(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記高分子膜はブロック共重合体を含み、前記ブロック共重合体の1つまたは複数のブロックが前記第1相を構成し、前記ブロック共重合体のその他のブロックが前記第2相を構成することを特徴とする請求項1に記載の表示体。
前記ブロック共重合体はジブロック共重合体であり、前記ジブロック共重合体の一方のブロックが前記第1相を構成し、前記ジブロック共重合体の他方のブロックが前記第2相を構成することを特徴とする請求項2に記載の表示体。
前記ブロック共重合体は、60000以上の重量平均分子量を有し、前記第1相の体積分率が0.35〜0.65の範囲内であることを特徴とする請求項2に記載の表示体。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1の実施形態の表示体は、高分子膜を含み、前記高分子膜は、異なる種類の第1相および第2相が膜厚方向に交互に積層した構造を有し、前記第1相および前記第2相の少なくとも一方が、液体の吸収により膨潤し、乾燥により収縮する性質を有し、高分子膜の一方の表面に、回折、干渉および散乱からなる群から選択される少なくとも1つの光学効果を呈する凹凸構造を有することを特徴とする。
【0019】
図1は、本発明の第1の実施形態の表示体の要部拡大側断面図である。
図2は、本発明の第1の実施形態の表示体の斜視図である。
【0020】
図1および
図2に示すように、表示体1は、任意選択的に設けてもよい基材11と、基材11上の高分子膜6とを含む。高分子膜6は、異なる種類の第1相7および第2相9が、膜厚方向交互に積層した構造を有する。
図1および
図2に示す例では、高分子膜6の基材11とは反対側の表面に、凸部3および凹部5からなる微細な凹凸構造2を有する。
【0021】
高分子膜6が自立性である場合には、基材11を省略することができる。基材11の材料は、表示体1の使用目的にあわせて適宜選択することができる。基材11の材料の例は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート共重合体(PETG)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ガラス、シリコン、およびインジウム−スズ酸化物(ITO)などを含む。基材11は、透明、不透明または反射性であってもよい。また、基材11は、表示体1の使用目的に合わせて、黒色、白色などの任意の色を有することができる。さらに、基材11は、光沢を有してもよいし、光沢を持たなくてもよい。
【0022】
第1相7および第2相9からなる高分子膜6は、好適には、ブロック共重合体を用いて形成することができる。ブロック共重合体は、互いに相溶性の低い2つ以上の異なるポリマーブロックがそれらの末端で結合している高分子である。本発明における「互いに相溶性が低い」とは、χ×N>10.5の式を満たすことを意味する(非特許文献1参照)。ここで、χは、異種のポリマーブロック間で定められるフローリー・ハギンズの相互作用パラメータを表し、Nはブロック共重合体の重合度を表す。
【0023】
このようなブロック共重合体は、この共重合体を相転移温度以上に加熱するアニール処理により、周期的なミクロ相分離構造を自己組織的に形成する。このミクロ相分離構造において、相溶性の低いポリマーブロックは、互いに交じり合わないようにミクロ領域を形成する。そのミクロ領域の寸法は、各ポリマーブロックのポリマー鎖長に依存する。また、どのようなミクロ相分離構造が形成されるかは、ブロック共重合体を形成する各ポリマーブロックの体積分率によって決定される。
【0024】
本実施形態においては、前述の自己組織化現象を用いて、2つの異なる有機相(第1相7および第2相9)が交互に積層した高分子膜6を形成することができる。自己組織化現象を用いる方法以外に、異種の樹脂を同時にフィルム上に押出して積層膜を形成する、多層共押出法を用いて高分子膜6を形成することもできる。しかしながら、多層共押出法においては、一度に形成できる層の数が制限される。したがって、1回の塗布およびアニール処理のみで20以上の相が交互に積層された高分子膜6を形成することができる、自己組織化現象を用いる方法が好ましい。
【0025】
ブロック共重合体には、各ポリマーブロックがそれらの末端において直列に結合した線状ブロック共重合体、各ポリマーブロックが一点で結合したスター型ブロック共重合体などが含まれる。本実施形態においては、いずれのブロック共重合体も使用することができる。本発明においては、2つの異種のポリマーブロックが、それらの末端において結合したジブロック共重合体を用いることが好ましい。
【0026】
本実施形態で用いることができるジブロック共重合体の例は、ポリ(スチレン−b−ポリ乳酸ポリ(スチレン−b−2−ビニルピリジン)、ポリ(スチレン−b−4−ビニルピリジン)、ポリ(スチレン−b−ジメチルシロキサン)、ポリ(スチレン−b−N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(ブタジエン−b−4−ビニルピリジン)、ポリ(スチレン−b−フェロセニルジメチルシラン)、ポリ(ブタジエン−b−メチルメタクリレート)、ポリ(ブタジエン−b−t−ブチルメタクリレート)、ポリ(ブタジエン−b−t−ブチルアクリレート)、ポリ(ブタジエン−b−ジメチルシロキサン)、ポリ(t−ブチルメタクリレート−b−4−ビニルピリジン)、ポリ(エチレン−b−メチルメタクリレート)、ポリ(t−ブチルメタクリレート−b−2−ビニルピリジン)、ポリ(エチレン−b−2−ビニルピリジン)、ポリ(エチレン−b−4−ビニルピリジン)、ポリ(イソプレン−b−2−ビニルピリジン)、ポリ(メチルメタクリレート−b−スチレン)、ポリ(t−ブチルメタクリレート−b−スチレン)、ポリ(メチルアクリレート−b−スチレン)、ポリ(ブタジエン−b−スチレン)、ポリ(イソプレン−b−スチレン)、ポリ(ブタジエン−b−アクリル酸ナトリウム)、ポリ(ブタジエン−b−エチレンオキシド)、ポリ(t−ブチルメタクリレート−b−エチレンオキシド)、ポリ(スチレン−b−ポリアクリル酸)、およびポリ(スチレン−b−メタクリル酸)を含むが、これらに限定されるものではない。
【0027】
前述のジブロック共重合体では、ポリマーブロックの一方が第1相7を形成し、他方が第2相9を形成する。ジブロック共重合体のミクロ相分離によって形成される微細構造(ミクロ相分離構造)は、2つのポリマーブロックの体積分率にも依存する。得られるミクロ相分離構造は、スフィア(球状)構図、シリンダ(柱状)構造、ジャイロイド構造、ラメラ(板状)構造などを含む。ジブロック共重合体がどのようなミクロ相分離構造を呈するかは、フローリー・ハギンズの相互作用パラメータχ、ポリマーの重合度N、およびポリマーブロックの体積分率によって表される相図によって決定される。本実施形態においては、ラメラ構造を有するジブロック共重合体を用いる。なぜなら、
図1および
図2に示すように、第1相7および第2相9のそれぞれが基材11の面内方向(基材11の表面に平行な方向)に配向した板状構造を有し、第1相7および第2相9が基材11の垂直方向(すなわち、高分子膜6の膜厚方向)に交互に積層した構造が実現できるからである。
【0028】
ジブロック共重合体がラメラ構造を有するために、2つのポリマーブロックの体積分率は、0.35〜0.65の範囲内とすることが望ましい。ポリマーブロックの体積分率が0.35未満である場合または0.65以上である場合、スフィア構造またはシリンダ構造が得られ、ラメラ構造を得ることが困難となる。
【0029】
図1および
図2に示す例では、高分子膜6はラメラ構造を有する。ジブロック共重合体を用いる場合、ラメラ構造の繰り返しのパターンサイズ(周期的なパターンのサイズ)は、ジブロック共重合体の分子量に依存する。したがって、ジブロック共重合体の分子量を適宜に選択することにより、周期的なパターンのサイズ、すなわち周期的な相分離構造のサイズを、目標とするサイズに調整することができる。
【0030】
異なる種類の材料からなる第1相7および第2相9が交互に積層された高分子膜6は、スネルの法則およびブラックの法則より導かれる式(1)によって決定される特定の波長λ
1の光を反射する特性を有する。
λ
1=2d(n
12−cos2θ)
1/2 ……(1)
(式中、n
1は第1相7と第2相9との屈折率の比(以下、「相対屈折率」と称する)を表し、dは第1相7または第2相9の厚さを表し、θは反射光の出射角を表す。)本実施形態では、高分子膜6を液体で湿潤された際に、第1相7および第2相9の少なくとも一方に液体が浸入してそれらを膨潤させ、液体が浸入した相の膜厚d、ならびに相対屈折率n
1が変化することによって反射光の波長λ
1が変化し、高分子膜6から可視光領域の反射光(以下、「構造発色」と称する)が出射するようになる。相対屈折率n
1は、湿潤させる液体の絶対屈折率、液体が浸入する前の第1相7および第2相9の絶対屈折率、ならびに、第1相7および第2相9に対する液体の浸入量などによって決定される。したがって、ラメラパターン周期、すなわち高分子膜6を形成する有機ポリマー(ブロック共重合体)の周期的な相分離構造の周期は、可視光領域の反射光が得られる20〜400nmとすることが望ましい。特に、本実施形態では、高分子膜6の膨潤現象を利用することから、20〜50nmのラメラパターン周期を実現できる分子量を有する有機ポリマー(ブロック共重合体)を使用することがより望ましい。20nm以上のラメラパターン周期を得るためには、ブロック共重合体が、60000以上の重量平均分子量を有する必要がある。60000未満の重量平均分子量を用いるブロック共重合体を用いた場合、ラメラパターン周期が20nm以下となり、反射光の波長λ
1が紫外領域内となり、目視確認することができない。
【0031】
また、高分子膜6からの反射光が目視で観察可能な強度を有するために、高分子膜6が10層以上の第1相7および10層以上の第2相9を有するように、高分子膜6の膜厚を設定することが望ましい。特に、反射光が鮮明に観察されること、および自己組織化が進行し易いことの観点から、第1相7および第2相9の層数の合計は、20から50の範囲内であることが好ましい。この層数を実現するために、高分子膜6の膜厚は、400nm〜2000nmの範囲内であることが好ましい。第1相7および第2相9の層数の合計が20未満(すなわち、高分子膜6の膜厚が400nm未満)である場合、反射光の強度が小さくなり、目視で観察することが困難となる。
【0032】
前述のように、ブロック共重合体の自己組織化は、相転移温度以上でアニール(加熱)されることで誘起される。しかしながら、ブロック共重合体の分子量が大きくなるに従って、ブロック共重合体の流動性が低下する。そのため、相分離挙動は鈍くなり、ミクロ相分離構造が形成されにくくなる。そのため、大きな分子量を有するブロック共重合体の自己組織化には、非常に長時間のアニール処理が必要となる。自己組織化現象を促進させるために、ブロック共重合体に親和性のある溶媒蒸気下でアニール処理を行うことができる。溶媒蒸気の存在により、ブロック共重合体の流動性が向上し、自己組織化が促進されることが知られており、アニール時間の短縮および加熱温度の低減が可能となる。
【0033】
溶媒蒸気下のアニール処理で使用する溶媒は、ブロック共重合体に親和性のある溶媒であれば特に限定されない。用いることができる溶媒の例は、クロロホルム、トルエン、テトラヒドロフラン、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(PGMEA)などを含む。
【0034】
また、溶媒蒸気下のアニール処理は、好適には、使用する溶媒の沸点未満の温度で実施される。沸点以上の温度で処理を行った場合、高分子膜6周辺で溶媒が揮発し、溶媒蒸気が十分に高分子膜6内に浸透せず、有機ポリマーの流動性を向上させることができない。
【0035】
次に、高分子膜6の表面に光学特性を発現させる微細な凹凸構造2について説明する。高分子膜6の表面に設けられた凹凸構造2は、回折、干渉および散乱からなる群から選択される少なくとも1つの光学効果を発現させることができる。
【0036】
図3は、周期的な微細凹凸構造が配置されている回折格子13が表面に形成された表示体1の斜視図である。回折格子13とは、自然光などの照明光を照射することで回折波を生じる構造のことを意味する。本実施形態において、「回折格子」は、並行かつ等間隔に複数の溝が配置する通常の回折格子に加え、ホログラムに記録された干渉縞も包含することとする。
図3の回折格子13は、高分子膜6の表面(XY平面)内にて周期的に配列していれば良く、直線構造だけでなく、曲線構造となっていてもよい。回折格子13の凹部の深さ(または、凸部の高さ)は、典型的には0.01μm以上1.00μm以下の範囲内であり、またその格子定数(隣接する凹部または凸部の中心間距離)は、典型的には0.20μm以上5.00μm以下の範囲内である。
【0037】
回折格子13は、入射光である照明光の進行方向に対して特定の方向に強い回折光を射出する。1次回折光の射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、下記式(2)から算出することができる。
l=λ
2/(sinα―sinβ) ……(2)
(式中、lは回折格子の格子定数を表し、λ
2は入射光および回折光の波長を表し、αは透過光又は正反射光の射出角を表す。)1次回折光の射出角βは波長λ
2に応じて変化することから、照明光が白色光の場合、回折格子の格子線に垂直な面内で観察角度を変化させると、目視状態で色の変化を認識することができる。
【0038】
図4は、干渉の光学効果を発現させる微細凹凸構造が配置されている表示体1の斜視図である。高分子膜6の表面に複数の孔15(非貫通)が設けられている。
図4の表示体において、孔15の底面と高分子膜6の主面とで反射された反射光に段差(孔15の深さ)分の位相差が生じ、ある特定の波長領域において干渉することで光の強弱が目視状態で観察される。孔15の形状は、正方形、長方形、円形、または多角形であってもよい。孔15の配列も、ランダムまたは周期的のいずれでもよい。孔15の深さは、典型的には0.10μm以上1.00μm以下の範囲内である。
【0039】
図5は、散乱の光学効果を発現させる微細凹凸構造を配置されている表示体1の斜視図である。高分子膜6の表面に、有限な長さを有する複数の凸構造14が、ランダムな周期で配列されている。ランダムな周期で配列された複数の凸構造14により照射光は散乱され、散乱光を射出する。複数の凸構造14は長辺方向が平行になるように配列されてもよい。その場合、凸構造14の長辺方向とは垂直な方向に指向性を有する散乱光が射出される。また、複数の凸構造14の長辺方向がランダムな向きに配列していてもよい。その場合、無指向性の散乱光が射出される。凸構造14の平均高さは、典型的には0.01μm以上1.00μm以下の範囲でありる。複数の凸構造14の配置間隔は、典型的には0.20μm以上5.00μm以下の範囲内であり、その範囲内でランダムに選択される。
【0040】
図3および
図5に示す凸部からなる微細凹凸構造、ならびに
図4に示す凹部からなる微細凹凸構造は、凹部および凸部を反転しても同様の光学特性を発現することができる。また、
図3、
図4および
図5に示す微細凹凸構造は、高分子膜6の同一面内に同時に複数種の構造が形成されていてもよい。複数種の微細凹凸構造を組み合わせることで、複数の光学特性を有するイメージ像を描くことが可能である。
【0041】
微細凹凸構造は、たとえばその反転パターンを形成した一時的支持体を準備する工程と、一時的支持体の上に有機ポリマーを塗布して、高分子膜を得る工程と、高分子膜をアニーリングする工程と、一時的支持体から高分子膜を剥離する工程とを含む方法によって、形成することができる。あるいはまた、微細凹凸構造は、平坦な表面を有する高分子膜を準備する工程と、高分子膜をパターニングする工程とを含む方法によって、形成することができる。高分子膜のパターニングは、ドライエッチング、インプリントなどの当該技術において知られている任意の技術を用いて実施することができる。
【0042】
また、
図6および
図7に示すように、本実施形態の表示体1は、高分子膜6の表面に光反射層をさらに有してもよい。
図6は、高分子膜6の表面全体を被覆する連続的光反射層19を設けた例を示す。
図7は、複数の貫通孔を有する断続的光反射層21を設けた例を示す。連続的光反射層19または断続的光反射層21を設けることにより、目視によって、微細凹凸構造2に由来する光学効果をより明瞭に観察することが可能となる。その結果、表示体1の意匠性を向上させることが可能となる。連続的光反射層19および断続的光反射層21を形成する材料は、好ましくは、Al、Ag、Au、Ptなどの金属を含む。また、連続的光反射層19および断続的光反射層21の膜厚は、10nm以上100nm以下の範囲内であることが好ましい。なお、連続的光反射層19または断続的光反射層21を通して高分子膜6の構造発色を観察することが想定される場合には、連続的光反射層19および断続的光反射層21の膜厚を30nm以下とすることが好ましい。連続的光反射層19は、従来技術において知られている任意の技術を用いて、高分子膜6の表面に前述の金属を堆積させることによって形成することができる。断続的光反射層21は、最初に連続的光反射層19を形成し、次いで連続的光反射層19の一部を除去することによって形成することができる。断続的光反射層21は、複数の貫通孔が規則的またはランダムに配列した網状パターンを有していてもよい。断続的光反射層21は、回折、干渉および/または散乱のような光学効果を向上させると同時に、その下にある高分子膜6への液体の浸透効率を向上させる。さらに、高分子膜6の一部を部分的に架橋した表示体1についても、連続的光反射層19または断続的光反射層21を設けてもよい。
図10に、高分子膜6の一部を部分的に架橋した表示体1に、連続的光反射層19を設けた例を示す。また、
図11に、高分子膜6の一部を部分的に架橋した表示体1に、断続的光反射層21を設けた例を示す。
【0043】
次に、高分子膜6を湿潤させた際に発現する構造発色のパターニングについて説明する。
【0044】
図8は、高分子膜6の一部を部分的に架橋させた表示体1の要部拡大断面図であり、
図9は、高分子膜6の一部を部分的に架橋させた表示体1の斜視図である。
図8および
図9に示す例では、架橋領域22において高分子膜6の部分的架橋が行われている。架橋領域22において、高分子膜6の第1相7および第2相9の少なくとも一方、あるいは両方が、部分的に架橋されていてもよい。本実施形態においては、高分子膜6を液体で膨潤させることにより式(1)中の相厚dおよび相対屈折率n
1を変化させて、構造発色を発現させる現象を利用している。したがって、
図12に示すように、架橋領域22における第1相7および/または第2相9の液体による膨潤を抑制すると、相厚dの変化が抑制され、構造発色の発現を抑制することができる。言い換えると、架橋領域22をパターニングすることによって、可視光領域の構造発色を発現する領域と、構造発色が抑制される領域とを画定することができる。この効果は、目視観察における構造発色の色コントラストを向上させる点において有効である。なお、表面に微細凹凸構造2を有する高分子膜6を含む表示体1において架橋領域22を設けた場合、高分子膜を液体で膨潤させると、架橋領域22とそれ以外の領域とで高分子膜6の膜厚が変化して、
図12に示すように凸部3および凹部5の相対的位置が変化するため、微細凹凸構造2による光学効果(回折、干渉および/または散乱)が減少または消失する場合がある。この現象も、表示体の真贋判定に利用することができる。
【0045】
高分子膜6中のブロック共重合体は、熱または光によって架橋させることができる。たとえば、ピリジン環またはピロリジン環を含むポリマーブロックを含むブロック共重合体は、光照射により、ピリジン環またはピロリジン環のα位の炭素において架橋することが知られている(非特許文献2参照)。また、ブタジエンから誘導されるポリマーブロックを含むブロック共重合体は、熱重合開始剤または光重合開始剤を混合することにより、熱架橋性または光架橋性を付与することができる。あるいはまた、ヒドロキシル基、アミノ基、イソシアネート基などの反応性置換基を有するポリマーブロックを含むブロック共重合体に対して、反応性置換基に適合する架橋剤、任意選択的に光酸発生剤または光塩基発生剤などを混合することにより、光架橋性を付与することができる。簡便なプロセスを用い、短時間で誘起ポリマーの架橋パターニングが可能である点において、紫外線照射などによる光架橋が特に好ましい。より具体的には、紫外線照射などによる光架橋は、画像状にパターニングした紫外線遮蔽フォトマスクを通した照射により、高分子膜6の微細なパターニングを一括して実施することを可能にする。
【0046】
本実施形態において、高分子膜6の第1相7および第2相9の少なくとも一方のみを架橋させてもよいし、両方を架橋させてもよい。少なくとも、液体の湿潤による膨潤現象を示す相を架橋させる。また、光照射による架橋の場合、光照射は、高分子膜6の表面に対して垂直方向から行ってもよいし、斜め方向から行ってもよい。垂直方向から光照射を行った場合、照射区域(すなわち、架橋区域22)と非照射区域との境界が明確となり、高いコントラスト(はっきりとした輪郭)を有するイメージが得られる。一方、斜め方向から光照射を行った場合、照射区域と非照射区域との境界において、高分子膜6の深さ方向で架橋率のグラデーションが発生する。その結果として、液体湿潤後のイメージは、ソフトな輪郭を有するイメージとなる。
【0047】
次に、高分子膜6における構造発色の波長λの制御方法について説明する。
【0048】
構造発色の波長λを制御する第1の方法は、高分子膜6中の有機ポリマーの架橋率を制御することにより、発色の波長を制御することである。ポリマーの架橋率が増大するほど、高分子膜6が膨潤する際の膨潤率は低下する。そして、膨潤率の低下は、高分子膜の寸法変化(広がりおよび伸び)の抑制をもたらす。膨潤率の低下によって、相厚dの変化が小さくなり、液体による膨潤時の相厚dが小さくなる。前述のように、構造発色の波長λ
1は、式(1)における相厚dの減少に比例して、減少する。言い換えると、膨潤時の相厚dが小さくなると、構造発色は短波長シフトする。以上のことから、ポリマーの架橋率を制御することによって、構造発色の色を選択することが可能となる。
【0049】
紫外線による光架橋を用いる場合、高分子膜6中の有機ポリマーの架橋率は、光照射量によって制御することができる。本実施形態において、構造発色を可視光領域に発現させるには、紫外線照射量を典型的には5mJ/cm
2以上500mJ/cm
2以下の範囲で選択することが望ましい。照射する紫外線の波長領域は、200nmから500nmの範囲内で選択される。また、使用する光源は、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、およびLEDランプを含むが、これらに限定されるものではない。
【0050】
図14に、紫外線照射量と、構造発色の極大波長λとの関係を示す。ここで、膜厚800nmのポリ(スチレン−b−2−ビニルピリジン)(PS−b−P2VP)膜に、種々の照射量の波長365nmの紫外線を照射した。その後に、クロロホルム蒸気存在下、50℃において、12時間にわたって、PS−b−P2VP膜をアニーリング処理した。最後に、得られたPS−b−P2VP膜に水を滴下し、その際に得られた構造発色の極大波長λを測定した。
図14から明らかなように、紫外線照射量の増大とともに、構造発色の極大波長が減少し、構造発色が短波長シフトしていることが分かる。
【0051】
光架橋を行う際に架橋率を成業するための別法として、グレースケールマスクを用いた光照射を用いることができる。グレースケールマスクは、光遮蔽パターンを網点状に形成し、その網点の密度によってサンプルに入射される光量を制御するマスクである。グレースケールマスクを用いた一度の光照射プロセスで、表示体1の同一面内に波長の異なる構造発色パターン(いわゆる、カラー画像)を得ることができる。その結果、表示体1の意匠性は著しく向上する。
【0052】
構造発色の波長λを制御する第2の方法は、異なる液体を高分子膜に湿潤させることである。高分子膜6の膨潤の状態は、高分子膜6(具体的には、第1相7および/または第2相9)と液体との親和性によって変化する。その結果、異なる種類の液体を用いることによって、膨潤時の相厚dが変化する。さらに、液体は、それぞれ固有の屈折率を有する。また、膨潤時に第1相7および/または第2相9に含有される液体の量も変化する。したがって、異なる種類の液体を用いることによって、第1相7および第2相9の相対屈折率n
1も変化する。したがって、相厚dおよび相対屈折率n
1の両方が変化することから、式(1)によって求められる反射光の波長λ
1も変化する。したがって、目的とする構造発色の波長λに合わせて、湿潤に用いる液体を選択することができる。湿潤させる液体は、高分子膜6を形成する有機ポリマーに親和性を有する限り、任意に選択することができる。用いることができる液体の例は、水、アルコール類、および有機溶媒を含む。ただし、高分子膜6のミクロ相分離構造が崩壊すると構造発色は喪失されるため、高分子膜6を構成する有機ポリマーを溶解させる有機溶媒は使用できない。
【0053】
また、構造発色の波長λを制御する第3の方法は、高分子膜6を形成する有機ポリマーを化学的に修飾することである。たとえば、液体の湿潤により膨潤する相を構成するポリマーブロックがピリジン環を含む場合、ピリジン環をプロトン化または4級化することによって、当該相を構成するポリマーブロックに正電荷を付与することができる。正電荷を付与されたポリマーブロックは、正電荷の静電的反発によって、膨潤率が増大する。プロトン化を行う場合、高分子膜にpHを制御した水溶液を作用させることができる。水溶液のpHが低いほどプロトン化率が増大、結果として液体による膨潤時の構造発色は長波長シフトする。用いることができる水溶液は、1以上5以下のpHを有することが望ましい。
【0054】
また、ピリジン環の4級化の手法としては、高分子膜6をハロゲン化アルキルを含む溶液で処理することを含む。この処理によって、ピリジン環の窒素原子がアルキル基によって4級化され、正電荷を帯びる。したがって、4級化率が高くなるほど正電荷による電気的反発が高くなり、構造発色は長波長シフトする。用いることができるハロゲン化アルキルの例は、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、ヨウ化メチル、およびヨウ化エチルを含むが、これに限定されるわけではない。
【0055】
また、本実施形態において、基材11は、高分子膜6との界面あるいはその反対面(基材裏面)側に、光沢のある反射層、あるいは黒色層を有してもよい。これらの層を設けることによって、構造発色の目視観察時の視認性が向上させ、表示体1の意匠性を高めることができる。
【0056】
図1〜
図12において、基材11と高分子膜6の平坦面とが接触し、高分子膜6の微細凹凸構造2が露出している構造を例示してきたが、
図13に示すように、基材11と高分子膜6の微細凹凸構造2とが接触する構成を採ってもよい。高分子膜6の微細凹凸構造2と基材11とを接着する場合、接着剤が微細凹凸構造2の凹部を充填しないことが望ましい。この目的に用いることができる接着剤の例は、静電的あるいは化学的に接着可能な自己組織化単分子膜を含む。さらに、この構成の変形として、基材11と、高分子膜6の微細凹凸構造2上に設けられた連続的光反射層19とが接触してもよい。この場合には、微細凹凸構造2にならって形成される連続的光反射層19の凹部を接着剤が充填してもよい。
【0057】
本発明の第2の実施形態の表示体付き物品は、第1の実施形態に係る表示体を、接着層を介して、物品に貼付したことを特徴とする。
図15に例示する表示体付き物品25は、物品26に、微細凹凸構造2を有する第1の実施形態の表示体1を接着層(不図示)を介して貼付したものである。
【0058】
本実施形態で用いらる物品26は、ICカード、磁気カード、無線カードおよびID(IDentification)カードのようなカード類;紙幣および商品券のような有価証券;真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグ;真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体またはその一部;ならびに、美術品のような高級品を含むが、それらに限定されるものではない。物品26の表示体1が貼付される部分は、透明フィルム、紙、プラスチック、または金属などで形成されていてもよい。
【0059】
本発明の第3の実施形態は、第1の実施形態の表示体、または第2の実施形態の表示体付き物品の真贋を判定する方法であって、(2)前記高分子膜に液体を湿潤させる工程と、(3)前記液体による膨潤により、前記表示体が所望の呈色状態を示すか否かを目視確認する工程とを含むことを特徴とする。
【0060】
最初に、工程(2)として、高分子膜6を液体で湿潤させる。液体による湿潤は、当該技術において知られている任意の手段を用いて実施することができる。用いることができる手段の例は、表示体1または表示体付き物品25の液体への浸漬、表示体1または表示体付き物品25に対する液体の滴下、ならびに、表示体1または表示体付き物品25に対する液体の噴霧を含むが、これらに限定されるものではない。また、本工程で用いる液体は、高分子膜6を形成する有機ポリマーに親和性を有する限り、任意に選択することができる。用いることができる液体の例は、水、アルコール類、および有機溶媒を含む。ただし、高分子膜6のミクロ相分離構造が崩壊すると構造発色は喪失されるため、高分子膜6を構成する有機ポリマーを溶解させる有機溶媒は使用できない。
【0061】
次いで、工程(3)として、液体による膨潤によって、表示体1が所望の呈色状態(より具体的には、高分子膜6の構造発色)を示すか否かを目視で確認する。目視による観察は、表示体1の表面側(高分子膜側)または裏面側(基材側)のどちらから実施してもよい。所望の呈色状態が確認できれば、表示体1または表示体付き物品26を真正品と確認できる。一方、所望の呈色状態が確認できなければ、表示体1または表示体付き物品26を偽造品と確認できる。
【0062】
なお、所望の呈色状態の確認の終了後、表示体1または表示体付き物品26から、湿潤に用いた液体が蒸発していく。その過程で高分子膜6の構造発色が徐々に消失し、液体の蒸発終了時に、表示体1または表示体付き物品26は液体湿潤前の外観を回復する。言い換えると、真贋判定の基準となる構造発色は、真贋判定時のみに出現するステルスパターンであり、真贋判定後はその存在を視認できなくなる。その後、表示体1または表示体付き物品26は、再び本実施形態の方法による真贋判定が可能となる。すなわち、本発明の表示体1または表示体付き物品26は、所望された時点における複数回の真贋判定が可能であり、極めて高い偽造防止効果を有する。
【0063】
また、本実施形態の真贋判定方法は、工程(2)の前に、(1)前記表示体が、回折、干渉および散乱からなる群から選択される少なくとも1つの光学効果を呈することを目視確認する工程をさらに含んでもよい。
【0064】
工程(1)として、微細凹凸構造2に起因する光学効果を呈するか否かを目視で確認する。光学効果を確認できなければ、この時点で、表示体1または表示体付き物品26を偽造品と確認できる。一方、光学効果を確認できれば、表示体1または表示体付き物品26を真正品と一応の判断を下し、引き続いて工程(2)および工程(3)を実施して最終的に真正品であるか否かを判断する。
【0065】
[実施例]
(実施例1)
最初に、PET基材と、レリーフ型ホログラムを形成した微細凹凸構造を有する紫外線硬化樹脂層とを有するマスター版を用意した。微細凹凸構造は、平均周期2μmの回折格子パターンを有した。
【0066】
次に、このマスター版を用いて、高分子膜表面の微細凹凸構造を形成するために使用する転写版の作製を行った。平坦なガラス基材に対して紫外線硬化樹脂を塗布し、その上からマスター版を押圧した。その状態で、メタルハライドランプを用いて300mJ/cm
2の紫外線をマスター版側から照射した。最後に、マスター版を剥離することで微細凹凸構造を有する樹脂層を形成した。続いて、スパッタ法を用いて微細凹凸構造を有する樹脂層の上ITOを堆積させ、膜厚50nmの犠牲層を形成して、転写版を得た。
【0067】
次に、スピンコート法を用いて、転写版のITO犠牲層の上に、ポリ(スチレン−b−2−ビニルピリジン)(PS−b−P2VP)の7%PGMEA溶液を塗布し、膜厚800nmの高分子膜を形成した。使用したPS−b−P2VPは、107000の重量平均分子量および1.05の多分散度を有した。また、PS−b−P2VP中のポリスチレン(PS)ブロックの体積分率は0.52であった。また、スピンコート時の回転数は、400rpmであった
【0068】
次に、高分子膜を形成した転写版を、3mLのクロロホルムを入れたガラス瓶内に配置した。ガラス瓶を12時間にわたって50℃に加熱し、溶媒蒸気存在下でのアニーリング処理を行い、高分子膜を自己組織化させた。
【0069】
次に、アニーリング後の転写版を0.1Mの塩酸水溶液に浸漬し、犠牲層を溶解させて、高分子膜を浮遊させた。最後に、浮遊した高分子膜を平坦面(犠牲層との接触面とは反対側の面)がPET基材と密着するようにすくい上げ、乾燥させて、表示体を得た。
【0070】
得られた表示体のサンプルを紫外線硬化樹脂中に包埋し、ダイヤモンドカッターを備えたミクロトームを用いて表示体を垂直方向に切断した。次いで、表示体の断面を3時間にわたって要素雰囲気に暴露した。得られた断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。得られたSEM写真を
図16に示した。
図16から、高分子膜が、白色層と黒色層とが交互に積層された構造を有することが分かった。白色層は、ヨウ素にて染色されたポリ−2−ビニルピリジン(P2VP)ブロックからなる相であり、黒色層は、PSブロックからなる相である。この結果は、高分子膜が、自己組織化により、2種の相が垂直方向に交互に積層した構造を有することを意味する。
【0071】
また、得られた表示体について、回折格子パターンに由来する回折光パターンを目視により確認することができた。さらに、表示体を純水に浸漬させたところ、高分子膜の膨潤による構造発色に由来する光沢のあるイメージを、表示体全面から目視状態で確認することができた。
【0072】
(実施例2)
実施例1と同様の手順で表示体を作製した。真空蒸着法を用いて、得られた表示体の高分子膜の表面にアルミニウムを堆積させ、膜厚30nmの連続的光反射層を形成した。
【0073】
乾燥状態での目視による観察において、連続的光反射層を備えた表示体は、実施例1の表示体よりも高い光強度を有する回折光パターンを呈した。
【0074】
続いて、連続的光反射層の表面に1%水酸化ナトリウム水溶液を噴霧して、連続的光反射層を、複数の貫通孔を有する断続的光反射層に変換した。乾燥状態での目視による観察において、断続的光反射層を有する表示体は、連続的光反射層を有する表示体と同様に、高い光強度の回折光パターンを呈した。さらに、断続的光反射層を有する表示体に純水を滴下したところ、純粋が滴下された区域において、高分子膜の膨潤による構造発色に由来するイメージを目視で確認することができた。
【0075】
(実施例3)
スパッタ法を用いて石英基板上にCr薄膜を形成し、Cr薄膜をイメージ状にパターニングして紫外線遮蔽マスクを作製した。実施例1と同様の手順で作製した表示体の上に紫外線遮蔽マスクを載置し、メタルハライドランプランプからの紫外線を照射し、高分子膜の一部を架橋させた。紫外線の照射量は、200mJ/cm
2であった。
【0076】
乾燥状態の紫外線照射後の表示体の観察において、回折格子パターンに由来する回折光パターンのみが視認され、紫外線照射によりパターニングされたイメージは視認されなかった。続いて、紫外線照射後の表示体を純水に浸漬させた。純水浸漬後の表示体の観察において、高分子膜の膨潤により光沢のある構造発色が視認できた。加えて、紫外線が照射された領域と紫外線が遮蔽された領域とで異なる波長の発色が観察された。言い換えると、紫外線遮蔽マスクに起因するイメージパターンを目視で観察できた。