特許第6539892号(P6539892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6539892アボカド果実加工品の変色防止剤および変色防止方法ならびにアボカド果実加工品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6539892
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】アボカド果実加工品の変色防止剤および変色防止方法ならびにアボカド果実加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/154 20060101AFI20190628BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20190628BHJP
【FI】
   A23B7/154
   A23L19/00 A
   A23L19/00 Z
【請求項の数】13
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2017-47027(P2017-47027)
(22)【出願日】2017年3月13日
(65)【公開番号】特開2018-42546(P2018-42546A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2018年4月16日
(31)【優先権主張番号】特願2016-71664(P2016-71664)
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-175874(P2016-175874)
(32)【優先日】2016年9月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】井上 絢香
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 一泰
(72)【発明者】
【氏名】上岡 秀也
(72)【発明者】
【氏名】田中 克幸
【審査官】 金田 康平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−250776(JP,A)
【文献】 Journal of Agroalimentary Processes and Technologies,2009年,Vol. 15, No. 4,pp. 511-514
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L19/00−19/20
A23B 7/00− 9/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPI/
FSTA/CABA/AGRICOLA/BIOTECHNO(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−リポ酸およびコエンザイムQ10を含む、アボカド果実加工品の変色防止剤。
【請求項2】
アスコルビン酸またはその塩をさらに含む、請求項1に記載の変色防止剤。
【請求項3】
アボカド果実加工品の変色防止方法であって、
アボカド果実の果肉部を、α−リポ酸およびコエンザイムQ10に接触させる工程を含む、方法。
【請求項4】
前記接触工程が、前記アボカド果実の果肉部を、α−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸またはその塩と接触させることにより行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記接触工程が、α−リポ酸およびコエンザイムQ10を含む溶液、あるいは、α−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸またはその塩を含む溶液と、前記アボカド果実の果肉部とを接触させることにより行われる、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記接触工程が、前記溶液中の浸漬により行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記接触工程が、請求項1または2に記載の変色防止剤を用いて行われる、請求項3から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
アボカド果実加工品の製造方法であって、
アボカド果実の果肉部を、α−リポ酸およびコエンザイムQ10に接触させる工程を含む、方法。
【請求項9】
前記接触工程が、前記アボカド果実の果肉部を、α−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸またはその塩と接触させることにより行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記接触工程が、α−リポ酸およびコエンザイムQ10を含む溶液、あるいは、α−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸またはその塩を含む溶液と、前記アボカド果実の果肉部とを接触させることにより行われる、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記接触工程が、前記溶液中の浸漬により行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記接触工程が、請求項1または2に記載の変色防止剤を用いて行われる、請求項8から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
請求項8から12のいずれかに記載の方法により製造されたアボカド果実加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アボカド果実加工品の変色防止剤および変色防止方法ならびにアボカド果実加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アボカドは、近年人気の食材であり、その需要は高まっている。用途は多種多様であり、アボカドペーストなどのフィリング、サラダ、サンドウィッチ、ハンバーガーあるいは巻き寿司の具材などが挙げられる。アボカドは、飲食店およびファーストフード店の食事メニューとして提供される他、小売店舗(例えば、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、百貨店など)で総菜品として販売され得る。
【0003】
アボカドは剥皮およびカットした状態で提供され得るが、剥皮またはカットした青果物は、その表面が時間の経過と共に変色すること(黄変、褐変、黒変など)が知られている。アボカドの場合は、時間の経過と共に、果実のカット面(すなわち、果肉部の表面)において、維管束による筋の部分がまず褐変し、次いで褐変部分が広がる。このような変色は、アボカドの果肉練砕物(例えば、アボカドペースト)、またはそのままトッピングした菓子、料理(例えば、サラダなど)などの商品価値を著しく低下させる。また、このような変色のため、カットした状態での流通および保管を困難とする。
【0004】
青果物の変色を防止するための種々の変色防止剤が報告されている。青果物の変色を防止するために、アスコルビン酸などの酸化防止剤の使用、または有機酸などによるpH低下が利用され得るが、いずれもアボカド果実の変色防止については効果が不十分である。また、pHを下げすぎると、酸味が強くなり、アボカド果実中のクロロフィルが退色するという問題も発生する。
【0005】
アボカドについては、変色防止剤および変色防止方法としては、以下が報告されている:アボカドのカット品について、果汁と、アスコルビン酸、クエン酸、フィチン酸、およびエタノールからなる群より選択される少なくとも3種と、ビタミンE(トコフェロール)とを含む変色防止剤の使用(特許文献1);アボカドのカット品について、α−リポ酸を含む溶液、あるいはα−リポ酸とL−アスコルビン酸とを併用した溶液との接触(特許文献2);アボカドの果肉練砕加工品への、α−リポ酸と、L−アスコルビン酸および/またはエリソルビン酸との混合(特許文献3);アボカドのカット品について、クエン酸ナトリウム、ミョウバン、α−リポ酸の3成分を含む溶液、あるいはクエン酸ナトリウム、ミョウバン、α−リポ酸、酒石酸ナトリウムの4成分を含む溶液と接触(特許文献4);アボカドのカット品について、酢酸ナトリウムおよびα−リポ酸を含む溶液と接触(特許文献5);アボカドのカット品について、スクロースなどの糖類および亜硫酸ナトリウムなどの酸化防止剤を含む溶液と接触(特許文献6);ならびに、アボカドのカット品について、アスコルビン酸および塩化マグネシウムを含む溶液と接触(特許文献7)。
【0006】
しかし、アボカド果実果肉部の本来の色を損なわせず(例えば、クロロフィルの退色を防ぐ)、かつ風味を損なわずに、アボカド果実果肉部の変色(特に褐変)を防止することのできる添加剤および方法がなお求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−174832号公報
【特許文献2】特開2007−29071号公報
【特許文献3】特開2011−524427号公報
【特許文献4】国際公開第2013/147227号
【特許文献5】国際公開第2014/017616号
【特許文献6】特開2010−124824号公報
【特許文献7】特表2005−530502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アボカド果実加工品の変色を伴う劣化をより効果的に防止することができる製剤および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、α−リポ酸およびコエンザイムQ10を含む、アボカド果実加工品の変色防止剤を提供する。
【0010】
1つの実施形態では、上記変色防止剤は、アスコルビン酸またはその塩をさらに含む。
【0011】
本発明は、アボカド果実加工品の変色防止方法を提供し、この方法は、
アボカド果実の果肉部を、α−リポ酸およびコエンザイムQ10に接触させる工程を含む。
【0012】
1つの実施形態では、上記変色防止方法において、上記接触工程は、上記アボカド果実の果肉部を、α−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸またはその塩と接触させることにより行われる。
【0013】
1つの実施形態では、上記変色防止方法において、上記接触工程は、α−リポ酸およびコエンザイムQ10を含む溶液、あるいは、α−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸またはその塩を含む溶液と、上記アボカド果実の果肉部とを接触させることにより行われる。
【0014】
1つの実施形態では、上記変色防止方法において、上記接触工程は、上記溶液中の浸漬により行われる。
【0015】
1つの実施形態では、上記変色防止方法において、上記接触工程は、上記変色防止剤を用いて行われる。
【0016】
本発明は、アボカド果実加工品の製造方法を提供し、この方法は、
アボカド果実の果肉部を、α−リポ酸およびコエンザイムQ10に接触させる工程を含む。
【0017】
1つの実施形態では、上記製造方法において、上記接触工程は、上記アボカド果実の果肉部を、α−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸またはその塩と接触させることにより行われる。
【0018】
1つの実施形態では、上記製造方法において、上記接触工程は、α−リポ酸およびコエンザイムQ10を含む溶液、あるいは、α−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸またはその塩を含む溶液と、上記アボカド果実の果肉部とを接触させることにより行われる。
【0019】
1つの実施形態では、上記製造方法において、上記接触工程は、上記溶液中の浸漬により行われる。
【0020】
1つの実施形態では、上記製造方法において、上記接触工程は、上記変色防止剤を用いて行われる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、アボカド果実加工品の変色・褐変を伴う劣化をより効果的に防止することができる。α−リポ酸およびコエンザイムQ10の併用、あるいはα−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸またはその塩の併用により、それぞれの成分単独では得られない、アボカド果実加工品の優れた変色防止効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】調製例1〜6のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図2】調製例7〜10のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図3】調製例11〜15のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図4】調製例16〜20のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図5】調製例21〜25のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図6】調製例26〜29のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図7】調製例30〜33のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図8】調製例34〜37のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図9】調製例38〜43のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図10】調製例44〜47のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図11】調製例48〜51のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図12】調製例52〜55のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図13】調製例56〜59のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図14】調製例60〜63のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図15】調製例64〜68のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図16】調製例69〜72のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図17】調製例73〜76のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図18】調製例77〜81のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図19】調製例82〜85のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図20】調製例86〜89のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図21】調製例90〜93のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
図22】調製例94〜97のアボカド処理溶液による浸漬処理後の保管の開始時点(左)、24時間後(中央)、および96時間後(右)の4片のカットされたアボカド果実の外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明においては、α−リポ酸およびコエンザイムQ10、あるいは、α−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸またはその塩を、アボカド果実加工品の変色防止の有効成分として使用する。本明細書中において、「アボカド果実加工品」とは、生鮮または冷凍果実を剥皮および/またはカットしたもの(あるいはさらに種を除去したもの)、アボカド果実果肉の練砕物(例えば、ペースト)などの、果肉部(例えば、いわゆる可食部)が表面に現れるなんらかの処理がなされたものをいう。「変色防止」とは、アボカド果実の果肉部の褐変の抑制、果肉部の本来の色彩の維持(例えば、クロロフィルの化学変化による果肉部の退色の抑制)をいう。以下、まず上記の各成分について説明する。
【0024】
本発明を構成するα−リポ酸は、食品に添加が認められているグレードのものであれば良く、特に限定されない。α−リポ酸はそのまま粉末形態としてもよいが、難水溶性が改善された製剤(例えば、シクロデキストリン包接体)の形態であってもよく、またはα−リポ酸を予めアルコールと水の混合溶媒に溶解した液体としてもよい。α−リポ酸は単独でも変色防止効果を発揮し得るが、コエンザイムQ10との併用、またはコエンザイムQ10およびアスコルビン酸またはその塩との併用により変色防止効果を一層向上し得、例えば、アボカドの果実の褐変抑制の向上、果肉部の退色抑制の向上、果肉部の色を明るく鮮やかなものとする等の利点が得られる。
【0025】
本発明を構成するコエンザイムQ10(「CoQ10」または「CoQ10」ともいう)は、食品に添加が認められているグレードのものであれば良く、特に限定されない。コエンザイムQ10はそのまま粉末形態としてもよいが、難水溶性が改善された製剤(例えば、特開2008−245588号公報に記載されるような乳化剤組成物)の形態であってもよく、またはコエンザイムQ10を予めアルコールと水の混合溶媒に溶解した液体としてもよい。コエンザイムQ10は、単独ではむしろアボカド果実の褐変を促進し得るが、α−リポ酸との併用、またはα−リポ酸およびアスコルビン酸との併用により変色防止効果を発揮し得る。
【0026】
本発明を構成するアスコルビン酸またはその塩は、食品添加物として食品に添加が認められているグレードのものであれば良く、特に限定されない。ここで「アスコルビン酸」は、L−アスコルビン酸であり、また、ビタミンC(V.C)とも呼ばれ得る。アスコルビン酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩およびカルシウム塩、ならびにそれらの組合せが挙げられる。アスコルビン酸またはその塩は、液体状態では不安定であることから粉末形態とすることが好ましいが、製剤化および処理のために添加または混合する形態は問わない。アスコルビン酸またはその塩もまた、α−リポ酸およびコエンザイムQ10との併用により変色防止効果を発揮し得る。「アスコルビン酸またはその塩」とは、アスコルビン酸およびその塩の混合物の場合であってもよい。
【0027】
α−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸またはその塩のいずれも、天然物由来であっても、化学合成品であってもよい。
【0028】
上記各種成分をアボカド果実の果肉部と接触させることにより、変色防止処理がなされ得る。アボカド果実の処理において、これらの成分を粉末形態または液状形態で個々にアボカド果実の果肉部と接触させてもよく、または、これらの成分を含む溶液にアボカド果実の果肉部を接触させてもよい。これらの成分を含む「溶液」とは、α−リポ酸およびコエンザイムQ10(あるいは、さらにアスコルビン酸またはその塩)を、溶媒に溶解させたまたは分散させた状態をいう。
【0029】
各種成分の形態を問わず、各種成分とアボカド果実の果肉部との接触工程は、以下のように行われ得る。アボカド果実の果肉部とα−リポ酸およびコエンザイムQ10とを接触させる工程は、以下のいずれによって行われてもよい:(i)アボカド果実の果肉部を、α−リポ酸およびコエンザイムQ10と一括して接触させる;(ii)アボカド果実の果肉部をα−リポ酸とまず接触させ、次いでコエンザイムQ10と接触させる;(iii)アボカド果実の果肉部をコエンザイムQ10とまず接触させ、次いでα−リポ酸と接触させる;(iv)上記(i)〜(iii)のいずれかを繰り返し行ってもよく、または任意の組合せで行ってもよい。さらにアスコルビン酸またはその塩とも接触させる場合は、上記(i)〜(iv)におけるα−リポ酸またはコエンザイムQ10のいずれかにアスコルビン酸またはその塩が組み合わされ得る。アボカド果実の果肉部に対し、α−リポ酸、コエンザイムQ10、およびアスコルビン酸またはその塩を個々に順次接触させてもよく、順序は問わない。
【0030】
例えば、「溶液」の調製のために、各種成分を個々に溶媒と混合してもよく、またはこれらの成分を含むように予め製剤化したものを溶媒と混合してもよい。個々の成分を溶媒と混合する場合、混合の順序は問わず、順次溶媒と混合してもよく、または一度にまとめて溶媒と混合してもよい。「溶媒」は、各成分が溶解または均一に分散することができ、かつ食品に安全に用いることができる溶媒であればよく、例えば、水、殺菌成分(例えばエタノールまたは次亜塩素酸)を含む水溶液などが挙げられる。好ましくは、溶媒は水である。本発明に用いられる水としては、水道水、イオン交換水、蒸留水などが挙げられるが、特に限定されない。
【0031】
処理対象のアボカド果実の形態は、アボカド果実の果肉部が接触可能な形態であれば、特に制限されない。例えば、予め剥皮および/またはカットした果実、さらに種を除去した果実であってもよいし、あるいはアボカド果実の果肉部の練砕物(フィリングなど)であってもよい。
【0032】
例えば、予め剥皮および/またはカットした果実、さらに種を除去した果実に対しては、処理溶液中の浸漬、溶液の噴霧、溶液塗布(例えば、刷毛塗り)などが挙げられる。浸漬の場合、静置浸漬、攪拌浸漬、振盪浸漬、超音波照射浸漬、紫外線照射浸漬、バブリング浸漬などが挙げられる。攪拌やバブリングを実施することで、処理溶液がアボカド果実の果肉部(特にカット面)と良く接触するため、変色防止効果が得られやすい。接触が浸漬により行われる場合、溶液中に、予め剥皮および/またはカットした果実、あるいは、さらに種を除去した果実を浸漬させ、次いで果実を液切りして回収することにより、変色防止処理がなされた果実が得られる。浸漬処理は、冷蔵から常温(例えば、0℃〜30℃、好ましくは、4℃〜25℃)にて行われ得る。また浸漬時間は、例えば、10秒間〜60分間程度、好ましくは、5分間〜30分間程度である。浸漬時の処理溶液量は、処理の工程、処理されるべきアボカド果実の量などを考慮して適宜設定され得る。溶液のpHは特に限定されず、溶液中の各成分の量に依存して変動し得る。あるいは、練砕物(フィリングなど)に対しては、各種有効成分を個々に、または製剤化したものを、粉砕したアボカド果実の混練時に直接練りこんで使用してもよい。
【0033】
処理溶液(好ましくは水溶液)中のα−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸またはその塩の濃度(「%(w/w)」:本明細書中では、「(水)溶液濃度%」または単に「%」とも称する)は、用いる処理手段、所望の保管期間などの要因を考慮して適宜設定することができる。以下の溶液濃度は溶液中の浸漬の場合であるが、噴霧または塗布の場合はより濃度が濃いものであってもよい。
【0034】
α−リポ酸は、溶液濃度%(好ましくは水溶液濃度%)において、例えば、0.01%〜1%、好ましくは、0.02%〜0.1%である。0.01%未満であると、所望の変色防止効果が得られにくく、1%を超えると、味覚(苦味)の影響により実用性に劣る場合がある。
【0035】
コエンザイムQ10は、α−リポ酸との併用、またはα−リポ酸およびアスコルビン酸またはその塩との併用の下、溶液濃度%(好ましくは水溶液濃度%)において、例えば、0.005%〜0.2%、好ましくは、0.01%〜0.1%である。0.005%未満であると、所望の変色防止効果が得られにくく、0.2%を超えると、調製される処理溶液が濁り、色が濃くなり、アボカド果実と接触させた際、アボカド果実に所望でない着色が生じて実用性が低くなる場合がある。
【0036】
アスコルビン酸またはその塩は、α−リポ酸およびコエンザイムQ10との併用の下、溶液濃度%(好ましくは水溶液濃度%)において、例えば、2%〜20%、好ましくは、4%〜10%である。2%未満であると、所望の変色防止効果が得られにくく、20%を超えると、酸味などが生じることにより風味を低下させ得る。
【0037】
α−リポ酸とコエンザイムQ10との溶液濃度%(好ましくは水溶液濃度%)の割合は、0.01%〜1%(好ましくは0.02%〜0.1%):0.005%〜1%(好ましくは0.01%〜0.1%)であり得る。α−リポ酸とコエンザイムQ10とアスコルビン酸またはその塩との溶液濃度%(好ましくは水溶液濃度%)の割合は、0.01%〜1%(好ましくは0.02%〜0.1%):0.005%〜1%(好ましくは0.01%〜0.1%):2%〜20%(好ましくは4%〜10%)であり得る。上記割合の配合とすることは、変色防止効果および風味の点を考慮して好ましいものであり得る。
【0038】
予め製剤化する場合について、以下に説明する。この製剤が、アボカド果実加工品の変色防止剤となり得る。
【0039】
製剤は、α−リポ酸およびコエンザイムQ10、あるいは、α−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸またはその塩を、変色防止の有効成分として含有するように調製され得る。製剤はさらに、必要に応じて、上記成分以外の製剤化原料として製剤化助剤または賦形剤を含有してもよい。このような助剤または賦形剤として、例えば、食品素材(例えば、食塩、精製塩、並塩、デキストリン、シクロデキストリン、オリゴ糖、糖類、パラチノース、糖アルコールなど、およびそれらの組合せ)が挙げられる。食品素材としては、イソマルツロース、デキストリン、糖アルコール等が好ましい。
【0040】
製剤は、液状製剤であり得る。液状製剤の製造は、当業者が通常用いる方法で行われ得る。液状製剤は、有効成分を、アボカドへの処理の際に変色防止効果を発揮する量(例えば、上述した溶液濃度)で含む溶液となるように調製され得る。あるいは、鮮度保持に用いる際に溶液中の各成分の量がアボカドへの処理の際に変色防止効果を発揮する量となるように希釈を考慮した配合量で調製したものであってもよい。
【0041】
製剤は、使用時に溶媒(好ましくは水)に溶解するまたは分散させる固形製剤であってもよい。固形製剤は、有効成分を、溶媒に溶解または分散させて溶液とした場合に変色防止効果を発揮する量(例えば、上述した溶液濃度)で溶液に含まれる配合量で含むように調製され得る。水に溶解した場合の各成分の濃度が所望の範囲内となるように、希釈率が設定され得る。固形製剤の形態としては、粉末、錠剤などが挙げられる。固形製剤の製造は、当業者が通常用いる方法で行われ得る。
【0042】
製剤中の各種有効成分の組成比は、アボカド果実の変色防止処理に用いる方法、剤型などに依存し得るが、製剤中のα−リポ酸およびコエンザイムQ10の組成比(重量比)は、例えば、1:1〜3:1、好ましくは、1:1〜2:1であり得、そして製剤中のα−リポ酸とコエンザイムQ10とアスコルビン酸またはその塩との組成比は、例えば、0.2:0.1:40〜3.2:1.6:80、好ましくは、0.4:0.2:50〜1.6:0.8:70であり得る。
【0043】
後述の実施例において、製剤として、予め剥皮および/またはカットし、さらに種を除去した果実の浸漬処理に用いた一例(以下の調製例11〜15および69〜76)を示すが、これに限定されない。この製剤の場合、水溶液濃度%は、例えば、3%〜20%であり、好ましくは5%〜10%である。
【0044】
上記変色防止処理において、各種有効成分または製剤とアボカド果実の果肉部との接触後、当該果肉部は特に洗浄(例えば、水洗)等を要することなく、そのまま調理用の材料として使用することができる。
【0045】
必ずしも限定されないが、上記変色防止処理によれば、アボカド果実加工品の変色は、未処理のものと比較して、例えば、24時間〜96時間遅延または防止することができる。また、遅延または防止が望まれる時間に応じて、変色防止処理における各種有効成分の組成およびそれらの溶液濃度などを設定することもできる。
【0046】
上記のように、上記各種有効成分または製剤とアボカド果実の果肉部との接触工程を通じて、変色防止されたアボカド果実加工品を得ることができる。
【0047】
アボカド果実加工品の製造の過程において、上述した通りの各種有効成分または製剤とアボカド果実の果肉部とを接触させる工程を含めることができる。アボカド果実加工品は、そのような接触工程を含む製造方法によって製造され得る。当該方法により製造されたアボカド果実加工品は、変色防止されたものであり得る。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【0049】
以下に示すように、アボカド処理溶液を調製した。
【0050】
(調製例1〜10)
下記の表1に示す水溶液濃度(表中の単位は「%(w/w)」)となるように、水道水に対しα−リポ酸およびコエンザイムQ10を添加してアボカド処理溶液を調製した(調製例2〜10)。なお、コントロールとして処理溶液無添加区(すなわち、アボカド未処理区)を設けたが、便宜上これを「調製例1」と称することとした。
【0051】
【表1】
【0052】
(調製例11〜15)
L−アスコルビン酸ナトリウム、α−リポ酸、コエンザイムQ10および食品素材(イソマルツロース、デキストリン)を順に60重量%、0.8重量%、0.4重量%および38.8重量%となるような割合で粉末混合し、製剤を得た。
【0053】
次いで、下記の表2に示す水溶液濃度(表中の単位は「%(w/w)」)となるように、水道水に対し製剤を溶解して、アボカド処理溶液を得た(調製例11〜15)。
【0054】
(調製例16〜20)
下記の表2に示す水溶液濃度(表中の単位は「%(w/w)」)となるように、水道水に対しL−アスコルビン酸ナトリウムを添加してアボカド処理溶液を調製した(調製例16〜20)。調製例16〜20において、L−アスコルビン酸ナトリウムは、これを含有する製剤としてではなく、その物質自体を水溶液に添加した。表2は、対比のために、調製例16〜20のL−アスコルビン酸ナトリウムの水溶液濃度を調製例11〜15の製剤中に含まれるL−アスコルビン酸ナトリウムの水溶液濃度と共に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
(実施例1:アボカド浸漬処理)
アボカドの皮を剥き、種を取り除き、処理溶液試験区ごとに均一な大きさとなるようにカットした。カットしたアボカド果実(以下、「アボカドカット果実」ともいう)をアボカド処理溶液中に、果実と溶液とが重量比にて1:1となるように20℃にて10分間浸漬した後、液切りを行った。次いで、液切り後の果実をポリスチレン製容器に入れ、冷蔵庫内に10℃にて保管した。保管の開始時点、24時間後、および96時間後に果実の外観を目視観察した。24時間後および96時間後の外観評価を目視にて行い、評価基準は下記の通りとした。目視は、被験者10名により行い、判定結果は、以下の評価基準で採点し、平均点として得た。
【0057】
(外観評価基準)
1 褐変なし(開始時と変化が無く、良好)
2 僅かに変色あり(開始時と比較するとやや変色は見られるが、効果は高い)
3 筋の部分が褐変
4 全体がやや褐変(無添加と同等程度の変色度合い)
5 全体が著しく褐変(無添加より悪い)
したがって、評価点数が低いほど、褐変の程度が低い。
【0058】
調製例1〜20の外観評価の結果を、以下の表3(調製例1〜6)、表4(調製例7〜10)、表5(調製例11〜15)および表6(調製例16〜20)に示す。また、これらの表には、用いたアボカド処理溶液の各成分または製剤の水溶液濃度(表中の単位は「%(w/w)」)および水溶液pHを併せて示す。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
【表6】
【0063】
開始時点、24時間後、および96時間後の4片のカットされたアボカド果実(「アボカドカット果実」)の外観を示す写真を図1(調製例1〜6)、図2(調製例7〜10)、図3(調製例11〜15)および図4(調製例16〜20)に示す。図1図4には、各調製例の組成および水溶液濃度(単位は「%(w/w)」)もまた併せて示す。
【0064】
アボカド果実は、アボカド処理溶液無添加の場合、24時間後に筋の部分が褐変し、そして96時間後には筋だけでなく、一部褐変部分が広がっていた(調製例1)。
【0065】
α−リポ酸単品を含むアボカド処理溶液では、水溶液濃度0.05%以上で果実の褐変の抑制が見られたが、果実は全体的にやや黄色みを帯びていた(調製例2、5および8)。これに対し、α−リポ酸およびコエンザイムQ10を含むアボカド処理溶液では、褐変抑制効果が向上し、鮮やかで明るい色調となった(調製例7および10)。この併用の場合では、24時間であれば、水溶液濃度が共に0.02%の場合でも変色防止効果が得られた(調製例4)。
【0066】
コエンザイムQ10単品を含むアボカド処理溶液においては、褐変抑制は得られなかった(調製例3、6および9)。
【0067】
α−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸ナトリウムを併用して含む製剤については、水溶液濃度が5%〜10%で96時間の褐変抑制効果が得られた(調製例12〜15)。24時間であれば、3%においても褐変抑制効果は得られた(調製例11)。
【0068】
アスコルビン酸ナトリウム単品を含むアボカド処理溶液では、あまり優れた褐変抑制は得られなかった(調製例16〜20)。
【0069】
調製例1〜20の結果より、以下が観察された。α−リポ酸とコエンザイムQ10との併用により、コエンザイムQ10単独ではむしろ褐変を促進するにもかかわらず、α−リポ酸単独よりも優れた変色防止効果が得られ、かつアボカドの果実そのものの色を明るく鮮やかなものとすることができる。さらに、アスコルビン酸ナトリウムもまた単独で褐変を促進する傾向にあるにもかかわらず、α−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸ナトリウムの併用により、一層優れた変色防止効果が得られ得る。
【0070】
(調製例21〜37:種々のα−リポ酸:コエンザイムQ10比率の水溶液の調製)
下記の表7に示す水溶液濃度(表中の単位は「%(w/w)」)となるように、水道水に対しα−リポ酸およびコエンザイムQ10を添加してアボカド処理溶液を調製した(調製例22〜37)。なお、コントロールとして処理溶液無添加区(すなわち、アボカド未処理区)を設けたが、便宜上これを「調製例21」と称することとした。
【0071】
【表7】
【0072】
(調製例38〜63:α−リポ酸:コエンザイムQ10:L−アスコルビン酸ナトリウムの比率を変化させた場合の水溶液の調製)
下記の表8に示す水溶液濃度(表中の単位は「%(w/w)」)となるように、水道水に対しα−リポ酸、コエンザイムQ10およびL−アスコルビン酸ナトリウムを添加してアボカド処理溶液を調製した(調製例39〜63)。なお、コントロールとして処理溶液無添加区(すなわち、アボカド未処理区)を設けたが、便宜上これを「調製例38」と称することとした。
【0073】
【表8】
【0074】
(実施例2:α−リポ酸とコエンザイムQ10との併用によるアボカド浸漬処理)
上記のような調製例21〜37のアボカド処理溶液の試験区を設けたこと以外は、実施例1と同様にアボカド果実(アボカドカット果実)を浸漬処理し、評価した。結果を下記の表9〜表10および図5図8に示す。
【0075】
【表9】
【0076】
【表10】
【0077】
アボカド果実は、アボカド処理溶液無添加の場合、24時間後に筋の部分が褐変し、そして96時間後には筋だけでなく、一部褐変部分が広がっていた(調製例21)。
【0078】
本実施例においては、水溶液濃度0.01%〜0.1%でα−リポ酸単品を含むアボカド処理溶液で、果実の褐変の抑制は見られなかった(調製例22〜25)。水溶液濃度0.01%〜0.1%でコエンザイムQ10単品を含むアボカド処理溶液でも、果実の褐変の抑制は見られなかった(調製例26〜29)。
【0079】
α−リポ酸およびコエンザイムQ10を含むアボカド処理溶液では、特にα−リポ酸の水溶液濃度0.05%の場合にコエンザイムQ10の水溶液濃度を0.01%〜0.1%とした場合に24時間、α−リポ酸の水溶液濃度0.1%の場合にコエンザイムQ10の水溶液濃度を0.01%〜0.1%とした場合に24時間〜96時間にわたり、果実の褐変の抑制が観察された(調製例30〜37)。
【0080】
(実施例3:α−リポ酸とコエンザイムQ10とL−アスコルビン酸ナトリウムとの併用によるアボカド浸漬処理)
上記のような調製例38〜63のアボカド処理溶液の試験区を設けたこと以外は、実施例1と同様にアボカド果実(アボカドカット果実)を浸漬処理し、評価した。結果を下記の表11〜表13および図9図14に示す。
【0081】
【表11】
【0082】
【表12】
【0083】
【表13】
【0084】
アボカド果実は、アボカド処理溶液無添加の場合、24時間後に筋の部分が褐変し、そして96時間後には筋だけでなく、一部褐変部分が広がっていた(調製例38)。
【0085】
L−アスコルビン酸ナトリウム単品を含むアボカド処理溶液では、褐変の抑制は見られなかった(調製例39)。L−アスコルビン酸ナトリウムとα−リポ酸との併用では、α−リポ酸の濃度の向上と共に果実の褐変抑制が見られた(調製例40〜43)。L−アスコルビン酸ナトリウムとコエンザイムQ10との併用では、24時間では果実の褐変の抑制が見られたようであったが、より長期になると褐変が生じた(調製例44〜47)。調製例40〜47においては、果実の褐変抑制が見られたものの、抑制の度合いが十分とはいえず、また果実色自体がやや黄みをおびるものであった。
【0086】
α−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸ナトリウムを併用した場合、α−リポ酸の水溶液濃度0.01%〜0.1%のいずれの場合でも、コエンザイムQ10の水溶液濃度が0.01%〜0.1%であり、L−アスコルビン酸ナトリウムの水溶液濃度を3%とした場合に、24時間後および96時間後の両方ともに、よりよい果実褐変抑制が観察された(調製例48〜63)。特にα−リポ酸の水溶液濃度を0.05%以上とした場合に、α−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸ナトリウムの併用での褐変の抑制が顕著に優れていた(調製例56〜63)。
【0087】
実施例2および3における調製例21〜63の結果からも、α−リポ酸とコエンザイムQ10との併用によるアボカド果実の変色防止効果の向上、およびα−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸ナトリウムの併用による一層優れた変色防止効果が観察された。
【0088】
(調製例64〜68:α−リポ酸:コエンザイムQ10が2:1比率にて濃度を変更した水溶液の調製)
下記の表14に示す水溶液濃度(表中の単位は「%(w/w)」)となるように、水道水に対しα−リポ酸およびコエンザイムQ10を添加してアボカド処理溶液を調製した(調製例65〜68)。なお、コントロールとして処理溶液無添加区(すなわち、アボカド未処理区)を設けたが、便宜上これを「調製例64」と称することとした。
【0089】
【表14】
【0090】
(調製例69〜76:α−リポ酸とコエンザイムQ10とL−アスコルビン酸ナトリウムとを含む製剤および当該製剤の水溶液の調製)
L−アスコルビン酸ナトリウム、α−リポ酸、コエンザイムQ10および食品素材(イソマルツロース)を下記の表15に示す配合(表中の単位は「重量%」)となるように粉末混合し、製剤A〜Dを得た。
【0091】
【表15】
【0092】
次いで、下記の表16に示す水溶液濃度(表中の単位は「%(w/w)」)となるように、水道水に対し製剤を溶解して、アボカド処理溶液を得た(調製例69〜76)。
【0093】
【表16】
【0094】
(調製例77〜97:α−リポ酸とコエンザイムQ10とL−アスコルビン酸ナトリウムとを0.01〜1.0:0.005〜0.5:2〜20の比率で含む水溶液の調製)
下記の表17に示す水溶液濃度(表中の単位は「%(w/w)」)となるように、水道水に対しα−リポ酸、コエンザイムQ10およびL−アスコルビン酸ナトリウムを添加してアボカド処理溶液を調製した(調製例78〜97)。なお、コントロールとして処理溶液無添加区(すなわち、アボカド未処理区)を設けたが、便宜上これを「調製例77」と称することとした。
【0095】
【表17】
【0096】
(実施例4:調製例64〜76によるアボカド浸漬処理)
上記のような調製例64〜76のアボカド処理溶液の試験区を設けたこと以外は、実施例1と同様にアボカド果実(アボカドカット果実)を浸漬処理し、評価した。結果を下記の表18〜表19および図15図17に示す。
【0097】
【表18】
【0098】
【表19】
【0099】
(実施例5:調製例77〜97によるアボカド浸漬処理)
上記のような調製例77〜97のアボカド処理溶液の試験区を設けたこと以外は、実施例1と同様にアボカド果実(アボカドカット果実)を浸漬処理し、評価した。結果を下記の表20〜表22および図18図22に示す。
【0100】
【表20】
【0101】
【表21】
【0102】
【表22】
【0103】
実施例4および5において、処理溶液無添加区(アボカド未処理区)の調製例64および77以外では、少なくとも24時間後には果実の褐変は抑制されていた。特に、調製例68、70〜72、74〜76、81、85、88、89および92〜97においては、96時間後であっても、褐変の抑制が顕著に優れていた。
【0104】
これらの実施例においても、α−リポ酸とコエンザイムQ10との併用によるアボカド果実の変色防止効果の向上、およびα−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸ナトリウムの併用による一層優れた変色防止効果が観察された。α−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸ナトリウムの併用は、これらの各成分を別々に添加して水溶液を調製した場合および混合して製剤化した場合のいずれも、効果が発揮された。
【0105】
上記の通り、実施例1〜5において、α−リポ酸とコエンザイムQ10との併用、またはα−リポ酸、コエンザイムQ10およびアスコルビン酸ナトリウムの併用により、変色防止されたアボカドカット果実を得ることができた。変色防止されたアボカドカット果実は、各成分を別々に添加して水溶液を調製した場合および混合して製剤化した場合の両場合において得られた。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、例えば、アボカドに関する食品製造分野および食品加工分野において有用である。さらに、本発明は、アボカドを材料とする食品を提供または販売し得る店舗(例えば、コンビニエンスストア、スーパーマーケットのバックヤード、ファーストフード店、レストラン等の飲食店)への食品の流通ならびに当該店舗における保管、販売および提供にとって有用である。
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