(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6539811
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴及び電気銅メッキ方法
(51)【国際特許分類】
C25D 3/38 20060101AFI20190628BHJP
【FI】
C25D3/38 101
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-208427(P2014-208427)
(22)【出願日】2014年10月9日
(65)【公開番号】特開2016-79415(P2016-79415A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000197975
【氏名又は名称】石原ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092439
【弁理士】
【氏名又は名称】豊永 博隆
(72)【発明者】
【氏名】川端 愛
(72)【発明者】
【氏名】藤原 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】友松 ゆい
(72)【発明者】
【氏名】中山 公志
【審査官】
萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−125679(JP,A)
【文献】
特開2013−060660(JP,A)
【文献】
特開2014−177705(JP,A)
【文献】
特表2012−510179(JP,A)
【文献】
特開2007−138265(JP,A)
【文献】
特開2005−256120(JP,A)
【文献】
特開2002−047594(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0197038(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性銅塩を2価の銅イオン換算で10〜70g/L、酸又はその塩を10〜300g/Lを含有する電気銅メッキ浴において、
(A)ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(SPS)、ビス(2−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(3−スルホ−2−ヒドロキシプロピル)ジスルフィド、ビス(4−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(p−スルホフェニル)ジスルフィド並びにこれらの塩から選ばれたスルフィド類、メルカプトメタンスルホン酸、メルカプトエタンスルホン酸、メルカプトプロパンスルホン酸(MPS)並びにこれらの塩から選ばれたメルカプタン類、3−(ベンゾチアゾリル−2−チオ)プロパンスルホン酸(ZPS)、3−[(アミノイミノメチル)チオ]−1−プロパンスルホン酸(UPS)、O−エチル−ジエチル炭酸−S−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩から選ばれたチオプロピルスルホン酸類、N,N−ジメチル−ジチオカルバミルプロパンスルホン酸(DPS)、N,N−ジメチル−ジチオカルバミン酸−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩から選ばれたジチオカルバミン酸類から選ばれた含イオウ化合物を50〜10000mg/L含有し、
(B)複素単環式含窒素化合物(但し、ピリジン環を含む化合物は除く)、縮合複素環式含窒素化合物、モノアミン類、ポリアミン類、イミン類から選ばれた含窒素化合物(a)と、ハロゲン基、ハロホルミル基、メシレート基、トシレート基を有するエチレングリコール、プロピレングリコールよりなる重合性モノマー(b)との共重合体からなるレベラーを含有することを特徴とする低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴。
【請求項2】
可溶性銅塩を2価の銅イオン換算で10〜70g/L、酸又はその塩を10〜300g/Lを含有する電気銅メッキ浴において、
(A)ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(SPS)、ビス(2−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(3−スルホ−2−ヒドロキシプロピル)ジスルフィド、ビス(4−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(p−スルホフェニル)ジスルフィド並びにこれらの塩から選ばれたスルフィド類、メルカプトメタンスルホン酸、メルカプトエタンスルホン酸、メルカプトプロパンスルホン酸(MPS)並びにこれらの塩から選ばれたメルカプタン類、3−(ベンゾチアゾリル−2−チオ)プロパンスルホン酸(ZPS)、3−[(アミノイミノメチル)チオ]−1−プロパンスルホン酸(UPS)、O−エチル−ジエチル炭酸−S−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩から選ばれたチオプロピルスルホン酸類、N,N−ジメチル−ジチオカルバミルプロパンスルホン酸(DPS)、N,N−ジメチル−ジチオカルバミン酸−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩から選ばれたジチオカルバミン酸類から選ばれた含イオウ化合物を50〜10000mg/L含有し、
(B)ビピリジル類よりなる含窒素化合物(a)と、塩形成基を有するアルキレングリコールよりなる重合性モノマー(b)とを重合させ、且つ、1モルのビピリジル類(a)に対する重合性モノマー(b)の繰り返し単位が6モル以上である共重合体からなるレベラーを含有することを特徴とする低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴。
【請求項3】
可溶性銅塩を2価の銅イオン換算で10〜70g/L、酸又はその塩を10〜300g/Lを含有する電気銅メッキ浴において、
(A)ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(SPS)、ビス(2−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(3−スルホ−2−ヒドロキシプロピル)ジスルフィド、ビス(4−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(p−スルホフェニル)ジスルフィド並びにこれらの塩から選ばれたスルフィド類、メルカプトメタンスルホン酸、メルカプトエタンスルホン酸、メルカプトプロパンスルホン酸(MPS)並びにこれらの塩から選ばれたメルカプタン類、3−(ベンゾチアゾリル−2−チオ)プロパンスルホン酸(ZPS)、3−[(アミノイミノメチル)チオ]−1−プロパンスルホン酸(UPS)、O−エチル−ジエチル炭酸−S−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩から選ばれたチオプロピルスルホン酸類、N,N−ジメチル−ジチオカルバミルプロパンスルホン酸(DPS)、N,N−ジメチル−ジチオカルバミン酸−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩から選ばれたジチオカルバミン酸類から選ばれた含イオウ化合物を50〜10000mg/L含有し、
(B)ビニルピロリドン類と、ハロゲン基、ハロホルミル基、メシレート基、トシレート基を有するエチレングリコール、プロピレングリコールよりなる重合性モノマーとの共重合体からなるレベラーを含有することを特徴とする低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴。
【請求項4】
レベラー(B)の一方の含窒素化合物(a)のうちの複素単環式含窒素化合物はイミダゾール、イミダゾリンであり、
同じく、成分(a)の縮合複素環式含窒素化合物はベンゾイミダゾール、インドール、ベンゾチアゾールであり、
モノアミン類はアリルアミン、ジアリルアミン、アニリン、ジメチルグリシンであり、
ポリアミン類はエチレンジアミン、トリメチレンジアミンであり、
イミン類はエチレンイミンであることを特徴とする請求項1に記載の低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴。
【請求項5】
塩形成基を有する重合性モノマー(b)は、ハロゲン基、ハロホルミル基、メシレート基、トシレート基を有するエチレングリコール、プロピレングリコールから選ばれた塩形成基を有するアルキレングリコールであることを特徴とする請求項1に記載の低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴。
【請求項6】
塩形成基を有するアルキレングリコール(b)は、ハロゲン基、ハロホルミル基、メシレート基、トシレート基を有するエチレングリコール、プロピレングリコールであることを特徴とする請求項2に記載の低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気銅メッキ浴を用いて、膜厚500μm以下の薄い被メッキ物に反り抑制機能を有する低応力のメッキ皮膜を形成して、被メッキ物と一体化したメッキ皮膜の反りを防止することを特徴とする電気銅メッキ方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気銅メッキ浴を用いて、膜厚0.1μm〜5000μmの反り抑制機能を有する低応力の銅メッキ皮膜を被メッキ物に形成し、反り作用でメッキ皮膜が被メッキ物から剥離するのを防止することを特徴とする電気銅メッキ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴及び電気銅メッキ方法に関して、メッキ後の銅皮膜の反りを防止できるものを提供する。
【背景技術】
【0002】
通常の電気銅メッキでは、メッキ後に皮膜内部に引張応力が働いて時間経過とともに(例えば、1〜2日経過後に)、銅皮膜がメッキの表面側に凹状に反るという現象がある。つまり、バンプやリードなどの基材上のメッキ皮膜の内部で相互に引張応力が働いて皮膜の表面側が長さ方向に収縮するのに対して、皮膜のうちの基材との接触面側は長さが変わらないために、メッキ皮膜がその表面側を上にして凹状に(即ち、下側に(つまり基材に向かって)凸状に)反るという現象が見られる(
図1A参照
;図1Aにおいて、皮膜を中にして「めっき面」の文字を表示する側が皮膜表面側、「めっき面」の反対側が基材側である)。
反りはこの1〜2日の間に経時的に進行した後、定常状態に移行し、それ以上は反らないが、例えば、200μm以下のウエハー、或いはポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂などのフィルムのように薄い基板に銅メッキした場合、経時的に皮膜を形成した基板ごと全体が反ってしまい、メッキ皮膜を介して基板にICなどの各種チップ部品を実装した場合、バンプなどの接合部分が割れるなどの接合不良を起こし、電子部品の信頼性を損なう問題がある。
また、銅メッキ皮膜と被メッキ物との間の密着性が低い場合、メッキ皮膜が反ると皮膜自体が被メッキ物から剥離してしまい、やはり各種チップ部品の実装に際して、電子部品の信頼性を損なうことになる。
【0003】
一般に、電気銅メッキでは、電着皮膜の均一性、平滑性、光沢性を促進するため、レベラー、ブライトナー、ポリマー、塩化物などを添加している。
従って、これらの成分が複合的に作用して銅皮膜の反りに影響していることが考えられるが、電気銅メッキに関連した従来技術を挙げると、次の通りである。
(1)特許文献1
電着促進剤(アミド類、アミノ酸類)を含有せず、光沢剤を含有する予備処理液に被メッキ物を浸漬した後、銅メッキ液で電気銅メッキを行う。
光沢剤としてビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(SPS)、メルカプトプロパンスルホン酸(MPS)、ジチオカルバミン酸類が、N,N−ジメチル−ジチオカルバミルプロパンスルホン酸(DPS)、3−(ベンゾチアゾリル−2−チオ)プロパンスルホン酸(ZPS)などが含まれる。
光沢剤の銅メッキ液での含有量は0.1〜1000ppmである(段落36)。
但し、実施例1の銅メッキ液では、SPS=1mg/L=1ppm、メタアクリルアミド=1g/L、ポリエチレンイミン=3ppmを含有する。
【0004】
(2)特許文献2
電着促進剤(カルボン酸類、環状エーテル類)を含有せず、光沢剤を含有する予備処理液に被メッキ物を浸漬した後、銅メッキ液で電気銅メッキを行う。
光沢剤としてSPS、MPS、DPS、ZPSなどが含まれる。
光沢剤の銅メッキ液での含有量は0.1〜1000ppmである(段落36)。
例えば、実施例14の銅メッキ液では、MPS=1mg/L=1ppm、ポリエチレンイミン=3mg/L=3ppmを含有する。
【0005】
(3)特許文献3
フェナントロリンジオン類を含有する点に特徴がある電気銅メッキ浴である。
光沢剤としてSPS、MPS、DPS、ZPSなどが含まれる。
光沢剤の銅メッキ液での含有量は0.02〜200ppmである(段落24)。
但し、実施例1の銅メッキ液では、SPS=10mg/L=10ppm、ポリビニルイミダゾール=10ppmを含有する。
【0006】
(4)特許文献4
ブライトナーが添加された水溶液中に、銅皮膜が形成された基板を浸漬するビアフィリングメッキ方法である。ブライトナー(メッキ促進剤)としてSPSやMPSが挙げられ、水溶液中の含有量は数ppmから数%である(段落14)。
【0007】
(5)特許文献5
電気銅メッキ方法に関して、ブライトナー(メッキ促進剤)としてSPSが挙げられ、メッキ液中の含有量は数0.001〜10g/L(10〜10000ppm)である(段落13)。
【0008】
(6)特許文献6
電気銅メッキ液に関して、ブライトナーとしてSPSやMPSなどが挙げられるが、含有量の開示はない(段落47)。
【0009】
(7)特許文献7
酸性銅電気メッキ用溶液に関して、ブライトナーとしてSPSやMPSなどが挙げられ、メッキ液中の含有量は約5〜100ppmである(段落15、25)。実施例でのMPSの濃度は12ppmである(段落31)。
【0010】
(8)特許文献8
ポリオキシアルキレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコールなどの抑制剤、MPS、SPS、DPS、UPSなどの促進剤を含む銅メッキ液で電気メッキをして、低内部応力の銅皮膜を形成する方法である(請求項1〜6、表1)。
実施例1では、MPS(塩)とSPS(塩)とポリオキシアルキレングリコールとポリエチレングリコールを含有する銅メッキ浴(浴2〜4)が記載され、MPS(塩)とSPS(塩)の合計濃度は5〜9ppmである。
【0011】
(9)特許文献9
ジピリジル化合物とアルキル化剤の反応生成物である4級ジピリジル塩化合物からなるレベラー化合物を含有する銅メッキ浴を基板に適用して、ボイドの発生を抑えてメッキ不良を改善できる銅フィリング方法である(請求項1〜42、段落22〜23)。
上記ジピリジル化合物は、例えば、ピリジン環同士が炭素−炭素で直接結合し、或いは、エチレン基を介して結合したピリジン誘導体などである(請求項6、段落26)。
上記アルキル化剤は2−クロロエチルエーテル、塩化ベンジル、2−(2−クロロトキシ)エタノール、クロロエタノール、ジクロロヘキサン、グリコール結合を有する化合物などである(請求項20、段落39、46、55)。
実施例1では、可溶性銅塩と、硫酸と、塩素イオンと、電着促進剤と、電着抑制剤と、ピリジン環同士がエチレン基を介して結合したピリジン誘導体を2−クロロエチルエーテルでアルキル化したレベラー化合物とを含有する銅メッキ浴が開示されている(段落124)。
【0012】
【特許文献1】特開2013−044007号公報
【特許文献2】特開2013−044035号公報
【特許文献3】特開2013−053336号公報
【特許文献4】特開2001−291954号公報
【特許文献5】特開2000−219994号公報
【特許文献6】特表2005−535787号公報
【特許文献7】特開2001−073182号公報
【特許文献8】特開2013−060660号公報
【特許文献9】特表2012−510179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
引用文献1〜7に示す電気銅メッキ液、或いは、予備処理を含む電気銅メッキ方法にあっては、得られた銅の電着皮膜は時間経過に伴って引張応力が働いて、メッキ表面に向けて上側に反ってしまい(
図1A参照)、基板への各種チップ部品の装填の信頼性を確保するのが容易でないという実情がある。特許文献8についても同様である。
本発明は、銅メッキに際してメッキ皮膜が経時的に反るのを防止することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記特許文献1〜7に記載されているSPS、MPS、DPS、ZPSなどの含イオウ化合物、或いは銅メッキ浴への添加剤として用いられるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリマーなどの含有と、形成された銅の電着皮膜の反りとの関係を鋭意研究した。
その結果、上記含イオウ化合物を特定濃度で含有するとともに、
(1)ベンズイミダゾール、イミダゾリンなどの特定の含窒素化合物と重合性の塩形成剤との共重合体、
(2)ビピリジルに塩形成基を有するアルキレンオキシドを所定以上の付加モル数で重合した共重合体、
(3)ポリビニルピロリドン
の少なくともいずれかを銅メッキ浴に共存させると、得られる銅の電着皮膜の反りを抑制できることを見い出し、本発明を完成した。
【0015】
本発明1は、可溶性銅塩を2価の銅イオン換算で10〜70g/L、酸又はその塩を10〜300g/Lを含有する電気銅メッキ浴において、
(A)ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(SPS)、ビス(2−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(3−
スルホ−2−ヒドロキシプロピル)ジスルフィド、ビス(4−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(p−スルホフェニル)ジスルフィド並びにこれらの塩から選ばれたスルフィド類、メルカプトメタンスルホン酸、メルカプトエタンスルホン酸、メルカプトプロパンスルホン酸(MPS)並びにこれらの塩から選ばれたメルカプタン類、3−(ベンゾチアゾリル−2−チオ)プロパンスルホン酸(ZPS)、3−[(アミノイミノメチル)チオ]−1−プロパンスルホン酸(UPS)、O−エチル−ジエチル炭酸−S−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩から選ばれたチオプロピルスルホン酸類、N,N−ジメチル−ジチオカルバミルプロパンスルホン酸(DPS)、N,N−ジメチル−ジチオカルバミン酸−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩から選ばれたジチオカルバミン酸類から選ばれた含イオウ化合物を50〜10000mg/L含有し、
(B)複素単環式含窒素化合物(但し、ピリジン環を含む化合物は除く)、縮合複素環式含窒素化合物、モノアミン類、ポリアミン類、イミン類から選ばれた含窒素化合物(a)と、ハロゲン基、ハロホルミル基、メシレート基、トシレート基を有する
エチレングリコール、プロピレングリコールよりなる重合性モノマー(b)との共重合体からなるレベラーを含有することを特徴とする低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴である。
【0016】
本発明2は、可溶性銅塩を2価の銅イオン換算で10〜70g/L、酸又はその塩を10〜300g/Lを含有する電気銅メッキ浴において、
(A)ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(SPS)、ビス(2−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(3−
スルホ−2−ヒドロキシプロピル)ジスルフィド、ビス(4−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(p−スルホフェニル)ジスルフィド並びにこれらの塩から選ばれたスルフィド類、メルカプトメタンスルホン酸、メルカプトエタンスルホン酸、メルカプトプロパンスルホン酸(MPS)並びにこれらの塩から選ばれたメルカプタン類、3−(ベンゾチアゾリル−2−チオ)プロパンスルホン酸(ZPS)、3−[(アミノイミノメチル)チオ]−1−プロパンスルホン酸(UPS)、O−エチル−ジエチル炭酸−S−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩から選ばれたチオプロピルスルホン酸類、N,N−ジメチル−ジチオカルバミルプロパンスルホン酸(DPS)、N,N−ジメチル−ジチオカルバミン酸−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩から選ばれたジチオカルバミン酸類から選ばれた含イオウ化合物を50〜10000mg/L含有し、
(B)ビピリジル類よりなる含窒素化合物(a)と、塩形成基を有するアルキレングリコールよりなる重合性モノマー(b)とを重合させ、且つ、1モルのビピリジル類(a)に対する重合性モノマー(b)の繰り返し単位が6モル以上である共重合体からなるレベラーを含有することを特徴とする低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴である。
【0017】
本発明3は、 可溶性銅塩を2価の銅イオン換算で10〜70g/L、酸又はその塩を10〜300g/Lを含有する電気銅メッキ浴において、
(A)ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(SPS)、ビス(2−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(3−
スルホ−2−ヒドロキシプロピル)ジスルフィド、ビス(4−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(p−スルホフェニル)ジスルフィド並びにこれらの塩から選ばれたスルフィド類、メルカプトメタンスルホン酸、メルカプトエタンスルホン酸、メルカプトプロパンスルホン酸(MPS)並びにこれらの塩から選ばれたメルカプタン類、3−(ベンゾチアゾリル−2−チオ)プロパンスルホン酸(ZPS)、3−[(アミノイミノメチル)チオ]−1−プロパンスルホン酸(UPS)、O−エチル−ジエチル炭酸−S−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩から選ばれたチオプロピルスルホン酸類、N,N−ジメチル−ジチオカルバミルプロパンスルホン酸(DPS)、N,N−ジメチル−ジチオカルバミン酸−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩から選ばれたジチオカルバミン酸類から選ばれた含イオウ化合物を50〜10000mg/L含有し、
(B)
ビニルピロリドン類と、ハロゲン基、ハロホルミル基、メシレート基、トシレート基を有するエチレングリコール、プロピレングリコールよりなる重合性モノマーとの共重合体からなるレベラーを含有することを特徴とする低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴である。
【0018】
本発明4は、上記
本発明1において、レベラー(B)の一方の含窒素化合物(a)のうちの複素単環式含窒素化合物はイミダゾール、イミダゾリンであり、
同じく、成分(a)の縮合複素環式含窒素化合物はベンゾイミダゾール、インドール、ベンゾチアゾールであり、
モノアミン類はアリルアミン、ジアリルアミン、アニリン、ジメチルグリシンであり、
ポリアミン類はエチレンジアミン、トリメチレンジアミンであり、
イミン類は
エチレンイミンであることを特徴とする低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴である。
【0019】
本発明5は、上記
本発明1において、
塩形成基を有する重合性モノマー(b)は、ハロゲン基、ハロホルミル基、メシレート基、トシレート基を有するエチレングリコール、プロピレングリコールから選ばれた塩形成基を有するアルキレングリコールであることを特徴とする低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴である。
【0020】
本発明6は、上記本発明2において、塩形成基を有するアルキレングリコール(b)は、ハロゲン基、ハロホルミル基、メシレート基、トシレート基を有するエチレングリコール、プロピレングリコールであることを特徴とする低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴である。
【0022】
本発明7は、上記本発明1〜6のいずれかの電気銅メッキ浴を用いて、
膜厚500μm以下の薄い被メッキ物に反り抑制機能を有する低応力のメッキ皮膜を形成して、被メッキ物と一体化したメッキ皮膜の反りを防止することを特徴とする電気銅メッキ方法である。
【0023】
本発明8は、上記本発明1〜6のいずれかの電気銅メッキ浴を用いて、
膜厚0.1μm〜5000μmの反り抑制機能を有する低応力の銅メッキ皮膜を被メッキ物に形成し、反り作用でメッキ皮膜が被メッキ物から剥離するのを防止することを特徴とする電気銅メッキ方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の電気銅メッキ浴では、特定の含イオウ化合物(A)と、特定の含窒素化合物と重合性の塩形成剤との共重合体、或いは、ビピリジルに塩形成基を有するアルキレンオキシドを所定以上のモル数で付加した共重合体、或いは、ポリビニルピロリドンからなるレベラー(B)とを共存させるので、得られた銅の電着皮膜は経時的に反りを起こすことはない。
即ち、本発明の銅メッキ浴で形成したメッキ皮膜の内部応力は、ストリップ電着応力試験において概ね0〜−30Mpaの圧縮応力を示すため(
図1B参照)、時間経過とともに銅メッキ皮膜に働く引張応力(
図1A参照)により反ろうとしても、この圧縮応力が引張応力に抗して0Mpaに近づくため、経時的にほぼ反りのない皮膜を形成できる。
従って、本発明の銅メッキ浴を用いて薄い被メッキ物に電気メッキをしても、或いは、密着性が低い被メッキ物に対して電気メッキをしても、共に電気メッキ後の銅皮膜の反りを防止でき、もって電子部品の信頼性を高めることができる。
このため、本発明の銅メッキ浴の用途としては、低応力を要する微細配線回路の形成、或いはビアフィリングなどに好適である。
【0025】
上記特許文献9では、ジピリジル化合物とアルキル化剤を反応させたレベラー化合物を含む銅メッキ浴を用いてビア構造に銅充填し、ボイド形成を抑制してメッキ不良をなくすることが開示される(請求項1、段落22〜23)。
同文献9で用いるアルキル化剤には一般式(IIIb)で表されるアルキル化剤を含むが(請求項20、段落46)、上記一般式(IIIb)のアルキル化剤がグリコール結合を有する化合物の場合、メチレン基(結合数は0〜6個)に挟まれた原子団Bはグリコール結合となり、その付加数は1〜4モルである(段落46)。
これに対して、本発明2のビピリジルと塩形成基を有するアルキレングリコール(=重合性モノマー)との共重合体からなるレベラーでは、ビピリジル1モルに対するアルキレングリコールの付加モル数は6以上であり、上記特許文献9のグリコール結合の付加数1〜4を越えている。
メッキ浴から得られる電着銅皮膜に作用する応力の低減を課題とする場合、レベラーがビピリジル共重合体であると、当該共重合体におけるグリコール結合数が皮膜の応力に関係し、特許文献9のようにグリコール結合の付加数が少ないと皮膜応力の低減は望めないが、本発明2のようにアルキレングリコールの付加数を所定以上に増すと、低応力の銅皮膜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、第一に、
SPSなどの所定の含イオウ化合物(A)を所定濃度で含有し、
複素単環式含窒素化合物(但し、ピリジン環を含む化合物は除く)などの所定の含窒素化合物(a)と
、ハロゲン基、ハロホルミル基などの塩形成基を有する重合性モノマー(b)との共重合体からなるレベラー(B)を共存させた電気銅メッキ浴であり、第二に、上記レベラー(B)をビピリジルに塩形成基を有する
アルキレングリコールよりなる重合性モノマーを所定以上のモル数で付加した共重合体で代替した電気銅メッキ浴であり、第三に、同じく上記レベラー(B)を
ビニルピロリドン類のホモポリマー、ビニルピロリドン類に親水性モノマーなどを重合した共重合体から選ばれたポリビニルピロリドンで代替した電気銅メッキ浴であり、第四に、上記銅メッキ浴を用いて所定の薄い被メッキ物に電気銅メッキする方法であり、第五に、銅皮膜と被メッキ物との密着性が低い場合において、上記銅メッキ浴を用いて当該被メッキ物に電気銅メッキする方法である。
【0027】
本発明1の電気銅メッキ浴は可溶性銅塩と、酸又はその塩と、特定の含イオウ化合物(A)と、特定のレベラー(B)とを含有することを特徴とする。
電気銅メッキ浴に添加する可溶性銅塩は、水溶液中で銅イオンを発生させる可溶性の塩であれば任意のものが使用でき、特段の制限はなく、難溶性塩も排除されない。具体的には、硫酸銅、酸化銅、水酸化銅、塩化銅、 硝酸銅、 炭酸銅、酢酸銅、シュウ酸銅などが挙げられ、 酸化銅、硝酸銅、酸化銅、水酸化銅が好ましい。 可溶性銅塩のメッキ浴に対する含有量は 2価の銅イオン換算で10〜70g/Lであり、好ましくは30〜60g/Lである。
また、電気銅メッキ浴のベースとなる酸には、硫酸、塩酸、シュウ酸、酢酸などの通常の銅メッキ浴で汎用される酸が使用でき、有機スルホン酸やオキシカルボン酸などの有機酸を使用することもできる。
ベース酸の塩はアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などである。
酸又はその塩のメッキ浴に対する含有量は 10〜300g/Lであり、好ましくは30〜150g/Lである。
【0028】
本発明1の電気銅メッキ浴に含有する上記含イオウ化合物(A)は、スルフィド類、メルカプタン類、チオプロピルスルホン酸類、ジチオカルバミン酸類から選ばれれる。
上記スルフィド類は、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(SPS)、ビス(2−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(3−
スルホ−2−ヒドロキシプロピル)ジスルフィド、ビス(4−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(p−スルホフェニル)ジスルフィド並びにこれらの塩などである。
上記メルカプタン類は、メルカプトメタンスルホン酸、メルカプトエタンスルホン酸、メルカプトプロパンスルホン酸(MPS)並びにこれらの塩などである。
上記チオプロピルスルホン酸類は、3−(ベンゾチアゾリル−2−チオ)プロパンスルホン酸(ZPS)、3−[(アミノイミノメチル)チオ]−1−プロパンスルホン酸(UPS)、O−エチル−ジエチル炭酸−S−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩などである。
上記ジチオカルバミン酸類は、N,N−ジメチル−ジチオカルバミルプロパンスルホン酸(DPS)、N,N−ジメチル−ジチオカルバミン酸−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩などである。
上記含イオウ化合物は単用又は併用でき、電気銅メッキ浴に対する含有量は50〜10000mg/Lであり、好ましくは50〜1500mg/L、より好ましくは50〜1000mg/Lである。
含イオウ化合物が適正範囲より少ないと銅メッキ皮膜に低応力の性質を付与できず、適正範囲より多いと低応力は維持できる反面、皮膜の抵抗値が増し、皮膜が粗くなり、或いは脆くなって、皮膜物性が低下する。
【0029】
本発明1の電気銅メッキ浴に含有する上記レベラー(B)は、特定の含窒素化合物(a)に
塩形成基を有する重合性モノマー(b)を共重合させたものである。
レベラー(B)の一方の含窒素化合物(a)は、複素単環式含窒素化合物、縮合複素環式含窒素化合物、モノアミン類、
ポリアミン類、イミン類から選ばれる。
上記含窒素化合物(a)のうちの単環式含窒素化合物はイミダゾール、イミダゾリンなどであるが、ピリジン環を含む化合物、例えば、ピリジン類、ビピリジル類などば排除される。
同じく、上記縮合複素環式含窒素化合物はベンゾイミダゾール、インドール、ベンゾチアゾールなどである。
上記モノアミン類はアリルアミン、ジアリルアミン、アニリン、ジメチルグリシンなどであり、上記ポリアミン類はエチレンジアミン、トリメチレンジアミンなどである。
上記イミン類はエチレンイミンなどである。
上記各種の化合物において、例えば、イミダゾリンは、イミダゾリン単体だけではなく、イミダゾリン環にハロゲン、アルキル基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基などの置換基が1ないし複数結合したイミダゾリンの誘導体を包含する概念であり、他の化合物も同様である。
【0030】
上記レベラー(B)の他方の
塩形成基を有する重合性モノマー(b)は、含窒素化合物(a)と重合反応をするとともに、含窒素化合物(a)の3級化又は4級化剤でもあり、ハロゲン基、ハロホルミル基、メシレート基、トシレート基を有するアルカン誘導体、アルケン誘導体、アルキン誘導体である。
例えば、ハロゲン基を有するアルカン誘導体は、クロロエチルエーテル、クロロエタノール、1,2−ジクロロエタン、1,5−ジクロロペンタン、1,6−ジクロロヘキサン、1,8−ジクロロオクタン、ビス(ブロモエチル)エーテル、1,5−ジブロモペンタン、1,6−ジブロモヘキサン、1,8−ジブロモオクタンなどであり、ハロゲン基を有するアルケン誘導体は、クロロ基、ブロモ基を有する(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコールなどである。尚、(ポリ)エチレングリコールはエチレングリコール、及び、ジ、トリなどのポリエチレングリコールの両方を包含する概念である。
【0031】
一方、本発明2は、上記本発明1の
含イオウ化合物(A)とレベラー(B)のうち、当該レベラー(B)
として、ビピリジル類(a)と塩形成基を有するアルキレングリコールよりなる重合性モノマー(b)との共重合体、つまり特定のビピリジル共重合体を用いたものである。
上記ビピリジル類(a)はビピリジル及びその誘導体を包含する。ビピリジル誘導体は2個のピリジン環同士が直接C−C結合したもの、或いは(ポリ)メチレン基を介して結合したものなどをいう。
塩形成基を有するアルキレングリコール(b)は、ハロゲン基、ハロホルミル基、メシレート基、トシレート基を有するエチレングリコール、プロピレングリコールである。
この場合、1モルのビピリジル類(a)に対する上記重合性モノマー(b)の付加数は6モル以上であることが必要である。好ましい付加数は6〜30モルであり、より好ましくは6〜20モルである。
後述の試験例に示すように、重合性モノマーの付加数が適正以上でないと、得られた銅皮膜に低応力の性状を付与することが不充分となる。
【0032】
次いで、上記本発明1の含イオウ化合物(A)とレベラー(B)のうち、当該レベラー(B)にポリビニルピロリドン
を用いることができる。
上記ポリビニルピロリドンはビニルピロリドン類のホモポリマー、ビニルピロリドン類と他の重合性モノマー(例えば、親水性ポリマー)のコポリマーであって、平均分子量10,000以上のものが好ましく、より好ましくは平均分子量10,000〜1,300,000である。
上記ビニルピロリドン類はN−ビニル−2−ピロリドン、5員環にアルキル基、ハロゲンなどの置換基が結合したN−ビニル−2−ピロリドンなどを包含する。
ビニルピロリドンは水溶性であるため、コポリマーで用いる他の重合性モノマーは、親水性モノマー及び/又は疎水性モノマーを選択できる。
親水性モノマーとしては、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール、アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、フマル酸、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸などである。尚、(メタ)アクリル酸はアクリル酸、メタクリル酸を包含する概念である。
同じく、疎水性モノマーはスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−クロルスチレンなどのスチレン類、(メタ)アクリル酸エステルなどである。
上記(メタ)アクリル酸エステルは、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどである。
【0033】
上記ポリビニルピロリドンは、ビニルピロリドン類の重合体、或いはさらに他の重合性モノマーとの共重合体であるが、この重合反応と共に、ピロリドン環の窒素原子を塩形成(=4級化)することもできる。
即ち、ビニルピロリドン類と他の重合性モノマーのコポリマーの場合、他の重合性モノマーとして、
例えば、本発明1のハロゲン基、ハロホルミル基、メシレート基、トシレート基を有するエチレングリコール、プロピレングリコールよりなる重合性モノマー、或いは本発明2の塩形成基を有するアルキレングリコールを選択すると、ビニルピロリドン類の重合と塩形成(=4級化)を同時に達成できる。
従って、4級化されたポリビニルピロリドンを例示すると、ビニルピロリドン類と、1,6−ジクロロヘキサン、1,8−ジクロロオクタン、1,6−ジブロモヘキサン、クロロ基、ブロモ基を有する(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコールなどから選ばれた重合性モノマーとを反応させた共重合体である。
以上、レベラー(B)として使用できる
ポリビニルピロリドンを詳述したが、本発明3は、前記請求項1のレベラー(B)に替えて、このポリビニルピロリドンのうち、ビニルピロリドン類と、ハロゲン基、ハロホルミル基、メシレート基、トシレート基を有するエチレングリコール、プロピレングリコールよりなる重合性モノマーとの共重合体をレベラー(B)として選択したものである。
【0034】
本発明1〜3において、電気銅メッキ浴に対するレベラー(B)の含有量は1〜1000mg/Lが適しており、5〜800mg/Lが好ましく、より好ましくは5〜500mg/Lである。
含有量が適正範囲より少ないと皮膜に低応力の物性を付与できなくなり、逆に、1000mg/Lより多いと銅皮膜の純度が低下して、皮膜の伸び率などの物性が低下する恐れがある。
また、本発明においては、当然に、本発明1〜3の各レベラーを銅メッキ浴に単用しても良いし、本発明1〜3のレベラーを併用することもできる。
【0035】
本発明の電気銅メッキ浴では、光沢作用や平滑化作用などを促進するため、レベラー、ブライトナー、塩化物、ポリマー成分などの公知の各種添加剤を含有することができる。
但し、塩化物については、所定濃度以上の塩素は銅皮膜の反りを促進するため、メッキ浴への含有量は少ないか、ゼロに調整することが好ましい(特開2014−125679号公報の段落7参照)。
上記レベラーは界面活性剤や染料を主とする窒素系有機化合物などである。
この界面活性剤には、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン系界面活性剤、或はアニオン系界面活性剤を単用又は併用できる。
上記ノニオン系界面活性剤としては、ポリエチレングリコール(以下、PEGという)、ポリプロピレングリコールを初め、C1〜C20アルカノール、フェノール、ナフトール、ビスフェノール類、(ポリ)C1〜C25アルキルフェノール、(ポリ)アリールアルキルフェノール、C1〜C25アルキルナフトール、C1〜C25アルコキシル化リン酸(塩)、ソルビタンエステル、ポリアルキレングリコール、C1〜C22脂肪族アミン、C1〜C22脂肪族アミドなどにエチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)を2〜300モル付加縮合させたものや、C1〜C25アルコキシル化リン酸(塩)などが挙げられる。
上記カチオン系界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩、或はピリジニウム塩などが挙げられ、具体的には、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、ラウリルジメチルエチルアンモニウム塩、オクタデシルジメチルエチルアンモニウム塩、ジメチルベンジルラウリルアンモニウム塩、セチルジメチルベンジルアンモニウム塩、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム塩、トリメチルベンジルアンモニウム塩、トリエチルベンジルアンモニウム塩、ジメチルジフェニルアンモニウム塩、ベンジルジメチルフェニルアンモニウム塩、ヘキサデシルピリジニウム塩、ラウリルピリジニウム塩、ドデシルピリジニウム塩、ステアリルアミンアセテート、ラウリルアミンアセテート、オクタデシルアミンアセテートなどが挙げられる。
上記アニオン系界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、{(モノ、ジ、トリ)アルキル}ナフタレンスルホン酸塩などが挙げられる。 上記両性界面活性剤としては、カルボキシベタイン、イミダゾリンベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸などが挙げられる。また、エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドとアルキルアミン又はジアミンとの縮合生成物の硫酸化、或はスルホン酸化付加物も使用できる。
【0036】
上記染料を主とする窒素系有機化合物は、染料或はその誘導体を初め、アミド系化合物、チオアミド系化合物、アニリン又はピリジン環を有する化合物、各種複素単環式化合物、各種縮合複素環式化合物、アミノカルボン酸類などである。
具体例としては、C.I.(Color Index)ベーシックレッド2、トルイジンブルーなどのトルイジン系染料、C.I.ダイレクトイエロー1、C.I.ベーシックブラック2などのアゾ系染料、3−アミノ−6−ジメチルアミノ−2−メチルフェナジン一塩酸などのフェナジン系染料、コハク酸イミド、2′−ビス(2−イミダゾリン)などのイミダゾリン類、イミダゾール類、ベンゾイミダゾール類、インドール類、2−ビニルピリジン、4−アセチルピリジン、4−メルカプト−2−カルボキシルピリジン、2,2′−ビピリジル、4,4′−ビピリジル、フェナントロリンなどのピリジン類、キノリン類、イソキノリン類、アニリン、チオ尿素、ジメチルチオ尿素などのチオ尿素類、3,3′,3′′−ニトリロ三プロピオン酸、ジアミノメチレンアミノ酢酸、グリシン、N−メチルグリシン、ジメチルグリシン、β−アラニン、システイン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アミノ吉草酸、オルニチンなどが挙げられる。好ましい例は、C.I.ベーシックレッド2、ヤヌスグリーンB、トルイジンブルー、コハク酸イミドが挙げられる。
上記ブライトナーは、チオ尿素又はその誘導体、2−メルカプトベンゾイミダゾール、チオグリコール酸などのメルカプタン類、2,2′−チオジグリコール酸、ジエチルスルフィドなどのスルフィド類、3−メルカプトプロパン−1−スルホン酸ナトリウム、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(2ナトリウム塩)などのメルカプトスルホン酸類などである。
上記ポリマー成分は、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ステアリン酸−ポリエチレングリコールエステル、ポリエチレン−プロピレングリコールなどがある。
但し、本発明の電気銅メッキ浴にあっては、上記各種添加剤が銅皮膜の反りに関係することも考えられるので、成分の選択、濃度には注意を要する。
本発明の電気銅メッキ浴は 酸性浴が基本であるが、pHの特段の限定はない。
【0037】
本発明の電気銅メッキ方法のうち、第一の方法は、上記電気銅メッキ浴を用いて、
膜厚500μm以下の薄い被メッキ物に反り抑制機能を有する低応力のメッキ皮膜を形成するものである。
即ち、薄い被メッキ物に銅皮膜を電気メッキで形成すると、従来では、メッキ皮膜の反り応力が薄い被メッキ物にも影響し、メッキ皮膜と被メッキ物は一体で反るため、チップ部品を搭載した半導体基板などの電子部品の信頼性を損なう問題があったが、本発明の第一の電気銅メッキ方法では、反り抑制機能を有する低応力のメッキ皮膜を形成することで、被メッキ物と一体化したメッキ皮膜の反りを防止して、電子部品の信頼性を向上できる。
上記被メッキ物は、フレキシブル又はリジッド回路基板、フレキシブル回路アンテナ、RFIDタグ、電解箔、太陽電池、光起電力素子、半導体ウエハー、電磁シールドなどである。
被メッキ物の厚みは300μm以下が好ましく、さらに好ましくは1〜200μmである。
【0038】
本発明の第二の電気銅メッキ方法は、電着皮膜と被メッキ物の間の密着性が低く、電着皮膜自体が被メッキ物から剥離して反るリスクのある場合に適用される。
即ち、第二の方法は、本発明の電気銅メッキ浴を用いて、
膜厚0.1μm〜5000μmの反り抑制機能を有する低応力の銅メッキ皮膜を被メッキ物に形成する方法である。
メッキ皮膜が薄いと反りの力は弱くなって被メッキ物に沿い、密着性が低い場合でも剥離は起り難いため、この第二の方法は、被メッキ物に形成する銅皮膜の膜厚はある程度厚いことが前提となり、0.1μm〜5000μmであり、好ましくは0.5〜200μm、より好ましくは1〜100μmである。
但し、上記膜厚範囲では、例えば、下限の0.1μmの膜厚では薄いように見えるが、被メッキ物との関係で、皮膜が反った場合に被メッキ物から剥離するリスクはある。
当該第二の方法では、反り抑制機能を有する低応力のメッキ皮膜を形成することで、反り
抑制作用でメッキ皮膜が被メッキ物から剥離することを防止して、電子部品の信頼性を向上できる。
【0039】
上記電気銅メッキ浴のpHは基本的に酸性であり、pH1〜7、好ましくはpH1〜5、より好ましくは2未満である。
本発明の電気銅メッキ浴を用いたメッキ条件には特段の制限はなく、浴温は10〜70℃、陰極電流密度は0.1〜50A/dm2、好ましくは5〜40A/dm2である。また、 陽極は銅(合金)を材質とする可溶性陽極でも良いし、白金又はカーボンなどを材質とする不溶性陽極でも良い。
電気メッキで形成される皮膜の膜厚は一般に5〜50μm程度である。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の電気銅メッキ浴の実施例、実施例の銅浴から得られる銅メッキ皮膜の経時的な反りを測定する電着応力評価試験例を順次説明する。
上記実施例、試験例の「部」、「%」は基本的に重量基準である。
尚、本発明は下記の実施例、試験例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0041】
《電気銅メッキ浴の実施例》
下記の実施例1〜15のうち、実施例1は含イオウ化合物がZPSであり、レベラーがベンゾイミダゾール共重合体の例であり、実施例2〜15は実施例1を基本としてその変形例である。但し、実施例1〜2は可溶性銅塩が酸化銅、他の実施例は硫酸銅である。
即ち、実施例2は実施例1を基本として、含イオウ化合物をUPSに変更した例、実施例3は同じく含イオウ化合物をSPSに変更した例、実施例4は含イオウ化合物をMPSに変更した例、実施例5は含イオウ化合物をDPSに変更した例、実施例6はレベラーをイミダゾリン誘導体の共重合体に変更した例、実施例7は含イオウ化合物としてのZPSの含有量を減量した例、実施例8は逆にZPSの含有量を増量した例、実施例9はレベラーとしてのベンゾイミダゾール共重合体の含有量を減量した例、実施例10は可溶性銅塩の含有量を減量し、酸を増量した例、実施例11はレベラーをジアリルアミン共重合体に変更した例、実施例12はレベラーをポリビニルピロリドンに変更した例、実施例13はレベラーをエチレンジアミン共重合体に変更した例、実施例14はレベラーをエチレンイミン共重合体に変更した例、実施例15はレベラーをビピリジル共重合体に変更した例である。
【0042】
一方、比較例1〜7のうち、比較例1は適正含有量より少ない含イオウ化合物と本発明のレベラーを共存させた例、比較例2は本発明の含イオウ化合物と本発明で規定したレベラー以外の一般的な染料を併用した例である。
比較例3は本発明の含イオウ化合物と銅メッキ浴に汎用される一般的なポリマー成分を併用した例であり、いわば冒述の特許文献8に準拠した例である。
比較例4は本発明で規定される以外の含イオウ化合物と本発明のレベラーを使用した例、比較例5は本発明の含イオウ化合物と本発明で規定したレベラー以外の一般的な染料を併用した例、比較例6は含イオウ化合物に加えて銅メッキ浴に汎用されるポリマー成分と染料とを併用した一般的な電気銅メッキ浴の例である。
比較例7は上記実施例15のレベラーである特定のビピリジル共重合体を、ビピリジル1モルにブロム基を有するエチレングリコールを2モル付加したビピリジル共重合体で代替したもので、いわば冒述の特許文献9に準拠した例である。
【0043】
(1)実施例1
(イ)レベラーの製造例1
温度計、ジムロート還流管、撹拌機を取り付けた2L四つ口フラスコに、ベンゾイミダゾール1モルと、Biochim.Biophys.Acta,222,381(1970)に開示された方法で合成した平均分子量700のジブロモ−ポリ(エチレングリコール)(=
塩形成基を有する重合性モノマー)1モル、ジメチルスルホキシド1500mLを投入し、系内を窒素置換後、内温80℃で5時間反応させて、ベンゾイミダゾール共重合体を合成した。
(ロ)電気銅メッキ浴の調製例
上記製造例1のベンゾイミダゾール共重合体を用いて、下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
酸化銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
製造例1のベンゾイミダゾール共重合体 10mg/L
pH<1
【0044】
(2)実施例2
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
酸化銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
UPS 100mg/L
製造例1のベンゾイミダゾール共重合体 10mg/L
pH<1
【0045】
(3)実施例3
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
SPS 100mg/L
製造例1のベンゾイミダゾール共重合体 10mg/L
pH<1
【0046】
(4)実施例4
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
MPS 100mg/L
製造例1のベンゾイミダゾール共重合体 10mg/L
pH<1
【0047】
(5)実施例5
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
DPS 100mg/L
製造例1のベンゾイミダゾール共重合体 10mg/L
pH<1
【0048】
(6)実施例6
(イ)レベラーの製造例2
温度計、ジムロート還流管、撹拌機を取り付けた2L四つ口フラスコに、2−メチルイミダゾリン1モルとBiochim.Biophys.Acta,222,381(1970)に開示された方法で合成した平均分子量200のジブロモ−ポリ(プロピレングリコール)1モル、1‐ブタノール500mLを投入し、系内を窒素置換後、内温80℃で3時間反応させ、2−メチルイミダゾリン共重合体を合成した。
(ロ)電気銅メッキ浴の調製例
上記製造例2の2−メチルイミダゾリン共重合体を用いて、下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 0mg/L
ZPS 100mg/L
製造例2の2−メチルイミダゾリン共重合体 10mg/L
pH<1
【0049】
(7)実施例7
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 50mg/L
製造例1のベンゾイミダゾール共重合体 10mg/L
pH<1
【0050】
(8)実施例8
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 1000mg/L
製造例1のベンゾイミダゾール共重合体 10mg/L
pH<1
【0051】
(9)実施例9
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
製造例1のベンゾイミダゾール共重合体 1mg/L
pH<1
【0052】
(10)実施例10
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 30g/L
硫酸(98%) 200g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
製造例1のベンゾイミダゾール共重合体 10mg/L
pH<1
【0053】
(11)実施例11
(イ)レベラーの製造例3
上記製造例1の製造条件を基本として、ジアリルアミン1モルと製造例1で用いた
塩形成基を有する重合性モノマー1モルを反応させて、ジアリルアミン共重合体を合成した。
(ロ)電気銅メッキ浴の調製例
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
製造例3のジアリルアミン共重合体 10mg/L
pH<1
【0054】
(12)実施例12
(イ)レベラーの製造例4
上記製造例1の製造条件を基本として、ビニルピロリドン1モルと製造例1で用いた
塩形成基を有する重合性モノマー1モルを反応させて、ビニルピロリドンポリマーを合成した。
(ロ)電気銅メッキ浴の調製例
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
製造例4のビニルピロリドンポリマー 10mg/L
pH<1
上記ビニルピロリドンポリマーの平均分子量は1,200,000である。
【0055】
(13)実施例13
(イ)レベラーの製造例5
上記製造例1の製造条件を基本として、エチレンジアミン1モルと製造例1で用いた
塩形成基を有する重合性モノマー1モルを反応させて、エチレンジアミン共重合体を合成した。
(ロ)電気銅メッキ浴の調製例
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
製造例5のエチレンジアミン共重合体 10mg/L
pH<1
【0056】
(14)実施例14
(イ)レベラーの製造例6
上記製造例1の製造条件を基本として、エチレンイミン1モルと製造例1で用いた
塩形成基を有する重合性モノマー1モルを反応させて、エチレンイミン共重合体を合成した。
(ロ)電気銅メッキ浴の調製例
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
製造例6のエチレンイミン共重合体 10mg/L
pH<1
【0057】
(15)実施例15
(イ)レベラーの製造例7
上記製造例1の製造条件を基本として、ビピリジル1モルと製造例1で用いた
塩形成基を有する重合性モノマー1モルを反応させて、ビピリジル共重合体を合成した。
上記ビピリジル共重合体において、ビピリジル1モルに対するエチレングリコール誘導体の平均付加モル数は14である。
(ロ)電気銅メッキ浴の調製例
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
製造例7のビピリジル共重合体 10mg/L
pH<1
【0058】
(16)比較例1
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 10mg/L
ポリビニルピロリドン 10mg/L
pH<1
【0059】
(18)比較例2
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
ヤヌスグリーンB 10mg/L
pH<1
【0060】
(19)比較例3
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
ポリエチレングリコール 500mg/L
pH<1
【0061】
(20)比較例4
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
チオ尿素 100mg/L
ポリビニルピロリドン 10mg/L
pH<1
【0062】
(21)比較例5
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
フタロシアニン 10mg/L
pH<1
【0063】
(22)比較例6
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
ヤヌスグーンB 1mg/L
ポリエチレングリコール 500mg/L
pH<1
【0064】
(22)比較例7
(イ)レベラーの製造例8
上記製造例1を基本として、ビピリジル1モルとビス(2−ブロモエチル)エーテル1モルを反応させて、ビピリジル共重合体を合成した。
上記ビピリジル共重合体において、ビピリジル1モルに対するエチレングリコール誘導体の付加モル数は2である。
(ロ)電気銅メッキ浴の調製例
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
製造例8のビピリジル共重合体 10mg/L
pH<1
【0065】
《電着応力の評価試験例》
そこで、上記実施例1〜15並びに比較例1〜7の各銅メッキ浴を用いて、陰極電流密度:10A/dm2、浴温:30℃、メッキ時間:10分の条件で電気メッキを行い、得られたメッキ直後の電着皮膜について、テストストリップ電着応力試験を実施した。
冒述したように、通常の銅メッキでは、メッキ直後の応力は引張応力(+MPa)であり、時間経過(1〜2日経過後)に伴って引張応力(+MPa)が継続的に働くため、メッキ面側への反りがより強くなり(
図1A参照)、また、たとえ、メッキ直後の応力が0MPaの場合であっても、同じく時間経過に伴ってメッキ面側に反るが、1〜2日経過すると定常状態になってそれ以上は反らない。
【0066】
下表Aはその試験結果である。
この場合、応力が+MPaの場合は引張応力を意味し、−MPaは圧縮応力を意味する。
[表A] 応力(MPa) 応力(MPa)
実施例1 −10 比較例1 +10
実施例2 −10 比較例2 +10
実施例3 −12 比較例3 +15
実施例4 −8 比較例4 +12
実施例5 −8 比較例5 +20
実施例6 −10 比較例6 +20
実施例7 −6 比較例7 +8
実施例8 −4
実施例9 −12
実施例10 −10
実施例11 −10
実施例12 −8
実施例13 −6
実施例14 −4
実施例15 −7
【0067】
上表Aによれば、本発明の含イオウ化合物(A)とレベラー(B)が共存するが、レベラー(A)の含有量が適正範囲より少ない比較例1では+10MPaの引張応力を示し、レベラー(A)の含有量がゼロの場合も同様に引張応力を示した。所定量の含イオウ化合物(A)を含有するが、本発明のレベラー(B)は含有せず、それに替えて染料を含有する比較例2、5では、同じく+10MPa、或いは+20MPaの引張応力を示した。所定量の含イオウ化合物(A)を含有するが、本発明のレベラー(B)に替えて銅メッキに汎用されるポリマー成分を含有する比較例3でも、同じく+15MPaの引張応力を示した。この場合、比較例2〜3はレベラー(B)のいわばブランク例であり、特に、比較例3は、冒述の特許文献8の準拠例ともいえる(段落30の表1参照)。本発明のレベラー(B)を含有するが、本発明で規定する以外の含イオウ化合物を含む比較例4についても、+12MPaの引張応力を示した。
尚、一般的な電気銅メッキ浴を用いた比較例6においても、やはり引張応力を示し、その値は比較例5と同様であった。
要するに、比較例1〜6ではすべてのメッキ皮膜に引張応力 ( +MPa ) が作用し、 メッキ皮膜が表面側を上にして凹状(即ち、下に凸状)に反ることが分かる(
図1A参照)。
これに対して、本発明の含イオウ化合物(A)を所定量含み、且つ、本発明のレベラー(B)を含む実施例1〜14では、すべてのメッキ皮膜に−20〜−5MPaの圧縮応力(
図1B参照)が作用することが分かる。
これにより、 時間経過とともに引張応力が働いて銅メッキ皮膜が反ろうとしても、引張応力( +MPa )に抗してこの圧縮応力(− MPa )が働いて応力を0Mpaに近づけるため、経時的にほぼ反りのない銅皮膜を形成できる。
このため、電気銅メッキにおいて、本発明の課題である電着皮膜の反りを防止するためには、メッキ直後に圧縮応力(−MPa)になることが条件であり、本発明の銅メッキ浴から得られる電着皮膜は当該条件を満たすことが裏付けられた。
【0068】
一方、レベラーがビピリジル共重合体で共通する実施例15と比較例7を対比すると、ビピリジルに対するエチレングリコール(誘導体)の付加モル数が2モルと少ない比較例7では、得られた電着皮膜の応力はプラス(引張応力)であったが、付加モル数が14モルと多い実施例15では、銅の電着皮膜に低応力の性状を付与することができた。
これにより、同じビピリジル共重合体であっても、ビピリジルに対するエチレングリコール(誘導体)の付加するモル数の増減が電着皮膜に作用する応力に関係し、銅 メッキ浴から低応力の電着皮膜を得ることを課題とする場合、 所定以上のモル数でのエチレングリコール(誘導体)の付加は、低付加の場合に比して顕著な優位性があることが判断できる。
【0069】
そこで、実施例1〜15を詳細に検討すると、含イオウ化合物(A)とレベラー(B)の夫々について、本発明で規定される化合物の中で様々な化合物を選択しても、メッキ皮膜の圧縮応力(−MPa)を達成できた。
即ち、レベラー(B)に本発明1に属する各種の含窒素化合物の共重合体を用いた実施例1〜11及び13〜14、同じく本発明2のビピリジル共重合体を用いた実施例15、或いは、本発明3のポリビニルピロリドンを用いた実施例12は、いずれもメッキ皮膜の反りを抑制する点で有効であった。
含イオウ化合物(A)の含有量を本発明の適正範囲の下限近くに低減した実施例7では絶対値は小さくなるが、メッキ皮膜の圧縮応力(−MPa)を維持できた。逆に、含イオウ化合物(A)の含有量を本発明の適正範囲の上限近くに増量した実施例8では、上記実施例7とあまり変わらない数値を示した。
レベラー(B)の含有量を実施例1の1/10に減量した実施例9では、逆に、実施例1より絶対値は増したことから(−10→−12、単位:MPa)、メッキ皮膜の反りを抑制する点では、レベラー(B)は微量含有すれば足りることが判断できる。可溶性銅塩及び酸の含有量を実施例1から変化させた実施例10では、実施例1と圧縮応力の数値は変わらなかった。
また、塩化物を含まない実施例6では、圧縮応力(−MPa)の絶対値は高い数値を示すことから、メッキ皮膜の反りを抑制する点で、銅メッキ浴には塩化物を添加しないか、含有量を抑制することが有効であると判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【
図1】
図1Aは引張応力が働いて反った銅メッキ皮膜の概略図、
図1Bは圧縮応力が働いた場合の銅メッキ皮膜の概略図である。