(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記鋼管被覆高強度コンクリート杭は、PHC杭と、PHC杭の外周に隙間を確保して同心の配置に設けられる鋼管と、前記隙間に充填される充填材とからなり、前記鋼管は、その上端部が構造物の基礎と水平力を伝達可能に接合される構成で、その下端部が前記PHC杭と縁切りしており、前記充填材は、前記鋼管に曲げ変形が生じても当該鋼管の局部座屈を防止できる強度及び剛性を有し、かつ前記PHC杭よりも強度及び剛性が小さい材料とすることを特徴とする、請求項1に記載した杭の設計方法。
【背景技術】
【0002】
構造物は基礎を介して複数の杭により支持されており、杭は所要の間隔をあけて規則的に配置されている。
構造物(特には矩形構造物)から受ける地震時等の水平力(荷重)が作用したときに生じる曲げモーメントやせん断力は、外周部、特には四隅部に配置された杭が最も大きいことが知られている。これに伴い、外周部や四隅部に配置した杭が破損・損傷して支持性能を損なう虞があることも知られている。
【0003】
また、オフィスビルなどでは、オフィスやロビーとして用いられる部分は広々とした空間を確保するために壁を減らす一方で、エレベータなどを一箇所に集めたコア部に壁が集中し、剛性の高い要素となる。よって、当該コア部に配置された杭に、構造物から受ける地震時等の水平力が集中することも知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、同文献1の
図1に示したように、上部構造物1の荷重を基礎2を介して地盤に伝える杭群のうち、上部構造物1の外周隅部(四隅部)に対応(配置)した杭3aのさらに外側に、主として水平力のみを支持するせん断力負担杭4を配置した発明が開示されている(請求項1等参照)。
この発明によると、前記せん断力負担杭4の分担効果により、地震時等に四隅部に配置した杭3aに入力するせん断応力を低減でき、ひいては四隅部に配置した杭の破損・損傷を抑制することができる。
【0005】
特許文献2には、大規模建物を多数の小径杭で支持する群杭建物の杭頭免震工法であって、同文献2の
図2に示したように、矩形建物5の4隅近傍に敷設される杭7のみに免震処置を施した発明が開示されている(請求項1、2等参照)。
この発明によると、矩形建物5の4隅近傍に敷設される杭7のみに免震処置を施すので、当該杭7に入力するエネルギー(せん断応力)を効果的に低減でき、当該杭7、ひいては全体の杭群の破壊を抑制することができる。
【0006】
ところで、本出願人は、PHC杭と、PHC杭の外周に隙間を確保して同心の配置に設けられる鋼管と、前記隙間に充填される充填材とを、独特の手法により一体化してなる鋼管被覆高強度コンクリート杭(合成杭)を開発した(特許文献3参照)。この鋼管被覆高強度コンクリート杭は、本出願人によるここ数年にわたる実験をはじめとする各種の検討により、軸応力と、曲げ応力及びせん断応力との役割分担を明確化できるだけでなく、PHC杭と比し、水平耐力と変形性能が非常に優れていることが明らかになった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1、2は、構造物から受ける地震時等の水平力が集中しやすい杭(例えば四隅部に配置した杭)に対してせん断力負担杭(補助杭)や免震装置を設置し、当該水平力の入力を低減することを狙いとした技術である点で共通する。
しかし、このような技術は、せん断力負担杭や免震装置を新たに導入するための諸費用が非常に嵩み不経済であることに加え、施工手間を勘案すると大変煩わしい。
【0009】
本発明の目的は、前記したような構造物から受ける地震時等の水平力が集中しやすい杭に対して当該水平力の入力を低減するという技術的思想に対し、真逆の技術的思想、即ち、構造物から受ける地震時等の水平力が集中しやすい杭に、水平耐力と変形性能に優れた鋼管被覆高強度コンクリート杭を用い、さらに前記水平力を集中(入力)させるという逆転の発想に基づく技術的思想を導入することにより、当該杭、ひいては杭全体の支持性能の健全性を合理的かつ効果的に保持することができる、杭の設計方法および構造物の支持構造を提供することにある。
本発明の次の目的は、せん断力負担杭や免震装置を用いることのない、経済性に優れた杭の設計方法および構造物の支持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記背景技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る杭の設計方法は、構造物を支持する複数の杭のうち、他の杭よりも水平耐力と変形性能が大きい鋼管被覆高強度コンクリート杭を
、構造物から受ける地震時等の水平力が集中しやすい部位
である構造物の四隅部、又は外周部、又はコア部に配置
すること、
前記鋼管被覆高強度コンクリート杭の杭頭部を剛性が大きくなるように基礎と接合して当該杭にさらに構造物から受ける地震時等の水平力を集中させ
る構成とし、前記他の杭には構造物から受ける地震時等の水平力を集中させる構成としないことにより、前記他の杭の負担を軽減させた杭設計を行うこ
と、
前記鋼管被覆高強度コンクリート杭の杭頭部を剛性が大きくなるように基礎と接合する手段は、前記鋼管被覆高強度コンクリート杭の外殻を形成する鋼管の外周に平鋼板を介して定着鉄筋を接合することにより仮想鉄筋コンクリート断面を大きくすること、又は前記基礎の下部にフーチング等の杭頭埋込部を設け当該杭頭埋込部に前記鋼管被覆高強度コンクリート杭の杭頭部を杭径以上の深さ埋め込むこと、又は前記鋼管被覆高強度コンクリート杭周辺の地盤を地盤改良し当該杭のみかけの剛性を大きくして基礎と接合すること、を特徴とする。
【0011】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した杭の設計方法において、前記鋼管被覆高強度コンクリート杭は、PHC杭と、PHC杭の外周に隙間を確保して同心の配置に設けられる鋼管と、前記隙間に充填される充填材とからなり、前記鋼管は、その上端部が構造物の基礎と水平力を伝達可能に接合される構成で、その下端部が前記PHC杭と縁切りしており、前記充填材は、前記鋼管に曲げ変形が生じても当該鋼管の局部座屈を防止できる強度及び剛性を有し、かつ前記PHC杭よりも強度及び剛性が小さい材料とすることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載した杭の設計方法において、前記鋼管被覆高強度コンクリート杭は、既製の鋼管被覆高強度コンクリート杭とすることを特徴とす
る。
【0016】
請求項
4に記載した発明は、請求項1〜
3のいずれか一に記載した杭の設計方法において、前記他の杭は、PHC杭であることを特徴とする。
【0017】
請求項
5に記載した発明に係る構造物の支持構造は、前記請求項1〜
4のいずれか
一に記載した杭の設計方法に基づいて、前記鋼管被覆高強度コンクリート杭と前記他の杭とで基礎を介して構造物を支持していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る杭の設計方法および構造物の支持構造によれば、以下の効果を奏する。
(1)鋼管被覆高強度コンクリート杭は水平耐力および変形性能に非常に優れているので、構造物から受ける地震時等の水平力が集中しやすい部位に設置し、さらに、当該杭(杭頭部)に構造物から受ける地震時等の水平力を集中させる手段を導入することができ、仮に震度6強〜7クラスの極稀に発生する大地震(極稀地震)が発生した場合であっても脆性破壊することなく塑性変形し、構造物から受ける地震時等の水平力を負担し続けることができる。より詳しく言えば、周知のとおり、当該杭の設置部位に応じて前記水平力の大きさは異なるが、本発明に係る鋼管被覆高強度コンクリート杭はいずれの部位に設置されていたとしても、塑性変形の程度に差こそあれ、構造物から受ける地震時等の水平力に対し、水平耐力を維持して負担し続けることができる。
よって、その分、他の杭(PHC杭等の既製コンクリート杭)の荷重負担を軽減した杭設計が可能となる。
例えば、構造物を支持する杭をすべてPHC杭で実施した場合と比し、相対的に他の杭が負担する水平力等の荷重を低減化できるので、他の杭の損傷を未然に防止できる(又は最小限に止めることができる)。杭頭接合部(基礎)の配筋を簡素化することもできる。他の杭を基礎へ半剛接合する等の技術導入も容易に可能となる。
まとめると、構造物を支持する杭全体の支持性能の健全性を合理的かつ効果的に保持することができる、杭の設計方法および構造物の支持構造を実現することができる。
(2)本出願人が行った実験、解析によれば、本発明に係る鋼管被覆高強度コンクリート杭は、大きな水平力により杭体に大きな曲げモーメントが発生しても、鋼管の強度で抵抗できること、また、鋼管が降伏して変形が大きくなる非線形状態になったときにも、鋼管の損傷はあるが、その内部のPHC杭は損傷しないか、極めて軽微であることが分かった。変形性能が優れていると云われているSC杭(外殻鋼管付きコンクリート杭)よりも変形性能が優れていることが分かった。
このように、鋼管被覆高強度コンクリート杭は、その内部のPHC杭が専ら建物荷重(軸応力)を負担する特性を備えた構成であるが故に、構造物を地震時あるいは地震後にも安全に支持することができる。また、事後的にPHC杭を補修する等の修復作業を行うことなく再利用できるので、せん断力負担杭や免震装置を用いる必要のない点も勘案すると、非常に経済的な杭の設計方法をおよび構造物の支持構造を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る杭の設計方法および構造物の支持構造の実施例を図面に基づいて説明する。
【0021】
本発明に係る杭の設計方法は、
図1〜
図3に示したように、構造物(上部構造物)を支持する複数の杭のうち、他の杭11(図中の○印参照)より水平耐力と変形性能が大きい鋼管被覆高強度コンクリート杭10を構造物から受ける地震時等の水平力が集中しやすい部位(図中の●印参照)に配置し、前記鋼管被覆高強度コンクリート杭10の杭頭部10aを剛性が大きくなるように基礎12と接合して当該杭10にさらに構造物から受ける地震時等の水平力を集中させることにより、他の杭11の負担を軽減させた杭設計を行うことを特徴とする。
ちなみに、
図1〜
図3中の●(黒丸)に配置された杭(例えば、
図1Aでは4本)が、前記鋼管被覆高強度コンクリート杭10であり、○(白丸)に配置された杭(例えば、
図1Aでは12本)が、他の杭11である。
【0022】
前記鋼管被覆高強度コンクリート杭10は、現場作業の省力化、天候に左右されない点を考慮し、予め工場等で製造しておき現場へ搬入した既製の鋼管被覆高強度コンクリート杭10を用いて実施しているが、現場打ちで実施することもできる。
前記他の杭11は、PHC杭が好適に用いられる。
また、前記鋼管被覆高強度コンクリート杭10を配置(配設)する構造物から受ける地震時等の水平力が集中しやすい部位とは、構造物(基礎12)の四隅部(
図1A、
図2A、
図3B参照)、外周部(
図1B、
図2B)、コア部(
図3A参照)、又は図示は省略したが構造物の四隅部(外周部)とコア部との組合せを云う。
【0023】
要するに、本発明に係る杭の設計方法は、水平耐力と変形性能に優れた鋼管被覆高強度コンクリート杭10の特性を有効利用するべく、構造物から受ける地震時等の水平力が集中しやすい部位に配置する技術的思想に立脚している。
よって、以下、本発明に係る杭の設計方法の特徴点である水平耐力と変形性能に優れた前記鋼管被覆高強度コンクリート杭10の構成について具体的に説明する。
【0024】
(前記鋼管被覆高強度コンクリート杭についての説明)
前記既製の鋼管被覆高強度コンクリート杭(以下適宜、合成杭と略称する。)10は、
図4に示したように、PHC杭1と、PHC杭1の外周に隙間を確保して同心の配置に設けられる鋼管2と、前記隙間に充填される充填材3とからなる。
前記鋼管2は、その上端部が構造物の基礎12と水平力を伝達可能に接合され、その下端部が前記PHC杭1と縁切りされている。鋼管2の上端部を構造物の基礎12に水平力を伝達可能に接合する手段は種々あるが、本実施例では、一例として、
図6と
図7Bに示したように、前記鋼管2の上端部の外周面に上方へ突き出す複数の定着鉄筋6をバランスのよい配置(等ピッチ)で溶接接合し、基礎コンクリートを打設して、鋼管2の上端部と構造物の基礎12とを接合している。
前記充填材3は、前記鋼管2に曲げ変形が生じても当該鋼管2の局部座屈を防止できる強度及び剛性を有し、かつ前記PHC杭1よりも強度及び剛性が小さい材料からなる。
【0025】
ちなみに
図4は、合成杭10を、地盤5からの深さが深い(例えば30m程度の)支持層Sに支持杭として適用する場合の実施例を示している。この場合、前記合成杭10のPHC杭1の下方には、通常のPHC杭1が1本又は複数本継ぎ足されている。前記合成杭10を構成するPHC杭1と鋼管2の上端部は同等高さに揃えられ、地盤5の上面から突き出した構成で実施しているがこれに限定されない。その上部に構築される構造物の基礎12の施工法に応じ、例えば地盤5レベルの高さに揃えて実施することもできる。前記構造物は、低層構造物でも、高層構造物あるいは超高層構造物でもよい。
なお、前記合成杭10は、その下方にPHC杭1を継ぎ足して実施する場合であっても、構造設計に応じ、支持層Sに到達しない構成で実施する場合もある。
【0026】
前記合成杭10を構成する前記PHC杭1は、その軸方向両端部にリング状の端板1aを備えており、大きな鉛直荷重を支持できる100N/mm
2以上の強度(Fc)を有するものが好適に用いられる。前記PHC杭1は、外径(D)が400〜1400mm程度、長さ(L)が10〜20m程度の大きさが好適とされる。
なお、前記PHC杭1の大きさは勿論これに限定されず、支持する構造物の形態、或いは地盤5の性状等に応じて適宜設計変更可能である。
【0027】
次に、前記合成杭10を構成する前記鋼管2は、外径(D)が420〜1600mm程度、厚さ(t)が9〜25mm程度、長さ(L)が5〜15m程度の大きさの市販品が好適に用いられる。
具体的に、外径が400mm程度のPHC杭1を用いるときは、外径が420〜600mm程度の鋼管2を用いることが好ましい。外径が1400mm程度のPHC杭1を用いるときは、外径が1420〜1600mm程度の鋼管2を用いることが好ましい。要するに、充填材3を充填する隙間(径)を10〜100mm程度確保した同心配置に鋼管2を配設する。
なお、前記鋼管2の長さは、合成杭10が支持する構造物の形態、或いは構造物に作用する水平力(曲げ応力及びせん断応力)に対し、効果的に抵抗できる長さとされる。目安として、PHC杭1の杭径の5倍程度の長さが好ましいとされるが、地盤5の性状に応じて適宜設計変更される。
ただし、前記鋼管2の長さは、前記PHC杭1よりも短尺で実施することが好ましい。その理由は、経済的であることは勿論のこと、支持層Sまでの深さが深くて通常のPHC杭1と工場等で製造した合成杭10とを継ぎ足す必要がある場合、鋼管2が邪魔にならないスムーズな継ぎ足し作業を行い得るからである。
また、充填材3を充填する隙間は、前記10〜100mm程度に限定されるものではなく、当該合成杭10に作用する水平力(曲げ応力及びせん断応力)の大きさに応じて適宜設計変更される。
【0028】
次に、前記合成杭10を構成する前記充填材3は、前記PHC杭1の外周面と前記鋼管2の内周面とが形成する隙間に、当該鋼管2のほぼ全長にわたって密実に充填されている。前記充填材3は、前記PHC杭1よりも強度及び剛性が低い材料(目安として20〜50N/mm
2程度の強度)からなる。もちろん、一定の靱性をもち、鋼管2の局部座屈を防止できる程度の強度及び剛性を有する必要もある。
図示例に係る充填材3は、セメントミルクで実施している。その他、モルタル、樹脂モルタル、アスファルトコンクリート、又は相対密度が80%以上の密詰めの砂でも実施することができる。前記充填材3として塑性性能を有する樹脂モルタルを用いれば、エネルギー吸収材としての機能をさらに期待できる。また、前記密詰めの砂であれば圧縮特性は高く、かつ鋼管2とPHC杭1の間で発生するせん断応力に対してダイレタンシー効果によって体積圧縮を防ぐこともできる。
その他、これらの充填材3は、充填する隙間の大きさ等に応じて適宜使い分けられる。例えば、10mm程度の狭い隙間のときはセメントミルクなどの流動性のよい材料が好適に用いられ、50mm程度の広い隙間のときはモルタルが好適に用いられる。
このような材料からなる前記充填材3は、PHC杭1の強度及び剛性よりも小さな材質を有することで鋼管2の曲げ応力(曲げモーメント)、及びせん断応力を効果的に吸収し、隣接するPHC杭1へ伝達し難くする構成を実現できる。また、前記充填材3は、PHC杭1よりも剛性(鉛直剛性)が小さいので、構造物の鉛直荷重の大部分をPHC杭1のみで負担させる構成を実現できる。
【0029】
図5にかかる合成杭(鋼管被覆高強度コンクリート杭)10は、
図4にかかる合成杭10と比し、前記鋼管2の上端開口部に、該上端開口部を塞ぐ平板部材2aが、溶接(全周隅肉溶接)等の接合手段で一体的に接合されている点が相違する。その他の構成および作用効果は、
図4にかかる合成杭10と同一なので同一の符号を付して説明を省略する。
【0030】
なお、前記合成杭10のバリエーション、合成杭10を予め工場等で製造する具体的手法、又は現場で構築する具体的手法等は、既述した前記特許文献3に詳細に示されていることを念のため特記しておく。
【0031】
上記構成の合成杭(鋼管被覆高強度コンクリート杭)10は、以下の特性を有する。
(1)鋼管2は、その上端部が構造物の基礎11と地震等の水平力(短期荷重)を伝達可能に接合され、その下端部がPHC杭1と縁切りされた構成なので、鋼管2は、該鋼管2自体に生じる摩擦抵抗程度の軸力負担で済み、構造物の軸応力(長期鉛直荷重)の負担は小さい。よって、鋼管2は、前記水平力に起因する曲げ応力とせん断応力を専ら負担する構成にできる。
加えて、PHC杭1と鋼管2とが形成する間隙に充填する充填材3の特性、すなわち前記鋼管2に曲げ変形が生じても当該鋼管2の局部座屈を防止できる強度及び剛性を有し、かつ前記PHC杭1よりも強度及び剛性が小さい材料からなる特性により、前記鋼管2は、局部座屈を生じることなく前記曲げ応力とせん断応力に対して積極的に抵抗できる。
要するに、本発明に係る合成杭10を構成する鋼管2は、曲げ応力とせん断応力が主体的に作用し、しかも局部座屈が防止されるので、その曲げ性能は十分な靱性性能を有することができる。
(2)一方、構造物の軸応力(長期鉛直荷重)を負担するPHC杭1については、構造物に前記水平力が発生した場合、前記鋼管2が前記曲げ応力とせん断力に抵抗することに加え、前記充填材3が当該曲げ応力とせん断力のエネルギーを効果的に吸収するので、該鋼管2及び充填材3の内方に位置するPHC杭1への曲げ応力とせん断力の伝達は小さい。また、前記充填材3は、PHC杭1より剛性(鉛直剛性)が小さいので、構造物の鉛直荷重の大部分をPHC杭1のみで負担させる構成を実現できる。PHC杭1は高強度であるから構造物の鉛直荷重を十分に負担できる。
(3)よって、本発明に係る合成杭10は、軸応力に非常に強いPHC杭1と、曲げ応力、せん断応力に強い鋼管2のそれぞれの長所を活用した合理的な構造となり、もって、PHC杭1は軸応力を専ら負担し、鋼管2は曲げ応力、せん断応力を専ら負担するので、役割分担が明確な合成杭10を実現できる。
また、前記鋼管2は鉛直荷重に耐える必要がなく、かつ局部座屈を防ぐことができるので、比較的薄い鋼管(市販品)でもその性能を十分に発揮でき、経済的である。
(4)したがって、軸応力と、曲げ応力及びせん断応力との役割分担を明確化できるので、2次設計(保有水平耐力法、時刻歴応答解析)に十分対応できるだけの杭体の性能保証ができるほか、構造物の許容応力度、終局耐力、靱性の評価等の設計上の重要項目も構造設計することができ、低層構造物はもとより、高層構造物又は超高層構造物を好適に支持できる合成杭を実現できる。
(5)さらに、この合成杭10は、
図12に示したように、PHC杭と比し、変形挙動(M−Φ関係)が大幅に上昇していることから明らかなように、大きな水平耐力(曲げ耐力)を有していることが分かるとともに、大きく変形(曲率)したとしても水平耐力の低下がないこと、すなわち変形性能に非常に優れていることが分かる。
【0032】
本発明に係る杭の設計方法は、上述した特性を有する合成杭(鋼管被覆高強度コンクリート杭)10を、単に構造物から受ける地震時等の水平力が集中しやすい部位(図中の●印参照)に配置するだけではなく、前記合成杭10の杭頭部10aを、剛性が大きくなるように基礎12と接合し、当該杭10にさらに構造物から受ける地震時等の水平力を集中させる構成を大きな特徴としている。
よって、以下、本発明に係る杭の設計方法の特徴点である前記合成杭10の杭頭部10aを剛性が大きくなるように基礎12と接合する手段について具体的に説明する。
【0033】
(合成杭の杭頭部を剛性が大きくなるように基礎と接合する手段についての説明)
図6は、当該手段のバリエーション1を示している。
この手段は、合成杭10の杭頭部10aの剛性を大きくすることにより、さらに構造物から受ける地震時等の水平力を集中させることを目的とする。
具体的に、この手段は、杭頭部10aの外殻を形成する鋼管2の外周に定着鉄筋6を直接溶接接合せず、平鋼板7を介して溶接接合している(
図7Bも合わせて参照)。ここでは、現場作業の省力化を考慮し、
図6Bに示したように、予め所要の大きさの平鋼板7と定着鉄筋6とを工場等で溶接して一体化したもの必要数準備しておく。そして、現場で前記一体化したものを鋼管2の外周に溶接接合し、全体として所要のピッチでバランスよく配設する。もとより、鋼管2と平鋼板7との接合部は、平鋼板7の鋼管2への当接部を溶接が容易になるように開先をとる等の工夫は適宜行われる。
前記平鋼板7の大きさは、構造設計に応じて適宜設計変更可能であり、例えば、
図7Bに示したように、同形同大の平鋼板7を用いて実施することもできるし、
図8に示したように、幅寸を適宜設計変更した平鋼板7を用いて実施することもできる。
このように、平鋼板7を介して定着鉄筋6を溶接接合してなる杭頭部10a(合成杭10)によれば、定着鉄筋6を直接溶接した場合と比し、仮想鉄筋コンクリート断面Dを大きくできるので(
図7Aと、
図7B又は
図8とを対比して参照)、剛性(曲げ抵抗)と強度を大きくすることができ、ひいては構造物から受ける地震時等の水平力をさらに集中させることができるのである。
また、
図8にかかる合成杭10によれば、平鋼板7の幅寸を自在に変更することにより、基礎12内部に配筋された鉄筋と干渉を生じない柔軟な配筋ができる利点もある。
なお、
図9は、平鋼板7の上部を定着鉄筋6が通るように切欠き、該切欠き部内に定着鉄筋6を挿入して位置決めし、片側2箇所ずつ溶接したものである。この
図9にかかる定着鉄筋6を備えた合成杭10によれば、上記各効果に加え、より定着鉄筋6の安定性を高めた実施が可能となる。
【0034】
図10は、当該手段のバリエーション2を示している。
この手段は、合成杭10の杭頭部10aの剛性を大きくすることにより、さらに構造物から受ける地震時等の水平力を集中させることを目的とする。
具体的に、この手段は、前記基礎12の下部にフーチング8等の杭頭埋込部8を設け、当該杭頭埋込部8に前記合成杭10の杭頭部10aを杭径以上の深さ埋め込むことにより、杭頭部10aの剛性(曲げ抵抗)と強度を大きくすることができ、ひいては構造物から受ける地震時等の水平力をさらに集中させることができる。
【0035】
図11は、当該手段のバリエーション3を示している。
この手段は、地盤からの反力を大きくすることにより、さらに構造物から受ける地震時等の水平力を集中させることを目的とする。
具体的に、この手段は、前記合成杭10周辺の地盤5を地盤改良9して当該合成杭10のみかけの剛性を大きくして基礎12と接合することにより、構造物から受ける地震時等の水平力をさらに集中させることができる。
【0036】
以上説明したように、構造物から受ける地震時等の水平力が集中しやすい部位(図中の●参照)に配置した合成杭10に対し、前記バリエーション1〜3で記載した手段(合成杭10の杭頭部10aを剛性が大きくなるように基礎12と接合する手段)を、基礎12の配筋や地盤性状等に応じて適宜(いずれか1つ、又は複数(最大3つ)の手段を)選択して実施することにより、前記他の杭11の負担を軽減させた杭設計を行うことができるのである。
【0037】
したがって、上述した鋼管被覆高強度コンクリート杭(合成杭)10を用いた杭の設計方法、および同設計方法に基づく構造物の支持構造によれば、前記鋼管被覆高強度コンクリート杭10は水平耐力および変形性能に非常に優れているので、構造物から受ける地震時等の水平力が集中しやすい部位に設置し、さらに、当該杭10(杭頭部10a)に構造物から受ける地震時等の水平力を集中させる手段(前記バリエーション1〜3参照)を導入することができ、仮に震度6強〜7クラスの極稀に発生する大地震(極稀地震)が発生した場合であっても脆性破壊することなく塑性変形し、構造物から受ける地震時等の水平力を負担し続けることができる。より詳しく言えば、周知のとおり、当該杭10の設置部位に応じて前記水平力の大きさは異なるが、本発明に係る鋼管被覆高強度コンクリート杭10はいずれの部位に設置されていたとしても、塑性変形の程度に差こそあれ、構造物から受ける地震時等の水平力に対し、水平耐力を維持して負担し続けることができる。
よって、その分、他の杭(PHC杭等の既製コンクリート杭)11の荷重負担を軽減した杭設計が可能となる。
例えば、構造物を支持する杭をすべてPHC杭で実施した場合と比し、相対的に他の杭11が負担する水平力等の荷重を低減化できるので、他の杭の損傷を未然に防止できる(又は最小限に止めることができる)。杭頭接合部(基礎)の配筋を簡素化することもできる。他の杭を基礎へ半剛接合する等の技術導入も容易に可能となる。
例えば、構造物を支持する杭をすべてPHC杭で実施した場合と比し、相対的に他の杭11が負担する水平力等の荷重を低減化できるので、他の杭11の損傷を未然に防止できる(又は最小限に止めることができる)。杭頭接合部(基礎)の配筋を簡素化することもできる。他の杭11を基礎12へ半剛接合する等の技術導入も容易に可能となる。
まとめると、構造物を支持する杭全体の支持性能の健全性を合理的かつ効果的に保持することができる、杭の設計方法および構造物の支持構造を実現することができる。
また、本出願人が行った実験、解析によれば、本発明に係る鋼管被覆高強度コンクリート杭10は、大きな水平力により杭体に大きな曲げモーメントが発生しても、鋼管2の強度で抵抗できること、また、鋼管2が降伏して変形が大きくなる非線形状態になったときにも、鋼管2の損傷はあるが、その内部のPHC杭1は損傷しないか、極めて軽微であることが分かった。変形性能が優れていると云われているSC杭(外殻鋼管付きコンクリート杭)よりも変形性能が優れていることが分かった。
このように、鋼管被覆高強度コンクリート杭10は、その内部のPHC杭1が専ら建物荷重(軸応力)を負担する特性を備えた構成であるが故に、構造物を地震時あるいは地震後にも安全に支持することができる。また、事後的にPHC杭1を補修する等の修復作業を行うことなく再利用できるので、せん断力負担杭や免震装置を用いる必要のない点も勘案すると、非常に経済的な杭の設計方法をおよび構造物の支持構造を実現することができる。
【0038】
以上、実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。