【実施例】
【0065】
本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
以下、実施例4とあるのは参考例4と読み替えるものとする。
【0066】
[FRP成形体10の製造]
(概要)
実施例1〜4では、分散面12及び分散層13における硬質粉末112の量を変化させて、以下に示す各条件でFRP成形体10を作製した。また、本発明の比較例として、分散面12及び分散層13を有さない、つまり硬質粉末112の量が「0体積%」のFRP成形体10を作製した。実施例1〜4及び比較例に係るFRP成形体10の構成及び製造方法は、硬質粉末112の量以外について共通である。
なお、以下の説明では、硬質粉末112の量を、プリプレグ111の1枚あたりの樹脂成分に対する体積分率で表すものとする。
・実施例1 分散面:0.5体積%、分散層:1体積%
・実施例2 分散面:1体積%、分散層:2体積%
・実施例3 分散面:2.5体積%、分散層:5体積%
・実施例4 分散面:5体積%、分散層:10体積%
・比較例 分散面:0体積%、分散層:0体積%
【0067】
(プリプレグ111)
各実施例及び比較例に係るFRP成形体10の製造に用いるプリプレグ111には、シアネート樹脂としてTENCATE社製「EX−1515」を用い、高剛性ピッチ系炭素繊維として三菱樹脂株式会社製「K13C」を用いた。
【0068】
プリプレグ111は、大面積のシート状で用意される。使用前のプリプレグ111は、ロール状で袋詰めされた状態で冷蔵保管される。そして、使用時に、プリプレグ111は、袋詰めされた状態のまま12時間室温で放置することにより、室温に戻される。
図7は、室温に戻されたプリプレグ111を撮影した写真である。
【0069】
室温に戻されたプリプレグ111は、所定の寸法に裁断される。各実施例及び比較例に係るプリプレグ111では、X軸方向の寸法を300mmとし、Y軸方向の寸法を150mmとした。
【0070】
(硬質粉末112)
各実施例に係るFRP成形体10の製造に用いる硬質粉末112には、粒径が130nmの炭化ケイ素粉末を用いた。
図8は、硬質粉末112を撮影した写真である。
実施例1〜4において、プリプレグ111の各面に塗布する硬質粉末112の量は以下に示すとおりである。なお、上記のとおり、比較例に係るFRP成形体10では、硬質粉末112を用いず、つまり硬質粉末112の量が「0体積%」である。
・実施例1 0.5体積%
・実施例2 1体積%
・実施例3 2.5体積%
・実施例4 5体積%
・比較例 0体積%
【0071】
(オートクレーブ200)
オートクレーブ200としては、株式会社芦田製作所製の装置を用いた。
各実施例及び比較例において、オートクレーブ200による積層体110の硬化成形では、積層体110に0.49MPaのZ軸方向の荷重をかけながら、120℃で4時間保持し、更に135℃で2時間保持した。その際、昇温速度は1℃/minとした。その後、室温近傍まで降温した成形体をオートクレーブ200から取り出した。
【0072】
オートクレーブ200から取り出された成形体では、硬化成形時に拘束されていないX軸方向及びY軸方向の端部の形状や構造が不安定となる場合がある。このため、オートクレーブ200から取り出した成形体から、X軸方向及びY軸方向の端面から1.0〜1.5mm程度まで部分を切除し、各実施例及び比較例に係るFRP成形体10とした。
【0073】
[FRP成形体10の強度の評価]
(評価方法)
各実施例及び比較例に係るFRP成形体10について、Z軸方向の強度の評価として3点曲げ試験を行った。FRP成形体10の強度の評価は、主に分散層13の作用効果を確認するために行った。
【0074】
各実施例及び比較例について3点曲げ試験に用いるサンプルS1は、FRP成形体10を切り出すことにより作製した。サンプルS1では、X軸方向の寸法aを100mmとし、Y軸方向の寸法bを10mmとし、Z軸方向の厚さhを1mmとした。
3点曲げ試験は、卓上型万能試験機(株式会社島津製作所製「EZ−Test」)を用い、室温の大気中において実施した。ロードセルとしては100Nを選択し、クロスヘッド変位速度は5mm/minとした。
【0075】
図9は、サンプルS1の3点曲げ試験の方法を示す模式図である。サンプルS1の3点曲げ試験には、支点Rl,Rr及び押圧点Rcが用いられる。ここでは、支点Rl,Rr及び押圧点RcがY軸方向に延びる丸棒であるものとして説明する。支点Rl,Rrの直径は6mmであり、押圧点Rcの直径は12mmである。
【0076】
支点Rl,RrのX軸方向の距離である支点間距離Lは50mmである。押圧点Rcは支点Rl,Rr間のX軸方向中央部に配置されており、支点Rl,Rrと押圧点RcとのX軸方向の距離は、いずれもL/2であり、つまり25mmである。
支点Rl,RrはサンプルS1をZ軸方向下側から支持する。押圧点Rcは、ロードセルの駆動力によってZ軸方向下方に変位し、サンプルS1のZ軸方向上面の押圧部P1を押圧する。
【0077】
サンプルS1の曲げ応力σ(MPa)は、押圧点Rcから押圧部P1に加わる荷重P(N)、支点間距離L(mm)、サンプルS1のY軸方向の寸法b(mm)、サンプルS1のZ軸方向の厚さh(mm)を用いて、下記式(1)により算出可能である。
【数1】
…(1)
なお、上記のとおり、いずれの実施例及び比較例でも、L=50mm、b=10mm、h=1mmである。
【0078】
まず、各実施例及び比較例に係るサンプルS1について、応力ひずみ線図(曲げ応力σ−押圧点Rcの変位d曲線)を作成した。そして、当該応力ひずみ線図から、最大曲げ強度(MPa)、曲げ弾性率(MPa)、及び弾性限応力(MPa)を求めた。
具体的に、最大曲げ強度は、応力ひずみ線図における曲げ応力σの最大値として求められる。曲げ弾性定数は、応力ひずみ線図の弾性領域における比例定数を用いて求められる。弾性限応力は、応力ひずみ線図における比例限度となる曲げ応力σとして求められる。
また、各実施例及び比較例について、3点曲げ試験の後の各サンプルS1の断面観察を行った。サンプルS1の断面観察には光学顕微鏡を用いた。
【0079】
(評価結果)
図10及び
図11は、各実施例及び比較例に係るサンプルS1について、上記のような3点曲げ試験を少なくとも6回行った結果を示す図である。
図10は、実施例1〜4及び比較例に係るサンプルS1についての応力ひずみ線図の一例を示すグラフである。
図11は、実施例1〜4及び比較例に係るサンプルS1について、
図10に示す応力ひずみ線図から求めた最大曲げ強度、曲げ弾性率、及び弾性限応力を示すグラフである。
図11(A)は最大曲げ強度を示し、
図11(B)は曲げ弾性率を示し、
図11(C)は弾性限応力を示している。
図11では、各物性値の平均値を棒グラフで示し、各物性値の最大値及び最小値をエラーバーで示している。
【0080】
図11に示すように、実施例1〜4に係るサンプルS1では、最大曲げ強度、曲げ弾性率、及び弾性限応力のいずれにおいても、比較例に係るサンプルS1よりも高い値が得られた。つまり、実施例1〜4に係るサンプルS1では、比較例に係るサンプルS1よりも高い強度が得られている。これにより、分散層13を設けることによって、FRP成形体10の強度が向上することがわかる。
【0081】
また、実施例1〜3に係るサンプルS1では、600MPa以上の高い最大曲げ強度が得られ、曲げ弾性率及び弾性限応力についても実施例4に係るサンプルS1よりも高い値が得られた。
これにより、分散層13における硬質粉末112の量を5体積%以下とすることによって、より高い強度のFRP成形体10が得られることがわかる。
【0082】
更に、実施例2に係るサンプルS1では、最大曲げ強度、曲げ弾性率、及び弾性限応力のいずれにおいても、最も高い値が得られた。このことから、分散層13における硬質粉末112の量が1体積%より多く、5体積%より少ない範囲内において強度の極大値があるものと考えられる。このため、分散層13における硬質粉末112の量は1体積%より多く、5体積%より少ないことが特に好ましい。
【0083】
図12は、実施例1〜4及び比較例について、3点曲げ試験の後のサンプルS1断面を撮影した写真である。
図12(A)は比較例を示し、
図12(B)は実施例1を示し、
図12(C)は実施例2を示し、
図12(D)は実施例3を示し、
図12(E)は実施例4を示している。
図12は、いずれもサンプルS1における押圧部P1を含む領域を示している。
【0084】
図12を観察すると、いずれの実施例及び比較例においても、3点曲げ試験の後のサンプルS1には、押圧点Rcから荷重を受けた押圧部P1付近でZ軸方向の破断が発生している。これらの部分では、押圧点Rcから押圧部P1への大きい荷重により、繊維材料の破断が発生しているものと考えられる。
【0085】
図12を詳細に観察すると、
図12(A)に示す比較例に係るサンプルS1では、一点鎖線で囲んだ領域において、繊維材料の配向方向に沿って、X軸方向に大きく進展した亀裂が見られる。この亀裂は、複合体層11における樹脂成分と繊維材料との剥離に起因するものと考えられる。
【0086】
この一方で、
図12(B)〜
図12(E)に示すように、実施例1〜4に係るサンプルS1では、比較例に係るサンプルS1のようにX軸方向に大きく進展した亀裂が見られなかった。これにより、分散層13を設けることによって、FRP成形体10におけるX軸方向の亀裂の進展を抑制できることがわかる。
この点について、例えば、実施例1〜4に係るサンプルS1では、分散層13の硬質粉末112による応力分散効果によって、亀裂の発生及び成長が抑制されているものと考察することができる。
この結果、実施例1〜4に係るサンプルS1では、比較例に係るサンプルS1よりも高い強度が得られたものと考えられる。
【0087】
図12をより詳細に観察すると、
図12(B)に示す実施例1に係るサンプルS1では、一点鎖線で囲んだ領域において、X軸方向にやや進展した亀裂が見られた。また、
図12(D)及び
図12(E)に示す実施例3,4に係るサンプルS1では、一点鎖線で囲んだ領域において、小さい亀裂が見られた。この一方で、
図12(C)に示す実施例2に係るサンプルS1では亀裂が見られなかった。
この点について、例えば、実施例2に係るサンプルS1では、実施例1に係るサンプルS1よりも、分散層13における硬質粉末112が多いために応力分散効果がより良好に得られているものと考察することができる。
【0088】
図12を更に詳細に観察すると、
図12(C)〜
図12(E)に示す実施例2〜4に係るサンプルS1において、分散層13における硬質粉末の量の増加に伴い、小さい亀裂が増加する傾向が見られる。つまり、上記のとおり分散層13を設けることによりX軸方向の亀裂の進展が抑制されるものの、分散層13における硬質粉末の量が多くなると小さい亀裂が増加するものと考えられる。
【0089】
この点ついて、例えば、実施例3,4に係るサンプルS1における小さい亀裂は、比較例及び実施例1に係るサンプルS1における亀裂とはその発生モードが異なり、分散層13の硬質粉末112が誘発させたものと推測することができる。この推測に基づくと、分散層13における硬質粉末112が一定量より多くなると、サンプルS1における小さい亀裂の増加に伴い、サンプルS1の強度が低下するものと考えられる。
【0090】
このようなメカニズムにより、分散層13における硬質粉末112の量に対し、サンプルS1の強度の極大値が存在しているものと考えられる。サンプルS1の強度が極大値となる分散層13における硬質粉末112の量は2体積%(実施例2)付近であるものと考えられる。このように、実施例2に係るサンプルS1では、比較例に係るサンプル1で見られた亀裂、及び実施例4に係るサンプル1で見られた小さい亀裂のいずれも良好に抑制された結果として、特に高い強度が得られたものと考えられる。
【0091】
[FRP成形体10の耐摩耗性の評価]
(評価方法)
各実施例及び比較例に係るFRP成形体10について、耐摩耗性の評価としてボールオンディスク法による摩擦摩耗試験を行った。FRP成形体10の耐摩耗性の評価は、主に分散面12の作用効果を確認するために行った。
【0092】
各実施例及び比較例について摩擦摩耗試験に用いるサンプルS2は、FRP成形体10を切り出すことにより作製した。サンプルS2では、X軸方向の寸法aを30mmとし、Y軸方向の寸法bを30mmとし、Z軸方向の厚さhを約1mmとした。
摩擦摩耗試験は、ボールオンディスク型摩擦摩耗試験機(レスカ社製「フリクションプレーヤ」)を用い、室温の大気中において実施した。
【0093】
図13は、サンプルS2の摩擦摩耗試験の方法を示す模式図である。
図13(A)はサンプルS2をZ軸方向上方から示し、
図13(B)はサンプルS2をX軸方向側方から示している。なお、
図13では、説明の便宜上、サンプルS2を実際の形状とは異なる寸法比で示している。
摩擦摩耗試験機300は、Z軸方向に相互に対向するステージ301及びボール302を有する。ステージ301は、サンプルS2のZ軸方向下面を保持する。ボール302は、ステージ301に保持されたサンプルS2のZ軸方向上面の押圧部P2に押し当てられる。ステージ301は、Z軸に平行な中心軸Cを中心に回転可能に構成され、サンプルS2を回転させる。
【0094】
摩擦摩耗試験機300では、サンプルS2のZ軸方向上面の押圧部P2にボール302を押し当てた状態で、ステージ301を回転させることにより、ボール302をサンプルS2のZ軸方向上面において一定の円軌道で摺動させる。このように、ボール302をサンプルS2の分散面12上を摺動させることにより、サンプルS2の分散面12における耐摩耗性を評価することができる。
【0095】
ボール302としては、直径4.76mmの軸受鋼(SUJ2)研磨球を用いた。ボール302の押圧部P2に対する荷重は1Nとした。中心軸Cと押圧部P2との距離で規定されるボール302の摺動半径rは4mmとした。ステージ301の回転速度は95.5rpmとし、各試験におけるステージ301の回転数は3000回転とした。
【0096】
各実施例及び比較例に係るサンプルS2について、このような。摩擦摩耗試験を5回ずつ行った。摩擦摩耗試験の後の各サンプルS2は、ヘキサンを用いた超音波洗浄を15分行った後に、24時間室温にて放置して乾燥させた。
【0097】
図14は、摩擦摩耗試験の後のサンプルS2の一例を示す平面図である。各サンプルS2には、ボール302の円軌道で摺動した痕跡として摺動痕Rが残る。
各サンプルS2の
図14に示す領域A1において、サンプルS2の分散面12におけるX軸方向の摺動痕Rを観察することが可能である。また、各サンプルS2の
図14に示す領域A2において、サンプルS2の分散面12におけるY軸方向の摺動痕Rを観察することが可能である。
【0098】
各実施例及び比較例について、摩擦摩耗試験の後のサンプルS2の領域A1及び領域A2について、観察を行った。サンプルS2の断面観察には光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いた。
【0099】
また、各実施例及び比較例に係るサンプルS2の損傷量として、領域A1及び領域A2を撮影した写真から、領域A1及び領域A2のうち損傷を受けた領域の面積を求めた。損傷を受けた領域は、各サンプルS2の写真から画像処理により抽出した。画像処理ソフトとしてはJTrimを用いた。
なお、各サンプルS2について撮影する領域A1及び領域A2の位置、大きさ、及び範囲はいずれも同様である。このため、各サンプルS2について求める損傷量(μm
2)は、直接比較可能な物性値である。
【0100】
(評価結果)
(1)X軸方向の摺動痕R
図15は、実施例1〜4及び比較例について、摩擦摩耗試験の後のサンプルS2の領域A1を撮影した写真である。
図15(A)は比較例を示し、
図15(B)は実施例1を示し、
図15(C)は実施例2を示し、
図15(D)は実施例3を示し、
図15(E)は実施例4を示している。
【0101】
また、
図16は、実施例1〜4及び比較例について、摩擦摩耗試験の後のサンプルS2の摺動痕Rを撮影したSEM写真である。
図16(A)は比較例を示し、
図16(B)は実施例1を示し、
図16(C)は実施例2を示し、
図16(D)は実施例3を示し、
図16(E)は実施例4を示している。
【0102】
図15を観察すると、実施例1〜4に係るサンプルS2では、比較例に係るサンプルS2よりも摺動痕Rが小さいことがわかる。更に、
図16を観察すると、比較例に係るサンプルS2では、実施例1〜4に係るサンプルS2よりも広い範囲で、樹脂材料と繊維材料とが剥離して繊維材料が剥き出しになっていることがわかる。
【0103】
図15及び
図16を詳細に観察すると、
図15(C)に示す実施例2に係るサンプルS2では摺動痕Rがほとんど見られず、
図16(C)に示すSEM写真においても摺動痕Rとして細い一筋のクラックしか発生していないことがわかる。
【0104】
図16をより詳細に観察すると、実施例4に係るサンプルS2では、実施例1〜3及び比較例に係るサンプルS2とは異なる組織となっていることがわかる。
実施例1〜3及び比較例に係るサンプルS2ではいずれも繊維材料に沿ってX軸方向に延びる筋状のクラックが見られるのに対し、実施例4に係るサンプルS2では方向性を持たない2次元的なヒビ割れが見られる。実施例4に係るサンプルS2のこのような組織について、その詳細な原因は定かではないものの、硬質粉末112の量が多いことに起因するものと推測される。
【0105】
図17は、実施例1〜4及び比較例について、
図15に示す摩擦摩耗試験の後のサンプルS2の領域A1を撮影した写真から損傷量(μm
2)を求めたグラフである。
図17において、横軸が分散面12における硬質粉末112の量(体積%)を示し、縦軸が損傷量(μm
2)を示している。
図17では、損傷量の平均値を棒グラフで示し、損傷量の最大値及び最小値をエラーバーで示している。
【0106】
図17に示すように、実施例1〜4に係るサンプルS2では、比較例に係るサンプルS2よりも大幅に小さい損傷量が得られた。これにより、分散層13を設けることによって、FRP成形体10の分散面12において高い耐摩耗性が得られることがわかる。
【0107】
より詳細には、分散面12における硬質粉末112の量を0体積%から0.5体積%とすることにより損傷量が大幅に減少している。これにより、分散面12に少量でも硬質粉末112を分散させることによって、損傷量を減少させることができるものと考えられる。したがって、分散面12における硬質粉末112の量は0体積%より大きければよい。
【0108】
また、分散面12における硬質粉末112の量が2.5体積%以下であるサンプルS2において特に小さい損傷量が得られた。このため、分散面12における硬質粉末112の量は2.5体積%以下であることが好ましい。
【0109】
更に、分散面12における硬質粉末112の量が1体積%であるサンプルS2において最も小さい損傷量が得られた。つまり、分散面12における硬質粉末112の量を0.5体積%から1体積%に増加させることにより損傷量が減少している。この一方で、分散面12における硬質粉末112の量が1体積%以上である範囲では、硬質粉末112の量の増加に伴って損傷量が増加する傾向が見られる。
この点について、分散面12の硬質粉末112が、上記の3点曲げ試験における分散層13の硬質粉末112と同様の作用を奏しているものと推測される。つまり、分散面12の硬質粉末112が少ない場合には、硬質粉末112における分散面12に損傷の発生を抑制する作用が支配的であるものと考えられる。この一方で、分散面12の硬質粉末112が一定量より多くなると、硬質粉末112が分散面12における損傷の発生を誘発させるものと考えられる。
【0110】
上記のような傾向から、分散面12における硬質粉末112の量が0.5体積%より多く、2.5体積%より少ない範囲内において損傷量の極小値があるものと考えられる。このため、分散面12における硬質粉末112の量は0.5体積%より多く、2.5体積%より少ないことが特に好ましい。
【0111】
(2)Y軸方向の摺動痕R
図18は、実施例1〜4及び比較例について、摩擦摩耗試験の後のサンプルS2の領域A2を撮影した写真である。
図18(A)は比較例を示し、
図18(B)は実施例1を示し、
図18(C)は実施例2を示し、
図18(D)は実施例3を示し、
図18(E)は実施例4を示している。
【0112】
また、
図19は、実施例1〜4及び比較例について、摩擦摩耗試験の後のサンプルS2の摺動痕Rを撮影したSEM写真である。
図19(A)は比較例を示し、
図19(B)は実施例1を示し、
図19(C)は実施例2を示し、
図19(D)は実施例3を示し、
図19(E)は実施例4を示している。
【0113】
図18及び
図19を観察すると、各サンプルS2におけるY軸方向の摺動痕Rは、
図15及び
図16に示すX軸方向の摺動痕Rよりも全体的に小さいことがわかる。これにより、各サンプルS2では、繊維材料の配向方向であるX軸方向の摺動によって損傷が発生しやすく、繊維材料の配向方向に垂直なY軸方向の摺動によっては損傷が発生しにくいことがわかる。
【0114】
図18を観察すると、比較例に係るサンプルS2では、実施例1〜4に係るサンプルS2よりも摺動痕R近傍の広い範囲において粗い表面となっていることがわかる。より詳細には、比較例に係るサンプルS2の表面には、摺動痕Rに直交するX軸方向に延びる筋状の凹凸が見られる。
【0115】
更に、
図19(A)を観察すると、比較例に係るサンプルS2の表面は、摺動痕Rに沿って波打った状態であることがわかる。比較例に係るサンプルS2の表面に見られる波打ちのY軸方向の幅が約10μmであり、繊維材料の径(約10μm)とおよそ一致する。このことから、比較例に係るサンプルS2の表面では、繊維材料の上に樹脂材料が被さった状態となっているものと推測される。
【0116】
この一方で、
図18及び
図19を観察すると、実施例2に係るサンプルS2では摺動痕Rがほとんど見られず、実施例1,3,4に係るサンプルS2でもわずかな摺動痕Rしか見られなかった。
【0117】
図19を詳細に観察すると、
図16に示すX軸方向の摺動痕Rほど顕著ではないものの、実施例4に係るサンプルS2では、実施例1〜3及び比較例に係るサンプルS2とは異なる組織となっていることがわかる。実施例4に係るサンプルS2のこのような組織について、その詳細な原因は定かではないものの、硬質粉末112の量が多いことに起因するものと推測される。
【0118】
図20は、実施例1〜4及び比較例について、
図18に示す摩擦摩耗試験の後のサンプルS2の領域A2を撮影した写真から損傷量(μm
2)を求めたグラフである。
図20において、横軸が分散面12における硬質粉末112の量(体積%)を示し、縦軸が損傷量(μm
2)を示している。
図20では、損傷量の平均値を棒グラフで示し、損傷量の最大値及び最小値をエラーバーで示している。
【0119】
図20に示すように、実施例1〜4に係るサンプルS2では、比較例に係るサンプルS2よりも大幅に小さい損傷量が得られた。これにより、分散層13を設けることによって、FRP成形体10の分散面12において高い耐摩耗性が得られることがわかる。
【0120】
より詳細には、分散面12における硬質粉末112の量を0体積%から0.5体積%とすることにより損傷量が大幅に減少している。これにより、分散面12に少量でも硬質粉末112を分散させることによって、損傷量を減少させることができるものと考えられる。したがって、分散面12における硬質粉末112の量は0体積%より多ければよい。
【0121】
また、分散面12における硬質粉末112の量が1体積%であるサンプルS2において最も小さい損傷量が得られた。つまり、分散面12における硬質粉末112の量を0.5体積%から1体積%に増加させることにより損傷量が減少している。この一方で、分散面12における硬質粉末112の量が1体積%以上である範囲では、硬質粉末112の量の増加に伴って損傷量が増加する傾向が見られる。
このような傾向が見られる理由は、上記で説明したX軸方向の摺動痕Rと同様であると考えられる。つまり、分散面12の硬質粉末112が少ない場合には、硬質粉末112における分散面12に損傷の発生を抑制する作用が支配的であるものと考えられる。この一方で、分散面12の硬質粉末112が一定量より多くなると、硬質粉末112が分散面12における損傷の発生を誘発させるものと考えられる。
【0122】
上記のような傾向から、分散面12における硬質粉末112の量が0.5体積%より多く、2.5体積%より少ない範囲内において損傷量の極小値があるものと考えられる。このため、分散面12における硬質粉末112の量は0.5体積%より多く、2.5体積%より少ないことが特に好ましい。