特許第6541244号(P6541244)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6541244
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】光学装置用遮光部材
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20190628BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20190628BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20190628BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   G02B5/00 B
   G02B5/20 101
   B32B7/023
   B32B3/30
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-504802(P2018-504802)
(86)(22)【出願日】2017年9月13日
(86)【国際出願番号】JP2017033137
(87)【国際公開番号】WO2018052044
(87)【国際公開日】20180322
【審査請求日】2018年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2016-182133(P2016-182133)
(32)【優先日】2016年9月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】外川 優衣
【審査官】 後藤 亮治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/132727(WO,A1)
【文献】 特開2015−034983(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/018467(WO,A1)
【文献】 特開2008−281977(JP,A)
【文献】 特開平11−064703(JP,A)
【文献】 特開2011−186438(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0146093(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムおよび前記基材フィルムの少なくとも一方の面に形成された遮光層を有する光学装置用遮光部材であって、
前記遮光層は、樹脂成分およびマット剤を含み、
前記遮光層の表面のJIS B0601:2001における算術平均粗さRaがμm以上で、かつ最大山高さRpと最大谷深さRvとの差(Rp―Rv)が3μm未満で
JIS K5600による表面硬度がH以上で、
動摩擦係数が0.42以下であり、
前記遮光層の表面に対し、メチルエチルケトンを含浸する脱脂綿を3cmあたり250gの荷重にて200mm/秒で20往復摺動させた後の光学濃度差が1.5以下である、
ことを特徴とする光学装置用遮光部材。
【請求項2】
前記遮光層の平均膜厚が、2μm〜35μmであることを特徴とする請求項に記載の光学装置用遮光部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学装置用遮光部材に関し、特にカメラ、プロジェクターおよびビデオカメラ、複写機、光沢度計など光学物性測定機などの光学装置の内壁面、フレキシブルプリント基板、シャッター、アイリス(絞り)、スペーサーなどに用いられる遮光部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から各種光学装置の内面壁およびフレキシブルプリント基板などには、反射防止性能を有する遮光部材が設置されている(特許文献1)。また、カメラ、プロジェクター、ビデオカメラなどの光学機器の羽材やワッシャーなどにも遮光性フィルムが使用されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−268105
【特許文献2】特開平4−9802
【特許文献3】特開2008−225099
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記遮光性フィルムなどの表面には、通常、マット剤を添加して、表面を粗面化した遮光層が設けられている。遮光性フィルムの遮光性能を向上させるためには、遮光層および基材フィルムと遮光層との間に設けられるアンカー層の厚膜化が有効とされてきた。
しかしながら、近年光学装置の小型化、薄型化が進み、薄くても優れた遮光特性を有し、かつ良好な硬度および遮光層と基材フィルムとの密着性を有する遮光フィルムが求められている。このような課題に対して、特許文献3では、基材フィルム(基材)と、上記基材の一方の面に配設された遮光層とを備えた遮光フィルムであって、上記基材が、白色顔料を含有するか又は表面および内部に微細な独立気泡を有する、光反射率80%以上の合成樹脂フィルムであり、上記遮光層が、バインダー樹脂、黒色顔料及びフィラーを含有し、且つその厚さが15μm以下であり、上記遮光層が、その厚さ方向において、上記基材に接する面に近い領域の黒色顔料の濃度が上記基材に接しない面(表面)に近い領域の黒色顔料の濃度より高く、全体の厚さが60μm以下の遮光フィルムが開示されている。上記遮光フィルムは、薄膜であっても優れた遮光特性を有することが記載されている。具体的には、60°の入射角度の入射光に対する光沢度が6%以下の遮光フィルムが示されている。 しかしながら、特許文献3では、厚さ方向の黒色顔料の濃度を変化させるため、2層以上の遮光層を設置するなど複雑な工程を経る必要がある。また、近年、光源の小型化,光量上昇などの高性能化のため、さらに優れた反射防止性能(遮光特性)が求められている。
そこで、本発明は、簡単な工程で製造可能で、優れた反射防止性能を有し、小型化、薄型化された光学装置への適用も可能な光学装置用遮光部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、所定以上の表面粗度を有する遮光部材表面の最大山高さRpと最大谷深さRvの差を制御することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に想到した。すなわち、本発明の遮光部材は、表面のJIS B0601:2001における算術平均粗さRaが0.5μm以上で、かつ最大山高さRpと最大谷深さRvとの差(Rp―Rv)が3未満であることを特徴とする。
本発明の遮光部材の表面硬度はH以上であることが好ましい。
また、本発明の遮光部材は、基材フィルムおよび上記基材フィルムの少なくとも一方の面に形成された遮光層を有することが好ましい。
さらに、上記遮光層の平均膜厚は、2μm〜35μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の遮光部材は、簡単な工程で製造可能で、薄型化しても優れた反射防止性能を有する。また、遮光層を有する本発明の遮光部材は、優れた硬度および遮光層とフィルム基材との密着性を有するため、小型化、薄型化された光学装置に適用された場合でも長期にわたり優れた反射防止性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態における遮光部材の構成を示す断面模式図である。
図2】本発明の他の実施形態における遮光部材の構成を示す断面模式図である。
図3】遮光部材表面のRp―Rv値と入射角度60°の入射光に対する光沢度との関係の一例を示すグラフである。
【発明の実施の形態】
【0008】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の遮光部材は、表面のJIS B0601:2001における算術平均粗さRaが0.5μm以上であり、最大山高さRpと最大谷深さRvとの差(Rp―Rv)が3未満であることを特徴とする。
遮光部材表面の算術平均粗さRaを0.5μm以上とし、最大山高さRpと最大谷深さRvとの差(Rp―Rv)を3未満にすることにより、薄くても優れた反射防止性能を発揮する。具体的には、遮光部材表面を上記範囲に制御することにより、入射角60°において光沢度が3%未満の優れた反射防止性能が得られることが確認されている。
遮光部材表面の算術平均粗さRaは、1.0μm以上が好ましく、2.0μm以上がより好ましい。
遮光部材表面のRp―Rvの値は、2.0以下が好ましく、1.5以下がさらに好ましい。一方、Rp―Rvの下限値は、算術平均粗さRaが0.5μm以上であれば、特に限定されない。
本発明の遮光部材の表面のRaおよびRp―Rvの値を制御する方法は、特に限定されないが、(A)表面の遮光層に添加する充填剤(マット剤)の粒径、粒度分布、含有量および遮光層の膜厚、遮光層の製造条件などにより、遮光層表面の凹凸を制御する方法、(B)遮光部材の基材表面に凹凸を形成する方法、および(C)遮光部材の基材表面に凹凸を形成し、かつ表面の遮光層に添加する充填剤(マット剤)の粒径などを制御する方法が挙げられる。
【0009】
それぞれの詳細について、図に基づいて、説明する。
初めに、(A)の方法で得られる遮光部材1の構成について説明する。図1に示すように、平坦な基材フィルム2の表面にマット剤31とマトリックス部32を含有する遮光層3を被覆する。遮光層3の表面には、マット剤31により凹凸が形成される。ここで、遮光部材1表面のRaおよびRp―Rv値は、マット剤31の粒径、粒度分布、含有量および遮光層3の膜厚などを調整することにより制御することができる。また、塗布液作製の際の溶剤の種類や固形分濃度、基材フィルムへの塗布量を調整することにより、制御することもできる。さらに、塗布液の塗布方法や乾燥温度、時間および乾燥時の風量などの塗膜製造条件によっても、制御するができる。このように塗布液の組成や塗膜製造条件などを制御することにより、同程度の膜厚又はRaを有する遮光層であっても、Rp―Rv値の異なる遮光層を調製することができる。
【0010】
次に、(B)の方法により得られる遮光部材1の構成について説明する。
図2に示すように、基材フィルム2表面に凹凸を形成する。凹凸形成には、例えば、サンドブラスト法を適用することができ、用いる研磨剤の粒径や噴射圧等を制御することにより、RaおよびRp―Rv値を制御することができる。図2では、凹凸を形成した基材フィルム2上に薄膜4を被覆することにより、遮光部材1表面に、基材フィルム2表面の凹凸形状にならった凹凸形状が形成される。ここでは、遮光部材表面の薄膜4中にはマット剤を添加せず、遮光部材1表面のRaおよびRp―Rv値は、基材フィルム2の凹凸形状および薄膜4の膜厚等により調製する。
高硬度を要しない分野に適用される場合や、基材フィルムが十分な硬度を有する場合には、薄膜4を形成しない基材フィルム2を遮光部材として用いることができる。一方、他の部材と摺動する部材や人の手に触れる部材として用いられる場合には、遮光部材表面に高硬度で摺動特性の優れた薄膜4を形成することにより、長期にわたり優れた遮光性を維持することができる。
【0011】
(C)の方法は、(B)のように基材フィルム表面に凹凸を形成し、かつ(A)のように遮光部材表面にマット剤を含有する遮光層を被覆する。この構成において、遮光部材表面のRaおよびRp―Rv値は、基材フィルム2表面の凹凸形状、遮光層の膜厚、遮光層中のマット剤の粒径、粒度分布、含有量、遮光層の製造条件などにより、制御することができる。
【0012】
本発明の遮光部材の表面硬度は、特に限定されないが、H以上であることが好ましい。遮光部材の表面硬度をH以上とすることにより、摺動部材や人の手の触れる部材として用いた場合でも、遮光部材の表面の摩耗が低減され、長期間にわたって、優れた遮光特性を維持することができる。本発明の遮光部材の表面硬度は、2H以上であることがさらに好ましい。上記表面硬度は、JIS K5600に従い、鉛筆引っかき試験により測定を行い、JIS K5400の基準で評価した。
また、本発明の遮光部材は、メチルエチルケトンを含浸する脱脂綿を相手材とする繰り返し摺動試験前後の光学濃度差が1.5以下であることが好ましい。このように耐溶剤性の優れた遮光部材とすることにより、架橋密度の高い遮光膜とすることができ、強靭な被膜となるため摺動条件下であっても長期にわたり凹凸形状を維持し、優れた遮光特性をさらに発揮できる。上記摺動試験および光学濃度の測定は、以下の方法により行うことができる。
塗膜面に対し、メチルエチルケトンを含浸する脱脂綿を3cmあたり250g荷重にて200mm/秒で20往復摺動させ、光学濃度計にて試験前後の光学濃度を測定し、差を算出する。
【0013】
さらに、本発明の遮光部材が他の部材と摺動する部材に適用される場合には、遮光部材の表面の動摩擦係数は0.42以下であることが好ましい。このような遮光部材は、摺動特性に優れ、長期の使用においても遮光部材表面の凹凸形状、すなわち上述したRaおよびRp―Rv値が維持される。これにより、長期にわたり優れた反射防止性能(遮光特性)を持続することができる。
本発明の遮光部材の動摩擦係数は、0.35以下が好ましく、0.3以下がさらに好ましい。なお、動摩擦係数は、摩擦摩耗試験機 HEIDON等により測定することができる。
【0014】
本発明の遮光部材は、基材フィルムの少なくとも一方の面に遮光層が形成された構成であることが好ましい。なお、以下の説明では、(B)の方法で形成される、基材フィルム表面に被覆するマット剤を含有しない薄膜も遮光層に含めることとする。
以下に本発明の遮光部材の具体的な材料構成について述べる。
【0015】
(1)基材フィルム
本発明に用いられる基材フィルムは、特に限定されず、透明なものでも不透明なものでもよい。基材フィルムの素材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン共重合体、エチレンと炭素数4以上のα‐オレフィンとの共重合体等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロンなどのポリアミド、エチレン‐酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニルなどのその他の汎用プラスチック、ポリカーボネート、ポリイミドなどのエンジニアリングプラスチックを用いることができる。これらの素材の中でも比較的に強度が高く、経済性や汎用性が高いという観点から、二軸延伸したポリエチレンテレフタレートを用いることが好ましい。これらの素材には、あらかじめカーボンブラックやアニリンブラックのような黒色着色剤を練り込んで光学濃度2以上、好ましくは4以上の高遮光性にしたものを用いることにより、より優れた遮光効果を得ることができる。
基材フィルムの厚さは、特に限定されないが、12〜188μmであることが好ましく、12〜75μmであることがより好ましい。基材フィルムの厚さを上記範囲とすることにより、小型や薄型の光学部品にも好適に用いることができる。
【0016】
上記(B)および(C)の方法を用いる場合には、予め遮光部材表面に、マット加工を施し、凹凸を形成する。マット加工法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、化学的エッチング法、ブラスト法、エンボス法、カレンダー法、コロナ放電法、プラズマ放電法、樹脂と粗面化形成剤によるケミカルマット法などを用いることができる。これらの中でも、形状コントロールのしやすさや経済性、取扱い性などの観点から、ブラスト法、特にサンドブラスト法を用いるのが好ましい。
サンドブラスト法では、用いる研磨剤の粒径や噴射圧などにより、表面のRaおよびRp―Rv値を制御することができる。また、エンボス法では、エンボスロール形状や圧を調整することにより、表面のRaおよびRp―Rv値を制御することができる。
なお、遮光部材の用途によっては、(B)の方法で表面に凹凸が形成された基材フィルム上に後述する遮光層を形成せず、凹凸部を表面に露出させた遮光部材として用いることもできる。
【0017】
(2)アンカー層
上記基材フィルムの少なくとも一方の面に遮光層を設ける前に、基材フィルムと遮光層との接着性を向上させるために、アンカー層を設けることもできる。アンカー層としては、尿素系樹脂層、メラミン系樹脂層、ウレタン系樹脂層、ポリエステル系樹脂等を適用することができる。例えばウレタン系樹脂層は、ポリイソシアネートとジアミン、ジオール等の活性水素含有化合物を含有する溶液を基材フィルム表面に塗布して、硬化させることにより得られる。また、尿素系樹脂、メラミン系樹脂の場合は、水溶性尿素系樹脂又は水溶性メラミン系樹脂を含有する溶液を基材表面に塗布し、硬化させることにより得られる。ポリエステル系樹脂は、有機溶剤(メチルエチルケトン、トルエン等)にて溶解または希釈した溶液を基材表面に塗布し、乾燥させることにより得られる。
【0018】
(3)遮光層
上述したように(B)の方法で、基材フィルム表面に形成した凹凸部を露出させた構成の遮光部材とする場合以外は、基材フィルムの少なくとも一方の面には、遮光層を形成する。遮光層としては、上記(A)および(C)の方法で用いるマット剤を含有する遮光層と(B)の方法で用いるマット剤を有しない遮光層(高硬度層、薄膜)がある。
【0019】
以下に、それぞれの遮光層の構成について説明する。
i)マット剤を含有する遮光層
遮光層の構成成分としては、樹脂成分、マット剤および着色・導電剤が含まれる。
樹脂成分は、マット剤および着色・導電剤のバインダーとなる。樹脂成分の材料は特に限定されず、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のいずれを用いることもできる。具体的な熱硬化性樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、アルキド系樹脂などが挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリアクリルエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ブチラール樹脂、スチレン‐ブタジエン共重合体樹脂などが挙げられる。耐熱性、耐湿性、耐溶剤性および表面硬度の観点からは、熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。熱硬化性樹脂としては、柔軟性および被膜の強靭さを考慮すると、アクリル樹脂が特に好ましい。
【0020】
遮光層の構成成分として硬化剤を添加することにより、樹脂成分の架橋を促進させることができる。硬化剤としては、官能基をもつ尿素化合物、メラミン化合物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物などを用いることができる。これらの中でも、特にイソシアネート化合物が好ましい。硬化剤の配合割合は、樹脂成分100質量%に対して、10〜50質量%とすることが好ましい。上記範囲で硬化剤を添加することにより、より好適な硬度の遮光層が得られ、他部材と摺動する場合であっても、長期にわたり遮光層のRaおよびRp―Rv値が維持され、優れた遮光特性が持続される。
【0021】
硬化剤を用いる場合は、その反応を促進するために、反応触媒を併用することもできる。反応触媒としては、アンモニアや塩化アンモニウムなどが挙げられる。反応触媒の配合割合は、硬化剤100質量%に対し0.1〜10質量%の範囲であることが好ましい。
【0022】
マット剤としては、樹脂系粒子を用いることも無機系粒子を用いることもできる。樹脂系粒子としては、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ベンゾグアナミン/メラミン/ホルマリン縮合物、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。一方、無機粒子としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタンなどが挙げられる。これらは単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
マット剤の平均粒径、粒度分布および含有量は、設定する遮光層の膜厚や基材フィルムの表面の凹凸形状の度合いによって異なってくるものであり、遮光部材の表面が所望のRaおよびRp―Rv値を得られるように調整する。(A)の方法の場合、例えば、表面が平滑な基材フィルム上に膜厚2〜35μmの遮光層を形成する場合は、通常、マット剤の平均粒径は、1〜40μmが好ましい。また遮光層の膜厚を4〜25μmとした場合は、マット剤の平均粒径は、5〜20μmであることが好ましい。
(C)の方法の場合、例えば、凹凸形状を有した基材フィルム上に膜厚1〜10μmの遮光層を形成する場合は、マット剤の平均粒径は2〜15μmが好ましい。また、遮光層の膜厚を2〜7μmとした場合は、マット剤の平均粒径は2〜10μmであることが好ましい。
マット剤の粒度分布は、遮光層の膜厚と選択したマット剤の大きさの組み合わせによって異なってくるものであり、一概に言えないが、できる限りシャープであることが好ましい。また、平均粒径および粒度分布の異なる複数のマット剤を用いて、RaおよびRp―Rv値を調整することもできる。
マット剤の添加量は、マット剤の平均粒径、粒度分布および遮光層の膜厚にもよるが、(A)の方法の場合、遮光層全体を100質量%として、20質量%〜80質量%であることが好ましい。また、(C)の方法の場合、1質量%〜40質量%であることが好ましい。
基材フィルムの表面形状および、マット剤の平均粒径、粒度分布および含有量、さらには、遮光層の膜厚などを制御して、遮光層表面のRa値を0.5μm以上かつRp―Rv値を3未満に調整することにより、薄くても優れた遮光特性を発揮する。具体的には、上記のように遮光層表面のRa値とRp―Rv値を制御することにより、60°の入射角度の入射光に対して、光沢度が3%以下になることが確認されている。
また、マット剤の形状については特に限定されないが、塗布液の流動特性や塗布性、得られる遮光層の摺動特性等を考慮すると、球状のマット剤を用いることが好ましい。さらに、光の反射を抑制するために、必要に応じて有機系又は無機系着色剤によりマット剤を黒色に着色することもできる。具体的な着色剤としては、カーボンブラック、アニリンブラック、カーボンナノチューブなどが挙げられる。カーボンブラックで着色したマット剤を用いて、さらに、着色・導電剤としてカーボンブラック等などを遮光層中に添加することにより、より優れた遮光特性を得ることができる。
【0023】
着色・導電剤としては、通常、カーボンブラックなどを用いる。着色・導電剤を添加することにより、遮光層が着色するため、遮光性が向上し、かつ良好な帯電防止効果が得られる。
着色・導電剤の平均粒径は、1nm〜1000nmであることが好ましく、5nm〜500nmであることがより好ましい。着色・導電剤の粒径を上記範囲とすることにより、より優れた遮光特性を得ることができる。
また、着色・導電剤の含有量は、遮光層全体を100質量%として、9質量%〜38質量%であることが好ましい。着色・導電剤の含有量を上記範囲とすることにより、より優れた遮光特性を得ることができる。
【0024】
本発明においては、遮光層の構成成分として、必要に応じて、さらに、レベリング剤、増粘剤、pH調整剤、潤滑剤、分散剤、消泡剤などを添加することができる。
潤滑剤としては、固体潤滑剤であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子の他、ポリエチレン系ワックス、シリコーン粒子などを用いることができる。
【0025】
有機溶剤又は水中に、上記構成成分を添加して、混合攪拌することにより、均一な塗布液を調製する。有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル、酢酸ブチル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどを用いることができる。
得られた塗布液を、基材フィルム表面に直接、又は予め形成したアンカー層の上に塗布し、乾燥することにより遮光層が形成される。塗布方法は特に限定されないが、ロールコーター法やドクターブレード法などが用いられる。ここで、塗布液の濃度および使用量、乾燥時の風量などの塗膜製造条件により、Ra値とRp―Rv値を制御することができる。
本発明における遮光層の厚さは、2μm〜35μmであることが好ましい。特に、マット剤を含有する場合、(A)の方法の場合は、遮光層の厚さは、2μm〜30μmであることが好ましく、4μm〜25μmであることがより好ましい。また(C)方法の場合は、遮光層の厚さは、1μm〜10μmであることが好ましく、2μm〜7μmであることがより好ましい。
遮光層の厚さを上記範囲とすることにより、所望の遮光性および摺動性が得られる。なお、マット剤を含有する遮光層の厚さは、フィルム基材表面から遮光層のマット剤により突出していないマトリックス部までの高さのことである。上記遮光層の厚さは、JIS P8118に基づいて測定することができる。
【実施例】
【0026】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、実施例中、特に記載がない場合には、「%」および「部」は質量%および質量部を示す。
【0027】
〈遮光層の構成成分〉
(a)樹脂
(a1)アクリル樹脂:アクリディックA814、DIC株式会社製
(a2)ウレタン樹脂:ハイドランAP−40、DIC株式会社製
(b)硬化剤
TDI系ポリイソシアネート:コロネートL、東ソー株式会社製
(c)着色・導電剤
(c1)カーボンブラック;NX−592ブラック、大日精化工業株式会社製
(c2)カーボンブラック:GPブラック#4613、御国色素株式会社製
(d)マット剤
(d1)アクリルフィラー:MX-500(平均粒径:5μm)、綜研化学株式会社製
(d2)アクリルフィラー:MX-1000(平均粒径:10μm)、綜研化学株式会社製
(d3)アクリルフィラー:MX-1500H(平均粒径:15μm)、綜研化学株式会社製
(d4)アクリルフィラー:MX-2000(平均粒径:20μm)、綜研化学株式会社製
(d5)アクリルフィラー:MX-300(平均粒径:3μm)、綜研化学株式会社製
(e)潤滑剤
高結晶ポリエチレンワックス:ハイテックE-3500、東邦化学工業株式会社製
【0028】
(実施例1〜6、比較例1〜4)
表1に示す配合比(質量)で上記樹脂、硬化剤、着色・導電剤およびマット剤を溶剤中に入れ、攪拌混合して塗布液を得た。ここで、溶媒としては、メチルエチルケトンとトルエンを用いた。
厚み50μmのポリエチレンフィルム(ルミラーX30、東レ株式会社製)を基材フィルムとして、一方の面に塗布液を塗布した後、100℃で2分乾燥して、遮光層を形成した。なお、実施例1〜6および比較例1〜4では、樹脂、硬化剤、着色・導電剤の種類および含有率は全て同一として、マット剤の種類を変えて、塗布液を調製した。また、実施例2および比較例1、実施例3、4および比較例2、実施例5、6、比較例3および4では、同一の塗布液を用いて、塗布時のWET厚および乾燥時のドライヤーの風量を調整することにより、異なる形状の遮光層を得た。具体的にはドライヤーの風量を決めるインバータの回転数を、実施例2、3、5及び比較例4は1000r.p.m.とし、比較例1〜3は600r.p.m.として風量を緩やかにして乾燥させ、実施例1、4、6は1400r.p.m.として風量を強めにして乾燥させた。
得られた遮光部材および遮光層の平均膜厚、Ra値、Rp−Rv値、60°の入射角度の入射光に対する光沢度を測定した結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
60°の入射角度の入射光に対する光沢度の測定はJIS Z8741に従い、入射角60°に対する鏡面光沢度を測定した。
【0031】
(実施例7、8、9および比較例5)
厚みが50μmの黒色ポリエチレンテレフタレート(ルミラーX30)の両面をサンドマット加工して、表面に凹凸を形成した。サンドマット加工した状態で表面に塗膜を塗布しない試料を実施例7とした。
次に、表2に示す配合比(質量)で樹脂、硬化剤、着色・導電剤、マット剤、潤滑剤を溶剤中に入れ、攪拌混合して塗布液を得た。ここで、溶剤としては、水とイソプロピルアルコールの混合溶液を用いた。得られた塗布液を、両面をサンドマット加工した上記黒色ポリエチレンテレフタレート基材フィルムの各面に塗布した後、110℃で2分間乾燥することにより、遮光層を形成した(実施例8、実施例9および比較例5)。なお、実施例8は、上述した(B)の方法で得られる遮光層にマット剤を含有しない構成であり、実施例9は、上述した(C)の方法で得られる、表面に凹凸のある基材フィルム上に、マット剤を含む遮光層を設けた構成である。また、比較として、サンドマット加工時のマット処理時間を短くすることにより、ポリエチレンテレフタレートの表面粗さを変えた他は実施例8と同様にして、遮光層を形成した試料を作製した(比較例5)。
得られた遮光部材および遮光層のRa値、Rp−Rv、60°の入射角度の入射光に対する光沢度を測定した結果を表2に示す。なお、実施例8、実施例9および比較例5では、遮光層の平均膜厚を測定した結果も表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
表1より、異なる種類のマット剤を用いることにより、遮光層の膜厚、表面のRa値およびRp−Rv値が変わることが確認された。また、実施例2および比較例1、実施例3、4および比較例2、実施例5、6、比較例3および4を比較することにより、同一の塗布液を用いて、マット剤の種類は同じでも、遮光層の膜厚および製造条件を変えることにより、表面のRa値およびRp−Rvを制御できることが確認された。ここで、同じ塗布液を用いた実施例および比較例を比較するとRp−Rv値が低いほど、60°の入射角度の入射光に対する光沢度が低くなり、遮光性が向上することがわかった。
図3に遮光部材表面のRp−Rv値と入射角度60°の入射光に対する光沢度との関係をプロットした結果を示す。この結果より、遮光部材表面のRp−Rv値が小さいほど、入射角度60°の入射光に対する光沢度が減少する傾向があることが明らかである。また、Rp−Rv値が3付近までは、入射角度60°の入射光に対する光沢度が3以下となり非常に優れた遮光性を有することがわかった。Rp−Rv値が3を超えると、入射角度60°の入射光に対する光沢度が急激に上昇し、遮光性が低下することが確認された。このため、遮光部材表面のRp−Rv値を3未満とすることが重要であると考えられる。ここで、Ra値が0.5μm以上であれば、Rp−Rv値を3未満とすることにより、優れた遮光性を発揮することが確認されている。
【0034】
また、表には記載していないが、表1に示す実施例および比較例の試料の表面硬度は、全てH以上であった。特許文献1の実施例の遮光部材の表面硬度を測定した結果は、Bであったことから、本実施例では、遮光層の高硬度化も実現されることが確認された。
【0035】
表2に示すように、凹凸を形成したフィルム基材をそのまま遮光部材として用いた実施例7では、Ra値が0.68μmで、Rp−Rv値が0.9となり、入射角度60°の入射光に対する光沢度は、2.4%となった。表面に、マット剤を含有しない遮光層を被覆した実施例8では、Ra値が0.76μmで、Rp−Rv値が1.2で、入射角度60°の入射光に対する初期の光沢度は、2%となった。さらに、凹凸を形成したフィルム基材表面に、マット剤を含有する遮光層を被覆した実施例9では、Ra値が0.58μmで、Rp−Rv値が1.1で、入射角度60°の入射光に対する初期の光沢度は、2.9%となった。これに対して、Ra値が0.41μmと表面の凹凸が少ない比較例5では、Rp−Rv値が0.7であったが、入射角度60°の入射光に対する光沢度は、6.9%となった。このことから、優れた遮光性を得るためには、Ra値を所定以上として、かつRp−Rv値を低く制御することが必須であることが確認された、具体的には、遮光部材の構成に関わらず、Ra値を0.5μm以上とし、Rp−Rv値を3未満に制御することにより、光沢度が3%以下となり、優れた遮光特性を得ることができる。なお、表には示していないが、いずれの構成においてもRa値が0.5μm以上であっても、Rp−Rv値が3以上と大きくなると良好な遮光性が得られないことが確認されている。
以上の結果より、表面のJIS B0601:2001における算術平均粗さRaを0.5μm以上とし、かつ最大山高さRpと最大谷深さRvとの差(Rp―Rv)を3未満とした本発明の遮光部材の優位性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の遮光部材は、特にカメラ、プロジェクターおよびビデオカメラ、複写機、光学物性測定機(光沢度計など)などの光学装置の内壁面、フレキシブルプリント基板、シャッター、アイリス(絞り)、スペーサーなどに用いられる。また、時計、玩具などにも用いることができる。
【符号の説明】
【0037】
1 遮光部材
2 基材フィルム
3 遮光層
31 マット剤
32 マトリックス部
4 遮光層(薄膜)
図1
図2
図3