(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記設計パラメータが、さらに、基板最高温度、基板温度ムラ、環境温度、および被冷却体面積を含むことを特徴とする請求項1に記載の電子部品実装基板の放熱設計方法。
前記電子部品実装基板が、基板上に集積搭載された数十個以上のLEDチップ、LEDチップを覆う透光性樹脂部、および、基板上に形成された配線層を有するLED発光モジュールと、LED発光モジュールが搭載された筐体とを備えるLED発光モジュールであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電子部品実装基板の放熱設計方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、電子部品実装基板の温度分布を平滑化し、実装された半導体素子の動作状況を均一にすることを可能とするための放熱系設計手法を提供するものである。この放熱系設計手法は、コンピュータ上で実行される専用プログラムにより実現されるものであって、基板内で許容される最高温度と温度ムラを与えることにより、基板に要求される熱伝導率および基板を配置するケーシングに求められる放熱性能を定量化することを可能とするものである。本発明は、LED光源システムやインバータ等のパワーエレクトロニクスを用いたシステムなど、電子機器全般に適用することが可能であるが、以下ではLED照明モジュールの熱設計例を説明する。
【0016】
[熱設計プログラム]
実施形態例に係る熱設計プログラムは、パーソナルコンピュータ上で実行されるプログラムであり、本実施形態例に係る熱設計方法を実行することができる。設計パラメータとして、4つの大きさに関する条件と、7つの熱的条件を入力することができる。この11個の設計パラメータのうち、10個のパラメータを入力することで、1個の未知パラメータXを本発明のアルゴリズムに基づき自動で算出する機能を有している。未知パラメータXは、11個の設計パラメータの中から任意のパラメータを選択することが可能である。熱設計プログラムのパラメータ入力画面、各パラメータ、およびアルゴリズムの詳細については後述する。
【0017】
[LED照明モジュール]
図1に本LED照明モジュール1の(a)平面図、(b)側面図を示す。LED照明モジュール1は、多数個のLEDチップが配置される実装領域10および基板20を主な構成要素とし、一定温度に管理された液冷クーラー(30〜33)を用いて熱的特性を評価される。
実装領域10は、多数個のLEDチップが高密度で実装される領域であり、一つの発熱体として近似される。
基板20は、実装領域10が実装され、実装領域10が発した熱を液冷クーラーの金属ブロック30に伝える役割を担っている。
液冷クーラーの金属ブロック30は、基板20の裏面20B(実装領域10が実装された面とは反対側の面)の温度を一定に保つために用いられ、例えばアルミや銅等の熱伝導率の良い金属からなるブロックを主要な構成要素とする。液冷クーラーの金属ブロック30内には、例えば不凍液等の冷媒が通る循環流路31が設けられており、循環流路31の入口32および出口33は、図示しない外部のサーキュレータに管で接続されている。冷媒は、サーキュレータ内のポンプによって送り出され、循環流路31とサーキュレータの間を循環する。サーキュレータは、液冷クーラーの金属ブロック30の温度を一定に保つために、サーキュレータ内に挿入された図示しない温度センサにより測定された温度を監視しながら、冷媒の温度を制御する。液冷クーラーの金属ブロック30の表面30Aには、熱抵抗を低くするためのサーマルグリス(図示せず)が塗ってあり、基板20はサーマルグリスを介して液冷クーラーの金属ブロック30に固着されている。
【0018】
本実施形態例における設計パラメータについて、
図1を参照しながら以下に説明する。
【0019】
[L
hs:基板サイズ]
基板サイズL
hsは、基板20の最大長さの半分の値と定義する。したがって、基板の形状は図示の形状に限定されず、例えば、多角形やL字形であってもよく、この場合も最大長さに基づき基板サイズL
hsを設定する。基板サイズL
hsは、冷却能力に影響し、大きいほど冷却能力が優れるが、小型化を妨げることになるので、サイズと冷却能力のバランスを考慮して設計する。
[d:基板厚さ]
基板厚さdは、基板20の厚さと定義する。基板厚さdが厚いほど、基板20の基板面方向熱抵抗が低下するため、装領域10の温度分布を均一化させやすいが、基板厚さ方向熱抵抗が増加するため、面方向と厚さ方向の熱抵抗のバランスを考慮して設計する。
[R:被冷却体サイズ]
被冷却体サイズRは、実装領域10の大きさの半分の値と定義する。被冷却体サイズRは、同一発熱量であれば、大きいほど冷却されやすいが、光束量等の仕様やLEDチップの実装密度等も考慮して設計する。
[A:被冷却体面積]
被冷却体面積Aは、実装領域10の占める面積である。設計の考え方は、被冷却体サイズRと同様である。
【0020】
[Q
in:入熱量]
入熱量Q
inは、実装領域10から基板20に移動する熱の総量である。実装領域10に投入したエネルギーのうち、光に変更されない一定割合のエネルギーが熱として生じる。生じた熱は、実装領域10の周囲の空気および基板20に伝熱するが、通常の電子機器における実装の場合は90%程度が基板側に移動するため、かかる場合、Q
inは発熱量の90%程度と設定する。また、本LED照明モジュール1の様に、基板裏面の冷却に液冷クーラーや高性能ヒートシンク等を使用する場合には、空気への伝熱は小さいので無視し、生じた熱はすべて基板20に伝熱すると仮定する。入熱量Q
inは、LEDチップの発光効率、消費電力、搭載個数等によって決まる。
[T
∞:環境温度]
環境温度T
∞は、液冷クーラーの金属ブロック30の温度である。設計においては、使用環境温度を用いて検討する。
[k
r:基板面方向熱伝導率、k
z:基板厚さ方向熱伝導率、k
e:基板有効熱伝導率]
基板面方向熱伝導率k
rは基板20の面方向熱伝導率であり、基板厚さ方向熱伝導率k
zは基板20の厚さ方向熱伝導率である。基板20に高性能ヒートパイプ型ヒートスプレッダ(Fine Grid Heat Pipe:FGHP)やグラファイト製品等を基板として用いる場合、熱伝導率には構造的な要因から面方向と厚さ方向で異方性があるため、別々のパラメータとして用意した。基板有効熱伝導率k
eは、面方向と厚さ方向の熱伝導率が実質的に等価と仮定した場合の熱伝導率である。
【0021】
[h:基板裏面冷却強度]
基板裏面冷却強度hは、基板20から液冷クーラーの金属ブロック30への伝熱効率を表す係数であり、本LED照明モジュール1においては総括伝熱係数と等価である。基板20の形状や表面状態、基板20が接触する流体(例えば、空気)で決まる定数である。
【0022】
[T:基板温度分布]
基板温度分布Tは、基板20の温度の分布である。後述する基板最高温度T
max、基板最低温度T
min、および温度ムラT
max−T
minは、基板温度分布Tに従属して自動的に決まるため、これらは基板温度分布Tとともに1つの設計パラメータとして扱う。
[T
max:基板最高温度]
基板最高温度T
maxは、基板20の温度の最大値である。基板20の温度は、LEDチップの劣化に影響し、その値が大きいほど、LEDチップは劣化しやすく、寿命が低下する。したがって、基板最高温度T
maxは、高くなりすぎないように設計する。
【0023】
[T
min:基板最低温度]
基板最低温度T
min:は、基板20の温度の最小値である。LED照明モジュールにおいては、温度の低い側については問題とならないが、基板最高温度T
maxとの差分としての温度ムラを算出するために検討が必要となる。
【0024】
[T
max−T
min:温度ムラ]
温度ムラT
max−T
minは、LEDチップの発光量の差を生じさせ、照明品質を低下させる要因となる。さらに、基板内での温度ムラは、LEDチップや蛍光体、樹脂などの寿命にバラつきを生じさせる要因ともなる。したがって、温度ムラT
max−T
minを許容範囲に抑えるように設計する。
基板最高温度T
maxと同様に、基板最低温度T
minを基板20の温度の最小値と定義し、温度ムラT
max−T
minを求める。
【0025】
[パラメータ入力画面]
図2に、熱設計プログラム(以下単に「プログラム」という場合がある)の入出力画面40を示す。入出力画面40は、設計パラメータ名称欄41、設計パラメータ入出力欄42、設定欄43、計算結果表示欄44、および計算実行ボタン45を主な構成要素としている。前述した設計パラメータに対応しており、同図中に各設計パラメータを表す記号を付している。
設計パラメータ名称欄41は、前述した各設計パラメータが記載されており、同図中に付した記号は、対応する設計パラメータを表す記号である。
設計パラメータ入出力欄42は、設計パラメータの固定値を入力したり、設計パラメータをプログラムに計算させたときの解が出力されたりする欄である。
設定欄43は、リストボックスになっており、設計パラメータの値を設計パラメータ入出力欄42に入力した値で固定したい場合には「左の値を使用する」を、設計パラメータをプログラムに計算させたい場合には「・・・を求める」を選択できるようになっている。後者を選択した場合、対応する設計パラメータ入出力欄42はグレーアウトし、以後入力できないようになる。
計算結果表示欄44は、温度分布の計算結果を、座標と温度を並列させて表示する。計算結果表示欄44下部にある「毎回計算結果ウィンドウをリフレッシュする」のチェックボックスをチェックすると、設計パラメータをプログラムに計算させたときに解が収束するまで実行中の計算結果を更新し続ける。
計算実行ボタン45は、クリックするとプログラムが計算を実行するものである。
【0026】
[処理フロー]
図3に熱設計プログラムの処理のフローチャートを示す。本プログラムは、設計パラメータのうちの1つを未知とし、与えられた温度ムラT
max−T
minの狙い値になるよう、未知の設計パラメータを最適化するものである。また、温度ムラT
max−T
minが未知の場合、最適化は行わず、温度ムラT
max−T
minの計算値を返して終了する。
最適化のアルゴリズムとして二分法を用いたが、これに限定されるものではない。
図3の各処理に付したステップ番号(S1〜S9)に沿って、
図2を参照しながら説明していく。
(S1)
各設計パラメータの中から、未知の設計パラメータXを1つ選択し、対応する設定欄43で「・・・を求める」を選択する。固定する設計パラメータの設計パラメータ入出力欄42に、各設計パラメータの固定値を入力する。
(S2)
未知のパラメータが温度ムラT
max−T
minであるか否か判定する。未知のパラメータが温度ムラT
max−T
minである場合、S12に進む。
【0027】
(S3)
未知パラメータXの区間上限X
1と区間下限X
2を設定する。区間上限X
1と区間下限X
2は、表1のように設計パラメータごとにあらかじめデータベースとして与えられており、データベースを参照することで設定される。
【表1】
(S4)
区間上限X
1と区間下限X
2の中間点X
Mを計算する。X
Mの計算式は数1で与えられる。
【数1】
X
M:中間点
X
1:区間上限
X
2:区間下限
【0028】
(S5)
区間上限X
1、区間下限X
2、および中間点X
Mにおける基板温度分布T
1、T
2、およびT
Mを計算する。詳細な計算方法は、S51〜S56として別途説明する。
(S6)
基板温度分布T
1、T
2、およびT
Mより、温度ムラY
1、Y
2、およびY
Mを計算する。温度ムラY
1、Y
2、およびY
Mの計算式は、数2で与えられる。
【数2】
Y
i:温度ムラ[K]
T
i_max:基板温度の最大値[K]
T
i_min:基板温度の最小値[K]
【0029】
(S7)
温度ムラY
1、Y
2、およびY
Mと設計パラメータ入出力欄42で入力された温度ムラYの設定値Y
0との差分値である残渣ΔY
1、ΔY
2、およびΔY
Mを計算する。残渣ΔY
1、ΔY
2、およびΔY
Mの計算式は、数3で与えられる。
【数3】
ΔY
i:残渣[K]
Y
0:温度ムラの設定値[K]
【0030】
(S8)
残渣ΔY
Mが目標値ε以下かどうか判定する。目標値εは精度によって決まり、小さいほど、真の解に近づくが、計算回数が増える。目標値εは、例えば、0.01Kの値が与えられる。残渣ΔY
Mが目標値ε以下の場合、精度は担保され、X
Mを未知パラメータXの解とし、S11に進む。残渣ΔY
Mが目標値εより大きい場合、精度は満たされないことになり、再度計算するため、S9に進む。
(S9)
残渣ΔY
1およびΔY
2の正負の符号が、互いに異なるか否かを判定する。残渣ΔY
1およびΔY
2の正負の符号が異なる場合、Y=Y
0となるXの解が区間X
1〜X
2の間に存在することになる。残渣ΔY
1およびΔY
2の正負の符号が同じ場合、Y=Y
0となるXの解が区間X
1〜X
2の間に存在しないため、エラーを返してプログラムは終了する。
【0031】
(S10)
残渣ΔY
1またはΔY
2のいずれかのうち、どちらが正負の符号が残渣ΔY
Mの正負の符号と等しくかを判定する。残渣ΔY
1の正負の符号と残渣ΔY
Mの正負の符号が等しい場合は、区間下限X
1の値をX
Mに変更し、区間上限X
2の値はそのまま維持する。残渣ΔY
2の正負の符号と残渣ΔY
Mの正負の符号が等しい場合は、区間上限X
2の値をX
Mに変更し、区間下限X
1の値はそのまま維持する。そして、S4に戻る。
(S11)
未知パラメータXの設計パラメータ入出力欄42に解X
Mを表示し、プログラムは終了する。
(S12)
基板温度分布Tを計算する。計算方法はS51〜56と同じである。
【0032】
(S13)
基板温度分布Tより、温度ムラYを求める。温度ムラYの計算式は、数4で与えられる。
【数4】
Y:温度ムラ[K]
T
max:基板温度の最大値
T
min:基板温度の最小値
【0033】
(S14)
温度ムラの設計パラメータ入出力欄42に温度ムラYを表示し、プログラムは終了する。
【0034】
S5および12の詳しい計算の過程S51〜S56について、
図4を参照しながら説明する。
(S51)
ビオ数Bi
rを数5の式によって求める。
【数5】
Bi
r:ビオ数
h:基板裏面冷却強度[W/(m
2・K)]
R:被冷却体サイズ[m]
k
r:基板面方向熱伝導率[W/(m・K)]
【0035】
(S52)
計算用パラメータaを数6の式によって求める。
【数6】
a:計算用パラメータ(ビオ数に関連)
R:被冷却体サイズ[m]
d:基板厚み[m]
【0036】
(S53)
座標rを、0から被冷却体サイズRの間の値で一定数または一定間隔で分割した値を各要素とする配列データとして定義する。数7によって、座標rを被冷却体サイズRで規格化した無次元座標r
*を計算する。
【数7】
r
*:無次元座標
r:座標[m]
(S54)
無次元温度Θを数8の式によって求める。
【数8】
Θ:無次元温度
I
0:第1種変形ベッセル関数
【0037】
(S55)
被冷却体端位置(r
*=1)における温度T
Rを数9の式によって求める。
【数9】
T
R:被冷却体端位置における温度[K]
k
z:基板厚さ方向熱伝導率[W/(m・K)]
A:被冷却体面積[m
2]
h:基板裏面冷却強度[W/(m
2・K)]
S
mod:形状係数[−]
ここで、S
modは形状係数であり、基板熱伝導率・冷却条件が既知の場合のデータから算出することができる。
【0038】
(S56)
基板温度分布Tを数10の式によって求める。
【数10】
T:基板温度分布[K]
T
∞:環境温度[K]
Q
in:入熱量[W]
A:被冷却体面積[m
2]
h:基板裏面冷却強度[W/(m
2・K)]
【0039】
以上に説明した実施形態例の放熱設計プログラムによれば、温度ムラを含む11個の設計パラメータのうち、10個のパラメータを入力することで、1個の未知パラメータXを本発明のアルゴリズムに基づき自動で算出することが可能となる。
なお、設計パラメータの数は例示の11個に限定されず、このうち最低限必要なパラメータは、基板温度分布、基板熱伝導率、基板サイズ、基板厚さ、被冷却体サイズ、入熱量、および基板裏面冷却強度であり、耐久性の観点からは環境温度、基板最高温度のパラメータも含めることが好ましい。
【0040】
以下では、本発明の詳細を実施例により説明するが、本発明の技術思想は何ら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0041】
実施例1は、LED照明モジュール1の基板20を、厚さ2mmの銅板により構成した場合の解析結果を示すものである。
[構成]
図5は、LED照明モジュール1の上面図である。
図6は、LED照明モジュール1の
図5におけるB−B断面図である。
以下、
図5および6を用いてLED照明モジュール1の構成を説明する。
【0042】
図5に示すように、LED照明モジュール1は、実装領域10、配線12(12a、12b)、外部接続端子13(13a、13b)、実装基板20、ダム材22を主な構成要素とする。
実装領域10は、高密度に所謂COB(Chip On Board)実装された2210個のLEDチップ11の最外周を囲む領域であり、発光源かつ発熱源である領域である。実装領域10は、
図5のA−A線を境に供給される電源が別々になっており、左側の実装領域10aと右側の実装領域10aに分けられる。左側の実装領域10aと右側の実装領域10aには、それぞれ1105個のLEDチップ11が実装されている。
LEDチップ11は、例えば、InGaN系青色LEDベアチップである。LEDチップ11は、LEDチップ11同士あるいは配線12(12a、12b、12c、12d)とワイヤ14により電気的に接続されている。ワイヤ14は、例えば、金やアルミ等の金属材料からなり、ワイヤボンディングにより形成および接合される。LEDチップ11の裏面(下面)は、基板20の表面上に高熱伝導性接着剤等により固設される。LEDチップ11の配列については後述の[高密度実装]の箇所で説明する。
【0043】
配線12および外部電極端子13は、基板20の表面上に実装領域10を囲むように配設され、LEDチップ11に電源を供給する。配線12および外部電極端子13は、同一の符号(a、b、c、d)が付されたもの同士で電気的に接続されており、
図5のA−A線を対称軸として一定間隔を空けて線対称なパターンを形成している。外部電極端子13は、図示しない外部電源装置に電気的に接続され、外部電極端子13aと13b間、および外部電極端子13cと13d間に電圧が印加される。配線12aと12b間、および配線12cと12d間には、一定間隔が空けられ、過電圧による破壊防止のための保護ダイオード装置15が接続されている。また、配線12の表面上には、無機系白色絶縁層21と同じ材料により構成され、ソルダーレジストとしても機能する無機系白色絶縁層24が形成されている。
【0044】
基板20は、直径φ120mm、厚さ2mmの銅板で構成され、表面に形成された無機系白色絶縁層21により、電気的に絶縁するとともに低い熱抵抗で実装領域10の熱を伝導し、裏面で放熱する。
【0045】
無機系白色絶縁層21は、基板20の表面上に塗布形成され、絶縁層および実装領域10で発光された光の反射層としての役割を担う。無機系白色絶縁層21は、白色系無機粉末(白色系無機顔料)と二酸化珪素(SiO2)を主要な成分とし、耐電圧1KV/10μm程度、可視光の波長域で平均反射率70%以上の物性を有する。無機系白色絶縁層21の厚さは、例えば、10〜150μmであり、塗布形成には、例えば、インクジェット法、ディスペンサー法、スプレーコート法またはスクリーン印刷法が用いられる。
【0046】
ダム材22は、基板20の表面上に実装領域10を囲む略正方形状に形成され、透光性樹脂23を充填するための堤防として機能する。また、ダム材22の表面には光反射性が付与され、実装領域10より発光された光を反射する。
【0047】
透光性樹脂23は、ダム材22により囲まれた領域に充填され、LEDチップ11とワイヤ14を封止する。これにより、LEDチップ11、ワイヤ14およびこれらの接合部を保護し、LEDチップ11から発光された光を所望の色に調節する。透光性樹脂23には、例えば白色を得るための蛍光体が混入されている。白色光を得るための方式としては、紫外LEDで三原色の蛍光体を励起する方式、緑および赤の二色の蛍光体を青色LEDで励起する方式、黄色の蛍光体を青色LEDで励起する方式があるところ、LEDチップ11の種類に応じて選択された蛍光体を混入する。色温度は、例えば、2700〜6500Kの範囲で設定する。
【0048】
[高密度実装]
図7を用いて、実装領域10に実装されたLEDチップ11の配列および電気接続について説明する。
図7は、
図5の第1実装領域10aに実装されたLEDチップ11と、配線12a、12bを抜き出した簡略図である。第2反射領域10bに実装されたLEDチップ11も同様の配列である。
【0049】
LEDチップ11は、第1実装領域10a内の上下方向と左右方向にそれぞれ実質上等ピッチで千鳥状に配置される。LEDチップ11は、奇数番目の行に32個、偶数番目の行に33個並べられ、合計34行の行をなしている。奇数番目の行における左端のLEDチップ11同士は、その左右方向の位置が同じである。また、偶数番目の行における左端のLEDチップ11同士も、その左右方向の位置が同じである。さらに、奇数番目の行における左端のLEDチップ11は、偶数番目の行における左端のLEDチップ11に対して実質上半ピッチ分右にずれている。
【0050】
ここで、LEDチップ11の位置を定義する。
図7に示すように、左上のLEDチップ11を基準として、右方向にX方向、下方向にY方向を規定する。そして、基準からY番目の行に属し、左端からX番目にあるLEDチップ11にインデックス(X,Y)を割り当てる。
例えば、1行目に属するLEDチップ11は、左端からインデックス(1,1)、(2,1)、(3,1)、・・・、(32,1)が割り当てられ、下端の行に属するLEDチップ11は、左端からインデックス(1,34)、(2,34)、(3,34)、・・・、(33,34)が割り当てられる。
以下、インデックス(X,Y)を割り当てられたLEDチップ11を「LEDチップ11(X,Y)」と表記することとする。
【0051】
LEDチップ11(X,Y)は、下記のように配線12a、12bに対してワイヤボンドにより直列に電気接続される。
Y=1または2の場合、LEDチップ11(X,Y)のチップ上端にある一対の電極(図示せず)は配線12aとワイヤボンドされる。
3≦Y≦32の場合、LEDチップ11(X,Y−2)のチップ下端にある一対の電極(図示せず)は、LEDチップ11(X,Y)のチップ上端にある一対の電極(図示せず)とワイヤボンドされる。また、LEDチップ11(X,Y)のチップ下端にある一対の電極(図示せず)は、LEDチップ11(X,Y+2)のチップ下端にある一対の電極(図示せず)とワイヤボンドされる。
Y=33または34の場合、LEDチップ11(X,Y)のチップ下端にある一対の電極(図示せず)は配線12bとワイヤボンドされる。
【0052】
以上のように、LEDチップ11同士が上下に1行おきに電気接続されるため、配線12a、12bに対して17個直列に電気接続される。これら17個直列に電気接続されたLEDチップ11を「単位LEDチップ群」と定義すると、単位LEDチップ群は、奇数行群で同一のインデックスXが割り当てられたLEDチップ11、または偶数行群で同一のインデックスXが割り当てられたLEDチップ11により構成される。インデックスXの値は、奇数行においてはX=1〜32、偶数行においてはX=1〜33をとるため、単位LEDチップ群は、奇数行群で32個形成され、偶数行群で33個形成される。第1実装領域10aに形成される単位LEDチップ群を合計すると、32+33=65個である。各単位LEDチップ群は、配線12a、12bに対して並列に電気接続されているので、第1実装領域10aには、1105個のLEDチップ11が17直列×65並列の配線パターンで実装されていることになる。
第2実装領域10bも第1実装領域10aと同様の構成であるので、両領域合わせた実装領域10には、2210個のLEDチップが17直列×130並列で実装されていることになる。
【0053】
[解析結果]
熱設計プログラムに入力した本実施例の各設計パラメータを、表2に示す。未知パラメータは基板温度分布Tであるため、従属する基板最高温度T
maxと温度ムラT
max−T
minは未知パラメータとしてプログラムに入力していない。
【表2】
【0054】
図8は、本実施例のLED照明モジュール1における、定常状態での基板20の温度分布をサーモグラフィにより実測した結果である。
図8(a)は、基板20の温度分布をコンター表示した図であり、(b)は(a)の2つのパスA、Bの温度分布をグラフにプロットしたもの(上段:パスA、下段:パスB)である。
図8(b)を見て分かるように、基板20の中心を通るパスAとBとで、温度分布に差異はなく、設計検討に用いるパスはパスA、Bのいずれでもよい。したがって、設計検討に用いるパスとして、便宜のため、パスBを用いることにし、基板最高温度T
maxは、パスBにおける基板20の温度の最大値と定義する。
図9に、本実施例のLED照明モジュール1の基板温度分布Tを熱解析プログラムによって求めた結果(点線)を、実機の実測結果(実線)とともに示す。座標0≦r
*<0.1付近において、実機では
図5のA−A線付近に一定間隔を空けているものの、解析プログラムでは均一に発熱すると近似しているため、実機の温度分布を再現できていない。しかし、実機の測定結果に対する解析結果の平均誤差は2.6%であり、その他の領域においては精度よく再現できていることが分かる。
【実施例2】
【0055】
実施例2は、LED照明モジュール1の基板20を、FGHPで構成した場合のシミュレーション結果を示すものである。以下では、実施例1との相違点を中心に説明し、共通する構成についての説明は割愛する場合がある。
【0056】
[構造]
基板20は、特許文献1のFGHPを直径120mm、厚さ2mmの大きさとしたものである。FGHP内部にはヒートパイプを有し、高い熱伝導率が得られるため、熱の拡散を生じやすく、温度ムラの低減を狙っている。
【0057】
[解析結果]
熱設計プログラムに入力した本実施例の各設計パラメータを、表3に示す。未知パラメータは基板温度分布Tであるため、従属する基板最高温度T
maxと温度ムラT
max−T
minは未知パラメータとしてプログラムに入力していない。
【表3】
図9に、本実施例のLED照明モジュール1の基板温度分布Tを熱解析プログラムによって求めた結果(点線)を、実機の実測結果(実線)とともに示す。座標0≦r
*<0.12において、実機では
図5のA−A線付近に一定間隔を空けているものの、解析プログラムでは均一に発熱すると近似しているため、実機の温度分布を再現できていない。しかし、実機の測定結果に対する解析結果の平均誤差は6.3%であり、その他の領域においては精度よく再現できていることが分かる。
【実施例3】
【0058】
温度ムラの解析結果を実施例1と実施例2で比較すると、実施例1では16Kに対し、実施例2では2Kであった。実施例2は実施例1に対して、温度ムラは1/8に低減していることが分かる。実施例1と実施例2の設計パラメータの実質的な違いは基板面方向熱伝導率k
rであることから、温度ムラは基板面方向熱伝導率k
rに影響されているものと推測される。
そこで、実施例3では、簡略化のために基板面方向熱伝導率k
rおよび基板厚さ方向熱伝導率k
zに代えて基板有効熱伝導率k
eを用いるとともに、同様に放熱に影響する総括伝熱係数(基板裏面冷却強度)hを用い、これらの設計パラメータを変更して温度ムラに対する影響を調べた。具体的には、
図10(a)に示す水中高輝度LED照明装置60を用い、形状および物性値を変更しながら熱解析シミュレーションを行い、温度ムラの解析を行った。
【0059】
[構造]
図10に水中高輝度LED照明装置60の(b)平面図、(c)断面図を示す。水中高輝度LED照明装置60は、筐体61、基板62、レンズ63、および2つのOリング64を主な構成要素とする。
筐体61は、真鍮製の直径111mm、高さ71mmの略円筒形状であり、受熱部61a、側面部61b、複数のフィン61c、キャップ部61d、およびソケット部61eを備えて構成される。受熱部61aは、その表面側に基板62が固着され、基板62より熱を受ける。側面部61bは、その外周に複数のフィン61cを備え、受熱部61aで受けた熱をフィン61cに伝導し、フィン61cはその熱を水中に放熱する。キャップ61dは、レンズ63を筐体61に固定する。ソケット部61eは、図示しない電源ケーブルを筐体61内部へ案内する。
基板62は、図示しない高密度実装された多数個のLEDチップを実装する。基板62に実装されるLEDチップの数は、例えば、172個である。基板62は、多数個のLEDチップから発せられた熱を受熱部62aに伝導する。
レンズ63は、基板62に実装されたLEDチップから発せられた光を集光し、透過させる。
Oリング64は、側面部61bとレンズ63間、および側面部61bとソケット部61e間に挟まれ、水の侵入を防ぐ。
【0060】
受熱部61aと基板62の詳細な構造について、
図11を用いて説明する。
図11は、受熱部61aと基板62の(a)上面図、(b)側面図、(c)下面図を示す。
受熱部61aは、半径D
o、厚さtの円盤状をしている。開口穴65が形成されており、開口穴65の有無、穴径(半径)D
iの変更によって受熱部61aの表面に固着される基板62との接触面積が変化し、総括伝熱係数hを変化させることが可能となる。また、厚さtが変わることにより、側面部61bとの接続断面積が変化し、総括伝熱係数hを変化させることが可能となる。すなわち、受熱部61aの半径D
o、穴径(半径)D
i、および厚さtを総括伝熱係数hの代用とすることができる。ちなみに、穴径(半径)D
iが大きくなるほど、受熱部61aと基板62の接触面積が小さくなり、総括伝熱係数hは小さくなる。また、厚さtが大きくなるほど、側面部61bとの接続断面積が大きくなり、総括伝熱係数hは大きくなる。
【0061】
基板62は半径L
hs、厚さdの円盤状の銅板またはFGHPである。基板62の表面には、複数個のLEDチップが高密度実装され、均一に発熱するものと近似可能した実装領域66が形成されている。実装領域66は直径Rの円形状をなしている。実装領域66が発した熱は入熱量Q
inとして基板62の実装領域66との接触部分に入熱する。入熱量Q
inは、例えば、実装領域66を形成するLEDチップの数が172個の場合、1チップあたりの消費電力を3.2V×0.32A=1.12Wと仮定し、総消費電力の80%が熱となることを仮定すると、1.12W×172×0.8=154Wである。
【0062】
以下、総括伝熱係数hおよび基板有効熱伝導率k
eを変化させて行った熱解析シミュレーションの結果を説明する。本実施例の構成で登場する設計パラメータのうち、言及していない設計パラメータについては前述の説明のとおりであり、説明を省略する。
解析モデルの設計パラメータを表4〜6に示す。
【表4】
表4に示すように、実施例3−1〜3−7では、基板62を銅板として、受熱部61aの穴径(半径)D
iおよび厚さtを変えて総括伝熱係数hを変えたモデルである。すなわち、基板有効熱伝導率k
eは一定(387.6W/(m・k))のまま、括熱伝達係数hを変えたモデルである。厚さtは、受熱部61aの熱容量を一定とするため、受熱部61aの体積が一定となるように設定した。
【0063】
【表5】
表5に示すように、実施例3−8〜3−14では、基板62をFGHPとして、受熱部61aの穴径(半径)D
iおよび厚さtを変えて総括伝熱係数hを変えたモデルである。すなわち、基板有効熱伝導率k
eは一定(1800W/(m・k))のまま、括熱伝達係数hを変えたモデルである。受熱部61aの穴径(半径)D
iおよび厚さtは、実施例3−1〜3−7と同様となるように設定した。
【0064】
【表6】
表6に示すように、実施例3−15〜3−18では、受熱部61aの穴径(半径)D
iおよび厚さtを実施例3−7および3−14と同一として、基板62の基板有効熱伝導率k
eを変えたモデルである。すなわち、括熱伝達係数hは一定のまま、基板有効熱伝導率k
eを変えたモデルである。
【0065】
図12に実施例3−1〜18の解析結果を示す。グラフの縦軸は温度ムラ、横軸はビオ数Biを示す。ビオ数Biは、数11〜13に従って、熱解析シミュレーションで求めた実装領域66の中心温度T
66を用いて算出した熱抵抗R
th(all)および括熱伝達係数hによって求めた。ここで、被冷却体面積Aは、基板42と受熱部41aの接触面積が受熱部41aの穴径(半径)D
iによって変化するため、共通するフィン43の放熱面積を用いて算出した。
【数11】
R
th(all):熱抵抗[K/W]
T
66:熱解析シミュレーションで求めた実装領域66の中心温度[K]
T
∞:環境温度[K]
Q
in:入熱量[W]
【数12】
h:総括伝熱係数(フィン61c放熱面積基準)[W/(m
2・K)]
A:被冷却体面積(フィン61cの放熱面積)[m
2]
【数13】
Bi:ビオ数
R:被冷却体サイズ[m]
k
e:基板有効熱伝導率[W/(m・K)]
【0066】
図12を見て分かるように、各実施例3−1〜3−18とも、
図12の点線で示す一つの近似曲線上に沿っている傾向が見られる。すなわち、温度ムラはビオ数Biによって一義的に求めることが可能である。したがって、温度ムラの仕様が決まれば、
図12中の(1)から(2)の矢印のように近似曲線を辿り、放熱システムのBiを決定することが可能である。
ビオ数は、数13のように、総括伝熱係数、サイズおよび基板有効熱伝導率で決まる値である。上記の考え方によれば、放熱システムの設計において筐体の構成が先に決定される場合、筐体に関する定常熱伝導方程式の解析解あるいは数値解によって総括伝熱係数がまず決定され、その結果として、基板に要求される有効熱伝導率を決定することができる。逆に、基板の構成が先に決定される場合、基板の有効熱伝導率がまず決定され、その結果として、筐体に要求される総括伝熱係数を決定することができる。
【0067】
以上に説明した実施例3によれば、放熱システムの設計パラメータを迅速に決定することができる。