(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車載機器を離脱させた後で所定の方向に案内するための専用の案内部材を設けた場合には、車両衝突時という緊急時以外の用途がないにもかかわらず、案内部材の分だけ重量やコストが増大してしまう。
また、駆動源としての電動機を備えた電気自動車やハイブリッド車(以下、これらを総称して電動車両という)では、駆動用バッテリと電動機との間で直流,交流の電力変換を行うインバータが搭載される。インバータは、他の機器と比較して高電圧な部位を備えているため、車両衝突時に他の機器と干渉することで破損した場合、高電圧部位が露出して漏電等の二次災害のおそれが生じうる。
【0005】
本件は、このような課題に鑑み案出されたもので、重量増及びコスト増を抑制しつつ、車両衝突時において車載機器を保護できるようにした、車載機器の固定構造を提供することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)ここで開示する車載機器の固定構造は、車両前側に配置され、車体に対して固定される車載機器の固定構造である。この固定構造は、前記車体に固定されて前記車載機器の下方に延設されるとともに、前記車載機器の後面よりも後方へ突出した突部を有する支持部材と、締結部材により前記車載機器の後部下面に固定される前側固定部と、前記支持部材の前記突部
の後端に固定される後側固定部とを有するブラケットと、を備える。
前記ブラケットは、前後方向に延設されるとともに、
延設方向の途中で幅の異なる開口が形成された底面部を有する。
前記底面部は、
前記後側固定部よりも前方に位置し、法線の向きが変化する湾曲部を境にして設けられた前側の第1部分と
後側の第2部分とを有し、前記第1部分
が前傾姿勢で前後方向に延設され、
前記第2部分が前記第1部分に対して相対的に下方に傾斜し
て延設されている。
前記第1部分に
は前記開口のなかで幅の狭い第1開口部
が形成され、
前記第2部分には前記開口のなかで幅が広く前記第1開口部の後端から連続
した第2開口部
が形成されている。
前記第1開口部は、
前記前側固定部の一部を構成する締結用の開口部であり、前記締結部材の最も大きな外径よりも小さい幅を有
するとともに前記締結部材が挿通されて前記ブラケットを締結する。
前記第2開口部は
、前記締結部材の前記外径よりも大きい幅を有する。
(2)前記底面部は、前記第2部分の後端から連続的に形成され、前記第2部分に対して相対的に上方に傾斜した第3部分をさらに有し、前記第1部分の下面と前記第3部分の上面との距離が、前記第1部分の下面と前記締結部材の下面との距離よりも大きく設定されることが好ましい。
(3)前記第2開口部は、前端に前記幅が曲線状に漸増した漸増部を有することが好ましい。
(4)前記第2部分が、後方になるほど漸次低くなるとともに湾曲形状に構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
開示の車載機器の固定構造によれば、ブラケットの底面部に形成された開口に、締結部材の最も大きな外径よりも大きい幅を有する第2開口部を設けたことにより、車両衝突による外力の入力時に、車載機器とブラケットとを締結する締結部材を第2開口部から解放して、車載機器の後部を上方へと移動させることができる。また、従来のように離脱後の車載機器を所定の方向に案内するための専用の案内部材が不要となるので、重量の増大やコストの増大を抑制することができる。したがって、重量増及びコスト増を抑制しつつ、車両衝突時において車載機器を保護することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図面を参照して、実施形態としての車載機器の固定構造について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。なお、以下の説明では、車両の進行方向を前方とし、前方を基準に左右を定め、重力の方向を下方とし、その逆を上方として説明する。また、車両に搭載される装置や部品の説明では、それらの装置や部品が車両に搭載された状態を基準として、上下方向,左右方向及び前後方向を定める。
【0010】
[1.構成]
図1に示すように、本実施形態に係る固定構造は、車両の前部に設けられるエンジンルームやモータルーム(空間)に配置される車載機器3を車体4へ固定するための構造である。本実施形態の車載機器3は、駆動源としての電動機と駆動用バッテリ(何れも図示略)との間で直流,交流の電力変換を行うインバータであり、モータルーム内に配置される。すなわち、本実施形態の車両は、駆動源としての電動機を備えた電気自動車又はハイブリッド車(電動車両)である。なお、モータルーム内には、インバータ3の他にも電動機や補機バッテリ,空調装置など、様々な機器が搭載されている。
【0011】
インバータ3は、筐体31の内部に高電圧部位を有するとともに、その外面にコネクタやケーブル接続部等(何れも図示略)を有する。インバータ3の前面31aの下部には、支持部材2と締結される前側締結部32が前方へ突設される。一方、
図2に示すように、インバータ3の後部の下面には、上方へ一段上がった段差面31cが設けられ、この段差面31cには、ブラケット1が締結される後側締結部33が設けられる。前側締結部32は、車幅方向に互いに間隔をあけて二つ設けられ、各前側締結部32が締結用の孔部を有する。後側締結部33は、段差面31cから下方に突設されるとともに、前後方向に延設された略直方体形状の部位であり、締結用の孔部を一つ有し、その後面はインバータ3の後面31bと同一平面をなす。後側締結部33には、締結部材5としてのボルト5a及びワッシャ5bによってブラケット1が締結される。
【0012】
図1に示すように、インバータ3は、前後方向において後部が前部よりもやや上になるように前傾姿勢で配置され、支持部材2及びブラケット1を介して車体4に固定される。支持部材2は、インバータ3の下方においてインバータ3の前方から後方に亘って延設されるとともに車体4のマウント4Bに固定されるトレイ部材21と、インバータ3の前方において車体4のサイドメンバ4Aに固定される支持台22とから構成される。これらのトレイ部材21と支持台22とは別体に形成される。
【0013】
トレイ部材21は、インバータ3の下面に沿って延設される平面部21aと、平面部21aの前端から上方へ湾曲したのち前方へ湾曲して滑らかなクランク状に形成されたフランジ部21bと、平面部21aの後端から上方へ湾曲したのち後方へ湾曲して滑らかなクランク状に形成された突部21cとを有する。
【0014】
平面部21aは、後部がマウント4Bの上面に当接されてボルト締結される部位である。フランジ部21bは、インバータ3の前面31aよりも前方へ突設され、車幅方向に水平に延びた部位であり、インバータ3の二つの前側締結部32と支持台22との間に挟まれてこれらと共にボルト締結される。突部21cは、インバータ3の後面31bよりも後方へ突出した部位であり、ブラケット1の下面に当接されてボルト締結される。すなわち、トレイ部材21は、平面部21a,フランジ部21b及び突部21cにそれぞれ締結用の孔部が設けられる。
【0015】
支持台22は、サイドメンバ4Aの上面にボルト締結される部材であり、その外形が側面視で略台形の四角柱状に形成される。支持台22の車幅方向に延びる上面には、締結用の孔部が設けられるとともに、トレイ部材21のフランジ部21bが当接される。
【0016】
ブラケット1は、インバータ3の後部を下方から支持するとともに、支持部材2を介してインバータ3の後部を車体4に固定する固定部材(接続部材)である。さらに、ブラケット1は、車両の前面衝突時のようにインバータ3に対して前方から外力が入力された場合に、インバータ3を解放し、インバータ3の後部を上方へと早期に移動させる機能を持つ。
【0017】
ブラケット1は、インバータ3の後部の下面(すなわち段差面31c)に固定される前側固定部10Aと、支持部材2の突部21cに固定される後側固定部10Bとを有する。前側固定部10A及び後側固定部10Bは、それぞれブラケット1の固定点となる部位である。本実施形態のブラケット1は、
図3及び
図4(a)〜(c)に示すように、円筒部13に対して、底面部11及び二つの側面部12を有する断面コの字状であって緩やかで且つ滑らかなクランク形状の部位が組み合わされて形成される。なお、ブラケット1は、車幅方向中心に沿って前後方向に延びる仮想的な鉛直面に対して面対称に形成される。
【0018】
円筒部13は、上下方向に延びる軸心を有し、中央に中心孔13aを持つパイプ状の部材であり、上下の端面が何れも平面状に形成される。ブラケット1は、
図1に示すように、トレイ部材2の突部21cの孔部と中心孔13aとが重なるように、円筒部13の下端面13bが突部21cの上面に当接される。そして、ブラケット1は、その上方から中心孔13aにボルト6aが挿通され、突部21cの下方からナット6bが締結されることで支持部材2に固定される。つまり、本実施形態の後側固定部10Bは、円筒部13から構成される。
【0019】
底面部11は、ここでは板状であって、一定の車幅方向長さ(以下、車幅方向長さを、単に「幅」という)で前後方向に延設された部位であり、緩やかで且つ滑らかなクランク状に形成されている。以下、底面部11の湾曲部(法線の向きが変化する部分)を境に、前方から前側底面部分(第1部分)11A,中間底面部分(第2部分)11B,後側底面部分(第3部分)11Cと呼ぶ。また、
図4(a)〜(c)には、前側底面部分11Aと中間底面部分11Bとの境(仮想的な境界線)L1と、中間底面部分11Bと後側底面部分11Cとの境(仮想的な境界線)L2とをそれぞれ一点鎖線で示す。
【0020】
中間底面部分11Bは、前側底面部分11Aの後端から連続的に形成された部位であり、前側底面部分11Aに対して所定の角度θ1で、相対的に下方へ傾斜している。後側底面部分11Cは、中間底面部分11Bの後端から連続的に形成された部位であり、中間底面部分11Bに対して所定の角度θ2で、相対的に上方に傾斜している。本実施形態の角度θ1,θ2は、何れも比較的緩やかな角度であって、互いに異なる角度に設定されている。このため、前側底面部分11Aと後側底面部分11Cとは平行面とはならない。なお、角度θ1,θ2を同じ角度としても良い。
【0021】
二つの側面部12は、底面部11の前後方向に延びる両縁部からそれぞれ鉛直上方に立設された部位である。本実施形態の各側面部12は、その上縁が底面部11と平行になるように形成されている。すなわち、各側面部12は、前側底面部分11Aから中間底面部分11Bに至る部分で相対的に下方に傾斜したのち、中間底面部分11Bから後側底面部分11Cに至る部分で相対的に上方に傾斜しており、緩やかで且つ滑らかなクランク状に形成されている。本実施形態の底面部11及び二つの側面部12は板金製であり、例えば曲げ加工により一体で形成される。
【0022】
底面部11には、前側底面部分11Aから後側底面部分11Cにかけて延設され、延設方向(長手方向)の途中で幅が異なる開口14が設けられる。以下、開口14のうち幅の狭い方を前側開口部(第1開口部)14Aと呼び、幅の広い方を後側開口部(第2開口部)14Bと呼ぶ。また、
図4(a),(c)には、前側開口部14Aと後側開口部14Bとの境(仮想的な境界線)L3を一点鎖線で示す。
【0023】
前側開口部14Aは、前側底面部分11Aに形成された締結用の開口部である。前側開口部14Aは、その前縁が円弧状に形成され、この円弧状の部分(以下、前縁の円弧部ともいう)を除いた部分が一定の幅で形成される。前側開口部14Aは、
図4(c)に示すように、前縁の円弧部を除く一定の幅寸法WS(以下、第1幅寸法WSという)が、ボルト5aの軸部の径よりも僅かに大きく、締結部材5の最も大きな外径よりも小さく設定される。本実施形態では、ワッシャ5bの外径DWが最も大きいため、第1幅寸法WSはこの外径DWよりも小さく設定される。
【0024】
ブラケット1は、
図2に示すように、底面部11及び二つの側面部12の前部が、インバータ3の後側締結部33に下方から嵌め込まれる。このとき、前側開口部14Aが後側締結部33に設けられた孔部と重なるように配置され、底面部11の前側開口部14Aにボルト5aが挿通されて後側締結部33に締結されることで、ブラケット1がインバータ3に固定される。つまり、本実施形態の前側固定部10Aは、底面部11及び各側面部12の前部と、前側開口部14Aとから構成される。なお、底面部11の幅寸法は、インバータ3の後側締結部33の車幅方向長さに合わせて設定される。
【0025】
後側開口部14Bは、前側底面部分11Aから後側底面部分11Cにかけて連続的に形成される。後側開口部14Bは、その後縁が円弧状に形成され、この円弧状の部分(以下、後縁の円弧部ともいう)と漸増部14Baとを除いた中間部分が一定の幅で形成される。後側開口部14Bは、
図4(c)に示すように、漸増部14Ba及び後縁の円弧部を除く一定の幅寸法WL(以下、第2幅寸法WLという)が、締結部材5の最も大きな外径よりも大きく設定される。本実施形態では、ワッシャ5bの外径DWが最も大きいため、第2幅寸法WLはこの外径DWよりも大きく設定される。なお、第2幅寸法WLは、当然、第1幅寸法WSよりも大きい。
【0026】
漸増部14Baは、後側開口部14Bの前端に形成され、前側底面部分11Aから中間底面部分11Bに亘って(すなわち後方にいくほど)幅が曲線状に漸増するように形成された湾曲形状の部位である。後側開口部14Bは、漸増部14Baによって、その幅が第1幅寸法WSから第2幅寸法WLまで緩やかに増加している。
【0027】
車両の前面衝突時に、インバータ3に対して、前方からボルト5aの締結力よりも大きな外力が入力された場合、インバータ3はボルト5a及びワッシャ5b(すなわち締結部材5)とともにブラケット1から(ブラケット1に対して)後方へ相対移動する。後側開口部14Bの第2幅寸法WLは締結部材5の最も大きな外径(ワッシャ5bの外径DW)よりも大きいため、締結部材5は後側開口部14B内に所定距離だけ進入すると、ブラケット1から解放される(離脱する)。つまり、後側開口部14Bは、インバータ3に対して前方から外力が入力された場合に、締結部材5をブラケット1から解放する(離脱させる)解放部を構成する。締結部材5はインバータ3の後部に固定されているため、締結部材5がブラケット1から解放されることでインバータ3の後部もブラケット1から解放される。
【0028】
そして、インバータ3の後部がブラケット1から解放されるとインバータ3は後方且つ上方へと移動するようになる。これは、車両の前面衝突時には、一般的に車両の下方の部位(例えばバンパー)で車両が障害物や他の車両などに衝突するので、インバータ3には前方下方から上向きの外力が加わるためである。さらには、インバータ3が前傾姿勢で設置されるとともに、前側締結部32にて強固に固定されていることから、インバータ3の後部がブラケット1から解放されると、前側締結部32を支点として上方に反り返るようになるためである。
【0029】
なお、
図4(c)に示すように、後側開口部14Bの幅寸法WLは、前側底面部分11Aにおいて、既にワッシャ5bの外径DWよりも大きく形成されているが、少なくとも下方に傾斜する中間底面部分11Bにおいてワッシャ5bの外径DWよりも大きく形成されていればよい。換言すると、後側開口部14Bの幅寸法WLは、中間底面部分11Bの前縁以降においてワッシャ5bの外径DWよりも大きく形成されていれば、ワッシャ5bが中間底面部分11Bに当たることがない。もちろん、余裕をみて、締結部材5による締結が不安定にならない範囲で、できるだけ前側で後側開口部14Bの幅寸法WLがワッシャ5bの外径DWよりも大きく形成されていることが好ましい。
【0030】
さらに、
図4(b)に示すように、前側底面部分11Aの外側面(下面)11Aaと、後側底面部分11Cの内側面(上面)11Caとの距離(前側底面部分11Aの法線方向に沿った距離)ΔH1は、前側底面部分11Aの外側面11Aaと締結部材5の下面〔ボルト5aのボルトヘッド51の下面51a(以下、ボルトヘッド下面51aともいう)〕との距離(前側底面部分11Aの法線方向に沿った距離)ΔH2よりも大きく設定されている。つまり、前側底面部分11Aの外側面11Aaから、ボルトヘッド下面51aよりも後側底面部分11Cの内側面11Caのほうが、前側底面部11Aの法線方向下方に位置するように、内側面11Caの高さが設定されている。
【0031】
これにより、車両衝突時に、締結部材5が、後側開口部14Bまで後退してブラケット1から解放され、前側底面部分11Aの外側面11Aaに沿って直線的に後方へ移動しても、ボルトヘッド下面51aが内側面11Caの前縁に衝突することがない。したがって、締結部材5が後側開口部14Bを潜り抜けてブラケット1から離脱してインバータ3が上方へと移動するようになる。
なお、前側底面部分11Aに対し後側底面部分11Cが傾斜しているため、外側面11Aaと内側面11Caとの距離が内側面11Caの前後方向の位置によって異なる。このような場合は、内側面11Caの前縁(すなわち境界線L2上の位置)における距離を上記の距離ΔH1とする。
【0032】
[2.作用,効果]
次に、
図5(a),(b)を用いて本固定構造による作用を説明する。
図5(a)は通常の状態(車両衝突前の状態)を示す左側面図であり、
図1に対して周辺構造を追加したものである。
図5(b)は車両の前面衝突後の状態を示す左側面図である。
図5(a)に示すように、前傾姿勢で車体4に固定されたインバータ3の後方には、ダッシュパネル4Cの前面に固定された他の機器7が配置される。この機器7は、車幅方向においてインバータ3と重なる位置に配置され、仮にインバータ3が上下方向にほぼ移動せずに後退したとすると、インバータ3と衝突するものである。
【0033】
これに対して、本固定構造では上述したように、車両が前面衝突してインバータ3に対して前方から外力が入力された場合、
図5(b)に示すように、ブラケット1が早期にインバータ3の後部を解放するので、インバータ3は機器7に衝突する前に上方へと移動する。これにより、インバータ3は、後部が上方へと移動してさらに前傾姿勢となり、後方の機器7との接触を回避する。
【0034】
したがって、上述の固定構造によれば、車両衝突による前方からの外力の入力時に、締結部材5が、底面部11の後側開口部14Bを潜り抜けてブラケット1から解放されるので、車載機器(ここではインバータ3)の後部が早期にブラケット1から離脱するようになる。これにより、車載機器3の後部が早期に上方へと移動するようになり、従来のように専用の案内部材を設けることなく、車載機器3の後方にある他の機器7との衝突を回避することが可能となる。したがって、重量増及びコスト増を抑制しつつ、車両衝突時において車載機器3を保護することができる。
【0035】
上述の固定構造では、前側底面部分(第1部分)11Aの外側面11Aaと、後側底面部分(第3部分)11Cの内側面11Caとの距離ΔH1が、前側底面部分11Aの外側面11Aaと締結部材5の下面との距離ΔH2よりも大きく設定されているので、車両衝突による外力の入力時、締結部材5が内側面11Caと衝突することがない。したがって、締結部材5が確実に後側開口部(第2開口部)14Bを潜り抜けるようになり、締結部材5を安定して解放できるようになる。
【0036】
後側開口部14Bは、その前端に、後方にいくほど幅が曲線状に徐々に大きくなる(漸増する)漸増部14Baを備えている。このため、例えば
図3に二点鎖線で示すように、後側開口部14Bが漸増部14Baを備えない場合(すなわち、前側開口部14Aと後側開口部14Bとの境界線L3上に角部がある場合)に比べて、本固定構造では車両衝突による外力の入力時、前側開口部(第1開口部)14Aから後側開口部14Bへ開口が拡大する部分に応力が集中することを抑制できる。これにより、ブラケット1の破損や変形を防止することができ、前方からの外力の入力時に、締結部材5及び車載機器3を上方へと解放することができる。
【0037】
上述の固定構造では、中間底面部分(第2部分)11Bの傾斜角度θ1が比較的小さい角度である(すなわち、中間底面部分11Bが後方になるほど漸次低くなる)とともに湾曲した形状となっている。このため、例えば傾斜角度θ1が90度のように比較的大きな角度で後方に向かって急激に低くなる段差形状に較べて、車両衝突による外力の入力時に、前側底面部分11Aと中間底面部分11Bとの境界部分に対する応力集中を抑制できる。これにより、ブラケット1の破損や変形を防止することができ、前方からの外力の入力時に、締結部材5及び車載機器3を上方へと解放することができる。
【0038】
[3.その他]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
上記実施形態では、車載機器としてインバータ3を例示して説明したが、ブラケット1で固定される車載機器はインバータ3に限られず、エンジンルーム又はモータルームに搭載されるものであれば適用可能である。
【0039】
また、ブラケット1の具体的な形状は上述のものに限られない。上記実施形態では、底部11を、3つの部分11A,11B,11Cからなるクランク形状としたが、後側底面部分(第3部分)11Cは必須ではない。例えば、中間底面部分(第2部分)11Bの前後方向の寸法が短い場合には、後側底面部分11Cを設けないと、車両衝突時にボルト5aが、後方に移動したときにブラケット1から離脱する前に円筒部13に衝突してしまう可能性があるが、中間底面部分11Bの前後方向の寸法が十分長ければ、このような可能性は低いので、後側底面部分11Cを省略することが可能である。
上記実施形態では、各側面部12の上縁を段差のあるクランク形状としたが、側面部12の上縁を段差のない真っ直ぐな形状としても良い。また、例えば車載機器3の重量が軽い場合など、ブラケット1が底面部11だけでも車載機器3を安定して固定できる場合には、ブラケット1の両側面部12を省略することも可能である。
【0040】
上記実施形態では、車両衝突による外力入力時の応力集中を抑制するために、後側開口部(第2開口部)14Bの前側開口部(第1開口部)14Aとの接続部に幅が徐々に大きくなる漸増部14Baを設けたが、ブラケット1を高強度材料により形成するような場合には、漸増部14Baを省略してもよい。
また、同様の理由から、上記実施形態では、中間底面部分(第2部分)11Bを後方になるほど漸次低くなるように且つ湾曲状に構成したが、ブラケット1を高強度材料により形成するような場合には、前側底面部分(第1部分)11Aに対する相対的な中間底面部分11Bの角度θ1を、垂直若しくは垂直に近い急角度にする構成や直線状の構成も可能である。
【0041】
上述の実施形態では、締結部材5としてボルト5a及びワッシャ5bを用い、ブラケット1を車載機器3に固定しているが、ワッシャ5bを省略可能なときは、締結部材5の最も大きな外径はボルトヘッド51の最も離れた二つ角を結ぶ対角線の寸法WBとなる。そのため、この場合には、開口14は、第1開口部14Aの第1幅寸法WSがこの寸法WBよりも小さければよく、第2開口部14Bの第2幅寸法WLがこの寸法WBよりも大きければよい。
【0042】
上述の実施形態では、ブラケット1は、底面部11及び側面部12(前側固定部10A)が板金製であり、円筒部13(後側固定部10B)がパイプ状に形成されているが、ブラケット1の材質や形状は上記のものに限られない。例えば、後側固定部10Bも板金製であってもよい。また、車載機器3に対するブラケット1の固定点(前側固定部10Aの位置)、及び、ブラケット1と支持部材2との固定点(後側固定部10Bの位置)は、上記に限られず、固定する車載機器3や、車体及び他の機器との位置関係によって適宜設定される。
【0043】
上述の実施形態では、前側底面部分11Aの外側面11Aaと後側底面部分11Cの内側面11Caとの距離ΔH1を、前側底面部分11Aの外側面11Aaとボルトヘッド下面51aとの距離ΔH2よりも大きく設定しているが、距離ΔH1を距離ΔH2よりも大きく設定することは必須ではない。
この理由について説明する。上述したようにインバータ3の後部がブラケット1から解放されると、インバータ3自体が上方へと移動するようになる。したがって、締結部材5が、後側開口部14Bに進入してブラケット1から解放された後、後側底面部分11C(内側面11Ca)に到達する前にインバータ3の後部及び締結部材5が上昇するケースも考えられる。このようなケースが試験やシミュレーションに基づいて予想される場合には、締結部材5の上昇分を見込んで距離ΔH1を距離ΔH2よりも短めに設定することも可能である。
ただし、余裕を見て、本実施形態のように距離ΔH1を距離ΔH2よりも大きく設定するのが好ましい。