特許第6540086号(P6540086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6540086
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】四輪駆動車の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/00 20060101AFI20190628BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20190628BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20190628BHJP
   B60W 10/14 20120101ALI20190628BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20190628BHJP
   B60K 17/344 20060101ALI20190628BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20190628BHJP
   F16H 59/08 20060101ALI20190628BHJP
   F16H 59/70 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   B60W10/00 148
   B60W10/02
   B60W10/06
   B60W10/14
   F02D29/00 C
   B60K17/344 B
   F16H61/02
   F16H59/08
   F16H59/70
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-31909(P2015-31909)
(22)【出願日】2015年2月20日
(65)【公開番号】特開2016-153275(P2016-153275A)
(43)【公開日】2016年8月25日
【審査請求日】2018年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 慎二
【審査官】 神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】 実開平02−043554(JP,U)
【文献】 特開平04−005447(JP,A)
【文献】 特開平05−044515(JP,A)
【文献】 特開平03−003942(JP,A)
【文献】 特開昭63−093632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00〜10/30
B60W 30/00〜50/16
B60K 17/28〜17/36
F16H 59/00〜61/12
F16H 61/16〜61/24
F16H 61/66〜61/70
F16H 63/40〜63/50
F02D 29/00〜29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに接続されるとともにトルクコンバータと変速機構とを有する自動変速機と、前記自動変速機に接続されるとともに高速ギアと低速ギアとを有するトランスファと、を具備した四輪駆動車の制御装置であって、
シフトポジションが非走行レンジで前記トランスファの前記高速ギアと前記低速ギアとのギア切替中に、前記変速機構の入力軸の回転を停止させる変速機制御手段と、
非走行レンジ用の制御値と走行レンジ用の制御値とを有し、前記シフトポジションが前記非走行レンジであって前記ギア切替前は前記非走行レンジ用の制御値を用いて前記エンジンを制御し、前記シフトポジションが前記非走行レンジであっても前記ギア切替中は前記走行レンジ用の制御値を用いて前記エンジンを制御するエンジン制御手段と、を備える
ことを特徴とする、四輪駆動車の制御装置。
【請求項2】
前記非走行レンジ用の制御値及び前記走行レンジ用の制御値には、前記エンジンの目標吸入空気量の値が含まれ、
前記エンジン制御手段が、前記ギア切替中に前記走行レンジ用の目標吸入空気量の値を用いることで前記エンジンの吸入空気量を増大させる
ことを特徴とする、請求項1記載の四輪駆動車の制御装置。
【請求項3】
前記エンジン制御手段は、前記ギア切替の開始時点で前記エンジンの目標吸入空気量を前記走行レンジ用の目標吸入空気量の値よりも大きい値までステップ状に増大させ、前記開始時点から所定時間の経過後に前記走行レンジ用の目標吸入空気量の値に設定する
ことを特徴とする、請求項2記載の四輪駆動車の制御装置。
【請求項4】
前記非走行レンジ用の制御値及び前記走行レンジ用の制御値には、前記エンジンの燃料噴射量の値が含まれ、
前記エンジン制御手段が、前記ギア切替中に前記走行レンジ用の燃料噴射量の値を用いることで前記エンジンの燃料噴射量を増大させる
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の四輪駆動車の制御装置。
【請求項5】
前記非走行レンジ用の制御値及び前記走行レンジ用の制御値には、前記エンジンの目標回転数の値が含まれ、
前記エンジン制御手段が、前記ギア切替中に前記走行レンジ用の目標回転数の値を用いることで前記エンジンの目標回転数を低下させる
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の四輪駆動車の制御装置。
【請求項6】
前記エンジン制御手段が、前記ギア切替の開始時点から前記目標回転数を所定勾配で低下させて前記走行レンジ用の目標回転数の値に設定する
ことを特徴とする、請求項5記載の四輪駆動車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスファを備えた四輪駆動車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、四輪駆動車には、二輪駆動を基本とし、必要に応じて四輪駆動に切替可能な所謂パートタイム式のものや、前後輪の間に差動装置(センターデフ)を持ち、常時四輪駆動状態で走行可能な所謂フルタイム式のものがある(例えば特許文献1)。また、これら二つの方式を組み合わせた四輪駆動車や、高速ギア(ハイギア)と低速ギア(ローギア)とを有するトランスファを備えた四輪駆動車も実用化されている。
【0003】
トランスファは、シフトレバーの操作位置(シフトポジション)がPレンジ又はNレンジであり、且つ、車両が停止しているという条件が成立した場合に、高速ギアと低速ギアとの切り替えが可能となる。この条件の成立時にトランスファのギアを切り替えるための操作部(レバーやスイッチ等)が乗員により操作されると、トランスファに設けられたアクチュエータが作動して高速ギアと低速ギアとが切り替わる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−247159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エンジンとトランスファとの間には、トルクコンバータと変速機構とを内蔵した自動変速機が設けられる。自動変速機は、トルクコンバータによりエンジンの回転を変速機構に伝達するとともにトルクを増大させ、変速機構によりエンジンの回転速度を減速させてトランスファへと伝達する。自動変速機は、シフトポジションがPレンジ又はNレンジのときは、全ての締結要素を開放して、エンジン側(入力側)のトルクがトランスファ側(出力側)へと伝わらないようにする。
【0006】
しかしながら、自動変速機のオイルが低温のときは粘度が高いため、締結要素が開放されていても、エンジン側のトルクがオイルを介してトランスファ側へと伝わってしまうことがある。つまり、シフトポジションがPレンジ又はNレンジであっても、トランスファのギアにトルクが作用した状態となることがある。このようなトルクは引き摺りトルクと呼ばれる。引き摺りトルクが上記のアクチュエータの推力を上回ると、アクチュエータを作動させてもトランスファのギアを切り替えることができないという不具合が生じる。
【0007】
本件は、このような課題に鑑み案出されたもので、高速ギアと低速ギアとを有するトランスファを具備した四輪駆動車の制御装置に関し、高速ギアと低速ギアとの切替時の不具合をなくして円滑にギアを切り替えることを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)ここで開示する四輪駆動車の制御装置は、エンジンに接続されるとともにトルクコンバータと変速機構とを有する自動変速機と、前記自動変速機に接続されるとともに高速ギアと低速ギアとを有するトランスファと、を具備した四輪駆動車の制御装置である。この制御装置は、シフトポジションが非走行レンジで前記トランスファの前記高速ギアと前記低速ギアとのギア切替中に、前記変速機構の入力軸の回転を停止させる変速機制御手段を備える。また、非走行レンジ用の制御値と走行レンジ用の制御値とを有し、前記シフトポジションが前記非走行レンジであって前記ギア切替前は前記非走行レンジ用の制御値を用いて前記エンジンを制御し、前記シフトポジションが前記非走行レンジであっても前記ギア切替中は前記走行レンジ用の制御値を用いて前記エンジンを制御するエンジン制御手段を備える。
【0009】
ここでいう「制御値」とは、予め前記エンジン制御手段が有する(前記エンジン制御手段に設定されている)値であり、車両の所定の運転状態で前記エンジンを最適な状態に制御するための値である。この制御値には、前記エンジンのトルクや回転数を制御するときの制御対象(例えば、燃料の噴射量や噴射タイミング,スロットル開度,過給器の過給圧,バルブタイミングやバルブリフト量など)の値が含まれる。また、「非走行レンジ用の制御値」とは、前記車両の運転状態が、「前記シフトポジションが前記非走行レンジ(Pレンジ又はNレンジ)であって車速がゼロの状態」であるときの制御値である。同様に、「走行レンジ用の制御値」とは、前記車両の運転状態が、「前記シフトポジションが走行レンジ(Dレンジ又はRレンジ)であって車速がゼロの状態」であるときの制御値である。
【0010】
(2)前記非走行レンジ用の制御値及び前記走行レンジ用の制御値には、前記エンジンの目標吸入空気量の値が含まれることが好ましい。この場合、前記エンジン制御手段は、前記ギア切替中に前記走行レンジ用の目標吸入空気量の値を用いることで前記エンジンの吸入空気量を増大させることが好ましい。なお、前記非走行レンジ用の目標吸入空気量の値よりも、前記走行レンジ用の目標吸入空気量の値の方が大きい値に設定されている。
【0011】
(3)この場合に、前記エンジン制御手段は、前記ギア切替の開始時点で前記エンジンの目標吸入空気量を前記走行レンジ用の目標吸入空気量の値よりも大きい値までステップ状に増大させ、前記開始時点から所定時間の経過後に前記走行レンジ用の目標吸入空気量の値に設定することが好ましい。
【0012】
(4)前記非走行レンジ用の制御値及び前記走行レンジ用の制御値には、前記エンジンの燃料噴射量の値が含まれることが好ましい。この場合、前記エンジン制御手段は、前記ギア切替中に前記走行レンジ用の燃料噴射量の値を用いることで前記エンジンの燃料噴射量を増大させることが好ましい。なお、非走行レンジ用の燃料噴射量の値よりも、走行レンジ用の燃料噴射量の値の方が大きい値に設定されている。
【0013】
(5)前記非走行レンジ用の制御値及び前記走行レンジ用の制御値には、前記エンジンの目標回転数の値が含まれることが好ましい。この場合、前記エンジン制御手段は、前記ギア切替中に前記走行レンジ用の目標回転数の値を用いることで前記エンジンの目標回転数を低下させることが好ましい。なお、非走行レンジ用の目標回転数の値よりも、走行レンジ用の目標回転数の値の方が低い値に設定されている。
(6)この場合に、前記エンジン制御手段は、前記ギア切替の開始時点から前記エンジンの目標回転数を所定勾配で低下させて前記走行レンジ用の目標回転数の値に設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
開示の四輪駆動車の制御装置では、ギア切替中に入力軸の回転を停止させることで、トランスファへ伝達される引き摺りトルクを抑制することができ、高速ギアと低速ギアとの切替を円滑に行うことができる。ただし、入力軸の回転を停止させると、エンジンに作用する負荷が増大し、入力軸の回転を復帰させるときにはエンジンに作用する負荷が減少する。このため、エンジン回転数が変動するという新たな課題が発生する。
【0015】
これに対して、開示の制御装置では、ギア切替中はシフトポジションが非走行レンジであるにもかかわらず、走行レンジ用の制御値を用いてエンジンを制御する。これにより、エンジンの負荷の増大や減少に対応したエンジン制御が行われることになるため、エンジン回転数の変動を抑制することができる。なお、シフトポジションが非走行レンジであって高速ギアと低速ギアとを切り替える前は、非走行レンジ用の制御値を用いてエンジンを制御するので、エンジン回転数の変動を招くことはない。
したがって、トランスファの高速ギアと低速ギアとの切替時の不具合をなくして円滑にギアを切り替えることができる。また、エンジン回転数の変動が抑制されるので、ドライブフィーリングを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る制御装置が搭載される四輪駆動車の構成図である。
図2図1の車両に搭載されるエンジンの構成及び制御装置のブロック構成を例示する図である。
図3図1の制御装置の制御内容を説明するためのタイムチャート例であり、(a)はシフトポジション、(b)は駆動モード、(c)は第一制御のON/OFF状態、(d)は変速機構の入力軸の回転数、(e)は引き摺りトルク、(f)は第二制御を実施しない場合のエンジン回転数を示す。
図4図1の制御装置の制御内容を説明するためのタイムチャート例であり、(a)は第一制御のON/OFF状態、(b)は第二制御のON/OFF状態、(c)は第二制御を実施する場合のエンジン回転数、(d)は吸入空気量、(e)は燃料噴射量を示す。
図5図1の制御装置の制御手順を示すフローチャート例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照して、実施形態としての四輪駆動車の制御装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0018】
[1.装置構成]
[1−1.駆動系,制動系]
本実施形態の制御装置は、図1に例示する車両10に搭載される。この車両10は、エンジン20を駆動源とした四輪駆動車である。車両10には、パワートレインとして、エンジン20,変速機40,トランスファ50,フロントデファレンシャル11(以下、フロントデフ11という),リアデファレンシャル12(以下、リアデフ12という)等が設けられる。
【0019】
本実施形態のエンジン20は、ガソリンを燃料とする多気筒のガソリンエンジンである。このエンジン20に設けられる複数の気筒のうちの一つを、図2中に例示する。気筒21内にはピストン22が摺動自在に内装され、ピストン22の往復運動がコンロッド(コネクティングロッド)を介してクランクシャフト23の回転運動に変換される。各気筒21の頂面には吸気ポート24,排気ポート25が設けられ、それぞれのポート開口には吸気弁26,排気弁27が設けられる。吸気ポート24と排気ポート25との間には、点火プラグ28がその先端を燃焼室側に突出させた状態で設けられる。点火プラグ28での点火のタイミング(点火時期)は、後述のエンジンECU2で制御される。
【0020】
吸気ポート24内には、燃料を噴射するインジェクタ29が設けられる。インジェクタ29から吸気ポート24内に供給される燃料噴射量及び燃料噴射タイミングは、エンジンECU2によって制御される。また、インジェクタ29よりも吸気流の上流側には、インテークマニホールド30(以下、インマニ30と呼ぶ)が設けられる。このインマニ30の上流部分には、吸気ポート24側へと流れる空気を一時的に溜めるためのサージタンク31が設けられる。
【0021】
インマニ30の上流側には、スロットルボディ32が接続される。スロットルボディ32の内部には電子制御式のスロットルバルブ33が内蔵され、インマニ30側へと流れる空気量(吸入空気量)がスロットルバルブ33の開度(スロットル開度)に応じて調節される。このスロットル開度(すなわち吸入空気量)は、エンジンECU2によって制御される。スロットルボディ32のさらに上流側には吸気通路34が接続され、吸気通路34のさらに上流側にはエアフィルタ35が介装される。これにより、エアフィルタ35で濾過された新気が吸気通路34,インマニ30を介してエンジン20の各気筒21に供給される。
【0022】
図1図2に示すように、エンジン20のトルク(出力,駆動力)は、エンジン20の出力側に接続された変速機40,トランスファ50等を介して車両10の前輪16F及び後輪16R(以下、これらを車輪16ともいう)に伝達される。変速機40は、運転手によるシフト操作に応じて変速比が設定される自動変速機(AT,Automatic Transmission)であり、トルクコンバータ41と変速機構42とを有する。
【0023】
トルクコンバータ41は、流体を介してエンジン20の回転を変速機構42側に伝達しつつ、トルクを増大させる動力伝達装置である。トルクコンバータ41は、ポンプインペラ,タービンライナ,ステータという三つの羽根車と作動油(ATF,Automatic Transmission Fluid)とをケースの内部に封入した構造を持つ。ポンプインペラの回転軸(トルクコンバータ41の入力軸)はエンジン20の出力軸に接続され、タービンライナの回転軸(トルクコンバータ41の出力軸)は変速機構42側に接続される。また、ステータは、向かい合わせに設けられたポンプインペラとタービンライナとの間に配置され、ケースに対して固定される。
【0024】
変速機構42は、トルクコンバータ41から入力される回転速度を減速して車輪16に伝達するための動力伝達装置である。変速機構42は、遊星歯車機構やクラッチ・ブレーキといった締結要素を内蔵した構造を持つ。図1では、変速機構42に内蔵される機構及び要素の一部を例示する。本実施形態の変速機構42は、入力軸42aと出力軸42bとの断接状態を切り替える第一クラッチ43と、第一クラッチ43よりも入力側に配置された第二クラッチ44及びブレーキ45とを有する。
【0025】
第一クラッチ43は、出力軸42bの入力側端部に接続されるとともに、入力軸42aの出力側端部に対して締結可能に設けられる。なお、出力軸42bの出力側端部はトランスファ50の入力軸50aに接続され、入力軸42aの入力側端部はトルクコンバータ41の出力軸に接続される。第一クラッチ43が入力軸42aと締結すると、入力軸42aの回転が出力軸42bに伝達される。一方、第一クラッチ43が入力軸42aを開放すると、入力軸42aの回転が出力軸42bに伝達されない。
【0026】
第二クラッチ44は、入力軸42aの中間部とブレーキ45とのそれぞれに締結可能に設けられる。ブレーキ45はケースに固定されている。第二クラッチ44が入力軸42a及びブレーキ45の双方に締結すると、入力軸42aの回転が止められる。一方、第二クラッチ44が入力軸42a及びブレーキ45の少なくとも一方を開放すると、入力軸42aの回転は規制されない。なお、変速機構42にはこれら以外の締結要素も含まれる。変速機構42の各締結要素は、後述の変速機ECU1で制御される。
【0027】
変速機構42における変速比は、車室内に設けられたシフトレバーの操作位置(以下、シフトポジションという)に応じて変更される。本実施形態では、図2に示すように、シフトポジションとして、「P(パーキング)レンジ」,「R(リバース)レンジ」,「N(ニュートラル)レンジ」,「D(ドライブ)レンジ」の四種類の操作位置が設定される。Pレンジ及びNレンジはともに、車両10の停止時に選択されるレンジであり、非走行レンジとも呼ばれる。一方、Dレンジは走行レンジとも呼ばれる。また、Rレンジは、車両10を後方に向かって走行させるときに選択されるレンジであり、本実施形態の「走行レンジ」に含まれるものとする。
【0028】
図1に示すように、トランスファ50は、変速機40の出力側に接続され、エンジン20のトルクを前車軸13と後車軸15とに分配する動力分配装置である。トランスファ50は、入力軸50aと同軸上に設けられた中間軸50bと、入力軸50aのトルクが伝達される後輪側の出力軸50c及び前輪側のトランスファスプロケット50dとを有する。出力軸50cは、リアプロペラシャフト14Rを介してリアデフ12に接続される。リアデフ12からは左右一対の後車軸15が延び、これらの後車軸15に左右の後輪16Rがそれぞれ接続される。一方、トランスファスプロケット50dからはフロントプロペラシャフト14Fが延び、その先端部にフロントデフ11が接続される。フロントデフ11からは左右一対の前車軸13が延び、これらの前車軸13に左右の前輪16Fがそれぞれ接続される。
【0029】
トランスファ50は、入力軸50aと中間軸50bとの間に設けられた副変速機構51と、中間軸50bと出力軸50cとの間に設けられたセンターデファレンシャル54(以下、センターデフ54という)とを備える。さらに、トランスファ50は、いずれも副変速機構51とセンターデフ54との間に設けられた切替機構52及びロック機構53を備える。
【0030】
副変速機構51は、変速機40の出力側に接続されたハイロー切替機構であり、例えば複数のギアとカウンタシャフトとカップリングスリーブとから構成される。副変速機構51は、高速ギア(ハイギア)と低速ギア(ローギア)とを有するとともに、二つのギアのうちの何れか一方を動力伝達経路とするアクチュエータを有する。アクチュエータは、副変速機構51を構成する要素の噛み合いを変更して、高速ギア及び低速ギアの何れか一方のみにエンジン20のトルクが伝達されるようにギアを切り替える。このアクチュエータの動作は、変速機ECU1で制御される。副変速機構51が高速ギアに設定されると、入力軸50aの回転が中間軸50bに直接的に伝達される。一方、副変速機構51が低速ギアに設定されると、入力軸50aの回転が減速されて中間軸50bに伝達される。
【0031】
センターデフ54は、前車軸13と後車軸15との回転差を吸収するとともにトルクを分配,伝達するものであり、例えば遊星歯車機構で構成される。切替機構52は、二輪駆動と四輪駆動とを切り替えるものであり、例えばセンターデフ54に連結された複数のクラッチギアとカップリングスリーブとから構成される。また、ロック機構53は、センターデフ54の差動をロックするものであり、例えばセンターデフ54に連結された複数のクラッチギアとカップリングスリーブとから構成される。切替機構52及びロック機構53の状態は、変速機ECU1からの指令に従って動作するアクチュエータにより制御される。このアクチュエータは、副変速機構51のギアを切り替えるアクチュエータを併用してもよいし、これとは別体で設けられたものであってもよい。
【0032】
トランスファ50は、切替機構52により二輪駆動に切り替えられると、変速機40からの入力を後車軸15にのみ出力する。この状態では、車両10は二輪(後輪)駆動状態となる。以下、この状態での車両10の駆動モードを2Hモードという。なお、2Hモードでは、ロック機構53が非作動となり、センターデフ54の差動はロックされない。また、トランスファ50は、センターデフ54がロックされていない状態で切替機構52により四輪駆動に切り替えられると、変速機40からの入力をセンターデフ54のギア比に応じた比率で前車軸13,後車軸15にそれぞれ出力する。この状態では、車両10はセンターデフ54を開放した四輪駆動状態となる。以下、この状態での車両10の駆動モードを4Hモードという。
【0033】
トランスファ50は、センターデフ54がロック機構53によってロックされると直結状態となる。この状態では、入力軸50aからのトルクがセンターデフ54により差動されることなく出力軸50cとトランスファスプロケット50dとに等配分されて伝達される。以下、この状態での車両10の駆動モードをロックモードという。ロックモードには、副変速機構51が高速ギアである場合の高速ロックモード(以下、4HLcモードという)と、副変速機構51が低速ギアである場合の低速ロックモード(以下、4LLcモードという)との二種類が存在する。なお、4HLcモードと4LLcモードとの切り替えは、シフトポジションがPレンジ又はNレンジであって、且つ、車両10が停止しているとき(例えばアイドル時やアイドルストップ時)に行うことができる。
【0034】
フロントデフ11は、左右の前輪16Fの回転差を吸収するとともに、フロントプロペラシャフト14Fから伝達されたトルクを左右に分配,伝達するものである。リアデフ12は、左右の後輪16Rの回転差を吸収するとともに、リアプロペラシャフト14Rから伝達されたトルクを左右に分配,伝達するものである。リアデフ12は、リアデフ12の差動をロックするデフロック機構12Hを備える。デフロック機構12Hは、変速機ECU1からの指令に従って動作するアクチュエータによりリアデフ12をロックして直結状態とする。
【0035】
[1−2.検出系,制御系]
図2に示すように、車両10の車室内には、車両10の駆動モードを設定(選択)するための操作部が設けられ、操作部にはスイッチ3が付設される。操作部は、例えばスイッチやレバーであり、乗員(主に運転手)により切替操作されることで、上記の四つの駆動モード(2Hモード,4Hモード,4HLcモード,4LLcモード)のうちのいずれか一つを設定する。スイッチ3は、操作部で設定された駆動モードに対応するモード信号を変速機ECU1に出力する。
【0036】
車両10には、トランスファ50の状態を検出するギアポジションセンサ4が設けられる。ギアポジションセンサ4は、副変速機構51,切替機構52,ロック機構53のそれぞれのギアやカップリングスリーブ等のポジションから、トランスファ50が四つの駆動モードのうちのどのモードに対応する状態であるかを検出して、これに対応するポジション信号を変速機ECU1に出力する。
【0037】
シフトレバーには、シフトポジションセンサ5が付設される。シフトポジションセンサ5は、シフトポジションを検出してこれに対応する変速レンジのレンジ信号を出力するセンサである。ここでは、シフトレバーがPレンジ,Rレンジ,Nレンジ,Dレンジのどの位置に操作されているかが検出され、各々の操作位置に対応するレンジ信号が変速機ECU1及びエンジンECU2にそれぞれ伝達される。
【0038】
エンジン20のクランクシャフト23の近傍には、エンジン回転数を検出する回転数センサ6が設けられる。吸気通路34には、吸入空気量を検出するエアフローセンサ7が設けられる。また、サージタンク31には、筒内に導入される吸気の圧力を検出するインマニ圧センサ8が設けられる。なお、インマニ30には、吸気中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサや、筒内に導入される直前の吸気の温度を検出する吸気温センサ(図示略)も設けられる。これらのセンサ6〜8等で検出された各情報は、エンジンECU2に伝達される。
【0039】
また、図1及び図2に示すように、車両10には、前車軸13及び後車軸15の回転角をそれぞれ検出する車輪速センサ9が車輪16毎に設けられる。前車軸13及び後車軸15のそれぞれの回転角の単位時間あたりの変化量は、各車輪16の回転数に比例し、スリップが生じていなければ各車輪16の回転数は車輪速(車速)に比例する。各車輪速センサ9で検出された情報は変速機ECU1及びエンジンECU2にそれぞれ伝達される。
【0040】
図2に示すように、車両10には、電子制御装置(ECU,Electronic Control Unit)として、変速機ECU1,エンジンECU2等が設けられる。これらの電子制御装置は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両10に設けられた車載ネットワーク網の通信ラインを介して互いに通信可能に接続される。本実施形態の四輪駆動車の制御装置は、変速機ECU1とエンジンECU2とを含んで構成される。なお、車両10には、変速機ECU1,エンジンECU2の他に、エアコンECUや電装品ECUなど、車両10に搭載される機器(車載機器)を制御するための様々な電子制御装置が設けられる。
【0041】
[2.制御構成]
[2−1.基本構成]
変速機ECU1(変速機制御手段)は、スイッチ3,ギアポジションセンサ4,シフトポジションセンサ5等からの各情報に基づき、変速機40及びトランスファ50を制御する電子制御装置である。変速機ECU1の具体的な制御対象としては、変速機40の変速機構42の各締結要素の締結/開放,トランスファ50のアクチュエータの動作,デフロック機構12Hのアクチュエータの動作等が挙げられる。
【0042】
変速機ECU1は、シフトポジションセンサ5から入力されたレンジ信号に基づき、変速機構42がシフトポジションに対応した状態となるように制御する。また、変速機ECU1は、スイッチ3から入力されたモード信号とシフトポジションセンサ5から入力されたレンジ信号とに基づき、トランスファ50が駆動モードに対応した状態となるように制御する。以下、これら二つの制御を併せて変速機通常制御という。例えば、変速機ECU1は、駆動モードが2Hモードから4Hモードへ切り替えられた場合には、トランスファ50の切替機構52を制御して四輪駆動に切り替える。なお、変速機ECU1は、駆動モードが4HLcモードと4LLcモードとの何れか一方から他方へと切り替えられた場合には、後述の第一制御を実施する。
【0043】
エンジンECU2(エンジン制御手段)は、回転数センサ6,エアフローセンサ7,インマニ圧センサ8等からの各情報に基づき、エンジン20に関する点火系,燃料系,吸排気系,動弁系といった広汎なシステムを総合的に制御する電子制御装置である。エンジンECU2の具体的な制御対象としては、点火プラグ28による点火時期,インジェクタ29から噴射される燃料噴射量や燃料噴射タイミング,スロットル開度等が挙げられる。
【0044】
エンジンECU2は、回転数センサ6で検出される実際のエンジン回転数(以下、実回転数という)が、エンジン回転数の目標値(以下、目標回転数という)となるように、エンジン20を制御する。目標回転数は、例えばアクセルペダルの踏み込み量からエンジン20に対する出力要求を求め、この出力要求を満たすエンジン回転数として算出される。あるいは、後述するように予めエンジンECU2に設定されている値を用いて、運転状態に合った値が目標回転数として設定される。なお、エンジンECU2は、実回転数を目標回転数とする制御は行わずに、アクセルペダルの踏み込み量から求められるスロットル開度となるようにスロットルバルブ33を制御することで、実回転数を変化させてもよい。
【0045】
また、エンジンECU2は、例えば目標回転数に対する実回転数の偏差とエアフローセンサ7で検出された実際の吸入空気量(以下、実吸入空気量という)とを用いて、吸入空気量の学習を行う。あるいは、エンジンECU2は、アイドル用の目標回転数に実回転数が合うように吸入空気量の目標値(以下、目標吸入空気量という)を演算し、それに見合うスロットル開度へと変換してスロットルバルブ33を制御するとともに、演算した目標吸入空気量の学習を行う。エンジンECU2は、このような制御や学習を常時実施する。
【0046】
また、エンジンECU2には、車両10の所定の運転状態でエンジン20を最適な状態に制御するための制御値が予め設定されている。エンジンECU2は、車両10が所定の運転状態の場合には、運転状態に対応した制御値を用いてエンジン20を制御する。この制御値には、エンジン20を制御するときの制御対象(例えば燃料噴射量や燃料噴射タイミング,スロットル開度など)の値が含まれる。本実施形態の制御値には、エンジン20の目標回転数の値,目標吸入空気量の値,燃料噴射量の値が含まれる。
【0047】
また、本実施形態のエンジンECU2には、非走行レンジ用の制御値と、走行レンジ用の制御値とが設定されている。「非走行レンジ用の制御値」とは、車両10の運転状態が、少なくとも「シフトポジションが非走行レンジ(Pレンジ又はNレンジ)であって車速がゼロの状態」であるときの制御値である。同様に、「走行レンジ用の制御値」とは、車両10の運転状態が、少なくとも「シフトポジションが走行レンジ(Dレンジ又はRレンジ)であって車速がゼロの状態」であるときの制御値である。なお、車両10の車載機器(例えばエアコン)の作動状態が異なれば、エンジン20を最適な状態にするための制御値は変化しうるが、本実施形態では車載機器の作動状態については省略するものとする。
【0048】
つまり、本実施形態のエンジンECU2は、シフトポジションがPレンジ又はNレンジであって車速がゼロのときは、非走行レンジ用の制御値を用いてエンジン20を制御する。また、エンジンECU2は、シフトポジションがDレンジ又はRレンジであって車速がゼロのときは、走行レンジ用の制御値を用いてエンジン20を制御する。以下、この制御をエンジン通常制御という。エンジンECU2は、後述の第二制御の実施中を除いて、エンジン通常制御を実施する。
【0049】
本実施形態では、車両10の駆動モードが4HLcモード及び4LLcモードの何れか一方から他方へと切り替えられた場合、すなわちトランスファ50の高速ギアと低速ギアとを切り替える場合に、変速機ECU1及びエンジンECU2が実施する制御について詳述する。以下の説明では、トランスファ50の高速ギアと低速ギアとのギア切替のことをハイロー切替ともいう。また、以下の説明では、図3(a)〜(f)及び図4(a)〜(e)に示すタイムチャートを適宜用いる。
【0050】
[2−2.変速機に対する制御(第一制御)]
まず、変速機ECU1が変速機40に対して実施する制御について説明する。この制御は、トランスファ50のハイロー切替中(ギア切替中)に、変速機40で発生しうる引き摺りトルクの影響を排除するための制御である。以下、この制御を第一制御という。第一制御が実施される場合は、上記の変速機通常制御は実施されない。
【0051】
上記のようにトランスファ50は、シフトポジションがPレンジ又はNレンジであって、且つ、車両10が停止しているときに、4HLcモードと4LLcモードとを切り替えることができる。すなわち、変速機40の締結要素が全て開放され、エンジン側のトルクが締結要素を介してトランスファ50へと伝達されない状態であり、且つ、車速がゼロのときに、副変速機構51の高速ギアと低速ギアとの切替が行われる。
【0052】
しかしながら、変速機40の作動油が低温のときは粘度が高く、締結要素を開放していたとしても、作動油を介してエンジン側のトルクがトランスファ50へと伝達してしまうことがある。このように、締結要素を開放していてもトランスファ50へと伝達されるトルクを、引き摺りトルクと呼ぶ。引き摺りトルクは作動油の粘度が高いほど大きくなる。引き摺りトルクがトランスファ50のアクチュエータの推力を超えてしまうと、ハイロー切替ができなくなる。
【0053】
そこで、本実施形態の変速機ECU1は、トランスファ50よりも上流側が不用意に動かないようにしたうえで、トランスファ50のハイロー切替を行う。具体的には、変速機ECU1は、スイッチ3から入力されたモード信号に基づき4HLcモードと4LLcモードとの切替要求の有無を判定し、切替要求があれば第一制御を実施する。第一制御とは、トランスファ50のハイロー切替中(副変速機構51の高速ギアと低速ギアとのギア切替中)に、変速機構42の第二クラッチ44を入力軸42a及びブレーキ45の何れとも締結させて、変速機40のインプットシャフト(すなわち変速機構42の入力軸42a)の回転を強制的に停止させる制御である。
【0054】
4HLcモードと4LLcモードとの切替要求の判定では、乗員が操作部を操作して4HLcモードと4LLcモードとの何れか一方から他方へと切り替えた場合に、切替要求があると判定される。すなわち、切替要求があると判定されるのは、操作部に対する切替操作があった時点である。なお、この切替操作以外の場合には、切替要求がないと判定される。変速機ECU1は、切替要求がないと判定した場合には、上述の第一制御を実施せず、上述の変速機通常制御を実施する。
【0055】
例えば、図3(a)〜(c)に示すように、シフトポジションがPレンジ又はNレンジで停車している時刻t0に、駆動モードが4HLcモードから4LLcモードに切り替えられたとする。変速機ECU1は、この時刻t0に切替要求があると判定し、ハイロー切替を開始するとともに、第一制御を開始する(第一制御をONとする)。つまり、時刻t0がハイロー切替の開始時点及び第一制御の開始時点となる。
【0056】
図3(d)及び(e)に示すように、変速機構42の入力軸42aの回転数は、第二クラッチ44の締結状態が強められると、時刻t0から所定勾配で低下して(すなわち、傾きが負の一次関数状に変化して)、時刻t1にゼロとなる。これに伴い、トランスファ50へと伝達される引き摺りトルクも小さくなり、図中一点鎖線で示す副変速機構51のアクチュエータの推力を下回って一定となる。つまり、第一制御の実施により、トランスファ50への引き摺りトルクの伝達が抑制され、ハイロー切替が円滑に行われる。また、ハイロー切替中における副変速機構51のギア鳴りが防止される。
【0057】
変速機ECU1は、ギアポジションセンサ4から入力されるポジション信号に基づき、ハイロー切替が完了したか否かを判定する。そして、時刻t2にハイロー切替が完了したと判定した場合、この時点で第一制御を終了する。これにより、第二クラッチ44の締結状態が弱められて、変速機構42の入力軸42aの回転数が時刻t2から徐々に上昇し、第一制御を実施する前の状態に戻る。
【0058】
[2−3.エンジンに対する制御(第二制御)]
次に、エンジンECU2がエンジン20に対して実施する制御について説明する。この制御は、上述の第一制御の実施により、エンジン20の実回転数が変動することを抑制するための制御である。以下、この制御を第二制御という。第二制御が実施される場合は、上述のエンジン通常制御は実施されない。
【0059】
ここで、第一制御の実施によりエンジン20の実回転数が変動する理由を、図3(f)を用いて説明する。第一制御では、上述のように変速機構42の入力軸42aの回転が強制的に止められる。このときエンジン20は作動していることから、トルクコンバータ41でのトルク損失が増大し、結果的にエンジン20に作用する負荷が増大する。この負荷は、入力軸42aの回転数が低下するに連れて増大し、入力軸42aが停止したところで一定となる。
【0060】
図3(f)に示すように、エンジン20の実回転数は、エンジン20の負荷が増大することで低下し、目標回転数よりも低い回転数となる。ここで、上述のようにエンジンECU2は、実回転数が目標回転数となるようにエンジン20を制御しているため、第一制御に起因して低下した実回転数は目標回転数に近づくように上昇し、やがて目標回転数となる。しかしその後、時刻t2に第一制御が終了すると、第二クラッチ44が開放されて入力軸42aが再び回転し始める(入力軸42aの回転が復帰する)。これに伴い、エンジン20に作用する負荷が減少するため、今度はエンジン20の実回転数が吹き上がる。このように、第一制御の実施に伴って、エンジン20の負荷が変動することから、実回転数も変動する。
【0061】
そこで、本実施形態のエンジンECU2は、変速機ECU1により第一制御が実施されるハイロー切替中に、エンジン20の負荷が変動したとしても実回転数は変動しないようにするために、第二制御を実施する。具体的には、トランスファ50のハイロー切替中(副変速機構51の高速ギアと低速ギアとのギア切替中)に、走行レンジ用の制御値を用いてエンジン20を制御する。走行レンジ用の制御値は、上述したように、通常はシフトポジションがDレンジ又はRレンジのときに用いられる制御値であるが、本実施形態のエンジンECU2は、シフトポジションがPレンジ又はNレンジであってもハイロー切替中であれば、走行レンジ用の制御値を使ってエンジン20を制御する。
【0062】
これは、第一制御の実施中にエンジン20に作用する負荷と、シフトポジションがDレンジで停車するときにエンジン20に作用する負荷とが同様に変化するからである。シフトポジションがDレンジのときは、変速機構42の第一クラッチ43が締結されるとともに、Dレンジに対応した締結要素が締結される。また、車両10が停止するときは車輪16が止まり、出力軸42bの回転が停止する。つまり、Dレンジで停車するときも、エンジン20が作動した状態で入力軸42aの回転が止められることから、上述の第一制御のときと同様に、エンジン20に作用する負荷が変動することとなる。
【0063】
走行レンジ用の制御値は、このように負荷が変動したとしてもエンジン20が最適な状態となるように(すなわち実回転数が変動しないように)予め設定されている。そのため、本実施形態のエンジンECU2は、第一制御が実施されるハイロー切替中に、エンジン通常制御から第二制御(すなわち、走行レンジ用の制御値を用いたエンジン制御)に切り替えることで、負荷が変動したとしても実回転数が変動しないようにする。
【0064】
上記のように、本実施形態の制御値には、エンジン20の目標回転数,目標吸入空気量,燃料噴射量のそれぞれの値が含まれる。また、エンジンECU2には、非走行レンジ用の制御値と走行レンジ用の制御値とが設定されている。例えば、走行レンジ用の目標回転数の値NeDは、非走行レンジ用の目標回転数の値NeNよりも低い値に設定されている。また、走行レンジ用の目標吸入空気量の値QD及び燃料噴射量の値FDはそれぞれ、非走行レンジ用の目標吸入空気量の値QN及び燃料噴射量の値FNよりも大きな値に設定されている。
【0065】
したがって、エンジンECU2は、シフトポジションがPレンジ又はNレンジでトランスファ50のギアを切り替えるときには、走行レンジ用の上記の制御値を用いることで、エンジン20の目標回転数を低下させるとともに、実吸入空気量及び燃料噴射量を増大させる。
図4(a)〜(e)に示すように、エンジンECU2は、第一制御が開始される時刻t0よりも前(シフトポジションがPレンジ又はNレンジであってギア切替前)では、非走行レンジ用の制御値を用いてエンジン20を制御する。そして、図4(a)及び(b)に示すように、時刻t0に第一制御が開始されると、エンジンECU2は、この時刻t0に第二制御を開始し、ギア切替中は走行レンジ用の制御値を用いてエンジン20を制御する。
【0066】
具体的には、図4(c)に示すように、ハイロー切替の開始時点である時刻t0からエンジン20の目標回転数を所定勾配で低下させ、入力軸42aの回転が止まった時点である時刻t1に走行レンジ用の目標回転数の値NeDに設定する。時刻t1は、時刻t0から予め設定された所定の時間だけ経過した時間である。なお、入力軸42aの回転数を検出するセンサを設け、実際に入力軸42aの回転数がゼロになった時刻を検出してもよい。
【0067】
また、図4(e)に示すように、燃料噴射量を時刻t0から所定勾配で増大させて、時刻t1に走行レンジ用の燃料噴射量の値FDに設定する。本実施形態のエンジンECU2は、目標回転数及び燃料噴射量を第一制御の終了時点である時刻t2からそれぞれ所定勾配で変化させ、元の値に戻す。なお、目標回転数及び燃料噴射量が、時刻t1からずれた時点で走行レンジ用の制御値に設定されてもよい。
【0068】
ここで、目標回転数及び燃料噴射量をそれぞれ所定勾配で変化させるのは、エンジン20の負荷の変化に合わせるためである。エンジン20の負荷は、第一制御の開始,終了と共に一気に変化するのではなく、入力軸42aの回転数の低下,上昇に伴って徐々に変化する。このため、目標回転数及び燃料噴射量をこの変化に合わせて徐々に(所定勾配で)変化させることで、ハイロー切替中のエンジン20の実回転数の変動が効果的に抑制される。
【0069】
また、エンジンECU2は、図4(d)に破線で示すように、時刻t0に目標吸入空気量を走行レンジ用の目標吸入空気量の値QDよりも大きい値までステップ状に増大させ、時刻t0から所定時間tAの経過後に走行レンジ用の目標吸入空気量の値QDに設定する。これは、吸気遅れの影響を考慮したものである。つまり、ハイロー切替を開始したのち、気筒21内に導入される実吸入空気量(図中実線)が、エンジン20の負荷の変化に合うように、時刻t0から所定時間tAの間だけ、走行レンジ用の目標吸入空気量QDよりも多くの空気を吸入する。なお、所定時間tA及びこの所定時間tAにおける目標吸入空気量の値は、吸気遅れを考慮して予め設定される。
【0070】
[3.フローチャート]
図3は、上述の第一制御及び第二制御の手順を例示するフローチャートであり、所定の演算周期で繰り返し実行される。
ステップS1では、変速機ECU1及びエンジンECU2に各種情報が入力される。ステップS2では、4HLcモードと4LLcモードとの切替要求の有無を判定し、切替要求があれば(操作部に対する切替操作があれば)ステップS3へ進み、切替要求がなければステップS9へ進む。
【0071】
ステップS3では、変速機ECU1からトランスファ50のアクチュエータへハイロー切替の指令が送信されてハイロー切替が開始される。続くステップS5では、変速機ECU1により第一制御が開始される(第一制御をONとする)。そして、ステップS6では、エンジンECU2により第二制御が開始される(第二制御をONとする)。これにより、ハイロー切替が円滑に行われるとともに、エンジン20の実回転数の変動が抑制される。
【0072】
ステップS6では、変速機ECU1によりハイロー切替が完了したか否かが判定される。ハイロー切替が完了していなければこのフローをリターンする。次の周期では、ステップS2からステップS9へと進み、ステップS9において第一制御の実施中であるか否かが判定される。この場合、第一制御を実施しているため、ステップS6へ進んで、ハイロー切替の完了判定が行われる。つまり、ハイロー切替が完了するまでの間、第一制御及び第二制御が実施されることとなる。そして、ステップS6でハイロー切替が完了したと判定されると、ステップS7へ進み、第一制御が終了され、続くステップS8で第二制御からエンジン通常制御へと切り替えられて、このフローをリターンする。
【0073】
[4.効果]
(1)上述の四輪駆動車の制御装置では、トランスファ50の高速ギアと低速ギアとの切替中に入力軸42aの回転を停止させることで、トランスファ50へ伝達される引き摺りトルクを抑制することができる。これにより、高速ギアと低速ギアとの切替を円滑に行うことができる。ただし、上述したように、入力軸42aの回転を停止させると、エンジン20に作用する負荷が増大する。また、入力軸42aの回転を復帰させるときにはエンジン20に作用する負荷が減少する。このようなエンジン20の負荷の変化に伴ってエンジン20の実回転数が変動するという新たな課題が発生する。
【0074】
これに対して、上述の制御装置では、ギア切替中はシフトポジションがPレンジ又はNレンジであるにもかかわらず、走行レンジ用の制御値を用いてエンジン20を制御する。これにより、エンジン20の負荷の増大や減少に対応したエンジン制御が行われることになるため、エンジン20の実回転数の変動を抑制することができる。なお、シフトポジションがPレンジ又はNレンジであって高速ギアと低速ギアとを切り替える前は、非走行レンジ用の制御値を用いてエンジン20を制御するので、実回転数の変動を招くことはない。
【0075】
したがって、上述の制御装置によれば、トランスファ50の高速ギアと低速ギアとの切替時の不具合をなくして円滑にギアを切り替えることができる。また、エンジン20の実回転数の変動が抑制されるので、ドライブフィーリングを改善することができる。なお、ギア切替中のエンジン20の実回転数の変動が抑制されることで、実回転数を用いた吸入空気量の学習精度を高めることもできる。
【0076】
(2)上述の制御装置では、エンジンECU2が、ギア切替中に走行レンジ用の目標吸入空気量の値QDを用いることでエンジン20の気筒21内に実際に導入される空気量(実吸入空気量)を増大させる。これにより、ギア切替中のエンジン20の負荷の増大に対応することができ、エンジン20の実回転数の変動を抑制することができる。
【0077】
(3)特に、上記のエンジンECU2は、ギア切替の開始時点で目標吸入空気量を走行レンジ用の目標吸入空気量の値QDよりも大きな値までステップ状に増大させ、所定時間tAの間はこの値を保持している。これにより、吸気遅れの影響を排除して実吸入空気量をエンジン20の負荷の変動に対応するように変化させることができる。これにより、ギア切替中のエンジン20の実回転数の変動を効果的に抑制することができる。
【0078】
(4)上述の制御装置では、エンジンECU2が、ギア切替中に走行レンジ用の燃料噴射量の値FDを用いることでエンジン20の燃料噴射量を増大させる。これにより、ギア切替中のエンジン20の負荷の増大に対応することができ、エンジン20の実回転数の変動を抑制することができる。
【0079】
(5)上述の制御装置では、エンジンECU2が、ギア切替中に走行レンジ用の目標回転数の値NeDを用いることでエンジン20の目標回転数を低下させる。ギア切替中は、入力軸42aの回転を止めることでエンジン20の負荷が増大することから、エンジン20の実回転数は低下する。このため、ギア切替中に走行レンジ用の目標回転数の値を用いて目標回転数を低下させることで、目標回転数と実回転数との差を小さくすることができる。これにより、実回転数を目標回転数に収束させやすくすることができ、実回転数の変動をより効果的に抑制することができる。なお、実回転数を目標回転数に近付けるためには、トルクを増大させる必要があるが、目標回転数と実回転数との差が小さくなれば増大させるべきトルクが小さくなるので、吸入空気量や燃料噴射量の増加量を小さくすることができ、燃費を向上させることができる。
【0080】
(6)特に上記実施形態では、エンジンECU2が、ギア切替の開始時点から目標回転数を所定勾配で低下させて走行レンジ用の目標回転数の値NeDに設定する。エンジン20に作用する負荷は、トランスファ50のギア切替の開始時点から徐々に増加するので、エンジン20の実回転数も徐々に低下することになる。この実回転数の変化に合わせて目標回転数を設定することで、ギア切替中のエンジン20の実回転数の変動をさらに効果的に抑制することができる。
【0081】
[5.その他]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
上述の実施形態では、ガソリンエンジン20の制御について詳述したが、この制御はディーゼルエンジンにも適用することができる。また、上述の実施形態では、エンジン20を制御する手段(エンジンECU2)と変速機40及びトランスファ50を制御する手段(変速機ECU1)とを別々の電子制御装置が有する場合を例示したが、一つの電子制御装置がこれらの制御手段を別々の機能要素として有していてもよい。
【0082】
上述の制御値(目標回転数の値NeD,NeNや目標吸入空気量の値QD,QD等)は一例であって、具体的な値は上述のものに限られない。例えば、ギア切替中に、目標回転数は非走行レンジ用の値を用いることとし、目標吸入空気量,燃料噴射量は上述のように走行レンジ用の値を用いるようにしてもよい。また、制御値が、車両10の車載機器(例えばエアコン)の作動状態をも考慮して設定されていてもよい。この場合、車載機器の状態にも合った制御値を用いることで、エンジン20を最適な状態にすることが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 変速機ECU(変速機制御手段)
2 エンジンECU(エンジン制御手段)
10 車両(四輪駆動車)
20 エンジン
40 変速機(自動変速機)
41 トルクコンバータ
42 変速機構
50 トランスファ
NeD 走行レンジ用の目標回転数の値(走行レンジ用の制御値)
QD 走行レンジ用の目標吸入空気量の値(走行レンジ用の制御値)
FD 走行レンジ用の燃料噴射量の値(走行レンジ用の制御値)
NeN 非走行レンジ用の目標回転数の値(非走行レンジ用の制御値)
QN 非走行レンジ用の目標吸入空気量の値(非走行レンジ用の制御値)
FN 非走行レンジ用の燃料噴射量の値(非走行レンジ用の制御値)
図1
図2
図3
図4
図5