特許第6540977号(P6540977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6540977フェライト焼結体およびそれを用いた電子部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6540977
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】フェライト焼結体およびそれを用いた電子部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/30 20060101AFI20190628BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20190628BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   C04B35/30
   H01F17/04 F
   H01F1/34 140
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-5571(P2018-5571)
(22)【出願日】2018年1月17日
【審査請求日】2018年8月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】芝山 武志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝志
(72)【発明者】
【氏名】田之上 寛之
(72)【発明者】
【氏名】下保 真志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 昌弘
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−206415(JP,A)
【文献】 特開2012−096952(JP,A)
【文献】 特開2000−208316(JP,A)
【文献】 特開2003−100508(JP,A)
【文献】 特開2011−213578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
H01F 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分と副成分とを有し、
前記主成分が、酸化鉄をFe換算で48.65〜49.45モル%、酸化銅をCuO換算で4〜14モル%、酸化亜鉛をZnO換算で28.00〜32.00モル%、残部が酸化ニッケルで構成され、
前記副成分として、酸化ホウ素を、前記主成分100重量部に対してB換算で5〜100ppm含有し、酸化ケイ素を、前記主成分100重量部に対してSiO換算で5〜500ppm含有し、酸化ジルコニウムを、前記主成分100重量部に対してZrO換算で5〜900ppm含有し、
平均結晶粒径が〜30μmである、フェライト焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載のフェライト焼結体を有する電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型インダクタなどの製造に好適なフェライト焼結体と、該焼結体を有する電子部品とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動運転技術および電気自動車の発展にともない、自動車の電装化が急激に進展している。自動車の電装化において、電子部品の低周波帯域でのノイズ対策が必須になっている。また、車載用電子部品は100℃を超える環境温度に耐え得ることが求められる。このような背景から100℃を超える環境温度に耐える積層型ノイズフィルターが求められている。
【0003】
このようなノイズフィルターに適用できるフェライト材料は、透磁率およびキュリー温度が高いことが好ましい。また、このようなノイズフィルターに用いられるフェライト材料は、900℃程度の低温で焼成可能であることが求められる。ノイズフィルターに用いられる積層型電子部品は、生産性および信頼性を高めるために、フェライト材料と内部電極とを同時に焼成して製造される。このとき、低温で焼成可能なフェライト材料を用いれば、内部電極として比較的融点の低い材料を用いることができる。
【0004】
特許文献1では、組成を所定の範囲内にすることで高透磁率、高いキュリー温度を有するフェライト材料が開示されている。しかし、特許文献1では、1000〜1200℃という比較的高い焼成温度で粒成長させることで高透磁率の達成している。そのため、このようなフェライト材料を融点の低い内部電極と同時焼成すると、信頼性が低下するおそれがある。
【0005】
特許文献2には、ガラスを含有することを特徴とした磁性フェライト材料が開示されている。また、焼成温度は800〜930℃と開示されている。しかし、特許文献2の磁性フェライト材料は、ガラス由来のNaOを含有する。NaOは、焼成時の粒成長を抑制する。そのため、特許文献2のフェライト材料を車載用ノイズフィルターに用いた場合に、信頼性が低下するおそれがある。
【0006】
特許文献3には、Ni−Zn−Cu系フェライト粉末とZn−B系ガラス粉末とからなるフェライト粉体が開示されている。特許文献3には、このようなフェライト粉体の低周波帯域での透磁率が開示されているが、近年ではより高い性能が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−338997号公報
【特許文献2】特許第3343813号
【特許文献3】特許第4753016号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、900℃程度で焼成でき、また高い透磁率および高いキュリー温度(Tc)を有するフェライト材料、及びそれを用いた電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るフェライト焼結体は、
主成分と副成分とを有し、
前記主成分が、酸化鉄をFe換算で48.65〜49.45モル%、酸化銅をCuO換算で2〜16モル%、酸化亜鉛をZnO換算で28.00〜33.00モル%、残部が酸化ニッケルで構成され、
前記副成分として、酸化ホウ素を、前記主成分100重量部に対してB換算で5〜100ppm含有し、
平均結晶粒径が2〜30μmであることを特徴とする。
【0010】
上記フェライト焼結体は、好ましくは、前記副成分として、酸化ケイ素を、前記主成分100重量部に対してSiO換算で5〜500ppm含有する。
【0011】
上記フェライト焼結体は、好ましくは、前記副成分として、酸化ジルコニウムを、前記主成分100重量部に対してZrO換算で5〜1100ppm含有する。
【0012】
本発明に係る電子部品は、上記のフェライト焼結体を有する。
【0013】
なお、本発明に係るフェライト焼結体は、積層型インダクタ、積層型L―Cフィルタ、積層型コモンモードフィルタ、その他の積層工法による複合電子部品等に好適に用いられる。たとえばLC複合電子部品、NFCコイル、積層型インピーダンス素子、積層型トランスにも本発明に係るフェライト焼結体が好適に使用される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、900℃程度で焼成でき、また高い透磁率および高いキュリー温度(Tc)を有するフェライト材料、及びそれを用いた電子部品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は本発明の一実施形態に係る積層型インダクタの断面図である。
図2図2は本発明の一実施形態に係るLC複合電子部品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
まず、本発明に係る電子部品の一実施形態として、積層型インダクタについて説明する。図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層型インダクタ1は、素子2と端子電極3とを有する。素子2は、フェライト層4を介してコイル導体5が3次元的かつ螺旋状に形成されたグリーンの積層体を焼成して得られる。フェライト層4は、本発明の一実施形態に係るフェライト焼結体で構成してある。素子2の両端に端子電極3を形成し、引出電極5a、5bを介して端子電極3と接続することで積層型インダクタ1が得られる。素子2の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0017】
コイル導体5および引出電極5a、5bの材質としては、特に限定はなく、Ag、Cu、Au、Al、Pd、Pd/Ag合金などが用いられる。なお、Ti化合物、Zr化合物、Si化合物などを添加しても良い。
【0018】
本実施形態に係るフェライト焼結体は、Ni−Cu−Zn系フェライトであり、主成分として、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛および酸化ニッケルを含有する。
【0019】
主成分100モル%中、酸化鉄の含有量は、Fe換算で48.65〜49.45モル%であり、好ましくは49.00〜49.45モル%、より好ましくは49.10〜49.30モル%、さらに好ましくは49.25〜49.35モル%である。酸化鉄の含有量を上記範囲とすることで、高い透磁率を有するフェライト焼結体が得られる。また、酸化鉄の含有量が多すぎる場合は、焼結性が劣化し、特に低温焼結時の焼結密度が低下するとともに電気抵抗率が低下する傾向にある。酸化鉄の含有量が少なすぎる場合は、高い透磁率が得られないおそれがある。
【0020】
主成分100モル%中、酸化銅の含有量は、CuO換算で2〜16モル%であり、好ましくは4〜14モル%、より好ましくは6〜12モル%、さらに好ましくは8〜10モル%である。酸化銅の含有量を上記範囲とすることで、900℃程度で焼成可能なフェライト焼結体が得られる。酸化銅の含有量が少なすぎると、焼結性が低下し、特に低温焼結時の焼結密度が低下するおそれがある。
【0021】
主成分100モル%中、酸化亜鉛の含有量は、ZnO換算で28.00〜33.00モル%であり、好ましくは28.50〜32.00モル%、より好ましくは29.00〜31.00モル%、さらに好ましくは29.90〜30.20モル%である。酸化亜鉛の含有量を上記範囲とすることで、高いキュリー温度(Tc)と高い透磁率を有するフェライト焼結体が得られる。酸化亜鉛の含有量が多いほど初透磁率が上昇する傾向にあり、初透磁率が高くなるほどインダクタに適する。しかし、酸化亜鉛の含有量が多すぎると、キュリー温度が低下する傾向にある。
【0022】
主成分の残部は、酸化ニッケルから構成される。
【0023】
本実施形態に係るフェライト焼結体は、上記の主成分に加え、副成分として酸化ホウ素を含有し、さらに酸化ケイ素および酸化ジルコニウム等の化合物を含有してもよい。
【0024】
主成分100重量部に対して、酸化ホウ素の含有量は、B換算で5〜100ppmであり、好ましくは5〜85ppm、より好ましくは5〜60ppm、さらに好ましくは10〜50ppmである。酸化ホウ素の含有量を上記範囲とすることで、高い透磁率を有するフェライト焼結体が得られる。酸化ホウ素の含有量が多すぎると、焼成時に粒成長が抑制されて透磁率が低下するおそれがある。
【0025】
主成分100重量部に対して、酸化ケイ素の含有量は、SiO換算で好ましくは5〜500ppmであり、より好ましくは5〜350ppm、さらに好ましくは5〜200ppmである。酸化ケイ素の含有量を上記範囲とすることで、焼結性の良好なフェライト焼結体が得られる。ケイ素化合物の含有量が多すぎると、焼結性が劣化し、特に低温焼結時の焼結密度が低下するおそれがある。
【0026】
主成分100重量部に対して、酸化ジルコニウムの含有量は、ZrO換算で好ましくは5〜1100ppmであり、より好ましくは5〜900ppm、さらに好ましくは5〜700ppmである。酸化ジルコニウムの含有量を上記範囲とすることで、焼結性が良好で、高い透磁率を有するフェライト焼結体が得られる。
【0027】
本実施形態に係るフェライト焼結体では、主成分を構成する各成分の含有量が上記の範囲に制御されていることに加え、副成分として酸化ホウ素等の化合物が所定範囲内で含有されている。その結果、焼結温度を低下させることができ、同時焼成される内部導体として、たとえばAgなどの比較的低融点な金属を用いることができる。さらに、低温焼成によって得られるフェライト焼結体は、初透磁率が高く、キュリー温度Tcが高い。
【0028】
また、本実施形態に係るフェライト焼結体は、上記副成分とは別に、さらにMnなどのマンガン酸化物、酸化錫、酸化マグネシウム、ガラス化合物などの付加的成分を本発明の効果を阻害しない範囲で含有してもよい。これらの付加的成分の含有量は、特に限定されないが、例えば0.05〜10重量%程度である。
【0029】
さらに、本実施形態に係るフェライト組成物には、不可避的不純物元素あるいはその酸化物が含まれ得る。
【0030】
具体的には、不可避的不純物元素としては、C、S、Cl、As、Se、Br、Te、Iや、Li、Na、Mg、Al、Ca、Ga、Ge、Sr、Cd、In、Sb、Ba、Pb等の典型金属元素や、Sc、Ti、V、Cr、Y、Nb、Mo、Pd、Ag、Hf、Ta等の遷移金属元素が挙げられる。また、不可避的不純物元素の酸化物は、フェライト組成物中に0.05重量%以下程度であれば含有されてもよい。
【0031】
特に、Naは、多量に含まれると焼結時の粒成長を抑制し、透磁率が低下するおそれがある。そのため、Naの含有量は、NaO換算で200ppm以下とすることが好ましい。
【0032】
本実施形態に係るフェライト焼結体において、結晶粒子の平均結晶粒径は2〜30μmであり、好ましくは3〜20μm、より好ましくは4〜10μmである。
なお、平均結晶粒径とは、所定数の結晶粒子の結晶粒径から算出された体積分布におけるメジアン径(D50粒径、50%粒径)のことである。具体的には、必要に応じて化学エッチングなどで適切に処理されたフェライト焼結体の切断面を、たとえば光学顕微鏡もしくはSEMで観察して、所定数の結晶粒子の結晶粒径から体積分布が算出される。なお、各結晶粒子の粒径は、たとえば、各結晶粒子の面積に相当する円と仮定した円相当径(ヘイウッド径)として求めることができる。また、平均結晶粒径の測定を行う粒子の数は、通常100個以上とする。
【0033】
本実施形態に係るフェライト焼結体の密度は、好ましくは4.90〜5.30g/cmであり、より好ましくは5.00〜5.30g/cmであり、さらに好ましくは5.10〜5.30g/cmである。
なお、フェライト焼結体の密度は、ディスク形状の成型体を900℃で焼成して得られた焼結体の寸法および重量から算出する。
【0034】
本実施形態に係るフェライト焼結体のキュリー温度Tcは、好ましくは100℃以上であり、より好ましくは125℃以上であり、さらに好ましくは150℃以上である。
なお、キュリー温度Tcは、JIS−C−2560−1、2に基づき測定する。
【0035】
本実施形態に係るフェライト焼結体の比抵抗ρは、好ましくは10Ω・m以上であり、より好ましくは10Ω・m以上であり、好ましくは10Ω・m以上である。
なお、比抵抗ρは、In−Ga電極を付したフェライト焼結体の直流抵抗値を測定して求めることができる。比抵抗ρは、IRメーターを用いて測定できる。
【0036】
本実施形態に係るフェライト焼結体の周波数100kHzにおける透磁率μ’は、好ましくは1000以上であり、より好ましくは1100以上であり、さらに好ましくは1200以上である。
なお、透磁率μ’は、トロイダルコア形状のフェライト焼結体に銅線ワイヤを10ターン巻きつけて測定する。透磁率μ’は、LCRメータを用いて測定できる。測定条件は、周波数100kHz、温度25℃とする。
【0037】
次に、本実施形態に係るフェライト焼結体の製造方法の一例を説明する。まず、出発原料(主成分の原料および副成分の原料)を、所定の組成比となるように秤量して混合し、原料混合物を得る。混合する方法としては、たとえば、ボールミルを用いて行う湿式混合や、乾式ミキサーを用いて行う乾式混合が挙げられる。なお、平均粒径が0.05〜1.0μmの出発原料を用いることが好ましい。
【0038】
主成分の原料としては、酸化鉄(α−Fe)、酸化銅(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)酸化ニッケル(NiO)、あるいは複合酸化物などを用いることができる。さらに、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物等を用いることができる。焼成により上記した酸化物になるものとしては、たとえば、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物等が挙げられる。
【0039】
副成分の原料としては、酸化ホウ素を含有する軟化点の低いガラスを用いることができる。このようなガラスとしては、B−Zn−Si系ガラスを用いることができる。B−Zn−Si系ガラスには、酸化ホウ素の他に、酸化亜鉛、酸化ケイ素、その他の微量成分が含まれてもよい。このようなガラスに含まれる成分の一部は、後述する仮焼き工程および焼成工程において失われることがある。
【0040】
次に、原料混合物の仮焼きを行い、仮焼き材料を得る。仮焼きは、原料の熱分解、成分の均質化、フェライトの生成、焼結による超微粉の消失と適度の粒子サイズへの粒成長を起こさせ、原料混合物を後工程に適した形態に変換するために行われる。こうした仮焼きは、好ましくは500〜900℃の温度で、通常2〜15時間程度行う。仮焼きは、通常、大気(空気)中で行うが、大気中よりも酸素分圧が低い雰囲気で行っても良い。なお、主成分の原料と副成分の原料との混合は、仮焼きの前に行なってもよく、仮焼き後に行なってもよい。
【0041】
次に、仮焼き材料の粉砕を行い、粉砕材料を得る。粉砕は、仮焼き材料の凝集をくずして適度の焼結性を有する粉体とするために行われる。仮焼き材料が大きい塊を形成しているときには、粗粉砕を行ってからボールミルやアトライターなどを用いて湿式粉砕を行う。湿式粉砕は、粉砕材料の平均粒径が、好ましくは0.1〜1.0μm程度となるまで行う。
【0042】
得られた粉砕材料を用いて、本実施形態に係る積層型インダクタを製造する。該積層型インダクタを製造する方法については制限されないが、以下では、シート法について説明する。
【0043】
まず、得られた粉砕材料を、溶媒やバインダ等の添加剤とともにスラリー化し、ペーストを作製する。そして、このペーストを用いてグリーンシートを形成する。次いで、形成されたグリーンシートを所定の形状に加工し、脱バインダ工程、焼成工程を経て、例えば、図1に示すようなフェライト層4を介してコイル導体5が3次元的かつ螺旋状に形成された積層型インダクタ1が得られる。フェライト層4は、本発明の一実施形態に係るフェライト焼結体で構成される。焼成は、コイル導体5および引出電極5a,5bの融点以下の温度で行う。例えば、コイル導体5および引出電極5a,5bがAg(融点962℃)の場合、好ましくは850〜920℃の温度で行う。焼成時間は、通常1〜5時間程度行う。また、焼成は、大気(空気)中で行ってもよく、大気中よりも酸素分圧が低い雰囲気で行っても良い。そして、素子2の両端に端子電極3を形成し、引出電極5a、5bを介して端子電極3と接続することで積層型インダクタ1が得られる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。たとえば、図2に示すLC複合電子部品10におけるフェライト層4として、本発明のフェライト組成物を用いてもよい。なお、図2において、符号12に示す部分がインダクタ部であり、符号14に示す部分がコンデンサ部である。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0046】
まず、主成分の原料として、Fe、NiO、CuO、ZnOを準備した。副成分の原料として、B−Zn−Si系ガラスを準備した。
【0047】
次に、準備した主成分を、焼結体として表1に記載の組成になるように秤量した後、ボールミルで16時間湿式混合して原料混合物を得た。
【0048】
次に、得られた原料混合物を乾燥した後に、空気中において500℃〜900℃で仮焼して仮焼き粉とした。仮焼き粉および副成分の原料粉末を鋼鉄製ボールミルで72時間湿式粉砕して粉砕粉を得た。
【0049】
次に、この粉砕粉を乾燥した後、粉砕粉100重量部に、バインダとしての6wt%濃度のポリビニルアルコール水溶液を10.0重量部添加して造粒して顆粒とした。この顆粒を、加圧成形して、成形密度3.20Mg/mとなるようにトロイダル形状(寸法=外径13mm×内径6mm×高さ3mm)の成形体、およびディスク形状(寸法=外径12mm×高さ2mm)の成形体を得た。
【0050】
次に、これら各成形体を、空気中において、Agの融点(962℃)以下である900℃で2時間焼成して、焼結体としてのトロイダルコアサンプルを得た。さらにサンプルに対し以下の特性評価を行った。試験結果を表1に示す。なお、下線を付したサンプルNo.は、比較例である。
【0051】
平均結晶粒径
フェライト焼結体の切断面を必要に応じて化学エッチングなどで適切に処理し、光学顕微鏡もしくはSEMで観察して、100個以上の結晶粒子の結晶粒径から体積分布を算出した。そして、その体積分布におけるメジアン径(D50粒径、50%粒径)を平均結晶粒径とした。なお、各結晶粒子の粒径は、各結晶粒子の面積に相当する円と仮定した円相当径(ヘイウッド径)に基づいて求めた。
【0052】
成分の含有量の測定
サンプルに含まれる成分の含有量を、Fe、Cu、Zn、Niについては蛍光X線分析装置(XRF)を用いて測定し、B、Si、ZrについてはICP発光分光分析法(ICP―AES)またはICP質量分析計(ICP−MS)を用いて測定した。なお、表1に記載した各成分の含有量は、それぞれFe、CuO、ZnO、NiO、B、SiO、ZrOに換算した値である。
【0053】
密度
フェライト焼結体の密度は、ディスク形状の成型体を900℃で焼成して得られた焼結体の寸法および重量から算出した。
【0054】
透磁率μ’
トロイダルコアサンプルに銅線ワイヤを10ターン巻きつけ、LCRメーター(ヒューレットパッカード社製4285A)を使用して、透磁率μ’を測定した。測定条件としては、測定周波数100kHz、測定温度25℃とした。
【0055】
比抵抗ρ
ディスクサンプルの両面にIn−Ga電極を塗り、直流抵抗値を測定し、比抵抗ρを求めた(単位:Ω・m)。測定はIRメーター(HEWLETT PACKARD社製4329A)を用いて行った。
【0056】
キュリー温度(Tc)
キュリー温度Tcは、JIS−C−2560−1、2に基づき測定した。
【0057】
【表1】
【0058】
表1より、酸化鉄をFe換算で48.65〜49.45モル%、酸化銅をCuO換算で2〜16モル%、酸化亜鉛をZnO換算で28.00〜33.00モル%を含み、さらに酸化ホウ素をB換算で5〜100ppm含むフェライト焼結体(サンプルNo.1〜8、13〜17、20〜25)では、100kHzにおける透磁率が良好であった。
【0059】
一方、酸化鉄の含有量がFe換算で48.65〜49.45モル%の範囲を外れる場合(サンプルNo.9〜12)では、100kHzにおける透磁率が低下した。また、酸化ホウ素の含有量がB換算で5ppmより小さい場合(サンプルNo.18)では100kHzにおける透磁率が低下し、100ppmより大きい場合(サンプルNo.19)は比抵抗ρが低下した。
【符号の説明】
【0060】
1… 積層型インダクタ
2… 素子
3… 端子電極
4… 積層体
5… コイル導体
5a、5b… 引出電極
10… LC複合電子部品
12… インダクタ部
14… コンデンサ部
【要約】
【課題】 900℃程度で焼成でき、また高い透磁率および高いキュリー温度(Tc)を有するフェライト材料、及びそれを用いた電子部品を提供すること。
【解決手段】 主成分と副成分とを有し、前記主成分が、酸化鉄をFe換算で48.65〜49.45モル%、酸化銅をCuO換算で2〜16モル%、酸化亜鉛をZnO換算で28.00〜33.00モル%、残部が酸化ニッケルで構成され、前記副成分として、酸化ホウ素を、前記主成分100重量部に対してB換算で5〜100ppm含有し平均結晶粒径が2〜30μmである、フェライト焼結体。
【選択図】図1
図1
図2