(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
[交換レンズ1全体の構成]
図1は、本発明の実施形態に係るカム機構を備えた一眼レフカメラ用交換レンズ1(以下、単に「交換レンズ1」という。)の分解斜視図である。また、
図2は、交換レンズ1の縦断面図(上半分のみを示す。)である。なお、以下の説明において、交換レンズ1の光軸Ax方向の入射側(
図2における左側)を先端側と称し、射出側(
図2における右側)を基端側と称する。
【0021】
交換レンズ1は、マウント10、マウント保持環20、フォーカス操作環30、支持環40、ズームカム環100、ズーム固定環200、第3レンズ移動枠300、フォーカス固定環400、第2レンズ移動枠500、フォーカスカム環600、9個のカムフォロア700(各3個のカムフォロア700A、700B、700C)、フォーカス連係板800、ズーム操作環50、ズーム操作ゴム60及び第1レンズ枠70を備える。これらの部材(カムフォロア700及びフォーカス連係板800を除く。)は、光軸Ax上に同心に配置される。
【0022】
マウント10は、交換レンズ1を一眼レフカメラ等の光学機器に着脱可能に装着するための取付部であり、マウント保持環20に固定される。また、マウント保持環20は、支持環40のフランジ部41に固定される。マウント保持環20と支持環40との間には、フォーカス操作環30が光軸Ax周りに回動可能に保持される。支持環40のマウント10側の壁面には、光軸Axを中心とする円弧状の長孔42が形成されている。長孔42には、細長板状のフォーカス連係板800が差し込まれる。フォーカス連係板800は、その基端においてフォーカス操作環30に固定され、フォーカス操作環30の回動操作に応じて、長孔42に沿って光軸Axの周りを回動する。
【0023】
支持環40は、ズーム操作環50の中空部に収容される。支持環40の外周面の基端部には、周方向に延びる環状の係合溝43が設けられている。また、ズーム操作環50の内周面の基端部には、支持環40の係合溝43と係合する周方向に延びる環状の係合爪52が形成されている。ズーム操作環50の係合爪52と支持環40の係合溝43との係合により、ズーム操作環50は、支持環40に対して、光軸Ax方向への移動が規制され、光軸Ax周りの回動のみが可能となっている。また、ズーム操作環50を手動で操作する際に、滑らず正確に操作できるように、ズーム操作環50の外周にはズーム操作ゴム60が被せられる。
【0024】
支持環40の内部にはズームカム環100が収容され、ズームカム環100の内部にはズーム固定環200が収容される。ズーム固定環200は、その基端部において支持環40に固定される。ズームカム環100の内径はズーム固定環200の外径と略同じ大きさであり、ズームカム環100はズーム固定環200によって光軸Ax周りに回動可能に支持される。また、ズームカム環100の内周面の基端部に形成された周方向に延びる環状の係合爪101が、ズーム固定環200の外周面の基端部に形成された周方向に延びる環状の係合凹部201と係合し、ズームカム環100の光軸Ax方向への移動が規制される。
【0025】
支持環40の筒状部には、円周方向に延びる溝穴44が形成されていて、この溝穴44にはズーム連係軸81が通される。ズーム連係軸81は、その一端(
図2における下端)に形成されたおねじがズームカム環100の先端部に形成されためねじ110に捻じ込まれて、ズームカム環100に固定される。また、ズーム連係軸81の他端はズーム操作環50に設けられた孔51に嵌入されて固定される。すなわち、ズーム操作環50はズーム連係軸81を介してズームカム環100に連結されていて、ズーム操作環50の回動に連動してズームカム環100が光軸Ax周りに回動するようになっている。
【0026】
ズームカム環100の中空部には、第3レンズ移動枠300及びフォーカス固定環400が光軸Ax方向に所定間隔で並んで収容される。具体的には、基端側に第3レンズ移動枠300が配置され、先端側にフォーカス固定環400が配置される。第3レンズ移動枠300は、3個のカムフォロア700Aを介して、カム孔220に沿って移動可能に、ズーム固定環200に連結される。また、フォーカス固定環400は、3個のカムフォロア700Bを介して、カム孔120A及び120Bに沿って移動可能に、ズームカム環100に連結される。
【0027】
図1に示されるように、第3レンズ移動枠300には、第3レンズ93が保持される。また、第3レンズ移動枠300には、第3レンズ93よりも先端側に、絞り支持板95を用いて絞り羽根94が取り付けられる。
【0028】
後述するように、カムフォロア700Aは、第3レンズ移動枠300に固定されると共に、ズーム固定環200に形成されたカム孔220及びズームカム環100に形成されたカム孔120Aと係合する。カム孔220、120A(及び後述のカム孔120B)は、それぞれ各筒状部材(ズーム固定環200、ズームカム環100)の略円筒状の壁部に形成されている。
【0029】
カムフォロア700Aは、光軸Ax方向に延びるカム孔220との係合により、その可動方向が光軸Ax方向のみに規制される。更に、カムフォロア700Aとズームカム環100に形成された略螺旋状のカム孔120Aとの係合により、カムフォロア700Aは、ズームカム環100の回動に連動して、光軸Ax方向に駆動される。
【0030】
従って、ズーム操作環50(ズーム操作ゴム60)を回動操作すると、ズーム操作環50に固定されたズーム連係軸81及びズームカム環100がズーム操作環50と一体に回動し、これに連動してカムフォロア700Aに固定された第3レンズ移動枠300(及び第3レンズ93)が光軸Ax方向に移動して、光学像の拡大縮小(ズーミング)が可能になる。
【0031】
同様に、カムフォロア700Bは、フォーカス固定環400に固定されると共に、ズーム固定環200に形成されたカム孔220及びズームカム環100に形成されたカム孔120Bと係合する。
【0032】
カムフォロア700Bは、光軸Ax方向に延びるカム孔220との係合により、その可動方向が光軸Ax方向のみに規制される。更に、カムフォロア700Bとズームカム環100に形成された略螺旋状のカム孔120Bとの係合により、カムフォロア700Bは、ズームカム環100の回動に連動して、光軸Ax方向に駆動される。
【0033】
従って、ズーム操作環50(ズーム操作ゴム60)を回動操作すると、ズーム操作環50に固定されたズーム連係軸81及びズームカム環100がズーム操作環50と一体に回動し、これに連動してカムフォロア700Bに固定されたフォーカス固定環400が光軸Ax方向に移動する。
【0034】
このとき、カムフォロア700Aが係合するカム孔120Aと、カムフォロア700Bが係合するカム孔120Bとが、互いに平行に形成された同一形状のカム孔であるため、第3レンズ移動枠300(及び第3レンズ移動枠に保持された第3レンズ93)とフォーカス固定環400(及び第2レンズ移動枠500を介してフォーカス固定環400に支持された第2レンズ92)とが、相対位置を変えずに光軸Ax方向に移動する。
【0035】
フォーカス固定環400の内部には、第2レンズ移動枠500が収容される。第2レンズ移動枠500は、3個のカムフォロア700Cを介してフォーカス固定環400に移動可能に連結される。また、第2レンズ移動枠500には、第2レンズ91が保持される。
【0036】
フォーカス固定環400は、その先端側の部分が基端側の部分よりも細径に形成されている。フォーカス固定環400の先端側の部分には、フォーカスカム環600が被せられる。
【0037】
図2に示されるように、フォーカスカム環600の内周面の先端部に形成された周方向に延びる環状の係合爪610が、フォーカス固定環400の外周面の先端部に形成された周方向に延びる環状の係合溝430と係合する。これにより、フォーカスカム環600は、フォーカス固定環400に対して、光軸Ax方向への移動が規制され、光軸Ax回りの回動のみが可能になっている。
【0038】
また、フォーカス連係軸82は、その一端(
図2における下端)に形成されたおねじがフォーカスカム環600の先端部に形成されためねじ630(
図1)に捻じ込まれて、フォーカスカム環600に固定される。更に、フォーカス連係軸82の他端部は、フォーカス連係板800の先端部に設けられた、光軸Ax方向に延びる長孔810に挿し込まれる。これにより、フォーカス連係板800に対するフォーカスカム環600の可動方向が光軸Ax方向のみに規制される。
【0039】
また、フォーカス固定環400とフォーカスカム環600とは、第2レンズ移動枠500の外周面に、円周方向に等間隔(120°間隔)で固定される3個のカムフォロア700Cによって連結される。
【0040】
支持環40の先端には、第1レンズ91を保持する第1レンズ枠70が固定される。
【0041】
カムフォロア700Cは、第2レンズ移動枠500に固定されると共に、フォーカス固定環400に形成されたカム孔420及びフォーカスカム環600に形成されたカム孔620と係合する。カムフォロア700Cは、光軸Ax方向に延びるカム孔420との係合により、その可動方向が光軸Ax方向のみに規制される。更に、カムフォロア700Cとフォーカスカム環600に形成された略螺旋状のカム孔620との係合により、カムフォロア700Cはフォーカスカム環600の回動に連動して光軸Ax方向に移動する。
【0042】
従って、フォーカス操作環30を回動操作すると、フォーカス操作環30に固定されたフォーカス連係板800と、フォーカス連係板800と係合するフォーカス連係軸82と、フォーカス連係軸82に固定されたフォーカスカム環600とが、フォーカス操作環30と共に回動し、これに連動してカムフォロア700Cに固定された第2レンズ移動枠500(第2レンズ92)が光軸Ax方向に駆動され、フォーカス調整が可能になる。
【0043】
[溝カム機構]
次に、本発明の実施形態に係るカムフォロア700(700A、700B、700C)を用いた溝カム機構について説明する。
【0044】
なお、カムフォロア700A、700B及び700Cは同一の構造を有し、カム孔120A、120B及び620は同一の断面形状を有し、カム孔220とカム孔420も同一の断面形状を有している。すなわち、カムフォロア700Aとカム孔120A及びカム孔220との係合関係は、カムフォロア700Bとカム孔120B及びカム孔220との係合関係や、カムフォロア700Cとカム孔620及びカム孔420との係合関係と同じものである。以下では、これらを代表して、カムフォロア700Aとカム孔120A及びカム孔220との係合関係について説明する。
【0045】
図1に示されるように、ズームカム環100には、略螺旋状の(すなわち、光軸Ax方向と円周方向のそれぞれに対して斜めに形成された)同一形状のカム孔(案内溝穴)120A、120Bが3対設けられている。カム孔120A、120Bは、カムフォロア700A、700Bと係合し、カムフォロア700A、700Bの移動方向を規制して、カムフォロア700A、700Bを所定方向に案内する溝穴である。カムフォロア700A、700Bは、それぞれ対応する1つのカム孔120A、120Bと係合する。3対のカム孔120A、120Bは、円周方向に等間隔(120°間隔)で設けられている。また、各対のカム孔120A、120Bは、光軸Ax方向に所定の間隔をあけて平行に設けられている。
【0046】
ズーム固定環200には、光軸Ax方向に延びる3つのカム孔(案内溝穴)220が、円周方向に等間隔(120°間隔)で設けられている。カム孔220は、それぞれ対応するカムフォロア700A、700Bの一対と係合し、カムフォロア700A、700Bの移動方向を規制して、カムフォロア700A、700Bを所定方向に案内する溝穴である。カム孔220は、カム孔120A、120Bと交差するように形成されている。
【0047】
また、第3レンズ移動枠300の外周には、カムフォロア700Aを取り付けるための3つのめねじ310が等間隔(120°間隔)で設けられている。
【0048】
図3は、カムフォロア700Aとカム孔120A及びカム孔220との配置関係を説明する図である。
図4は、
図3のカムフォロア700A付近を拡大した図である。
図5は、ズームカム環100に形成されたカム孔120Aの断面図である。
図6は、ズーム固定環200に形成されたカム孔220の断面図である。
図7は、第3レンズ移動枠300に形成されためねじ310の断面図である。
図8は、カムフォロア700の断面図である。
【0049】
図3−5に示されるように、カム孔120Aは、ズームカム環100の外周側(
図5における上側)に形成された広カム溝(幅広案内溝)140と、ズームカム環100の内周側(
図5における下側)に形成された、広カム溝140よりも溝幅が狭い狭カム溝(幅狭案内溝)130とから構成されている。すなわち、広カム溝140と狭カム溝130とが結合し、ズームカム環100を貫通するカム孔120Aが形成されている。
【0050】
また、
図4に示されるように、狭カム溝130は、一対の側壁(第1軌道面131及び第2軌道面132)を備えている。また、広カム溝140も、一対の側壁(第1軌道面141及び第2軌道面142)を備えている。本実施形態の狭カム溝130は、広カム溝140に対して溝幅方向にずらして形成されていて、狭カム溝130の中心軌跡133(第1軌道面131と第2軌道面132との中間)が広カム溝140の中心軌跡143(第1軌道面141と第2軌道面142との中間)から第1軌道面141側に所定距離だけオフセットしている。すなわち、狭カム溝130の第1軌道面131と広カム溝140の第1軌道面141との距離が、狭カム溝130の第2軌道面132と広カム溝140の第2軌道面142との距離よりも短くなっている。
【0051】
同様に、
図3、4、6に示されるように、カム孔220は、ズーム固定環200の外周側(
図6における上側)に形成された広カム溝240と、ズーム固定環200の内周側(
図6における下側)に形成された、広カム溝240よりも溝幅が狭い狭カム溝230とから構成されている。
【0052】
また、
図4に示されるように、狭カム溝230は、一対の側壁(第1軌道面231及び第2軌道面232)を備えている。また、広カム溝240も、一対の側壁(第1軌道面241及び第2軌道面242)を備えている。狭カム溝230は、広カム溝240に対して溝幅方向にずらして形成されていて、狭カム溝230の中心軌跡233(第1軌道面231と第2軌道面232との中間)が広カム溝240の中心軌跡243(第1軌道面241と第2軌道面242との中間)から第2軌道面242側に所定距離だけオフセットしている。すなわち、狭カム溝230の第1軌道面231と広カム溝240の第1軌道面241との距離が、狭カム溝230の第2軌道面232と広カム溝240の第2軌道面242との距離よりも長くなっている。
【0053】
また、
図8に示されるように、カムフォロア700は、支柱710と、2つの回転部(第1ローラ720及び第2ローラ730)と、摺動部(スライダ740)を備えている。後述するように、カムフォロア700Aは、支柱710が第3レンズ移動枠300のめねじ310と係合し、第1ローラ720がズームカム環100に形成されたカム孔120Aの広カム溝140と係合し、第2ローラ730がズーム固定環200に形成されたカム孔220の狭カム溝230と係合し、スライダ740がズームカム環100に形成されたカム孔120Aの狭カム溝130及びズーム固定環200に形成されたカム孔220の広カム溝240と係合する(
図9、10)。
【0054】
また、
図8に示されるように、スライダ740の外周面には、狭カム溝130の壁面(第2軌道面132)と接触する円柱面状の第1摺動面741と、広カム溝240の壁面(第2軌道面232)と接触する円柱面状の第2摺動面742が設けられている。第1摺動面741と第2摺動面742との間には、ズームカム環100及びズーム固定環200のいずれとも接触しない凹部743が形成されている。
【0055】
支柱710は、一端部におねじ部711が形成された略ボルト状の部材である。
【0056】
第1ローラ720は、ゴム弾性を有しない構造材料(例えば、ステンレス鋼等の金属材料やポリアセタール(polyacetal)樹脂やPTFE(polytetrafluoroethylene)樹脂等のプラスチック材料)から形成された環状のフレーム721と、エラストマー(例えば、シリコーン等のゴムや熱可塑性エラストマー)から形成された環状の弾性部722とを備えている。弾性部722は、フレーム721の外周面に形成された環状溝に嵌入して、フレーム721に支持される。弾性部722の外径はフレーム721の外径よりも大きく、弾性部722の外周面はフレーム721の外周面から突出する。そのため、第1ローラ720は、弾性部722において広カム溝140の第1軌道面141と接触する。また、フレーム721の中空部には支柱710の頭部713が緩く嵌入(隙間嵌め)されていて、第1ローラ720は支柱710により回転自在に支持される。
【0057】
第2ローラ730も、ゴム弾性を有しない構造材料から形成された環状のフレーム731と、エラストマーから形成された環状の弾性部732とを備える。弾性部732は、フレーム731の外周面に形成された環状溝に嵌入して、フレーム731に支持される。弾性部732の外径はフレーム731の外径よりも大きく、弾性部732の外周面はフレーム731の外周面から突出する。そのため、第2ローラ730は、弾性部732において狭カム溝230の軌道面231と接触する。また、フレーム731の中空部には支柱710の円筒部712のおねじ部711側の部分が緩く嵌入され、第2ローラ730は支柱710により回転自在に支持される。
【0058】
スライダ740は、ゴム弾性を有しない構造材料から形成された環状の部材である。スライダ740の中空部には支柱710の円筒部712の頭部713側の部分が固く嵌入(止り嵌め)され、スライダ740は支柱710に固定される。
【0059】
すなわち、カムフォロア700は、第1ローラ720及び第2ローラ730が転動し、スライダ740が摺動するように構成されている。
【0060】
図9及び
図10は、それぞれ、カムフォロア700Aを介したズームカム環100、ズーム固定環200及び第3レンズ移動枠300の連結構造を示す断面図である。
図9は、カム孔120(カム溝130、140)の延長方向と垂直な面による切断面を示し、
図10は、カム孔220(狭カム溝230、広カム溝240)の延長方向と垂直な面による切断面を示す。
【0061】
図3、4、9、10に示されるように、カムフォロア700Aは、支柱710のおねじ部711が第3レンズ移動枠300のめねじ310に捻じ込まれることにより、第3レンズ移動枠300に取り付けられる。また、カムフォロア700Aの第1ローラ720はズームカム環100の広カム溝140と係合し、第2ローラ730はズーム固定環200の狭カム溝230と係合する。また、カムフォロア700Aのスライダ740は、第1ローラ720側の部分がズームカム環100の狭カム溝130と係合し、第2ローラ730側の部分がズーム固定環200の広カム溝240と係合する。
【0062】
上述したように、カム孔120は、第1ローラ720(転動部)と係合する広カム溝140が、スライダ740(摺動部)と係合する狭カム溝130に対して、第2軌道面132側(
図5において右側)にオフセットされている。そして、第1ローラ720(弾性部722)の外径の半径は、狭カム溝130の中心軌跡133から広カム溝140の第1軌道面141までの距離よりも長く、狭カム溝130の中心軌跡133から広カム溝140の第2軌道面142までの距離よりも短くなっている。また、スライダ740の外径は、狭カム溝130の溝幅よりも僅かに狭くなっている。
【0063】
そのため、カムフォロア700Aをカム孔120Aに装着すると、
図9に示されるように、第1ローラ720(弾性部722)が、広カム溝140の第1軌道面141のみと接触し、第2軌道面142とは接触しない状態となる。更に、第1ローラ720の弾性部722が第1軌道面141と第1ローラ720のフレーム721との間で圧縮される。そして、弾性部722の弾性復元力により、スライダ740が狭カム溝130の第2軌道面132に押さえ付けられる。上述したように、スライダ740の外径が狭カム溝130の溝幅よりも僅かに狭いため、スライダ740は狭カム溝130とは第2軌道面132のみで接触し、第1軌道面131では接触しない。
【0064】
また、カム孔220は、第2ローラ730(転動部)と係合する狭カム溝230が、スライダ740と係合する広カム溝240に対して、第2軌道面242側(
図6において右側)にオフセットされている。そして、第2ローラ730(弾性部732)の外径の半径は、広カム溝240の中心軌跡243から狭カム溝230の第1軌道面231までの距離よりも長く、広カム溝240の中心軌跡243から狭カム溝230の第2軌道面232までの距離よりも短くなっている。また、スライダ740の外径は、広カム溝240の溝幅よりも僅かに狭くなっている。
【0065】
そのため、カムフォロア700Aをカム孔120Aに装着すると、
図10に示されるように、第2ローラ730(弾性部732)は、狭カム溝230の第1軌道面231のみと接触し、第2軌道面232とは接触しない状態となる。更に、第2ローラ730の弾性部732が第1軌道面231と第2ローラ730のフレーム731との間で圧縮される。そして、弾性部732の弾性復元力により、スライダ740が広カム溝240の第2軌道面242に押さえ付けられる。上述したように、スライダ740の外径が広カム溝240の溝幅よりも僅かに狭いため、スライダ740は広カム溝240とは第2軌道面242のみで接触し、第1軌道面241では接触しない。
【0066】
このように、カムフォロア700Aは、弾性部722、732の弾性により、カム孔120、220の両側壁(広カム溝140の第1軌道面141と狭カム溝130の第2軌道面132、あるいは、狭カム溝230の第1軌道面231と広カム溝240の第2軌道面242)に常に密着するため、がたつき無くスムーズにカム孔120、220に沿って移動することができる。
【0067】
また、カム孔120、220に対して摺動するスライダ740は、ゴム弾性を有さず、大きな弾性変形が生じない。そのため、カム孔120、220(具体的には、第2軌道面132、242)に対する第3レンズ移動枠300の位置が安定に維持され、顕著な摺動抵抗の増加が生じることがない。
【0068】
また、弾性部722、732の弾性変形により、各転動部(第1ローラ720、第2ローラ730)と第1軌道面141、231との接触面積が増大するため、各転動部の転動抵抗は増加する。しかし、転動抵抗の増加は、摺動部(スライダ740)の弾性変形に伴う摺動部の摺動抵抗の顕著な増加と比べると、僅かなものとなる。
【0069】
従って、本実施形態の溝カム機構によれば、がたつきが無く且つ抵抗が少ないスムーズな動作が実現する。
【0070】
なお、本実施形態では、カム孔(カム溝)の壁面(内周面)にカムフォロアと係合するカム軌道面が設けられている。カム孔120A、120B(カム溝130、140)に形成された4つの壁面のうち、カムフォロア700A、700Bと係合する軌道面は、第1軌道面141及び第2軌道面132の2つのみである。また、カム孔220(カム溝230、240)に形成された4つの壁面のうち、カムフォロア700A、700Bと係合する軌道面は、第1軌道面231及び第2軌道面242の2つのみである。従って、ズームカム環100には、必ずしもカム孔(カム溝)状に対向する2対の軌道面を設ける必要はなく、第1軌道面231及び第2軌道面242の2つの軌道面のみを設ければよい。
【0071】
以下、本発明の実施形態に係るカムフォロア700の変形例について説明する。
【0072】
[第1変形例]
図11は、本発明の実施形態の第1変形例に係るカムフォロア1700を示す縦断面図である。カムフォロア1700は、ズームカム環100と第3レンズ移動枠300の2つの筒状部材のみを連結する。そのため、本変形例のカムフォロア1700は、ズーム固定環200のカム孔220と係合する第2ローラ730を備えず、スライダ1740は、カム孔220と係合する第2摺動面742を有しない。そして、本変形例の支柱1710及びスライダ1740の軸方向の長さは、カムフォロア700の支柱710及びスライダ740よりも、略ズーム固定環200の厚さ分だけ短い。
【0073】
本変形例では、ズームカム環100と第3レンズ移動枠300とを光軸Ax周りに相対的に回転させると、カムフォロア1700が略螺旋状に延びるカム孔120に沿って移動するため、ズームカム環100と第3レンズ移動枠300とが光軸Ax方向に移動する。
【0074】
[第2変形例]
図12は、本発明の実施形態の第2変形例に係るカムフォロア2700を示す縦断面図である。カムフォロア2700は、ズーム固定環200と第3レンズ移動枠300の2つの筒状部材のみを連結する。そのため、本変形例のカムフォロア2700は、ズームカム環100のカム孔120と係合する第1ローラ720を備えず、スライダ2740は、カム孔120と係合する第1摺動面741を有しない。そして、本変形例の支柱2710及びスライダ2740の軸方向の長さは、カムフォロア700の支柱710及びスライダ740よりも、略ズームカム環100の厚さ分だけ短い。
【0075】
本変形例でも、ズーム固定環200と第3レンズ移動枠300とを光軸Ax周りに相対的に回転させると、カムフォロア2700が略螺旋状に延びるカム孔220に沿って移動するため、ズームカム環100と第3レンズ移動枠300とが光軸Ax方向に移動する。
【0076】
以上が本発明の例示的な実施形態の説明である。本発明の実施形態は、上記に説明したものに限定されず、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば明細書中に例示的に明示される実施形態等又は自明な実施形態等を適宜組み合わせた内容も本発明の実施形態に含まれる。
【0077】
上記の実施形態では、カムフォロアが内周側の部材に固定され、外周側の部材に形成されたカム孔と係合する構成が採用されているが(例えば、カムフォロア700Aは、第3レンズ移動枠300に固定され、ズームカム環100のカム孔120Aと係合する。)、この構成とは逆に、カムフォロアを外周側の部材に固定し、内周側の部材に形成されたカム孔と係合する構成としてもよい。
【0078】
また、上記の実施形態では、カムフォロアのローラ自体が弾性体から形成されているが、本発明はこの構成に限定されない。ローラ以外の部材(例えばローラを支持する部材)を弾性部材としてもよい。また、上記の実施形態では、ゴム弾性を有する部材が使用されているが、形状により適度な弾性力が与えられたばね(例えば、ワイヤリング等のリングばね)を使用してもよい。
【0079】
また、上記の実施形態は、本発明を一眼レフカメラ用交換レンズにおける光学レンズ(単体又は複数)の移動機構に適用した例であるが、光学レンズや光学レンズ群以外の光学要素(例えば、絞り、光学フィルター[波長フィルターの他、偏光フィルターや波長板等の偏光素子を含む]、ミラー、プリズム、回折格子、光導波路、非線形光学素子、光電変換素子[固体撮像素子を含む]、LD[laser diode]等の光源、その他の各種光学要素)を移動する機構に本発明を適用することができる。
【0080】
また、本発明は、一眼レフカメラ用の交換レンズに限らず、コンパクトカメラ(レンズ一体型カメラ)、ビデオカメラ、監視カメラ等の専用テレビ(CCTV[closed-circuit television])及びCCTV用レンズ、プロジェクタ・映写装置、望遠鏡、顕微鏡、その他の光学機器全般に適用することができる。