回転方向の反対方向に流体圧を作用させるように流体を吹き出す流体吹出手段をさらに備える請求項5ないし8のいずれか1項に記載の液体ダンパーシステム。
【請求項10】
前記相対回転手段として、
前記液体ダンパーに設けられた、電磁作用を受ける被電磁作用部と、
前記被電磁作用部に電磁作用を及ぼす電磁作用部と、
を有するブレーキ機構が設けられている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の液体ダンパーシステム。
【請求項11】
前記被電磁作用部は導電体であり、前記電磁作用部は永久磁石である請求項10に記載の液体ダンパーシステム。
【請求項12】
前記被電磁作用部は導電体であり、前記電磁作用部はコイルである請求項10に記載の液体ダンパーシステム。
【請求項13】
前記被電磁作用部が磁性体である請求項11または12に記載の液体ダンパーシステム。
【請求項14】
前記被電磁作用部は永久磁石であり、前記電磁作用部はコイルである請求項10に記載の液体ダンパーシステム。
【請求項15】
前記コイルに供給される電流を制御可能な電流制御部をさらに備える請求項12または14に記載の液体ダンパーシステム。
【請求項16】
前記相対回転手段として、
前記液体ダンパーの外周面に形成されたギア部と、
前記ギア部に係合するギアと、
前記ギアを回転させることで前記液体ダンパーに回転トルクを発生させる駆動部と、
を有するギア機構が設けられている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の液体ダンパーシステム。
【請求項17】
前記駆動部は、出力軸の回転速度が変更可能な可変速モーターである請求項16に記載の液体ダンパーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体に生じる振動を抑制する液体ダンパーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1の洗濯機には、洗濯槽の振動を抑えるため、洗濯槽に液体バランサが取り付けられている。この液体バランサは、円環形状の容器に液体が封入されており、容器の内部に複数の障害部が設けられている。そして、振動の発生時に液体が障害部に衝突することによって、液体の運動エネルギーの一部が熱エネルギーへと変換されてエネルギーの発散が行われ、振動を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−143287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、回転体の回転数が回転体の固有振動数に一致すると非常に大きな振動(主共振)が生じる。回転体が加減速しながら主共振を起こす回転数を通過する場合や、主共振を起こす回転数以外で定常回転している場合に生じる振動に対しては、特許文献1の液体バランサのような液体ダンパーでも振動の抑制効果がある。しかしながら、主共振を起こす回転数で回転体が定常回転している場合には、回転体の振れ回りによる公転と回転体の自転とが一致するため、回転体と液体ダンパー内の液体が一体となって回転する。そうすると、液体が遠心力で液体ダンパーの内壁面に張り付いて動かなくなり、液体の衝突によるエネルギーの発散が行なわれないために、振動を効果的に抑制できない。
【0005】
以上の課題に鑑みて、本発明は、回転体に生じる振動を抑制する液体ダンパーシステムにおいて、主共振を起こす回転数で回転体が定常回転している場合にも、回転体の振動を効果的に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、回転体に生じる振動を抑制する液体ダンパーシステムであって、前記回転体と同軸で回転可能であり、液体が封入されたケース内に前記液体が周方向に移動する際に衝突し得る衝突部が設けられた液体ダンパーと、前記液体ダンパーを前記回転体に対して相対回転させる相対回転手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明にかかる液体ダンパーシステムでは、相対回転手段によって、液体ダンパーを回転体に対して同方向或いは逆方向に相対回転させることができる。このため、主共振を起こす回転数で回転体が定常回転している場合にも、回転体の振れ回りによる回転体の公転と液体ダンパーの自転とが一致しないため、回転体と液体ダンパー内の液体が一体となって回転することがなく、液体が遠心力で液体ダンパーの内壁面に張り付いて動かなくなることを防止できる。したがって、常に液体が衝突部に衝突することによって、液体の運動エネルギーの一部が熱エネルギーへと変換されてエネルギーの発散が行われるので、主共振を起こす回転数で回転体が定常回転している場合にも、回転体の振動を効果的に抑制することが可能となる。
【0008】
ここで、前記相対回転手段として、前記液体ダンパーが回転する際の空気抵抗を増大させる空気抵抗付与部が設けられていると好適である。
【0009】
このような空気抵抗付与部を設けることで、液体ダンパーが回転する際に液体ダンパーに回転抵抗が作用し、液体ダンパーの回転速度が回転体よりも遅くなる。その結果、液体ダンパーを回転体に対して相対回転させることができる。
【0010】
さらに、前記空気抵抗付与部は、前記液体ダンパーの回転方向と交差する面を有する板状部材であると好適である。
【0011】
このように液体ダンパーの回転方向と交差する面を有する板状部材を空気抵抗付与部とすることで、空気抵抗付与部の構成を簡易なものとすることができる。
【0012】
さらに、前記板状部材は、前記液体ダンパーの外周面に設けられていると好適である。
【0013】
板状部材を液体ダンパーの外周面に設けることによって、空気抵抗の作用位置と液体ダンパーの回転中心との距離が大きくなるので、液体ダンパーに作用する回転抵抗トルクが増大する。したがって、液体ダンパーの回転速度を効率的に遅くすることができ、より確実に液体ダンパーを回転体に対して相対回転させることができる。
【0014】
また、前記板状部材は、前記液体ダンパーの軸方向における端面に設けられていてもよい。
【0015】
こうすることで、液体ダンパーシステムが径方向に大型化することを抑制でき、液体ダンパーシステムをコンパクトなものにすることができる。
【0016】
さらに、前記板状部材は、前記液体ダンパーの回転中心から離れるにつれて前記回転方向の下流側へと向かう形状を有すると好適である。
【0017】
板状部材が上述の形状であれば、液体ダンパーの回転時に、空気が板状部材に沿って遠心方向外側に逃げてしまうことを抑制し、より強い空気抵抗を板状部材に作用させることができる。
【0018】
さらに、前記板状部材に対して前記回転方向の反対方向に流体圧を作用させるように流体を吹き出す流体吹出手段をさらに備えると好適である。
【0019】
このような流体吹出手段を設けることで、板状部材に作用する回転抵抗を増大させることができるので、より確実にケースを回転体に対して相対回転させることができる。
【0020】
また、前記相対回転手段として、前記液体ダンパーに設けられた、電磁作用を受ける被電磁作用部と、前記被電磁作用部に電磁作用を及ぼす電磁作用部とを有するブレーキ機構が設けられていてもよい。
【0021】
このように、相対回転手段を電磁式のブレーキ機構とすれば、液体ダンパーが回転する際に液体ダンパーにブレーキを作用させることにより、液体ダンパーの回転速度を回転体よりも遅くすることができる。その結果、液体ダンパーを回転体に対して相対回転させることができる。なお、電磁作用部および被電磁作用部の具体的構成については、後で詳細に説明する。
【0022】
また、前記相対回転手段として、前記液体ダンパーの外周面に形成されたギア部と、前記ギア部に係合するギアと、前記ギアを回転させることで前記液体ダンパーに回転トルクを発生させる駆動部とを有するギア機構が設けられていてもよい。
【0023】
このように、ギアを駆動させることによって液体ダンパーに回転トルクを発生させることで、液体ダンパーを回転体に対して相対回転させることができる。
【0024】
ここで、前記駆動部は、出力軸の回転速度が変更可能な可変速モーターであると好適である。
【0025】
こうすることで、ギアの回転速度を変化させることができ、ひいては、液体ダンパーの回転速度を変化させることができる。したがって、回転体の振動の態様に応じて、液体ダンパーの回転速度を調整することができ、振動抑制効果をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかる液体ダンパーシステムにおいては、液体ダンパーを回転体に対して相対回転させる相対回転手段が設けられているため、回転体と液体ダンパー内の液体が一体となって回転することを防止でき、主共振を起こす回転数で回転体が定常回転している場合にも、回転体の振動を効果的に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】第1実施形態の液体ダンパーシステムを示す断面図である。
【
図2】
図1のII−II断面における断面図である。
【
図4】第1実施形態の変形例1を示す上面図である。
【
図5】第1実施形態の変形例2を示す上面図である。
【
図6】第2実施形態の液体ダンパーシステムを示す上面図である。
【
図7】第3実施形態の液体ダンパーシステムを示す上面図である。
【
図8】他の実施形態に係る液体ダンパーシステムの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[第1実施形態]
本発明にかかる液体ダンパーシステムの実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態の液体ダンパーシステムを示す断面図であり、回転体100の軸方向に沿った断面を示す。
図2は、
図1のII−II断面における断面図である。本実施形態では、回転体100の軸方向が上下方向に一致するものとして説明を行うが、回転体100の軸方向は上下方向以外の方向であってもよい。
【0029】
液体ダンパーシステム1は、液体ダンパー10を有するダンパーシステムである。液体ダンパー10は、ケース11に形成された内部空間12に液体13が封入されて構成されており、回転体100と同軸で回転可能に、回転体100に取り付けられている。ここで、本実施形態では、液体13として水を用いているが、液体13の種類は水に限定されない。
【0030】
液体ダンパー10の詳細を説明する前に、まず、液体ダンパー10を回転体100に取り付けるための取付機構について説明する。回転体100の外周面には、円筒状のボス101が固定されており、さらにボス101の外周面には、上下に2つの軸受102が固定されている。本実施形態では、軸受102としてボールベアリングを用いているが、ボールベアリング以外のものを用いることも可能である。
【0031】
ボス101の外周面の上部には、段部101aが形成されている。上側の軸受102は、この段部101aに当接した状態で、ボス101に外嵌されている。上側の軸受102の下方には、順番に、第1スペーサ103、下側の軸受102、第2スペーサ104および係止部材105が、ボス101に外嵌されている。係止部材105は、例えばCリングであり、ボス101の外周面に形成された環状溝101bに嵌め込まれている。
【0032】
第2スペーサ104と係止部材105との間には、皿ばねや波型ワッシャー等からなる付勢部材106が設けられている。この付勢部材106によって、2つの軸受102が段部101a側に付勢されることで、軸受102に適切な予圧が付与される。各軸受102の径方向内側には、Oリング107が配設されている。
【0033】
軸受102の内輪102aはボス101に固定され、外輪102bは液体ダンパー10のケース11に固定される。液体ダンパー10は、軸受102の摩擦によって、回転体100とともに回転する。しかしながら、本発明においては、後述するように、液体ダンパー10を回転体100に対して積極的に相対回転できるように構成することで、振動抑制効果の向上を図っている。
【0034】
次に、液体ダンパー10の構成について説明する。液体ダンパー10は、ケース11に形成された内部空間12に液体13が封入された基本構成を有する。ケース11は、主に、ケース本体11aと蓋部材11bとからなる。ケース本体11aは、回転体100を挿通させるための貫通孔が中心に形成された円筒形状であり、円環状の内部空間12が形成されている。内部空間12の上部は開口となっており、この開口を塞ぐように、蓋部材11bがケース本体11aの上面にボルト等で固定されている。
【0035】
図2に示すように、ケース11の遠心方向外側(径方向外側)の内壁面11cには、この内壁面11cから内部空間12に向かって突出し、液体が周方向に移動する際に衝突し得る板状の衝突部14が設けられている。衝突部14は、周方向に45度の等間隔で配置されており、計8つ設けられている。なお、衝突部14の数や配置はこれに限定されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0036】
液体ダンパー10(ケース11)の外周面には、遠心方向外側に向かって突出し、液体ダンパー10の回転方向と交差する面を有する板状部材21が設けられている。板状部材21は、周方向に45度の等間隔で配置されており、計8つ設けられている。なお、板状部材21の数や配置はこれに限定されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0037】
以上のように構成された液体ダンパーシステム1の動作について説明する。回転体100が不図示の駆動装置により回転駆動されると、液体ダンパー10は、軸受102の摩擦により連れ回りする。液体ダンパー10が回転すると、板状部材21には空気抵抗が作用し、液体ダンパー10に対して回転抵抗が発生する。液体ダンパー10の回転速度が速くなるにしたがって回転抵抗も大きくなり、回転抵抗の大きさが軸受102の摩擦力よりも大きくなると、液体ダンパー10の回転速度は回転体100に対して遅れ始める。その結果、ケース11は回転体100に対して相対回転することになる。
【0038】
(効果)
本実施形態の液体ダンパーシステム1では、板状部材21からなる相対回転手段によって、液体ダンパー10を回転体に対して相対回転させることができる。このため、主共振を起こす回転数で回転体100が定常回転している場合にも、回転体100と液体ダンパー10内の液体13が一体となって回転することがなく、液体13が遠心力で液体ダンパー10の内壁面11cに張り付いて動かなくなることを防止できる。したがって、常に液体13が衝突部14に衝突することによって、液体13の運動エネルギーの一部が熱エネルギーへと変換されてエネルギーの発散が行われるので、主共振を起こす回転数で回転体100が定常回転している場合にも、回転体100の振動を効果的に抑制することが可能となる。
【0039】
ここで、液体ダンパーシステム1による回転体100の振動抑制効果を検証するための実験を行った。検証実験は、回転体100に液体ダンパー10を取り付けない場合と、回転体100に液体ダンパー10を取り付けたうえで、液体ダンパー10の回転数を回転体100と同じにした場合(同期させた場合)と、回転体100に液体ダンパー10を取り付けたうえで、液体ダンパー10の回転数を回転体100と異ならせた場合(非同期とした場合)との3ケースについて行った。各ケースにおいて、回転体100の回転数を所定間隔で大きくしていき、各回転数で定常回転状態に達したときの回転体100の振動値を測定した。ちなみに、液体ダンパー10を設ける場合、板状部材21を取り付けないことで液体ダンパー10と回転体100とを同期させ、板状部材21を取り付けることで液体ダンパー10と回転体100とを非同期とした。
【0040】
図3は、検証実験の結果を示すグラフである。液体ダンパー10を用いない場合には、回転体100の回転数が1350rpmのときに大きな主共振が発生している。これに対し、回転体100に液体ダンパー10を取り付けて(板状部材21はなし)、液体ダンパー10を回転体100と同期させた場合、主共振は低減するどころか、むしろ液体ダンパー10を取り付ける前よりも増大した。これは、液体ダンパー10の回転数が回転体100と同じときには、回転体100および液体ダンパー10内の液体13が一体となって回転し、液体13の衝突部14への衝突が生じなくなることでエネルギーが発散されなくなるためと考えられる。一方、液体ダンパー10とともに板状部材21を取り付けて、液体ダンパー10を回転体100と非同期とした場合、主共振はほとんど目立たないものとなり、広い回転数域にて回転体100の振動を抑制できることが示された。なお、この実験では、液体13としての水が内部空間12の容積に占める割合は約17%であり、液体13が少量であっても、非常に大きな振動抑制効果が得られることが分かった。これは、遠心力によって液体13の見かけの重量が増し、衝突のエネルギーが大きくなるためと推定される。
【0041】
ところで、液体ダンパー10が回転すると、液体ダンパー10内の液体13には遠心力が作用し、遠心方向外側の内壁面11cに液体13が張り付くようになる。しかしながら、本実施形態のように、この内壁面11cから内部空間12に向かって突出する衝突部14を設けることで、内壁面11cに張り付いた液体13がひとかたまりとなって回転することを防止し、定常状態でも液体13の衝突が生じることでエネルギーを発散させることができる。
【0042】
また、本実施形態では、相対回転手段として、液体ダンパー10が回転する際の空気抵抗を増大させる空気抵抗付与部(板状部材21)が設けられているので、液体ダンパー10が回転する際に液体ダンパー10に回転抵抗が作用し、液体ダンパー10の回転速度が回転体100よりも遅くなる。その結果、液体ダンパー10を回転体100に対して相対回転させることができる。
【0043】
また、本実施形態の空気抵抗付与部は、液体ダンパー10の回転方向と交差する面を有する板状部材21であるので、空気抵抗付与部の構成を簡易なものとすることができる。
【0044】
また、本実施形態では、板状部材21は、液体ダンパー10の外周面に設けられているため、空気抵抗の作用位置と液体ダンパー10の回転中心との距離が大きくなり、液体ダンパー10に作用する回転抵抗トルクが増大する。したがって、液体ダンパー10の回転速度を効率的に遅くすることができ、より確実に液体ダンパー10を回転体100に対して相対回転させることができる。
【0045】
(変形例1)
図4は、第1実施形態の変形例1を示す上面図である。本変形例では、板状部材22を、径方向に沿った形状ではなく、液体ダンパー10(ケース11)の回転中心から離れるにつれて液体ダンパー10の回転方向の下流側へと向かう形状としている。このような板状部材22によれば、液体ダンパー10の回転時に、空気が板状部材22に沿って径方向外側に逃げてしまうことを抑制し、
図4においてブロック矢印で示すように、空気を板状部材22と液体ダンパー10との間の空間に取り込みやすくなるので、より強い空気抵抗を板状部材22に作用させることができる。
【0046】
(変形例2)
図5は、第1実施形態の変形例2を示す上面図である。本変形例では、板状部材23の形状等は
図2に示したものと同じであるが、流体吹出手段24が設けられている点が異なる。流体吹出手段24は、液体ダンパー10の周囲に複数配置されており、吹出口24aから空気等の流体を吹き出す。吹出口24aが液体ダンパー10の回転方向の概ね反対方向を向くように配置されることで、流体吹出手段24は、板状部材23に対して、液体ダンパー10の回転方向の反対方向に流体圧を作用させることができる。このため、板状部材23に作用する回転抵抗を増大させることができ、より確実に液体ダンパー10を回転体100に対して相対回転させることができる。なお、流体吹出手段24の個数や配置は、
図5に示したものに限定されず、適宜変更が可能である。
【0047】
[第2実施形態]
図6は、第2実施形態の液体ダンパーシステムを示す上面図である。本実施形態の液体ダンパーシステム1においては、液体ダンパー10を回転体100に対して相対回転させる相対回転手段として、電磁式のブレーキ機構30が設けられている。このブレーキ機構30は、液体ダンパー10(ケース11)の外周面に設けられた導電体31(被電磁作用部)と、液体ダンパー10の外周面から離間して設けられたコイル32(電磁作用部)と、コイル32に供給される電流を制御する電流制御部33を有する。なお、導電体31およびコイル32の個数や配置は、
図6に示したものに限定されず、適宜変更が可能である。例えば、コイル32を周方向に沿って等間隔に複数設けてもよい。
【0048】
電流制御部33より電流がコイル32に供給されると、電磁誘導によってコイル32の周りに生じる磁束と、液体ダンパー10に設けられた導電体31に発生する渦電流による磁束との間に作用する磁力が、ブレーキ力として作用する。換言すると、液体ダンパー10が回転する際に、ブレーキ機構30によって液体ダンパー10にブレーキを作用させることにより、液体ダンパー10の回転速度を回転体100よりも遅くすることができる。その結果、液体ダンパー10を回転体100に対して相対回転させることができる。
【0049】
本実施形態によれば、電流制御部33によりコイル32に供給される電流を変化させることで、コイル32に発生する磁界の強さを変化させることができ、ひいては、導電体31とコイル32との間に作用するブレーキ力を変化させることができる。したがって、回転体100の振動の態様に応じて、液体ダンパー10の回転速度を調整することができ、振動抑制効果をより向上させることができる。
【0050】
さらに、導電体31を磁性体で構成すれば、より大きな渦電流を生じさせることが可能となるため、より大きなブレーキ力を得ることができる。
【0051】
なお、本実施形態において、電磁作用部32をコイルの代わりに永久磁石としてもよい。こうすることで、電流制御部33を省略することができ、相対回転手段を比較的容易に構成することができる。
【0052】
さらに、本実施形態の変形例として、液体ダンパー10の外周面に設けられる被電磁作用部31を永久磁石としてもよい。この変形例によれば、コイル32に接続された電流制御部33により、コイル32に供給される交流電流の周波数を適当に制御することで、大きなブレーキトルクを生じせしめることが可能である。
【0053】
[第3実施形態]
図7は、第3実施形態の液体ダンパーシステムを示す上面図である。本実施形態の液体ダンパーシステム1においては、液体ダンパー10を回転体100に対して相対回転させる相対回転手段として、ギア機構40が設けられている。このギア機構40は、液体ダンパー10(ケース11)の外周面に形成されたギア部11dと、ギア部11dに係合するギア41と、ギア41に連結され、回転体100に略平行な回転軸42と、回転軸42に不図示の出力軸が連結され、回転軸42を回転駆動するモーター43(駆動部)とを有する。モーター43のハウジング(図示省略)は、例えば、摩擦がほとんどゼロであるベアリングを介して回転体100に取り付けられており、回転体100や液体ダンパー10の回転時にモーター43が位置を変えることのないように配設されている。
【0054】
液体ダンパー10が回転すると、ギア41も
図7に示す方向に回転する。このとき、モーター43を、液体ダンパー10の回転に同期するギア41の回転周波数よりも低い周波数で駆動させると、モーター43がブレーキとして作用する。このため、回転体100に連れ回りしようとする液体ダンパー10には、回転抵抗が作用することになり、液体ダンパー10の回転速度が回転体100よりも遅くなる。その結果、液体ダンパー10を回転体100に対して相対回転させることができる。
【0055】
なお、本実施形態において、モーター43は、出力軸の回転速度が変更可能な可変速モーターであると好適である。こうすることで、ギア41の回転速度を変化させることができ、ひいては、液体ダンパー10の回転速度を変化させることができる。したがって、回転体100の振動の態様に応じて、液体ダンパー10の回転速度を調整することができ、振動抑制効果をより向上させることができる。
【0056】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明を適用可能な形態は、上記実施形態に限られるものではなく、以下に例示するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることが可能である。
【0057】
例えば、上記実施形態では、衝突部14がケース11の遠心方向外側の内壁面11cから内部空間12に向かって突出するものとした。しかしながら、衝突部14を、ケース11の遠心方向内側の内壁面から内部空間12に向かって突出させてもよいし、ケース11の天井面や底面から内部空間12に向かって突出させてもよい。また、遠心方向内側の内壁面から遠心方向外側の内壁面との間の全域にわたって設けられ、周方向に貫通する開口や切欠部を有する板状の部材を衝突部14とすることも可能である。さらには、衝突部14は板状のものに限らず、柱状のものやブロック状のものでもよいし、ケース11の側面や底面に形成した凹凸部や波状部を衝突部14とすることも可能である。
【0058】
また、上記実施形態では、ケース11の内部空間12が1室のみからなるものとした。しかしながら、内部空間12の周方向に沿って仕切壁を設け、内部空間12を径方向に複数に分割してもよい。この場合には、分割された各空間に衝突部14が設けられる。
【0059】
また、第1実施形態では、板状部材21〜23を液体ダンパー10(ケース11)の外周面に設けるものとしたが、外周面に代わってあるいは加えて、板状部材21〜23を液体ダンパー10(ケース11)の軸方向における端面(上面や下面)に設けてもよい。一例として、
図8に示す変形例では、板状部材25を液体ダンパー10(ケース11)の上面11eに設けてあるが、上面11eに代わってあるいは加えて、板状部材25を下面に設けてもよい。こうすることで、液体ダンパーシステム1が径方向に大型化することを抑制でき、液体ダンパーシステム1をコンパクトなものにすることができる。
【0060】
また、第2実施形態では、被電磁作用部として液体ダンパー10に導電体31を設け、電磁作用部として液体ダンパー10の周りにコイル32を設けるものとしたが、被電磁作用部として液体ダンパー10にコイルを設け、電磁作用部として液体ダンパー10の周りに永久磁石を設けることも可能である。この場合には、永久磁石を移動させて、液体ダンパー10との離間距離を変化させることで、液体ダンパー10の回転速度を調整することが可能である。
【0061】
また、第1〜3実施形態では、液体ダンパー10の回転速度を回転体100よりも遅くする場合について説明したが、液体ダンパー10の回転速度を回転体100よりも速くすることで、相対速度が生じるようにしてもよい。例えば、第1実施形態の変形例2(
図5参照)の流体吹出手段24の向きを変更し、液体ダンパー10の回転方向に流体圧を作用させるようにしてもよい。あるいは、第3実施形態(
図7参照)において、モーター43により液体ダンパー10の回転速度を回転体100よりも速くするようにしてもよい。
【0062】
さらには、液体ダンパー10の回転方向と回転体100の回転方向とが逆向きになるようにしてもよい。例えば、第1実施形態の変形例2(
図5参照)の流体吹出手段24からの流体の吹出速度を速くすることで、液体ダンパー10を回転体100とは逆向きに回転させるようにしてもよい。あるいは、第3実施形態(
図7参照)において、モーター42により液体ダンパー10を回転体100とは逆向きに回転させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1:液体ダンパーシステム
10:液体ダンパー
11:ケース
11d:ギア部
12:内部空間
13:液体
14:衝突部
21〜23:板状部材(相対回転手段、空気抵抗付与部)
24:流体吹出手段
30:ブレーキ機構(相対回転手段)
31:導電体(被電磁作用部)
32:コイル(電磁作用部)
33:電流制御部
40:ギア機構(相対回転手段)
41:ギア
43:モーター(駆動部)
100:回転体