特許第6541232号(P6541232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6541232服薬支援ケース及び服薬アドヒアランス向上システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6541232
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】服薬支援ケース及び服薬アドヒアランス向上システム
(51)【国際特許分類】
   A61J 7/04 20060101AFI20190628BHJP
【FI】
   A61J7/04 Z
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-204619(P2016-204619)
(22)【出願日】2016年10月18日
(65)【公開番号】特開2018-64721(P2018-64721A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年2月25日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.学会誌 発行者名:一般社団法人 日本糖尿病学会 刊行物名:糖尿病JOURNAL OF THE JAPAN DIBETES SOCIETY Vol.59 Supplement 1 2016,S−327頁 発行年月日:平成28年4月25日 2.学会(集会) 集会名:第59回日本糖尿病学会年次学術集会 開催場所:みやこめっせ B1F 大会議室(京都府京都市左京区岡崎成勝寺町9番地の1)開催日:平成28年5月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516312811
【氏名又は名称】荏原 太
(74)【代理人】
【識別番号】100134119
【弁理士】
【氏名又は名称】奥町 哲行
(72)【発明者】
【氏名】荏原 太
【審査官】 和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−237294(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0169111(US,A1)
【文献】 特開2005−010881(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0125145(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 7/04
G16H 20/00
G06Q 50/22
G06F 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医師の処方による服薬スケジュールに従って患者が服薬し、服薬毎に医師又は医療スタッフに対して服薬したことの情報を発信するためのGPSが搭載されたボタン付き器具を収納するための器具収納部と、
前記の服薬の対象となる薬を入れるための薬収納ポケットと、を少なくとも備える服薬支援用収納ケースであって、
前記器具収納部は、収納した状態で直接ボタン部を押せるように該ボタン部に相当する箇所に開孔が設けられており、
使用時に、前記器具収納部に前記ボタン付き器具が収納されるとともに、前記薬収納ポケットに所定量分の薬が収納されることを特徴とする服薬支援ケース。
【請求項2】
使用時に、前記ボタン付き器具が、ケース全体の略中央部に位置するように保持される、請求項記載の服薬支援ケース。
【請求項3】
ケース内側の中央部を中心に二つ折りにしてケース内側面の周囲を綴じて縦長状にした状態で使用される、請求項記載の服薬支援ケース。
【請求項4】
求項の何れかに記載の服薬支援ケースを使用することを特徴とする服薬アドヒアランス改善システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継続的な服薬を必要とする疾患の患者が安全・確実に服薬するための方法及び服薬支援ケース並びにシステム、詳細には、処方薬及びGPSを備えるケースを使用することにより、安全・確実に服薬すること、継続することにより服薬アドヒアランスも改善させる方法、服薬支援ケース及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、服薬を確実にできるようにするための工夫がなされてきた。例えば、服薬した事を患者又はその介護者が意識的に脳裏に記憶するのを支援し、また服薬した事を患者又はその介護者が簡単且つ確実に思い出すのを支援することを目的とした服薬確認支援装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、認知症患者等、認知機能の低下した患者が単独で所定の服薬をすることができるようにして、介護人等の援助の負担を軽減した服薬援助器具(特許文献2)や、認知症患者のみならず薬剤の定期服用が求められる服用者に対する薬剤の服用や投薬を支援する服薬支援ホルダー(特許文献3)が提案されている。
しかしながら、これらの装置や器具等においても、安全で確実な服薬には限界があった。
【0004】
また、患者の服薬管理、特に高齢かつ認知機能が低下した患者の服薬管理については、種々の問題がある。1点目は、医師の指示通りに間違いなく患者が服薬できるか、といった「服薬アドヒアランス」の問題がある。また、2点目として、実際に薬を飲んだのに、「まだ飲んでいない」と患者が要求する問題がある。さらに、3点目は、患者が薬の服用を嫌がって飲まない問題がある。
【0005】
服薬アドヒアランスの問題は、例えば高齢の糖尿病患者では、食事のムラ、記憶の障害など加齢性変化と家族等介護者の服薬サポートによる服薬スキップ状態が突然正常化することにより低血糖をきたし救急搬送されるなど個人の問題と残薬・ポリファーマシー(Polypharmacy:10〜15種位のたくさんの種類の薬を使用すること)などの社会経済的な問題をはらんでいる。例えば、糖尿病患者の場合は1日1回内服投与ではコントロールできないインスリン投与対象者も多い。糖尿病の患者を中心としたとき、低血糖のリスクが存在することは重要な問題である。意識障害により心筋梗塞や脳梗塞の引き金になるほか、運転等で交通事故を起こしたり、社会的問題に発展するおそれがある。
【0006】
また、ポリファーマシーの問題では、いろいろな病院、クリニックから薬を処方され、そして全ての内服をしていることが少なく、キードラックを服用していないこともある。また服用していない老人に効果が出ていないと、医師により薬を追加されてしまうこともある。そしてそれでも効果がでていない場合、老人が医師に叱られ、それにより驚いた老人はそれまで飲んでいない薬を全て服用してしまい、一気に低血糖になってしまうことになりかねない。
【0007】
今この瞬間に服用したかどうかがわかる手段は少ない。たとえば昼の薬を飲んでいるかどうかその日の夜に家人が帰ってきて飲んでいないことを指摘しても、認知機能低下した患者には、飲んだかどうかすら覚えておらず、飲んだと言い張ることが多い。しかし昼の段階でわかり指摘を受けると自分でも飲んでいないことはまだ記憶にあり、しまったと思い服用次第に習慣化していく場合が多い。このような習慣化が無理な人もいるが、無理かどうかも含めて服用行動の可視化が望まれていた。また、地域包括診療による一元化も望まれる。
【0008】
さらに、従来の服薬アドヒアランスを改善する方法は、お薬カレンダーや薬剤一包化、在宅での薬剤指導などに限られていたため、特に医師や薬剤師が担当患者の服薬行動をタイムリーに確知し、状況に応じてアドバイスできるような仕組みが望まれていた。また、外出先でも服薬管理ができる、持ち運び自在の簡易な服薬支援ケースも要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−209980号公報
【特許文献2】特開2011−031036号公報
【特許文献3】実用新案登録第3201517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、継続的な服薬を必要とする疾患の患者が安全・確実に服薬すること、継続することにより服薬アドヒアランスも改善させる方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するべく鋭意研究した結果、特定の服薬情報発信器具を用いて服薬を支援することが、前記目的を達成し得ることの知見を得た。
【0012】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、下記の発明を提供することにより、その目的を達成したものである。
【0015】
.医師の処方による服薬スケジュールに従って患者が服薬し、服薬毎に医師又は医療スタッフに対して服薬したことの情報を発信するためのGPSが搭載されたボタン付き器具を収納するための器具収納部と、
前記の服薬の対象となる薬を入れるための薬収納ポケットと、を少なくとも備える服薬支援用収納ケースであって、
前記器具収納部は、収納した状態で直接ボタン部を押せるように該ボタン部に相当する箇所に開孔が設けられており、
使用時に、前記器具収納部に前記ボタン付き器具が収納されるとともに、前記薬収納ポケットに所定量分の薬が収納されることを特徴とする服薬支援ケース。
【0016】
.使用時に、前記ボタン付き器具が、ケース全体の略中央部に位置するように保持される、前記記載の服薬支援ケース。
【0017】
.ケース内側の中央部を中心に二つ折りにしてケース内側面の周囲を綴じて縦長状にした状態で使用される、前記記載の服薬支援ケース。
【0018】
の何れかに記載の服薬支援ケースを使用することを特徴とする服薬アドヒアランス改善システム。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、継続的な服薬を必要とする疾患の患者が安全・確実に服薬すること、継続することにより服薬アドヒアランスも改善させる方法、ケース及びシステムを提供することができる。
【0020】
また、本発明は、服薬を確実にするための工夫であり、特に、高齢の糖尿病患者が低血糖を起こさず安全・確実に服薬すること、継続することにより服薬アドヒアランスも改善させることが可能となる。
【0021】
また、本発明によれば、服用次第に習慣化が可能となる。このような習慣化が無理な患者についても、服用行動の可視化ができるようになる。
【0022】
特に医師や薬剤師が担当患者の服薬行動をタイムリーに確知し、状況に応じてアドバイスできるような仕組みとなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る服薬支援ケース(薬及びGPSを内部に保持した状態)を示す正面図である。
図2図1の服薬支援ケースの背面図である。
図3図1の服薬支援ケースを開いた状態の外側面を示す図である。
図4図1の服薬支援ケースを開いた状態の内側面を示す図である。
図5図4の内側面に備える薬収納ポケットの1つに薬が入れてある状態を示す一部拡大図である。
図6図4の服薬支援ケースの内側面を左側面方向から視た斜視図である。
図7図4の服薬支援ケースを半閉じ状態にした内側面の一部拡大図である。
図8図4の内側面における器具収納部から服薬情報発信ボタン付き器具を取り出す際に器具収納部の蓋部を一部緩めた状態を示す拡大図である。
図9図8の器具収納部の蓋部を開いた状態を示す拡大図である。
図10図8の器具収納部から器具を矢印方向に取り出す状態を示す拡大図である。
図11図8の器具収納部から器具を完全に取り出した状態を示す拡大図である。
図12図2の服薬支援ケースに備える外側収納部の口を広げた状態を示す拡大図である。
図13】本発明の一実施形態に係る服薬支援ケース、服薬支援方法及び服薬アドヒアランスシステムに使用される服薬情報発信ボタン付き器具(GPS搭載)の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について、その好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明に係る一実施形態としての服薬支援方法は、医師の処方による服薬スケジュールに従って患者が服薬し、服薬毎に医師又は医療スタッフ(看護師、薬剤師等)に対して服薬したことの情報を発信するためのGPSが搭載されたボタン付き器具(GPS装置)を用い、そして、患者が服薬する毎に、当該患者又はその介護者等によりボタンが押されるように構成され、医師又は医療スタッフは、GPSを介して発信された情報を受け取ることにより服薬の確認を行い、服薬していない場合又はその他の緊急な場合には、患者又はその介護者等に連絡をすることである。
【0025】
特に外出先等でも実効性を備えるために、服薬情報発信ボタン付き器具とともに所定量分の薬を収納したケース(服薬支援ケース)を使用することが望ましい。かかる服薬支援ケースを使用することにより、GPS搭載器具に薬の持ち歩きを可能とする機能を備えることができる。
【0026】
本発明の一実施形態に係る服薬支援方法では、その有用性や二次的な利用の可能性についての効果判定として、以下の点に基いて行なった。
(1)既存GPSシステムを利用したシンプル運用
(2)アドヒアランス向上、行動科学に裏付けられた習慣化の形成
(3)地域包括診療での運用
【0027】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る服薬支援ケース10は、全体の主構造がレザー製の服薬支援用携帯鞄からなり、患者が外出等する際に、薬及びGPSを内部に保持してマジックテープ(登録商標、以下同じ)〔着脱可能な止め部材〕3で綴じた状態で使用される。服薬支援ケース10の周囲にはマジックテープ3が数カ所設けられ、これにより薬及びGPSを収納するケース内側面が開閉可能な構造になされている。
【0028】
なお、本実施形態では、レザー製品の鞄を用いているが、服薬支援ケースの材質としては、これに限られず本発明の効果を達成できる範囲で種々のものを用いることができる。また、薬とGPSを内部に保持できる限り、鞄である必要はなく種々の収納具とすることができる。
【0029】
また、服薬支援ケース10には、通常、所定の位置にショルダーベルトSが取り付けられ、患者又はその介護者等の肩に掛けることで持ち運びの負担を軽減することができる。
なお、ここでいう「介護者等」とは、患者の介護を実際に行う者のほか、患者の服薬支援等に協力する者を広く含むものとする。
【0030】
図2に示すように、本実施形態に係る服薬支援ケース10の背面には、処方箋や医療説明書等、携帯する際に必要なもの等を入れる縦長の外側収納部11が設けられている。外側収納部11は、表面が透明な樹脂で構成され、内部のものが見えるようになされている。外側収納部11の中に書類等を入れる際には、縦長の収納口を広げて横方向(矢印の方向)から比較的大きな書類等をも容易に収納することができる(図12参照)。
【0031】
図1及び図2に示す状態の服薬支援ケース10におけるマジックテープ3を外して開いた状態とすると、図3に示す外側面及び図4に示す内側面が現れる。図4に示すように、本実施形態に係る服薬支援ケース10は、その内側面にGPS、薬等を収納するための各種収納部1,2等が設けられている。
【0032】
本実施形態に係る服薬支援ケース10は、図4のケース内側中央部Cを中心に二つ折りにしてケース内側面の周囲に存するマジックテープ3で左右を綴じることにより、前述した縦長状の状態(図1及び2参照)として持ち運び等することができる。
【0033】
服薬支援ケース10の内側面には、GPSが搭載されたボタン付き器具Eを収納するための器具収納部1が備えられている。器具Eは、医師の処方による服薬スケジュールに従って患者が服薬し、服薬毎に医師又は医療スタッフに対して服薬したことの情報を発信するためのものである。この器具収納部1には、収納した状態で直接ボタン部を押せるように該ボタン部に相当する箇所に開孔1hが設けられている。この開孔1hの存在により、ボタンの押し忘れ等を防止することができる。
【0034】
また、服薬支援ケース10の内側面には、服薬の対象となる薬Mを入れるための薬収納ポケット2を備えている。薬収納ポケット2は、薬の種類や服用時間等に応じて区分ができるように各ポケット2a,2b,2cの3つが設けられている。例えば、朝昼夕それぞれの食後(又は食前)に服薬すべき薬がある場合、それらを薬収納ポケット2a,2b,2cに分けて収納することができる。このようにして、誤って服薬するのを防止することができる。
【0035】
そして、服薬支援ケース10は、患者の外出等の際に、器具収納部1にボタン付き器具Eが収納されるとともに、薬収納ポケット2a,2b,2cに所定量分の薬Mが収納されて用いられる。このように、1つのケース10内に薬MとGPSを搭載した器具Eとを収納したことで、服薬の際の医師等への情報提供を容易に行うことが可能となる。これにより、継続的な服薬を必要とする疾患の患者が安全・確実に服薬することができ、そして継続することにより服薬アドヒアランスも改善できる。さらには、服用が次第に習慣化でき、服用行動の可視化ができるようになる。
【0036】
服薬支援ケース10において、器具収納部1及び薬収納ポケット2(2a,2b,2c)の位置や配置は特に制限されないが、使用時(具体的には、薬M及び器具Eその他必要に応じて説明書等を収納しケースを綴じて持ち運ぶ時等)に、ボタン付き器具E(GPS装置)がケース全体の略中央部に位置するように保持されることが好ましい。すなわち、図4に示す器具収納部1の位置(右側中段)のように設置すると、左側の薬収納ポケット2のうち朝の薬を上段(2a)、昼の薬を中段(2b)、夕方の薬を下段(2c)に区分することで、昼の薬が比較的少ないことから器具Eの厚みを考慮してもケース全体の厚みのバランスが良くなり使用し易くなる。なお、器具収納部1及び薬収納ポケット2の位置は、左右逆にしてもよい。また、朝昼夕以外に服用が必要な場合(例えば就寝前等)には、薬収納ポケット2以外の収納部を利用して就寝前用薬等の収納をすることもできる。
【0037】
服薬支援ケース10には、その他外から内部が見えない第一のカード入れ4や、表面が透明な樹脂で構成された内部の見える第二のカード入れ5が設けられている。これらのカード入れ4,5は、IDカードや診察券等の収納に用いることができる。ただし、これらは必須のものではなく、その他の収納部を必要に応じて設けることもできる。
【0038】
図5は、薬を使用する直前の状態を示す一例である。図5に示すように、服薬支援ケース10の内側面に備える薬収納ポケット2aに薬が入れてある。同一の薬を使用する場合に、複数の薬Mを台紙(図示せず)にホチキス等で止めておき、使用するたびに1つ剥がすことができる。特に薬の取外し易さの点から、台紙を薬収納ポケット2aに入れ、使用する分の薬を薬収納ポケット2aの前面に出しておくことが好ましい。
【0039】
また、図6に示すように、服薬支援ケース10の内側面にある器具収納部1側の下には第一の内側下収納部6が設けられ、薬収納ポケット2側の下には第二の内側下収納部7が設けられている。これらの内側下収納部6,7は、縦長で比較的大きな書類等をも容易に収納することができ、また直近で使用しない予備の薬等を備えておくこともできる。
【0040】
図7に示すように、必要なものを収納した服薬支援ケース10は、開いていた内側面の中央部Cを中心に矢印の方向に閉じていき、半閉じ状態を経て最終的に二つ折りになるように周囲の各マジックテープ3で止められる。このように二つ折りにして、縦長状にした状態で使用される。かかる状態とすることで、服薬の際に薬を取り出しやすくなり、また服薬後すぐに器具のボタンを押すことが可能となる。
【0041】
器具収納部1は、服薬情報発信ボタン付き器具Eを収納後に一定期間取り出す必要がないため、収納後に器具Eを挟み込んで取り外れなようにするための蓋部1iを有している。服薬支援ケース10を使用する際には、通常、蓋部1iで器具Eを挟み込むようにして器具収納部1内の器具Eの裏(奥)に入れた状態のままにされている。なお、器具Eを充電する等必要な場合には、器具Eを取り出すために、蓋部1iを開けることとなる。
【0042】
図8に示すように、ケース10の内側面における器具収納部1から服薬情報発信ボタン付き器具Eを取り出す際には、まず器具収納部の蓋部1iを奥に入れ込んでいた状態から緩めて取り外す。次いで、図9に示すように、蓋部1iを開けて、器具収納部1の出し入れ口から器具Eを矢印の方向に取り出す。そして、図10に示すように、器具収納部1から器具Eを矢印の方向に完全に取り出すことができる。図11は、器具収納部1から器具Eを完全に取り出した状態を示している。
【0043】
図13は、本実施形態に使用される服薬情報発信ボタン付き器具Eの一例である服薬情報発信ボタン付き器具80(NTTドコモ社製)である。図13に示すように、服薬情報発信ボタン付き器具80は、シンプル(あえて音声なし)で使いやすくかつわかりやすいように、正面の中央部に大きなボタン81が設けられている。器具80は、いつでも、どこでも利用できるように、通常は吊り下げ紐等により患者が身体に装着して使用するものである。また、器具80を薬入れと付ける等により、より有用なツールとして活用できる。器具80は、電源の持続が1週間に一回の充電式のもので、在宅等にマッチしているため好ましい。さらに、コスト面でも有利なものである。
【0044】
本実施形態に係る器具80に設けられているボタン81(以下、「GPSボタン」ともいう)は、患者を担当する医師の処方による服薬スケジュールに従って当該患者が服薬し、服薬毎に医師又は医療スタッフ(看護師、薬剤師等)に対して服薬したことの情報を発信するためのボタンである。
【0045】
器具80には、GPSが搭載されており、患者が服薬する毎に、患者又はその介護者がボタン81を押すことで、GPSを介して情報(以下、「GPS情報」ともいう)が発信される。そして、当該情報を担当の医師又は医療スタッフが受け取ることにより服薬の確認を行い、服薬していない場合又はその他の緊急な場合には、患者又はその介護者に連絡をする。これにより、医師等は、患者の服用ごとに確認をすることができる。また、低血糖など規則を設ける等により、より有用なツールとして活用できる。
【0046】
かかる器具80を使用して、以下具体的に実施した。
(対象)
75歳以上の糖尿病患者で服薬毎にGPSボタンを押せる24例を対象とした(77±7.8歳、女性9例、HbA1c=7.4±0.5%)。
GPS情報から服薬確認を行い服薬していない場合や緊急時には電話で患者本人・家族に連絡する。介入してから8週間の前後に、本人、家族及びスタッフにアンケート調査(自己記入式)を実施した。
介入前認知機能検査:HDS−R(21.6±0.5)、MMSE(22.2±0.9)
【0047】
病院の中での担当者は、薬剤師(日中の服薬チェック)と医師(夜間の服薬と緊急対応)である。夜間は、事務当直と医師(医学的判断が必要なため)が行う。
なお、薬のセットは、対象患者によるが、独居の人に関しては訪問看護師やデイサービスで週1回GPS搭載の服薬情報発信ボタン付き器具10の充電とともに薬をセットする。
【0048】
(結果)
8例が投薬回数の10%以上を服薬スキップしていた。介入継続によりその頻度は低下した。効果判定の検証で複数回答数順に、以下に示す。
(1)操作がシンプルで迷わない。長時間の動作が可能。患者コスト負担がない。
(2)その場で介入するので習慣形成しやすい。生活パターンが見える。場所の表示で適切な介入。
(3)公的機関の協力による徘徊検索、独居患者の対応、家族による安否確認。
なお、プライバシーなど課題はあるが、アドヒアランス改善だけでなく、服用していない事例として家族も服用していたと思っていたが、対象患者が家族に内緒で車に乗っていた等、生活情報の入手にも有用であった。
【0049】
(考察)
地域包括診療料の適応患者は該当患者の全ての通院医療機関や処方薬を把握し一元的に管理することが求められる。この目的に対し、本実施形態に係る服薬支援方法の運用は、処方薬の把握、管理の面から合致する。そして、本実施形態に係る服薬支援方法における服薬情報発信ボタン付き器具を常時携帯することで、対象者の認知機能低下が進んだ際の徘徊時の警告、探索に利用できることが期待できる。
【0050】
本発明によれば、患者の内服行動が可視化でき、その場で医師又は医療スタッフによる確認、指摘ができる。特に、血糖値の報告緊急ボタンが利用できる等、柔軟な運用が可能である。また、服薬の慣習化、患者本人の所在確認ができる。さらには、安価なコストで、患者の位置情報の活用ができ、捜索や生活面に活かされる。また多職種で確認利用できる。
【0051】
また、本発明によれば、前述した服薬支援方法又は服薬支援ケースを使用する服薬アドヒアランス改善システムを提供することができる。
【0052】
このように、本発明は、シンプルな方法、ケース又はシステムであるため、患者にとって迷うことなくすぐにスタートでき、またすぐに修正も可能である。そして、いつでも、どこでも、誰にでも寄り添えるツールとなることが期待できる。
【0053】
特に前述した服薬支援ケースを使用する場合は、服薬情報発信ボタン付き器具(GPS装置)に適切な状態で薬を持ち歩くことができ、「飲んだら押す」という行為が薬の服薬行動アドヒアランスを向上させることができる。そして薬を持ち歩くことによりGPS装置を持ち歩く習慣が増強され、軽度認知機能低下があってもGPS装置を持ち歩く習慣ができてくる。また、本発明の適用はボタンを押せる人に対してのことが前提であるが、この習慣ができない患者(一人で生活することができない独居の患者)であっても、家族や第三者等の介護者が服薬支援ケースを利用してその援助を受けることで本発明を適用できる。
【0054】
また本発明は、地域で対応・独居対応のものであるが、メールで複数個所に連絡できるようにする、徘徊等の際に探すときモバイルが利用可能なようにする、ブザーもならせるようにする等、器具80に対して付加機能を設けることで、なお一層有用なツールとなる。
【0055】
以上、本発明について前述した実施形態に基いて説明したが、これ以外にも適宜に変更形態とすることができる。
なお、本発明は、服薬アドヒアランスの向上について糖尿病患者を一例に挙げて説明したが、前述した実施形態に限定されず、種々の患者を対象とすることができる。
【0056】
本発明は、詳述した通り、患者にとってのアドヒアランスの問題と治療者(医師又は医療スタッフ)にとってのポリファーマシーの問題を解決し、家族(介護者等)による治療者の把握と患者の行動のミスマッチの解消という、3つの側面から問題をすべて解決することができるものである。
【0057】
すなわち、本発明によって、患者(特に認知症患者)が今この瞬間に薬を服用したことが判るようになる。また治療者は患者に対して薬を必要以上に追加投与させることなく適量服用させて症状を改善させることができ、さらに急な薬の服用による患者の低血糖値等を引き起こすこともなくなる。また家族は患者が絶対に薬を適切に(適量)服用していると思っていても患者の行動範囲は理解できる範囲に限られていた(例えば認知症患者が家族に内緒で車に乗っていた事例等もあった)が、このような問題も本発明によって解消される。
【0058】
従来は訪問看護やヘルパー等によりお薬カレンダー、薬の有無・残量等で患者の服用の有無を把握するしか方法がなく、しかもそれが判るのは本来の服薬すべき時から時間がたった後日となることが多い。医師や医療スタッフ(治療者側)としては、今、今日の段階で患者が薬を飲んだかどうか、いつどこで飲んでいるのか、どのようなアクションを起こしているのか等を知りたいのが実情であり、本発明に係るケースはそれが判る方法、システムとして可能にしたものである。患者の家族は患者の服用を信じていたことが実際は服用されていなかったことが、本発明によって判ったという実証も得られている。また、例えば何かあった際に本発明に係るケース内の器具のボタンを2回押してもらうようにすると、家族が知り得なかった患者の夜間の不安等精神状態を把握することもできた。
【0059】
本発明に係るケースを採用することによって、従来患者が薬を服用したかどうかを把握することが困難であったものをほぼ確実に可能とした。とりわけ本発明の実施形態に係る前述のケース内に設置した比較的大きなボタンを中央に一つ設けたボタン付き器具は、患者が飲んだらボタンを押すという条件付け、行動科学的にもシンプルな方法が採用され、確実に行動を起こしやすくできるものである。なお、このような行動すらできない場合は、その段階で患者の問題が判るため、さらに濃厚なケアが必要といった次の展開に繋げることもできる。
【0060】
本発明に係るケースに用いるGPS搭載のボタン付き器具は、通常1週間に1時間の電池の充電が必要となる。このため、訪問看護やデイサービス等を1週間に1回あてると、その際に、かかるボタン付き器具の電池の充電を行うことができ、本発明のケースを継続して使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、継続的な服薬を必要とする疾患の患者が安全・確実に服薬すること、継続することにより服薬アドヒアランスも改善させる方法、ケース及びシステムとして、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0062】
10:服薬支援ケース
1:器具収納部
1h:開孔
1i:蓋部
2,2a,2b,2c:薬収納ポケット
3:マジックテープ
4:第一のカード入れ
5:第二のカード入れ
6:第一の内側下収納部
7:第二の内側下収納部
11:外側収納部
80:服薬情報発信ボタン付き器具
81:ボタン
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