(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6539861
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】ヘッドホン
(51)【国際特許分類】
H04R 23/02 20060101AFI20190628BHJP
G10K 11/178 20060101ALI20190628BHJP
H04R 7/12 20060101ALI20190628BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20190628BHJP
H04R 1/10 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
H04R23/02
G10K11/178 150
H04R7/12 A
H04R17/00
H04R1/10 101Z
H04R1/10 101B
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-115634(P2015-115634)
(22)【出願日】2015年6月8日
(65)【公開番号】特開2017-5413(P2017-5413A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(74)【代理人】
【識別番号】100186853
【弁理士】
【氏名又は名称】宗像 孝志
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】
須藤 竜也
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−111600(JP,A)
【文献】
特開昭55−091299(JP,A)
【文献】
特開2010−011328(JP,A)
【文献】
実開平01−132197(JP,U)
【文献】
特開2008−099127(JP,A)
【文献】
特開2011−097181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
H04R 7/00 − 7/26
H04R 9/00 − 9/06
H04R 17/00
H04R 23/02
G10K 11/178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインドームと前記メインドームの周囲に連なるサブドームを備えるドーム型振動板と、
前記メインドームと前記サブドームとの境界部分に取り付けられているボイスコイルと、
前記ボイスコイルが配置される磁気ギャップを含み、前記磁気ギャップに磁界を発生させる磁気回路と、
前記サブドームの少なくとも一面側に形成されている圧電膜と、を有し、
前記ボイスコイルは、楽音信号によって前記ドーム型振動板を動電駆動し、
前記圧電膜は、ノイズキャンセル信号によって前記サブドームを圧電駆動するノイズキャンセル方式のヘッドホン。
【請求項2】
前記ドーム型振動板は、フィルム状薄膜部材を加熱加圧して前記メインドームと前記サブドームが形成されたものである、
請求項1記載のノイズキャンセル方式のヘッドホン。
【請求項3】
ドーム型前記振動板と、前記ボイスコイルと、前記磁気回路は、動電型スピーカーを構成し、
前記動電型スピーカーを固定するバッフル板と、
前記バッフル板を固定し、前記動電型スピーカーの背面を覆うハウジングと、
前記バッフル板の前面側において前記バッフル板の周縁部に固定されるイヤーパッドと、をさらに有する、
請求項1または2記載のノイズキャンセル方式のヘッドホン。
【請求項4】
前記圧電膜の表面には電極が形成され、前記電極を介して前記圧電膜にノイズキャンセル信号が印加される請求項1,2または3記載のノイズキャンセル方式のヘッドホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は
、ヘッドホンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
音楽を聞いているユーザーの耳に進入しようとする騒音を打ち消して、ユーザーには音楽のみが聞こえるようにするノイズキャンセル方式のヘッドホンが知られている。従来から知られているノイズキャンセル方式のものは、ヘッドホンに取り付けたマイクロホンによって周囲の騒音を検出し、これとは逆位相の信号を生成し出力するものである。この逆位相の信号は、騒音を打ち消すための信号であって、ノイズキャンセル信号と呼ばれる。一般的なヘッドホンは、一対のヘッドホンユニットを備えているがノイズキャンセル方式においても同様である。
【0003】
従来のノイズキャンセル方式のヘッドホンユニットは、スピーカーユニットのボイスコイルに、音楽用の信号(オーディオ信号)とノイズキャンセル信号を合成した信号を入力する。2つの信号の合成信号をボイスコイルに入力する前段にオーディオ信号用とノイズキャンセル信号用の電力増幅器を個別に配置する構成であれば、2つの電力増幅器が1つのボイスコイルに並列に接続されることになる。この構成の場合、電力増幅器が互いの負荷になる、音質を低下させる、などの悪影響を生じさせることがある。また、オーディオ信号とノイズキャンセル信号を合成してから、1つの電力増幅器を介してボイスコイルを駆動する構成であれば、2つの信号を合成(MIX)するために、音質劣化を生じることがある。
【0004】
ヘッドホンユニットに搭載されるスピーカーユニットの特性を向上させるものとして、振動板の機械的負荷を低減させる構造が知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、ノイズキャンセル方式のヘッドホンユニットにおいて、ノイズキャンセル信号とオーディオ信号との磁気的結合、静電的結合を含む電気的な結合関係をできるだけ浅くし、ノイズキャンセル信号がオーディオ信号に与える影響を少なくするヘッドホンユニットが知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭51−151121号公報
【特許文献2】特開2008−99127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1または特許文献2に記載されている構成は、スピーカーユニットが有する振動板と振動板を固定する構造物との間の機械的結合を低減させる緩衝構造体が必要になる。また、2つの電気信号を合成した信号を用いて振動板を駆動するので、オーディオ信号とノイズキャンセル信号の相互干渉が生じて、音質の低下につながる可能性がある。
【0007】
緩衝構造体を設ける場合、ヘッドホンユニットとヘッドホンケースの間の機械的結合を保つために、ヘッドホンユニットの周囲に音波を通過しない弾性体を用いる必要がある。また、ヘッドホンユニットの音声信号経路に干渉する構造は望ましくなく、干渉を起こすことなく、ノイズキャンセル信号による振動板を駆動させる駆動力を付与できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ヘッドホンユニットの周辺に音質に影響を与える構造体を設けることなく、かつ、オーディオ信号とノイズキャンセル信号が干渉しないように独立した入力系統を備え、振動板において異なる信号を結合し、音波として出力することができる振動板を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、
ノイズキャンセル方式のヘッドホンであって、
メインドーム
と前記メインドームの周囲に連なるサブドームを備える
ドーム型振動板と、
前記メインドームと前記サブドームとの境界部分に取り付けられているボイスコイルと、
前記ボイスコイルが配置される磁気ギャップを含み、前記磁気ギャップに磁界を発生させる磁気回路と、
前記サブドームの少なくとも一面側に
形成されている圧電膜
と、を有し、
前記ボイスコイルは、楽音信号によって前記ドーム型振動板を動電駆動し、
前記圧電膜は、ノイズキャンセル信号によって前記サブドームを圧電駆動することを主な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヘッドホンユニットの周辺に音質に影響を与える構造体を設けることなく、かつ、オーディオ信号とノイズキャンセル信号が干渉しないように独立した入力系統を備え、振動板において異なる信号を結合し、音波として出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るヘッドホンユニットの例を示す縦断面図である。
【
図2】上記ヘッドホンユニットが備える振動板の例を示す平面図である。
【
図3】上記ヘッドホンユニットが備える振動板の一部の例を示す縦断面図である。
【
図4】上記ヘッドホンユニットが備える振動板の例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図では、ヘッドホンユニット200が備えるバッフル板を固定するヘッドホンハウジングやバッフル板の前面側の周縁部に固定されるイヤーパッドを省略している。
図1に示すヘッドホンユニット200は、紙面左方向に音波を出力する。ユーザーがこのヘッドホンユニット200を左右一対に備えるヘッドホンを使用するとき、イヤーパッドの外端面がユーザーの頭部側面に当たり、イヤーパッドで囲まれる空間内にユーザーの耳が位置するようになっている。
【0013】
ヘッドホンユニット200は、特徴的な構造を有する振動板100と、振動板100に固着されたボイスコイル201と、ボイスコイル201が進入する隙間を有する磁気回路と、磁気回路を保持するフレーム205と、を有してなるスピーカーユニットを有する。
このスピーカーユニットは、いわゆる動電型スピーカーユニットであって、永久磁石を有する磁気回路によって作られた磁界内に配置されるボイスコイル201に、楽音信号により電流を流し、振動板100を所定の方向に振動させて、楽音信号を音波に変化する。なお、磁気回路は、ポールピース202、マグネット203、ヨーク204、によって構成されている。振動板100の詳細な構造については後述する。
【0014】
ボイスコイル201は、音源装置301から入力されるオーディオ信号が流れる配線を円筒状に巻回して形成したコイルである。ボイスコイル201には信号入力配線302が接続されている。この信号入力配線302を介して、音源装置301からのオーディオ信号がボイスコイル201に入力される。
【0015】
ボイスコイル201が配置されている磁気回路の隙間(磁気ギャップ)は、ポールピース202と扁平なシャーレ状のヨーク204によって形成されている。ヨーク204の内底部中心には扁平なマグネット203が固着されていて、ヨーク204に固着されたマグネット203の端面には板状のポールピース202が固着されている。
【0016】
ヨーク204の開放側端面とポールピース202の端面は、ほぼ同一面にあり、かつ、ポールピース202の外周面とヨーク204の開放端側内周面との間にはリング状の磁気ギャップが形成されている。ボイスコイル201は、磁気ギャップ内に進入する状態で保持されるようになっている。磁気ギャップにはマグネット203を源とする磁界が発生しているので、ボイスコイル201は磁界の中に存在していることになる。
【0017】
フレーム205は、扁平なシャーレ状の部材からなり、振動板100と磁気回路を保持する機能を有する部材であって、中央部分に形成された孔にヨーク204が嵌め込まれて固定されている。これによって、フレーム205の中央部分に磁気回路が固定される。フレーム205の外周縁には、後述するように、振動板100の外周端が固定されている。このフレーム205は、図示しないバッフル板に取り付けられる。
【0018】
振動板100は、メインドーム101と、メインドーム101を囲む周縁部であって断面がアーチ状のサブドーム102と、を有してなる。サブドーム102の外周はフレーム205に固着されている。これによって、ボイスコイル201が上に示した状態で所定の位置に保持されるようになっていて、振動板100は前後方向に(紙面左右方向に)振動可能な状態で支持されている。振動板100のメインドーム101とサブドーム102の境界にボイスコイル201の一端が片持ち的に固着されていて、ボイスコイル201はヨーク204にもポールピース202にもボイスコイル201が接触しないように支持されている。
【0019】
外部の音源装置301(例えば、音楽プレーヤー)から信号入力配線302を介してボイスコイル201にオーディオ信号が入力されると、オーディオ信号に従ってボイスコイル201が前後方向に振動し、この振動に応じた音声が出力される。
【0020】
ここで、振動板100について、より詳細に説明する。
図2に示すように振動板100は、正面方向から見た平面形状は円形である。なお、正面方向とは、振動板100のボイスコイル201に電気信号が入力されたときにボイスコイル201が駆動して音波を放射する方向をいう。
図2に示すように、振動板100は、中央部分にメインドーム101があり、その周辺を取り囲むようにドーナツ状のサブドーム102が形成されている。ボイスコイル201は、メインドーム101とサブドーム102の境界部分に配置されている。
【0021】
図3は、振動板100を振動方向に直交する方向から見た縦断面形状の例を示す図である。振動板100は、薄いフィルム状部材を所定の形態に加工したものである。振動板100は、厚さが25μm程度のフィルムを加熱加圧成形してメインドーム101とサブドーム102とを形成したものである。メインドーム101とサブドーム102は、それぞれ、正面方向に盛り上がったアーチ状をなしている。
【0022】
図4は、振動板100に圧電膜120を形成した状態を示す図である。
図4に示すように、サブドーム102の正面側の表面に、圧電膜120が形成されている。圧電膜120は、電界を加えると変位する圧電素子の一種であって、フィルム状の振動板100の表面に形成された薄膜であり、振動板100における圧電作用部を構成している。圧電膜120の裏表両面に金属蒸着を施して2つの電極を形成し、この電極にノイズキャンセル信号を印加するための配線を接続する。
【0023】
圧電膜120に電界を加えると、電界に応じて面積方向に伸縮する。圧電膜120に電界を加えると、圧電膜120の伸縮に応じて、サブドーム102の表面に力が加わる。なお、
図4に示す振動板100では、圧電膜120をサブドーム102の正面側にのみ形成しているが、背面側に形成してもよいし、サブドーム102の両面に形成してもよい。
【0024】
図1に戻る。振動板100の素材は伸縮しにくい素材からなる。振動板100の周縁部(サブドーム102の周縁部)はフレーム205に固定されているので、圧電膜120による変位がサブドーム102に加わると、サブドーム102は圧電膜120の伸縮に合わせて振動板100の前後方向に振動するようになる。すなわち、圧電膜120に加えた電界に応じてサブドーム102には前後方向の駆動力が加わる。この駆動力によってサブドーム102が振動して、ノイズキャンセル信号が出力される。
【0025】
ヘッドホンユニット200は、サブドーム102の圧電膜120に電界を加える構成として、ノイズキャンセル信号配線305と、ノイズキャンセル信号生成部304と、マイクロホン303と、を有している。
【0026】
マイクロホン303は、ヘッドホンユニット200の使用環境における外部騒音を検出して騒音信号に変換してノイズキャンセル信号生成部304に入力する。なお、外部騒音とは、ユーザーが聞こうとしている目的音以外の音をいう。ノイズキャンセル信号生成部304は、マイクロホン303が検出した外部騒音に基づいて、これを打ち消すための信号であるノイズキャンセル信号を生成して出力する。ノイズキャンセル信号は、外部騒音と位相が逆転している信号である。ノイズキャンセル信号配線305は、ノイズキャンセル信号生成部304から出力されたノイズキャンセル信号を圧電膜120に印加するための配線である。前述のように、圧電膜120には表裏の両面にプラスとマイナスの2つの信号が印加されるので、ノイズキャンセル信号配線305は少なくとも2本ある。しかし、
図1においてノイズキャンセル信号配線305は、簡略化して1本の信号線として表している。
【0027】
すでに説明したとおり、圧電膜120にノイズキャンセル信号を印加すると、ノイズキャンセル信号に応じてサブドーム102の表面に振動板100の径方向に伸縮力が加わる。サブドーム102の外周端部はフレーム205に固定され、他方の端部はメインドーム101に連なり、これら端部の間はアーチ状になっている。このような構造により、圧電膜120による伸縮力は、メインドーム101の振動方向(ボイスコイル201の振動方向)と同じ方向にサブドーム102を振動させる力に変換される。
【0028】
したがって、振動板100は、音源装置301から出力されたオーディオ信号が信号入力配線302を介してボイスコイル201に入力される入力系統と、ノイズキャンセル信号が圧電膜120に入力される入力系統との、2つの入力系統を備えている。前者を第1入力系統とし、後者を第2入力系統とする。
【0029】
第1入力系統は、電流によって主に振動板100のメインドーム101を駆動する電流駆動系統である(サブドーム102も電流駆動される)。すなわち、振動板100は、オーディオ信号に基づく電流駆動によって振動することで音楽を出力する。第2入力系統は、電界によって振動板100のサブドーム102を駆動する電界駆動系統である。すなわち、振動板100は、ノイズキャンセル信号に基づく電界振動によって振動することでノイズキャンセル音を出力する。
【0030】
以上のように、振動板100は、2入力と2出力に対応な電気音響変換機構であって、電流駆動のための信号と電界駆動のための信号を振動板100で結合して音波に変換し出力するものである。電流と電界は相互に干渉しないので、上に示した構成を有する振動板100は、オーディオ信号とノイズキャンセル信号を加算するなどの信号処理を行ったときに生ずる信号同士の相互干渉は起きず、信号の干渉による悪影響を生じさせない。
【0031】
また、ヘッドホンユニット200を固定するための機械的結合構造において、特別な構造はいらず、ヘッドホンユニット200の周囲に音波を通過させない構造を用いる必要がない。
【0032】
また、オーディオ信号とノイズキャンセル信号のそれぞれに必要となる信号処理回路をボイスコイル201に並列に接続する必要もないから、互いの信号処理回路が負荷になることを防止でき、これによる音質低下を避けることができる。また、オーディオ信号とノイズキャンセル信号を干渉させるような信号合成処理は不要になるから、高音質の楽音を再生し、さらに、外部騒音を打ち消す効果も高まる。
【符号の説明】
【0033】
100 振動板
101 メインドーム
102 サブドーム
120 圧電膜
200 ヘッドホンユニット
201 ボイスコイル
202 ポールピース
203 マグネット
204 ヨーク
205 フレーム
301 音源装置
302 信号入力配線
303 マイクロホン
304 ノイズキャンセル信号生成部
305 ノイズキャンセル信号配線