(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
繊維強化プラスチック製本体筒を有するプロペラシャフトであって、前記本体筒は、少なくとも最外層から順に、強化繊維を巻き付けたヘリカル巻A層、前記本体筒の回転軸の延在方向に対して70〜90°の巻き角度で強化繊維を巻き付けたフープ巻層を有し、前記本体筒の少なくとも一方の端部には前記フープ巻層を厚肉化した補強部が形成され、前記補強部の最内層には、強化繊維を回転軸の延在方向に対して5〜30°の巻き角度HB(°)で巻き付けたヘリカル巻B層であるクラック防止層が設けられていることを特徴とするプロペラシャフト。
前記ヘリカル巻A層が最外層から順にヘリカル巻層ヘリカル巻A1層及びA2から構成され、前記ヘリカル巻層ヘリカル巻A1層及びA2それぞれの巻き角度をHA1(°)、HA2(°)としたとき、前記ヘリカル巻B層の巻き角度HB(°)と以下式の関係を有する請求項1〜5のいずれかに記載のプロペラシャフト。
HA1(°)≦HB(°)<HA2(°)
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック製の比較的大型のパイプは、軽量で各種機械的物性に優れているので、近年、自動車のプロペラシャフトや工業用の各種回転ロール等に多用されるようになっている。例えば、自動車は、省エネルギーの観点から燃費の向上を目的とした軽量化が強く望まれており、例えば、プロペラシャフト等の軸部品では、その一つの手段として、本体筒を金属製から繊維強化プラスチック製に代替させることが行われている。プロペラシャフトの場合、プロペラシャフトの本体筒を繊維強化プラスチック製とし、その両端部に自在継手として機能する金属部品(この部品をヨークともいう)を接合する構成が採られている。
【0003】
繊維強化プラスチック製の本体筒を効率よく製造する方法として、例えば、フィラメントワインディング法がある。フィラメントワインディング法では、一般に、マンドレルの周囲に樹脂を含浸させた繊維又は繊維束を巻き付けた後、樹脂を硬化させ、その後マンドレルを引き抜くことによって製品、即ち、繊維強化プラスチック製の本体筒が製造される。フィラメントワインディング法で製造された製品の強度は、繊維とマンドレルの軸方向とのなす巻付け角度や繊維の配列状態の影響を大きく受ける。
【0004】
また、繊維強化プラスチック製プロペラシャフトにおいては、本体筒は繊維強化プラスチックで構成されるものの、継手は金属製であるから、全体がスチール製であるプロペラシャフトのように溶接により接合することは不可能である。この本体筒と金属製継手との接合強度についても、上述したような捩り接合強度を達成する必要がある。また、継手圧入部については、圧入による接合強度等を確保するために、本体筒の端部外周に、繊維強化プラスチックの外部補強層を設けることが有効であることが知られている。
【0005】
繊維強化プラスチック製プロペラシャフトの本体筒は、主として繊維強化プラスチック製プロペラシャフトに優れた捩り強度や曲げ剛性を持たせるために、本体筒の軸方向に対して±5〜±45°程度の巻き角度でらせん状に強化繊維束を巻き付けたヘリカル巻層と、主としての接合強度を持たせるために本体筒の軸方向に対して±90°程度の巻き角度で強化繊維束を巻き付けたフープ巻層を組み合わせて形成することが多く行われてきている。
【0006】
自動車のプロペラシャフト等の工業用の各種軸部品等は、繊維強化プラスチック製本体筒の少なくとも一方の端部にヨーク等の金属部材を挿入・接合して用いられる場合が多いため、挿入・接合部の補強向上を図る必要がある。同時に、巻き角度の異なる層間で層間破壊の防止や、マンドレルの周囲に樹脂を含浸させた繊維又は繊維束を巻き付けた後樹脂を硬化させる工程で発生する本体筒の巻かれた層がひび割れる、いわゆるクラックを防止するための各種手段も講じられている。
【0007】
特許文献1(特開2000−318053号公報)では、プロペラシャフトは円筒軸(繊維強化プラスチック製パイプ)と、その両側に接合された金属部品とを備え、この円筒軸と金属部品とがセレーション結合により結合され、セレーションを円筒軸の内周面に食い込ませることで、円筒軸と金属部品とを接合している。具体的には、円筒軸は樹脂が含浸された強化繊維を層状に巻き付けることにより形成され、強化繊維は円筒軸の軸方向に対してなす角度(配向角)が±10度前後で巻かれたヘリカル巻層と、配向角が略90度で巻かれたフープ巻層とを構成し、フープ巻層は円筒軸の端部にのみ形成され、ヘリカル巻層の間に挟まれた状態で配置されている構成が記載されている。
【0008】
特許文献1において、マトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂や曲げ弾性率の高い熱可塑性樹脂等が例示されている。しかし、プロペラシャフト等の円筒軸にはより高い耐久性が要求され、フープ巻層のクラック対策や耐久性向上のためにはマトリックス樹脂の特性が重要であるものの、具体的対策の構成については開示されていない。また層間剥離やクラックが防止でき、耐久性向上のためのフープ巻層とヘリカル巻層間での強化繊維束の巻き角度の好適な関係や、層厚関係についての開示はなされていない。
【0009】
また、特許文献2(特開2003−1717号公報)では、配向角が±5〜15度となるように強化繊維が巻かれたヘリカル巻層と、配向角が80〜90度となるように強化繊維が巻かれたフープ巻層とを有し、ヘリカル巻層は6層巻き付けられ、フープ巻層はヘリカル巻層の4層目と5層目との間に配置された繊維強化プラスチック製筒体の構成が記載されている。
【0010】
特許文献2の構成では、ヘリカル巻層とフープ巻層の接合部は金属部品とFRP製パイプとの接合部から離間するため、ヘリカル巻層とフープ巻層の接合部にかかる応力が小さく抑えられ、FRP製パイプの強度特性が向上できるものの、フープ巻層が本筒体からより外周側に離れることで、繊維強化プラスチック製プロペラシャフト筒体の接合強度が弱くなる場合がある。
【0011】
また、特許文献3(特開平7−91430号公報)では、プロペラシャフトは、本体筒として、内層側に回転軸の延在方向に対し±5°〜±30°のヘリカル巻層、外層側に75°〜90°の一方向巻層が形成されている構成、又は、内層側に回転軸の延在方向に対し±10°〜±45°の有撚糸からなるヘリカル巻層、最外層に±45°〜90°の無撚糸からなる強化繊維層が形成されている構成、がそれぞれ開示され、ヘリカル巻層と一方向巻層との厚み比率が50:1〜10:1の範囲が好ましいことが記載されている。
【0012】
しかし、特許文献3の構成では、単にヘリカル巻層と一方向巻層を設ける構成のため、プロペラシャフト等の円筒軸に対するより高い耐久性を実現するには不十分である。また、層間剥離やクラックが防止でき、耐久性向上のためのフープ巻層とヘリカル巻層間での強化繊維束の巻き角度の好適な関係や、マトリックス樹脂の具体的な特性については開示されていない。
【0013】
また、特許文献4(特開2004−293708号公報)では、繊維強化プラスチック製筒体と金属部品とを一体に接合させた繊維強化プラスチック製プロペラシャフトにおいて、繊維強化プラスチック製筒体には、内周面側の最内層にヘリカル巻層が形成され、両端部において、軸方向強化巻層の外側にヘリカル巻層を備える構成が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について図面を用いながら説明する。なお、本発明は図面によって何ら制限されるものではない。
【0020】
図1は、プロペラシャフト用繊維強化プラスチック製の本体筒1の片側の端部拡大断面図であって、本体筒1は、少なくとも最外層から順に、強化繊維で巻かれたヘリカル巻A層2、本体筒1の回転軸11の延在方向に対して70〜90°の巻き角度で強化繊維が巻かれたフープ巻層3、ガラス不織布、強化繊維からなる布帛、または耐熱性の樹脂フィルムの少なくとも1つを含むクラック防止層4を有する構成である。
【0021】
本発明は、強化繊維で巻かれたヘリカル巻A層を最外層に配置し、次にフープ巻層3を配置することが重要である。これにより、本体筒1の捩り強度の向上及び曲げ剛性を確保することができる。
【0022】
本発明の構成のうち、ヘリカル巻A層2は、詳細は後述するが、本体筒1の回転軸11と平行に近い角度で強化繊維を巻き付けた層である。フープ巻層3は金属製継ぎ手8との接合強度を確保するため、半径方向(回転軸11と直交する方向)に近い巻き角度を有している。そのため、マンドレルに巻き付けた後、マトリックス樹脂を硬化させるにしたがって、繊維の巻き付け方向(回転軸11に対して垂直に近い方向)にまず樹脂の収縮によりクラックの起点が生じ、それが広がってクラックとなる。これに対し、クラック発生の起点となるフープ巻層3の内側、すなわち、本体筒1の最内層に、後述するクラック防止層4を配置することにより、フープ巻層3が熱硬化の際の熱膨張の影響により繊維配向に沿って生じるクラック発生を抑制することができる。
【0023】
フープ巻層3の強化繊維13の巻き角度として、好ましくは本体筒1の回転軸11に対して72〜88°、より好ましくは75〜87°、さらに好ましくは78〜86°である。70°未満の巻き角度となると金属製継ぎ手8の接合強度の確保が難しくなる。
【0024】
クラック防止層4としては、ガラス不織布、強化繊維からなる布帛、または耐熱性の樹脂フィルムの少なくとも1つを使用することが重要である。
【0025】
ガラス不織布は、フープ巻層3と交差する方向に配向した繊維が存在することで、フープ巻層3に生じるクラック発生を抑制することができる。クラック防止層4として機能するガラス不織布としては、一方向材料、マット、クロスが好ましく使用可能である。ガラス不織布を本体筒に設置する場合、あらかじめガラス不織布をマンドレルに設置してからフィラメントワインディング成形を行うことが好ましい。この時、ガラス不織布への樹脂含浸は成形前に別工程を設けて行っても良いし、成形中に巻きつける強化繊維の余剰樹脂を活用することもできる。
【0026】
また、強化繊維からなる布帛は、綾織や平織り等、回転軸11又はその近傍に繊維配向形態を持つ織組織のものを用いることで、フープ巻層3に生じるクラックを押さえ込む機能を発揮することができる。クラック防止層4として使用する強化繊維からなる布帛としては、棉、麻、絹だけでなく、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、セルロース繊維等を原糸とする布、織物が好ましく使用可能である。布帛を本体筒に設置する場合、あらかじめ布帛をマンドレルに設置してからフィラメントワインディング成形を行うことが好ましい。この時、布帛への樹脂含浸は成形前に別工程を設けて行っても良いし、成形中に巻きつける繊維の余剰樹脂を活用することもできる。
【0027】
また、クラック防止層4として機能する耐熱性の樹脂フィルムとしては、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリカーボネイト樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアラミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等が好ましく使用可能である。樹脂フィルムを本体筒に設置する場合、あらかじめ樹脂フィルムをマンドレルにテープで貼り付け後、フィラメントワインディング成形を行う。この時、樹脂フィルムへの樹脂含浸は成形中に巻きつける繊維の余剰樹脂を活用することができる。
【0028】
また、本発明において、本体筒1の少なくとも一方の端部から一定長さの領域に、クラック防止層4、フープ巻層3及びヘリカル巻A層2からなる補強部5を配置することが重要である。補強部5が配置される長さとしては、金属継手8の接合部9の全長と同じか、それよりも長く設置するのが好ましい。これにより金属継手8等の他部材を圧入接合することが可能となる。ここで圧入接合とは、本体筒1と金属継手8を接合させる方法であって、本体筒1の内径よりもわずかに外径の大きな金属継手8に圧力をかけ、本体筒1の内側に押し込み接合することである。
【0029】
本体筒1の補強部6において、クラック防止層4とフープ巻層3との厚み比率が、1:2〜1:20の範囲であることが好ましい。クラック防止層4は、フープ巻層3に生じるクラックを押さえ込むフタの役目を果たし、薄肉でもその役目を十分に発揮させることができる。しかしながら、クラック防止層4とフープ巻層3との厚み比率が1:2よりもフープ巻層3の厚みが薄くなると、フープ層の量が少なくなるので、フープ巻層3による金属継手8を締め付けて締結する力(接合強度)が弱くなり、本体筒1と金属継手8の接合強度が弱くなる場合ある。また、1:20よりもよりもフープ巻層3の厚みが厚くなると、軽量化に反する。厚み比率は好ましくは1:3〜1:18、より好ましくは1:5〜1:15、更に好ましくは1:8〜1:10である。
【0030】
また、本発明において、クラック防止層4の一つとして、フープ巻層3の繊維巻き角と異なる方向に強化繊維を配向させた布帛を用いることも好ましい。具体的には、ヘリカル巻A層と同様の巻角度からなるヘリカル巻層(以下ヘリカル巻B層)とすることが好ましい。すなわち、本体筒1の回転軸11と並行に近い巻き角度に強化繊維12を配置することで、クラック発生に対する防護壁の役目をなしている。
【0031】
ヘリカル巻B層は、本体筒1の回転軸11に対して5〜30°の巻き角度で強化繊維を巻き付けることが好ましい。ヘリカル巻B層の本体筒1の回転軸11に対する巻き角度が5°未満であると、捩り強度の確保が難しくなるととに、フィラメントワインディング成形の性格からマンドレル半径方向に対して繊維に張力が負荷されにくく本体筒1の強度が低下する場合がある。また、ヘリカル巻B層の本体筒1の回転軸11に対する巻き角度が30°を超えるとフープ巻層3のクラック発生に対する防護壁の役目の効果が弱まるとともに曲げ剛性の確保が難しくなる場合がある。前記ヘリカル巻層の巻き角度として、好ましくは本体筒1の回転軸11に対して6〜28°、より好ましくは8〜26°、さらに好ましくは10〜25°である。
【0032】
さらに、ヘリカル巻B層の回転軸11に対する巻き角度をHB(°)、フープ巻層3の回転軸11に対する巻き角度をHP(°)とすると、HP(°)とHB(°)との角度差が40〜85°であることが好ましい。
【0033】
ヘリカル巻B層をフープ巻層3の繊維の巻き角度に対し40°以上開いた角度差で配置することで、クラックの発生を抑制することが出来る。フープ巻層3の角度HP(°)は金属継手8との接合強度を確保するために、70〜90°の範囲にあることが望ましい。一方、ヘリカル巻B層の角度HB(°)は前述したとおり、5〜30°の範囲であることが望ましい。よって、HP(°)とHB(°)の角度差は40°〜85°の範囲にあることが良い。
【0034】
ここで、巻き角度の角度差について説明する。
図2aは、本体筒1の回転軸11に対しクラック防止層4がヘリカル巻層(前述したヘリカル巻B層)の場合における一定の巻き角度で強化繊維12が巻かれた形態の一部を、本体筒1を側面から見た場合の模式図である。ここで、
図2aで示されたヘリカル巻B層の強化繊維12が巻かれている角度HB(°)は、
図2bに示すように、回転軸11(横軸)に対して左回りに計測した角度として示される。
【0035】
図3aは、ヘリカル巻B層の上にフープ巻層3の強化繊維13が一定の巻き角度で巻かれた形態の一部を、本体筒1を側面から見た場合の模式図である。前述した
図2bと同様に、
図3bに示すように、フープ巻層3の強化繊維13が巻かれている角度HP(°)が定義でき、ヘリカル巻B層の角度HB(°)と、フープ巻層3の角度HP(°)との角度の差(
図3bにおいて角度14)を巻き角度の角度差とする。
【0036】
図4aに示すように、ヘリカル巻B層の強化繊維12が、
図2aと相対的に逆の方向に巻かれる場合、強化繊維12が巻かれている角度HB(°)は、
図4bで示すように、回転軸11に対して右回りに計測した角度として示される。すなわち、強化繊維の巻き角度は強化繊維が回転軸と交差する角度が90°以下になるように規定する。
【0037】
図5aに示すようなヘリカル巻B層の強化繊維12とフープ巻層3の強化繊維13が巻かれる場合であっても、ヘリカル巻B層の強化繊維12の角度HB(°)と、フープ巻層3の強化繊維13の角度HP(°)との角度差は、
図5bで示すように、90°以下となる交差角15を角度差とする。
【0038】
また、本発明において、ヘリカル巻A層2の回転軸11に対して強化繊維が巻かれる巻き角度HA(°)は、5〜45°であることが好ましい。ヘリカル巻A層2を配し、巻き角度を45°以下にすることにより本体筒1に捩りトルクが負荷されたときの、高い捩り強度と曲げ剛性を確保することができる。5°未満であると、マンドレル半径方向に対して強化繊維に張力が負荷されにくく本体筒1の強度が低下する場合がある。また、45°を超えると捩り強度の確保が難しくなる場合がある。好ましくは6〜45°、より好ましくは8〜45°さらに好ましくは10〜45°である。
【0039】
本発明において、ヘリカル巻B層の強化繊維12の巻き角度をHB(°)、ヘリカル巻A層2の強化繊維が巻かれる巻き角度をHA(°)とすると、HB(°)<HA(°)であることがより好ましい。
【0040】
本体筒1に捩りトルクが負荷されると、本体筒1には圧縮力がかかり、座屈破壊が起きて想定以下の捩り強度で破壊することがある。ここで、最も圧縮力が作用するヘリカル巻B層に耐圧縮力を持たせることで座屈破壊を抑止することができる。例えば、HB(°)を5°とする等、できるだけヘリカル巻B層の回転軸11に対して小さい角度にすることが、耐圧縮力を発揮できて有利になる。一方、捩り強度を向上させるためには回転軸11に対して45°に近い角度を配することが有利である。しかしながら、一つのヘリカル巻層で耐圧縮性と捩り強度を両立することは困難であるので、ヘリカル巻層を分割し、ヘリカル巻B層の強化繊維の巻き角度よりも大きい巻き角度を有するヘリカル巻A層2を外周側に設置することにより、本体筒1に耐圧縮性と捩り強度との両立を図ることができる。
【0041】
また、本発明において、ヘリカル巻A層2は単一角度でも良いし、2つの巻き角度を有する繊維を配しても良い。特に、ヘリカル巻A層2を最外層側からヘリカル巻A1層とヘリカル巻A2層の2層とし、それぞれの角度をHA1(°)とHA2(°)とした場合、ヘリカル巻B層の巻き角度HB(°)との関係がHA1(°)≦HB(°)<HA2(°)になっていることが好ましい。前述した通り、ヘリカル角度は小さいほど耐圧縮力が高くなり、角度が大きくなると捩り強度が高くなる。前記関係式HA1(°)≦HB(°)<HA2(°)の場合、ヘリカル巻A層2を2層構成にすると捩り強度を負担するヘリカル巻A2層が耐圧縮力を負担するヘリカル巻A1層とヘリカル巻B層に挟まれる積層構成になるので、捩りトルクが負荷された時にかかるヘリカル巻A2層の変形を上下から強固に抑えることができ、より高い捩り強度を発現する。
【0042】
ここで、ヘリカル巻A1層の巻き角度HA1(°)は耐圧縮力を期待するため、ヘリカル巻B層の角度HB(°)と同程度もしくはより小さいことが好ましい。
【0043】
HA1(°)はHB(°)と同様に、本体筒1の回転軸11に対して5〜30°の巻き角度で強化繊維を巻き付けることが好ましく、HA1(°)をHB(°)と類似の角度にすることにより、ヘリカル巻A2層に捩りトルクが負荷されたときの圧縮変形を抑制することができる。ヘリカル巻A1層の巻き角度HA1(°)として、好ましくは本体筒1の回転軸11に対して6〜28°、より好ましくは8〜26°、さらに好ましくは10〜25°である。
【0044】
本発明の本体筒1を有する構成するマトリックス樹脂としては、熱硬化性のエポキシ樹脂を使用することができる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールA 型エポキシ樹脂などを使用することができる。これらのエポキシ樹脂は、単独または2種類以上を併用して使用することができ、さらには液状のものから固体状のものまで使用することができる。
【0045】
さらに、本発明は、フープ巻層3を形成するマトリックス樹脂は、ガラス転移点が185〜230℃のエポキシ系熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0046】
上記ガラス転移点を有するエポキシ系熱硬化性樹脂のマトリックス樹脂の使用により、本体筒1の耐熱性を確保することができる。また、耐熱性の高いマトリックス樹脂は脆性傾向があるが、クラック防止層4を内側に配することにより、硬化時の熱膨張により自由端である本体筒1の内周面側が回転軸11に膨張した際のクラックに対するに対する防護壁の役割を果たすことで、フープ巻層3の回転軸方向11の膨張を抑えられ、フープ巻層3のクラックを抑制できる。
【0047】
ガラス転移点が185℃未満であると、本体筒1の耐熱性に課題が生じる場合がある。また、ガラス転移点が230℃を超えると、本体筒1が脆くなり捩り強度が低下する場合があり、また、硬化時の熱膨張によるクラック発生抑制が困難になる場合がある。ガラス転移点は好ましくは188〜225℃、より好ましくは190〜220℃、更に好ましくは195〜215℃である。
【0048】
また、本発明において、マトリックス樹脂は、脂環式エポキシ樹脂がエポキシ主剤100重量部に対して25重量部以上100重量部以下含まれることが好ましい。マトリックス樹脂として脂環式エポキシのような比較的安価であるが脆性エポキシを使用することで一定の耐熱性を確保でき、かつ製品コスト競争力を下げることなく、クラックを抑制しながら、耐熱性向上の効果がえられ、捩り強度、曲げ剛性を向上させることが出来る。
【0049】
また、本発明において、強化繊維を巻き付けた層に用いるマトリックス樹脂は巻層ごとに変えても良いし、同一でも良い。
【0050】
本発明において、本体筒1は、強化繊維として、炭素繊維やアラミド繊維、ガラス繊維等の一般に高弾性・高強度といわれるその他の繊維を採用してもよく、これら繊維を組み合わせて使用してもよい。この中でもプロペラシャフトに必要な剛性を考慮すると炭素繊維が好ましい。また、フープ巻層やヘリカル巻層に用いられる繊維は同一でも良いし、層ごとに変えても良い。
【0051】
クラック防止層4としては前述したように、ガラス不織布、強化繊維からなる布帛又は耐熱性の樹脂フィルムが好ましい。または強化繊維が回転軸方向に対して5〜30°の巻き角度で巻かれたヘリカル巻B層とすることも好ましい。ガラス不織布、強化繊維からなる布帛又は耐熱性の樹脂フィルムは成形前にマンドレルに巻きつけておくことが望ましい。マンドレルへの巻きつけ方法は必要な長さに切った不織布などをテープでマンドレルに貼り付けたり、ローラーを使って成形に使用する樹脂を不織布などに含浸した後、不織布などをマンドレルに貼り付ける方法がある。また、クラック防止層4が強化繊維の場合、フープ巻層3やヘリカル巻A層2と同じく後述するフィラメントワインディング法でマンドレルに巻きつけても良い。フープ巻層3やヘリカル巻A層2は、フィラメントワインディング法によって成形されていることが好ましい。すなわち、エポキシ樹脂等のマトリックス樹脂を含浸させた炭素繊維束を、給糸ノズルを介して供給し、ローラー等で押し潰して所定の開繊幅として、前述したクラック防止層4の外周に、樹脂含浸させた炭素繊維束を層状に巻き付けたものである。このとき、フープ巻層3の両側端部は、厚肉部とするために厚肉巻きにすることが好ましい。フープ巻層3を巻き終えた後、ヘリカル巻A層を形成する際には、樹脂含浸させた炭素繊維束をマンドレルの全長に亘って巻き付け、マトリックス樹脂を加熱硬化させることで、本体筒1が形成される。
【実施例】
【0052】
以下、実施例によって、本発明の一体化成形体およびその製造方法について具体的に説明するが、下記の実施例は本発明を何ら制限するものではない。
【0053】
(1)クラック発生有無の確認方法
得られた本体筒1の両端部を軸方向に切断し、切断面を研磨紙♯400、♯800、♯1200(Refine tec製)で研磨した後、マイクロスコープ((株)キーエンス製VHX−1000)で観察した。
【0054】
(2)ガラス転移点の測定方法
(1)で製作した本体筒1からダイアモンドカッターを用いて約20mgの試験片を切り出した後、Diamond DSC((株)パーキンエルマージャパン製))を用いて、JIS K7121(2012年版)の示差走査熱量測定法に基づきガラス転移点を測定した。なお、温度条件は20℃で5分間保持した後、40℃/分の速度で300℃まで昇温とした。
【0055】
(3)捩り強度の評価試験方法
得られたプロペラシャフトの捩り評価試験は、トルク検出器21とトルク負荷装置22を具備する
図8に示す捩り評価試験機20によって測定した。
【0056】
両端に継ぎ手23が接合されたプロペラシャフト24を、捩り評価試験機20の固定部フランジ部25に固定した。このとき、一方の可動部フランジ26に設けられた油圧による回転駆動部により、プロペラシャフト24へトルク負荷を作用させた。回転部に角度計を設けておき、変位量もあわせて計測した。他方の固定部フランジ25は試験器ベースに固定され、可動部フランジ部26に連結されたロードセルから破壊時のトルクを検出し、トルクvs角度線図を表示させ破壊時のトルクを読み取った。捩り評価試験は恒温槽でプロペラシャフトを170℃で1時間加熱してから行った。
【0057】
(実施例1)
図1に示すような3層構造の本体筒前駆体を以下の手順で製造した。クラック防止層4としてガラス不織布(オリベスト(株)製、AUO-90)をマンドレルの両端部に1周巻きつけた後、ハンドレイアップで樹脂を含浸させた。ガラス不織布を巻きつけた領域は本体筒1の端部から150mmの長さとし、層厚は0.5mmであった。
【0058】
ガラス不織布の上に強化繊維である炭素繊維束(東レ(株)製“トレカ”(登録商標)T700SC−50C、24000フィラメント)を3本引き揃え、マンドレル直前での3本の炭素繊維束の合計張力を15kgに調整した後、炭素繊維束にマトリックス樹脂を含浸させた。マトリックス樹脂は、硬化剤(日立化成(株)製、MHAC−P)と、硬化促進剤(四国化成工業(株)製、“キュアゾール”(登録商標)2E4MZ)と、エポキシ主剤(ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、jER827)と脂環式エポキシ樹脂(ハンツマン・ジャパン(株)製、CY179)を50:50の重量比で混合したもの)とを106.7:2:100の重量比で調合したものを使用した。マトリックス樹脂を含浸させた炭素繊維束を、マンドレルの軸方向に対して85°の巻き角度でマンドレルの全長にわたり巻き付け、フープ巻層3を得た。フープ巻層3の層厚は0.2mmであった。さらに、本体筒1の端部から150mmの領域に、マンドレルの軸方向に対して85°の巻き角度でフープ巻層3を積層した。フープ巻層3全体の層厚は2.5mmであった。
【0059】
さらに、フープ巻層3の上に、前述のマトリックス樹脂を含浸させた炭素繊維束を、マンドレルの軸方向に対して45°の角度で、本体筒1の全長にわたり、ヘリカル巻A層2を積層した。ヘリカル巻A層2の層厚は3.5mmであった。
【0060】
続いて、得られた本体筒前駆体を加熱炉に投入し、100℃、2時間と180℃、4.5時間の温度条件にてマトリックス樹脂を硬化させ、硬化が完了した後、マンドレルを抜き取った(脱芯)。脱芯後、両端を切り落とし、長さ1000mmの本体筒1を得た。また、
図6に示すように、得られた本体筒1にあらかじめ接合部9にセレーションを設けた金属継手8を本体筒1の両端に圧入しプロペラシャフト24を得た。得られた本体筒のガラス転移温度は200℃であった。
【0061】
表1に積層の各層の構成と素材、各層の特性を示す。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例1において、金属継手8の圧入前の本体筒1のフープ巻層3にはクラックの発生は観察されなかった。また、捩り評価試験において、本体筒1の中央で破壊し、この時の破壊トルクは6000Nmであり、実使用上問題ないレベルであった。
【0064】
(実施例2)
クラック防止層2として、マンドレル上に実施例1と同じ炭素繊維束に、実施例1と同じマトリックス樹脂を含浸させながら、マトリックス樹脂を含浸させた炭素繊維束を、マンドレルの軸方向に対して5°の巻き角度で、本体筒1の全長に相当する長さにわたって巻き付け、ヘリカル巻B層を形成した。ヘリカル巻B層の層厚は0.6mmであった。
【0065】
ヘリカル巻B層の上に、マンドレルの軸方向に対して88°の巻き角度とした以外は、実施例1と同様にフープ巻層3を巻き付けた。
【0066】
さらに、フープ巻層3の上に、含浸させた炭素繊維束を、マンドレルの軸方向に対して10°の角度とした以外は実施例1と同様にして、ヘリカル巻A層2を積層した。
【0067】
続いて、実施例1と同様にして、本体筒1に金属継手8を圧入したプロペラシャフトを得た。
【0068】
実施例2において、金属継手8の圧入前の本体筒1のフープ巻き層3にはクラックの発生は観察されなかった。また、捩り評価試験において、本体筒1の中央で破壊し、この時の破壊トルクは5000Nmであり、実使用上問題ないレベルであった。
【0069】
(実施例3)
クラック防止層2として、強化繊維の巻き角度を10°で積層したヘリカル巻B層を形成した。ヘリカル巻B層は本体筒1の全長に渡り、層厚は1.2mmとした以外は実施例2と同様の条件でヘリカル巻B層を形成した。その後、実施例1と同様の条件で、フープ巻層3およびヘリカル巻A層2を形成した。
【0070】
その後は実施例2と同様にして、本体筒1に金属継手8を圧入したプロペラシャフトを得た。
【0071】
実施例3において、金属継手8の圧入前の本体筒1のフープ巻層3にはクラックの発生は観察されなかった。また、捩り評価試験において、本体筒1の中央で破壊し、この時の破壊トルクは7800Nmであり、実使用上問題ないレベルであった。
【0072】
(実施例4)
クラック防止層2としてヘリカル巻B層を巻き角度を10°とし、層厚を0.6mmとして本体筒1の全長に渡り積層した。その後、実施例2と同様にフープ巻層3を形成した。
【0073】
その後、強化繊維の巻き角度を45°、層厚を3.5mmとしたヘリカル巻A2層を形成した後、更にその外側に、強化繊維の巻き角度を10°、層厚を0.6mmとしたヘリカル巻A1層を形成して、2層構成のヘリカル巻A層とした。そして、実施例2と同様にして、本体筒1に金属継手8を圧入したプロペラシャフトを得た。
【0074】
実施例4において、金属継手8の圧入前の本体筒1のフープ巻き層3にはクラックの発生は観察されなかった。また、捩り評価試験において、本体筒1の中央で破壊し、この時の破壊トルクは8400Nmであり、実使用上問題ないレベルであった。
【0075】
(実施例5)
クラック防止層2としてヘリカル巻B層を形成し、フープ巻層3の積層構成を次のようにした以外は実施例2と同様に製造した。クラック防止層2としてヘリカル巻B層の強化繊維の巻き角度を26°、ヘリカル巻B層は本体筒1の全長に渡り積層した。このとき、ヘリカル巻B層の層厚は1.2mmであった。
【0076】
また、フープ巻層3は、強化繊維の巻き角度を74°とした以外は、実施例2と同様にして、本体筒1に金属継手8を圧入したプロペラシャフトを得た。
【0077】
実施例5において、金属継手8の圧入前の本体筒1のフープ巻層3にはクラックの発生は観察されなかった。また、捩り評価試験において、本体筒1の中央で破壊し、この時の破壊トルクは8500Nmであり、実使用上問題ないレベルであった。
【0078】
(実施例6)
クラック防止層2として、マトリックス樹脂が含浸した強化繊維からなる平織物(AS400S)を用いて、厚みを1mmとした以外は、実施例1と同様にしてプロペラシャフトを得た。
【0079】
実施例6において、金属継手8の圧入前の本体筒1のフープ巻層3にはクラックの発生は観察されなかった。また、捩り評価試験において、本体筒1の中央で破壊し、この時の破壊トルクは6200Nmであり、実使用上問題ないレベルであった。
【0080】
(実施例7)
クラック防止層2として、ポリエチレンテレフタレート樹脂製の耐熱性樹脂フィルム(東レ(株)製、“ルミラー”(登録商標) 品番S10)を用いて、厚みを0.25mmとした以外は、実施例1と同様にしてプロペラシャフトを得た。
【0081】
実施例7において、金属継手8の圧入前の本体筒1の、フープ巻層3にはクラックの発生は観察されなかった。また、捩り評価試験において、本体筒1の中央で破壊し、この時の破壊トルクは7400Nmであり、実使用上問題ないレベルであった。
【0082】
(実施例8)
マトリックス樹脂として、硬化剤(日立化成(株)製、MHAC−P)と、硬化促進剤(四国化成工業(株)製、“キュアゾール”(登録商標)2E4MZ)と、エポキシ主剤(脂環式エポキシ樹脂(ハンツマン・ジャパン(株)製、CY179)のみ)とを106.7:2:100の重量比で調合したものを使用した以外は、実施例1と同様にして本体筒1を得た。
【0083】
実施例8において、金属継手8の圧入前の本体筒1の得られた本体筒のガラス転移温度は230℃であった。また、捩り評価試験において、本体筒1の中央で破壊し、この時の破壊トルクは7600Nmであり、実使用上問題ないレベルであった。
【0084】
(実施例9)
マトリックス樹脂として、硬化剤(日立化成(株)製、MHAC−P)と、硬化促進剤(四国化成工業(株)製、“キュアゾール”(登録商標)2E4MZ)と、エポキシ主剤(ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、jER827)と脂環式エポキシ樹脂(ハンツマン・ジャパン(株)製、CY179)を75:25の重量比で混合したもの)とを106.7:2:100の重量比で調合したものを使用した以外は、実施例1と同様にして本体筒1を得た。
【0085】
実施例9において、金属継手8の圧入前の本体筒1の得られた本体筒のガラス転移温度は185℃であった。また、捩り評価試験において、本体筒1の中央で破壊し、この時の破壊トルクは6500Nmであり、実使用上問題ないレベルであった。
【0086】
(比較例1)
ガラス不織布であるクラック防止層2を用いなかった以外は、実施例1と同じ方法で本体筒1を得た。比較例1において、金属継手8の圧入前の本体筒1のフープ巻層にはクラックの発生が見られ、実使用上問題のあるレベルであった。