(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6541092
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】永久磁石同期電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/18 20160101AFI20190628BHJP
【FI】
H02P6/18
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-101618(P2015-101618)
(22)【出願日】2015年5月19日
(65)【公開番号】特開2016-220364(P2016-220364A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091281
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】菊地 寿江
【審査官】
上野 力
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−095135(JP,A)
【文献】
特許第5326284(JP,B2)
【文献】
特開2009−060688(JP,A)
【文献】
特開2003−299381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置センサレスベクトル制御により永久磁石同期電動機を駆動するための制御装置において、
直流電圧を可変電圧・可変周波数の交流電圧に変換して前記永久磁石同期電動機に供給する電力変換手段と、
前記永久磁石同期電動機の電機子電流を検出する電流検出手段と、
前記永久磁石同期電動機の電圧,電流,インダクタンス,永久磁石の磁極の磁束,電機子抵抗,前記電力変換手段の出力周波数、及びオブザーバゲインから前記電機子電流の推定値を演算する電流オブザーバと、
前記永久磁石同期電動機の磁極の角度推定誤差を演算する角度推定誤差演算手段と、
前記永久磁石同期電動機のインダクタンス,永久磁石の磁極の磁束,電流検出値,前記電流オブザーバの電流推定値と電流検出値との偏差、を用いて、前記速度推定誤差を演算する速度推定誤差演算手段と、
前記角度推定誤差を比例積分演算した値と前記速度推定誤差に比例ゲインを乗算した値とを加算して得られる値を速度推定値として演算する速度推定手段と、
を備え、
前記角度推定誤差演算手段は、
前記電流オブザーバによる電流推定誤差に対応した電流誤差ベクトルと基準ベクトルとの外積を演算する外積演算手段と、前記外積を、前記速度推定誤差を用いて演算した調整ゲインにより除算する除算手段と、を有し、
前記除算手段の出力を前記角度推定誤差として出力することを特徴とする永久磁石同期電動機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載した永久磁石同期電動機の制御装置において、
前記永久磁石同期電動機が埋込磁石同期電動機であることを特徴とする永久磁石同期電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置センサレスベクトル制御により埋込磁石同期電動機(IPMSM)等の永久磁石同期電動機を可変速駆動するための制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久磁石同期電動機を制御する場合、設置面積の制約、ロータリーエンコーダやレゾルバ等の配線及びメンテナンスに伴うコストの削減を目的として、磁極位置検出用の位置センサなしでトルク制御を行う位置センサレスベクトル制御(本明細書では、位置センサレス制御または位置・速度センサレス制御ともいう)が知られている。
【0003】
搬送機械等の用途において電動機を停止状態から起動する際に、定格負荷以上のトルクを発生して適切なトルク制御を行うことが求められる場合があり、永久磁石同期電動機の位置センサレス制御システムでは、電動機の誘起電圧が小さくなる低速運転時に、電動機に高調波電圧や高周波電流を重畳して磁極位置や速度を推定する技術が知られている。
しかしながら、高調波に起因する騒音の発生等を防止する観点から、他の方法によって位置・速度を推定する従来技術が特許文献1や非特許文献1に開示されている。
【0004】
図2は、上記先行技術文献のうち、特許文献1に記載された位置・速度センサレス制御システムの構成図である。なお、以下の説明において、「角度」は「位置」と同義であるものとする。
この制御システムは、埋込磁石同期電動機100の制御装置として、加減算手段11a,11b、電流制御手段12、二相/三相座標変換手段13、PWMインバータ等の電力変換手段14、電流検出手段15、三相/二相座標変換手段16、基準ベクトル生成手段21、電流オブザーバ22、外積演算手段23、内積演算手段24、符号演算手段25、乗算手段26、ゲインK、加減算手段27、角度・速度推定手段28を備えている。
【0005】
上記構成において、電流検出手段15は、電動機100の電機子電流を検出する。三相/二相座標変換手段16は、角度・速度推定手段28から入力される角度推定値(推定磁極位置)θ
#を用い、電流検出手段15による三相の電流検出値i
u,i
v,i
wを回転座標系のγ軸,δ軸電流検出値i
γ,i
δに変換する。ここで、γ軸は磁極(永久磁石)の磁束方向に平行な回転座標上の制御軸であり、δ軸はγ軸に直交する方向の制御軸である。
【0006】
加減算手段11a,11bは、上位コントローラから与えられるγ軸,δ軸電流指令値i
γ*,i
δ*とγ軸,δ軸電流検出値i
γ,i
δとの偏差をそれぞれ求め、電流制御手段12は、上記偏差が零になるように比例積分演算を行って回転座標系のγ軸,δ軸電圧指令値v
γ*,v
δ*を出力する。
二相/三相座標変換手段13は、前記角度推定値θ
#を用い、γ軸,δ軸電圧指令値v
γ*,v
δ*を固定座標系の三相の電圧指令値v
u*,v
v*,v
w*に変換する。
電力変換手段14は、三相の電圧指令値v
u*,v
v*,v
w*に基づいて直流電圧を可変電圧・可変周波数の三相交流電圧に変換し、電動機100に供給する。
【0007】
一方、電流オブザーバ22は、γ軸,δ軸電圧指令値v
γ*,v
δ*及びγ軸,δ軸電流検出値i
γ,i
δを用い、数式1によって電動機100の電機子電流推定値i
γ#,i
δ#を演算すると共に、γ軸,δ軸電流検出値i
γ,i
δと上記電流推定値i
γ#,i
δ#との誤差(電流推定誤差)i
γ−i
γ#,i
δ−i
δ#を求めて外積演算手段23及び内積演算手段24に供給する。
【0008】
【数1】
ここで、
v
γ:γ軸出力電圧,v
δ:δ軸出力電圧
i
γ:γ軸電流検出値,i
δ:δ軸電流検出値
L
d:d軸インダクタンス,L
q:q軸インダクタンス,Φ
m:磁極の磁束
i
γ#:γ軸電流推定値,i
δ#:δ軸電流推定値
ω
1:電力変換手段14の出力周波数
R
s#:電機子抵抗設定値
g
11,g
12,g
21,g
22:電流オブザーバ22のフィードバックゲイン
である。
【0009】
なお、電流オブザーバ22のフィードバックゲインg
11,g
12,g
21,g
22は、数式2のように設定されている。数式2において、g
cはフィードバックゲインの極を決める制御変数であり、正の値である。
【数2】
【0010】
また、基準ベクトル生成手段21は、数式3により、角度推定誤差の正負の判断基準となる2次元の基準ベクトルv
bγ,v
bδを演算する。数式3において、αは調整値であり、−Φ
m〜Φ
mの範囲で変動しても良い値である。
【数3】
【0011】
次に、外積演算手段23は、数式4により基準ベクトルv
bγ,v
bδと電流推定誤差i
γ−i
γ#,i
δ−i
δ#との外積を演算する。
【数4】
【0012】
外積演算手段23が演算した外積は符号演算手段25に入力されており、符号演算手段25は、外積の正負の符号を求めて出力する。特許文献1によれば、外積の正負の符号は、角度推定値と実際値との偏差である角度推定誤差Δθの符号と基本的に一致しており、
図2ではこの符号を角度推定演算に用いている。
【0013】
また、内積演算手段24は、数式5により、基準ベクトルv
bγ,v
bδと電流推定誤差i
γ−i
γ#,i
δ−i
δ#との内積を演算する。
【数5】
特許文献1によると、内積の絶対値は角度推定誤差の絶対値に比例して値が大きくなるため、角度推定誤差が大きくなった場合でも、角度推定誤差の振幅として利用することで角度推定演算を続けることができる。
【0014】
更に、符号演算手段25の出力である外積の符号と内積演算手段24から出力された内積とを乗算手段26により乗算し、その乗算結果にゲインKを乗じて加減算手段27に入力する。ここで、ゲインKの値は、適切な大きさの角度推定誤差が得られるように設定される。
【0015】
次に、ゲインKの出力と外積とを加減算手段27により加算し、その加算結果を角度推定誤差Δθとして、角度・速度推定手段28に入力する。
角度・速度推定手段28は、数式6により、回転速度ω
1及び角度推定値θ
#を演算する。
【数6】
ただし、
K
θp:速度推定用比例ゲイン,K
θi:積分ゲイン,s:ラプラス演算子
である。
【0016】
数式6において、ω
1は電力変換手段14が出力している交流の周波数であるが、電力変 換手段14の交流出力電圧を用いて電動機100を駆動しているため、ω
1は速度推定値に等しい。
なお、数式6により求めた角度推定値θ
#は、前述したように二相/三相座標変換手段13及び三相/二相座標変換手段16に供給されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第5326284号公報(段落[0073]〜[0085]、
図6等)
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】杉本英彦,能登泰之,菊地寿江,松本康,“適応同定によるIPMSMの電機子巻線抵抗推定機能付き位置センサレスベクトル制御”,電気学会D部門論文誌,Vol.129,No.1,pp77−87,2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ところで、例えば電動機100が正回転から逆回転に移行する場合には、ゼロ速度を通過する。
上記の特許文献1では、電動機100の一次周波数(速度推定値)が実際の回転速度と一致していることを前提として、角度及び速度を推定しているので、回転速度がゼロの場合には一次周波数もゼロとみなすことになる。
【0020】
下記の数式7は、特許文献1に記載されている数式13である。この数式は、前述したごとく、γ軸,δ軸電流検出値i
γ,i
δと電流オブザーバ22による電流推定値i
γ#,i
δ#との間の電流推定誤差のγ軸成分,δ軸成分を、それぞれe
iγ=i
γ−i
γ#,e
iδ=i
δ−i
δ#として表したものである。
【数7】
【0021】
数式7は、電動機100の回転速度ω
rと電力変換手段14の出力の一次周波数ω
1とが等しいという仮定に基づいており、回転速度ω
rに比例する成分を表す右辺カッコ内の第1項、第2項には一次周波数ω
1が乗算されている。
このため、電動機100の回転方向が正回転から逆回転に移行する時のように回転速度ω
rがゼロになる場合、特許文献1ではω
1=0とみなされる。このようにω
1=0を数式7に代入すると、電流推定誤差e
iγ=i
γ−i
γ#,e
iδ=i
δ−i
δ#は何れもゼロとなり、角度・速度推定手段28は動作を停止してしまうことになる。
【0022】
非特許文献1においても、電動機の回転速度とインバータの出力周波数とが等しいという前提のもとで、電流オブザーバを用いて角度・速度推定を行っている。このため、ゆっくりとした加速度のもとでは、ゼロ速度をまたいで正回転から逆回転に変化するように動作させた場合に特許文献1と同様の問題が生じる。
【0023】
そこで、本発明の解決課題は、各従来技術のように回転速度がゼロ近傍になった場合でも安定した角度・速度の推定を可能にした永久磁石同期電動機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、位置センサレスベクトル制御により永久磁石同期電動機を駆動するための制御装置において、
直流電圧を可変電圧・可変周波数の交流電圧に変換して前記永久磁石同期電動機に供給する電力変換手段と、
前記永久磁石同期電動機の電機子電流を検出する電流検出手段と、
前記永久磁石同期電動機の電圧,電流,インダクタンス,永久磁石の磁極の磁束,電機子抵抗,前記電力変換手段の出力周波数、及びオブザーバゲインから前記電機子電流の推定値を演算する電流オブザーバと、
前記永久磁石同期電動機の磁極の角度推定誤差を演算する角度推定誤差演算手段と、
前記永久磁石同期電動機のインダクタンス,永久磁石の磁極の磁束,電流検出値,前記電流オブザーバの電流推定値と電流検出値との偏差、を用いて、前記速度推定誤差を演算する速度推定誤差演算手段と、
前記角度推定誤差を比例積分演算した値と前記速度推定誤差に
比例ゲインを乗算した値とを加算して得られる値を速度推定値として演算する速度推定手段と、
を備え
、
前記角度推定誤差演算手段は、
前記電流オブザーバによる電流推定誤差に対応した電流誤差ベクトルと基準ベクトルとの外積を演算する外積演算手段と、前記外積を、前記速度推定誤差を用いて演算した調整ゲインにより除算する除算手段と、を有し、
前記除算手段の出力を前記角度推定誤差として出力することを特徴とする。
【0025】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載した永久磁石同期電動機の制御装置において、前記
永久磁石同期電動機が埋込磁石同期電動機であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、永久磁石同期電動機の回転方向が逆転する時のように回転速度がゼロ近傍となる場合でも、角度・速度の推定動作を安定化させて高精度な位置センサレスベクトル制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施形態を示す制御装置の構成図である。
【
図2】特許文献1に記載された位置・速度センサレス制御システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、この実施形態に係る制御装置の構成図である。
図1において、
図2と同一の機能を有するものには同一の参照符号を付して説明を省略し、以下では
図2と異なる部分を中心に説明する。
【0030】
図1において、三相/二相座標変換手段16から出力されるγ軸,δ軸電流検出値i
γ,i
δと電流オブザーバ22から出力される電流推定誤差i
γ−i
γ#,i
δ−i
δ#とは、速度推定誤差演算手段31に入力されている。この速度推定誤差演算手段31が演算した速度推定誤差Δω
#は、角度・速度推定手段28と調整ゲイン演算手段32とに入力される。
【0031】
調整ゲイン演算手段32が速度推定誤差Δω
#に基づいて演算した調整ゲインは、第1の切替手段33の一方の入力端子に加えられ、切替手段33の他方の入力端子には「1」が入力されている。
また、切替手段33から出力される調整ゲインは乗算・除算手段30に加えられ、乗算・除算手段30の出力は加減算手段27の一方の入力端子に加えられている。また、加減算手段27の他方の入力端子には、ゲインKの出力と「0」とを切り替える第2の切替手段29の出力が加えられている。
【0032】
次に、この実施形態の動作を説明する。
なお、この実施形態の運転条件は、電動機100が正回転から逆回転に移行する場合のように、回転速度がゼロ近傍である場合とする。
図1は、この状態つまり回転速度がゼロ近傍の状態を示しており、第1の切替手段33は調整ゲイン演算手段32側に、第2の切替手段29は「0」側を選択している。回転速度がゼロ近傍でない場合には、第1の切替手段33は「1」側に切り替わり、第2の切替手段29はゲインK側に切り替わるので、制御装置全体の構成及び動作は、従来技術としての
図2と同様になる。
【0033】
さて、
図1の構成において、速度推定誤差演算手段31は、γ軸,δ軸電流検出値i
γ,i
δ,電流推定誤差i
γ−i
γ#,i
δ−i
δ#,電動機100のインダクタンスL
d,L
q,磁極の磁束Φ
m等を用いて数式8を演算し、実際の回転速度と推定速度との差である速度推定誤差Δω
#を求める。
【数8】
【0034】
次に、調整ゲイン演算手段32は、速度推定誤差Δω
#を用いて数式9を演算し、調整ゲインf
outを出力する。
【数9】
【0035】
上記の調整ゲインf
outは第1の切替手段33を介して乗算・除算手段30に入力され、この乗算・除算手段30により、外積演算手段23の出力である外積が調整ゲインf
outによって除算される。そして、乗算・除算手段30による除算結果は加減算手段27を介し、そのまま角度推定誤差Δθとして角度・速度推定手段28に入力される。
【0036】
角度・速度推定手段28には、前述したように速度推定誤差Δω
#も入力されている。このため、角度・速度推定手段28は、数式10により回転速度ω
1及び角度推定値θ
#を演算する。
【数10】
ただし、K
Δω:速度推定誤差に対する速度推定用の比例ゲインとする。
前述した数式6と上記の数式10との比較から明らかなように、この実施形態では、速度推定誤差Δω
#と比例ゲインK
Δωとの乗算結果を速度ω
1の推定に用いている。
【0037】
次に、この実施形態により、電動機100がゼロ速度を通過する場合において、従来技術と比べて角度及び速度の推定演算が安定化する理由を下記に述べる。
以下の数式11は、埋込磁石同期電動機のγ軸,δ軸電流に関する状態方程式である。
【数11】
ただし、Cは、数式12に示すように、角度推定誤差分の回転座標変換を表す2行2列の行列であるとする。
【数12】
【0038】
数式11の右辺第2項には、回転速度ω
rが含まれている。ω
1≠ω
rとし、Δω=ω
1−ω
rであるとして、数式1と数式11との差分を計算し、電流推定誤差i
γ−i
γ#,i
δ−i
δ#の定常状態における値を計算すると、次の数式13が導かれる。
【数13】
【0039】
数式13の右辺第3項及び第4項には、上記のΔω(=ω
1−ω
r)を含んでいる。仮にω
1がゼロに近く、Δωが無視できない値であったとすると、電流推定誤差は速度推定誤差Δωの影響を受けることが判る。
【0040】
次に、数式13を整理して、速度推定誤差Δω、角度推定誤差Δθ、及び電流推定誤差i
γ−i
γ#,i
δ−i
δ#の関係を整理すると、数式14が得られる。ただし、ここでは整理のために、sin2Δθ≒2Δθ,sinΔθ≒Δθ,cos2Δθ≒1,cosΔθ≒1という近似を用いた。
【数14】
【0041】
数式14を速度推定誤差Δωについて解くと、次の数式15が得られる。ここで、数式15の右辺は、速度推定誤差演算手段31が行う数式8の演算と一致することが判る。
【数15】
【0042】
次に、この実施形態における外積演算手段23は、電流推定誤差i
γ−i
γ#,i
δ−i
δ#と基準ベクトルv
bγ,v
bδとの外積を演算し、これを角度の推定に利用する。そこで、数式13と数式3との外積を演算し、角度推定誤差Δθについてまとめると、次の数式16のように整理される。
【数16】
【0043】
すなわち、数式16によれば、右辺第1項のω
1/(g
cL
dL
q)と大かっこ内の項とが、数式9と一致しており、数式9の調整ゲインf
outは、数式16に示した外積の演算結果における角度推定誤差Δθのゲインに相当することが分かる。従って、乗算・除算手段
30において、外積の演算結果を調整ゲインf
out(調整ゲイン演算手段32の出力)によって除算することにより、角度推定誤差Δθを得ることができる。
【0044】
また、数式16の右辺には、電力変換手段14の出力周波数ω
1と共に速度推定誤差Δωも含まれている。もし、ω
1=0であるとすると、数式16の正負は速度推定誤差Δωによって左右されることになり、この外積演算結果の正負が正しく把握されなかった場合には、角度推定系は正帰還となって発散してしまうことが判る。
このため、速度推定誤差Δωを考慮した外積に対する角度推定誤差Δθの調整ゲインを求めて角度の推定に反映させることで、ゼロ速度近傍における角度・速度の推定を安定化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、埋込磁石同期電動機だけでなく、表面磁石同期電動機を含む永久磁石同期電動機全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
11a,11b,27:加減算手段
12:電流制御手段
13:二相/三相座標変換手段
14:電力変換手段
15:電流検出手段
16:三相/二相座標変換手段
21:基準ベクトル生成手段
22:電流オブザーバ
23:外積演算手段
24:内積演算手段
25:符号演算手段
26:乗算手段
28:角度・速度推定手段
29,33:切替手段
30:乗算・除算手段
31:速度推定誤差演算手段
32:調整ゲイン演算手段
100:埋込磁石同期電動機