特許第6541210号(P6541210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6541210イオントラップから低M/Z比を有するイオンを抽出する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6541210
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】イオントラップから低M/Z比を有するイオンを抽出する方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/42 20060101AFI20190628BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   H01J49/42
   G01N27/62 B
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-549546(P2014-549546)
(86)(22)【出願日】2012年11月28日
(65)【公表番号】特表2015-503825(P2015-503825A)
(43)【公表日】2015年2月2日
(86)【国際出願番号】IB2012002524
(87)【国際公開番号】WO2013098600
(87)【国際公開日】20130704
【審査請求日】2015年11月4日
【審判番号】不服2018-677(P2018-677/J1)
【審判請求日】2018年1月18日
(31)【優先権主張番号】61/580,346
(32)【優先日】2011年12月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ババ, タカシ
【合議体】
【審判長】 西村 直史
【審判官】 小松 徹三
【審判官】 星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第97/002591(WO,A1)
【文献】 特開2000−106128(JP,A)
【文献】 特表2002−526027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオントラップを動作させる方法であって、前記イオントラップは、解離装置のためのものであり、前記イオントラップは、縦一列に位置付けられた第1の多極ロッドセットおよび第2の多極ロッドセットを含み、前記第1の多極ロッドセットは、第2の多極ロッドセットに容量結合されており、前記方法は、
RF電位を前記第1の多極ロッドセットおよび前記第2の多極ロッドセットのうちの少なくとも1つに印加することにより、イオンを捕捉するためのRF半径方向場前記第1の多極ロッドセットおよび前記第2の多極ロッドセット内に発生させることと、
前記RF電位を前記第1の多極ロッドセットおよび前記第2の多極ロッドセットのうちの少なくとも1つに印加した後で、複数のイオンを前記第1の多極ロッドセットに導入することと、
前記複数のイオンを前記第1の多極ロッドセットに導入した後で、双極DC電位を前記第1の多極ロッドセットに印加することにより、前記イオンのm/zの関数として前記RF半径方向場を変調することと、
前記双極DC電位を前記第1の多極ロッドセットに印加した後で、軸方向バイアスDC電位を前記第1の多極ロッドセットと前記第2の多極ロッドセットとの間に印加することにより、共鳴励起を用いることなく軸方向バイアス電位を前記第1の多極ロッドセットと前記第2の多極ロッドセットとの間に提供することであって、前記軸方向バイアスDC電位を印加することは、所定の閾値より小さいm/zを有するイオンが前記第1の多極ロッドセットから前記第2の多極ロッドセットに射出することを引き起こす、こと
を含む、方法。
【請求項2】
前記RF電位は、RF線形四重極場を発生させ、前記双極DC電位は、DC双極場を発生させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記RF電位は、RF線形六重極場を発生させ、前記双極DC電位は、DC双極場を発生させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記双極DC電位は、所定の閾値より小さいm/zを有する、前記第1の多極ロッドセット内のイオンが、前記軸方向バイアスDC電位の影響下、前記第2の多極ロッドセットに入射可能であるように、前記第1の多極ロッドセット内のイオンを捕捉するための前記RF半径方向場を変調する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記双極DC電位は、前記所定の閾値より大きいm/zを有する、前記第1の多極ロッドセット内のイオンが、前記第1の多極ロッドセット内に捕捉されるように、前記第1の多極ロッドセット内のイオンを捕捉するための前記RF半径方向場を変調する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記双極DC電位は、前記イオンの各イオンの位置に、それぞれのイオンが移動する方向に直交する方向の偏移を生じさせ、前記偏移は、前記イオンのm/zに依存する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記双極DC電位は、前記イオンの位置に、重力の方向の偏移を生じさせ、前記偏移は、前記イオンのm/zに依存する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記軸方向バイアスDC電位を選択することにより、所定の閾値より小さいm/z比を有するイオンを前記第1の多極ロッドセットから前記第2の多極ロッドセットに選択的に抽出することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記双極DC電位を前記第1の多極ロッドセットに印加することは、前記第1の多極ロッドセット内の第1の群のイオンおよび第2の群のイオンを捕捉することにより、前記第1の群のイオンと前記第2の群のイオンとの間のイオン−イオン反応から生成イオンを生成することであって、前記第1の群のイオンは、前記第2の群のイオンに対して反対の極性を有する、ことを含み、
前記軸方向バイアスDC電位を前記第1の多極ロッドセットと前記第2の多極ロッドセットとの間に印加することは、前記軸方向バイアスDC電位の影響下、第1の閾値より小さいm/zを有する前記生成イオンの少なくとも一部を前記第1の多極ロッドセットから選択的に抽出すること含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記軸方向バイアスDC電位を前記第1の多極ロッドセットと前記第2の多極ロッドセットとの間に印加することは、第2の閾値より大きいm/zを有する生成イオンの少なくとも一部を前記第1の多極ロッドセットから選択的に抽出することをさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
質量分析計であって、
縦一列に位置付けられた第1の多極ロッドセットおよび第2の多極ロッドセットを備えているイオントラップであって、前記イオントラップは、RF電位および双極DC電位を介して複数のイオンを捕捉するように構成されており、前記イオントラップは、解離装置のためのものであり、前記第1の多極ロッドセットは、第2の多極ロッドセットに容量結合されている、イオントラップと、
前記RF電位を前記第1の多極ロッドセットおよび前記第2の多極ロッドセットのうちの少なくとも1つに印加することにより前記第1の多極ロッドセットおよび前記第2の多極ロッドセット内に複数のイオンを捕捉するためのRF半径方向場を発生させる、第1の電圧源と、
前記双極DC電位を前記第1の多極ロッドセットに印加することにより、前記複数のイオンのm/zの関数として複数のイオンを捕捉するための前記RF半径方向場を変調する、第2の電圧源と、
軸方向バイアスDC電位を前記第1の多極ロッドセットと前記第2の多極ロッドセットとの間に印加することにより、共鳴励起を用いることなく軸方向バイアス電位を前記第1の多極ロッドセットと前記第2の多極ロッドセットとの間に提供する、第3の電圧源と
を備え、
前記軸方向バイアスDC電位を印加することは、所定の閾値より小さいm/zを有するイオンが前記第1の多極ロッドセットから前記第2の多極ロッドセットに射出することを引き起こす、質量分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、米国仮出願第61/580,346号(2011年12月27日出願)を基礎とする優先権を主張する。該出願は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
(技術分野)
本教示は、概して、質量分析システム内に捕捉されたイオンを抽出するための非共鳴方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
衝突誘起解離(「CID」)を採用する質量分析の従来の方法は、特にタンパク質分析またはプロテオミクスに関連するようないくつかの欠点を有し得る。例えば、プロテオミクスでは、翻訳後部分が、タンパク質イオンの衝突断片化においてタンパク質主鎖から損失され得るので、従来のCID方法を使用して、グリコシル化およびリン酸化等の翻訳後修飾を研究することは、困難である。
【0004】
初期難点を受けて、本明細書では、集合的に、「ExD」技術と称される、電子捕獲解離(「ECD」)、および電子移動解離(「ETD」)が、現在、高処理プロテオミクス分析においてますます実装されつつある。しかしながら、ExD方法は、例えば、反応後に残っている前駆体イオンによって生じる、効率問題に悩まされる。試薬、すなわち、電子(ECDの場合)または試薬イオン(ETDの場合)への前駆体イオンの長期暴露は、前駆体イオンの解離を増加させ得る。それにもかかわらず、生成イオンの総収率は、生成イオンも電子または試薬イオンと反応し得るので、低下し得る。
【0005】
低および高m/z比を伴う生成イオンが、多くの場合、質量分析システム内に存在し、前駆体イオンは、多くの場合、システム内の生成イオンに対して、中間のm/z比を有する。
【0006】
従来、低m/zイオンは、後続分析のために、共鳴励起を用いて、反応セルから質量選択的に抽出される。しかしながら、そのような共鳴抽出は、抽出されるイオンのCIDを生じさせる可能性があり、生成イオンの損失につながり得る。さらに、CIDを介して産生されたイオンは、典型的には、ExDによって発生されたものと異なり、スペクトル分析を困難にし得る。
【0007】
したがって、例えば、イオンを捕捉し、ExD反応セルから選択的に抽出するために、イオン捕捉および抽出のための改良された方法およびシステムを有することが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
質量分析計において、イオンを捕捉する方法であって、縦一列に位置付けられた少なくとも第1および第2の多極ロッドセットを提供することと、RF(無線周波数)電位を該ロッドセットのうちの少なくとも1つに印加し、半径方向捕捉電位を少なくとも第1のロッドセット内に発生させることと、該イオンのm/zの関数として、該半径方向RF捕捉電位を変調するように、DC電位(本明細書では、半径方向DC電位と称される)を該第1のロッドセットに印加し、半径方向DC場を発生させることと、DC電位(本明細書では、軸方向DC電位と称される)を該2つのロッドセット間に印加することにより、軸方向バイアス電位を該2つのロッドセット間に提供することと、複数のイオンを該第1のロッドセットに導入することとを含むことができる、方法が、提供される。DCバイアス電位は、第1の群に対するイオン抽出電位として、第1の群に対して反対極性を有する第2の群のイオンに対する障壁電位として機能することができる。いくつかの実施形態では、DCバイアス電位は、少なくとも約0.5ボルト(V)、例えば、約1ボルト(V)であることができる。用語「半径方向場」は、本明細書では、その場ベクトルが、主に、実質的に、トラップの縦軸(例えば、それに沿って、イオンがトラップに導入される、軸)に直交する方向に沿って方向付けられる電磁場を指すために使用される。ある場合には、半径方向場のいくつかの場ベクトルは、軸方向に沿った成分を有し得るが、そのような軸方向場成分は、概して、半径方向成分のものを有意に下回る大きさを有する。
【0009】
いくつかの実施形態では、半径方向DC電位は、選択された閾値より小さいm/zを有する、該第1のロッドセット内のイオンが、例えば、軸方向電位の影響下、該第2のロッドセットに入射可能であるように、該第1のロッドセット内の半径方向RF捕捉電位を変調することができる。いくつかの実施形態では、半径方向DC電位は、該閾値より大きいm/zを有する、該第1のロッドセット内のイオンが、該第1のロッドセット内に捕捉されるように、該第1のロッドセット内の半径方向RF捕捉電位を変調することができる。半径方向DC電位は、イオンの半径方向閉じ込めにおいて、m/z依存偏移を生じさせることができる。いくつかの実施形態では、半径方向DC電位は、より小さいm/z比を伴うイオンが、第1のロッドセットの縦方向中心軸により近づいて閉じ込められるように、イオンを半径方向に分離することができる。さらに、半径方向DC電位は、該イオンの各々によって経験される半径方向電位井戸の深度におけるm/z依存偏移を生じさせることができる。半径方向電位井戸の深度は、m/zが増加するにつれて、増加し得る。種々の実施形態では、m/z閾値は、例えば、イオントラップの特定の用途に基づいて、選択されることができる。例えば、前駆体イオンが、捕捉され、衝突断片化を受け、より小さい質量の生成イオンを産生する場合、閾値は、前駆体イオンがトラップ内に保持される間、前駆体イオンより小さい質量を有する断片イオンが抽出され得るような前駆体イオンのm/zであるように選択されることができる。
【0010】
いくつかの実施形態では、半径方向RF電位は、線形RF四重極場を発生させ、半径方向DC電位は、DC双極場を発生させる。いくつかの実施形態では、半径方向RF電位は、RF線形六重極場を発生させ、半径方向DC電位は、DC双極場を発生させる。いくつかの実施形態では、半径方向RF電位は、RF線形八重極場を発生させ、半径方向DC電位は、DC双極場を発生させる。いくつかの実施形態では、半径方向RF電位は、RF線形八重極場を発生させ、半径方向DC電位は、DC四重極場を発生させる。
【0011】
いくつかの実施形態では、半径方向DC場は、第1のロッドセットの2つのロッド間に印加される双極DC電位によって発生されることができる。いくつかのそのような実施形態では、RF捕捉電位は、以下に与えられるような式(1)によって、近似的に定義されることができる。いくつかの実施形態では、双極DC電位は、以下に与えられるような式(3)によって、近似的に定義されることができる。そのような実施形態では、該第1のロッドセット内の総半径方向捕捉電位は、以下に与えられるような式(4)に従って、該RF捕捉電位および該DC双極電位の重畳によって、近似的に定義されることができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、本方法はさらに、軸方向バイアス電位を選択し、選択的に、閾値より小さいm/z比を有するイオンを該第1のロッドセットから該第2のロッドセットに抽出することを含むことができる。いくつかの実施形態では、該第1のロッドセットからのイオンの抽出(射出)は、イオン共鳴励起を使用せずに、達成されることができる。
【0013】
さらなる側面では、本方法はさらに、第1の群のイオンと第2の群のイオンとの間のイオン−イオン反応から、生成イオンを発生させるように、第1の群のイオンおよび第2の群のイオンを第1のロッドセット内に捕捉することを含むことができ、第1の群のイオンは、第2の群のイオンに対して反対極性を有する。本方法はまた、第1のロッドセットから、選択的に、第1の閾値より小さいm/zを有する、生成イオンの少なくとも一部を抽出することを含むことができる。いくつかの実施形態では、第1の群のイオンは、試薬アニオンを含み、第2の群のイオンは、検体カチオンを含む。種々の実施形態では、生成イオンと第1の群のイオンとの間の二次反応は、例えば、閾値より小さいm/zを有する生成イオンの持続的または準持続的抽出を介して、抑制されることができる。いくつかの実施形態では、第1のロッドセットから抽出されたイオンは、第2のロッドセット、例えば、四重極ロッドセットによって質量選択され、さらなる分析のために、質量分析計の後続段階に移送されることができる。いくつかの実施形態では、本方法はさらに、選択的に、第1のロッドセットから、第1の閾値を上回り得る第2の閾値より大きいm/zを有する生成イオンの少なくとも一部を抽出することを含む。このように、ノッチフィルタが、前駆体イオンをトラップ内に保持するが、選択的に、イオン、例えば、前駆体イオンのものを下回るまたは上回るm/z比を有する生成イオンをトラップから抽出し得るように実装されることができる。いくつかの実施形態では、第1のロッドセットからの生成イオンの抽出は、生成イオンと第1の群のイオンとの間の二次反応を抑制する。
【0014】
いくつかの実施形態では、第1の群のイオンは、試薬アニオンを含み、第2の群のイオンは、検体イオンを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、質量分析計であって、半径方向RF場および半径方向DC場を介して、複数のイオンを捕捉するように構成される、少なくとも1つの多極ロッドセットを備えている、イオントラップを備えている、質量分析計が、開示される。イオントラップはさらに、共鳴励起を使用せずに、選択的に、閾値より小さいm/z比を有するイオンを該第1のロッドセットから抽出するように適合される、機構を備えている。いくつかの実施形態では、機構は、DCバイアス電圧を該ロッドセット内のイオンに印加するように適合される、電圧源を備えていることができる。いくつかの実施形態では、バイアス電圧は、少なくとも約0.5ボルトであることができる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの多極ロッドセットは、縦一列に位置付けられた2つの多極ロッドセットを備えている。
【0016】
いくつかの実施形態では、質量分析を行なう方法であって、複数の前駆体イオンの少なくとも一部を解離させ、複数の生成イオンを発生させることと、トラップ内に残っている前駆体イオンの少なくとも一部を解離させながら、生成イオンの少なくとも一部をトラップから抽出することとを含むことができる、方法が、開示される。いくつかの実施形態では、前駆体イオンは、電子移動解離、電子捕獲解離、および/または光解離を介して、解離されることができる。いくつかの実施形態では、抽出ことは、選択的に、前駆体イオンのm/zより小さいm/zを有する生成イオン(例えば、前駆体イオンのm/zより少なくとも約10%小さい、少なくとも約20%小さい、少なくとも約30%小さい、少なくとも約40%小さい、および/または少なくとも約50%より小さいm/z)を抽出することを含むことができる。いくつかの実施形態では、抽出するステップは、選択的に、前駆体イオンのm/zより大きいm/zを有する生成イオン(例えば、前駆体イオンのm/zより少なくとも約10%大きい、少なくとも約20%大きい、少なくとも約30%大きい、少なくとも約40%大きい、および/または少なくとも約50%大きいm/z)を抽出することを含むことができる。
【0017】
本出願人の教示のこれらおよび他の特徴が、本明細書に記載される。
例えば、本願は以下の項目を提供する。
(項目1)
質量分析計においてイオンを捕捉する方法であって、
縦一列に位置付けられた少なくとも第1および第2の多極ロッドセットを提供することと、
半径方向RF電位を前記ロッドセットのうちの少なくとも1つに印加することにより、RF半径方向捕捉電位を少なくとも前記第1のロッドセット内に発生させることと、
半径方向DC電位を前記第1のロッドセットに印加することにより、前記イオンのm/zの関数として前記半径方向捕捉電位を変調することと、
軸方向バイアスDC電位を前記2つのロッドセット間に印加することにより、軸方向バイアス電位を前記2つのロッドセット間に提供することと、
複数のイオンを前記第1のロッドセットに導入することと
を含む、方法。
(項目2)
前記半径方向RF電位は、RF線形四重極場を発生させ、前記半径方向DC電位は、DC双極場を発生させる、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記半径方向RF電位は、RF線形六重極場を発生させ、前記半径方向DC電位は、DC双極場を発生させる、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記半径方向DC電位は、選択された閾値より小さいm/zを有する、前記第1のロッドセット内のイオンが、前記DCバイアス電位の影響下、前記第2のロッドセットに入射可能であるように、前記第1のロッドセット内の前記RF半径方向捕捉電位を変調する、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記半径方向DC電位は、前記閾値より大きいm/zを有する、前記第1のロッドセット内のイオンが、前記第1のロッドセット内に捕捉されるように、前記第1のロッドセット内の前記RF半径方向捕捉電位を変調する、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記双極バイアスDC電位は、前記イオンの半径方向閉じ込めにおいて、m/z依存偏移を生じさせる、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記双極DC電位は、前記イオンの各々によって経験される半径方向電位井戸の深度におけるm/z依存偏移を生じさせる、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記軸方向DCバイアス電位を選択することにより、閾値より小さいm/z比を有するイオンを前記第1のロッドセットから前記第2のロッドセットに選択的に抽出することをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記第1のロッドセットからの前記閾値より小さいm/z比を有するイオンの前記質量選択的抽出は、共鳴励起を使用せずに達成される、項目1に記載の方法。
(項目10)
閾値より大きいm/zを有するイオンを前記第1のロッドセットから選択的に抽出することをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目11)
第1の閾値と第2の閾値との間のm/z比を有するイオンを前記第1のロッドセット内に保持しながら、前記第1のロッドセットから前記第1の閾値より低いm/z比を有するイオンを選択的に抽出することと、前記第2の閾値より大きいm/z比を有するイオンを選択的に抽出することとをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記第1のロッドセット内の第1の群のイオンおよび第2の群のイオンを捕捉することにより、前記第1の群のイオンと前記第2の群のイオンとの間のイオン−イオン反応から生成イオンを生成することであって、前記第1の群のイオンは、前記第2の群のイオンに対して反対の極性を有する、ことと、
前記DCバイアス電位の影響下、前記第1のロッドセットから、第1の閾値より小さいm/zを有する前記生成イオンの少なくとも一部を選択的に抽出することと
をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記第1のロッドセットから、第2の閾値より大きいm/zを有する生成イオンの少なくとも一部を選択的に抽出することをさらに含む、項目12に記載の方法。
(項目14)
質量分析計であって、
少なくとも1つの多極ロッドセットを備えているイオントラップであって、前記イオントラップは、第1のロッドセット内の半径方向RF場および半径方向DC場を介して、複数のイオンを捕捉するように構成されている、イオントラップと、
共鳴励起を使用せずに、閾値より小さいm/z比を有するイオンを前記第1のロッドセットから選択的に抽出するように適合されている機構と
を備えている、質量分析計。
(項目15)
前記機構は、DCバイアス電圧を前記ロッドセット内のイオンに印加するための電圧源を備えている、項目14に記載の質量分析計。
(項目16)
質量分析を行なう方法であって、
複数の前駆体イオンの少なくとも一部を解離させることにより、複数の生成イオンを発生させることと、
トラップ内に残っている前記前駆体イオンの少なくとも一部を解離させながら、前記生成イオンの少なくとも一部を前記トラップから抽出することと
を含む、方法。
(項目17)
前記抽出するステップは、前記前駆体イオンのm/zより小さいm/zを有する生成イオンを選択的に抽出することを含む、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記抽出された生成イオンは、前記前駆体イオンのm/zより少なくとも約10%小さい、少なくとも約20%小さい、少なくとも約30%小さい、少なくとも約40%小さい、および/または少なくとも約50%小さいm/zを有する、項目17に記載の方法。
(項目19)
前記抽出することは、前記前駆体イオンのm/zより大きいm/zを有する生成イオンを選択的に抽出することを含む、項目16に記載の方法。
(項目20)
前記抽出された生成イオンは、前記前駆体イオンのm/zより少なくとも約10%大きい、少なくとも約20%大きい、少なくとも約30%大きい、少なくとも約40%大きい、および/または少なくとも約50%大きいm/zを有する、項目19に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0018】
当業者は、以下に説明される図面が、例証目的にすぎないことを理解するであろう。図面は、本出願人の教示の範囲をいかようにも限定することを意図しない。
図1図1は、本教示のいくつかの実施形態による、質量分析計においてイオンを捕捉するための種々のステップを図示する、流れ図である。
図2A図2Aは、互に対して縦一列に軸方向に整列され、互に容量結合される、2つの四重極ロッドセットを備えていることができる、いくつかの実施形態による、イオントラップの概略描写である。
図2B図2Bは、図2Aの2つの四重極ロッドセットの概略斜視描写である。
図3図3は、小m/zを有するカチオンが、四重極から抽出される一方、大m/zを有するカチオンが、四重極内に捕捉されたままとなるように、軸方向バイアス電位を有する、いくつかの実施形態の概略描写である。
図4図4は、本教示のいくつかの実施形態による、線形イオントラップ内のイオンの捕捉および抽出の理論的シミュレーションを描写する。
図5図5は、本教示に従って、前駆体イオンの解離を生じさせるためのセルを備えている、本教示のいくつかの実施形態による、質量分析計の概略描写である。
図6図6は、高域フィルタリングおよび低域フィルタリングの組み合わせを備えている、本教示のいくつかの実施形態による、質量分析計の概略描写である。
図7A図7Aは、ポリプロピレングリコール(PPG)の質量選択的抽出を示す。
図7B図7Bは、ポリプロピレングリコール(PPG)イオンおよびPPG断片の抽出の効率を示す。
図8A図8Aは、PPGの各ESI生成物に対する抽出効率対抽出バイアス電圧(各m/zに対するV)のプロットである。
図8B図8Bは、m/zに基づく閾値抽出電圧Vの線形性を示す、各m/zに対する80%抽出効率時の抽出バイアスVのプロットである。
図9図9は、本教示による、ETD反応セル内でアゾベンゼンアニオンによって解離された[メリチン+5H]5+の一式のETDスペクトルであり、底部、中央、および上部スペクトルは、それぞれ、抽出された低m/z生成物、抽出された高m/z生成物、および反応後にセル内に残留したイオンを示す。
図10A図10Aは、互に対して縦一列に軸方向に整列され、互に容量結合される、2つの六重極ロッドセットの概略斜視描写であり、本教示による、イオントラップにおいて採用され得る。
図10B図10Bは、互に対して縦一列に軸方向に整列され、互に容量結合される、2つの八重極ロッドセットの概略斜視描写であり、本教示による、イオントラップにおいて採用され得る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本教示のいくつかの実施形態による、質量分析計においてイオンを捕捉するための種々のステップを図示する、流れ図であって、縦一列に位置付けられた少なくとも第1および第2の多極ロッドセットが提供され、RF電位が、半径方向捕捉電位を該ロッドセット内で発生させるように、ロッドセットのうちの少なくとも1つに印加される(100)。いくつかの実施形態では、ロッドセットは、ロッドセットのうちの一方に印加されるRF電位が、他方に容量結合され得るように、互に対して位置付けられる。いくつかの実施形態では、ロッドセットは、1つ以上の個別的なキャパシタによって、互に連結される。イオンは、第1のロッドセットに導入されることができ、そこで、半径方向電位に曝される(102)。半径方向DC電位(例えば、双極電位)が、第1のロッドセットに印加され、イオンのm/zの関数として、RF電位によって発生される半径方向捕捉電位を変調することができる(104)。イオンは、RF半径方向電位およびDC半径方向電位の重畳(本明細書では、「総半径方向電位」)である半径方向電位内に捕捉されることができる。DCバイアス電位は、軸方向バイアス電位を2つのロッドセット間に提供するように、ロッドセット間に印加される。以下により詳細に論じられるように、双極DC電位は、第1のロッドセット内のイオンの半径方向位置におけるm/z依存偏移と、イオンによって経験される半径方向電位井戸の深度におけるm/z依存偏移を生じさせることができる。一例として、いくつかの実施形態では、異なるm/z値を有する第1のロッドセット内の2つのイオンの場合、半径方向電位井戸の深度は、より小さいm/zを有するイオンに対してより浅い。したがって、種々の実施形態では、より小さいm/z値、例えば、閾値より小さいm/z値を有するイオンは、軸方向バイアス電位の影響下、第1のロッドセットから第2のロッドセットに射出されることができる一方、より大きいm/z値、例えば、閾値より大きいm/z値を有するそれらのイオンは、第1のロッドセット内に捕捉されたままとなる。言い換えると、種々の実施形態では、より小さいm/zイオンは、共鳴励起を使用せずに、選択的に、第1のロッドセットから射出されることができる(106)。
【0020】
本教示による方法は、種々の多極ロッドセットを使用することによって実践されることができる。好適なロッドセットのいくつかの実施例として、限定ではないが、四重極(例えば、図2A−2Bに示されるように)、六重極(例えば、図10Aに示されるように)、八重極(例えば、図10Bに示されるように)等が挙げられる。以下では、本教示の種々の実施形態によるデバイスは、四重極ロッドセットが使用されるように説明される。しかしながら、本教示は、四重極ロッドセットの使用に限定されないことを理解されたい。さらに、いくつかの実施形態では、一方のロッドセットは、あるタイプの多極ロッドセット(例えば、四重極)であることができ、他方ロッドセットは、異なるタイプの多極ロッドセット(例えば、六重極)であることができる。
【0021】
図2A−2Bは、互に対して縦一列に軸方向に整列され、互に容量結合される、2つの四重極ロッドセットST2およびQ2(本明細書では、簡潔にするために、四重極ST2およびQ2とも称される)を備えていることができる、いくつかの実施形態による、イオントラップ200を図式的に描写する。RF(無線周波数)電圧源202は、当技術分野において公知の様式において、RF電位を四重極Q2のロッドに印加し、半径方向捕捉電位(本明細書では、半径方向閉じ込め電位とも称される)をその四重極内に発生させるように構成される。四重極Q2のロッドの各々に印加されるRF電位は、四重極ST2のそれぞれのロッドに容量結合され、半径方向捕捉電位をその四重極内にも発生させることができる。複数のイオン204が、その入力オリフィス206を介して、四重極ST2に導入されることができる。本実施形態では、単一RF源が採用されるが、他の実施形態では、各四重極が、RF電位をその専用RF源から受電することができる。
【0022】
DC電圧源208は、DCバイアス電位を四重極ST2およびQ2を横断して印加するように構成される。一例として、DC電圧源は、DC電位(V)を2つの四重極のうちの2つのそれぞれのロッドを横断して印加することができる。代替として、いくつかの実施形態では、四重極ST2のうちの4つのロッドは、あるDC電圧に維持されることができ、四重極Q2の4つのロッドが、異なるDC電圧に維持されることができる。2つの四重極を横断したDC電位の印加は、あるイオンに対する抽出電位として機能し、ST2からのイオンの射出を促進し得、かつ四重極ST2から四重極Q2への反対極性を有するある他のイオンの射出を抑制し得る、軸方向バイアス電位を発生させることができる。
【0023】
本例証的実施形態では、別のDC電圧210が、双極DC電位(ΔV)を四重極ST2の2つのロッド212Aと212Bとの間に印加するように構成される。種々の実施形態では、双極電位ΔVは、低m/zイオン、例えば、閾値より低いm/zを有するイオンが、共鳴励起を伴わずに、四重極ST2から抽出され得る一方、高m/zイオン、例えば、閾値より大きいm/zを有するイオンが、四重極ST2内に捕捉されたままであり得るように、半径方向捕捉電位のm/z依存変化を四重極ST2内に生じさせることができる。
【0024】
一例として、本例証的実施形態では、RF半径方向捕捉電位(擬電位)(ψ)は、両四重極に印加され、これは、以下のように、四重極の中心軸からの距離(r)の関数として定義され得る。
【0025】
【数1】
式中、
【0026】
【数2】
式中、
rfは、ロッドに印加されるRF電圧を示し、
Ωは、RF電圧の角周波数を示し、
mは、イオンの質量を示し、
Zeは、イオン電荷を示し、
2rは、ロッド間の距離であって、
kは、当技術分野において公知の様式におけるVrfの定義に依存する、定数である。
【0027】
さらに、双極DC電位(Φ)が、四重極ST2のロッド212Aおよび212Bに印加され、これは、四重極の中心軸からの距離(r)の関数として、以下の関係に従って定義される。
【0028】
【数3】
式中、
ΔVは、2つのロッドを横断して印加される電圧差を示し、
2rは、ロッド間の距離である。
【0029】
故に、RF半径方向電位およびDC双極電位の重畳として表され得る、総半径方向電位は、以下の関係によって表されることができる。
【0030】
【数4】
半径方向電位(電位の深度)の最小値は、以下の関係によって表されることができる。
【0031】
【数5】
さらに、総半径方向電位の最小値の半径方向場所は、以下の関係によって表されることができる。
【0032】
【数6】
前述の式(5)は、電位最小値の位置偏移および深度が、より大きいm/z値を有するイオンよりより小さいm/z値を有するイオンに対して小さいことを示す。言い換えると、第1の四重極ロッドセット内では、マシュー安定性パラメータ(q)は、小m/zイオンに対してより大きく、大m/zイオンに対してより小さい。これは、四重極ST2の端部における軸上の質量依存電位障壁を表す。障壁は、四重極Q2のDCオフセット(すなわち、DCバイアス電位)をより誘引性にし、閾値より小さいm/z値を有するイオンが、四重極Q2に移動することを可能にする一方、より高いm/zイオンが、四重極ST2内に捕捉されたままにすることによって、克服されることができる。例えば、バイアスDC電位が、イオン(本実施形態では、カチオン)が半径方向に閉じ込められる、電位井戸の最小値の大きさ(−ψ)を上回る場合、すなわち、−ψ<Vまたは
【0033】
【数7】
である場合、イオンは、四重極ST2から抽出されるであろう。閾値は、四重極ST2とQ2との間のDCバイアス電位を変化させることによって調節されることができる。安定性パラメータ(q)が、m/zに反比例するので、抽出されるm/zに対する閾値は、抽出バイアスVに線形に依存する。
【0034】
本例証的実施形態では、図3に図式的に示されるように、軸方向バイアス電位は、小m/z(例えば、閾値より小さいm/z)を有するカチオンが、四重極ST2から抽出される一方、大m/z(例えば、閾値より大きいm/z)を有するカチオンが、四重極ST2内に捕捉されたままであるように設定されることができる。本例証的実施形態では、軸方向バイアス電位は、アニオンが、四重極ST2内に捕捉されたままであることを確実にする。言い換えると、四重極ST2からのカチオンの質量依存選択的抽出が、達成されることができる。他の実施形態では、軸方向バイアス電位の極性を切り替えることによって、四重極ST2からのアニオンの選択的抽出が、カチオンが四重極ST2内に捕捉されたままであることを確実にしながら、達成されることができることを理解されたい。
【0035】
図4は、2つのタンデム四重極ロッドセット(ST2およびQ2)を使用する、本教示による、線形イオントラップ内のイオンの捕捉および抽出の理論的シミュレーションを示し、200のm/zを有するカチオンが、ST2からQ2に射出される一方、1500のm/zを有するイオンが、ST2内に捕捉されたままであることを示す。本シミュレーションでは、以下のパラメータが、採用された:r=2mm(ロッドセット間の距離は、2r)、Vrf=300ボルト、Ω/2π=1MHz、ΔV(DC双極電圧)=6ボルト、およびV(DCバイアス電圧)=1ボルト。
【0036】
シミュレーションは、Scientific Instrument Services,Inc(N.J.、U.S.A)から市販のSIMONシミュレーションソフトウェアを使用して行なわれた。
【0037】
いくつかの実施形態では、第2の四重極セットQ2を使用するのではなく、軸方向DCバイアス電位は、四重極ST2の出口開口に近接して配置される電極を採用することによって、ST2内のイオンに印加されることができる。そのような実施形態では、RF捕捉電圧は、直接、ST2のロッドに印加されることができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、前述の教示は、質量分析計において、電子捕獲解離(ECD)および電子移動解離(ETD)反応(本明細書では、集合的に、ExD反応と称される)を行なうために採用されることができる。例えば、いくつかの実施形態では、複数の試薬アニオンが、第1の四重極ST2に導入されることができ、四重極ST2とQ2との間のDCバイアス電位が、その中でのアニオンの捕捉を確実にする。続いて、複数の前駆体カチオンが、四重極ST2に導入され、例えば、ST2のロッドへのAC電位の印加によって、例えば、擬電位障壁が、ロッドセット間に発生された場合、アニオンと相互作用することができる(例えば、ETDを介して)(例えば、図6の実施形態の議論参照)。前駆体カチオンとアニオンとのイオン−イオン相互作用は、前駆体イオンより低いおよび高いm/zを有する両方の生成イオン(例えば、断片イオン)を発生させることができる。より小さいm/zを有する、これらの生成イオンの少なくとも一部は、次いで、AC電圧(例えば、図6における源602によって提供されるAC電圧)がゼロボルトに設定されると、バイアスDC電位を介して、四重極ST2から抽出され、四重極Q2に入射することができる。射出されたイオンは、Q2を通過し、質量分析のために、他の下流構成要素に入射することができる。いくつかの実施形態では、バイアスDC電位は、断片イオンを抽出するために、閾値を変化させるように変動されることができる。
【0039】
このように、種々の実施形態では、前駆体イオンは、トラップ内に保たれ得る一方、生成イオンは、例えば、持続的または準持続的に、トラップから抽出される。バイアスDC電位は、アニオンが負に帯電されているので、アニオン試薬をトラップ内に安定して保持することを可能にし、抽出バイアスは、アニオンのための捕捉障壁として機能することができる。いくつかの実施形態では、前駆体イオンは、アニオンであることができ、試薬イオンは、カチオンであることができる。そのような場合、本教示は、例えば、前述のように、適切な電圧を選択することによって、印加されることができる(例えば、バイアス電圧の極性は、前駆体イオンがカチオンであり、試薬イオンがアニオンである場合に対して逆であることができる)。
【0040】
前述のように、従来、共鳴励起が、低m/zイオンのためのトラップからイオンを抽出するために採用される。しかしながら、そのような共鳴励起は、生成イオンの衝突励起を生じさせ、そのラジカル化学を変化させ得、例えば、アルファ炭素上のラジカル電子は、別の位置に移動し得る。対照的に、本教示の種々の実施形態では、ExDによって発生される生成イオンは、共鳴励起を採用せずに、抽出される。本教示は、ETDおよびECDだけではなく、また、赤外線多光子解離(IRMPD)等の前駆体イオンの光解離のためにも使用されることができる。
【0041】
図5は、本教示に従って、前駆体イオンの解離を生じさせるために、本教示のある実施形態による、質量分析計500を図式的に描写する。イオンは、真空チャンバ内に設置され、例えば、その中に位置するイオンを衝突冷却することによって、衝突集束イオンガイドとして動作され得る、四重極ロッドセットQ0に入射することができる。イオンは、次いで、レンズIQ1を通過し、別の真空化チャンバ内に位置し得、質量分解モードにおいて、例えば、RF/DC質量フィルタとして動作され、例えば、所望のm/zを有する前駆体イオンを選択し得る、四重極Q1に入射することができる。本例証的実施形態では、短太ロッド(ST)が、イオンの流動をQ1に集束させるために採用されることができる。
【0042】
例証的システム500はさらに、2つの無線周波数四重極(RFQ)ロッドセットST2およびQ2を備え得る、本教示による、イオン−イオン反応セル504を備えていることができる。図示される反応セルは、イオンを受け取るための入口開口506と、それを通して、イオンが、セルから出射し、分光計、例えば、飛行時間(TOF)質量分析器の下流段階に入射し得る、出口開口508とを備えている。本実施形態では、四重極ST2は、例えば、長さ約50mmを有する、一式の4つの短太ロッドとして実装される。他の実施形態では、四重極ST2は、異なるように実装されることができる。四重極ST2およびQ2は、例えば、本実施形態では、1000pFキャパシタを介して、互に容量結合される。ST2とQ2との間のDCバイアス電位およびST2に印加される双極DC電位は、電圧源510および512によって提供される。DC双極電位は、RFQロッドST2の間隙方向に印加される。DC電圧510および512によって印加される電圧(dc1)および(dc2)の平均は、ST2のDCバイアスを表し、dc1とdc2との差異(dc1−dc2)は、双極DC電圧ΔVを表す。RF電圧源502は、RF電圧をST2およびQ2四重極に印加し、それらの四重極内のイオンの半径方向閉じ込めを提供することができる。
【0043】
コントローラ514は、dc1およびdc2を発生させる電圧源510および512を含め、四重極ST2およびQ2に印加されるDCおよびRF電圧を制御することができる。
【0044】
使用時、試薬アニオンは、反応セルに導入され、バイアスDC電位を介して、その中に捕捉されることができる。複数の前駆体検体カチオンが、反応セルに導入され、試薬アニオンと相互作用することができる。そのような相互作用は、例えば、ETDおよびECDを介して、断片イオン等の生成イオンを発生させることができる。前述のように、双極DC電位は、バイアスDC電圧が、ST2四重極からQ2への閾値より小さいm/zを有する生成イオンの射出を生じさせ得る一方、前駆体イオンおよびアニオン試薬イオンが、捕捉されたままであるように、前駆体および生成イオンによって経験される半径方向閉じ込め電位を偏移させることができる。このように、前駆体検体カチオンは、トラップ内に保持され、試薬アニオンと相互作用し続けることができる一方、より小さいm/zを有する生成カチオンは、持続的または半持続的に射出され、それによって、試薬アニオンと生成カチオンとの間の二次イオン−イオン反応(例えば、解離)を低減させることができる。
【0045】
いくつかの実施形態では、前述のような低域フィルタリングおよび高域フィルタリングの組み合わせは、前駆体イオンのノッチフィルタリングを行なうために実装されることができる。いくつかの実施形態では、高域フィルタリング、例えば、前駆体イオンより高いm/zイオンの抽出は、RFゲーティングの方法を使用して実装されることができる(例えば、Baba、他、USP6,852,972,Loboda、他、J.Am.Soc.Mass Spectrom.2009;20:1342−8参照(参照することによって本明細書に全体として組み込まれる))。いくつかの実施形態では、RFゲーティングは、例えば、AC場を2つのRFロッドセット間に印加し、擬電位障壁をそれらのロッドセット間に発生させることによって、行なわれることができる。障壁は、小m/zイオンに対してより大きくなり、より大きなm/zイオンに対してより小さくなり得る、m/z依存性を有するため、高m/zイオンのための質量選択的抽出が、達成されることができる。
【0046】
いくつかの実施形態では、低m/zおよび高m/z抽出の順次組み合わせによって、前駆体イオンのノッチフィルタリングが、例えば、ETD反応周期の間、実現されることができる。
【0047】
一例として、図6は、イオンの低域ならびに高域フィルタリング両方を提供することができる、本教示のいくつかの実施形態による、イオントラップを図式的に描写する。前述の実施形態と同様に、例証的イオントラップ600は、本実施形態では、100pFキャパシタを介して、縦一列に位置付けられ、互に容量結合される、2つの四重極ロッドセット(ST2およびQ2)を備えている。DCバイアス電位ならびにDC双極電位は、調節可能DC電圧源601を介して、ST2四重極のロッドに印加され、前述の様式において、イオンの低域フィルタリングを提供する。加えて、AC電圧源602は、AC電圧をST2四重極のロッドに印加し、RFゲーティングを介して、擬電位障壁を2つのロッドセット間に提供するように構成される。そのようなRFゲーティングは、イオンの高域フィルタリングを提供するために採用されることができる。いくつかの実施形態では、イオントラップ600は、例えば、ETD反応期間の間、低m/zおよび高m/zイオン抽出の順次組み合わせにおいて、採用されることができる。
【0048】
本教示はまた、負に帯電された前駆体イオンが、正に帯電された試薬イオンによって解離される、ETDの補完バージョンである、逆ETDに適用可能である。ETDのためのdc電圧設定は、逆ETDを行なうために、負に反転されることができる。
【0049】
本教示の側面は、本教示の範囲をいかようにも限定するものと解釈されるべきではない、以下の実施例に照らしてさらに理解され得る。
【0050】
(実施例)
AB Sciex(Framingham, U.S.A.)によって、商品名Triple TOFTM600システムとして市販の三連TOF分光計が、そのQ2セルと図6のシステムに示される反応セルを置換することによって修正された。特に、5600のQ2セルの四重極ロッドセットは、図6に図式的に示されるような2つの分離されたRFQロッドセットと置換され、より短いロッドセットST2は、長さ約50mmを有する。
【0051】
図7Aは、ナトリウム化ポリプロピレングリコール(PPG)イオンの質量選択的抽出を示す。電子スプレーイオン化(ESI)生成物が、単離せずに使用された。双極DC電位(ΔV)50ボルト(V)およびDC抽出バイアス電位4.25Vが、印加された。Q2の捕捉質量の下限(LMCO)は、300であった。図7Aの上部におけるスペクトルは、抽出されたm/zイオンを示し、図7Aの底部におけるスペクトルは、双極抽出後に残留したm/zイオンを示す。
【0052】
図7Bは、抽出の効率を示す。m/z=563を有するPPGイオンが、Q1によって単離され、低質量抽出を受けた。ST2とQ2との間のバイアスDC電位が、走査される一方、双極DC電位およびRF電位は、一定に保持された。抽出は、2ボルトのバイアスDC電位から開始し、バイアスDC電位2.5ボルトにおいて最大値に到達した。
【0053】
図8Aは、試料イオンが単離されたPPGの各ESI生成物に対する抽出効率対抽出電圧(V)のプロットである。図7Aは、双極DC抽出のm/z依存性を示す。示されるように、明確なm/z依存性が、観察される。
【0054】
図8Bは、各m/zに対する80%抽出効率時の抽出バイアス(V)のプロットであって、試料イオンが単離されたPPGの各ESI生成物に対するm/zに基づく閾値抽出電圧Vの線形性を示す。図7Aおよび7Bに示されるように、標的m/zのための適切な抽出バイアスVが、決定されることができる。
【0055】
図9は、本教示に従って、イオン−イオン反応セル内のETD試薬としてのアゾベンゼンアニオンによって解離された、[メリチン+5H]5+の一式のETDスペクトルである。底部(c)、中央(b)および上部(a)スペクトルは、それぞれ、抽出された低m/z生成物、抽出された高m/z生成物、および反応後にセル内に残留したイオンを示す。示されるように、明確なm/z依存抽出が、本ETD実施例において観察される。
【0056】
本明細書で使用される見出しは、編成目的にすぎず、説明される主題をいかようにも限定するものと解釈されない。本出願人の教示が、種々の実施形態と併せて説明されたが、本出願人の教示がそのような実施形態に限定されることを意図しない。対照的に、本出願人の教示は、当業者によって理解されるような種々の代替、修正、および均等物を包含する。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10A
図10B