(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
外部磁場の発生源を別途設けると、素子サイズの大型化や製造プロセスの複雑化を招く。素子構成によっては、外部磁場を印加せずに磁化反転を行うことができるが、磁化反転に時間がかかると言う問題がある。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、外部磁場が印加されていない条件でも容易に磁化方向を変えることができるスピン軌道トルク型磁化回転素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
磁気メモリは、直径数十nm〜数百nm程度の微細な磁気抵抗効果素子を複数集積してなる。磁気メモリは集積性を高めることが求められている。集積性の観点からも加工精度の観点からも、二次元を規定するx方向及びy方向が決定したら、この2方向に沿って全てのプロセスを進めることが好ましい。例えば、半導体のフォトリソグラフィー等の技術においても、規定されたx方向及びy方向に対して斜め方向の成分をもつプロセスは通常行わない。
【0011】
一方で、本発明者らは、鋭意検討の結果、規定されたx方向及びy方向に対して斜め方向にスピン軌道トルク配線を延在させることで、外部磁場が印加されていない条件でも容易に磁化方向を変えることができることを見出した。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0012】
(1)第1の態様にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子は、第1の方向に延在する第1配線と、前記第1の方向又は前記第1の方向と直交する第2の方向に延在する第2配線と、前記第1配線及び前記第2配線と電気的に接続され、前記第1の方向及び前記第2の方向のいずれとも平面視交差する第3の方向に延在するスピン軌道トルク配線と、前記スピン軌道トルク配線の一面に積層され、前記第1の方向又は前記第2の方向に磁化容易軸を有する第1強磁性層と、を備える。
【0013】
(2)上記態様にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子は、前記第1強磁性層の平面視形状が角部に鋭角を有する平行四辺形であってもよい。
【0014】
(3)上記態様にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子は、前記第1配線と前記スピン軌道トルク配線の第1端部とを繋ぐ第1ビア配線と、前記第2配線と前記スピン軌道トルク配線の第2端部とを繋ぐ第2ビア配線と、を備え、前記第1ビア配線及び前記第2ビア配線の幅が、前記スピン軌道トルク配線の幅より広くてもよい。
【0015】
(4)上記態様にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子は、前記第1強磁性層がHoCo
2又はSmFe
12であってもよい。
【0016】
(5)第2の態様にかかるスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子は、上記態様にかかる軌道トルク型磁化回転素子と、前記第1強磁性層の前記スピン軌道トルク配線と反対側に位置する第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に挟まれた非磁性層と、を備える。
【0017】
(6)上記態様にかかるスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子は、前記第1強磁性層は、元素拡散を防ぐ拡散防止層をさらに備えてもよい。
【0018】
(7)上記態様にかかるスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子は、前記拡散防止層が、非磁性の重金属元素を含んでもよい。
【0019】
(8)上記態様にかかるスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子において、前記拡散防止層の厚みは、前記拡散防止層を構成する元素の2倍以上であってもよい。
【0020】
(9)第3の態様にかかる磁気メモリは、上記態様にかかるスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子を複数備える。
【発明の効果】
【0021】
上述した態様にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子によれば、外部磁場が印加されていない条件でも容易に磁化方向を変えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0024】
図1は、第1実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子を模式的に示した平面図である。
図1に示すスピン軌道トルク型磁化回転素子100は、第1強磁性層1とスピン軌道トルク配線20と、ビア配線30と、第1配線40と、第2配線50とを備える。
【0025】
図1において、第1配線40が延在する第1の方向をx方向、第1の方向と平面視直交する第2の方向をy方向、x方向及びy方向のいずれにも直交し、紙面手前側へ向かう方向をz方向とする。
【0026】
<第1配線、第2配線>
第1配線40はx方向に延在し、第2配線50はy方向に延在している。第1配線40と第2配線50とは、z方向の異なる高さに位置し、直接接続されていない。第1配線40と第2配線50との間に電流を流すことで、スピン軌道トルク配線20に電流が流れる。第1配線40及び第2配線50には、導電性の高い材料を用いることができる。例えば、銅、アルミニウム等を用いることができる。
【0027】
<スピン軌道トルク配線>
スピン軌道トルク配線20は、x方向及びy方向のいずれとも平面視交差する第3の方向に延在する。第3の方向は、x方向およびy方向に対して斜め方向である。すなわち、第1の方向、第2の方向及び第3の方向は、xy平面に投影した際に、同一面内の異なる方向として描かれる。
【0028】
スピン軌道トルク配線20は、電流が流れるとスピンホール効果によってスピン流が生成される材料からなる。かかる材料としては、スピン軌道トルク配線20中にスピン流が生成される構成のものであれば足りる。従って、単体の元素からなる材料に限らないし、スピン流を生成しやすい材料で構成される部分とスピン流を生成しにくい材料で構成される部分とからなるもの等であってもよい。
【0029】
スピンホール効果とは、材料に電流を流した場合にスピン軌道相互作用に基づき、電流の向きと直交する方向にスピン流が誘起される現象である。スピンホール効果によりスピン流が生み出されるメカニズムについて説明する。
【0030】
スピン軌道トルク配線20の両端に電位差を与えると、スピン軌道トルク配線20に沿って電流が流れる。電流が流れると、一方向に配向した第1スピンS1と、第1スピンS1と反対方向に配向した第2スピンS2とは、それぞれ電流と直交する方向に曲げられる。例えば、第1スピンS1は進行方向に対しz方向に曲げられ、第2スピンS2は進行方向に対して−z方向に曲げられる。
【0031】
通常のホール効果とスピンホール効果とは運動(移動)する電荷(電子)が運動(移動)方向を曲げられる点で共通する。一方で、通常のホール効果は磁場中で運動する荷電粒子がローレンツ力を受けて運動方向を曲げられるのに対して、スピンホール効果では磁場が存在しなくても、電子が移動するだけ(電流が流れるだけ)でスピンの移動方向が曲げられる点が大きく異なる。
【0032】
非磁性体(強磁性体ではない材料)では第1スピンS1の電子数と第2スピンS2の電子数とが等しいので、図中で+z方向に向かう第1スピンS1の電子数と−z方向に向かう第2スピンS2の電子数が等しい。この場合、電荷の流れは互いに相殺され、電流量はゼロとなる。電流を伴わないスピン流は特に純スピン流と呼ばれる。
【0033】
第1スピンS1の電子の流れをJ
↑、第2スピンS2の電子の流れをJ
↓、スピン流をJ
Sと表すと、J
S=J
↑−J
↓で定義される。スピン流J
Sは、図中のz方向に流れる。
図1において、スピン軌道トルク配線20の上面には後述する第1強磁性層1が存在する。そのため、第1強磁性層1にスピンが注入される。
【0034】
スピン軌道トルク配線20は、電流が流れる際のスピンホール効果によってスピン流を発生させる機能を有する金属、合金、金属間化合物、金属硼化物、金属炭化物、金属珪化物、金属燐化物のいずれかによって構成される。
【0035】
スピン軌道トルク配線20の主構成は、非磁性の重金属であることが好ましい。ここで、重金属とは、イットリウム以上の比重を有する金属を意味する。非磁性の重金属は最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属であることが好ましい。これらの非磁性金属は、スピンホール効果を生じさせるスピン軌道相互作用が大きい。
【0036】
電子は、一般にそのスピンの向きに関わりなく、電流とは逆向きに動く。これに対し、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号が大きい非磁性金属はスピン軌道相互作用が大きく、スピンホール効果が強く作用する。そのため、電子の動く方向は、電子のスピンの向きに依存する。従って、これらの非磁性の重金属中ではスピン流J
Sが発生しやすい。
【0037】
またスピン軌道トルク配線20は、磁性金属を含んでもよい。磁性金属とは、強磁性金属、あるいは、反強磁性金属を指す。非磁性金属に微量な磁性金属が含まれるとスピンの散乱因子となる。スピンが散乱するとスピン軌道相互作用が増強され、電流に対するスピン流の生成効率が高くなる。スピン軌道トルク配線20の主構成は、反強磁性金属だけからなってもよい。
【0038】
一方で、磁性金属の添加量が増大し過ぎると、発生したスピン流が添加された磁性金属によって散乱され、結果としてスピン流が減少する作用が強くなる場合がある。そのため、添加される磁性金属のモル比はスピン軌道トルク配線を構成する元素の総モル比よりも十分小さい方が好ましい。添加される磁性金属のモル比は、全体の3%以下であることが好ましい。
【0039】
スピン軌道トルク配線20は、トポロジカル絶縁体を含んでもよい。トポロジカル絶縁体とは、物質内部が絶縁体、あるいは、高抵抗体であるが、その表面にスピン偏極した金属状態が生じている物質である。この物質にはスピン軌道相互作用により内部磁場が生じる。そこで外部磁場が無くてもスピン軌道相互作用の効果で新たなトポロジカル相が発現する。これがトポロジカル絶縁体であり、強いスピン軌道相互作用とエッジにおける反転対称性の破れにより純スピン流を高効率に生成できる。
【0040】
トポロジカル絶縁体としては例えば、SnTe、Bi
1.5Sb
0.5Te
1.7Se
1.3、TlBiSe
2、Bi
2Te
3、Bi
1−xSb
x、(Bi
1−xSb
x)
2Te
3などが好ましい。これらのトポロジカル絶縁体は、高効率にスピン流を生成することが可能である。
【0041】
<第1強磁性層>
第1強磁性層1は、スピン軌道トルク配線20の一面に積層されている。第1強磁性層1は、スピン軌道トルク配線20と直接接続されていてもよいし、下地層などの他の層を介し接続されていてもよい。
【0042】
第1強磁性層1は、x方向又はy方向に磁化容易軸を有する面内磁化膜である。第1強磁性層1の材料として、強磁性材料、特に軟磁性材料を適用できる。
図1に示す第1強磁性層1は、x方向に磁化容易軸を有する。第1強磁性層1の磁化M1は、磁化の向きが変化する。外力が加わらない状態では、磁化M1は磁化容易方向(+x又は−x方向)に配向する。
【0043】
磁化M1の磁化容易軸とスピン軌道トルク配線20が延在する第3の方向とのなす角は、スピン軌道トルク型磁化回転素子100に求められる性能により好ましい範囲が変化する。磁化回転し始める時間を短縮したい(反応性に優れた素子を作製したい)場合は、磁化容易軸と第3方向とのなす角が45°以下であることが好ましく、30°以下であることがより好ましく、10°以下であることがさらに好ましい。磁化反転の安定性を高めたい(信頼性に優れた素子を作製したい)場合は、磁化容易軸と第3方向とのなす角が45°以上であることが好ましく、60°以上であることがより好ましく、80°以上であることがさらに好ましい。
【0044】
第1強磁性層1は、c軸長がa軸長より短い正方晶の磁性材料であることが好ましい。例えば、Co−Ho合金(CoHo
2)、Sm−Fe合金(SmFe
12)等を用いることが好ましい。なお、c軸長がa軸長より長い場合等においても、成膜時又はアニール時に所定の方向に磁場を印加することで、磁化M1の配向方向は制御できる。
【0045】
上述のように、磁化M1の配向方向は、成膜時又はアニール時に印加する磁場方向により自由に制御できる。そのため第1強磁性層1の平面視形状は特に問わない。例えば、
図1及び
図2に示すように角部に鋭角を有する平行四辺形でも、
図3に示すように円形でもよい。
図2及び
図3は、第1実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子の一例の要部を拡大した斜視図である。
図2に示すように、第1強磁性層1の平面視形状が角部に鋭角を有する平行四辺形の場合、平面対称性が悪いため角の部分等に、局所的に反磁界が弱い部分が形成される。反磁界が弱い部分は磁化反転しやすくい。つまりこの部分の磁化が反転し、その他の部分に伝搬していく(例えば、磁壁の移動)ことで、磁化反転に要するエネルギーを低くすることができる。したがって、磁化反転のし易さの観点から、第1強磁性層1の平面視形状は角部に鋭角を有する平行四辺形(菱形を含む)であることが好ましい。
【0046】
<ビア配線>
ビア配線30は、第1ビア配線31と第2ビア配線32との2つの配線からなる。第1ビア配線31は、第1配線40とスピン軌道トルク配線20の第1端部とを繋ぐ。第2ビア配線32は、第2配線50とスピン軌道トルク配線20の第2端部とを繋ぐ。第1ビア配線31と第2ビア配線32とは、平面視で第1強磁性層1を挟む位置にある。
図1に示すビア配線30はスピン軌道トルク配線20から−z方向に延在しているが、第1配線40及び第2配線50の位置によってはスピン軌道トルク配線20から+z方向に延在してもよい。
【0047】
ビア配線30には、導電性に優れる材料を用いることができる。例えば、銅、アルミニウム、銀等をビア配線30として用いることができる。
【0048】
図2及び
図3に示すように、第1ビア配線31及び第2ビア配線32の幅は、スピン軌道トルク配線20の幅より広いことが好ましい。ここで、スピン軌道トルク配線20の幅とは、第1の方向(x方向)又は第2の方向(y方向)のうちスピン軌道トルク配線20の長さが長い方向と直交する方向の幅を意味する。すなわち、
図2及び
図3においては、スピン軌道トルク配線20の長さはx方向に長く、スピン軌道トルク配線20の幅はスピン軌道トルク配線20のy方向の幅を意味する。
【0049】
第1ビア配線31及び第2ビア配線32の幅Dは、スピン軌道トルク配線20の幅dの2倍以上であることが好ましい。当該関係を満たすことで、素子サイズが最小加工寸法Fまで微細化した場合でも、スピン軌道トルク配線20をx方向及びy方向に対して斜めに配設し易くなる。また第1ビア配線31及び第2ビア配線32の面積が大きくなることで、これらの抵抗値を下げることができる。
【0050】
<その他の構成>
例えば、実際の素子において配線や第1強磁性層の間は、層間絶縁膜で保護されている。層間絶縁膜には、半導体デバイス等で用いられているものと同様の材料を用いることができる。例えば、酸化シリコン(SiO
x)、窒化シリコン(SiN
x)、炭化シリコン(SiC)、窒化クロム(CrN)、炭窒化シリコン(SiCN)、酸窒化シリコン(SiON)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化ジルコニウム(ZrO
x)等が用いられる。
【0051】
またこの他、支持体として基板等を有していてもよい。基板は、平坦性に優れることが好ましく、材料として例えば、Si、AlTiC等を用いることができる。
【0052】
(スピン軌道トルク型磁化回転素子の原理)
次いで、スピン軌道トルク型磁化回転素子100の原理について説明する。また本実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子100が外部磁場を印加することなく、容易に磁化反転が可能な理由について説明する。
【0053】
図4及び
図5は、スピン軌道トルク型磁化回転素子100の原理を説明するための模式図である。
図4と
図5の違いは、第1強磁性層1の平面視形状の違いである。第1強磁性層1の平面視形状が異なっていても磁化反転の原理は原則同じである。第1配線40と第2配線50との間に電位差を与えると、第1配線40と第2配線50との間を繋ぐスピン軌道トルク配線20に書き込み電流Iが流れる。スピン軌道トルク配線20に書き込み電流Iが流れると、スピンホール効果が生じる。z方向に曲げられた第1スピンS1は、書き込み電流Iと直交する方向に配向する。
【0054】
スピン軌道トルク配線20のz方向には、第1強磁性層1が配設されている。そのため、スピン軌道トルク配線20から第1強磁性層1にスピンが注入される。注入されたスピンは、第1強磁性層1の磁化M1にスピン軌道トルク(SOT)を与える。
【0055】
第1強磁性層1に注入される第1スピンS1はx方向の成分とy方向の成分を有する。第1スピンS1のy方向の成分は、磁化M1にy方向のトルク(スピン軌道トルク)を与え、磁化M1をy方向に向かって90°回転させる。第1スピンS1のx方向の成分は、+x方向を向く磁化M1に対して180°反対の−x方向のトルク(スピン軌道トルク)を与える。すなわち、第1スピンS1のy方向の成分により磁化M1をy方向に向けて素早く90°回転させ、第1スピンS1のx方向の成分により磁化M1を−x方向に向けて完全に反転させることができる。
【0056】
図4及び
図5では、第1強磁性層1の磁化M1の磁化容易方向がx方向として説明したが、
図6及び
図7に示すように第1強磁性層1の磁化M1の磁化容易方向がy方向の場合も同様である。
図6と
図7の違いは、第1強磁性層1の平面視形状の違いである。第1スピンS1のx方向の成分は、磁化M1に−x方向のトルク(スピン軌道トルク)を与え、磁化M1を−x方向に向かって90°回転させる。第1スピンS1のy方向の成分は、−y方向を向く磁化M1に対して180°反対のy方向のトルク(スピン軌道トルク)を与える。すなわち、第1スピンS1のx方向の成分により磁化M1を−x方向に向けて素早く90°回転させ、第1スピンS1のy方向の成分により磁化M1をy方向に向けて完全に反転させることができる。
【0057】
図8は、スピン軌道トルク配線20’がx方向に延在し、x方向及びy方向に対して傾斜していない場合のスピン軌道トルク型磁化回転素子102の模式図である。第1強磁性層1’の磁化容易軸はx方向であり、磁化M1’はx方向に配向している。第1ビア配線31’と第2ビア配線32’とは、x方向に第1強磁性層1’を挟んでいる。
【0058】
図8に示すスピン軌道トルク配線20’に書き込み電流I’が流れると、y方向に配向した第1スピンS1’が第1強磁性層1’に注入される。第1スピンS1’は、y方向の成分しか有さないため、磁化M1をy方向に向かって90°回転させる。90°回転した磁化M1がx方向に戻るか、−x方向に向く(磁化反転する)かは、外部磁場が第1強磁性層1に印加されていない状態では、確率的に決まる。つまり、磁化反転するか否かが確率によって決定され、素子として安定的に機能しない。
【0059】
上述のように、第1実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子100は、スピン軌道トルク配線20がx方向及びy方向に対して斜め方向に配設されているため、磁化M1を素早く90°回転させるトルクと180°確実に回転させるためのトルクを共に印加することができる。その結果、第1実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子100は、素子外部から磁場を印加しなくても、容易に磁化反転を行うことができる。
【0060】
上述の第1実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子100は、不揮発性ランダムアクセスメモリ(MRAM)、高周波部品、磁気センサなどへの適用が可能である。例えば、磁気異方性センサや、磁気カー効果又は磁気ファラデー効果を利用した光学素子として用いることができる。
【0061】
また第1実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子100は、フォトリソグラフィー等の公知の技術により製造できる。第1強磁性層1の磁化M1の磁化容易方向を規定するためには、成膜時又はアニール時に所定の方向に磁場を印加することが好ましい。
【0062】
以上、本実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【0063】
例えば、
図9は、第1実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子の別の例の平面模式図である。
図9に示すように、スピン軌道トルク型磁化回転素子103の第1配線40と第2配線50との延在方向が同一であり、これらが平行に配列されていてもよい。また
図9に示すように、第1強磁性層1の平面視形状は楕円でもよい。
【0064】
「第2実施形態」
<スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子>
図10は、第2実施形態に係るスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子の要部を拡大した斜視図である。スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子は、上述のスピン軌道トルク型磁化回転素子と第2強磁性層2と非磁性層3とを備える。第2強磁性層2は、第1強磁性層1のスピン軌道トルク配線20と反対側に位置する。非磁性層3は、第1強磁性層1と第2強磁性層2に挟まれる。第1強磁性層1、非磁性層3及び第2強磁性層2とで、磁気抵抗効果素子10をなす。スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子の平面図は、第1強磁性層1が磁気抵抗効果素子を10に置き換えること以外は同様である。上述のスピン軌道トルク型磁化回転素子100と同一の構成については同一の符号を付し、説明を省く。
【0065】
磁気抵抗効果素子10は、第2強磁性層2の磁化が一方向(z方向)に固定され、第1強磁性層1の磁化M1の向きが相対的に変化することで機能する。保磁力差型(擬似スピンバルブ型;Pseudo spin valve 型)のMRAMに適用する場合には、第2強磁性層2の保磁力を第1強磁性層1の保磁力よりも大きくする。交換バイアス型(スピンバルブ;spin valve型)のMRAMに適用する場合には、第2強磁性層2の磁化を反強磁性層との交換結合によって固定する。
【0066】
また磁気抵抗効果素子10において、非磁性層3が絶縁体からなる場合は、トンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistance)素子と同様の構成であり、非磁性層3が金属からなる場合は巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magnetoresistance)素子と同様の構成である。
【0067】
磁気抵抗効果素子10の積層構成は、公知の磁気抵抗効果素子の積層構成を採用できる。例えば、各層は複数の層からなるものでもよいし、第2強磁性層2の磁化方向を固定するための反強磁性層等の他の層を備えてもよい。第2強磁性層2は固定層や参照層、第1強磁性層1は自由層や記憶層などと呼ばれる。
【0068】
第2強磁性層2の材料には、公知の材料を用いることができ、第1強磁性層1と同様の材料を用いることができる。第1強磁性層1が面内磁化膜であるため、第2強磁性層2も面内磁化膜であることが好ましい。
【0069】
第2強磁性層2の第1強磁性層1に対する保磁力をより大きくするために、第2強磁性層2と接する材料としてIrMn,PtMnなどの反強磁性材料を用いてもよい。さらに、第2強磁性層2の漏れ磁場を第1強磁性層1に影響させないようにするため、シンセティック強磁性結合の構造としてもよい。
【0070】
非磁性層3には、公知の材料を用いることができる。
例えば、非磁性層3が絶縁体からなる場合(トンネルバリア層である場合)、その材料としては、Al
2O
3、SiO
2、MgO、Ga
2O
3及び、MgAl
2O
4等を用いることができる。またこれらの他にも、Al、Si、Mgの一部が、Zn、Be等に置換された材料等も用いることができる。さらに、MgAl
2O
4のMgがZnに置換された材料や、AlがGaやInに置換された材料等も用いることができる。これらの中でも、MgOやMgAl
2O
4は他の層との格子整合性が高い。
【0071】
磁気抵抗効果素子10は、高い磁気抵抗比を得るためには、TMR素子であるが好ましい。すなわち、非磁性層3はトンネルバリア層であることが好ましい。トンネルバリア材料としては、MgO又は非磁性スピネル材料が好ましい。また第1強磁性層1と第2強磁性層2とのうち少なくとも一方は、Co、Feのいずれか一方を含む合金であることが好ましく、Co、Feのいずれか一方とBとを含む合金であることがより好ましい。この場合、非磁性層3が結晶化しやすくなり、高い磁気抵抗比が得られる。
【0072】
磁気抵抗効果素子10は、その他の層を有していてもよい。例えば、第1強磁性層1の非磁性層3と反対側の面に下地層を有していてもよいし、第2強磁性層2の非磁性層3と反対側の面にキャップ層を有していてもよい。
【0073】
スピン軌道トルク配線20と第1強磁性層1との間に配設される層は、スピン軌道トルク配線20から伝播するスピンを散逸しないことが好ましい。例えば、銀、銅、マグネシウム、及び、アルミニウム等は、スピン拡散長が100nm以上と長く、スピンが散逸しにくいことが知られている。
また、この層の厚みは、層を構成する物質のスピン拡散長以下であることが好ましい。層の厚みがスピン拡散長以下であれば、スピン軌道トルク配線20から伝播するスピンを第1強磁性層1に十分伝えることができる。
【0074】
また第1強磁性層1は、元素拡散を防ぐ拡散防止層を有してもよい。拡散防止層は、第1強磁性層1の非磁性層3側の面に設けられていてもよいし、第1強磁性層1の厚み方向のいずれかの部分に設けられていてもよい。後者の場合、第1強磁性層は、下層、拡散防止層、上層の3層構造となる。
【0075】
拡散防止層は、非磁性の重金属元素を含むことが好ましい。また拡散防止層は、拡散防止層を構成する元素の直径の2倍以上であることが好ましい。この程度の厚さの場合、厳密には重金属元素が島状に点在しており、上層又は下層と重金属元素の混合層が拡散防止層となる。拡散防止層を設けることで、高温でアニールした場合にも、第1強磁性層1の内部から第2強磁性層2へ元素拡散が生じることを抑制できる。元素拡散を抑制することで、第1強磁性層1及び第2強磁性層2の磁気特性の劣化を防ぐことができる。
【0076】
スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子は、第1強磁性層1の磁化M1の向きによって情報を記憶する。データを書き込む際は、スピン軌道トルク配線20に沿って電流を流す(書込み動作)。スピン軌道トルク配線20は、x方向及びy方向に対して斜め方向に配設されているため、磁化M1を素早く90°回転させるトルクと180°確実に回転させるためのトルクを第1強磁性層1の磁化M1に印加できる。つまり、第2実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子は、素子外部から磁場を印加しなくても、容易に磁化反転を行うことができる。
【0077】
データを読み出す際は、磁気抵抗効果素子10の積層方向に電流又は電圧を印加し、第1強磁性層1と第2強磁性層2の磁化の相対角の違いに伴う抵抗値の違いを測定する(読み出し動作)。例えば、第2強磁性層2に第3配線を接続し、第3配線と第1配線40又は第2配線50との間に、読出し電流を印加する。
【0078】
上述のように、本実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子は、素子外部から磁場を印加しなくても磁化反転を安定的に行うことができる。つまり、本実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子は、データの記録及び読み出しを行うことができる記録素子として安定的に機能する。その他の作用効果については第1実施形態と同等の効果を得ることができる。
【0079】
「第3実施形態」
<磁気メモリ>
図11は、複数のスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子を備える磁気メモリ200の平面図である。
図11に示す磁気メモリ200は、スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子が3×3のマトリックス配置をしている。
図11は、磁気メモリの一例であり、スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子の数及び配置は任意である。
【0080】
複数のスピン軌道トルク配線20のそれぞれには、第1配線40と第2配線50とがそれぞれ接続されている。また磁気抵抗効果素子10の第2強磁性層2には第3配線60が接続されている。
【0081】
電流を印加する第1配線40及び第2配線50を選択することで、任意のスピン軌道トルク配線20に電流を流し、書き込み動作を行うことができる。また電流を印加する第3配線60及び電流を排出する第1配線40(又は第2配線50)を選択することで、任意の磁気抵抗効果素子10の積層方向に電流を流し、読み出し動作を行うことができる。第1配線40、第2配線50及び第3配線60はトランジスタ等により選択できる。つまり、本実施形態にかかる磁気メモリ200は、任意の磁気抵抗効果素子10にデータを書き込むことができ、任意の磁気抵抗効果素子10のデータを読み出すことができる。
【解決手段】このスピン軌道トルク型磁化回転素子は、第1の方向に延在する第1配線と、前記第1の方向又は前記第1の方向と直交する第2の方向に延在する第2配線と、前記第1配線及び前記第2配線と電気的に接続され、前記第1の方向及び前記第2の方向のいずれとも平面視交差する第3の方向に延在するスピン軌道トルク配線と、前記スピン軌道トルク配線の一面に積層され、前記第1の方向又は前記第2の方向に磁化容易軸を有する第1強磁性層と、を備える。