(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
眼用レンズ、皮膚用被覆材、創傷被覆材、皮膚用保護材、皮膚用薬剤担体、輸液用チューブ、気体輸送用チューブ、排液用チューブ、血液回路、被覆用チューブ、カテーテル、ステント、シース、チューブコネクター、アクセスポートまたは内視鏡用被覆材である、請求項1または2に記載の医療デバイス。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、医療デバイスの基材としては、含水性、非含水性に特段限定されず、公知の又は今後開発される任意の適切な材質のものを採用してよい。
【0019】
具体的には、含水性の基材としてはハイドロゲル等、非含水性の基材としてはポリメチルメタアクリレートのようなアクリル樹脂等を挙げることができる。
【0020】
本発明において、ポリマー層とは、基材表面上の少なくとも一部に層として形成されるものであり、ポリマー層の一部が基材に入り込んでいてもよい。ポリマー層が存在することによって医療デバイスの表面に親水性を与える。ポリマー層は、基材とは異なる材料であってよく、通常は基材とは異なる材料である。また、親水性を有する材料を含むことが好ましい。
ここで、親水性を有する材料とは室温(20〜23℃)の水100質量部に0.0001質量部以上可溶な材料、または含水率が10質量%以上の材料を指す。
本発明のポリマー層を構成する材料は水100質量部に0.01質量部以上可溶な材料がより好ましく、0.1質量部以上可溶な材料がさらに好ましく、1質量部以上可溶な材料が最も好ましい。もしくは、本発明のポリマー層を構成する材料は含水率が15質量%以上の材料がより好ましく、20質量%以上の材料がさらに好ましく、30質量%以上の材料が一層好ましく、40質量%以上の材料がより一層好ましい。
ポリマー層を構成する材料の含水率の測定法の例を挙げる。まず、乾燥状態におけるポリマー層の質量を求める。ポリマー層(乾燥状態)の厚みは、例えば、光学顕微鏡や電子顕微鏡で断面を観察することによって測定する。ポリマー層の厚みと比重(不明の場合は1で代用してもよい)、さらにポリマー層でカバーされる材料表面の面積からポリマー層(乾燥状態)の質量(Wpd)を求める。なお、乾燥状態とは、試料を真空乾燥器で40℃、2時間乾燥して水分を除去した状態を意味する。次に、ポリマー層に含まれる水分の質量を求める。ポリマー層を25℃において水に含浸させて平衡含水状態とし、表面の余分な水分をワイピングクロス(例えば、日本製紙クレシア製”キムワイプ(登録商標)”)で軽く拭き取ってから、ポリマー層中の水分の質量(Wwa)を求める。ポリマー層中の水分の質量(Wwa)を求める方法の例としては、含水状態と乾燥時の質量差を求める方法、カールフィッシャー法、核磁気共鳴法などが挙げられる。ポリマー層を構成する材料の含水率(%)は次式で与えられる。
【0021】
ポリマー層を構成する材料の含水率(%)=100×Wwa/(Wwa+Wpd)
本発明に係るポリマー層は、基材との間に共有結合により結合されていてもよいが、必ずしも共有結合を有する必要はない。簡便な工程での製造が可能となることから、基材との間に共有結合を有さないことが好ましい。
【0022】
本発明においては、基材表面上の少なくとも一部にポリマー層が存在する。用途にもよるが、基材表面の片面全面の上にポリマー層が存在することが好ましく、基材表面の両面全面の上にポリマー層が存在することも好ましい。後述のように、具体的には、ポリマー層を形成するポリマーが基材表面にコーティングされて形成されるものが挙げられる。かかるポリマーとしては、少なくとも2種類の酸性ポリマーを用いる。塩基性ポリマーが実質的に含有されない複数の酸性ポリマーからなるポリマー層であってよい。酸性ポリマーの種類の数としては2〜10が好ましく、2〜6がより好ましい。酸性ポリマーとして具体的には、その少なくとも1種に疎水性主鎖及びイオン性のペンダント基を有するポリマーを用いることができる。少なくとも2種類の酸性ポリマーのいずれもが、構造の一部に共通の疎水性主鎖及びイオン性のペンダント基を有することが好ましい。
【0023】
ここで、本発明において、酸性ポリマーの1種とは、1の合成反応により製造されたポリマーもしくはポリマー群を意味する。構成するモノマー種が同一であっても、配合比を変えて合成したポリマーは1種ではない。一方で、構成するモノマー種が同一の場合、分子量の違いにより1種とカウントされることはない。
【0024】
本発明において、疎水性主鎖及びイオン性のペンダント基を有する酸性ポリマーとしては、酸性を有する複数の基を疎水性主鎖に沿って有するホモポリマーまたは共重合ポリマーを好適に用いることができる。酸性を有する基としては、カルボキシル基、スルホン酸基およびこれらの塩が好適であり、カルボキシル基およびその塩が最も好適である。
【0025】
上記酸性ポリマーの好適な例は、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、ポリ(ビニル安息香酸)、ポリ(チオフェン−3−酢酸)、ポリ(4−スチレンスルホン酸)、ポリビニルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)およびこれらの塩などである。以上はホモポリマーの例であるが、これらの共重合体(すなわち上記酸性ポリマーを構成する酸性モノマーどうしの共重合体、あるいは酸性モノマーと他のモノマーの共重合体)も好適に用いることができる。
【0026】
酸性ポリマーが共重合体である場合、該共重合体を構成する酸性モノマーとしては、重合性の高さという点でアリル基、ビニル基、および(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが好ましく、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが最も好ましい。該共重合体を構成する酸性モノマーとして好適なものを例示すれば、(メタ)アクリル酸、ビニル安息香酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、およびこれらの塩である。これらの中で、(メタ)アクリル酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、およびこれらの塩がより好ましく、最も好ましいのは(メタ)アクリル酸およびその塩である。
【0027】
上記酸性ポリマーは、少なくとも1種類がアミド基および水酸基から選ばれた基を有するポリマーであることが好ましい。アミド基を有する場合、水濡れ性のみならず易滑性のある表面を形成できるために好ましい。水酸基を有する場合、水濡れ性のみならず体液等に対する防汚性に優れた表面を形成できるために好ましい。
【0028】
アミド基を有する酸性ポリマーの例としては、カルボキシル基を有するポリアミド類、酸性モノマーとアミド基を有するモノマーの共重合体などを挙げることができる。
【0029】
水酸基を有する酸性ポリマーの例としては、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシプロピルセルロースなどの酸性基を有する多糖類、酸性モノマーとアミド基を有するモノマーの共重合体などを挙げることができる。
【0030】
アミド基を有するモノマーとしては、重合の容易さの点で(メタ)アクリルアミド基を有するモノマーおよびN−ビニルカルボン酸アミド(環状のものを含む)が好ましい。かかるモノマーの好適な例としては、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルアセトアミド、N−メチル−N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、およびアクリルアミドを挙げることができる。これら中でも易滑性の点で好ましいのは、N−ビニルピロリドンおよびN,N−ジメチルアクリルアミドであり、N,N−ジメチルアクリルアミドが最も好ましい。
【0031】
水酸基を有するモノマーの好適な例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、グリセロール(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、ヒドロキシスチレン、ビニルアルコール(前駆体としてカルボン酸ビニルエステル)を挙げることができる。水酸基を有するモノマーとしては、重合の容易さの点で(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが好ましく、(メタ)アクリル酸エステルモノマーはより好ましい。これらの中で、体液に対する防汚性の点で好ましいのは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、およびグリセロール(メタ)アクリレートであり、中でもヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが最も好ましい。
【0032】
酸性モノマーとアミド基を有するモノマーの共重合体として好ましい具体例は、(メタ)アクリル酸/N−ビニルピロリドン共重合体、(メタ)アクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸/N−ビニルピロリドン共重合体、および2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体である。最も好ましくは(メタ)アクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体である。
【0033】
酸性モノマーと水酸基を有するモノマーの共重合体として好ましい具体例は、(メタ)アクリル酸/ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート共重合体、(メタ)アクリル酸/グリセロール(メタ)アクリレート共重合体、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸/ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート共重合体、および2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸/グリセロール(メタ)アクリレート共重合体である。最も好ましくは(メタ)アクリル酸/ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート共重合体である。
上記酸性モノマーと他のモノマーの共重合体を用いる場合、その共重合比率は[酸性モノマーの質量]/[他のモノマーの質量]が、1/99〜99/1が好ましく、2/98〜90/10がより好ましく、10/90〜80/20がさらに好ましい。上記上限及び下限のいずれを組合わせた範囲であってもよい。共重合比率がこの範囲にある場合に、易滑性や体液に対する防汚性などの機能を発現しやすくなる。
【0034】
共通の疎水性主鎖及びイオン性のペンダント基を有する酸性ポリマーの組合せとしては、例としてポリアクリル酸と(メタ)アクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体など上記の中の共通の疎水性主鎖及びイオン性のペンダント基を有する酸性ポリマー全ての組合せを挙げることができる。 2種類の酸性ポリマーの組合せの好適な例としては、ポリアクリル酸と(メタ)アクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体、ポリアクリル酸と(メタ)アクリル酸/N−ビニルピロリドン共重合体、ポリアクリル酸と(メタ)アクリル酸/ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート共重合体であり、易滑性や体液に対する防汚性などの機能を発現しやすくなることから、特に好ましくは、ポリアクリル酸と(メタ)アクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体である。
【0035】
本発明において、ポリマー層の酸性ポリマーの総質量を100質量部としたときに、酸性ポリマーのうち、使用量が最も多い種類のポリマーの使用割合としては50〜100質量部が好ましく、70〜80質量部がより好ましく、80〜95質量部がさらに好ましい。上記上限及び下限のいずれを組合わせた範囲であってもよい。
【0036】
酸性ポリマーのうち、使用量が最も多い種類のポリマーと、2番目に多い種類のポリマーとの使用比率は、50/50より大きく、99/1以下が好ましい。上記上限及び下限のいずれを組合わせた範囲であってもよい。使用比率がこの範囲にある場合に、易滑性や体液に対する防汚性などの機能を発現しやすくなる。
【0037】
本発明の医療デバイスは、基材表面上の少なくとも一部にポリマー層を有する医療デバイスであって、ポリマー層が、少なくとも2種類の酸性ポリマーを有し、塩基性ポリマーの含有量は、上記酸性ポリマーの合計100質量部に対し3質量部以下である。
【0038】
本発明において、ポリマー層における塩基性ポリマーの含有量は、ポリマー層の酸性ポリマーの総質量を100質量部としたときに3質量部以下であり、0.1質量部以下が好ましく、0.0001質量部以下がより好ましい。使用比率がこの範囲にある場合に、透明性及び易滑性や体液に対する防汚性などの機能を発現しやすくなる。塩基性ポリマーの含有量がこの範囲よりも多いと、酸と塩基との反応により、白色の塩が析出して透明性に問題が生じ得る。従来は、塩基性ポリマーの量が上記の範囲であると、酸性ポリマーと共に用いることによる静電吸着作用は期待できないため、少なくとも2種類の酸性ポリマーを有するポリマー層を基材表面に単層または多層化して形成させること自体が困難であったが、本発明により、塩基性ポリマーが上記の範囲の量しか存在しない場合でも、基材表面上に、かかるポリマー層を形成し得ることが見出された。
【0039】
本発明において、ポリマー層は、医療デバイス基材の断面を透過型電子顕微鏡を用いて観察したときに観察可能な層状の構造を有する。ポリマー層の厚みは、水濡れ性や易滑性などの機能を発現しやすくなることから1〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、30〜100nmがさらに好ましい。最も好ましくは、水濡れ性や易滑性に優れることから30〜100nmである。上記上限及び下限のいずれを組合わせた範囲であってもよい。ポリマー層は、多層構造であってもよく、単層構造であってもよい。2種類以上の酸性ポリマーが基材表面上に多層構造(組成の異なる複数層の重なり)で存在する状態、または、2種類以上の酸性ポリマーが絡み合った状態で存在する状態(単層構造)のいずれであっても好ましい。
【0040】
2種類以上の酸性ポリマーが基材表面上に層構造をなして存在する場合、層としての種々の特性、たとえば厚さを変えるために、酸性ポリマーどうしの間で分子量を変えることができる。具体的には、分子量を増すと、一般に層の厚さは増す。しかし、分子量が大きすぎる場合、粘度増大により取り扱い難さが増す可能性がある。そのため、本発明で使用される酸性ポリマーは、2000〜1500000の分子量を有することが好ましい。より好ましくは、分子量5000〜1200000であり、さらに好ましくは、75000〜1000000である。ここで、上記分子量としては、ゲル浸透クロマトグラフィー法(水系溶媒)で測定されるポリエチレングリコール換算の質量平均分子量を用いる。
【0041】
本発明の好ましい態様において、本発明の医療デバイスは、チューブ状をなしても良い。
【0042】
上記の例として、医療デバイスは、輸液用チューブ、気体輸送用チューブ、排液用チューブ、血液回路、被覆用チューブ、カテーテル、ステント、シース、チューブコネクターまたはアクセスポートとして好ましく用いられ得る。
【0043】
また、本発明の別の好ましい態様において、上記医療デバイスは、シート状またはフィルム状をなしても良い。
【0044】
具体的には、上記医療デバイスは、皮膚用被覆材、創傷被覆材、皮膚用保護材、皮膚用薬剤担体または内視鏡用被覆材としても好ましく用いられ得る。
【0045】
本発明のさらに別の好ましい態様において、上記医療デバイスは、収納容器形状を有しても良い。
【0046】
具体的には、上記医療デバイスは、薬剤担体、カフ、または、排液バッグとしても好ましく用いられ得る。
【0047】
本発明のさらに別の好ましい態様において、上記医療デバイスは、レンズ形状を有しても良い。
【0048】
具体的には、眼内レンズ、人工角膜、角膜インレイ、角膜オンレイ、メガネレンズなどの眼用レンズとしても好ましく用いられ得る。
【0049】
次に、本発明の医療デバイスの製造方法について説明する。本発明の医療デバイスは、医療デバイス基材を少なくとも2種類の酸性ポリマーを含有する溶液中に配置した状態で加熱する方法により得ることができる。
【0050】
ここで、本発明の発明者らは、上記酸性ポリマーを含有する溶液の初期pHを4.0以上6.8以下に調整して、かかる溶液中に医療デバイスを配置し、その状態で加熱するという極めて簡便な方法で、塩基性ポリマーと共に用いた静電吸着作用を利用した方法によらずとも、上記酸性ポリマーを単層または多層化して基材表面上に形成でき、医療デバイスに優れた水濡れ性や易滑性等を付与しうることを見出した。これは、製造工程の短縮化という観点から、工業的に非常に重要な意味を持つ。
【0051】
上記酸性ポリマーを含有する溶液のpHは、pHメーター(例えばpHメーターKR5E(アズワン株式会社))を用いて測定することができる。本明細書において酸性ポリマーを含有する溶液の初期pHは、溶液に酸性ポリマーを全て添加した後、室温(23〜25℃)にて2時間回転子を用い撹拌し溶液を均一とした後に測定したpHの値を指す。本発明において、pHの値の小数点以下第2位は四捨五入する。本発明において、酸性ポリマーを含有する溶液の初期pHの範囲としては、溶液に濁りが生じず、得られる医療デバイス表面の透明性が良好であることから、4.0〜6.8が好ましく、4.3〜6.6がより好ましく、4.5〜6.4が最も好ましい。上記上限及び下限のいずれを組合わせた範囲であってもよい。
【0052】
なお、溶液のpHは、本発明に係る加熱操作を行った後に変化し得るが、変化後のpHは、本発明に係る初期pHとして扱わない。
【0053】
上記酸性ポリマーを含んだ溶液の初期pHが4.0未満もしくは6.8超の場合、溶液に濁りが生じる場合があり、結果として、医療デバイスの表面の透明性が低下することとなり、好ましくない。
【0054】
本発明においては、緩衝剤を含有した溶液を上記酸性ポリマーを含んだ溶液の溶媒とすることが好ましい。
【0055】
上記緩衝剤のpHは、好ましくは所望の範囲、例えば、おおよそ、生理学的に許容できる範囲である6.3〜7.8、好ましくは6.5〜7.6、さらに好ましくは6.8〜7.4に維持する。任意の生理学的に適合性のある公知の緩衝剤を使用することができる。本発明において適切な緩衝剤は当業者に公知であり、例としては以下のとおりである。例:ホウ酸、ホウ酸塩類(例:ホウ酸ナトリウム)、クエン酸、クエン酸塩類(例:クエン酸カリウム)、重炭酸塩(例:重炭酸ナトリウム)、リン酸緩衝液(例:Na
2HPO
4、NaH
2PO
4、及びKH
2PO
4)、TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、2−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、ビス−アミノポリオール、トリエタノールアミン、ACES(N−(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸)、BES(N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸)、HEPES(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸)、MES(2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸)、MOPS 3−[N−モルホリノ]−プロパンスルホン酸、PIPES(ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)、TES(N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]−2−アミノエタンスルホン酸)、及びそれらの塩。各緩衝剤の量としては、所望のpHを達成する上で有効であるために必要な分が用いられ、通常は、上記溶液中において0.001質量%〜2質量%、好ましくは、0.01質量%〜1質量%;最も好ましくは、0.05質量%〜0.30質量%の量存在する。
【0056】
加熱する方法としては、高圧蒸気滅菌法、乾熱法、火炎法などが挙げられるが、水濡れ性、易滑性、および製造工程短縮の観点から、高圧蒸気滅菌法が最も好ましい。装置としては、オートクレーブを用いることが好ましい。
【0057】
加熱温度は、低過ぎると良好な水濡れ性及び易滑性を示す医療デバイス表面が得られず、高過ぎると医療デバイス自体の強度に影響を及ぼすことから、50℃〜180℃が好ましく、60℃〜140℃がより好ましく、80℃〜130℃が最も好ましい。
【0058】
加熱時間は、短すぎると良好な水濡れ性及び易滑性を示す医療デバイス表面が得られず、長過ぎると医療デバイス自体の強度に影響を及ぼすことから5分〜300分が好ましく、10分〜200分がより好ましく、15分〜100分がより好ましい。
【0059】
なお上記加熱温度および時間における上限及び下限のいずれを組合わせた範囲であってもよい。
【0060】
加熱処理後、少なくとも2種類の酸性ポリマーを含んだ溶液中において引き続いて、または酸性ポリマーを含まない溶液に入れ替えて、さらに上記と同様の加熱処理、また放射線照射などを実施してもよい。
【0061】
上記の場合の放射線としては、各種のイオン線、電子線、陽電子線、エックス線、γ線、中性子線が好ましく、より好ましくは電子線およびγ線であり、最も好ましくはγ線を用いると良い。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0063】
分析方法および評価方法
<水濡れ性>
医療デバイスを、室温でビーカー中のリン酸緩衝液中に24時間以上浸漬した。医療デバイスをリン酸緩衝液から引き上げ、空中に保持した際の表面の様子を目視観察し、下記基準で判定した。
【0064】
A:表面の液膜が20秒以上保持される。
【0065】
B:表面の液膜が10秒以上20秒未満で切れる。
【0066】
C:表面の液膜が5秒以上10秒未満で切れる。
【0067】
D:表面の液膜が1秒以上5秒未満で切れる。
【0068】
E:表面の液膜が瞬時に切れる(1秒未満)。
【0069】
<易滑性>
医療デバイスを、室温でビーカー中のリン酸緩衝液中に24時間以上浸漬した。医療デバイスをリン酸緩衝液から引き上げ、人指で5回擦った時の感応評価で行った。
【0070】
A:非常に優れた易滑性がある。
【0071】
B:AとCの中間程度の易滑性がある。
【0072】
C:中程度の易滑性がある。
【0073】
D:易滑性がほとんど無い(CとEの中間程度)。
【0074】
E:易滑性が無い。
【0075】
<基材の含水率>
基材をリン酸緩衝液に浸漬して室温で24時間以上おいた後、表面水分をワイピングクロス(日本製紙クレシア製”キムワイプ(登録商標)”)で拭き取って質量(Ww)を測定した。その後、真空乾燥器で40℃、2時間乾燥し、質量(Wd)を測定した。これらの質量から、下式(1)により含水率を算出した。得られた値が1%未満の場合は測定限界以下と判断し、「1%未満」と表記した。
【0076】
基材の含水率(%)=100×(Ww−Wd)/Ww 式(1)
<原子間力顕微鏡観察>
以下の条件で医療デバイス表面の原子間力顕微鏡観察を実施し、自乗平均面粗さ値(Rms値)を測定した。
観察装置:(株)島津製作所製 WET-SPM9500J3
探針: シリコンカンチレバーOMCL-AC160TS-C3
走査モード:位相検出
走査範囲: 5mm
測定環境: 室温、大気中
<分子量測定>
使用した酸性ポリマーの分子量は以下に示す条件で測定した。
(GPC測定条件)
装置:島津製作所製 Prominence GPCシステム
ポンプ:LC−20AD
オートサンプラ:SIL−20AHT
カラムオーブン:CTO−20A
検出器:RID−10A
カラム:東ソー社製GMPWXL(内径7.8mm×30cm、粒子径13mm)
溶媒:水/メタノール=1/1(0.1N硝酸リチウム添加)
流速:0.5mL/分
測定時間:30分
サンプル濃度:0.1質量%
注入量:100mL
標準サンプル:Agilent社製ポリエチレンオキシド標準サンプル(0.1kD〜1258kD)
<透過型電子顕微鏡>
以下の条件で医療デバイスの断面厚みを測定した。
装置: 透過型電子顕微鏡(日立製H-7100FA)
条件: 加速電圧 100kV
試料調製: RuO4染色超薄切片法
<pH測定法>
pHメーターKR5E(アズワン株式会社)を用いて溶液のpHを測定した。酸性ポリマーを含有する溶液の初期pHは、各実施例等記載の溶液に酸性ポリマーを全て添加した後、室温(23〜25℃)にて2時間回転子を用い撹拌し溶液を均一とした後に測定した「オートクレーブ前pH」である。各実施例等記載の「1回目オートクレーブ後pH」、「2回目オートクレーブ後pH」、「3回目オートクレーブ後pH」は、オートクレーブ後、溶液を室温(23〜25℃)まで冷却した直後に測定したpHである。請求項1記載の初期pHは「オートクレーブ前pH」を示す。
[参考例1]
両末端にメタクリロイル基を有するポリジメチルシロキサン(FM7726、JNC株式会社、式(M1)の化合物、Mw 30,000)(28質量部)、式(M2)で表されるシリコーンモノマー(7質量部)、トリフルオロエチルアクリレート(ビスコート(登録商標)3F、大阪有機化学工業株式会社)(57.9質量部)、2−エチルへキシルアクリレート(東京化成工業株式会社)(7質量部)、 ジメチルアミノエチルアクリレート(株式会社興人)(0.1質量部)に対し、光開始剤イルガキュア(登録商標)819(長瀬産業株式会社)(5000ppm)、紫外線吸収剤(RUVA-93、大塚化学)(5000ppm)、着色剤(RB246、Arran chemical)(100ppm)、t−アミルアルコール(10質量部)を混合し、撹拌した。メンブレンフィルター(0.45mm)でろ過して不溶分を除いてモノマー混合物を得た。
【0077】
透明樹脂(ベースカーブ側ポリプロピレン、フロントカーブ側ポリプロピレン)製のコンタクトレンズ用モールドに上記モノマー混合物を注入し、光照射(波長405nm(±5nm)、照度:0〜0.7mW/cm
2、30分間)して重合した。
【0078】
重合後に、フロントカーブとベースカーブを離型したモールドごと、60℃の100質量%イソプロピルアルコール水溶液中に1.5時間浸漬して、モールドからコンタクトレンズ形状の成型体を剥離した。それによって得られた成型体を、60℃に保った大過剰量の100質量%イソプロピルアルコール水溶液に2時間浸漬して残存モノマーなどの不純物を抽出した。その後、室温(23℃)中で12時間乾燥させた。
【0079】
【化1】
【0080】
[参考例2]
メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル(98質量部)、トリエチレングリコールジメタクリレート(1.0質量部)、光開始剤イルガキュア819(1.0質量部)を混合し、撹拌した。メンブレンフィルター(0.45mm)でろ過して不溶分を除いてモノマー混合物を得た。このモノマー混合物を試験管に入れ、タッチミキサーで攪拌しながら減圧20Torr(27hPa)にして脱気を行い、その後アルゴンガスで大気圧に戻した。この操作を3回繰り返した。窒素雰囲気のグローブボックス中で透明樹脂(ベースカーブ側ポリプロピレン、フロントカーブ側ゼオノア)製のコンタクトレンズ用モールドにモノマー混合物を注入し、蛍光ランプ(東芝、FL−6D、昼光色、6W、4本)を用いて光照射(1.01mW/cm
2、20分間)して重合した。重合後に、フロントカーブとベースカーブを離型したモールドごと90℃の純水中に1時間浸漬して、モールドからコンタクトレンズ形状の成型体を剥離した。得られた成型体を、90℃に保った大過剰量の100質量%イソプロピルアルコール水溶液に2時間浸漬して残存モノマーなどの不純物を抽出した。その後、リン酸緩衝液中に浸漬させた。
【0081】
[実施例1]
参考例1で得られた成型体を、0.18質量%のポリアクリル酸(“Sokalan PA110S”、Mw 250000、BASF社製)と0.02質量%のアクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合比9/1、Mw 1040000、大阪有機化学工業株式会社製)とを含有したリン酸緩衝液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。評価結果を表1に示す。
[実施例2]
実施例1で得られた成型体をリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。評価結果を表1に示す。
[実施例3]
ポリアクリル酸を0.018質量%、アクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体を0.002質量%とした以外は実施例1と同じ操作を実施し、さらに実施例2と同様の操作を実施した。評価結果を表1に示す。
[実施例4]
オートクレーブ時間を60分間とした以外は実施例1と同じ操作を実施し、さらに実施例2と同様の操作を実施した。評価結果を表1に示す。
[実施例5]
ポリアクリル酸を0.36質量%、アクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体を0.04質量%とした以外は実施例1と同じ操作を実施し、さらに実施例2と同様の操作を実施した。評価結果を表1に示す。
[実施例6]
オートクレーブ時間を60分間とした以外は実施例5と同様の操作を実施した。評価結果を表1に示す。
[実施例7]
参考例1で得られた成型体を、0.36質量%のポリアクリル酸(“Sokalan”(登録商標) PA110S、Mw 250kD、BASF社製)と0.04質量%のアクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合比9/1、Mw 1040kD、大阪有機化学工業株式会社製)を含有したリン酸緩衝液中に入れ、121℃30分間オートクレーブした。その後、得られた成型体を0.18質量%のポリアクリル酸(“Sokalan”(登録商標) PA110S、Mw 250000、BASF社製)と0.02質量%のアクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合比9/1、Mw 1040000、大阪有機化学工業株式会社製)を含有したリン酸緩衝液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。さらに、得られた成型体をリン酸緩衝液に入れ替え、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。評価結果を表1に示した。
[実施例8]
参考例1で得られた成型体を、0.36質量%のポリアクリル酸(“Sokalan”(登録商標) PA110S、Mw 250000、BASF社製)と0.04質量%のアクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合比9/1、Mw 1040000、大阪有機化学工業株式会社製)を含有したリン酸緩衝液中に入れ、121℃30分間オートクレーブした。その後、得られた成型体を1.2質量%の上記ポリアクリル酸を含有したリン酸緩衝液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。さらに、得られた成型体をリン酸緩衝液に入れ替え、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。評価結果を表1に示す。
[実施例9]
2回目のオートクレーブ時に使用したリン酸緩衝液におけるポリアクリル酸濃度を0.18質量%とした以外は実施例8と同様の操作を実施した。評価結果を表1に示す。
[実施例10]
2回目のオートクレーブ時に使用したリン酸緩衝液における酸性ポリマーを1.0質量%アクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合比9/1、Mw 1040000、大阪有機化学工業株式会社製)とした以外は実施例8と同様の操作を実施した。評価結果を表1に示す。
[実施例11]
2回目のオートクレーブ時に使用したリン酸緩衝液におけるアクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体濃度を0.02質量%とした以外は実施例8と同様の操作を実施した。評価結果を表1に示す。
[実施例12]
参考例1で得られた成型体を、0.13質量%のポリアクリル酸(“Sokalan”(登録商標) PA110S、Mw 250000、BASF社製)と0.067質量%のアクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合比9/1、Mw 1040000、大阪有機化学工業株式会社製)を含有したリン酸緩衝液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。評価結果を表1に示す。
[実施例13]
参考例1で得られた成型体を、0.065質量%のポリアクリル酸(“Sokalan”(登録商標) PA110S、Mw 250000、BASF社製)と0.034質量%のアクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合比9/1、Mw 1040000、大阪有機化学工業株式会社製)を含有したリン酸緩衝液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。評価結果を表1に示す。
[実施例14]
参考例2で得られた成型体を用いた以外は実施例1と同じ操作を実施し、さらに実施例2と同様の操作を実施した。評価結果を表1に示す。
[実施例15]
参考例1で得られた成型体を、0.198質量%のポリアクリル酸(“Sokalan”(登録商標) PA110S、Mw 250000、BASF社製)と0.002質量%のアクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合比9/1、Mw 1040000、大阪有機化学工業株式会社製)を含有したリン酸緩衝液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。評価結果を表1に示す。
[実施例16]
参考例1で得られた成型体を、0.1998質量%のポリアクリル酸(“Sokalan”(登録商標) PA110S、Mw 250000、BASF社製)と0.0002質量%のアクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合比9/1、Mw 1040000、大阪有機化学工業株式会社製)を含有したリン酸緩衝液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。評価結果を表1に示す。
[実施例17]
参考例1で得られた成型体を、0.18質量%のポリアクリル酸(“Sokalan”(登録商標) PA110S、Mw 250000、BASF社製)と0.02質量%のアクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合比2/1、Mw 200000、大阪有機化学工業株式会社製)を含有したリン酸緩衝液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。評価結果を表1に示す。
[比較例1]
参考例1で得られた成型体を、0.2質量%のアクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合比2/1、Mw 200000、大阪有機化学工業株式会社製)を含有したリン酸緩衝液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。評価結果を表1に示す。
[比較例2]
参考例1で得られた成型体を、0.2質量%のポリアクリル酸(“Sokalan”(登録商標) PA110S、Mw 250000、BASF社製)を含有したリン酸緩衝液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。評価結果を表1に示す。
[比較例3]
参考例1で得られた成型体を、0.2質量%のアクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合比9/1、Mw 1040000、大阪有機化学工業株式会社製)を含有したリン酸緩衝液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。評価結果を表1に示す。
[比較例4]
参考例1で得られた成型体を、リン酸緩衝液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。評価結果を表1に示す。
[比較例5]
参考例1で得られた成型体を、0.18質量%のポリアクリル酸(“Sokalan”(登録商標) PA110S、Mw 250000、BASF社製)と0.02質量%のアクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合比9/1、Mw 1040000、大阪有機化学工業株式会社製)を含有したリン酸緩衝液にリン酸水素二ナトリウム0.1質量%を添加しpHを6.93に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。評価結果を表1に示すが、成型体表面にポリマー層を形成できなかった。
[比較例6]
参考例1で得られた成型体を、0.18質量%のポリアクリル酸(“Sokalan”(登録商標) PA110S、Mw 250000、BASF社製)と0.02質量%のN,N−ジメチルアクリルアミド/ヒドロキシエチルアクリルアミド共重合体(共重合比9/1、Mw241000)を含有したリン酸緩衝液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液に入れ替え、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。評価結果を表1に示すが、成型体表面にポリマー層を形成できなかった。
[比較例7]
参考例1で得られた成型体を、0.2質量%のポリジメチルアクリルアミド(Mw1000000、大阪有機化学工業株式会社製)を含有したリン酸緩衝液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液に入れ替え、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。評価結果を表1に示す。
【0082】
【表1】