特許第6540994号(P6540994)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6540994
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】繊維強化プラスチック及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20190628BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   C08J5/24CER
   C08J5/24CEZ
   B32B5/28 A
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-104679(P2015-104679)
(22)【出願日】2015年5月22日
(65)【公開番号】特開2016-216648(P2016-216648A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年4月10日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年2月28日に、「2014年度同志社大学先端複合材料研究センター研究成果発表会」にて発表された。 また、その発表内容が掲載された刊行物が頒布された。
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100170346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 望
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】内藤 公喜
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓海
(72)【発明者】
【氏名】松岡 敬
(72)【発明者】
【氏名】平山 朋子
【審査官】 赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−305692(JP,A)
【文献】 特開平06−155651(JP,A)
【文献】 特開2003−136634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00− 5/24
B29B 11/16
B29B 15/08− 15/14
B32B 1/00− 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分によって繊維材料が含浸されている複数のプリプレグから形成される複数の複合体層を有する積層体と、
前記積層体の積層方向と交差し、硬質粉末が分散している分散面と、
を具備し、
前記複数の複合体層の境界部に設けられ、前記硬質粉末が分散している分散層を更に具備し、
前記分散層における前記硬質粉末の量は、前記複数のプリプレグの1枚あたりの前記樹脂成分に対して5体積%以下である
繊維強化プラスチック。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維強化プラスチックであって、
前記分散面における前記硬質粉末の量は、前記複数のプリプレグの1枚あたりの前記樹脂成分に対して2.5体積%以下である
繊維強化プラスチック。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の繊維強化プラスチックであって、
前記硬質粉末は、SiCから構成される
繊維強化プラスチック。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチックであって、
前記硬質粉末の平均粒径は、1μm以下である
繊維強化プラスチック。
【請求項5】
請求項に記載の繊維強化プラスチックであって、
曲げ強度が600MPa以上である
繊維強化プラスチック。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載の繊維強化プラスチックであって、
前記繊維材料は、炭素繊維である
繊維強化プラスチック。
【請求項7】
請求項1から6に記載の繊維強化プラスチックの製造方法であって、
樹脂成分が繊維材料を含浸する複数のプリプレグを用意し、
前記複数のプリプレグに硬質粉末を塗布して少なくとも1つの塗布面を形成し、
前記複数のプリプレグを積層して、前記塗布面を外面とする積層体を作製し、
前記積層体を硬化させる
繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項8】
請求項に記載の繊維強化プラスチックの製造方法であって、
前記複数のプリプレグのそれぞれの両面に前記塗布面を形成する
繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項9】
請求項又はに記載の繊維強化プラスチックの製造方法であって、
前記塗布面における前記硬質粉末の量は、前記複数のプリプレグの1枚あたりの前記樹脂成分に対して2.5体積%以下である
繊維強化プラスチックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグを用いて製造される繊維強化プラスチック及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)は、繊維材料によってプラスチックの強度を向上させた複合材料である。FRPに関する技術が特許文献1〜3に開示されている。FRPは、金属材料に匹敵する高強度を実現可能であるため、構造材料として様々な用途に利用可能である。
【0003】
また、FRPは、樹脂材料をベースとするため、金属材料より大幅に軽量である。このため、FRPは、高強度化に加え、軽量化が求められる用途において特に有用である。FRPの用途の一例としては、自動車、航空宇宙、二輪、鉄道などの輸送用機械や、携帯端末装置などのモバイル機器が挙げられる。
【0004】
FRPに利用可能な繊維材料としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維などが知られている。これらの中でも、炭素繊維を用いたFRPである炭素繊維強化型プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)では特に高い強度が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特平8−41174号公報
【特許文献2】特開2014−9280号公報
【特許文献3】特開2015−28176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、FRPは、ベースとなる樹脂材料の性質に起因して、金属材料に比べて高い耐摩耗性が得られにくい。FRPにおいて高い耐摩耗性が実現されれば、FRPを摺動部品用の材料として利用可能となる。これにより、特に摺動部品が多く用いられる輸送用機械などの更なる軽量化が実現可能となるとともに、FRPの全く新しい用途が切り開かれる可能性がある。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、高い耐摩耗性を有する繊維強化プラスチック及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る繊維強化プラスチックは、積層体と、分散面と、を具備する。
上記積層体は、樹脂成分によって繊維材料が含浸されている複数のプリプレグから形成される複数の複合体層を有する。
上記分散面は、上記積層体の積層方向と交差し、硬質粉末が分散している。
この構成の繊維強化プラスチックでは、分散面において高い耐摩耗性が得られる。
【0009】
上記分散面における上記硬質粉末の量は、上記複数のプリプレグの1枚あたりの上記樹脂成分に対して2.5体積%以下であってもよい。
上記硬質粉末は、SiCから構成されていてもよい。
上記硬質粉末の平均粒径は、1μm以下であってもよい。
これらの構成の繊維強化プラスチックでは、分散面において特に高い耐摩耗性が得られる。
【0010】
上記繊維強化プラスチックは、上記複数の複合体層の境界部に設けられ、上記硬質粉末が分散している分散層を更に具備していてもよい。
この構成の繊維強化プラスチックでは、分散層の作用によって高い強度が得られる。
【0011】
上記分散層における上記硬質粉末の量は、上記複数のプリプレグの1枚あたりの上記樹脂成分に対して5体積%以下であってもよい。
上記繊維強化プラスチックの最大曲げ強度が600MPa以上であってもよい。
上記繊維成分は、炭素繊維から構成されていてもよい。
これらの構成の繊維強化プラスチックでは、特に高い強度が得られる。
【0012】
本発明の一形態に係る繊維強化プラスチックの製造方法では、樹脂成分によって繊維材料が含浸されている複数のプリプレグが用意される。
上記複数のプリプレグに硬質粉末を塗布して少なくとも1つの塗布面が形成される。
上記複数のプリプレグを積層して、上記塗布面を外面とする積層体が作製される。
上記積層体が硬化させられる。
この構成により、塗布面から形成された外面において高い耐摩耗性を有する繊維強化プラスチックを製造可能である。
【0013】
上記複数のプリプレグのそれぞれの両面に塗布面が形成されてもよい。
この構成により、高い強度を有する繊維強化プラスチックを製造可能である。
【0014】
上記塗布面における上記硬質粉末の量は、上記複数のプリプレグの1枚あたりの上記樹脂成分に対して2.5体積%以下であってもよい。
この構成により、特に高い強度を有する繊維強化プラスチックを製造可能である。
【発明の効果】
【0015】
高い耐摩耗性を有する繊維強化プラスチック及びその製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る繊維強化プラスチックの概略構成を示す斜視図である。
図2】上記繊維強化プラスチックの断面図である。
図3】上記繊維強化プラスチックの製造方法を示すフローチャートである。
図4】上記繊維強化プラスチックの製造過程(ステップS01,S02)を示す図である。
図5】上記繊維強化プラスチックの製造過程(ステップS03)を示す図である。
図6】上記繊維強化プラスチックの製造過程(ステップS04)を示す図である。
図7】上記繊維強化プラスチックの製造に利用可能なプリプレグを撮影した写真である。
図8】上記繊維強化プラスチックの製造に利用可能な炭化ケイ素粉末を撮影した写真である。
図9】実施例及び比較例における3点曲げ試験の方法を示す模式図である。
図10】実施例及び比較例に係る各サンプルにおける応力ひずみ線図を示すグラフである。
図11】実施例及び比較例に係る各サンプルにおける3点曲げ試験の結果を示すグラフである。
図12】実施例及び比較例に係る3点曲げ試験の後の各サンプルの断面を撮影した写真である。
図13】実施例及び比較例における摩擦摩耗試験の方法を示す模式図である。
図14】実施例及び比較例に係る摩擦摩耗試験の後のサンプルの一例を示す図である。
図15】実施例及び比較例に係る各サンプルの表面の図15の領域A1を撮影した写真である。
図16】実施例及び比較例に係る各サンプルの表面の図15の領域A1を撮影したSEM写真である。
図17】実施例及び比較例に係る各サンプルの表面の図15の領域A1における損傷量を示すグラフである。
図18】実施例及び比較例に係る各サンプルの表面の図15の領域A2を撮影した写真である。
図19】実施例及び比較例に係る各サンプルの表面の図15の領域A2を撮影したSEM写真である。
図20】実施例及び比較例に係る各サンプルの表面の図15の領域A2における損傷量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図面には、適宜相互に直交するX軸、Y軸、及びZ軸が示されている。X軸、Y軸、及びZ軸は全図において共通である。
【0018】
[繊維強化プラスチック(FRP)成形体10]
(全体構成)
図1は、本発明の一実施形態に係るFRP成形体10の概略構成を示す斜視図である。図2(A)はFRP成形体10の図1のA−A'線に沿った断面図であり、図2(B)はFRP成形体10の図1のB−B'線に沿った断面図であり、図2(C)はFRP成形体10の図1のC−C'線に沿った断面図である。
【0019】
本実施形態に係る繊維強化プラスチック(FRP)成形体10は、X軸、Y軸、及びZ軸に沿った辺を有する直方体状である。しかし、FRP成形体10は任意の形状とすることが可能であり、FRP成形体10の形状はその用途などに応じて適宜決定可能である。
【0020】
FRP成形体10は、複合体層11と、分散面12と、分散層13と、を具備する。
複合体層11はX−Y平面方向に延びる平板状であり、複数の複合体層11がZ軸方向に積層されることにより積層体を構成している。
各分散面12及び各分散層13は、X−Y平面に平行に延び、実質的に均一に分散する硬質粉末を有する。
【0021】
分散面12は、FRP成形体10のZ軸方向上下面にそれぞれ設けられている。つまり、分散面12は、最上層の複合体層11の上面及び最下層の複合体層11の下面にそれぞれ設けられている。
分散層13は、複合体層11の境界部にそれぞれ設けられている。
【0022】
FRP成形体10は、その詳細については後述するが、分散面12において高い耐摩耗性を有する。このため、FRP成形体10は、分散面12を摺動面とする摺動部品として幅広く利用可能である。
FRP成形体10として構成可能な摺動部品としては、特定の種類に限定されず、例えば、輸送用機械や風力発電などの産業用機械のシャフトなどが挙げられる。また、FRP成形体10は、液体潤滑剤を用いる必要がないため、航空宇宙分野にも利用可能である。
【0023】
(複合体層11)
FRP成形体10の複合体層11は、樹脂成分と繊維材料とから成る複合材料により形成され、樹脂成分によって繊維材料が含浸された構成を有する。複合体層11を構成する樹脂成分及び繊維材料の種類は、FRP成形体10の用途などに応じて適宜決定可能である。図2(A)には、複合体層11内の断面が示されている。
【0024】
本実施形態では、複合体層11の樹脂成分として、シアネート樹脂を用いている。シアネート樹脂は高い耐熱性を有するため、本実施形態に係るFRP成形体10は比較的高い温度で用いられる用途に対応可能である。
複合体層11の樹脂成分のシアネート樹脂以外の例としては、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0025】
本実施形態では、複合体層11の繊維材料として、高剛性ピッチ系炭素繊維を用いている。高剛性ピッチ系炭素繊維は、複合体層11内においてX軸方向に配向しており、つまりその長径がX軸方向に向けられた状態で並べられている。
複合体層11では、高剛性ピッチ系炭素繊維の作用により高い剛性が得られるとともに、高剛性ピッチ系炭素繊維の高い炭素含有率により高い化学的安定性が得られる。
【0026】
また、複合体層11では、高剛性ピッチ系炭素繊維の作用により低い熱膨張係数が得られるとともに、高剛性ピッチ系炭素繊維の配合量によって熱膨張係数を制御することが可能である。つまり、複合体層11における高剛性ピッチ系炭素繊維の配合量を調整することによってFRP成形体10の熱膨張係数を限りなくゼロに近くすることが可能である。
【0027】
更に、複合体層11では、高剛性ピッチ系炭素繊維のX軸方向の配向により、熱伝導率の異方性が発現し、つまりX軸方向における高い熱伝導率が得られる。これにより、FRP成形体10に対する放熱設計が容易となる。
【0028】
複合体層11の繊維材料の高剛性ピッチ系炭素繊維以外の例としては、高強度PAN系炭素繊維などの炭素繊維や、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維などの炭素繊維以外の繊維材料が挙げられる。
【0029】
なお、複合体層11の繊維材料は、一方向に配向していなくてもよい。
例えば、繊維材料は、X軸方向に配向した成分と、Y軸方向に配向した成分と、によって構成されていてもよい。
また、各複合体層11ごとに繊維材料の配向方向が異なっていてもよい。
更に、繊維材料は、例えば、平織、綾織、繻子織などの織物の構成を有していてもよい。
加えて、繊維材料は、特定の方向に配向していなくてもよく、樹脂成分中にランダムな方向で分散されていてもよい。
【0030】
各複合体層11は、後に詳述するプリプレグから形成される。つまり、複数のプリプレグが積層された未硬化の積層体を硬化させることにより、複合体層11の積層体が得られる。したがって、FRP成形体10の複合体層11の構成は、複合体層11の形成に用いられるプリプレグの構成を変更することにより自由に変更することが可能である。
【0031】
(分散面12)
FRP成形体10の分散面12は、FRP成形体10のZ軸方向上下面に設けられている。分散面12には、硬質粉末がX−Y平面に沿って分散されている。硬質粉末の各粒子は、分散面12に露出し、その一部が複合体層11に埋没している。つまり、硬質粉末の各粒子は、分散面12から突出した状態で複合体層11に強固に保持されている。
【0032】
FRP成形体10では、分散面12が摺動面として構成される。
FRP成形体10の複合体層11は樹脂材料としての性質を有するため、相手材が複合体層11に直接接触して摺動する場合には、高い耐摩耗性が得られない。
その点、FRP成形体10の分散面12では、複合体層11から突出する硬質粉末の各粒子が相手材による複合体層11に対する直接の接触を妨げる。
【0033】
換言すると、FRP成形体10の分散面12では、相手材と複合体層11との間に硬質粉末が存在することにより、相手材と複合体層11との接触面積が大幅に抑制される。これにより、FRP成形体10の分散面12では、高い耐摩耗性が得られる。
また、FRP成形体10では、分散面12の硬質粉末の各粒子が複合体層11に強固に保持されているため摩耗屑が発生しにくい。このため、FRP成形体10は、不純物の混入が望ましくない精密機器などにも利用可能である。
【0034】
分散面12の硬質粉末は、高い耐摩耗性を有する材料により形成される。具体的には、硬質粉末は、モース硬度ないし新モース硬度の高い物質の粉末である。硬質粉末を構成する物質の新モース硬度は、8以上であることが好ましい。このような硬質粉末を用いることにより、分散面12における耐摩耗性の向上が得られやすい。
【0035】
また、分散面12の硬質粉末の粒径は、繊維材料の太さ(外径)よりも小さいことが好ましく、具体的には例えば1μm以下とすることができる。これにより、複合体層11における繊維材料の機能を妨げることなく、分散面12における耐摩耗性を向上させることができる。また、硬質粉末の粒径が小さいほど、分散面12が平滑となるため、分散面12における摺動性が向上する。
【0036】
更に、分散面12における硬質粉末の量は、分散面12が設けられた複合体層11を形成するプリプレグの樹脂成分に対して2.5体積%以下であることが好ましい。これにより、分散面12において特に高い耐摩耗性が得られる。
【0037】
本実施形態では、硬質粉末として、粒径が130nmの炭化ケイ素粉末を用いている。炭化ケイ素粉末の粒径は、これに限定されず、例えば、20〜30nmであってもよい。
また、硬質粉末の種類は、炭化ケイ素でなくてもよく、例えば、ダイヤモンド、炭化ホウ素、酸化アルミニウム(アルミナ)、炭化タングステン、石英などであってもよい。
【0038】
(分散層13)
FRP成形体10の分散層13は、積層された複合体層11の境界部に設けられている。分散層13には、硬質粉末がX−Y平面に沿って分散されている。各分散層13の硬質粉末は、Z軸方向に隣接する2層の複合体層11によって挟持されている。
【0039】
FRP成形体10において、分散層13は、特に、Z軸方向の強度を向上させる機能を有する。
具体的には、FRP成形体10に分散層13を設けることにより、各複合体層11における樹脂成分と繊維材料との剥離や、各複合体層11内における亀裂が発生しにくくなることが確認されている。FRP成形体10では、このような分散層13の作用によって、Z軸方向の高い強度が得られる。
【0040】
分散層13には、分散面12と同様の硬質粉末が用いられる。
つまり、分散層13の硬質粉末は、モース硬度ないし新モース硬度の高い物質の粉末である。硬質粉末を構成する物質の新モース硬度は、8以上であることが好ましい。このような硬質粉末を用いることにより、FRP成形体10の強度の向上が得られやすい。
【0041】
また、分散層13の硬質粉末の粒径は、繊維材料の太さ(外径)よりも小さいことが好ましく、具体的には1μm以下であることがより好ましい。これにより、複合体層11における繊維材料の機能に影響を与えることなく、FRP成形体10の強度を向上させることができる。
【0042】
更に、分散層13における硬質粉末の量は、分散層13に隣接する1層の複合体層11を形成するプリプレグの樹脂成分に対して5体積%以下であることが好ましい。これにより、FRP成形体10において特に高い強度が得られる。
【0043】
なお、分散層13に分散面12と同一の硬質粉末を用いることにより、FRP成形体10の製造プロセスを簡素化することが可能である。しかし、分散層13に分散面12とは異なる硬質粉末を用いても構わない。
【0044】
(FRP成形体10の作用効果)
上記のとおりFRP成形体10では、各複合体層11における樹脂成分によって繊維材料が含浸された構成により、高い強度が得られる。
また、FRP成形体10では、分散面12に分散された硬質粉末により、分散面12における高い耐摩耗性が得られる。更に、FRP成形体10では、分散面12の硬質粉末の各粒子が複合体層11に強固に保持されているため摩耗屑が発生しにくい。
加えて、FRP成形体10では、硬質粉末が分散された分散層13を設けることにより、高い強度が得られる。
【0045】
[FRP成形体10の製造方法]
図3は、FRP成形体10の製造方法を示すフローチャートである。図4〜6は、FRP成形体10の製造過程を示す図である。以下、FRP成形体10の製造方法について、図3に沿って、図4〜6を適宜参照しながら説明する。
【0046】
(ステップS01:プリプレグ準備)
ステップS01では、FRP成形体10の複合体層11を形成するためのプリプレグ111を準備する。
プリプレグ111は、樹脂成分によって繊維材料が含浸された構成を有する未硬化のシート状複合材料である。プリプレグ111の詳細な構成は、複合体層11の構成に応じて決定することができる。
【0047】
図4(A)は、ステップS01で準備されるプリプレグ111の一例を示す平面図である。本実施形態では、未硬化のシアネート樹脂によって、X軸方向に配向した高剛性ピッチ系炭素繊維が含浸された構成のプリプレグ111を準備する。プリプレグ111の製造には、公知の方法を適宜採用可能である。
【0048】
(ステップS02:硬質粉末塗布)
ステップS02では、ステップS01で準備されたプリプレグ111のZ軸方向両面に硬質粉末112を塗布する。
【0049】
図4(B)は、ステップS02で得られる、硬質粉末112が塗布されたプリプレグ111の一例を示す平面図である。本実施形態では、硬質粉末112として、粒径が130nmの炭化ケイ素粉末が用いられる。
【0050】
プリプレグ111の各面に塗布する硬質粉末112の量は、プリプレグ111の樹脂成分に対して2.5体積%以下であることが好ましい。
これにより、FRP成形体10において、分散面12における硬質粉末112の量をプリプレグ111の樹脂成分に対して2.5体積%以下とすることができる。また、分散層13における硬質粉末112の量をプリプレグ111の樹脂成分に対して5体積%以下とすることができる。
【0051】
硬質粉末112の塗布方法としては、硬質粉末112を均一に塗布可能な公知の方法を適宜採用可能である。硬質粉末112は、粉末の状態で塗布しても、溶媒に分散させた状態で塗布してもよい。硬質粉末112の塗布方法としては、例えば、スプレー法やスクリーン印刷法などを用いることができる。
【0052】
(ステップS03:積層)
ステップS03では、ステップS02で得られる、硬質粉末112が塗布されたプリプレグ111を積層して積層体110を作製する。積層体110におけるプリプレグ111の枚数は適宜決定可能である。
【0053】
図5は、ステップS03で得られる積層体110の斜視図である。図5では、説明の便宜上、積層体110において各プリプレグ111を分離して示している。本実施形態では、積層体110の作製に8枚のプリプレグ111が用いられる。
【0054】
(ステップS04:硬化)
ステップS04では、ステップS03で得られる積層体110を硬化成形することにより、FRP成形体10を作製する。
【0055】
図6は、ステップS04における積層体110の硬化成形方法を示す模式図である。本実施形態では、積層体110の硬化成形にオートクレーブ200が用いられる。
オートクレーブ200は、平板状の支持プレート201と、支持プレート201上を覆い、支持プレート201との間に空間Sを形成する真空フイルム202と、を有する。オートクレーブ200の空間S内には、真空フイルム202の上面を平面状に維持するためのグラスクロス206と、積層体110の上下面を押圧するための押圧プレート203,204と、が設けられている。
【0056】
オートクレーブ200による硬化成形では、まず積層体110がリリースフイルム205を介して押圧プレート203,204に挟持された状態で設置され、空間Sの真空引きが行われる。そして、空間Sが所定の真空度に達した後に、積層体110に押圧プレート203,204を介してZ軸方向に所定の荷重を加えながら、積層体110を所定温度に加熱する。これにより、積層体110が直方体状に硬化したFRP成形体10が得られる。
【0057】
積層体110の硬化成形方法としては、公知の方法を適宜採用可能であり、例えば、ホットプレス法や熱間等方圧加圧法などを用いることができる。また、場合によっては、特に成形する手法を用いずに積層体110を硬化させることも可能であり、このように得られる硬化物も本実施形態に係るFRP成形体10に含まれるものとする。
【0058】
(FRP成形体10の製造方法の作用効果)
以上により製造されたFRP成形体10では、ステップS02でプリプレグ111に硬質粉末112を塗布して形成された塗布面によって、分散面12及び分散層13が形成される。
つまり、図5に示す積層体110の最上層のプリプレグ111の上面、及び最下層のプリプレグ111の下面に塗布された硬質粉末112によって、FRP成形体10の分散面12が構成される。また、図5に示す積層体110の各プリプレグ111の接続面に塗布された硬質粉末112によって、FRP成形体10の分散層13が構成される。
【0059】
また、上記の製造方法では、ステップS02において未硬化のプリプレグ111に硬質粉末112を塗布することにより、硬質粉末112の各粒子が未硬化のプリプレグ111の表面に良好に粘着する。これにより、硬化後のFRP成形体10の分散面12において硬質粉末112の粒子が複合体層11の表面に強固に保持される。
【0060】
更に、上記の製造方法では、ステップS02において、すべてのプリプレグ111に均一な量の硬質粉末112を塗布する。つまり、各プリプレグ111ごとに、硬質粉末112の塗布の有無や、硬質粉末112の塗布量を管理する必要がない。したがって、複雑な作業を伴うことなくステップS02を容易に行うことが可能である。
【0061】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0062】
例えば、FRP成形体10では、複合体層11のみによって充分な強度が得られる場合には、分散層13が設けられていなくてもよい。
この場合、FRP成形体10の製造方法におけるステップS02では、図5に示す積層体110の最上層のプリプレグ111の上面、及び最下層のプリプレグ111の下面のみに硬質粉末112を塗布すればよい。
【0063】
また、FRP成形体10では、その用途などに応じて、分散面12は、Z軸方向の両面に設けられていなくてもよく、Z軸方向の少なくとも片面に設けられていてもよい。そして、分散面12では、各面の全領域ではなく、一部の領域のみに硬質粉末112が分散されていてもよい。
【0064】
更に、FRP成形体10では、その用途などに応じて、分散層13が、複合体層11のすべての境界部に設けられていなくてもよく、複合体層11の境界部のうちの少なくとも1つに分散層13が設けられていてもよい。そして、分散層13では、各境界部の全領域ではなく、一部の領域のみに硬質粉末が分散されていてもよい。
【実施例】
【0065】
本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。以下、実施例4とあるのは参考例4と読み替えるものとする。

【0066】
[FRP成形体10の製造]
(概要)
実施例1〜4では、分散面12及び分散層13における硬質粉末112の量を変化させて、以下に示す各条件でFRP成形体10を作製した。また、本発明の比較例として、分散面12及び分散層13を有さない、つまり硬質粉末112の量が「0体積%」のFRP成形体10を作製した。実施例1〜4及び比較例に係るFRP成形体10の構成及び製造方法は、硬質粉末112の量以外について共通である。
なお、以下の説明では、硬質粉末112の量を、プリプレグ111の1枚あたりの樹脂成分に対する体積分率で表すものとする。
・実施例1 分散面:0.5体積%、分散層:1体積%
・実施例2 分散面:1体積%、分散層:2体積%
・実施例3 分散面:2.5体積%、分散層:5体積%
・実施例4 分散面:5体積%、分散層:10体積%
・比較例 分散面:0体積%、分散層:0体積%
【0067】
(プリプレグ111)
各実施例及び比較例に係るFRP成形体10の製造に用いるプリプレグ111には、シアネート樹脂としてTENCATE社製「EX−1515」を用い、高剛性ピッチ系炭素繊維として三菱樹脂株式会社製「K13C」を用いた。
【0068】
プリプレグ111は、大面積のシート状で用意される。使用前のプリプレグ111は、ロール状で袋詰めされた状態で冷蔵保管される。そして、使用時に、プリプレグ111は、袋詰めされた状態のまま12時間室温で放置することにより、室温に戻される。図7は、室温に戻されたプリプレグ111を撮影した写真である。
【0069】
室温に戻されたプリプレグ111は、所定の寸法に裁断される。各実施例及び比較例に係るプリプレグ111では、X軸方向の寸法を300mmとし、Y軸方向の寸法を150mmとした。
【0070】
(硬質粉末112)
各実施例に係るFRP成形体10の製造に用いる硬質粉末112には、粒径が130nmの炭化ケイ素粉末を用いた。図8は、硬質粉末112を撮影した写真である。
実施例1〜4において、プリプレグ111の各面に塗布する硬質粉末112の量は以下に示すとおりである。なお、上記のとおり、比較例に係るFRP成形体10では、硬質粉末112を用いず、つまり硬質粉末112の量が「0体積%」である。
・実施例1 0.5体積%
・実施例2 1体積%
・実施例3 2.5体積%
・実施例4 5体積%
・比較例 0体積%
【0071】
(オートクレーブ200)
オートクレーブ200としては、株式会社芦田製作所製の装置を用いた。
各実施例及び比較例において、オートクレーブ200による積層体110の硬化成形では、積層体110に0.49MPaのZ軸方向の荷重をかけながら、120℃で4時間保持し、更に135℃で2時間保持した。その際、昇温速度は1℃/minとした。その後、室温近傍まで降温した成形体をオートクレーブ200から取り出した。
【0072】
オートクレーブ200から取り出された成形体では、硬化成形時に拘束されていないX軸方向及びY軸方向の端部の形状や構造が不安定となる場合がある。このため、オートクレーブ200から取り出した成形体から、X軸方向及びY軸方向の端面から1.0〜1.5mm程度まで部分を切除し、各実施例及び比較例に係るFRP成形体10とした。
【0073】
[FRP成形体10の強度の評価]
(評価方法)
各実施例及び比較例に係るFRP成形体10について、Z軸方向の強度の評価として3点曲げ試験を行った。FRP成形体10の強度の評価は、主に分散層13の作用効果を確認するために行った。
【0074】
各実施例及び比較例について3点曲げ試験に用いるサンプルS1は、FRP成形体10を切り出すことにより作製した。サンプルS1では、X軸方向の寸法aを100mmとし、Y軸方向の寸法bを10mmとし、Z軸方向の厚さhを1mmとした。
3点曲げ試験は、卓上型万能試験機(株式会社島津製作所製「EZ−Test」)を用い、室温の大気中において実施した。ロードセルとしては100Nを選択し、クロスヘッド変位速度は5mm/minとした。
【0075】
図9は、サンプルS1の3点曲げ試験の方法を示す模式図である。サンプルS1の3点曲げ試験には、支点Rl,Rr及び押圧点Rcが用いられる。ここでは、支点Rl,Rr及び押圧点RcがY軸方向に延びる丸棒であるものとして説明する。支点Rl,Rrの直径は6mmであり、押圧点Rcの直径は12mmである。
【0076】
支点Rl,RrのX軸方向の距離である支点間距離Lは50mmである。押圧点Rcは支点Rl,Rr間のX軸方向中央部に配置されており、支点Rl,Rrと押圧点RcとのX軸方向の距離は、いずれもL/2であり、つまり25mmである。
支点Rl,RrはサンプルS1をZ軸方向下側から支持する。押圧点Rcは、ロードセルの駆動力によってZ軸方向下方に変位し、サンプルS1のZ軸方向上面の押圧部P1を押圧する。
【0077】
サンプルS1の曲げ応力σ(MPa)は、押圧点Rcから押圧部P1に加わる荷重P(N)、支点間距離L(mm)、サンプルS1のY軸方向の寸法b(mm)、サンプルS1のZ軸方向の厚さh(mm)を用いて、下記式(1)により算出可能である。
【数1】
…(1)
なお、上記のとおり、いずれの実施例及び比較例でも、L=50mm、b=10mm、h=1mmである。
【0078】
まず、各実施例及び比較例に係るサンプルS1について、応力ひずみ線図(曲げ応力σ−押圧点Rcの変位d曲線)を作成した。そして、当該応力ひずみ線図から、最大曲げ強度(MPa)、曲げ弾性率(MPa)、及び弾性限応力(MPa)を求めた。
具体的に、最大曲げ強度は、応力ひずみ線図における曲げ応力σの最大値として求められる。曲げ弾性定数は、応力ひずみ線図の弾性領域における比例定数を用いて求められる。弾性限応力は、応力ひずみ線図における比例限度となる曲げ応力σとして求められる。
また、各実施例及び比較例について、3点曲げ試験の後の各サンプルS1の断面観察を行った。サンプルS1の断面観察には光学顕微鏡を用いた。
【0079】
(評価結果)
図10及び図11は、各実施例及び比較例に係るサンプルS1について、上記のような3点曲げ試験を少なくとも6回行った結果を示す図である。
図10は、実施例1〜4及び比較例に係るサンプルS1についての応力ひずみ線図の一例を示すグラフである。
図11は、実施例1〜4及び比較例に係るサンプルS1について、図10に示す応力ひずみ線図から求めた最大曲げ強度、曲げ弾性率、及び弾性限応力を示すグラフである。図11(A)は最大曲げ強度を示し、図11(B)は曲げ弾性率を示し、図11(C)は弾性限応力を示している。図11では、各物性値の平均値を棒グラフで示し、各物性値の最大値及び最小値をエラーバーで示している。
【0080】
図11に示すように、実施例1〜4に係るサンプルS1では、最大曲げ強度、曲げ弾性率、及び弾性限応力のいずれにおいても、比較例に係るサンプルS1よりも高い値が得られた。つまり、実施例1〜4に係るサンプルS1では、比較例に係るサンプルS1よりも高い強度が得られている。これにより、分散層13を設けることによって、FRP成形体10の強度が向上することがわかる。
【0081】
また、実施例1〜3に係るサンプルS1では、600MPa以上の高い最大曲げ強度が得られ、曲げ弾性率及び弾性限応力についても実施例4に係るサンプルS1よりも高い値が得られた。
これにより、分散層13における硬質粉末112の量を5体積%以下とすることによって、より高い強度のFRP成形体10が得られることがわかる。
【0082】
更に、実施例2に係るサンプルS1では、最大曲げ強度、曲げ弾性率、及び弾性限応力のいずれにおいても、最も高い値が得られた。このことから、分散層13における硬質粉末112の量が1体積%より多く、5体積%より少ない範囲内において強度の極大値があるものと考えられる。このため、分散層13における硬質粉末112の量は1体積%より多く、5体積%より少ないことが特に好ましい。
【0083】
図12は、実施例1〜4及び比較例について、3点曲げ試験の後のサンプルS1断面を撮影した写真である。図12(A)は比較例を示し、図12(B)は実施例1を示し、図12(C)は実施例2を示し、図12(D)は実施例3を示し、図12(E)は実施例4を示している。図12は、いずれもサンプルS1における押圧部P1を含む領域を示している。
【0084】
図12を観察すると、いずれの実施例及び比較例においても、3点曲げ試験の後のサンプルS1には、押圧点Rcから荷重を受けた押圧部P1付近でZ軸方向の破断が発生している。これらの部分では、押圧点Rcから押圧部P1への大きい荷重により、繊維材料の破断が発生しているものと考えられる。
【0085】
図12を詳細に観察すると、図12(A)に示す比較例に係るサンプルS1では、一点鎖線で囲んだ領域において、繊維材料の配向方向に沿って、X軸方向に大きく進展した亀裂が見られる。この亀裂は、複合体層11における樹脂成分と繊維材料との剥離に起因するものと考えられる。
【0086】
この一方で、図12(B)〜図12(E)に示すように、実施例1〜4に係るサンプルS1では、比較例に係るサンプルS1のようにX軸方向に大きく進展した亀裂が見られなかった。これにより、分散層13を設けることによって、FRP成形体10におけるX軸方向の亀裂の進展を抑制できることがわかる。
この点について、例えば、実施例1〜4に係るサンプルS1では、分散層13の硬質粉末112による応力分散効果によって、亀裂の発生及び成長が抑制されているものと考察することができる。
この結果、実施例1〜4に係るサンプルS1では、比較例に係るサンプルS1よりも高い強度が得られたものと考えられる。
【0087】
図12をより詳細に観察すると、図12(B)に示す実施例1に係るサンプルS1では、一点鎖線で囲んだ領域において、X軸方向にやや進展した亀裂が見られた。また、図12(D)及び図12(E)に示す実施例3,4に係るサンプルS1では、一点鎖線で囲んだ領域において、小さい亀裂が見られた。この一方で、図12(C)に示す実施例2に係るサンプルS1では亀裂が見られなかった。
この点について、例えば、実施例2に係るサンプルS1では、実施例1に係るサンプルS1よりも、分散層13における硬質粉末112が多いために応力分散効果がより良好に得られているものと考察することができる。
【0088】
図12を更に詳細に観察すると、図12(C)〜図12(E)に示す実施例2〜4に係るサンプルS1において、分散層13における硬質粉末の量の増加に伴い、小さい亀裂が増加する傾向が見られる。つまり、上記のとおり分散層13を設けることによりX軸方向の亀裂の進展が抑制されるものの、分散層13における硬質粉末の量が多くなると小さい亀裂が増加するものと考えられる。
【0089】
この点ついて、例えば、実施例3,4に係るサンプルS1における小さい亀裂は、比較例及び実施例1に係るサンプルS1における亀裂とはその発生モードが異なり、分散層13の硬質粉末112が誘発させたものと推測することができる。この推測に基づくと、分散層13における硬質粉末112が一定量より多くなると、サンプルS1における小さい亀裂の増加に伴い、サンプルS1の強度が低下するものと考えられる。
【0090】
このようなメカニズムにより、分散層13における硬質粉末112の量に対し、サンプルS1の強度の極大値が存在しているものと考えられる。サンプルS1の強度が極大値となる分散層13における硬質粉末112の量は2体積%(実施例2)付近であるものと考えられる。このように、実施例2に係るサンプルS1では、比較例に係るサンプル1で見られた亀裂、及び実施例4に係るサンプル1で見られた小さい亀裂のいずれも良好に抑制された結果として、特に高い強度が得られたものと考えられる。
【0091】
[FRP成形体10の耐摩耗性の評価]
(評価方法)
各実施例及び比較例に係るFRP成形体10について、耐摩耗性の評価としてボールオンディスク法による摩擦摩耗試験を行った。FRP成形体10の耐摩耗性の評価は、主に分散面12の作用効果を確認するために行った。
【0092】
各実施例及び比較例について摩擦摩耗試験に用いるサンプルS2は、FRP成形体10を切り出すことにより作製した。サンプルS2では、X軸方向の寸法aを30mmとし、Y軸方向の寸法bを30mmとし、Z軸方向の厚さhを約1mmとした。
摩擦摩耗試験は、ボールオンディスク型摩擦摩耗試験機(レスカ社製「フリクションプレーヤ」)を用い、室温の大気中において実施した。
【0093】
図13は、サンプルS2の摩擦摩耗試験の方法を示す模式図である。図13(A)はサンプルS2をZ軸方向上方から示し、図13(B)はサンプルS2をX軸方向側方から示している。なお、図13では、説明の便宜上、サンプルS2を実際の形状とは異なる寸法比で示している。
摩擦摩耗試験機300は、Z軸方向に相互に対向するステージ301及びボール302を有する。ステージ301は、サンプルS2のZ軸方向下面を保持する。ボール302は、ステージ301に保持されたサンプルS2のZ軸方向上面の押圧部P2に押し当てられる。ステージ301は、Z軸に平行な中心軸Cを中心に回転可能に構成され、サンプルS2を回転させる。
【0094】
摩擦摩耗試験機300では、サンプルS2のZ軸方向上面の押圧部P2にボール302を押し当てた状態で、ステージ301を回転させることにより、ボール302をサンプルS2のZ軸方向上面において一定の円軌道で摺動させる。このように、ボール302をサンプルS2の分散面12上を摺動させることにより、サンプルS2の分散面12における耐摩耗性を評価することができる。
【0095】
ボール302としては、直径4.76mmの軸受鋼(SUJ2)研磨球を用いた。ボール302の押圧部P2に対する荷重は1Nとした。中心軸Cと押圧部P2との距離で規定されるボール302の摺動半径rは4mmとした。ステージ301の回転速度は95.5rpmとし、各試験におけるステージ301の回転数は3000回転とした。
【0096】
各実施例及び比較例に係るサンプルS2について、このような。摩擦摩耗試験を5回ずつ行った。摩擦摩耗試験の後の各サンプルS2は、ヘキサンを用いた超音波洗浄を15分行った後に、24時間室温にて放置して乾燥させた。
【0097】
図14は、摩擦摩耗試験の後のサンプルS2の一例を示す平面図である。各サンプルS2には、ボール302の円軌道で摺動した痕跡として摺動痕Rが残る。
各サンプルS2の図14に示す領域A1において、サンプルS2の分散面12におけるX軸方向の摺動痕Rを観察することが可能である。また、各サンプルS2の図14に示す領域A2において、サンプルS2の分散面12におけるY軸方向の摺動痕Rを観察することが可能である。
【0098】
各実施例及び比較例について、摩擦摩耗試験の後のサンプルS2の領域A1及び領域A2について、観察を行った。サンプルS2の断面観察には光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いた。
【0099】
また、各実施例及び比較例に係るサンプルS2の損傷量として、領域A1及び領域A2を撮影した写真から、領域A1及び領域A2のうち損傷を受けた領域の面積を求めた。損傷を受けた領域は、各サンプルS2の写真から画像処理により抽出した。画像処理ソフトとしてはJTrimを用いた。
なお、各サンプルS2について撮影する領域A1及び領域A2の位置、大きさ、及び範囲はいずれも同様である。このため、各サンプルS2について求める損傷量(μm)は、直接比較可能な物性値である。
【0100】
(評価結果)
(1)X軸方向の摺動痕R
図15は、実施例1〜4及び比較例について、摩擦摩耗試験の後のサンプルS2の領域A1を撮影した写真である。図15(A)は比較例を示し、図15(B)は実施例1を示し、図15(C)は実施例2を示し、図15(D)は実施例3を示し、図15(E)は実施例4を示している。
【0101】
また、図16は、実施例1〜4及び比較例について、摩擦摩耗試験の後のサンプルS2の摺動痕Rを撮影したSEM写真である。図16(A)は比較例を示し、図16(B)は実施例1を示し、図16(C)は実施例2を示し、図16(D)は実施例3を示し、図16(E)は実施例4を示している。
【0102】
図15を観察すると、実施例1〜4に係るサンプルS2では、比較例に係るサンプルS2よりも摺動痕Rが小さいことがわかる。更に、図16を観察すると、比較例に係るサンプルS2では、実施例1〜4に係るサンプルS2よりも広い範囲で、樹脂材料と繊維材料とが剥離して繊維材料が剥き出しになっていることがわかる。
【0103】
図15及び図16を詳細に観察すると、図15(C)に示す実施例2に係るサンプルS2では摺動痕Rがほとんど見られず、図16(C)に示すSEM写真においても摺動痕Rとして細い一筋のクラックしか発生していないことがわかる。
【0104】
図16をより詳細に観察すると、実施例4に係るサンプルS2では、実施例1〜3及び比較例に係るサンプルS2とは異なる組織となっていることがわかる。
実施例1〜3及び比較例に係るサンプルS2ではいずれも繊維材料に沿ってX軸方向に延びる筋状のクラックが見られるのに対し、実施例4に係るサンプルS2では方向性を持たない2次元的なヒビ割れが見られる。実施例4に係るサンプルS2のこのような組織について、その詳細な原因は定かではないものの、硬質粉末112の量が多いことに起因するものと推測される。
【0105】
図17は、実施例1〜4及び比較例について、図15に示す摩擦摩耗試験の後のサンプルS2の領域A1を撮影した写真から損傷量(μm)を求めたグラフである。図17において、横軸が分散面12における硬質粉末112の量(体積%)を示し、縦軸が損傷量(μm)を示している。
図17では、損傷量の平均値を棒グラフで示し、損傷量の最大値及び最小値をエラーバーで示している。
【0106】
図17に示すように、実施例1〜4に係るサンプルS2では、比較例に係るサンプルS2よりも大幅に小さい損傷量が得られた。これにより、分散層13を設けることによって、FRP成形体10の分散面12において高い耐摩耗性が得られることがわかる。
【0107】
より詳細には、分散面12における硬質粉末112の量を0体積%から0.5体積%とすることにより損傷量が大幅に減少している。これにより、分散面12に少量でも硬質粉末112を分散させることによって、損傷量を減少させることができるものと考えられる。したがって、分散面12における硬質粉末112の量は0体積%より大きければよい。
【0108】
また、分散面12における硬質粉末112の量が2.5体積%以下であるサンプルS2において特に小さい損傷量が得られた。このため、分散面12における硬質粉末112の量は2.5体積%以下であることが好ましい。
【0109】
更に、分散面12における硬質粉末112の量が1体積%であるサンプルS2において最も小さい損傷量が得られた。つまり、分散面12における硬質粉末112の量を0.5体積%から1体積%に増加させることにより損傷量が減少している。この一方で、分散面12における硬質粉末112の量が1体積%以上である範囲では、硬質粉末112の量の増加に伴って損傷量が増加する傾向が見られる。
この点について、分散面12の硬質粉末112が、上記の3点曲げ試験における分散層13の硬質粉末112と同様の作用を奏しているものと推測される。つまり、分散面12の硬質粉末112が少ない場合には、硬質粉末112における分散面12に損傷の発生を抑制する作用が支配的であるものと考えられる。この一方で、分散面12の硬質粉末112が一定量より多くなると、硬質粉末112が分散面12における損傷の発生を誘発させるものと考えられる。
【0110】
上記のような傾向から、分散面12における硬質粉末112の量が0.5体積%より多く、2.5体積%より少ない範囲内において損傷量の極小値があるものと考えられる。このため、分散面12における硬質粉末112の量は0.5体積%より多く、2.5体積%より少ないことが特に好ましい。
【0111】
(2)Y軸方向の摺動痕R
図18は、実施例1〜4及び比較例について、摩擦摩耗試験の後のサンプルS2の領域A2を撮影した写真である。図18(A)は比較例を示し、図18(B)は実施例1を示し、図18(C)は実施例2を示し、図18(D)は実施例3を示し、図18(E)は実施例4を示している。
【0112】
また、図19は、実施例1〜4及び比較例について、摩擦摩耗試験の後のサンプルS2の摺動痕Rを撮影したSEM写真である。図19(A)は比較例を示し、図19(B)は実施例1を示し、図19(C)は実施例2を示し、図19(D)は実施例3を示し、図19(E)は実施例4を示している。
【0113】
図18及び図19を観察すると、各サンプルS2におけるY軸方向の摺動痕Rは、図15及び図16に示すX軸方向の摺動痕Rよりも全体的に小さいことがわかる。これにより、各サンプルS2では、繊維材料の配向方向であるX軸方向の摺動によって損傷が発生しやすく、繊維材料の配向方向に垂直なY軸方向の摺動によっては損傷が発生しにくいことがわかる。
【0114】
図18を観察すると、比較例に係るサンプルS2では、実施例1〜4に係るサンプルS2よりも摺動痕R近傍の広い範囲において粗い表面となっていることがわかる。より詳細には、比較例に係るサンプルS2の表面には、摺動痕Rに直交するX軸方向に延びる筋状の凹凸が見られる。
【0115】
更に、図19(A)を観察すると、比較例に係るサンプルS2の表面は、摺動痕Rに沿って波打った状態であることがわかる。比較例に係るサンプルS2の表面に見られる波打ちのY軸方向の幅が約10μmであり、繊維材料の径(約10μm)とおよそ一致する。このことから、比較例に係るサンプルS2の表面では、繊維材料の上に樹脂材料が被さった状態となっているものと推測される。
【0116】
この一方で、図18及び図19を観察すると、実施例2に係るサンプルS2では摺動痕Rがほとんど見られず、実施例1,3,4に係るサンプルS2でもわずかな摺動痕Rしか見られなかった。
【0117】
図19を詳細に観察すると、図16に示すX軸方向の摺動痕Rほど顕著ではないものの、実施例4に係るサンプルS2では、実施例1〜3及び比較例に係るサンプルS2とは異なる組織となっていることがわかる。実施例4に係るサンプルS2のこのような組織について、その詳細な原因は定かではないものの、硬質粉末112の量が多いことに起因するものと推測される。
【0118】
図20は、実施例1〜4及び比較例について、図18に示す摩擦摩耗試験の後のサンプルS2の領域A2を撮影した写真から損傷量(μm)を求めたグラフである。図20において、横軸が分散面12における硬質粉末112の量(体積%)を示し、縦軸が損傷量(μm)を示している。
図20では、損傷量の平均値を棒グラフで示し、損傷量の最大値及び最小値をエラーバーで示している。
【0119】
図20に示すように、実施例1〜4に係るサンプルS2では、比較例に係るサンプルS2よりも大幅に小さい損傷量が得られた。これにより、分散層13を設けることによって、FRP成形体10の分散面12において高い耐摩耗性が得られることがわかる。
【0120】
より詳細には、分散面12における硬質粉末112の量を0体積%から0.5体積%とすることにより損傷量が大幅に減少している。これにより、分散面12に少量でも硬質粉末112を分散させることによって、損傷量を減少させることができるものと考えられる。したがって、分散面12における硬質粉末112の量は0体積%より多ければよい。
【0121】
また、分散面12における硬質粉末112の量が1体積%であるサンプルS2において最も小さい損傷量が得られた。つまり、分散面12における硬質粉末112の量を0.5体積%から1体積%に増加させることにより損傷量が減少している。この一方で、分散面12における硬質粉末112の量が1体積%以上である範囲では、硬質粉末112の量の増加に伴って損傷量が増加する傾向が見られる。
このような傾向が見られる理由は、上記で説明したX軸方向の摺動痕Rと同様であると考えられる。つまり、分散面12の硬質粉末112が少ない場合には、硬質粉末112における分散面12に損傷の発生を抑制する作用が支配的であるものと考えられる。この一方で、分散面12の硬質粉末112が一定量より多くなると、硬質粉末112が分散面12における損傷の発生を誘発させるものと考えられる。
【0122】
上記のような傾向から、分散面12における硬質粉末112の量が0.5体積%より多く、2.5体積%より少ない範囲内において損傷量の極小値があるものと考えられる。このため、分散面12における硬質粉末112の量は0.5体積%より多く、2.5体積%より少ないことが特に好ましい。
【符号の説明】
【0123】
10…FRP成形体
11…複合体層
12…分散面
13…分散層
図1
図2
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図20