特許第6540818号(P6540818)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6540818
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】ダストカバー
(51)【国際特許分類】
   F16C 11/06 20060101AFI20190628BHJP
   F16J 3/04 20060101ALI20190628BHJP
   F16J 15/52 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   F16C11/06 Q
   F16J3/04 B
   F16J15/52 B
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-544420(P2017-544420)
(86)(22)【出願日】2016年9月6日
(86)【国際出願番号】JP2016076071
(87)【国際公開番号】WO2017061212
(87)【国際公開日】20170413
【審査請求日】2018年3月22日
(31)【優先権主張番号】特願2015-197740(P2015-197740)
(32)【優先日】2015年10月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 徳人
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/020980(WO,A1)
【文献】 実開昭56−056918(JP,U)
【文献】 特開平08−159146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/06
F16J 3/04
F16J 15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部の一端に球形部を有するボールスタッドと、前記球形部の軸受を有し、前記ボールスタッドを回転かつ揺動自在に支持するソケットと、前記軸部における前記球形部とは反対側で前記軸部と結合する結合部材と、を備えるボールジョイントに用いられるダストカバーにおいて、
変形可能な胴体部と、該胴体部の一端側に設けられ、前記ソケットに固定される被固定部と、該胴体部の他端側に設けられ、前記軸部と結合部材に対してそれぞれ摺動自在に備えられるシール部と、を有するダストカバーであって、
前記シール部は、
前記軸部の外周表面に対して摺動自在な内周シール部と、
径方向外側かつ前記他端側に向かって傾斜するように構成され、かつ前記結合部材の端面に対して摺動自在なダストリップ部と、
を備え、かつ、弾性体のみによって構成されると共に、
前記シール部が設けられている部分における外周面には、止め輪が取り付けられる環状溝が設けられており、
前記シール部における前記他端側の端面と前記環状溝との間の部分に、径方向外側に突出する環状突出部が形成されており、
前記ダストリップ部の外周面は、前記環状突出部における前記他端側の端面よりも前記一端側に凹んだ部分から前記他端側に向かって伸びていることを特徴とするダストカバー。
【請求項2】
前記ダストリップ部の内周面は、前記環状突出部における前記他端側の端面よりも前記一端側に凹んだ部分から前記他端側に向かって伸びていることを特徴とする請求項1に記載のダストカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などの各種装置に備えられるボールジョイントに用いられるダストカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両などの各種装置に備えられるボールジョイントにおいては、ジョイント部への水やダストなどの侵入を防止し、かつジョイント部からのグリースの流出を防止するためにダストカバーが用いられている。図4及び図5を参照して、従来例に係るダストカバーについて説明する。図4は従来例に係るダストカバーの模式的断面図である。図5は従来例に係るダストカバーの一部拡大断面図(シール部を拡大した断面図)である。
【0003】
ボールジョイントは、軸部の一端に球形部を有するボールスタッドと、ボールスタッドを回転かつ揺動自在に支持するソケットとを備えている。そして、ボールスタッドは、車体に設けられたナックルなどに取り付けられる。
【0004】
ダストカバー800は、変形可能な膜状の胴体部810と、胴体部810の一端側に設けられ、ソケットに固定される被固定部820と、胴体部810の他端側に設けられるシール部830と、を備えている。ここで、シール部830は、ボールスタッドにおける軸部に摺動自在に設けられる内周シール部831と、ナックル等に対して摺動自在に設けられるダストリップ部832とを備えている。また、図示の従来例においては、シール部830が設けられている部分における外周面には、止め輪が装着される環状溝834が設けられている。そのため、シール部830における他端側の端面と環状溝834との間の部分には、径方向外側に突出する環状突出部835が形成されている。
【0005】
近年、ボールジョイントの小型化などの影響により、ダストリップ部832が密着する面(ナックル等の端面)の面積が小さい場合がある。これに対応させるために、従来、ダストリップ部832を短くしている。しかしながら、ダストリップ部832が短いと、ダストリップ部832をナックル等に対して安定的に密着させることが困難になる。また、ダストリップ部832は、図5中矢印R方向に湾曲するように変形した状態でナックル等に密着するが、ダストリップ部832が短いと、曲率が大きくなるため、ダストリップ部832の根元の部分などに応力が集中してしまう。そのため、耐久性が低くなってしまう。特に、図示の従来例のように、シール部830における他端側の端部に環状突出部835を設けざるを得ない構造においては、ダストリップ部832の外周面が短くなり、上記のような問題がより顕著になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−159146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ダストリップ部によるシール性を長期に亘って安定的に発揮させることを可能とするダストカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0009】
すなわち、本発明のダストカバーは、
軸部の一端に球形部を有するボールスタッドと、前記球形部の軸受を有し、前記ボールスタッドを回転かつ揺動自在に支持するソケットと、前記軸部における前記球形部とは反対側で前記軸部と結合する結合部材と、を備えるボールジョイントに用いられるダストカバーにおいて、
変形可能な胴体部と、該胴体部の一端側に設けられ、前記ソケットに固定される被固定部と、該胴体部の他端側に設けられ、前記軸部と結合部材に対してそれぞれ摺動自在に備えられるシール部と、を有するダストカバーであって、
前記シール部は、
前記軸部(本発明においては、ボールスタッドにおける軸部自体の他、当該軸部の外周面側に設けられた別の部材の場合も含む。以下、同様)の外周表面に対して摺動自在な内周シール部と、
径方向外側かつ前記他端側に向かって傾斜するように構成され、かつ前記結合部材の端面に対して摺動自在なダストリップ部と、
を備え、かつ、弾性体のみによって構成されると共に、
前記シール部が設けられている部分における外周面には、止め輪が取り付けられる環状溝が設けられており、
前記シール部における前記他端側の端面と前記環状溝との間の部分に、径方向外側に突出する環状突出部が形成されており、
前記ダストリップ部の外周面は、前記環状突出部における前記他端側の端面よりも前記一端側に凹んだ部分から前記他端側に向かって伸びていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、環状突出部における他端側の端面の位置から他端側に向かってダストリップ部が伸びる構成の場合に比べて、ダストリップ部の外周面及び内周面のうちの少なくともいずれか一方の長さを長くすることができる。これにより、ダストリップ部が結合部材に密着する際に、湾曲するように変形するダストリップ部の曲率を小さくすることができる。これにより、ダストリップ部の根元などに応力が集中してしまうことを抑制することができる。また、結合部材に対してダストリップ部を安定的に密着させることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、ダストリップ部によるシール性を長期に亘って安定的に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明の実施例に係るボールジョイント及びボールジョイントに装着されるダストカバーの模式的断面図である。
図2図2は本発明の実施例に係るダストカバーの模式的断面図である。
図3図3は本発明の実施例に係るダストカバーの一部拡大断面図(シール部を拡大した断面図)である。
図4図4は従来例に係るダストカバーの模式的断面図である。
図5図5は従来例に係るダストカバーの一部拡大断面図(シール部を拡大した断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0015】
(実施例)
図1図3を参照して、本発明の実施例に係るダストカバーについて説明する。図1は本発明の実施例に係るボールジョイント及びボールジョイントに装着されるダストカバーの模式的断面図である。なお、図1においては、ボールジョイントに備えられるボールスタッドの軸部の中心軸線を含む面で切断した断面図を示している。図2は本発明の実施例に係るダストカバーの模式的断面図である。なお、図2においては、ダストカバーが変形していない状態で、環状のダストカバーの中心軸線を含む面で切断した断面図を示している。図3図2の一部拡大図であり、シール部を拡大した断面図である。
【0016】
<ボールジョイント>
特に、図1を参照して、本実施例に係るダストカバー100を適用可能なボールジョイントの一例を説明する。ボールジョイントは、軸部310の一端に球形部320を有するボールスタッド300と、ボールスタッド300を回転かつ揺動自在に支持するソケット200と、軸部310における球形部320とは反対側で軸部310と結合する結合部材としてのナックル400とを備えている。ソケット200は、環状のケース210と、ケース210の底側に固定される底板220と、球形部320の軸受230とを備えている。軸受230は、球形部320の曲率半径と同径の球形状の面で構成された軸受面231を有している。また、ナックル400は車体などに設けられており、ボールスタッド300の軸部310は、ナット500によってナックル400に固定される。なお、軸部310の先端にはオネジが形成されている。
【0017】
そして、ジョイント部への水やダストなどの侵入を防止し、かつジョイント部からのグリースの流出を防止するためにダストカバー100が用いられている。
【0018】
<ダストカバー>
ダストカバー100の全体構成について説明する。ダストカバー100は、ゴムなどの弾性体により構成される。そして、このダストカバー100は、変形可能な環状かつ膜状の胴体部110と、胴体部110の一端側に設けられ、ソケット200に固定される被固定部120と、胴体部110の他端側に設けられるシール部130とを一体に有している。
【0019】
以上のように構成されるダストカバー100においては、ソケット200に対してボールスタッド300が揺動する(矢印A方向に揺動する)と、胴体部110が変形する。また、ソケット200に対してボールスタッド300が回転する(矢印B方向に回転する)と、シール部130はボールスタッド300の軸部310とナックル400に対してそれぞれ摺動する。これにより、ソケット200に対してボールスタッド300が揺動しても回転しても、ダストカバー100によりシール機能が発揮される。
【0020】
<<被固定部>>
被固定部120の外周面には環状溝121が設けられている。この環状溝121に止め輪(サークリップ)600が取り付けられることにより、被固定部120の内周面がソケット200のケース210に密着する。これにより、被固定部120とソケット200との間からジョイント部への水やダストなどの侵入が防止され、かつジョイント部からのグリースの流出が防止される。
【0021】
<<シール部>>
本実施例に係るシール部130について、より詳しく説明する。シール部130は、ボールスタッド300の軸部310の外周表面に対して摺動自在な内周シール部と、結合部材としてのナックル400の端面に対して摺動自在なダストリップ部132とを備えている。本実施例に係る内周シール部は、径方向内側に突出する3つの環状凸部131a,131b,131cにより構成されている。ただし、本発明における内周シール部は、このような構成には限られない。例えば、単一または2つの環状凸部により構成される内周シール部を採用することもできる。
【0022】
ダストリップ部132は、径方向外側かつナックル400の端面に向かって傾斜する傾斜部分により構成されている。また、本実施例においては、ダストリップ部132よりも径方向内側に、更に、補助ダストシール部133が設けられている。この補助ダストシール部133も、ナックル400の端面に対して摺動自在に構成されており、ダストの侵入を抑制する役割を担っている。
【0023】
そして、本実施例に係るシール部130においては、シール部130における他端側の端部に、径方向外側に突出する環状突出部135が形成されている。また、シール部130が設けられている部分における外周面には環状溝134が設けられている。従って、シール部130における他端側の端面と環状溝134との間の部分が、環状突出部135となっている。環状溝134に止め輪(サークリップ)700が取り付けられることにより、内周シール部(環状凸部131a,131b,131c)の内周面がボールスタッド300の軸部310の外周表面に密着する。
【0024】
そして、本実施例に係るダストリップ部132の外周面及び内周面は、環状突出部135における他端側の端面135aよりも一端側に凹んだ部分132a,132bから他端側に向かって伸びるように構成されている。
【0025】
<本実施例に係るダストカバーの優れた点>
以上のように、本実施例に係るダストカバー100によれば、従来例の場合のように、環状突出部における他端側の端面の位置から他端側に向かってダストリップ部が伸びる構成の場合に比べて、ダストリップ部132の外周面及び内周面の長さを長くすることができる。これにより、ダストリップ部132がナックル400に密着する際に、湾曲するように変形するダストリップ部132の曲率を小さくすることができる。すなわち、ダストリップ部132がナックル400に密着する際に、ダストリップ部132は、図3中、矢印R方向に湾曲するように変形する。このとき、ダストリップ部132の外周面及び内周面の長さを長くすることにより、ダストリップ部132の変形を緩やかにすることができる。従って、ダストリップ部132の根元などに応力が集中してしまうことを抑制することができる。また、ダストリップ部132の可動領域が大きくなるため、ソケット200に対してボールスタッド300が揺動した際のダストリップ部132の追随性も高めることができる。従って、ナックル400に対してダストリップ部132を安定的に密着させることができる。以上より、本実施例に係るダストカバー100によれば、ダストリップ部132によるシール性を長期に亘って安定的に発揮させることができる。
【0026】
(その他)
上記実施例においては、ダストリップ部132の外周面及び内周面が、環状突出部135における他端側の端面135aよりも一端側に凹んだ部分132a,132bから他端側に向かって伸びる場合の構成を示した。しかしながら、本発明においては、ダストリップ部132の外周面及び内周面のうちのいずれか一方のみ、環状突出部135における他端側の端面よりも一端側に凹んだ部分から他端側に向かって伸びるように構成されてもよい。この場合でも、上記の効果をある程度得られるため、使用環境によっては、そのような構成を採用してもよい。
【0027】
また、上記実施例においては、ダストリップ部132が摺動する部材である結合部材(軸部310における球形部320とは反対側で軸部310と結合する結合部材)がナックル400の場合を示した。しかしながら、本発明においては、結合部材はナックル400に限定されることはない。例えば、特開平11−63245号公報に開示された技術のように、軸部と結合するフェルールが備えられる構成においては、結合部材がフェルールの場合にも本発明は適用可能である。
【0028】
また、上記実施例においては、内周シール部が、ボールスタッド300の軸部310の外周表面に対して直接摺動する場合を示した。しかしながら、本発明においては、ボールスタッドの軸部に固定された別の部材の外周表面に対して内周シール部が摺動自在に構成される場合にも適用可能である。例えば、上記の特開平11−63245号公報に開示された技術のように、内周シール部がフェルールに対して摺動するように構成されている場合にも、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
100 ダストカバー
110 胴体部
120 被固定部
121 環状溝
130 シール部
131a,131b,131c 環状凸部
132 ダストリップ部
132a,132b 凹んだ部分
133 補助ダストシール部
134 環状溝
135 環状突出部
135a 端面
200 ソケット
210 ケース
220 底板
230 軸受
231 軸受面
300 ボールスタッド
310 軸部
320 球形部
400 ナックル
500 ナット
600,700 止め輪(サークリップ)
図1
図2
図3
図4
図5