(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガラス転移点が75℃以上であり、環状構造を有する単量体単位およびカルボキシ基含有単量体単位を含むブロック(A)と、下記一般式(1)で表されるアクリル酸エステル単位を70質量%以上含むブロック(B)とからなるブロック共重合体(X)、および軟化点が120℃以上であり、かつ環状構造を有する粘着付与剤(Y)を含有する粘着剤組成物であって、
前記ブロック(A)とブロック(B)との質量比率(ブロック(A)/ブロック(B))が10/90〜40/60であり、
前記ブロック共重合体(X)の酸価のうち、ブロック(A)由来の酸価が8mgKOH/g以上であり、
前記ブロック共重合体(X)の少なくとも一方の末端がブロック(A)であり、
前記粘着付与剤(Y)の含有量が、前記ブロック共重合体(X)100質量部に対して5〜40質量部である、粘着剤組成物。
CH2=CR1−COOR2 ・・・(1)
式(1)中、R1は水素原子であり、R2は炭素数8以下の直鎖のアルキル基またはアルコキシアルキル基である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸およびメタクリル酸の総称である。
また、本発明において、可逆的付加開裂連鎖移動重合を「RAFT重合」といい、RAFT重合に用いられる連鎖移動剤を「RAFT剤」という。
【0011】
「粘着剤組成物」
本発明の粘着剤組成物は、ブロック(A)とブロック(B)とからなるブロック共重合体(X)、および環状構造を有する粘着付与剤(Y)を含有する。
【0012】
<ブロック(A)>
ブロック(A)は、ガラス転移点が75℃以上の重合体または共重合体である。
ガラス転移点が75℃以上であれば、絶縁破壊耐性に優れた粘着剤組成物が得られる。ブロック(A)のガラス転移点は、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。
【0013】
ブロック(A)のガラス転移点は、下記式(i)に示されるFoxの式から求められる値である。
1/(Tg
A+273.15)=Σ[W
a/(Tg
a+273.15)] ・・・(i)
【0014】
式(i)中、Tg
Aはブロック(A)のガラス転移点(℃)であり、W
aはブロック(A)を構成する単量体aの質量分率であり、Tg
aは単量体aの単独重合体(ホモポリマー)のガラス転移点(℃)である。
なお、Tg
aはホモポリマーの特性値として広く知られており、例えば、「POLYMER HANDBOOK、THIRD EDITION」に記載されている値や、メーカのカタログ値を用いればよい。
【0015】
ブロック(A)のガラス転移点は、ブロック(A)を構成する単量体の種類やその配合量によって調整できる。
ブロック(A)を構成する単量体としては、環状構造を有する単量体、カルボキシ基含有単量体、(メタ)アクリル酸エステル(ただし、環状構造を有する単量体を除く)、ヒドロキシ基含有単量体などが挙げられる。ブロック(A)は、少なくとも環状構造を有する単量体単位およびカルボキシ基含有単量体単位を含む。
【0016】
環状構造を有する単量体としては、芳香環構造を有する単量体、脂環構造を有する単量体などが挙げられる。
芳香環構造を有する単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、o−,m−もしくはp−メチルスチレン、o−,m−もしくはp−クロロスチレン等の芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−フェノキシエチル等の芳香環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
脂環構造を有する単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の脂環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、高温環境下でのクリープ性(以下、「耐熱クリープ性」ともいう。)および絶縁破壊耐性がより向上する点で、芳香環構造を有する単量体が好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0017】
ブロック(A)を構成する全ての構成単位を100質量%としたとき、環状構造を有する単量体単位の含有率は、50〜95質量%が好ましく、65〜90質量%がより好ましい。
【0018】
カルボキシ基含有単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸β−カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸カルボキシペンチル、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
ブロック(A)を構成する全ての構成単位を100質量%としたとき、カルボキシ基含有単量体単位の含有率は、3〜40質量%が好ましく、4〜30質量%がより好ましい。
【0020】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、環状構造を有さない(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルが挙げられる。
環状構造を有さない(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
環状構造を有さない(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−(n−プロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(n−ブトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−エトキシプロピル、アクリル酸2−(n−プロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(n−ブトキシ)プロピルなどが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
ブロック(A)を構成する全ての構成単位を100質量%としたとき、(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率は、5〜50質量%が好ましく、5〜35質量%がより好ましい。
【0022】
ヒドロキシ基含有単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)・メチルアクリレートなどが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
ブロック(A)を構成する全ての構成単位を100質量%としたとき、ヒドロキシ基含有単量体単位の含有率は、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましい。
【0024】
ブロック(A)を構成する単量体の組み合わせとしては、ブロック(A)のガラス転移点が75℃以上となり、かつブロック(A)が環状構造を有する単量体単位と、カルボキシ基含有単量体単位を含むような組み合わせであれば特に制限されないが、環状構造を有する単量体とカルボキシ基含有単量を少なくとも用いる。環状構造を有する単量体を用いる理由は以下のとおりである。
ブロック(A)は、後述するブロック(B)との相溶性の差からミクロ相分離を起こす。特に、環状構造を有する単量体を用いて得られるブロック(A)は、ブロック(B)との相溶性の差が大きく、ミクロ相分離を起こしやすい。ブロック(A)がミクロ相分離を起こすと、ブロック共重合体(X)の分子配列が、ブロック(A)同士、ブロック(B)同士が隣接し合った配列となる。その結果、ブロック(B)よりもガラス転移点の高いブロック(A)がブロック共重合体(X)同士の疑似架橋点となる。すると、ブロック共重合体(X)の構造が疑似的な架橋構造となり、架橋した高分子量のアクリル系共重合体と同じような働きを示し、粘着剤組成物の耐熱クリープ性が向上すると考えられる。
【0025】
また、ブロック共重合体(X)と後述する粘着付与剤(Y)とを併用することで、粘着剤組成物の絶縁破壊耐性が向上する。かかる理由は以下のように考えられる。
ブロック共重合体(X)と粘着付与剤(Y)と混合すると、粘着付与剤(Y)中の環状構造がブロック共重合体(X)を構成するブロック(A)中の環状構造に引き寄せられることで、粘着付与剤(Y)がブロック(A)の周囲に集まる。その結果、粘着剤組成物中においてブロック(A)の環状構造と粘着付与剤(Y)の環状構造とで疑似的な塊状構造を形成し、これが絶縁性のフィラーのような役割を果たすことで、粘着剤組成物の絶縁破壊耐性が向上すると考えられる。
【0026】
一方、カルボキシ基含有単量を用いる理由は以下のとおりである。
カルボキシ基含有単量体を用いれば、得られるブロック(A)はカルボキシ基含有単量体由来のカルボキシ基を有することになる。ブロック(A)がカルボキシ基を有していれば、カルボキシ基同士の水素結合によりブロック共重合体(X)のセグメントに化学的な結合力が生じ、耐熱性がより向上する。加えて、疑似的な架橋構造が安定しやすくなり、耐熱クリープ性がより向上する。
【0027】
<ブロック(B)>
ブロック(B)は、下記一般式(1)で表されるアクリル酸エステル単位を含む重合体または共重合体である。
CH
2=CR
1−COOR
2 ・・・(1)
【0028】
式(1)中、R
1は水素原子である。
R
2は炭素数8以下の直鎖のアルキル基またはアルコキシアルキル基である。R
2の炭素数が8を超えると、十分な粘着力が得られない。また、アルキル基やアルコキシアルキル基が分岐鎖状であると、粘着力が低下する。
R
2の炭素数は、4以上であることが好ましい。炭素数が4以上であれば、粘着剤組成物の被着体への濡れ性が良好となり、剥離時におけるジッピング現象が起こりにくくなる。
【0029】
炭素数8以下の直鎖のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基(n−プロピル基)、ブチル基(n−ブチル基)、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基などが挙げられる。
炭素数8以下の直鎖のアルコキシアルキル基としては、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−(n−プロポキシ)エチル基、2−(n−ブトキシ)エチル基、3−メトキシプロピル基、3−エトキシプロピル基、2−(n−プロポキシ)プロピル基、2−(n−ブトキシ)プロピル基などが挙げられる。
R
2としては、炭素数8以下の直鎖のアルキル基が好ましい。
【0030】
ブロック(B)は、少なくとも上記一般式(1)で表されるアクリル酸エステルを重合することで得られる。ブロック(B)は、上記一般式(1)で表されるアクリル酸エステルの単独重合体、または、上記一般式(1)で表されるアクリル酸エステルと、該アクリル酸エステルと共重合可能な単量体(以下、「任意単量体」という。)とを共重合した共重合体である。
【0031】
上記一般式(1)で表されるアクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸へプチル、アクリル酸オクチル等のアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸2−(n−プロポキシ)エチル、アクリル酸2−(n−ブトキシ)エチル、アクリル酸3−メトキシプロピル、アクリル酸3−エトキシプロピル、アクリル酸2−(n−プロポキシ)プロピル、アクリル酸2−(n−ブトキシ)プロピル等のアクリル酸アルコキシアルキルエステルなどが挙げられる。
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、アクリル酸ブチルが好ましい。
【0032】
ブロック(B)を構成する全ての構成単位を100質量%としたとき、上記一般式(1)で表されるアクリル酸エステル単位の含有率は、70質量%以上であり、80質量%以上が好ましく、90質量%がより好ましい。70質量%以上であれば、十分な粘着力および耐熱クリープ性が得られる。
【0033】
任意単量体としては、上記一般式(1)で表されるアクリル酸エステル以外の(メタ)アクリル酸エステル(以下、「他の(メタ)アクリル酸エステル」という。)などが挙げられる。
【0034】
他の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば上記一般式(1)中のR
1が水素原子またはメチル基であり、R
2が炭素数8超のアルキル基またはアルコキシアルキル基である単量体;R
1が水素原子またはメチル基であり、R
2が分岐鎖のアルキル基またはアルコキシアルキル基である単量体;R
2のアルキル基またはアルコキシアルキル基における任意の水素原子がヒドロキシ基に置き換わった単量体などが挙げられる。具体的には、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸t−ブチルなどが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
ブロック(B)を構成する全ての構成単位を100質量%としたとき、任意単量体単位の含有率は、30質量%以下であり、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0036】
ブロック(B)のガラス転移点は、−30℃以下であることが好ましく、−40℃以下であることがより好ましい。ガラス転移点が−30℃以下であれば、粘着力を十分に発現できる。
ブロック(B)のガラス転移点は、ブロック(B)を構成する単量体の種類やその配合量によって調整できる。
【0037】
ブロック(B)のガラス転移点は、下記式(ii)に示されるFoxの式から求められる値である。
1/(Tg
B+273.15)=Σ[W
b/(Tg
b+273.15)] ・・・(ii)
【0038】
式(ii)中、Tg
Bはブロック(B)のガラス転移点(℃)であり、W
bはブロック(B)を構成する単量体bの質量分率であり、Tg
bは単量体bの単独重合体(ホモポリマー)のガラス転移点(℃)である。
なお、Tg
bはホモポリマーの特性値として広く知られており、例えば、「POLYMER HANDBOOK、THIRD EDITION」に記載されている値や、メーカのカタログ値を用いればよい。
【0039】
<ブロック共重合体(X)>
ブロック共重合体(X)は、上述したブロック(A)とブロック(B)とからなる。
ブロック(A)とブロック(B)との比率(ブロック(A)/ブロック(B))は、10/90〜40/60であり、15/85〜30/70であることが好ましく、15/85〜25/75であることがより好ましい。ブロック(A)の比率が多くなると、粘着力が低下し、剥離時におけるジッピング現象が起こりやすくなる。一方、ブロック(A)の比率が少なくなると、耐熱クリープ性が低下する。
【0040】
ブロック共重合体(X)の少なくとも一方の末端は、ブロック(A)である。ブロック共重合体(X)の少なくとも一方の末端がブロック(A)であれば、耐熱クリープ性に優れた粘着剤組成物が得られる。
また、ブロック共重合体(X)は、ブロック(B)がブロック(A)で挟まれた構造であることが好ましい。ブロック(B)がブロック(A)で挟まれていれば、上述したミクロ相分離が起こりやすくなり、耐熱クリープ性がより向上する。特に、ブロック共重合体(X)はブロック(A)−ブロック(B)−ブロック(A)で表されるトリブロック体であることが好ましい。
【0041】
ブロック共重合体(X)の酸価のうち、ブロック(A)由来の酸価が8mgKOH/g以上であり、15mgKOH/g以上が好ましい。ブロック(A)由来の酸価が8mgKOH/g未満であると、ブロック共重合体(X)が上述した疑似的な架橋構造となりにくく、耐熱クリープ性が低下する。また、ブロック共重合体(X)の酸価が8mgKOH/g以上であっても、ブロック(A)由来の酸価が8mgKOH/g未満である場合も、上述したように、耐熱クリープ性が低下する。特に、ブロック共重合体(X)の酸価の全てがブロック(B)由来であると、絶縁破壊耐性も低下する傾向にある。
ブロック共重合体(X)の酸価は、貯蔵安定性が向上する点で、50mgKOH/g以下であることが好ましく、40mgKOH/g以下であることがより好ましい。
【0042】
ブロック共重合体(X)の酸価の一部は、ブロック(B)由来であってもよいが、ブロック共重合体(X)の酸価の全てがブロック(A)由来であることが好ましい。ブロック共重合体(X)の酸価の全てがブロック(A)由来であれば(すなわち、ブロック(B)は酸価を有さなければ)、効率よくミクロ相分離を起こすことができるとともに、疑似的な架橋構造を安定して形成できる。加えて、絶縁破壊耐性もより向上する。
なお、ブロック共重合体(X)の酸価の一部がブロック(B)由来である場合、ブロック(B)由来の酸価は25mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0043】
ここで、ブロック共重合体(X)の酸価とは、ブロック共重合体(X)1g中に含まれる酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数のことである。
ブロック共重合体(X)の酸価が、ブロック(A)由来であるか、ブロック(B)由来であるか、あるいはその両方であるかどうかは、ブロック(A)、ブロック(B)を構成する単量体成分中に含まれる酸成分(例えば(メタ)アクリル酸など)の含有量により判断できる。例えば、ブロック(A)を構成する単量体成分(a)が酸成分を含み、ブロック(B)を構成する単量体成分(b)が酸成分を含まない場合、ブロック共重合体(X)の酸価の全てがブロック(A)由来であると判断する。また、単量体成分(a)、(b)の両方に酸成分が含まれている場合、全ての酸成分の含有量の合計を100質量%としたときの、各単量体成分に含まれる酸成分の質量比率が、ブロック共重合体(X)の酸価のうちのブロック(A)由来の酸価と、ブロック(B)由来の酸価の比率となる。
【0044】
ブロック共重合体(X)の質量平均分子量は、10万〜55万であることが好ましい。質量平均分子量が10万以上であれば、耐熱クリープ性がより向上する。一方、質量平均分子量が55万以下であれば、塗工性がより向上する。
ブロック共重合体(X)の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法で測定される値である。具体的には、移動相としてテトラヒドロフラン(THF)を用い、流速1.0mL/分の条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフにて測定し、ポリスチレン換算した値を質量平均分子量とする。
【0045】
(ブロック共重合体(X)の製造方法)
ブロック共重合体(X)は、例えばリビング重合により得られる。リビング重合としては、リビングアニオン重合、RAFT重合などが挙げられるが、特にRAFT重合が好ましい。
RAFT重合によりブロック共重合体(X)を製造する場合、RAFT剤を用いてブロック(A)を構成する単量体を重合または共重合してブロック(A)を得た後、得られたブロック(A)の存在下で、ブロック(B)を構成する単量体を重合または共重合してブロック共重合体(X)を製造する。
【0046】
RAFT重合に用いられるRAFT剤としては、ジチオエステル、ジチオカルボナート、トリチオカルボナート、キサンタート等のイオウ系化合物などを用いることができる。
RAFT重合に用いられる重合開始剤としては、既知のアゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤を用いることができる。
RAFT重合に用いられる溶媒については特に限定されず、公知の溶媒を用いることができる。
RAFT重合の方法としては特に限定されず、公知の方法を採用でき、例えば溶液重合法、乳化重合法、塊状重合法、懸濁重合法などが挙げられる。
【0047】
<粘着付与剤(Y)>
粘着付与剤(Y)は、環状構造を有する。
環状構造を有する粘着付与剤(Y)としては、芳香環構造を有する粘着付与剤、脂環構造を有する粘着付与剤が挙げられる。
芳香環構造を有する粘着付与剤としては、例えばロジン系粘着付与剤、テルペン系粘着付与剤、キシレン樹脂などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
ロジン系粘着付与剤の具体例としては、ロジン樹脂、重合ロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、重合ロジンエステル樹脂、水添ロジン樹脂、水添ロジンエステル樹脂、ロジンフェノール樹脂などが挙げられる。
テルペン系粘着付与剤の具体例としては、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂などが挙げられる。
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
脂環構造を有する粘着付与剤としては、例えば脂環族炭化水素系粘着付与剤などが挙げられる。
【0050】
脂環族炭化水素系粘着付与剤の具体例としては、脂環族飽和炭化水素樹脂、脂環族不飽和炭化水素樹脂などが挙げられる。
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
粘着付与剤(Y)としては、市販品を用いてもよいし、公知の製造方法により合成したものを用いてもよい。
ロジン系粘着付与剤の市販品としては、例えば荒川化学工業株式会社製の「ペンセルD−135」、「スーパーエステルA−125」、「パインクリスタルKE−604」;ハリマ化成グループ株式会社製の「DS−130」などが挙げられる。
テルペン系粘着付与剤の市販品としては、例えばヤスハラケミカル株式会社製の「YSポリスター TH130」、「YSポリスター G150」、「YSポリスターT−160」;住友ベークライト株式会社製の「スミライトレジンPR−12603」などが挙げられる。
キシレン樹脂としては、例えばフドー株式会社製の「ニカノールHP150」、「ニカノールHP-120」などが挙げられる。
脂環族炭化水素系粘着付与剤としては、例えば荒川化学工業株式会社製の「アルコンM−135」、「アルコンP−140」;日本ゼオン株式会社製の「Quintone1525L」などが挙げられる。
【0052】
粘着付与剤(Y)中の環状構造と、上述したブロック共重合体(X)を構成するブロック(A)中の環状構造とは、同じ系統であることが好ましい。すなわち、ブロック(A)が芳香環構造を有する単量体単位を含む場合は、粘着付与剤(Y)としては芳香環構造を有する粘着付与剤が好ましく、ブロック(A)が脂環構造を有する単量体単位を含む場合は、粘着付与剤(Y)としては脂環構造を有する粘着付与剤が好ましい。粘着剤組成物の絶縁破壊耐性がより向上する観点から、ブロック(A)および粘着付与剤(Y)中の環状構造が芳香環構造であることが好ましい。かかる理由は以下のように考えられる。
芳香環構造は脂環構造に比べて立体障害が小さい。そのため、ブロック(A)および粘着付与剤(Y)中の環状構造が芳香環構造であると、粘着付与剤(Y)中の芳香環構造がブロック(A)中の芳香環構造に引き寄せられやすくなり、粘着付与剤(Y)がブロック(A)の周囲に集まりやすくなることで、粘着剤組成物の絶縁破壊耐性がより向上すると考えられる。
【0053】
粘着付与剤(Y)の軟化点は120℃以上であり、130℃以上が好ましい。軟化点が120℃以上であれば、粘着剤組成物の絶縁破壊耐性が向上する。
詳しくは後述するが、粘着剤組成物の製造の際には、予め粘着付与剤(Y)を溶媒に溶かしておき、溶液の状態でブロック共重合体(X)と混合することが好ましい。粘着付与剤(Y)の軟化点の上限値については特に制限されないが、1つの側面としては200℃である。
粘着付与剤(Y)の軟化点は、示差走査熱量測定(DSC)により求められる。
【0054】
粘着剤組成物中の粘着付与剤(Y)の含有量は、ブロック共重合体(X)100質量部に対して5〜40質量部であり、10〜30質量部が好ましい。粘着付与剤(Y)の含有量が5質量部以上であれば、粘着剤組成物の絶縁破壊耐性が向上する。一方、粘着付与剤(Y)の含有量が40質量部以下であれば、粘着剤組成物の粘着力および耐熱クリープ性を良好に維持できる。
【0055】
<他の成分>
本発明の粘着剤組成物は、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、可塑剤、消泡剤、濡れ性調製剤等などの添加剤を含有してもよい。なお、粘着剤組成物の貯蔵安定性を良好に維持する観点から、イソシアネートやシランカップリング剤は含有しないことが好ましい。
【0056】
<粘着剤組成物の製造方法>
粘着剤組成物は、ブロック共重合体(X)と粘着付与剤(Y)とを混合することで得られる。具体的には、リビング重合等により製造したブロック共重合体(X)を含む反応液に、粘着付与剤(Y)を添加して粘着剤組成物を得る。粘着付与剤(Y)を反応液に溶かしやすくする観点から、予め粘着付与剤(Y)を溶媒に溶かしておき、溶液(粘着付与剤溶液)の状態でブロック共重合体(X)を含む反応液に添加することが好ましい。
【0057】
粘着付与剤溶液に用いる溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒などが挙げられる。
粘着付与剤溶液に用いる溶媒と、ブロック共重合体(X)の製造に用いる溶媒とは同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0058】
<作用効果>
以上説明した本発明の粘着剤組成物は、ブロック(A)とブロック(B)とからなるブロック共重合体(X)を含有するので、粘着力および高温環境下でのクリープ性に優れる。上述したように、ブロック共重合体(X)はブロック(A)とブロック(B)の相溶性の差によりミクロ相分離を起こす。その結果、ブロック(A)はブロック共重合体(X)同士の疑似架橋点となる。しかも、分子間のミクロ相分離構造がより明確となることで疑似架橋点が保持される。よって、ブロック共重合体(X)の構造が疑似的な架橋構造となり、高温環境下においても粘着剤の性能が保持され、粘着力および耐熱クリープ性に優れるようになると考えられる。
【0059】
加えて、本発明の粘着剤組成物は粘着付与剤(Y)も含有するので、絶縁破壊耐性にも優れる。
ところで、絶縁破壊耐性付与の観点では、特許文献1に記載のように、絶縁材料としてフィラー等を粘着剤に配合すればよい。しかし、十分な絶縁破壊耐性を発現させるためには、多量のフィラーを添加する必要があり、その結果、粘着力が低下するという問題があった。
対して、本発明の粘着剤組成物であれば、上述したように、ブロック共重合体(X)と粘着付与剤(Y)と混合すると、粘着付与剤(Y)がブロック共重合体(X)中のブロック(A)の周囲に集まる。その結果、ブロック(A)の環状構造と粘着付与剤(Y)の環状構造とで疑似的な塊状構造を形成し、絶縁性のフィラーのような役割を果たすことで、絶縁破壊耐性が向上すると考えられる。また、ブロック共重合体(X)中のブロック(B)は粘着力に寄与する成分であるが、粘着付与剤(Y)はブロック(B)の周囲には集まりにくい。そのため、ブロック(B)は粘着付与剤(Y)の影響を受けにくく、粘着力を良好に維持できる。
特に、ブロック(A)および粘着付与剤(Y)中の環状構造が芳香環構造であれば、粘着剤組成物の絶縁破壊耐性がさらに高まる。
【0060】
また、ブロック共重合体(X)は疑似的な架橋構造を形成しているにすぎず、すなわち、実際は架橋していないので低分子量(具体的には質量平均分子量が10万〜55万程度が好ましい。)であり、塗工性にも優れる。従って、溶媒で必要以上に希釈して用いる必要がないので、少ない塗工回数で厚塗りすることが可能である。
【0061】
<用途>
本発明の粘着剤組成物は、各種用途に使用できる。特に、静電容量式のタッチパネルディスプレイ用の粘着剤として好適である。
本発明の粘着時組成物は粘着力および耐熱クリープ性に加えて絶縁破壊耐性にも優れるので、本発明の粘着時組成物を例えばフロントパネルとタッチパネルとの貼り合せに用いれば、フロントパネルに静電気が発生しても該静電気がタッチパネルにまで到達するのを防止できる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
<製造例1:RAFT剤(R−1)の製造>
1,6−ヘキサンジチオール0.902g(6.00mmol)と、二硫化炭素1.83g(24.0mmol)と、ジメチルホルムアミド11mLとを2口フラスコに投入し、マグネチックスターラーを用いて25℃で撹拌した。これに、トリエチルアミン2.49g(24.6mmol)を15分かけて滴下し、さらに25℃で3時間撹拌した。滴下終了後、フラスコ内の反応液の色が無色透明から黄色に変化したことを確認した。
引き続き、メチル−α−ブロモフェニル酢酸2.75g(12.0mmol)を15分かけて滴下し、さらに25℃で4時間撹拌した。滴下の途中で、フラスコ内に沈殿物を確認した。
ついで、反応液に、抽出溶媒(n−ヘキサン/酢酸エチル=50/50)100mLと、水50mLとを加えて分液抽出した。得られた水相に先と同じ抽出溶媒50mLを加えてさらに分液抽出した。1回目と2回目の分液抽出にて得られた有機相を混合し、これを1M塩酸50mL、水50mL、飽和食塩水50mLで順に洗浄した。洗浄後の有機相に硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、硫酸ナトリウムをろ別し、ろ液をエバポレーターで濃縮して、有機溶媒を減圧留去した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:n−ヘキサン/酢酸エチル=80/20)にて精製して、RAFT剤(R−1)2.86g(収率80%)を黄色油状物として得た。
【0064】
得られたRAFT剤(R−1)の
1H−NMRスペクトルの帰属を下記に示す。なお、
1H−NMRの測定には、核磁気共鳴分析装置(株式会社日立製作所製、「R−1200」)を用いた。
1H−NMR(60MHz in CDCl
3):δ7.50−7.05(m,10H、ArH)、δ5.82(s,2H,CH−COO)、δ3.73(s,6H,CH
3)、δ3.33(brt,4H,S−CH
2)、δ1.85−1.22(m,8H,CH
2).
【0065】
1H−NMRスペクトルより、メチル−α−フェニル酢酸とジチオール由来のアルキル基の構造を確認できた。従って、製造例1では、RAFT剤(R−1)として下記一般式(2)で表される化合物(化合物(2))が得られたと判断した。
【0066】
【化1】
【0067】
<製造例2:RAFT剤(R−2)の製造>
1,6−ヘキサンジチオール0.902g(6.00mmol)を1−ドデカンチオール1.214g(6.00mmol)に変更し、二硫化炭素の量を1.83g(24.0mmol)から0.915g(12.0mmol)に変更し、トリエチルアミンの量を2.49g(24.6mmol)から1.25g(12.3mmol)に変更し、メチル−α−ブロモフェニル酢酸2.75g(12.0mmol)を(1−ブロモエチル)ベンゼン1.11g(6.00mmol)に変更した以外は、製造例1と同様にしてRAFT剤(R−2)2.25g(収率98%)を黄色油状物として得た。
【0068】
得られたRAFT剤(R−2)の
1H−NMRスペクトルの帰属を下記に示す。
1H−NMR(60MHz in CDCl
3):δ7.60−7.12(m,5H、ArH)、δ5.34(q,J=6.9Hz,1H,S−CH)、δ3.34(brt,2H,S−CH
2)、δ1.76(d,J=6.9Hz,3H,CH
3)、δ1.70−1.05(m,20H,−CH
2−)、δ0.89(brt,3H,CH
3).
【0069】
1H−NMRスペクトルより、(1−ブロモエチル)ベンゼンとドデカンチオール由来のアルキル基の構造を確認できた。従って、製造例2では、RAFT剤(R−2)として下記一般式(3)で表される化合物(化合物(3))が得られたと判断した。
【0070】
【化2】
【0071】
<製造例3:ブロック共重合体(X−1)の製造>
(ブロック(A)の製造)
スチレン(St)70.0gと、アクリル酸メチル(MA)5.0gと、アクリル酸エチル(EA)9.0gと、アクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEA)2.0gと、アクリル酸(AA)14.0gと、RAFT剤(R−1)1.9gと、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(ABN−E)0.35gとを2口フラスコに投入し、フラスコ内を窒素ガスで置換しながら85℃に昇温した。その後、85℃で6時間撹拌して重合反応を行った(第一段階反応)。
反応終了後、フラスコ内にn−ヘキサン4000gを投入し、撹拌して反応物を沈殿させた後、未反応のモノマー(St、MA、EA、HEA、AA)、およびRAFT剤をろ別し、反応物を70℃で減圧乾燥して共重合体(ブロック(A))を得た。
得られた共重合体(ブロック(A))のガラス転移点、数平均分子量(Mn)および質量平均分子量(Mw)を表1に示す。
【0072】
(ブロック共重合体(X−1)の製造)
アクリル酸ブチル(BA)100g、ABN−E0.027g、および酢酸エチル50gからなる混合物と、先に得られた共重合体(ブロック(A))とを2口フラスコに投入し、フラスコ内を窒素ガスで置換しながら85℃に昇温した。その後、85℃で6時間撹拌して重合反応を行い(第二段階反応)、ブロック(A)とブロック(B)とからなるブロック共重合体(X−1)を含む反応液を得た。なお、混合物とブロック(A)の配合量は、得られるブロック共重合体(X−1)におけるブロック(A)とブロック(B)との質量比率が25/75となる量とした。
反応液の一部を採取し、これにn−ヘキサン4000gを投入し、撹拌して反応物を沈殿させた後、未反応のモノマー(BA)、および溶媒をろ別し、反応物を70℃で減圧乾燥してブロック共重合体(X−1)を反応液から取り出した。
ブロック(B)のガラス転移点、およびブロック共重合体(X−1)の数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)、酸価を表1に示す。
【0073】
<製造例4:ブロック共重合体(X−2)〜(X−14)の製造>
ブロック(A)およびブロック(B)を構成する単量体組成を表1、2示すように変更し、第一段階反応および第二段階反応の重合条件を表1、2に示すように変更し、ブロック(A)とブロック(B)との質量比率を表1、2に示すように変更した以外は、製造例1と同様にしてブロック共重合体(X−2)〜(X−14)を製造し、各種測定を行った。結果を表1、2に示す。
なお、ブロック共重合体(X−10)の製造では、第一段階反応において溶媒として酢酸エチル67.7gを用いた。
【0074】
<製造例5:ランダム共重合体(X−15)の製造>
Stを18.2gと、AAを1.8gと、BAを80gと、ABN−Eを0.5gと、酢酸エチル200gとを2口フラスコに投入し、フラスコ内を窒素ガスで置換しながら85℃に昇温した。その後、85℃で6時間撹拌して重合反応を行い、ランダム共重合体(X−15)を含む反応液を得た。
反応液の一部を採取し、これにフラスコ内にn−ヘキサン4000gを投入し、撹拌して反応物を沈殿させた後、未反応のモノマー(St、AA、BA)、および溶媒をろ別し、反応物を70℃で減圧乾燥してランダム共重合体(X−15)を反応液から取り出した。
得られたランダム共重合体(X−15)の数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)、酸価を表3に示す。
【0075】
<測定・評価>
(ガラス転移点の算出)
ブロック(A)のガラス転移点を上記式(i)に示されるFoxの式から求め、ブロック(B)のガラス転移点を上記式(ii)に示されるFoxの式から求めた。
【0076】
(分子量の測定)
数平均分子量(Mn)および質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)により下記条件にて測定した。なお、数平均分子量(Mn)および質量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算した値である。
GPCの測定条件:
GPC装置:GPC−101(昭光通商株式会社製)
カラム:Shodex A−806M×2本直列つなぎ(昭和電工株式会社製)
検出器:Shodex RI−71(昭和電工株式会社製)
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1mL/分
【0077】
(酸価の測定)
水酸化カリウムを0.1規定になるようにメタノールに溶解させて調製した溶液を滴定することで測定した。
【0078】
(絶縁破壊耐性試験)
離型剤で表面処理された、150mm×150mmサイズのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、乾燥後の膜厚が200μmになるように粘着剤組成物を塗工し、150mm×150mmサイズの粘着剤層を形成し、これを試験片とした。
試験片について、JIS C 2110−1に準拠して絶縁破壊耐性試験を行い、絶縁破壊強さを測定し、以下の評価基準にて評価した。
○:絶縁破壊強さが55kV/mm以上である。
△:絶縁破壊強さが50kV/mm以上、55kV/mm未満である。
×:絶縁破壊強さが50kV/mm未満である。
【0079】
(粘着力の測定)
30mm×40mmサイズのステンレス板上の略中央に、乾燥後の膜厚が25μmになるように粘着剤組成物を塗工し、25mm×25mmサイズの粘着剤層を形成した。この粘着剤層を介して、ステンレス板と25mm×100mmサイズのPETフィルムとを貼り合わせ、試験片とした。
試験片のPETフィルムについて、JIS Z 0237:2009の8.3.1「180度引きはがし法」に準拠して粘着力を測定し、以下の評価基準にて評価した。
○:粘着力が20N/25mm以上である。
△:粘着力が10N/25mm以上、20N/25mm未満である。
×:粘着力が10N/25mm未満である。
【0080】
(耐熱クリープ性の評価)
粘着力の測定の場合と同様にして、試験片を作製した。
JIS Z 0237:2009に準拠して、試験片のPETフィルム側から圧着ロールで1往復した後、この試験片を40℃に調節したクリープ試験機に設置した。100℃または150℃の環境下において、1kgの錘を取り付けたPETフィルムがステンレス板から落下するまでの時間を測定した。なお、1時間経過してもPETフィルムがステンレス板から落下しない場合は、1時間経過後におけるPETフィルムのズレ(試験前の位置からの距離)を測定した。落下時間(分)またはズレ(mm)を耐熱クリープ性の指標とし、ズレ(mm)が小さいほど耐熱クリープ性に優れることを意味する。また、PETフィルムがステンレス板から落下した場合は、落下時間(分)が長いほど耐熱クリープ性に優れることを意味する。ズレが1mm以下を合格とし、以下の評価基準にて評価した。
○:100℃の環境下および150℃の環境下で合格である。
△:100℃の環境下では合格であるが、150℃の環境下では不合格である。
×:100℃の環境下で不合格である。
【0081】
「実施例1」
粘着付与剤としてテルペンフェノール共重合体(ヤスハラケミカル株式会社製、「YSポリスター TH130」)をトルエンに溶解させ、粘着付与剤溶液を調製した。
ブロック共重合体(X−1)の固形分100質量部に対する、粘着付与剤の固形分換算量(質量部)が30質量部となるように、ブロック共重合体(X−1)を含む反応液に、粘着付与剤溶液を添加して粘着剤組成物を調製した。
得られた粘着剤組成物について、絶縁破壊強さと粘着力を測定し、耐熱クリープ性を評価した。これらの結果を表4に示す。
【0082】
「実施例2〜16、比較例1〜5、7〜11」
ブロック共重合体(X)の種類と、粘着付与剤の種類および配合量を表4〜8に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして粘着剤組成物を調製し、各種測定および評価を行った。結果を表4〜8に示す。
【0083】
「比較例6」
ブロック共重合体(X−1)の代わりにランダム共重合体(X−15)を用い、粘着付与剤の種類および配合量を表7に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして粘着剤組成物を調製し、各種測定および評価を行った。結果を表7に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
【表5】
【0089】
【表6】
【0090】
【表7】
【0091】
【表8】
【0092】
表1〜8中の略号は下記化合物を示す。なお、各単量体のカッコ内のTg(ガラス転移点)は、ホモポリマーのTgである。また、表1、2中の「単位(1)の割合」とは、ブロック(B)を構成する全ての構成単位を100質量%としたときの、上記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率(質量%)のことである。
「St」:スチレン(Tg:100℃)、
「MA」:アクリル酸メチル(Tg:10℃)、
「EA」:アクリル酸エチル(Tg:−24℃)、
「CHMA」:メタクリル酸シクロヘキシル(Tg:66℃)、
「HEA」:アクリル酸2−ヒドロキシエチル(Tg:−15℃)、
「HEMA」:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(Tg:55℃)、
「MAA」:メタクリル酸(Tg:228℃)、
「AA」:アクリル酸(Tg:106℃)、
「BA」:アクリル酸ブチル(Tg:−54℃)、
「EHA」:アクリル酸2−エチルヘキシル(Tg:−70℃)、
「YSポリスター TH130」:テルペンフェノール樹脂(軟化点:130℃、ヤスハラケミカル株式会社製)、
「ペンセルD−135」:重合ロジンエステル樹脂(軟化点:135℃、荒川化学工業株式会社製)、
「YSポリスター G150」:テルペンフェノール樹脂(軟化点:150℃、ヤスハラケミカル株式会社製)、
「スーパーエステルA−125」:特殊ロジンエステル樹脂(軟化点:125℃、荒川化学工業株式会社製)、
「ニカノールHP150」:キシレン樹脂(軟化点:170℃、フドー株式会社製)、
「ニカノールHP100」:キシレン樹脂(軟化点:115℃、フドー株式会社製)、
「パインクリスタルKE311」:ロジンエステル樹脂(軟化点:95℃、荒川化学工業株式会社製)、
「アルコンM−135」:脂環族飽和炭化水素樹脂(軟化点:135℃、荒川化学工業株式会社製)。
【0093】
表4〜6から明らかなように、各実施例の粘着剤組成物は、粘着力が高く、絶縁破壊耐性および耐熱クリープ性に優れていた。特に、ブロック共重合体(X)のブロック(A)中の環状構造と、粘着付与剤(Y)中の環状構造とが同じ系統である実施例1〜13、16の粘着剤組成物は絶縁破壊強さが高く、その中でも、ブロック(A)および粘着付与剤(Y)中の環状構造が芳香環構造である実施例1〜13は絶縁破壊強さがより高く、絶縁破壊耐性により優れていた。
なお、製造例3、4における最終生成物がブロック共重合体であるかどうかは、以下のようにして判断した。
【0094】
例えば、製造例3で得られた共重合体(ブロック(A))の数平均分子量(Mn)は21000であり、質量平均分子量(Mw)は32000であり、これらの比(Mw/Mn)は1.5であった。一方、製造例3で得られたブロック共重合体(X−1)の数平均分子量(Mn)は75000であり、質量平均分子量(Mw)は140000であり、これらの比(Mw/Mn)は1.9であった。
これらの結果より、共重合体(ブロック(A))の分子量ピークは消失し、共重合体(ブロック(A))の分子量よりもブロック共重合体(X)の分子量が高いことが分かる。よって、製造例3では、St単位、MA単位、EA単位、HEA単位、およびAA単位を構成単位とする共重合体ブロック(ブロック(A))と、BA単位を構成単位とする重合体ブロック(ブロック(B))とからなるブロック共重合体が得られたと判断した。
製造例4(ブロック共重合体(X−2)〜(X−14))についても、同様にして判断した。
【0095】
また、RAFT剤(R−1)はトリチオカルボナートの二量体であることから、ブロック共重合体(X−1)〜(X−6)、(X−9)〜(X−14)は、ブロック(A)−ブロック(B)−ブロック(A)からなるトリブロック共重合体であると考えられる。
一方、RAFT剤(R−2)はトリチオカルボナートの単量体であることから、ブロック共重合体(X−7)、(X−8)は、ブロック(A)−ブロック(B)からなるジブロック共重合体であると考えられる。
【0096】
一方、表7、8から明らかなように、ブロック(A)のガラス転移点が58℃であるブロック共重合体(X−9)を用いた比較例1の粘着剤組成物は、絶縁破壊耐性に劣っていた。
ブロック(B)が上記一般式(1)で表されるアクリル酸エステル単位を含まないブロック共重合体(X−11)を用いた比較例2の粘着剤組成物は、粘着力が弱かった。
ブロック(A)とブロック(B)との比率(ブロック(A)/ブロック(B))が50/50であるブロック共重合体(X−12)を用いた比較例3の粘着剤組成物は、粘着力が弱かった。
ブロック共重合体(X−13)の酸価は17.6mgKOH/gであったが、ブロック(A)はSt単位のみで構成されており、ブロック(A)由来の酸価は0mgKOH/g(すなわち、ブロック共重合体(X)の酸価の全てがブロック(B)由来)であった。そのため、ブロック共重合体(X−13)を用いた比較例4の粘着剤組成物は、絶縁破壊耐性に劣っていた。
ブロック(A)由来の酸価が7.0mgKOH/gであるブロック共重合体(X−14)を用いた比較例5の粘着剤組成物は、耐熱クリープ性に劣っていた。
ランダム共重合体(X−15)を用いた比較例6の粘着剤組成物は、絶縁破壊耐性および耐熱クリープ性に劣っていた。
粘着付与剤(Y)の含有量が50質量部である比較例7の粘着剤組成物は、粘着力が弱く、耐熱クリープ性にも劣っていた。
粘着付与剤(Y)を含まない比較例8の粘着剤組成物は、絶縁破壊耐性に劣っていた。
軟化点が120℃未満である粘着付与剤(Y)を用いた比較例9、10の粘着剤組成物は、絶縁破壊耐性に劣っていた。
粘着付与剤(Y)の含有量が2質量部である比較例11の粘着剤組成物は、絶縁破壊耐性に劣っていた。