(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6540710
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】速い解離速度の相互作用カイネティクスの決定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/41 20060101AFI20190628BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20190628BHJP
G01N 33/557 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
G01N21/41 101
G01N33/543 595
G01N33/557
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-553727(P2016-553727)
(86)(22)【出願日】2014年11月12日
(65)【公表番号】特表2016-537653(P2016-537653A)
(43)【公表日】2016年12月1日
(86)【国際出願番号】EP2014074396
(87)【国際公開番号】WO2015074931
(87)【国際公開日】20150528
【審査請求日】2017年11月1日
(31)【優先権主張番号】61/905,962
(32)【優先日】2013年11月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597064713
【氏名又は名称】ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 研二
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 拓人
(72)【発明者】
【氏名】カールソン,オロフ
【審査官】
塚本 丈二
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−506967(JP,A)
【文献】
特開2006−098370(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0196343(US,A1)
【文献】
特表2008−544248(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0131650(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0152120(US,A1)
【文献】
特開2006−058036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/41
G01N 33/543
G01N 33/557
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析物に対する相互作用カイネティクスを求める方法であって、
(a)分析物を含有する溶液を、光センサ表面に固定化された固定化リガンド又はその類似物に接触させるステップと、
(b)固定化リガンド又は類似物に対する溶液中の分析物の結合をモニターするステップであって、少なくとも前記リガンド又はその類似物と前記分析物との間の解離相を示す表面の特性の変化として前記結合を測定する、モニターするステップと、
(c)相互作用カイネティクスを自動的に測定するステップであって、前記特性の変化から得られたデータを用いて解離相を表し且つフィッティング用のカイネティクス情報を含むデータの部分を最初に規定することを含む、測定ステップと
を含む方法。
【請求項2】
リガンド又はその類似物が一連の表面に固定化される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
光センサ表面が、エバネッセント波センシングに基づく検出器の一部分である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
エバネッセント波センシングが、表面プラズモン共鳴に基づく、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
フィッティング用のカイネティクス情報を含む解離相の部分を規定するステップが、
R=Yhigh/x
未満の反応データを除外することによってなされる、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
式中、Rは、その値未満ではアルゴリズムが解離相データをフィッティングから除外するRU単位の反応であり、
Yhighは、各曲線の解離相におけるベースラインに比して最も高い反応であり、
xは、ユーザーユーザーによって設定或いはプログラムソフトウェアにコードされた任意の数である。
【請求項6】
xが20である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
フィッティング用のカイネティクス情報を含む解離相の部分を規定するステップが、R=0(ベースライン)未満の反応データを除外することによってなされる、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
フィッティング用のカイネティクス情報を含む解離相の部分を規定するステップが、R=x(xは、ユーザーユーザーによって設定或いはプログラムにコードされた数である)未満の反応データを除外することによってなされる、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
測定ステップが、ドリフト、外乱又は単独異常曲線を調整するステップをさらに含む、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
分子相互作用を研究するための解析システムであって、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の相互作用カイネティクス測定方法のステップを実行するためのプログラムコード手段を含むコンピューター処理手段を備える、解析システム。
【請求項11】
コンピュータープログラム製品であって、コンピューター可読媒体に格納或いは電気信号又は光信号で搬送される、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法のステップを実行するためのプログラムコード手段を備える、コンピュータープログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析物に対する相互作用カイネティクスを求める方法に関する。より具体的には、本発明は、相互作用カイネティクスを自動的に測定する方法に関し、これは、カイネティクス情報を含む解離相の部分を最初に規定することを含む。本発明はまた、本方法のステップを実行するための解析システム及びコンピュータープログラム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
分子間の相互作用を評価するために様々な解析技法が、特に、生体分子の検出及び相互作用を対象とするアッセイ関連において用いられている。例えば、抗体抗原相互作用は、生物学、免疫学及び薬理学を含む多くの分野で基本的に重要である。この場合、多くの解析技法では、抗体などの「リガンド」を固相担体に結合させることと、次いでリガンドを抗原などの「分析物」に接触させることとを含む。リガンドと分析物とを接触させた後、分析物に対するリガンドの結合能など、相互作用の指標となるなんらかの特性を測定する。しばしば、相互作用の測定の後、遊離リガンドを「再生」するために、リガンド−分析物対を解離できるようにし、それによって、さらなる解析測定のためにリガンド表面を再利用できるようにすべきということが望まれる。
【0003】
このような分子相互作用をリアルタイムでモニターできる解析センサシステムへの関心が高まっている。これらのシステムは、光バイオセンサに基づいていることが多く、普通、相互作用解析センサ又は生体分子間特異的相互作用解析センサと呼ばれる。代表的なバイオセンサシステムは、GE Healthcare Life Sciences社が販売するBiacore(登録商標)計測機器であり、試料中の分子と検知面に固定化された分子構造との相互作用を検出するために表面プラズモン共鳴(SPR)を用いるものである。Biacore(登録商標)システムでは、試料中における特定の分子の存在及び濃度だけでなく、例えば、分子相互作用における会合速度定数及び解離速度定数などの追加的な相互作用パラメータも、標識を使わずにリアルタイムで測定できる。装置及び理論的背景については、文献(例えば、Jonsson,U.ら、(1991年)BioTechniques 11、620―627頁参照)において十分に説明されている。基本的に、この技法には、センサチップの特殊な表面へリガンドを固定化することが含まれ、このセンサチップを目的の分析物を含有する試料の流れと接触させ、次いで、目的の結合がもたらすセンサチップの表面の光特性における変化を測定する。SPRのさらなる詳細に関しては、米国特許第5313264号明細書、米国特許第5573956号明細書及び米国特許第5641640号明細書にも言及しておく。
【0004】
SPR解析ではしばしば、相互作用物(すなわち、リガンド及び分析物)の解離に対して解離データの収集時間が長すぎるカイネティクスに関するデータセットが生成される。過剰データは、カイネティクス情報をなんら含まず、フィッティングプロセスを妨げるだけであり、そのためカイネティクスに関する速度定数を測定できなかったり、測定精度が悪くなったりする。この不具合は、センサーグラムの情報含有部分に限定してフィッティングを行うことで、多くの場合、回避できる。このことは、オペレータが各データセットに対してフィッティング範囲を手動で設定するBiacore(登録商標)システムのBIAevalソフトウェアでは容易に行われる。しかしながら、手動プロセスは、完全に自動化された反応速度論的評価を行うことへの要望と相容れない。
【0005】
したがって、過剰データを特定及び除去するための自動化されたプロセスを実施し、それによって、リガンドと分析物との相互作用の完全自動反応速度論的評価を可能にすることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2013/196343号明細書
【発明の概要】
【0007】
フィッティングから過剰なデータを自動的に除外するアルゴリズムを用いる、フィッティングプロセスを補うための新しい方法を本明細書に開示する。本方法及びアルゴリズムは、フィッティングプロセスからベースラインに戻る完全解離の後に続く解離相の部分を自動的に除外する。本方法によれば、反応速度の速い相互作用カイネティクスのフィッティングの成功率が高まり、多くのデータセットを用いる膨大なカイネティクスに関する解析実行をさらに容易にする。
【0008】
よって、本発明の第1の態様は、固相担体表面に固定化した結合剤を用いて分析物の相互作用カイネティクス測定方法であって、この表面に分析物を含有する流体試料を接触させるステップと、固定化リガンド又は類似物に対する分析物の結合をモニターするステップであって、結合を表面の特性の変化として測定するステップと、相互作用カイネティクスを自動的に測定するステップであって、測定ステップが、フィッティング用のカイネティクス情報を含む解離相の部分を最初に規定することを含むステップとによって、分析物の相互作用カイネティクス測定方法を提供することである。特定の実施形態では、測定するステップは、ドリフト、外乱又は単独異常曲線(single deviating curve)を調整するステップをさらに含む。
【0009】
特定の実施形態では、リガンド又はその類似物を一連の表面に固定化し、この表面のそれぞれと分析物を並行して接触させる。
【0010】
特定の実施形態では、分析物を濃度系列として供給し、一連の分析物と表面に固定化されたリガンド又は類似物との相互作用から相互作用カイネティクスを計算する。
【0011】
特定の実施形態では、光センサ表面は、エバネッセント波センシングに基づく検出器の一部分である。光センサ表面は、表面プラズモン共鳴に基づく検出器の一部分であることが好ましい。
【0012】
特定の実施形態では、フィッティング用のカイネティクス情報を含む解離相の部分を規定する方法は、
R=Y
high/x
未満の反応データを除外することによってなされる。
式中、Rは、その値未満ではアルゴリズムが解離相データをフィッティングから除外するRU単位の反応であり、
Y
highは、各曲線の解離相におけるベースラインに比して最も高い反応であり、
xは、ユーザーユーザーによって設定或いはプログラムソフトウェアにコードされた任意の数である。
【0013】
他の実施形態では、フィッティング用のカイネティクス情報を含む解離相の部分を規定する方法は、R=0(ベースライン)未満の反応データを除外することによってなされる。
【0014】
また他の実施形態では、フィッティング用のカイネティクス情報を含む解離相の部分を規定する方法は、R=x(xは、ユーザーユーザーによって設定或いはプログラムにコードされた数である)未満の反応データを除外することによってなされる。
【0015】
別の態様では、本発明は、分子相互作用を研究するための解析システムを提供するものであり、本方法のステップを実行するためのプログラムコード手段を含むコンピューター処理手段を備える。
【0016】
また別の態様では、本発明は、コンピューター可読媒体に格納或いは電気信号又は光信号で搬送される、本方法のステップを実行するためのプログラムコード手段を備える、コンピュータープログラム製品を提供する。
【0017】
本発明のさらなる詳細及び利点は、以下の説明及び特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1(a)】上段パネル:あるデータセットに関し、Run Methodにおいて設定した全解離相を用いて、1:1結合モデルでフィッティングを行ったグラフである。
【
図1(b)】下段パネル:解離相の関連部分だけを含めた上でフィッティングを再度行ったグラフである。
【
図2(a)】上段パネル:1400秒にわたって収集した全データセットのグラフである。
【
図2(b)】中段パネル:
図2(a)のデータセットのグラフではあるが、アルゴリズムを適用する際にフィッティングに用いられる部分に限定したグラフである。
【
図2(c)】下段パネル:1400秒にわたる反応速度の遅い解離におけるデータセットのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、分析物に対する相互作用カイネティクスを求める新しい方法、並びに本方法のステップを実行するための解析システム及びコンピュータープログラム製品に関する。よって、一態様では、本発明は、分析物に対する相互作用カイネティクス測定方法であって、
(a)分析物を含有する溶液を、光センサ表面に固定化された固定化リガンド又はその類似物に接触させるステップと、
(b)固定化リガンド又は類似物に対する溶液中の分析物の結合をモニターするステップであって、結合を表面の特性の変化として測定するステップと、
(c)相互作用カイネティクスを自動的に測定するステップであって、測定ステップが、フィッティング用のカイネティクス情報を含む解離相の部分を最初に規定することを含むステップと、
を含む、分析物に対する相互作用カイネティクス測定方法に関する。
【0020】
表面結合相互作用は、いくつかの様々な相互作用解析技法を用いて評価し得る。市販のバイオセンサとしては、上記Biacore(登録商標)システム計測機器が挙げられ、これは、表面プラズモン共鳴(SPR)に基づくものであり、表面相互作用をリアルタイムでモニターできる。
【0021】
SPRは周知の現象である。SPRは、異なる屈折率を有する2つの媒質間の界面において、特定の条件下で光が反射した時に生じ、この界面は、金属膜、典型的には銀又は金の膜で被覆されている。Biacore(登録商標)計測機器では、媒質とは、試料、並びにマイクロ流体フローシステムによって試料と接触するセンサチップのガラスである。金属膜は、チップ表面上の金の薄層である。SPRでは、特定の反射角度において反射光の強度が低下する。この反射光強度が最小となる角度は、反射光と反対側の表面付近の屈折率と共に変化する。Biacore(登録商標)システムの場合は、試料側である。
【0022】
試料中の分子がセンサチップ表面上の補足用分子に結合すると、濃度ひいては表面の屈折率が変化し、SPR反応が検出される。相互作用の過程で反応を時間に対してプロットすることにより、相互作用の進展に関する定量的尺度が得られる。通常、このようなプロットは、センサーグラムと呼ばれる。Biacore(登録商標)システムでは、SPR反応値は、レゾナンスユニット(RU)単位で表される。1RUは、反射光強度が最小となる角度の変化が0.00001°であることを表し、これは、ほとんどのたんぱく質で、センサ表面における約1pg/mm
2の濃度変化にほぼ等しい。分析物を含有する試料がセンサ表面に接触すると、センサ表面に結合した補足用分子(リガンド)が、「会合」と呼ばれる段階において、分析物と相互に作用する。この段階は、最初にセンサ表面と試料を接触させたときのRUの増加としてセンサーグラム上に示される。逆に、「解離」は、通常、試料フローを、例えば緩衝液フローで置き換えた時に生じる。この段階は、表面に結合したリガンドから分析物が解離するのに伴って、経時的なRUの下落としてセンサーグラム上に示される。
【0023】
図1には、センサチップ表面における6つの異なる分析物濃度の可逆的相互作用に関する代表的な一式のセンサーグラム(結合曲線)が示され、検知面は、固定化分子(リガンド)、例えば抗体を有し、試料中の分析物と相互作用する。縦軸(y軸)は、反応(ここで単位はレゾナンスユニット(RU))を示し、横軸(x軸)は、時間(ここで単位は秒(s))を示す。最初に、緩衝液を検知面に通し、センサーグラムにベースラインとなる反応を得ておく。試料を注入する間には、分析物の結合に起因する信号増加が見られる。結合曲線のこの部分は、通常、「会合相」と呼ばれる。最終的に、共鳴信号が一定となる定常状態に到達する。試料注入が終わると、試料が連続的な緩衝液フローと置き換えられ、表面からの分析物の解離、すなわち遊離を反映して信号が低下する。結合曲線のこの部分は、通常、「解離相」と呼ばれる。会合/解離曲線の形から相互作用カイネティクスに関する貴重な情報が得られ、共鳴信号の大きさは、表面濃度を表している(すなわち、相互作用で得られる反応は、表面上の質量濃度変化に関係する)。
【0024】
反応速度論的評価のための有用なモデルはいくつもある。最も単純なものは、1:1結合モデルである。他のモデルとしては、例えば、1:1解離モデル、2価分析物モデル、不均一系分析物モデル、不均一系リガンドモデル、二状態反応モデル、及び物質移動を伴う1:1モデルが挙げられる。例えば、Biacore T200 Software Handbook 28−9768−78 Edition AAを参照されたい。本発明の実施形態は、すべてのカイネティクスモデルに適する。
【0025】
1:1結合モデルでは、分析物Aと表面に結合した(固定化)補足用分子Bとの間の(物質移動が制限されない)可逆的反応を仮定する(一次反応速度)。
【0026】
【数1】
分析物注入時のAの表面濃度の変化率は次式で表される。
【0027】
【数2】
式中、Γは、結合した分析物の濃度、Γ
maxは、表面の最大結合能、k
assは、会合速度定数、k
dissは、解離速度定数、Cは、バルク分析物濃度である。
この式を変形すると次の式が得られる。
【0028】
【数3】
すべての濃度を同じ単位で測定した場合、この式は、次のように書き換えることができる。
【0029】
【数4】
式中、Rは、RU単位の反応である。この式を積分すると、次の式を導くことができる。
【0030】
【数5】
解離速度は、次式で表すことができる。
【0031】
【数6】
これを積分すると、次の式を導くことができる。
【0032】
【数7】
アフィニティは、平衡会合定数K
A=k
ass/k
diss又は平衡解離定数K
D=k
diss/k
assによって表される。
【0033】
物質移動を伴う1:1結合モデル(新しいバージョンのソフトウェアで使用)では、以下の方程式系の数値計算を用いて、すべての阻害剤濃度系列データセットのカーブフィッティング(global fit)を行うことができる。
【0034】
A[0]=0
dA/dt=k
t×(Conc−A)−(k
a×A×B−k
d×AB)
式中、Aは、センサ表面における分析物の濃度、
Bは、固定化相互作用物、
Concは、注入された分析物の濃度である。
B[0]=R
max
dB/dt=−(k
a×A×B−k
d×AB)
AB[0]=0
dAB/dt=(k
a×A×B−k
d×AB)
全反応:
AB+RI
式中、RIは、試料とランニング緩衝液との間の屈折率不整合である。
【0035】
分子相互作用カイネティクスの測定に関するより詳細な説明については、例えば、Karlsson,R.及びFalt,A.(1997年)Journal of Immunological Methods,200,121−133頁を参照してもよい。また、Nordinら、(2005年)Analytical Biochemistry,340,359−368頁も参照されたい。
【0036】
速度方程式を立てたならば、実験データに最も良く適合する、速度方程式中のパラメータの値を決定する必要がある。これは、一般に、カーブフィッティングと呼ばれる。カーブフィッティングに用いる1つの方法は、Marquardt−Levenbergアルゴリズムに依拠し、これは、残差二乗和を最小化することによってパラメータの値を最適化するものである。残差は、各点における、算出した曲線と実験で得られた曲線との差であり、残差の二乗を用いて、実験で得られた曲線の上方及び下方への偏差が等しく重み付けされるようにする。
【0037】
【数8】
式中、Sは、残差二乗和であり、
r
fは、所与の点におけるフィッティングさせた値であり、
r
xは、同じ点における実験値であり、
nは、データポイント数である。
フィッティングの近似度は、カイ二乗の統計値で表すことができる。
【0038】
【数9】
r
fは、所与の点におけるフィッティングさせた値であり、
r
xは、同じ点における実験値であり、
nは、データポイント数であり、
pは、フィッティングさせたパラメータの数である。
センサーグラムのデータでは、データポイント数は、このモデルにおける、フィッティングさせたパラメータの数よりも非常に多く、
【0039】
【数10】
であり、カイ二乗は、各データポイントにおける平均二乗残差に帰着する。
【0040】
モデルが実験データにぴったりとフィッティングした場合、カイ二乗は、信号雑音の平均平方を表す(フィット曲線からの偏差はこれだけであるため)。
【0041】
上述のように、1以上の相互作用対のカイネティクスを行う際に、同時に未知の相互作用カイネティクスを伴う場合、予想される最も遅い相互作用物に適合するように接触時間及び解離時間を設定する必要があり、これらの時間は、実行中ずっと同様に保たれる。反応速度の速い解離におけるデータセットでは、このことは、完全解離後、反応がベースラインまで戻った時に、データが依然として解離データとして記録されていることを意味する(
図1a)。このようなデータセットに対して1:1相互作用モデルをフィッティングした場合、一般にすべての解離相をフィッティングに用い、カイネティクスに関係しない部分がカイネティクスに関係する部分と同程度にフィッティングに影響することになる。このことにより、アルゴリズムが、カイネティクスに関する曲線形状にフィッティングすることなくカイ二乗が最小となるよう探索することがある、すなわち、カイネティクスに関する測定が失敗することがある(
図1aにおいて、カラーのデータ曲線を黒色のフィッティングされた曲線と比較されたい)。しかしながら、フィッティングに用いる解離の部分を、カイネティクスに関する部分(この例では、240秒)に手動で限定した場合、アルゴリズムは、この曲線形状を見つける(
図1bにおいて、カラーのデータ曲線を黒色のフィッティングされた曲線と比較されたい)。これでようやくカイネティクスに関する速度定数が測定される。これは、不適切なデータや損なわれたデータがカイ二乗の計算に影響を及ぼさなくなったおかげである。
【0042】
一実施形態では、カイネティクス情報を含む解離相の部分を規定するためのアルゴリズムが追加される。
図2(a)に示すデータセットでは、フィッティングのための標準的なアルゴリズムは、すべての解離相をフィッティングに用いる(例えば、400〜1400秒)。本発明の一実施例では、以下のアルゴリズムによってフィッティングに用いる部分の範囲が定められる。
【0043】
R=Y
high/x
式中、Rは、その値未満ではアルゴリズムが解離相データをフィッティングから除外するRU単位の反応であり、
Y
highは、各曲線の解離相におけるベースラインに比して最も高い反応であり、
xは、ユーザーユーザーによって設定或いはプログラムソフトウェアにコードされた任意の数である。このようにして、x=20の場合、Rが、最も大きい反応の5%未満であるデータは、フィッティングから除外される。適切な数xを設定することに注意が払われるべきである。この数が大きすぎると、曲線にドリフトがある場合に影響を受けることがあり、この数が小さすぎると、有用なデータが意図せずに除外されることがある。
【0044】
データセット中の各曲線に対して、アルゴリズムが決定した情報を含む部分だけをフィッティングに用いる(
図2(b)において、x=20と仮定)。アルゴリズムは、反応速度の遅い解離のデータセットには影響を与えず、このことは有益である(
図2(c))。
【0045】
別の実施例では、R=0(ベースライン)又はR=x(ユーザーが設定又はプログラム中にコーディングされる任意の数)など、より単純なアルゴリズムによってフィッティングに用いる部分の範囲が定められる。これらのより単純なアルゴリズムはどれも、反応速度の遅い解離のデータセットには影響を与えず、このことは有益であるが、雑音が多いデータやドリフトしているデータでは非効率な場合もある。
【0046】
場合によっては、特定のアプリケーションでは、ドリフト、外乱及び単独異常曲線などもまた考慮に入れる。
【0047】
本方法は、カイネティクスに関するデータの反応速度論的評価を合理化し、かつより単純にし、またカイネティクスに関するデータセットを多数含む膨大な解析実行における反応速度論的評価を強化する。
【0048】
本実施形態の変形例では、類似のアルゴリズムを実装して、解離が完了したときに、コントロールソフトウェアにデータ生成を停止させることもできる。或いは、類似のアルゴリズムを実装して、評価ソフトウェアにデータ内の妨げとなる部分を削除させることもできる。
【0049】
上記の説明は、Biacore(登録商標)システムに多かれ少なかれ関連していたが、固相担体表面における結合相互作用を検出するための多くの他の技法に関連して本発明を用いてよいことが理解される。他の技法としては、例えば、いわゆる非標識検出システムだけではなく、放射標識、発色団、フルオロフォア、散乱光用のマーカー、電気化学的活性マーカー(electrochemically active marker)(例えば、電界効果トランジスタに基づく電位差測定)、電場活性マーカー(electric field active marker)(電気刺激誘導放出(electro−stimulated emission))、磁気活性マーカー(magnetically active marker)、熱活性マーカー(thermoactive marker)、化学発光部分(chemiluminescent moiety)又は遷移金属などの標識に依拠するものが挙げられる。しかしながら、リアルタイム検出システム、特に化学センサ又はバイオセンサ技術に基づく検出システムが好ましい。
【0050】
バイオセンサは、固体の物理化学的トランスデューサと直接連結するか、トランスデューサと併用する可動担体ビーズ/粒子を備える、分子識別のための構成要素(例えば、固定化した抗体を有する層)を用いる装置として広義に定義されている。こうしたセンサは、典型的には、非標識技法に基づいて、例えば、質量、屈折率、又は固定化層の厚さの変化を検出するが、ある種の標識化に依拠するセンサもある。典型的なセンサ検出技法としては、限定するものではないが、光学的方法、熱光学的方法及び圧電的又は音響的(例えば、表面弾性波(SAW)及び水晶振動子マイクロバランス(QCM)を含む)方法などの質量検出法、並びに電位差測定による(potentiometric)方法、電気伝導度測定による(conductometric)方法、電流測定による(amperometric)方法及び容量法もしくはインピーダンス法などの電気化学的方法が挙げられる。光学的検出方法に関しては、代表的な方法としては、外部反射による方法と内部反射による方法との両方を含み、角度分解、波長分解、偏光分解又は位相分解であり得る反射光学的方法などの表面の質量濃度を検出する方法が挙げられ、例えば、エバネッセント波偏光解析法(evanescent wave ellipsometry)及びエバネッセント波分光法(evanescent wave spectroscopy)(EWS、又は内部反射分光法(Internal Reflection Spectroscopy))(両方とも表面プラズモン共鳴(SPR)によるエバネッセント場の増強を含み得る)、ブリュースター角屈折率測定法(Brewster angle refractometry)、臨海角屈折率測定法(critical angle refractometry)、漏れ全反射(frustrated total reflection)(FTR)、散乱全内部反射(scattered total internal reflection)(STIR)(散乱増強標識、光導波路センサを含み得る)、外部反射イメージング、臨海角分解イメージング、ブリュースター角分解イメージング、SPR角分解イメージングなどのエバネッセント波に基づくイメージングが挙げられる。さらに、光度測定及びイメージング/顕微鏡法による方法「それ自体」又はこれを反射による方法と組合せた方法、例えば、表面増強ラマン分光法(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS)、エバネッセント波蛍光(TIRF)及び燐光に基づく方法、並びに導波路干渉計、導波路漏れモード分光法、反射干渉分光法(RIfS)、透過干渉法、ホログラフィー分光法、及び原子間力顕微鏡法(AFM)についても言及できる。
【0051】
なかでも、今日市販されているものは、SPRに基づくバイオセンサシステムである。このようなSPRに基づくバイオセンサの例として、上述のBiacore(登録商標)計測機器が挙げられる。Biacore(登録商標)計測機器及びSPRの現象についての技術的側面の詳細な議論は、米国特許第5313264号明細書に見られる。バイオセンサの検知面へのマトリクス被覆に関するより詳細な情報は、例えば、米国特許第5242828号明細書及び第5436161号明細書で得られる。加えて、Biacore(登録商標)計測機器と共に使用されるバイオセンサチップの技術的側面の詳細な議論は、米国特許第5492840号明細書に見られる。上記米国特許の全開示内容は、参照により本明細書に援用される。
【0052】
例えば、上記Biacore(登録商標)計測機器で使用されるタイプのフローセルにおいて本発明の方法を実行すると便利であることが多い。本発明で使用され得る他のフローセルもまた、当業者には周知であり、本明細書において説明する必要もない。
【0053】
本明細書において「固相担体」の語を使用する場合、広義に解釈されるべきであり、その上に1つ以上の結合剤を固定化でき、そこでの分子相互作用が選択された特定の検出システムによって検出される、あらゆる固相(可撓性又は硬質)基板を含むように意図されていることに留意されたい。基板は、生物学的基板、非生物学的基板、有機基板、無機基板又はこれらの組合せであってよく、円盤、球体、円などを含む任意の便利な形状を有する、粒子、紐、沈殿物、ゲル、シート、管類、球体、容器、毛細管、パッド、切片、フィルム、プレート、スライドなどの形態であってよい。基板表面は、任意の二次元構成を有してよく、例えば、ステップ、リッジ、キンク、テラスなどを含んで良く、基板のそれ以外の部分の物質とは異なる物質の層の表面であってもよい。
【0054】
本発明の特定の形態を示しかつ説明してきたが、本発明の教示から逸脱することなしに変更及び修正がなされ得ることが当業者には明らかである。上記説明及び添付の図面で説明した事項は、単に説明の目的で供したものであり、限定を目的とするものではない。本発明の実際の範囲は、従来技術に基づいて適切な視点から読めば、以下の特許請求の範囲において定義されるように意図されている。